総 説
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東 女 医 大 誌 第 階 第6号1
頁 157~ 165 平成26年12月 │移植と最先端医療
移植 (
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形成外科における移植と最新医療
東京女子医科大学医学部形成外科学教室楼 井 裕 之
( 受 理 平 成26年 11月 26日)Transplantation and the Most Advanced Medical Treatment
Transplantation (8) Transplantation and State-of-the-Art Medical Care in Plastic and Reconstructive Surgery Hiroyuki SAKURAI
Department of Plastic and Reconstructive Surgery, Tokyo Women's Medical University School of Medicine The microvascular anastomosis technique, which was developed in the 1970s, led to a new era in the field of reconstructive surgery. With this technique, various tissue grafts of adequate sizes and shapes could be pre -pared. Additional innovations, including tissue expansion, prefabrication, combined tissue transfer, and perfora -tor flaps, allow for optimal reconstruction with minimal donor-site morbidity. Although the failure rate of free -tissue transfer has been reduced owing to the increasing experience of microsurgeons, development of more reli -able flaps, and improvement of microsurgical techniques and instruments, anastomotic failure may still occur and remains a major cause of tissue loss. Because salvage of the affected tissue largely depends on the time to re -exploration, accurate assessment of flap circulation is another essential issue. Key W ords: reconstructive surgery, microvascular anastomosis, free flap, monitoring はじめに 臓器別に専門性を高めることで大きな発展を遂げ てきた外科系各科の中で,形成外科は体表面の異常 を扱う「体表外科Jとしての側面を持つ外科領域で ある. しかし一方で,形成外科は特定の臓器(皮膚) にとらわれず,組織の移動を専門に行う「再建外科」 としての側面もある. 1970年代以降手術用顕微鏡を 用いた微小血管吻合技術の開発は,この再建外科領 域に大きな変革をもたらし九様々な組織がそれぞれ の目的に応じて移植することが可能になった. その後約
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年間に起こった再建外科領域の進歩 は,①再建到達度の向上,②ドナー部の犠牲軽減(手 術の低侵襲化),③安全性の確立,の3
点に集約され る.再建手術は組織欠損に伴う機能障害・整容的問 題に対して,組織移植により修復を図る手術であり, より正常な機能や形態を再獲得することが到達目標 である.一方で,自家組織移植による再建手術は, 患者自身の健常部分に犠牲を強いるため,その犠牲 をなるべく小さくする方向でも術式の改良が進ん だ.また,組織移植において回避すべき重要な合併 症は移植組織壊死であるが,微小血管吻合を伴う組 織移植の際に起こりうる吻合部血栓は移植組織の全 壊死に繋がる重篤な合併症である2) したがって,移 植組織の壊死を確実に回避し術式の安全性を高め ることも重要な課題である. 本稿においては,形成外科における移植医療の最 近の進歩に関して,実際の術式の変遷を通して論述 する.1
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組織移植の分類と定義 すべての移植組織において,その生着様式は2
通 りに大別される.ひとつは,移植直後には組織内の 血流が途絶しており,移植床からの血管新生によっ て生着を得る方法である.一方で、,術直後から機能 的な血流を有する形で移植を行う場合もある. 体表面の異常に対しては,皮膚移植がしばしば行 われるが,皮膚の移植には植皮術と皮弁移植術とい-157-2 1)植皮術:移植皮膚は移植床からの血管新生により生着を得る
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2)皮弁移植術:移植皮膚は血流をたもった状態で血流を得る Fig. 1 移植組織の生着様式(皮膚移植の場合) 皮弁 (skinfiap) 粘膜弁(mucosalfiap) 筋 弁(musclefiap) 組織弁(fiap) 筋膜弁(fascialfiap) 骨弁(bonefiap) 腸管弁 (intestinalfiap) Fig.2 組織弁移植の分類(文献3)より引用)う2
通りの方法がある(
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前者が移植床からの 血管新生により移植皮膚の生着を得るのに対して, 後者で移植された皮膚は術直後から血流が確保され ている.同様に骨移植においても,海面骨などを細 片に砕き移植する方法と栄養血管とともに血流を確 保した状態で移植する方法とがあり,また脂肪移植 においても,吸引脂肪を注入する形で移植する方法 と血流を保ちながら大きな脂肪組織を移植する方法 とがある.一方,筋肉,腸管,などは,阻血に対す る抵抗性が極めて低く,後者すなわち術直後から血 流を確保する方法でないと移植が成立しない. 日本形成外科学会では後者の方法,すなわち,術 直後から機能的な血流を有する形で採取される移植 -158-Fig. 3 下顔面癒痕拘縮に対する,伸展頭皮皮弁による再建例(文献5)より改変) A:術前.下顔面を中心に高度の熱傷後癒痕拘縮を認める B:前頭部にtissueexpanderを挿入. C:術後5年.伸展皮弁による再建で拘縮は解除され 整容面での著しい改善が得られた 組織を「組織弁(=自ap)Jと定義した3) そして,皮 膚の移植を目的に挙上された組織弁が「皮弁」であ り,同様に骨弁,脂肪弁,筋弁,筋膜弁,空腸弁ー・ など,様々な組織が血流を伴った形で移植できる (Fig. 2). 一般に血流を伴わない組織移植は,移植床の状態 に大きく依存し例えば感染創や糠痕化が著しい部 位では,良好な生着が期待できない.また,大きな ブロックとしての組織移植は困難であり,移植組織 量や組織の厚さに制限が加わる.また,組織本来の 性状を保つことが困難であり,移植後には収縮,吸 収,変形などを生じ易い.これらの欠点を補うこと が出来るのが組織弁移植術であり,植皮術などの血 流を伴わない移植法に比べ再建到達度は向上する. 組織弁移植の場合, ①組織弁への血流を維持する ために一部を茎として温存し移動する方法と, ②一 旦完全に遊離した後,移植組織内の血管茎を移植床 血管に吻合することにより移植する方法と二通りの 方法がある.前者を有茎組織弁移植術,後者を遊離 組織弁移植術と称される3)有茎組織弁の場合は茎の 届く範囲内でしか移動できないのに対して,遊離組 織弁移植の場合は移植床血管が確保できれば離れた 部位にも移植できるのが大きな利点である.前述の 微小血管吻合技術が再建外科領域にもたらした変革 とは,正に遊離組織弁移植術が一般的に行えるよう になったことであり これ自体が再建到達度を画期 的に向上させた大きな要因である. 2. Tissue Expander法の併用 微小血管吻合の開発に伴う遊離組織弁移植術と同 様に,再建外科領域において
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年代に急速に普及4 Fig. 4 皮弁+筋膜弁による腹壁全層欠損再建例 A:腹壁全層欠損.交通外傷,多発性腹腔内損傷に続発した重症汎発性腹膜炎に対して,小 腸 切 除 小 腸 吻 合,結腸吻合が行われたが,広範囲な腹壁全層欠損を生じた B : 27x 13 cmの皮島と大腿筋膜を有する筋膜皮弁を,外側大腿回旋動静脈を血管茎として 挙上した. C:術後1年.腹壁癒痕ヘルニアを認めない. した術式の一つが,
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法4)5)である.こ れは皮下にシリコンパックを挿入し,徐々に生理食 塩水を加えることにより皮膚・軟部組織の拡大を図 る方法である.一般的に数ヵ月の注入期間を要する が,予め皮弁挙上部位における皮膚伸展を得ておく ことによか従来の皮弁よりも大きな面積の皮膚再 建が可能となり, ドナー部の犠牲軽減にも繋がる有 用な方法である.特に 下層に硬組織を有する部位 においては,エキスパンダーの拡大が有効に皮膚伸 展に反映するため 頭皮・前額部などにおいて極め て有用性が高い5)(
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複合組織弁移植 再建外科において遭遇する組織欠損は,単一の組 織のみの欠損とは限らない.例えば,悪性腫蕩切除 後や外傷などで大きな腹壁全層欠損が生じた場合, 皮膚欠損に対する皮膚再建のみならず,ある程度強 度をもった再建材料が必要である.術後腹圧に抗す ることができなければ腹壁癒痕ヘルニアを生じる からである.自家組織の中で支持性を期待できる組 織は筋膜であり,特に大腿外側の筋膜は肥厚してお り腹壁再建に適している.筋膜に関しても,単なる 筋膜移植と筋膜弁移植があるが,感染回避の観点か ら筋膜弁移植が望まれる.外側大腿回旋動静脈は,Fig.5 肩甲下動静脈系遊離複合組織弁移植術による再建例 A:下顎骨腐骨壊死・唾液痩を伴う下顎部潰傷. B:肩甲骨弁,広背筋弁,広背筋皮弁を伴う複合組織弁. C:術後l年.痩孔潰蕩は消失し経口摂取可能である. 大腿筋膜と大腿外側の皮膚をともに栄養する血管で あるため,これを血管茎とすることで大きな腹壁全 層欠損に対応することができるペ
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また,皮膚と骨性硬組織が同時に求められる組織 欠損もある.例えば顎骨を含めた組織欠損に対して は,岨日爵機能の再獲得に骨性再建が必要である.特 に,口腔内分泌物等で汚染されやすい術野に,ブロッ クとしての骨を移植するためには,やはり骨弁移植 が望まれる.また 化学放射線療法後の組織欠損に おいては局所の創傷治癒機転が障害され,顎骨の腐 骨壊死を伴う痩孔形成を伴い易い.このような症例 に対して,粘膜面,皮膚面の再建に皮弁移植を行う とともに,顎骨欠損に対しては骨弁,さらに骨周囲 の死腔に対して血流が豊富な軟部組織の充填が必要 である • H夜寓動静脈より分岐する肩甲下動静脈は, 背部皮膚,肩甲骨・肋骨,広背筋・前鋸筋などの栄 養血管であり,それぞれの組織を皮弁,骨弁,筋弁 として同時に移植する際の血管茎となる.このよう に一度に多くの組織を移植し得る遊離複合組織弁移 植は,多くの再建対象を有する顔面の組織欠損にお いて特に有用である7)(
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の開発 身体各部位における皮膚血行形態の解明が進み, 皮弁移植術は多様化し選択の幅が広がった.しかし 様々な事情により皮弁選択が制限された場合,既存 の血行形態に依存する形の選択肢では満足する再建 到達度が得られないこともある.その解決策のーっ と し て 生 ま れ た の がp
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8)9)で、ある(
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これは,既存の血行形態からは再建要求を 満たす皮弁を挙上できない部位において,移植前に 人為的に血管茎を導入するものである.この際,筋 肉9) 筋膜8) 腸管の築膜筋層弁10)などの組織弁移植が6 1)皮弁挙上に適した血管茎が存在しない部位 2)血管茎 (Vascularcarrier)の導入 3) Vascular carrierからの新生血管による皮弁挙上 Fig. 6 Prefabricated flapの概念 必要であり,これらの組織からの血管新生により新 たな皮弁の血行形態が完成する.血管茎導入のため の移植組織は,
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と総称される.V
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からの血管新生には一定の期間が必要 であり,二期的な再建術式となるため,多くの場合t
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法と併用することが多しい、ω肌仰川8I川川Iωl凶ω0)5
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穿通枝皮弁の開発 体幹・四肢の筋肉上に存在する皮膚・皮下組織 は,筋体を覆っている深筋膜を貫通する血管により 栄養されており,この血管を穿通枝と総称する3) 穿 通枝は,解剖名を持たない細い血管であるが,動静 脈が対になっており一つの移植組織弁の血管茎とな りうる. しかし深筋膜下での走行に個体差が大き いため,皮弁移植を行う場合は筋肉とー塊とし,筋 皮弁として移植することが多かった皮膚・皮下組 織が必要とされる再建において,筋肉の犠牲は回避 すべき課題であり,そのような観点から開発された のが穿通枝皮弁である3)(F
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自家組織移植術による乳癌切除後の乳房再建にお いて,下腹部の余剰な皮膚および皮下組織を利用す ることは,特に整容性を求め乳房再建を望む中年以 降の女性患者にとっては理にかなった選択肢であ る1
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年代に開発された横型腹直筋皮弁ll)は,急速 に普及し自家組織移植による乳房再建の標準術式と なった. しかしこの術式は片側の腹直筋をほぼ全 長に渡って犠牲にするのが大きな欠点であり,腹壁-162-A
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従来の筋皮弁 皮 膚 }一皮下組織 B.穿通枝皮弁 Fig. 7 従来の筋皮弁と穿通枝皮弁の違い 癒痕ヘルニアや腹部膨隆さらには腰痛などの合併症 を招来するリスクが高い12) 腹直筋を貫く深下腹壁 動静脈からの穿通枝は 個体差はあるものの 1~2mm
程度に発達したものが多く,これを損傷しない よう筋体内の血管剥離ができれば,腹直筋を必ずし も犠牲にする必要はないω
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近年,超音波血 管エコー,CT
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など画像診断技術の向上が目覚 ましく,穿通枝のような細い血管であっても高解像 度の画像が得られ 術前にその血管走行を把握する ことが容易になった. このような穿通枝皮弁の開発は,腹直筋皮弁のみ でなく多くの筋皮弁にもおよび,遊離組織弁移植術 においてドナー部の犠牲軽減に大きく貢献した.6
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安全性の確立 微小血管吻合自体の成功率は,手術顕微鏡を含め た手術器具の開発,術者の経験蓄積, より確実性の 高い血管茎の選択,術後管理の向上などにより,遊 離組織弁移植術が導入された当時よりも格段に向上 した2) しかしひとたび吻合部血栓を生じると移植 組織全壊死のリスクを伴い,未だに遊離組織弁移植 術における最大の合併症である.吻合部血栓が生じ ても,直ちにそれを認識し血栓除去・血管再吻合な どの適切な処置を行えれば,移植組織の救済が可能 である. したがって,吻合部血栓を早期に発見する ことを目的として,埋入型ドップラー・プローベベ レーザードップラー血流計刷6),pH
測定li) 経皮的酸 素飽和度18) カラードップラー・エコー19)などの各種 モニタリング法が報告されている.理想的な血流モ ニタリング法は, 信頼性が高く,鋭敏で,簡便,か つ医師以外の医療スタッフも含め誰にでも容易に判 定しうることが条件となるが,いずれの方法も利 点・欠点があり単一のモニタリング法で,吻合部血8 Fig.8 深下腹壁動脈穿通枝皮弁による乳房再建例 A : 14年前に行われた,定型的乳房切除術後の左乳房欠損 B:穿通枝皮弁.腹直筋体は全く含まず,穿通枝のみを剥離し挙上 し た C:術後1年. 栓時の移植組織弁の救済率を有意に減らすには至っ ていないー 吻合部血栓は動脈側・静脈側どちらにも起こりう るが,頻度として多いのは静脈側であり,また静脈 側吻合部血栓に伴ううっ血状態は組織障害性が高い ため, より早期の対応が必要である.以上の観点か ら,われわれは移植組織弁内の細径静脈にカニュ レーションを挿入し,その静脈圧を連続的に計測・ 記録するモニタリングシステムを開発した21)ー この モニタリングに, レーザー・ドップラー血流計を併 用することにより,動脈側・静脈側いずれの吻合部 血栓に対しても鋭敏に反応し,誰にでも判定可能な 移植組織弁の血流モニタリングとして活用してい る. おわりに 外科系各科において,手術の低侵襲化は時代の潮 流であり,再建手術においてもより小さな犠牲でよ り高い再建到達度が求められる傾向にある.しかし 自家組織移植術における最大の損失は移植組織の壊 死であり,吻合部血栓を確実に回避しながら術式の 改良を進めることが今後の課題である. 文 献 1)Harii K, Omori K, Omori S: Successful clinical transfer of ten free flaps by microvascular anasto -moses. Plast Reconstr Surg 53:259-270, 1974 2) Disa
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