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[巻頭言]ダーイシュの戦略転換(臼杵陽)

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Academic year: 2021

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005 ダーイシュの戦略転換 004 ダーイシュが同じムスリムを 「カーフィル (背信者) 」 と呼んで、 タクフィール (背信者だと断じること) として一方的に宣言して、ジハードの対象としてきたという「革命的ジハード論」という背景があるか らである。つまり、タクフィール論は、異教徒に対するジハードのみならず、同胞ムスリムをも攻撃対 象とすることをイスラーム法的に正当化するやり方であった。だからこそ、ダーイシュはイラクやシリ アのシーア派政権を、同じムスリムであっても「殲滅」しようとしているのである。当然、シーア派の うちの十二イマーム派であるイランもその例外ではない。 一方で、ダーイシュに対して空爆を行っているアメリカやアラブ諸国を含む有志連合軍に関しても、 ダーイシュが捕虜にとった攻撃国に属する国民を残忍な方法で処刑し、それをSNSで流すというやり 方で報復している。攻撃に加わったヨルダン軍のパイロットであるムアーズ・アル・カサースバ空軍中 尉を火刑に処したことは、イスラーム法的には合法化できないがゆえに、中東イスラーム世界に激しい 衝撃を与えることになった。 た し か に、 ダ ー イ シ ュ が シ リ ア と イ ラ ク の 国 境 を ま た が っ た 実 効 支 配 地 域 以 外 の 場 所 に ま で そ の 活 動の範囲を広げていくのは時間の問題だと考えられていた。実際のところ、その代表例がナイジェリア のボコ・ハラムであるが、そのようなムスリム政治組織がダーイシュに忠誠を誓うというかたちでテロ 活動を行うという事件が中東イスラーム世界各地で頻発している事実は、 やはり看過できないであろう。 パ レ ス チ ナ に 隣 接 す る エ ジ プ ト 領 シ ナ イ 半 島 で も ア ン サ ー ル・ バ イ ト・ ア ル・ マ ク デ ィ ス (エ ル サ レ ム の 支 援 者) と 称 す る ダ ー イ シ ュ 支 持 の ム ス リ ム 政 治 組 織 が、 イ ス ラ エ ル と エ ジ プ ト に よ る 封 鎖 状 態 に あ るガザ地区にも影響力を増しつつあるといわれている。ガザのパレスチナ人は二〇〇四年夏のイスラエ ルによる攻撃による破壊から復旧していない中で絶望のどん底にあり、そんな若者たちがダーイシュに 吸収されていくという世界共通の構図が浮かび上がってくるのである。 以 上 を 念 頭 に 置 く と、 ダ ー イ シ ュ が イ ス ラ エ ル お よ び フ ァ タ ハ の み な ら ず、 同 じ イ ス ラ ー ム 主 義 政 治組織であるハマースをも殲滅の対象として挙げたことは、ダーイシュの戦略の転換点を示しているの I S (イ ス ラ ー ム 国、 以 下 ダ ー イ シ ュ) が 二 〇 一 四 年 六 月 二 九 日 の ラ マ ダ ー ン 明 け に 一 方 的 に カ リ フ 制の復興を宣言してから早一年が経過した。ダーイシュを取り巻く中東地域における政治的状況はほと んど変わりがないが、ダーイシュは六月三〇日、パレスチナ/イスラエルを研究する立場から興味深い 宣言を、例によってSNSを通じて発信した。 そ の 宣 言 に よ れ ば、 ダ ー イ シ ュ は イ ス ラ エ ル を 名 指 し で 非 難 し、 ハ マ ー ス (イ ス ラ ー ム 抵 抗 運 動) と フ ァ タ ハ (パ レ ス チ ナ 解 放 運 動) を も 同 時 に 殲 滅 の 対 象 と し て 言 及 し た こ と で あ る。 こ の 宣 言 の 背 景 に は、ダーイシュがシリアのダマスクス郊外にあるヤルムーク・パレスチナ人難民キャンプを二〇一五年 四月、その実効支配の下に置き、相当数のパレスチナ難民に対して斬首などを含む処刑を行ったという 事実がある。その際、ダーイシュはヤルムーク難民キャンプで起こっていることはパレスチナにおいて も起こると予告しているのである。もちろん、ダーイシュの行ってきたことにその予兆がなかったわけ ではない。例えば、二〇一五年二月、シリアのダーイシュ支配地域内にやって来た東エルサレム出身の 一九歳のパレスチナ人少年をイスラエルのモサドのスパイとして処刑したことを、SNSを通じて公開 したことなどである。 ダ ー イ シ ュ を 語 る と き、 そ の 攻 撃 の 直 接 的 な 標 的 が シ ー ア 派 ム ス リ ム に 限 定 さ れ て き た こ と が こ れ まで指摘されてきた。 実際、 イラクにおいてはシーア派政権に対する攻撃がもっぱらであった。 これは、 [巻頭言]

戦略転換

臼杵

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006 かもしれない。というのも、ダーイシュは、アブー・ムスアブ・アッ・ザルカーウィーによって設立さ れて以来、親米穏健派アラブ諸国政府やシーア派ムスリムなどの「近い敵」をそのジハードの対象とし てきた一方で、アメリカ合衆国やイスラエルなど「遠い敵」を十字軍と呼んでジハードの対象としてき たアル・カーイダとは、テロ戦略については一線を画してきたからである。にもかかわらず、ダーイシ ュがいよいよアル・カーイダ的なグローバル・テロリズムに訴えるようになってきたとも考えることが できる。ビン・ラーディン殺害後のアル・カーイダの「人気」凋落と相まって、ダーイシュとアル・カ ーイダのテロ戦術の違いがいよいよあいまいになってきており、ダーイシュもアル・カーイダのような グローバル・テロリズムと呼ばれるような国際レベルでのテロを展開することになるのであろうか。 [表紙写真] キエフ独立広場 (二〇一四年五月、服部倫卓撮影) [目次写真] ドネツィク (ウクライナ東部) における親ロ派のデモ (二〇一四年三月、大串敦撮影) 004-006 巻頭言.indd 6 2015/11/10 16:14

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