• 検索結果がありません。

移行期正義における国際的な刑事裁判所の役割 : 目的と機能の乖離

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "移行期正義における国際的な刑事裁判所の役割 : 目的と機能の乖離"

Copied!
20
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

は じ め に 紛争によって大規模な人権侵害や虐殺を経験した人々が, 紛争終了後に 新たな社会をどのように構築していくのか。 過去に生じた人権侵害行為等 の処遇をめぐり, 移行期正義 (Transitional Justice) の重要性が認識され てきた。移行期正義とは, ジェノサイドや内戦における人権侵害, 大量虐 殺, その他の深刻なトラウマに対する活動や調査であり, 将来にむけて民 主的, 正当, 平和な社会を築くことを目的とする。 (1) 移行期正義は, 国家が 論 説

移行期正義における国際的な

刑事裁判所の役割

目的と機能の乖離

( 1 ) “Transitional Justice”, Encyclopedia of genocide and Crimes Against Humanity, Vol. 3, Macmillan Reference, 2004, pp. 10451047. Transitional Justice は「移行期正義」,「移行期司法」と訳出される。筆者はかつて transitional justice について司法的な機能に着目し分析を行い, その際移 行期司法と訳した。拙稿「「移行期司法」における司法制度と真実委員会 シエラレオネの事例より 」 法と政治』第58巻第2号 2007年7 月 3361頁。本稿は, Justice が司法としての特徴に加えて, 倫理的な正 義の追求を含意することを踏まえ「移行期正義」と訳す。なお国際戦犯法 廷の機能とその歴史的な発展, 移行期正義における位置づけについては, 二村まどか「国際戦犯法廷の目的と機能 ニュルンベルグの遺産と「移 行期の正義」の教訓」大賀哲・杉田米行編『国際社会の意義と限界 理

(2)

軍事独裁政権から民主的な体制へと移行する際に, 前政権の指導者によっ て行われた人権侵害をめぐり論じられる。とりわけ冷戦終結後, 内戦が頻 発し国家や政府が十分に機能しない状況下において, 国際社会による大規 模な人権侵害への積極的な対応が求められた。過去を清算し新しい社会を 構築するために, 裁判所による犯罪行為者の訴追, 真実委員会での事実の 調査と追究, 国内の制度改革などが行われてきた。その中でも国際社会に よる刑事裁判所の設立は, 国際社会が不処罰を見過ごさず, 戦争犯罪の行 為者の訴追によって法の支配を確立し, 人々の和解を促す取り組みとして 評価される。 個人を訴追する国際的な裁判所は, 第二次世界大戦後にはニュルンベル グ裁判や極東軍事裁判が設立され, 冷戦後には旧ユーゴスラビア国際刑事 裁判所(1991年以後旧ユーゴスラビアの領域内で行われた国際人道法に 対する重大な違反について責任を有する者の訴追のための国際裁判所, ICTY), ルワンダ国際刑事裁判所(1994年1月1日から同年12月31日まで の間にルワンダ領域で行われた集団殺害罪その他国際人道法の重大違反に 責任ある者および隣接諸国領域で行われた集団殺害その他の重大な違反に ついて責任を有するルワンダ市民を訴追する国際刑事裁判所, ICTR), シ エラレオネ特別裁判所 (SCSL) が設立された。また常設の国際刑事裁判 所 (ICC) も2002年より活動を開始した。さらにカンボジア特別裁判所や レバノン特別裁判所が国内の裁判所として,国際連合(国連)の活動とし て国連コソボ暫定行政ミッションによるコソボ裁判所, 国連東ティモール 暫定行政機構による重大犯罪特別パネルなども設置された。さまざまな裁 移 行 期 正 義 に お け る 国 際 的 な 刑 事 裁 判 所 の 役 割 論・思想・歴史』国際書院 2008年 163181頁を参照。Transitional Justice に関しては, Naomi Roht-Arriaza and Javier Mariezcurrena (eds.), Transi-tional Justice in the Twenty-First Century, Cambridge University Press, 2006 を参照のこと。

(3)

判所の設立は, 戦争犯罪の処罰に国際社会が関わることに対する積極的な 意義を示している。 国際的な刑事裁判所は, 個人の犯罪行為の訴追と処罰を通じて, いかな る者も法の下にあることを確認し, 法の支配を社会に定着させ, 人々の和 解を促すとされ, 国内の刑事裁判所よりも広範な目的を有する。それでは 国際的な裁判所の活動を通じて, 不処罰の防止, 法の支配の定着, 和解の 促進は行われているのであろうか。本稿は, 国際的な刑事裁判所の活動を 検証し, 移行期正義における刑事裁判所の目的と機能の乖離を提示する。 (2) この考察によって刑事裁判所の活動の実態をより明らかとし,紛争後の社 会において国際社会を体現する国際的な機関が担う役割と課題を示す。 なお本稿は, 国際的なアドホック刑事裁判所 (ICTY, ICTR, SCSC) を 分析の主たる対象とする。これら裁判所は, 暫定的な機関であり数年で任 務を終了する予定である。 (3) アドホック裁判所の権限および機能の検討を通 して, 国際社会が犯罪行為者を訴追し判断を行う意義と, 裁判所に期待さ れる多様な役割と実際の機能とのギャップが明らかとなるであろう。なお カンボジア, レバノン (4) の刑事裁判所およびコソボや東ティモールにおける 論 説 (2) 筆者はルワンダ国際刑事裁判所とシエラレオネ特別裁判所について司 法介入の例として検討を行った。「紛争後の社会への司法介入 ルワン ダとシエラレオネ 」武内進一編『戦争と平和の間 紛争勃発後のア フリカと国際社会 』アジア経済研究所2008年。本稿はこれまでの分析 を踏まえながら, 国際的な刑事裁判所の目的と機能における乖離をより明 らかにするものである。 なお真実(和解)委員会も移行期正義においては 役割を担うが, 委員会と裁判所は別個の特徴を有していることから, 本稿 は国際的な裁判所を分析の対象とする。 (3) ICTY は2011年, ICTR は2010年, SCSL は2009年までにすべての裁判 を終了する予定である。 (4) レバノン特別裁判所は, ハリリ元首相を暗殺した容疑者を裁くために レバノンと国連の協定に基づいて設立された。安全保障理事会(安保理)

(4)

国連の暫定統治機構の一部としての裁判機能は, 厳密には国際的な裁判所 ではないことから検討の対象外とする。 1. 国際社会による刑事裁判所設立の動き (1)刑事裁判所の設立 1990年以降の国際的な刑事裁判所は, 旧ユーゴスラビア, ルワンダ, シエラレオネ各地域の紛争状況に対応して設立された。冷戦後に生じた紛 争に対しては, 国際の平和と安全の維持の枠組みにおいて多様な取り組み がなされてきた。 国際的な刑事裁判所も国連の目的を遂行する一つの手段 として認識されており, いわば緊急の状態に対応するために設立された (5) 。 アドホック裁判所は, 当初, 紛争後の社会の安定化を目的とし,それは 戦争犯罪の事実を明らかにし責任を追及することによって実現されると考 えられた。さらに安定した社会の再建が人々の和解に繋がり, 集団として の歴史の基礎となると想定されていた。 国際刑事裁判を支持する者の間で は, 個人の責任を追及し真実を明らかにすることで, 紛争後の社会の和解 と安定に貢献するという考えが根強くある (6) 。 国際的な刑事裁判所の設立によって平和の回復と維持がもたらされるこ とは, 裁判所の設立に関する国連の安全保障理事会 (安保理) 決議におい 移 行 期 正 義 に お け る 国 際 的 な 刑 事 裁 判 所 の 役 割 決議1757は, 憲章第7章に基づいて, 同決議に添付の特別裁判所設立に関 する国連とレバノンとの協定および, 同協定に付属のレバノン特別裁判所 規程が効力を有することを決定した。同決議は賛成10, 反対0, 棄権5で 採択された(中国, インドネシア, カタール, ロシア, 南アフリカ)。棄 権票を投じた国家は, 裁判所の設立には賛成したものの, 国家と国連の間 の協定に効力を及ぼすために国連憲章第7章が用いられることは主権の侵 害に相当し, 安保理による介入である, と懸念を表明している。

(5) Madoka Futamura, War Crimes Tribunals and Transitional Justice: The Tokyo Trial and the Nuremberg legacy, Routledge, 2008, p. 20.

(5)

ても示されてきた。旧ユーゴスラビア国際刑事裁判所 (ICTY) は, 1991 年以降に生じた旧ユーゴスラビア領域内でのジュネーブ諸条約に対する重 大な違法行為, 戦争の法規または慣例に関する違反, 集団殺害, 人道に対 する罪に責任を有する者を訴追する。 (7) ICTY の設立決議において, 安保理 は旧ユーゴスラビアの状況が国際の平和と安全に対する脅威を構成すると 確認し, かかる犯罪行為を終わらせ, 責任を有する者を訴追するために効 果的な措置を取ることを決意した。安保理による裁判所の設立と, 国際人 道法の重大な違反に責任を有する個人の訴追が, 平和の回復と維持に寄与 すると決議において確認され (8) ,加えてそれは違反行為の阻止と効果的な救 済を可能とし, 将来の社会に影響を及ぼすことも想定されていた。 ICTY が設立された時に旧ユーゴスラビアの紛争終結に向けた交渉が行われてお り, 裁判所はいわば紛争を終了させ社会を安定させる一手段でもあった。 ルワンダ国際刑事裁判所 (ICTR) は, 1994年にルワンダ領域内で生じ た国際人道法の重大な違反に責任を持つ者, また近隣諸国において責任を 持つルワンダ市民を訴追する。ルワンダではハビャリマナ大統領の暗殺後 に, 約100日間で80万人以上の市民が殺された。国際社会は虐殺を予測し ていたものの阻止できず, またジェノサイドの発生を認めるまでにも約2 ヶ月を要し対応の遅れが批判された。ルワンダでジェノサイドが行われた 事実と, 同行為が国際法の下で処罰される犯罪を構成することが確認され た後に ICTR が設立された。 (9) ICTR 設立の背景にはルワンダでの大量虐殺 を止められなかった国際社会の後悔も指摘されている。 (10) 論 説

(7) S / RES / 827, 25 May 1993. ICTR, SCSL 設立の経緯および裁判所の機 能等の分析は, William A. Schabas, The UN International Criminal Tribunals; The former Yugoslavia, Rwanda and Sierra Leone, Cambridge University Press, 2006 を参考のこと。

(8) S / RES / 827.

(6)

ICTR 設立の安保理決議においても,ルワンダの状況が国際の平和と安 全に対する脅威を構成し続けることが明示された。決議において,国際人 道法の重大な違反の責任者の訴追を通して犯罪行為が阻止され, 国民和解 のプロセスと平和の維持の回復に寄与すると述べられた。また裁判所の設 立は, 国際人道法違反の阻止と効果的な救済に貢献することも指摘された (11) 。 シエラレオネ特別裁判所 (SCSL) の設立においても, 紛争後の社会に 平和と安全を維持することが目的の一つであった。すでに国連はシエラレ オネに大規模な平和維持活動を派遣しており (12) , 紛争当事者が制圧されなけ れば, 不安定な状況が続くことは明らかであった。 (13) 1999年, シエラレオ ネ政府と武装勢力の革命統一戦線 (RUF) はロメ和平協定を締結し, 同 協定によって全ての紛争当事者に恩赦が与えられた。しかしその後も紛争 が再発し, 2000年には平和維持活動の要員が RUF によって拘束される事 件も生じた。要員の救出活動中に RUF の指導者サンコーが逮捕されたが, 当時のカバー大統領は, シエラレオネ国内の裁判所におけるサンコーの訴 移 行 期 正 義 に お け る 国 際 的 な 刑 事 裁 判 所 の 役 割

(10) Kingley Chiedu Moguhalu, Rwanda’s Genocide: The Politics of Global Justice, Palgrave Macmillan, 2005, pp. 4852.

(11) S / RES / 955, 8 November 1994. (12) シエラレオネには, 1998年から1999年まで, 国連シエラレオネ国連監 視団 (UNOMSIL) が派遣され軍事と治安状況の監視, 元戦闘員の動員解 除, 武装解除を目的としていた。後に UNOMSIL を引き継ぎ UNAMSIL が 派遣された。 UNAMSIL は和平合意の履行への協力, 武装解除, 動員解除, 社会統合の履行について政府の支援, 停戦遵守の監視, 人道援助の促進等 の職務が与えられた。 UNAMSIL の職務権限は後に拡大され, 国連憲章第 7章に基づき主要地区や政府の建物への安全の提供, 武器の保護の任務も 担った (S/RES/1289)。 要員数は最大で1万8千人を超え, UNAMSIL は 2005年12月に任務を終了した。

(13) Tom Perriello and Marieke Wierda, “The Special Court for Sierra Leone Under Scrutiny”, for the International Center for Transitional Justice, March 2006, p. 12.

(7)

追は治安を悪化させると懸念しており, 国際的な刑事裁判所の設立を安保 理に要請した。 安保理は2000年8月に決議1315を採択し, 事務総長に対してシエラレ オネと裁判所設立の交渉開始を要請した。同決議において, 現地で行われ た著しく重大な犯罪に対する正義と責任について, 信頼できる制度によっ て不処罰が阻止されること, その制度が国民和解のプロセスと平和の回復 および維持に貢献することが確認された。 SCSL は, ICTY, ICTR の機能や活動上の課題が明らかとなる中で設立 されており, 従前の裁判所の組織上, 活動上の改善が見られる (14) 。 まず SCSL は「最も責任を有する者」を訴追する(SCSL 規程第1条)。ICTY, ICTR において当初は大物の指導者が訴追されなかったことから SCSL の管轄 権はこのように限定された。 (15) また SCSL は紛争地フリータウンに設置さ れ, 現地における法の支配, 国内の法制度を強化することも期待された。 (16) ICTY, ICTR は紛争地外に設立され, 現地に裁判の状況が十分に伝わら ず, 法の支配を促進しないと指摘されていた。さらに ICTY, ICTR に莫 大な経費が費やされたことから, SCSL は諸国家の自発的拠出金によって 運営されている。しかし自発的拠出金による運営は裁判所の財政基盤とし ては脆弱であり, 活動が不安定となることが懸念され, 国連加盟国の分担 金による運営についても考慮された。 (17) 以上のとおり, 国際的な裁判所は安保理決議の採択を通して設立され, 個人の訴追および国際の平和と安全の維持の関連が明示された。安保理が 関与し国際的な刑事裁判所が設置される意義はどのように考えられるので 論 説 (14) Ibid.

(15) Schabas, op. cit., pp. 3839. (16) Perriello and Wierda, op. cit., p. 12. (17) S / 2004 / 616, 23 August 2004, para. 43.

(8)

あろうか。まず個別の裁判機関を支える政治的な基盤が国際社会に存在す ることが確認される。 これは裁判の実効性を確保する上で重要である。他 方で政治機関である安保理によって裁判所が設立され, その維持や運営に 安保理の意思が反映されることは, 法の支配の重要な要素である司法の独 立性や公平性に一定の留保が付される。また安保理が個別の事件の判断に 介入する可能性は排除できない。さらにある国の状況に対しては裁判所が 設置されながら, 別の国については設置されず, 司法制度が公平に適用さ れる保証はない。 つまり国際社会の 「正義の実現」は,「国際の平和と安 全の維持」という政治的目的の枠組みにおいて志向されており, 国際刑事 裁判はこの目的を達成するための一手段として機能しているに過ぎないと も言えるのである。 (18) 加えて, 裁判所がさまざまな政治的経緯によって設立 されたことが強調される場合には, たとえ裁判が公平, 中立に行われたと しても, 裁判所は政治的な影響を受けて判断を行うという印象を人々に与 えかねない。 (2)国際的な刑事裁判所の機能的特徴 国際的な刑事裁判所の作用は「司法介入」 (19) とも呼ばれる。司法介入の特 徴としては, 裁判所の設立によって平等な主権国家により構成される国際 社会に国際法を上位とする体系が導入される。本来であれば国内の司法制 度において処遇される個人の訴追および処罰を, 国際的な裁判所が行い, 主権国家内の個人に直接的に作用を及ぼす。国際的な裁判所は国際社会に 移 行 期 正 義 に お け る 国 際 的 な 刑 事 裁 判 所 の 役 割 (18) 古谷修一「国際刑事裁判所権の意義と問題 国際法秩序における革 新性と連続性 」村瀬信也 洪恵子編著『国際刑事裁判所 最も重大 な国際犯罪を裁く 』東信堂 2008年 25頁。

(19) David Scheffer, “International Judicial Intervention”, Foreign Policy, Vol. 102, Spring 1996, pp. 3451.

(9)

共通する犯罪行為について個人を直接に訴追し処罰する垂直関係を確立す ることになる。 国際的な裁判所を上位とする体系は, 裁判所のすべての機能やプロセス に及ぶ。国家は国際人道法に対する重大な違反について責任を問われてい る者の捜査と訴追について, 裁判所との協力が求められる (ICTY 規程第 29条, ICTR 規程第28条)。すべての加盟国は裁判所の命令に従い, 司法 協力を行うことが裁判所の設立を決定した安保理決議によって義務付けら れる (20) 。また刑事裁判所に対する国家協力が求められているが,裁判所と国 家の関係は片務的であり,国家が裁判所の協力を要請することは定められ ていない。さらに協力の要請に関する裁判所と国家間の紛争に関しては, 協力を要請する裁判所によって解決される。 (21) 国連とシエラレオネ政府との 協定に基づく SCSL については, 同政府が SCSL の全ての機関と協力する と定められる。 SCSL はシエラレオネ領域内の重大犯罪を扱うことから, シエラレオネ政府は, 人とその所在の特定, 文書の送達, 人の逮捕または 拘禁, 裁判所への被告人の引渡しについて, SCSL に協力する。 次に国際的な裁判所は国内裁判所の管轄権を排除しない。これにより犯 罪行為者は訴追を免れることが困難となり, いずれかの裁判所において裁 かれる。旧ユーゴスラビアやルワンダについては, ICTY,ICTR も国内の 裁判所も特定の国際人道法違反について共に管轄権を有する。国際裁判所 は国内裁判所に優越し, 前者は後者に対して手続のいかなる段階において 論 説 (20) これに違反した場合には, 安保理の制裁の対象となるとの意見も表明 された。Michael P. Scharf, Balkan Justice, Carolina Academic Press, 1997, p. 62.

(21) Sluiter, “Legal Assistance to Internationalized Criminal Courts and Tribunals”, Cesare P. R. Romano,Nollkaemper, and Jann K. Kleffner (eds.). Internationalized Criminal Courts, Sierra Leone, East Timor, Kosovo and Cambodia, Oxford University Press, 2004, p. 382.

(10)

も, 国際裁判所の権限に服することを正式に要請できる (ICTY 規程第9 条, ICTR 規程第8条)。この管轄権は, 犯罪行為の重大性と戦争犯罪者 の数の多さを理由として設定された。 (22) SCSL は, シエラレオネの領域内で 行われた犯罪行為者を訴追することから, シエラレオネの国内裁判所との 関係について規定された。 SCSL もシエラレオネの国内裁判所も共に管轄 権を有すること, SCSL はシエラレオネの国内裁判所に優越すると定めら れた (SCSL 規程第8条)。 (3)正義の追求における課題 国際的な裁判所においてこのように管轄権が定められ, 個人の犯罪行為 が調査, 訴追, 判断されるのは, 裁判所の活動を通じて正義が達成され, 不処罰の防止, 法の支配の定着, 和解がもたらされ, 社会の安定や平和を 促すと考えられているからである。 それは司法介入を論じる次の主張から も明らかである。「我々はようやく平和の遂行が正義の探求と共存し, 正 義の遂行が永続する平和の前提となりうることを学んでいる」。 (23) 国際的な裁判所による正義の追求は様々な課題にも直面する。上述の通 り, 裁判所は司法機関として独立性, 公平性, 正当性が求められるものの, 政治的な影響を排除できない。たとえば裁判所への国家協力に関して規定 されながら, 実質的な協力は必ずしも保証されない。法執行機関を持たな い国際的な裁判所は, 国家の協力なくしては機能できない「手足のない巨 人」 (24) である。 移 行 期 正 義 に お け る 国 際 的 な 刑 事 裁 判 所 の 役 割

(22) Daphna Shraga and Ralph Zacklin, “The International Criminal Tribunal for the Former Yugoslavia”, European Journal of International Law, Vol. 5, 1994, p. 371.

(23) Scheffer, op. cit., p. 34.

(24) Antonio Cassese, “On Current Trend towards Criminal Prosecution and Punishment of Breaches of International Humanitarian Law”, European

(11)

次に裁判所の管轄権の設定に関する課題がある。ICTR の時間的管轄権 は1994年の1年間と定められた。ルワンダ政府は, 内戦が始まった1990 年10月より RPF が首都キガリを掌握した1994年7月までを裁判の対象と し, 7月以降の行為については裁判の対象外とすることを求めていた。こ れはルワンダの前政権の正当性を否定するために主張された。 (25) SCSL の管 轄権は, ロメ和平協定締結後の1996年1月以降に生じた犯罪と定められ た。1991年の紛争の開始時まで裁判所の管轄権を拡大した場合には, 犯 罪行為について十分な証拠を得ることが難しく, また予定されていた3年 以内に SCSL が任務を終了することが困難となると指摘されていた。 (26) さらに裁判所の役割に対する国際社会と現地社会の認識の相違も見られ る。国際的な刑事裁判所の設立は, 国際社会の法益を国内社会の法益とす ること, 国際社会と国内社会が共通の法益を持つとの認識を示す。しかし 実際には裁判所の役割と目的について認識の相違があった。 ルワンダ政府は ICTR の設立に反対したが, 同政府が望む刑事裁判所 と, 国際社会が想定した裁判所の機能に相違が見られた。ルワンダ政府は ICTR について時間的管轄権が短くジェノサイド犯罪に十分に対応できな いこと, 裁判所の組織が不十分であり効果的でないこと, 犯罪行為につい て優先順位がないこと, 犯罪行為者がルワンダ国外で拘禁されること, ICTR は死刑を規定せず刑罰が不均衡であること等を, ICTR 設立の反対 理由として指摘した。 (27) 刑事裁判所は独立した司法機関として個人を訴追し, 罪状について判断 論 説

Journal of International Law, Vol. 9, p. 7, 1998, http://www.ejil.org/journal/vol9/ No1/art1.pdf (accessed 14 February 2008).

(25) Moghalu, op. cit., p. 32.

(26) Perriello and Wierda, op. cit., p. 16.

(12)

を行う。しかし特定の国や政府にとって, 裁判所は反勢力の犯罪行為者を 訴追するなど, 自らの期待する機能や役割を担う機関として認識され, ま たそのような活動が裁判所に求められる場合もある。 2. 裁判所の役割と課題 国際的な刑事裁判所は, 人権や国際人道法の重大な違反に責任を持つ者 の訴追に加えて, 違反行為の阻止および再発の防止, 犠牲者の尊厳の確保, 過去の事件について歴史の創設, 国民和解の促進, 法の支配の構築, 平和 の回復の促進における役割をも担う機関として評価されてきた。 (28) 裁判所の 広範な目的は, その活動を通して達成されているのであろうか。想定され ている国際的な裁判所の役割と実際の活動について次に検討する。 (1)個人の訴追を通じての不処罰の阻止 刑事裁判所は個人の訴追によって不処罰を阻止すると論じられる。訴追 と処罰によって, いかなる地位にある者もその行為に責任を持つことが確 認されてきた。アドホック裁判所において, 旧ユーゴスラビア連邦の元大 統領ミロシェビッチ, 政治指導者のカラジッチ, ルワンダの元首相カンバ ンダ, リベリア元大統領テイラーなど政治指導者が訴追されたことは, す べての者が法の下にあり不処罰が容認されない, との認識を国際社会に広 める (29) 。 ICTY, ICTR の設立において,「犯罪を終わらせ, 責任を有する者を裁 くために必要な措置を取ることを決定する」と示され (決議827, 955), SCSL も「現地で行われた重大な犯罪に対する正義と責任について信頼で 移 行 期 正 義 に お け る 国 際 的 な 刑 事 裁 判 所 の 役 割 (28) S / 2004 / 616, para. 38.

(29) Eric , “Main Achievements of the ICTR”, Journal of International Criminal Justice, Vol. 3, September 2005, p. 940.

(13)

きる制度が不処罰を終わらせ, 国民和解のプロセスと平和の回復と維持に 寄与する」と記された(決議1315)。不処罰の阻止はまた過去の行為の処 罰に加えて将来の行為への抑止効果を有する。 国連においても不処罰の阻止は主流となっている。たとえばその一例が 「紛争解決のための交渉の特定の観点に関する国連代表のためのガイドラ イン」である。 この文書において戦争犯罪, 人道に対する罪, ジェノサイ ド罪に対する恩赦は認められないと確認されており,これは犯罪行為者に 対して恩赦を認めない国連の立場の基礎となっていた。 (30) シエラレオネでは, ロメ和平協定において, すべての紛争当事者に恩赦 が与えられた (第9条)。同条文ではシエラレオネに永続的な平和をもた らし平和を強め国民和解を促すためにすべての戦闘員に完全な恩赦が付与 され, 司法上の措置が取られないと規定された。恩赦については政府から 武装勢力に対して申し出がなされた。政府にとっては紛争の終結が緊急の 課題であり恩赦なくして政府と武装勢力の和平合意は困難であった。紛争 当事者に恩赦を与えることが優先され,正義の問題は将来に先延ばしされ たのである (31) 。後に SCSL において規程第2条から4条における重大な犯 罪に関して, SCSL の管轄権内にある個人に付与された免責は訴追の禁止 とならないと犯罪行為者の訴追が定められた (第10条)。 (32) これによって特 論 説

(30) Hurst Hannum, “Human Rights in Conflict Resolution : The Role of the Office of the High Commissioner for Human Rights in UN Peacemaking and Peaceebuilding,” Human Rights Quarterly, Vol. 29, 2006, p. 37. また, 不処罰 と戦う行動を通じて人権を保護し促進する諸原則については, 国連の人権 委員会に対して, 専門家より報告書が提出された。Report of the independ-ent expert to update the Set of Principles to combat impunity, Diane Orentlicher, E / CN. 4 / 2005 / 102, 18 February 2005, E / CN. 4 / 2005 / 102 / Add. 1, 8 February 2005.

(31) Priscilla Hayner, “Negotiating peace in Sierra Leone : Confronting the jus-tice challenge”, December 2007 Report, pp. 1215.

(14)

定の犯罪行為について恩赦が与えられなくなった。 ロメ和平協定に基づく恩赦は, SCSL において争点となった。 2004年, 被告人カロンおよびカマラは, シエラレオネ政府がロメ和平協定に基づく 恩赦を遵守する義務があること, SCSL はしたがって1999年7月以前に行 われた犯罪について, 管轄権を主張できないとした。 SCSL は, 規程第2 条から4条に定められる重大犯罪について, SCSL の管轄権の下にある個 人に与えられた恩赦は, 訴追の阻却事由とならないとの条文を指摘しつつ, ロメ和平協定は条約ではないこと, 同協定がシエラレオネ政府を拘束する か否かという問題は, 被告人の戦争犯罪行為の責任に影響を及ぼすもので はないこと, またロメ和平協定に基づく恩赦の効果に関わらず, 重大犯罪 の行為者を訴追する SCSL の管轄権は排除されないと判断し, 自らの管轄 権を認めた (33) 。 ところで, 裁判所においてすべての容疑者を裁くことは困難であり, 裁 かれる者が選択される。 その場合に, 誰のいかなる行為が訴追の対象とな るのか, 裁判所の判断とその基準が問われる。裁判所の設立前に訴追され る者が想定される場合もある (34) 。ICTY については, カラジッチ, ムラジッ チ, ミロシェビッチの訴追が指摘されていた。 シエラレオネ政府は, RUF の指導者を訴追するための裁判所の設立を国連に要請していた。 (35) 移 行 期 正 義 に お け る 国 際 的 な 刑 事 裁 判 所 の 役 割

(32) Schabas, op. cit., p. 338. SCSL は, 政府と国連との協定に基づいて設 置された。したがってシエラレオネ国内法や, 政府と紛争当事者との間の 合意には拘束されない。本来であれば第10条の規定は必要なかったと言え る。

(33) Prosecutor v. Morris Kallon, Brima Bazzy Kamara, SCSL0415PT 060II, Decision on Challenge to Jurisdiction: Lome Accord Amnesty, 13 March 2004.

(34) Schabas, op. cit., p. 19.

(35) Annex to the letter dated 9 August 2000 from the Permanent representa-tive of Sierra Leone to the United Nations addressed to the President of the

(15)

訴追される者が予定される一方で, 訴追を免れる者もいた。ルワンダの 紛争で勝利した RPF 関係者は ICTR において裁かれず (36) , またシエラレオ ネのカバー大統領も SCSL において訴追されなかった。 すべての犯罪行 為者を裁くことが難しい状況において, 訴追される者とされない者が選別 されることは, 裁判所の公平性, 独立性, 正当性, 信頼性に影響する。ま た裁判所に訴追される者が政治的に選ばれる, と見なされることにより, 国際的な裁判所は「勝者の正義」を追及する場として捉えられる。 (2)個人の訴追を通じての法の支配の確立 法の支配は, 伝統的には国内社会における概念であり, 人の支配に対す るものである。現在においては国際社会における重要性が指摘されてきた (37) 。 法の支配の定義, 内容, 範囲は多様であり (38) , 国際的な刑事裁判所を通じて の法の支配の確立として次の点が指摘される。 まず, 国際社会における法の支配は国際法の発展をもたらす。裁判所の 管轄権, 戦争犯罪の処遇, 平時における人道に対する罪の適用などは, 国 際的な裁判所の判決を通じて確認され発展してきた。 (39) また国際的な刑事裁 判所の判例は, 他の国際的な刑事裁判所に対しても指針を提供する。 (40) 論 説

Security Council, S / 2000 / 786, 12 June 2000. SCSL での訴追は RUF 指導者 と戦争犯罪等に最も責任ある者に限定され, 十数名にとどまった。 (36) Moghalu, op. cit., p. 137.

(37) 篠田英朗『平和構築と法の支配 国際平和活動の理論的・機能的分析』 創文社刊 2003年。“The ICJ and the Rule of Law”, Speech by H. E. Judge Rosalyn Higgins, President of the International Court of Justice, at the United Nations University, 11 April 2007.

(38) たとえば寺谷広司「相克する「法」の支配 平和構築と国際刑事司 法における教訓」城山英明 石田勇治 遠藤乾編『紛争現場からの平和構 築 国際刑事司法の役割と課題』東信堂 2007年 174185頁。

(16)

さらに現地に設立された国際的な裁判所の活動を通じて, 現地社会での 法の支配が促される。SCSL の設立と活動によって, シエラレオネにおけ る法の支配に対する信頼が高まり, 国内の法制度が強化されることも期待 されている。 (41) また国内法の廃止や修正が促される。ルワンダにおいて死刑 制度が廃止された。ルワンダ政府は死刑が規定されていないことから ICTR の設立に反対していた。同政府はジェノサイドを計画し組織した者 が ICTR において死刑を免れながら, その実行者がルワンダの裁判所で 死刑となる状況について, 国民和解に資するものではないと述べていた。 (42) 一方でルワンダに死刑制度が存続していたことから, ICTR や他国は, 犯 罪の被疑者をルワンダに移送できなかった。2007年7月にルワンダは死 刑を廃止し, (43) これによってジェノサイド罪や人道に対する罪などには終身 刑が適用された。さらに国外に逃亡中の容疑者がルワンダに移送され, ICTR の任務終了後にはルワンダの国内裁判所に事件が付託される。 ルワンダの死刑廃止は国際的にも評価された。 (44) ただし国際的な刑事裁判 所における法の支配の確立の観点からは, ジェノサイド犯罪と刑罰の関係 について検討が求められる。死刑廃止を志向する国際社会の潮流の中で, 従来, この問題は, 通常犯罪の枠組みにおいて論じられており,ジェノサ イド犯罪との関連については, 十分に議論されてきたとは言えない。また 対象となる事例も少なく, 戦争犯罪への死刑の適用について国家の一貫し 移 行 期 正 義 に お け る 国 際 的 な 刑 事 裁 判 所 の 役 割 (40) Ibid., p. 44.

(41) Perriello and Wierda, op. cit., p. 12. (42) S / PV. 3453, November 1994, p. 16.

(43) Organic Law No. 31 / 2007, 25 July 2007 Relating to the Abolition of the Death Penalty.

(44) “UN human rights chief welcomes Rwanda’s abolition of death penalty”, UN News Center, 11 December 2007. http://www.un.org/apps/news/story.asp? NewsID=25015&Cr=rights&Cr1=council (accessed 24 June 2008).

(17)

た慣行も証明されない。さらに死刑に対する各国の対応は多様であり, 現 状では死刑廃止が慣習国際法として確立したことも証明されていないとも 主張される。死刑に対する考え方も多様である。ルワンダにおいて, 重大 な犯罪は重大な刑罰に相当すると伝統的に考えられており, 刑罰を期待す る市民の要求を政府が考慮しない場合には, 紛争が再発する可能性も懸念 されていた。つまりルワンダの状況についてはジェノサイドという特殊な 事態と刑罰の関係を考慮する必要があり, それが行われなければ,移行期 正義における課題を過小評価する問題も指摘される。 (45) 死刑廃止とそれに伴うルワンダへの犯罪人の移送については, 国内の司 法制度の改善の必要性としても論じられる。死刑廃止を受けて, ICTR の 施設に拘禁されている者がルワンダに移送されるが,ルワンダの司法制度 の基準について懸念が示され, 国際的な基準に合致するまで容疑者は移送 されるべきではないと主張された。 (46) これに対応するために, 2008年にル ワンダ政府と国連は被拘禁者に関する協定を締結し,ICTR で確定した拘 禁刑をルワンダ国内で執行する際には, 国際的な基準に基づくこと, また 拘禁者の処遇については赤十字国際委員会による定期的な調査を行うこと を定めた。 (47) 論 説

(45) Jens David Ohlin, “Applying the Death Penalty to Crimes of Genocide”, American Journal of International Law, Vol. 99, 2005, pp. 747777.

(46) Amnesty International, “Rwanda : Suspects must not be transferred to Rwandan courts for trial until it is demonstrated that trials will comply with in-ternational standards of justice”, AFR 47 / 013 / 2007. http://www. amnesty. org/ en/library/asset/AFR47/013/2007/en/dom-AFR470132007en.pdf (accessed 14 June 2008).

(47) Agreement Between the Government of the Republic of Rwanda and the United Nations on the Enforcement of Sentences of the International Criminal Tribunal for Rwanda. 2008年現在, ICTR より, ルワンダ国内での審理は時 期尚早と判断され継続して延期されている。

(18)

(3)個人の訴追を通じての和解 裁判所における個人の訴追により, 犯罪行為の責任を特定の集団に課す ことが回避され, これによって復讐の連鎖が断ち切られ, 人々の和解に寄 与すると言われる。国際的な裁判の目的として和解がはじめて言及された のは ICTR においてである。「国際人道法の重大な違反に責任を有する者 の訴追が……国民和解のプロセスおよび平和の維持の回復に貢献すること を決定する」(決議955)。SCSL も,「国民和解プロセスおよび平和の維持 の回復に貢献することを確認する」(決議1315)と述べられた。個人の訴 追を通じて, 犯罪行為の責任は個人が負うこと, 復讐と暴力の連鎖をもた らす集団性や応報の文化を断ち切るとされてきた (48) 。 和解をめぐり次の点が指摘される。まず裁判所の所在地に関してである。 上述の通り,ICTY, ICTR は所在地が紛争地域から離れていたことによ る限界が見られた。一般市民は ICTY, ICTR における裁判の情報を得る 機会が少なく, 刑事裁判所が特定の民族に対して偏見を抱いている, と人々 が認識している, との調査報告もある。 (49) 現地において裁判所の活動が十分 に周知されず理解されない場合には, 裁判所に対して人々が誤った認識を 持つ。 さらに現地の人々にとって訴追が恣意的に行われていると見なされる 場合には,和解は阻害される。シエラレオネの元防衛副大臣ノーマンは市 民防衛軍 (CDF) の設立, 組織化, 支援, 後方支援に主導的な役割を担っ ていたとして SCSL に訴追された。シエラレオネ人にとってノーマンは 移 行 期 正 義 に お け る 国 際 的 な 刑 事 裁 判 所 の 役 割

(48) Neil J. Kritz, “Coming to Terms with Atrocities : A Review of Ac-countability Mechanisms for Mass Violations of Human Rights”, Law and Contemporary Problems, Vol. 59, 1996, p. 128.

(49) エリク・ストーヴァー「大量虐殺後の社会再建と正義」城山 石田 遠藤編 前掲書 11頁。

(19)

英雄であり, 彼の訴追によって, 人々は SCSL に対して失望すると指摘 された (50) 。 さらに国際的な刑事裁判所の活動が紛争の終結を遅らせる可能性もある。 裁判所での訴追と処罰が明白な場合には, 紛争当事者にとって紛争の終了 は自らの政治的な地位を危うくするものである。それ故に, 彼らは和平合 意の締結に積極的とはならない。 また停戦の条件として, 紛争時における 自らの行為に対する恩赦や免責, 訴追の取り下げなど, 自らの処遇を和平 プロセスと結びつけることも考えられる。したがって紛争当事者の処遇と 関連する状況における裁判の捜査, 訴追は, 紛争を長期化させ (51) , 和解の促 進をも阻害するであろう。 お わ り に 国際的な刑事裁判所の活動を通じて, 国際社会は, 戦争犯罪行為に対し て正義を追求する可能性を示してきた。 (52) 裁判所は個人の訴追を通して, 不 処罰を阻止し,法の支配を定着させ,人々の和解を促すなどの目的を達成す ることも求められてきた。しかし本稿で検討したとおり, 裁判所の目的と 実際の機能とは必ずしも合致せず, 活動を通しての問題が明らかとなった。 アドホック裁判所の活動における問題は, 常設の ICC をはじめ国際社 会が関与し設立した裁判所においても課題となりうる。国際的な裁判所に 対する期待と現実の機能との間のギャップは, 国際的な刑事裁判所の信頼 性を損なう可能性を示しているのである。 論 説

(50) Lydiah Bosire, “Overpromised, Underdelivered : Transitional Justice in Sub-Saharan Africa”, for the International Center for Transitional Justice, July 2006, p. 22.

(51) William A. Schabas, An Introduction to the International Criminal Court Third Edition, Cambridge University Press, 2007, pp. 3941.

(20)

移 行 期 正 義 に お け る 国 際 的 な 刑 事 裁 判 所 の 役 割

The Role of Internationalized Criminal Courts

in Transitional Justice:

Gaps between objectives and functions

Yasue MOCHIZUKI

This paper proposes to analyze the roles and functions of the international-ized criminal courts i. e. International Criminal Tribunal for former Yugoslavia (ICTY), International Criminal Tribunal for Rwanda (ICTR), and Special Court for Sierra Leone (SCSL) and the gaps arising between their objectives and functions. The paper briefly touches upon the background of the estab-lishment of ad hoc tribunals and identifies features of judicial intervention. It proposes that the restoration and maintenance of peace, rather than pursuing justice, was the major purpose for the establishment of courts. It also points out the roles of the courts within the period of transitional justice by critically examining the gaps between the objectives and functions of the courts, i. e. the end of impunity, the establishment of the rule of law and the promotion of national reconciliation. It concludes that while there is the perception of internationalized criminal courts as institutions to achieve diverse objectives, there are gaps between what is expected of the courts and the functions of the courts which may undermine their credibility as judicial organs.

参照

関連したドキュメント

距離の確保 入場時の消毒 マスク着用 定期的換気 記載台の消毒. 投票日 10 月

ているかというと、別のゴミ山を求めて居場所を変えるか、もしくは、路上に

Droegemuller, W., Silver, H.K.., The Battered-Child Syndrome, Journal of American Association,Vol.. Herman,Trauma and Recovery, Basic Books,

She has curated a number of major special exhibitions for the Gotoh Museum, including Meibutsu gire (From Loom to Heirloom: The World of Meibutsu-gire Textiles) in 2001,

層の項目 MaaS 提供にあたっての目的 データ連携を行う上でのルール MaaS に関連するプレイヤー ビジネスとしての MaaS MaaS

[r]

都における国際推進体制を強化し、C40 ※1 や ICLEI ※2

道路の交通機能は,通行機能とアクセス・滞留機能に