肺 癌 手術 症 例 に対 す る
術 中 胸 腔 内洗 浄 細 胞 診 の意 義
山梨医科大学 第2外科 高橋渉 奥脇英人 鈴木章司
保坂茂 吉井新平 橋本良一
多田祐輔
検査部 中沢久美子 弓納持勉
韮崎市立病院 外科 角田元 井上慎吾 名取宏
松川哲之助
は じ め に
原 発 性 肺 癌 で 、細 胞 診 陽 性 の 胸 水 貯 留
症 例 は 、 手 術 不 能 と され て い る1)『5}。一
方 、 開胸 後 に根 治 手 衛 を 断 念 せ ざ る を 得
な い所 見 と して 胸 腔 内 播 種 が あ る が 、 そ
の診 断基 準 は 肉 眼 所 見 と触 診 に 左 右 さ れ
る もの で あ り、 肉 眼 的 に と ら え られ な い
微 小 な病 変 や 悪 性 細 胞 は 見 逃 さ れ て い る
こ と にな る 。 こ う した 基 準 に、 よ り客 観
性 を もた せ 、病 変 の 進展 を予 測 ・解 明 す
る ひ とつ の手 が か りとす るた め に 、 開 胸
時 、 胸 水 を 認 め な い症 例 に対 し 、胸 腔 内
洗 浄 に よ る細 胞 診(以 下 洗 浄 細 胞 診)を
試 み た5
対 象
③ 原 発 性 肺 癌 症例
② 開胸 時 胸 水 を認 め な い もの
③ 線 維 性 癒 着 の軽 度 あ る い は 認 め な い
もの
以 上 の 条 件 を 満 た す1992年3月 か ら
縛94年10月 ま で に 手 術 を 徳 行 した 山 梨
医 大 第2外 科34例 、 韮 崎 市 立 病 院外 科3
例 の合 計37症 例 。
直 接 検 体 と し て提 出 し うる胸 水 を認 め
る症 例 、 開胸 操 作 に時 間 を要 し た 症 例 は
対 象 か ら除 外 す る 。
方 法
開胸 後 胸 腔 内 を検 索 し 、ヘ パ リン加 生
食 水100㎡ に て 臓 ・壁 側 胸 膜 を ま ん べ ん
な く洗 浄 し、 そ の70%以 上 を 回 収 して 検
体 とす る 。
結 果
対 象 症 例 β7例.組 織 型 の 内 訳 は腺 癌28
例 、 扁 平 上 皮 癌8例 、小 細 胞 癌1例 で 、 性
別 で は 男 性22例 、女 性15例 で あ る 。 こ の
うち3例(い ず れ も腺 癌 〉 が洗 浄 細 胞 診
賜性 で 、 陽 性 率 は8%と な っ た 。
術 後 病 期 分類 に よ る洗 浄 細 胞 診 陽 性 例
を示 す 。
StageWの 内 訳 は 、 肺 内 転 移3例 、 胸 腔 内
播 種1例 で あ る(Tablen。
Tablel
Classificatioubypatho韮ogicalstage
andcytologicalpositivecases
Stage Pathologica1 .洗 浄 細 胞 診 陽 性
1 15 1
H 7 1
狙A 11 1
w 4
Total 37 3
Table 2
Classificatien by p factor
and Cyt。IOgiCal p。SitiVe CaSeS
pfaetor
po
pi
P:
ps
不明
Total
Patholegical洗浄細胞診陽性
19
5
6
3
4
1
2
37
3
p因子分類による洗浄細胞診陽性例を
示す(Table 2)。
現在、p2の1例のみ術後8か月健在であ
る。死亡した他の2症例について、以下
に提示する。
症 例1
症例 :76歳、男性
術前診断:左肺癌 c・T2NoMo Stage 1
手術 :平成5年2月1日 左上葉切除、
R2aリンパ節郭清
術後診断:左上葉 B’n32×25×33 mm
Moderatelydifferentiated aden㏄arcinoma
p・T2NIMo Stage皿p2 pmo Eo
nl{十)#13
相対的治癒切除a}
洗浄細胞診 ClassV Aden㏄arcinoma
経過
:平成5年2月1日 手術
5 220P,S.不良のため
術後化学療法施行せず退院
5 8 6左胸水貯留し入院
淡血性胸水CtassV検出
5 9 13癒着療法奏功し
退院す。
6 6 2X・P上両肺野に
多発転移を認める。
6 1017死亡(術後21ヶ月)
一7一
Fig.1.術前胸部X線、 CT写真
Fig.2.平成5年8月
瞬
簸
平成6年6月
症 例2
症例 :76歳、男性
術前診断:右肺癌 c・T2NoMo Stage I
手術 :平成5年12月8H 右下葉切除、
R2bリンパ節郭清
術後診断:右下葉 B632×32×20㎜
Moderately differentiated adenocarcinoma
p・T2N2Mo Stage田A pl pmo Eo
n2(+)#4,7
相対的治癒切除b)
洗浄細胞診 Class V Adenoearcinoma
経過
平成5年12月8日 手術
6 1 5内科転科時より
右胸水貯留持続。
悪性細胞検出(一)
6 3 4癒着療法に
抵抗性のため、
増加傾向のないこと
を確認し、胸水貯留
のまま退院。
6 5中旬 黄疸出現
6 7 28 十二指腸
乳頭部癌にて
膵頭十二指腸切除術。
6 9 上旬 胸部X線上
肺腫瘤認める。
6 10 脳出血にて
死亡
Fig.3.術前胸部X線、 CT写真
繋騨弊㌻ .、 、{/tづ騨
一8一
Fig.4.平成6年3月
羅▽:
繋
じ
平成6年9月
拶
考 察
現在までに、手術症例で肉眼的胸水を
認めた際の細胞診陽性率は23%e、我々と
同様の対象・方法で胸腔内を洗浄した際
の細胞診陽性率は4∼9%と報告されてい
る6}’7)。また、実際に細胞診が陽性となっ
た組織型を検討したものでは、胸水に出
現する癌細胞の90%以上が腺癌であり、
扁平上皮癌はほとんど出現しないと述べ
られている司S}’S。これは、腺癌が臓側胸
膜に近い末梢肺から発生し、胸膜中皮お
よび中皮下組織に浸潤しやすく、リンパ
管・血管の破壊がおこり、病的胸水の原
因となる6)ことからも裏づけられる。
提示した2例は、症例1が、p2の洗浄細
胞診陽性例で、前述の理論に合致する。
症例2は、p1であり、病巣部胸膜破綻に
よる胸腔内散布以外に、n2(+}に加え病理
組織像でリンパ管・脈管侵襲が強陽性で
あるため、リンパ組織から胸腔内へ悪性
細胞が脱落したと推測することも可能で
ある。
CT検査の普及と精度の向上により、N
因子に関する論議がなされて久しい。現
在までのところ、胸水中に癌細胞を認め
る場合T4とする10}ことは明記されている
ものの、胸腔内洗浄細胞診が陽性である
だけではT4としないII)とされている。仮
に洗浄細胞診陽性をT4と定めるなら、特
に症例2において、本来独立した事象で
あるT因子とN因子に相関関係が見いだ
せることになり、非常に興味深いが、こ
れだけでは提唱する根拠になり得ない。
一般に、洗浄細胞診陽性例の予後は不
良であり、Stage皿Bと同等6)もしくはStage
IVと同等ηと述べられ、 High risk groupと
されている。我々の37例という数少ない
検討症例からも、その印象をうかがい知
ることが可能であり、洗浄細胞診の有用
性が示唆された。手技的にも容易で、検
体の処理・分析についても術中診断が可
能なため、閉胸前に何らかの治療を加え
ることが検討できるなど期待するところ
は大きい。今後、症例数を重ねることに
より、印象だけでなく予後が比較でき、
さらには治療方針を検討できると考える。
また新たな機会に経過報告することを約
束し、この稿を終える。
文 献
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10)日本肺癌学会編:臨床・病理肺癌取
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11)肺癌取扱い規約の一部改訂(案)につい
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