遅発型気 道反 応 の発現機 序 に関 す る基礎 的研 究
吸 入 抗 原 の 局 在 に つ い て
岡山大 学 医学部 第二 内科 学 教室(指 導:木 村郁 郎教 授)
武
田
勝
行
(平成5年2月12日
受 稿)
Key words:
alveolar
macrophage,
guinea pig, 125I-ascaris, late asthmatic
response
(LAR), localization
of inhaled antigen
緒 言 気 管 支 喘 息 患 者 に 抗 原 吸 入 試 験 を行 な っ た と き に み られ る各 種 気 道 反 応 の う ち遅 発 型 気 道 反 応(LAR)1)は,即 時 型 気 道 反 応(IAR)と 比 べ て β2刺 激 薬 に 反 応 し難 くス テ ロ イ ド薬 で よ く 抑 制 さ れ る こ とや,発 作 が 持 続 す る特 徴 を有 し て お り,多 くの 点 で 重 症 難 治 性 喘 息 と類 似 性 が あ る こ とか ら,そ の 機 序 解 明 の 重 要 性 が 近 年 特 に 注 目 され つ つ あ る.か か るLARの 機 序 は 現 時 点 で は 抗 原 吸 入 に 際 し て 肥 満 細 胞 由 来 の 各 種 細 胞 遊 走 因 子 の み な ら ず,リ ン パ 球 や 肺 胞 マ ク ロ フ ァ ー ジ 由 来 の サ イ トカ イ ン な どに よ り気 道 局 所 に 集 積 し 活 性 化 さ れ た 炎 症 細 胞 が 化 学 伝 達 物 質 を放 出 し,そ の 結 果 気 道 攣 縮 が 引 き起 こ さ れ る と考 え ら れ て い る2)-7). 方,吸 入 さ れ た 抗 原 そ の もの の 気 道 反 応 へ の 関 わ り及 び 動 態 に つ い て は,IARに お い て は 吸 入 抗 原 は 肥 満 細 胞 上 に 結 合 したIgE抗 体 と結 合 し,続 い て 同 細 胞 よ り化 学 伝 達 物 質 が 放 出 さ れ て 気 道 反 応 を起 こす と さ れ て い る8).また抗 原 物 質 はIAR時 に は 気 道 か らの ク リア ラ ン ス が 遅 延 す る と も報 告9)さ れ て い る.し か し,LARの 発 症 に 際 して は,吸 入 され た 抗 原 の 動 態 お よ び 発 作 へ の 関 与 に つ い て は 殆 ど 明 ら か に さ れ て い な い.そ こ で 今 回125Iで 標 識 した 感 作 抗 原 及 び 非 特 異 物 質 を,モ ル モ ッ トに 作 成 した 喘 息 モ デ ル の 気 道 に 投 与 し,惹 起 され たIARとLARの 前 後 の 気 管 支 肺 胞 洗 浄 液(BALF)お よ び 細 胞 分 画 に お け る 標 識 抗 原 物 質 を 測 定 し た.さ ら に BALF細 胞 塗 抹 標 本 及 び 摘 出 肺 組 織 に オ ー トラ ジ オ グ ラ フ ィー を行 な い抗 原 物 質 の 局 在 を検 討 した とこ ろ,抗 原 物 質 がLARの 発 症 に 深 く関 与 して い る事 が 判 明 し た の で 報 告 す る.
Fig. 1 Experimental procedure in the guinea
pig.
対 象 と 方 法
1. 対 象
対 象 に は,約200gのHartley系 の 雄 性 モ ル
456 武 田 勝 行 モ ッ トに 以 下 の 方 法 で 喘 息 動 物 モ デ ル を作 製 し 実 験 に 供 し た.な お モ ル モ ッ トの 飼 育 に は 固 形 飼 料 と水 を用 い,感 作 開 始 前 約2週 間 岡 山大 学 医 学 部 付 属 病 院 実 験 施 設 に お い て 検 疫 ・飼 育 を 行 な っ た. 2. 感 作 モ ル モ ッ トの 作 成 感 作 は 飯 島 ら10)の変 法 で あ る沖 の 方 法11)に準 じ て 行 な っ た(Fig. 1).す な わ ち,モ ル モ ッ トに ascaris suum抗 原 液(Greer Laboratories社, USA)0.1mlを 水 酸 化 ア ル ミニ ウ ム ゲ ル10mgと と も に2週 間 間 隔 で3回 腹 腔 内 注 射 を して 感 作 を 行 な っ た.感 作 終 了1週 間 後 に 生 理 食 塩 水 で6 倍 に 希 釈 し たascaris抗 原 液3mlを,プ ラ ス チ ッ ク製 の 吸 入 箱(40×25×15cm)に 入 っ た モ ル トモ ッ トに 対 し て,ジ ェ ッ トネ ブ ラ イ ザ ー(日 本 商 事 製)と コ ン プ レ ッ サ ー(日 本 共 立 医 科 工 業 製)を 接 続 し て10分 間 吸 入 させ 気 道 反 応 の 誘 発 を試 み た. 3. 気 道 反 応 の 判 定 IAR及 びLARの 判 定 は,前 述 の 感 作 モ ル モ ッ トに 小 動 物 用 呼 吸 ピ ッ ク ア ップ(日 本 光 電 社 製)を 装 着 し吸 入 誘 発 前,吸 入 直 後,吸 入5時 間 後 に 呼 吸 曲 線 を 記 録 し,こ の 呼 吸 曲 線 上 に お い て 吸 入 直 後 に 呼 気 と吸 気 の 比(E/I)が2.0以 上 を示 す 波 が5個 以 上 連 続 す る もの をIAR陽 性 と し,5時 間 後 に 同 条 件 を満 た す も の をLAR陽 性 と し た.今 回 感 作 誘 発 を 行 な っ た モ ル モ ッ ト
にお いて は,IARの み 陽 性 の もの,IAR及 びLAR の 両 気 道 反 応 が 陽 性 の も の,そ して 気 道 反 応 の 見 ら れ な い もの の3群 を認 め た.但 し 呼 吸 曲 線 上 変 化 が 認 め られ な くて も気 道 反 応 が 生 じ て い る 可 能 性 が あ る た め,今 回 の 実 験 で は 前 述 の 気 道 反 応 陽 性 群 と,そ の 対 照 群(無 気 道 反 応 群) と して は 感 作 及 び 吸 入 誘 発 を行 な わ な か っ た モ ル モ ッ トを使 用 し た. 4. 抗 原 物 質 の 標 識 ascaris抗 原,及 び 対 照 に 非 特 異 物 質 と し て 用 い たovalbumine(OA) (Grade III, Sigma社: USA)に 対 し て,ラ ク トペ ル オ キ シ ダ ー ゼ 法
(Radioiodination System, New England Nuclear社:USA)を 用 い て125Iで 標 識 した. 5. 抗 原 物 質 の 注 入 モ ル モ ッ トをsodium pentobarbital(ダ イ ナ ボ ッ ト社)20mg/kg腹 腔 内 注 射 で 麻 酔 し た後 に気 管 を手 術 的 に 露 出 し標 識 抗 原 物 質 を注 入 し た. 注 入 す る標 識 抗 原 とOAは,色 素 結 合 法(プ ロ テ ィ ン ア ッ セ イ キ ッ ト,Bio Radd社:USA) を用 い あ らか じめ 総 蛋 白質 量 で0.02mgと な る よ う に調 製 して お い た.な お 標 識OAを 注 入 す る 際 に は,気 道 反 応 を誘 発 す る 目的 で 同 時 に 非 標 識ascaris抗 原 を タ ン パ ク質 量 に て0.02mgに 調 製 し 注 入 し た. 6. BALFと 肺 組 織 の 摘 出 標 識 抗 原 物 質 注 入 時 よ りIARの 前 後 と して30 秒 後,1時 間 後,及 びLARの 前 後 と し て3.5時 間 後,12時 間 後 に 気 管 支 肺 胞 洗 浄(BAL),さ ら に 肺 組 織 の 摘 出 を行 な っ た.BALは 麻 酔 を行 な っ た 後 に,気 管 を切 開 しプ ラ ッ ス チ ッ ク製 の チ ュ ー ブ を挿 入 し生 理 食 塩 水10mlづ つ3回,合 計 30mlに て 行 な い,そ の 後 肺 組 織 を 摘 出 した. 今 回 の実 験 にお け る各 群 の個 数 は,125I-ascaris を 注 入 し た 気 道 反 応 陽 性 群 は 計28匹 で あ り,そ の う ちIAR前9匹,IAR後6匹,LAR前6 匹,LAR後7匹 で あ り,ま た125I-ascarisを 注 入 し た 無 反 応 群 と,125I-OAを 注 入 した 気 道 反 応 群 は 各 時 点 で の 個 数 は6匹 で 計24匹 ず つ で あ っ た. 7. BALFと 肺 組 織 の 放 射 活 性 の 測 定 BALFは 回 収 後 直 ち に1200rpmで10分 間 遠 沈 し,細 胞 成 分 と上 清 成 分 とに 分 離 した.回 収 した 上 清 成 分 の う ち の3ml,及 び燐 酸 緩 衝 液1 mlに 再 浮 遊 させ た 細 胞 成 分 を ガ ン マ カ ウ ン タ ー (ARC 500,ア ロ カ社)に て 放 射 活 性 を測 定 し た.な お,細 胞 成 分 で は 白 血 球 数 の 算 定,及 び May-Giemsa染 色 塗 抹 標 本 を作 製 し,顕 微 鏡 下 に 細 胞 分 類 を 行 な っ た.肺 組 織 はBAL終 了 後 開 胸 し て 肺 を 摘 出 し,ガ ン マ カ ウ ン ター(ARC 2000,ア ロ カ 社)に て 放 射 活 性 を測 定 した.さ ら に 肺 は 空 気 で 軽 く膨 ら ませ た 状 態 で10%ホ ル マ リ ン に 浸 積 固 定 し,パ ラ フ ィ ン 包 埋 した 後 に Hematoxylin-eosin染 色(HE染 色)を 行 な い 鏡 検 し た. 8. 放 射 活 性 値 の 補 正 ガ ンマ カ ウ ン タ ー で得 た値 は 半 減 期 に よ る放 射 活 性 の 減 衰 を補 正 す る た め,次 式 を用 い て 出 荷 時 の 数 値 と し た.
N0=N×2t/T [N0:最 初 の 原 子 核 数, N:t時 間 後 の 原 子 核 数,T:半 減 期(125Iは60.2日)]ま た,前 述 した ガ ン マ カ ウ ン ター の2機 種 間 で 測 定 感 度 に 差 が あ る た め これ に つ い て も補 正 を行 な っ た. 9. ミク ロ オ ー トラ ジ オ グ ラ フ の 作 製 BALF中 細 胞 成 分 の 塗 抹 標 本 と肺 組 織 標 本 に ミ クロ オ ー トラ ジ オ グ ラ フ ィ ー を施 行 し た.標 本 に は 前 染 色 と して 塗 抹 標 本 に はMay-Giemsa 染 色 を行 な い,組 織 標 本 に はHE染 色 を 行 な っ た 後 封 入 し た.か か る標 本 に,蒸 留 水 で3倍 に 希 釈 し た オー トラ ジ オ グ ラ フ ィ ー 用 乳 剤(NTB 2,Kodak社;USA)をdipping法 に て 塗 布 し 乾 燥 せ し め4℃24時 間 で 露 出 し た.現 像 は developper D-19(Kodak社,USA)で 行 な い, 12%チ オ 硫 酸 ナ ト リウ ム 溶 液 に て 定 着 処 理 を行 な っ た 後 に,光 学 顕 微 鏡 下 に 銀 粒 子 の 集 積 と細 胞 ・組 織 形 態 を観 察 した.今 回 の 方 法 で は,銀 粒 子 面 と標 本 面 の 間 に カ バ ー ガ ラ ス が 挟 ま れ る 形 に な る た め,焦 点 深 度 を 変 え る こ とに よ り標 本 面 の 細 胞 形 態 が 銀 粒 子 に よ り障 害 さ れ る こ と な く良 好 な 状 態 で 観 察 で き た. 10. 統 計 学 的 検 討 各 実 験 結 果 は 平 均 値 ± 標 準 誤 差(SEM)で 表 し,そ の 統 計 学 的 処 理 はStudent's t-testで 行 な い,P valueは0.05以 下 を有 意 差 あ り と し た. 結 果 1. BALF上 清 成 分 の 検 討 注 入 し た 標 識 抗 原 物 質 の 動 態 を 知 る た め に, ま ずBALF上 清3ml中 の125I-ascaris(ま た は 125I-OA)の 放 射 活 性 を 測 定 し た .そ の 結 果,Fig. 2に 示 す 如 く125I-ascarisお よ び125I-OAの 放 射 活 性 はIAR,LARの 有 無 に よ る 差 は な く経 時 的 に 減 少 し た.し か し,非 特 異 物 質 と し て 用 い た125I-OAは,IAR後 に125I-ascarisに 比 較 す る と 有 意 に 消 失 が 促 進 し て い た(p<0.01).
Fig. 2 Time course of radioactive ascaris and
OA in the supernatant of BALF follow ing intratracheal injection.
I-ascaris from asthmatic responders (•œ) and from non responders (•›) and 125 I-OA from asthmatic responders (•¢) showed gradual decrease.
125I-OA significantly decreased after IAR compared to 125I-ascaris from asth matic responders (p<0.05) and that from non responders (p<0.01).
Fig. 3 Time course of radioactive ascaris and OA (•¢) in cell component of 3ml of BALF following intratracheal injection.
All injected substances gradually de creased, but 125I-ascaris from asthmatic responders (•œ) significantly increased
following LAR compared to that from non responders (•›.p<0.05). 2. BALF中 細 胞 成 分 に よ る検 討 1) BALF単 位 容 積 当 た りの 放 射 活 性 BALF 3ml中 す な わ ち単 位 容 積 当 た りの 細 胞 成 分 の 放 射 活 性 の 検 討 で は,上 清 中 の 放 射 活 性 に 比 しFig. 3に 示 す ご と く細 胞 内 含 量 は10分 の 1程 度 で あ り,上 清 成 分 と同 様 に 経 時 的 に徐 々
458 武 田 勝 行 に 減 少 した.一 方 注 入12時 間 後 の125I-ascarisの
放 射 活 性 は,LAR陽 性 群 に お い て 無 反 応 群 に 比 し有 意 に 高 く(p<0.05),か つLAR前 に 比 し て 増 加 した.
Fig. 4 Time course of 125I-ascaris,
cell
number
and cellular classification
in 3ml of
BALF
of asthmatic responders. The
radioactivity
of 125I-ascaris
can be seen
correlated to numbers of total cells
and
alveolar macrophages.
Fig. 5 Time course of radioactive ascaris and OA (△)in BAL cell (106 cells)following intratracheal injection.
Injected substances gradually de creased in all groups before LAR, but radioactivity of 125I-ascaris from asth matic responders (●) increased after LAR. This value was significantly higher than that of 125I-ascaris of the non responders(○. P<0.05). か か るLAR後 の 抗 原 物 質 の 再 増 加 を細 胞 数 とそ の 組 成 の 要 因 か ら検 討 す る た め に,単 位 容 積 当 た りのBALF中 総 細 胞 数 お よび 各 細 胞 の実 数 を算 定 し,Fig. 3で 示 し た放 射 活 性 と 比 較 し た.そ の 結 果,Fig. 4に 示 す 如 く気 道 反 応 群 に お い て はLAR前 ま で は 減 少 傾 向 に あ っ た 総 細 胞 数 はLAR後 に125I-ascaris放 射 活 性 と と も に 増 加 し た.細 胞 組 成 の 検 討 で は マ ク ロ フ ァー ジ,好 中球,好 酸 球 が 増 加 し て お り,特 に マ ク ロ フ ァ ー ジ の 実 数 は125I-ascarisと 平 行 関 係 に あ る こ と が 窺 わ れ た.
Fig.
6 Time course
of 125I-ascaris,
cell
number
and cellular
classification
of BAL cell
(106
cells)
from asthmatic
responder
fol
lowing
intratracheal
injection.
In the asthamatic
responder,
radio
activity
of 125I-ascaris
can be seen cor
related
to the number of macrophages.
2) BALF中 単 位 細 胞 数 当 た りの 放 射 活 性 抗 原 物 質 の 細 胞 内局 在 を明 らか に す る た め に, BALF中 の 単 位 細 胞 数 当 た り,す な わ ち106個 当 た りの 放 射 活 性 を検 討 し た.そ の 結 果Fig. 5に 示 す ご と く抗 原 注 入 後 か ら3.5時 間 後 ま で は125 I-ascaris投 与 気 道 反 応 群,無 反 応 群,125I-OA群 と もに 減 少 傾 向 が 認 め られ たが,12時 間 後 のLAR 陽 性 群 の125I-ascaris放 射 活 性 は 無 反 応群 に 比 して 単 位 細 胞 当 た りで 有 意 に 高 値 で あ り(p<
0.05),か つLAR前 に 比 し て 増 加 し た. Fig. 7 Autoradiography of 125I-ascaris in BAL
cells from a guinea pig after LAR. Grain of 125I-ascaris could be detected only in the cytoplasm of alveolar macrophages. May-Giemsa stain: original magnifica tion:•~200.
Fig. 8 Time course of radioactive ascaris and OA (•¢) in extracted lung tissue follow ing intratracheal injection. 125I-ascaris from asthmatic responders (•œ) signifi cantly increased after LAR compared to that from non responders (•›. p<0.05).
さ ら に こ の 抗 原 物 質 の 再 増 加 を 細 胞 組 成 の 要 因 よ り検 討 す る た め,BALF中 単 位 細 胞 当 た り の放 射 活 性 の推 移 をBALF中 細 胞 比 率 と比 較 し た(Fig. 6).そ の 結 果LAR後 に マ ク ロ フ ァ ジ と好 中球 の 比 率 が 増 加 し て お り,LAR後 の 抗 原 物 質 の 増 加 は こ れ ら の 細 胞 が 関 与 して い る 事 が 想 定 さ れ た. 3) BALF細 胞 中 の 注 入 抗 原 物 質 の 局 在 ascaris抗 原 の 肺 内 の 局 在 を確 認 す る 目的 で, BALF細 胞 成 分 の 塗 抹 標 本 を 作 製 して オー トラ ジ オ グ ラ フ ィ ー を 行 な い 検 討 し た と こ ろ,Fig. 7 の よ う に 主 に マ ク ロ フ ァ ー ジ の 胞 体 内 に125I-ascaris粒 子 の 集 積 が 認 め ら れ た.
Fig. 9 Autoradiography of 125I-ascaris in the lung tissue of a guinea pig after LAR. Grain of 125I-ascaris were observed at
alveolar region. Hematoxylin-eosin stain: original magnification:•~400.
3. 肺 組 織 に よ る検 討 1) 肺 組 織 の 単 位 重 量 当 た りの 放 射 活 性 気 道 に 注 入 し た 抗 原 物 質 が 肺 組 織 へ 移 行 す る か ど う か を知 る た め に,BAL施 行 後 に 摘 出 し た 肺 組 織1g当 た りの 放 射 活 性 を 測 定 し た.そ の 結 果,Fig. 8に 示 す よ うに 無 反 応 群 に お け る125 I-ascarisと,非 特 異 物 質 で あ る125I-OAは 急 速 に 肺 組 織 か ら消 失 し た.そ れ に 比 して 気 道 反 応 群 で はLAR後 に,無 反 応 群 に 比 し125I-ascaris の 肺 組 織 へ の 貯 留 が 有 意 に 増 加 した(p<0.05). しか も前 述 の 上 清 成 分 や 細 胞 成 分 の 成 績 と異 な り,肺 組 織 内 の125I-ascarisの 放 射 活 性 はLAR 時 に はIAR時 に 比 較 して も有 意 に 高値 を示 した (p<0.01). 2) 肺 組 織 標 本 に よ る注 入 抗 原 の 局 在 か か る肺 組 織 に 残 留 し た抗 原 の 局 在 を検 討 す る 目的 で,肺 組 織 標 本 に オ ー トラ ジ オ グ ラ フ ィ を施 行 した.そ の 結 果,肺 胞 や 細 気 管 支 の 末 梢 気 道 内,及 び 間 質 で は 主 に 肺 胞 壁 に 存 在 す る マ ク ロ フ ァ ー ジ に125I-ascarisの 集 積 が 認 め ら れ た(Fig. 9). 考 察 重 症 難 治 性 喘 息 は 臨 床 上 解 決 の 急 が れ て い る
460 武 田 勝 行 疾 患 で あ り,ま た そ の 病 態 は 教 室 の 一 連 の 研 究2)3)5)11-13)からか な り明 確 に な って き た もの の な お 不 明 な 点 が 多 い.そ こ で 抗 原 吸 入 誘 発 試 験 に よ り惹 起 さ れ るLARが 重 症 難 治 性 喘 息 の 基 本 病 態 と想 定 さ れ て い る こ とか ら,そ の 病 態 の 解 明 にLARの 機 序 を検 討 す る こ とが 有 用 と考 え ら れ る.か か る 観 点 か ら,近 年 多 くの 研 究 成 果 が 報 告 され2)4)5),反応 の場 とな る 気 管 支 へ の 好 中 球,好 酸 球 な どの 血 液 細 胞 浸 潤 や,化 学 伝 達 物 質,サ イ トカ イ ン に よ っ て 惹 起 さ れ る 炎 症 反 応 の 関 与 が 重 症 で あ る と考 え ら れ て い る.し か し ま だ そ の 全 容 が 解 明 さ れ て は お ら ず,特 に何 故 あ る一 定 の 時 間 を お い て 気 道 反 応 が 惹 起 さ れ る か と い う疑 問 に 対 し て は 的 確 な 推 論,根 拠 は な く未 解 決 の ま ま で あ る.か か る観 点 で のLAR時 に お け る抗 原 物 質 の 動 態 に 関 し て は 詳 細 な 検 討 は 少 な い.そ こ で 著 者 はLARの 発 症 に お け る 吸 入 抗 原 の 関 与 を解 明 す る 目的 で,動 物 喘 息 モ デ ル を作 成 し標 識 抗 原 物 質 に て 誘 発 試 験 を行 な い,BALF及 び 肺 組 織 に お け る抗 原 の 局 在 並 び に 動 態 を検 討 し た. そ の 結 果,BALF上 清 成 分 の 検 討 で はIAR, LARの 気 道 反 応 の 有 無 に 関 わ ら ず,ま た 抗 原 物 質 で あ るascarisそ し て 非 特 異 物 質 で あ るOA の 何 れ も速 や か に 気 道 よ り消 失 した が,IAR後 にOAはascarisに 比 し有 意 に 減 少 して い た. BALF中 細 胞 成 分 の標 識 抗 原 物 質 の放 射 活 性 の 検 討 で はIAR時 に は 無 反 応 群 との 間 に 差 は なか っ た がLAR時 に は 高 値 で あ り,ま たLAR時 に はIAR時 に 比 し て も増 加 傾 向 が 認 め ら れ た. しか し,非 特 異 物 質 と して 用 い た125I-OAはIAR, LARに 影 響 され る事 な く速 や か に 減 少 す る傾 向 に あ っ た.BALF中 細 胞 比 率 と標 識 抗 原 物 質 の 放 射 活 性 の 比 較 検 討 で は,標 識 抗 原 の 増 加 し て い たLAR後 に は 主 に マ ク ロ フ ァ ー ジや 好 中 球 が 増 加 し て い た.BALF中 の 細 胞 及 び 組 織 の 標 本 で は マ ク ロ フ ァ ー ジに 放 射 活 性 が確 認 され た. ま ずBALF上 清 成 分 及 び肺 組 織 の検 討 にお い て,侵 入 した 抗 原 物 質 は 気 道 か ら速 や か に 排 出 され た.特 にIAR時 に は 非 特 異 物 質 で あ るOA は,特 異 抗 原 物 質 で あ るascarisに 比 して さ ら に 速 や か に 気 道 か ら排 出 さ れ る事 が 判 明 し た. こ のOAとascaris抗 原 の 間 に み られ る 気 道 外 へ の ク リア ラ ン ス の 差 は,OA投 与 群 に お い て もIAR,LARの 各 気 道 反 応 が 生 じ て い るの で, 気 道 反 応 の 有 無 よ り も吸 入 物 質 と生 体 との 反 応 特 異 性 に よ りそ の 速 度 が 規 定 さ れ て い る と考 え られ る.か か る 気 道 か ら の 吸 入 物 質 の ク リア ラ ン ス は 気 道 粘 膜 線 毛 運 動 に よ る上 行 性 の ク リア ラ ン ス と そ の他 粒 子 の 溶 解,そ して 血 液 及 び リ ンパ 系 へ の 移 行 等 が 推 定 さ れ て い る13)-16).今回 数 値 は 示 さ な か っ た が,BAL終 了 後 一 部 の モ ル モ ッ トで 血 液 を採 取 し放 射 活 性 を 検 討 し た とこ ろ,OA投 与 群 はascaris抗 原 投 与 群 に 比 し注 入 後 早 期 に 増 加 傾 向 が 見 られ た がascaris抗 原 投 与 群 で は 気 道 反 応 の 有 無 で は 差 が み られ なか っ た.従 っ てOAはascaris抗 原 に 比 し,気 道 内 に 投 与 され た 後IARの 時 点 で は 気 道 表 面 よ り 血 液 中 へ 移 行 す る 比 率 が 高 い もの と推 察 され た. しか し,こ れ が 実 際 に 感 作 な ど生 体 側 の 影 響 で あ る の か,ま た は 抗 原 物 質 の 物 理 的 特 性 に よ る もの か は 今 後 さ ら に 検 討 を要 す る もの と思 わ れ る. 次 に,BALF細 胞 成 分 中 お よ び 肺 組 織 の 抗 原 物 質 の 推 移 の 検 討 で は,無 反 応 群 に 比 して 気 道 反 応 群 のLAR後 に 抗 原 物 質 で あ るascarisが 多 く認 め られ た.こ の 結 果 か ら は,気 道 に 残 存 して い る抗 原 物 質 がLARの 発 症 に な ん らか の 関 わ り を持 っ て い る 可 能 性 が 想 定 さ れ る.さ ら に 非 特 異 物 質 と し て 用 い たOAはLARに 影 響 さ れ る事 な く減 少 して い る こ と も,特 異 的 抗 原 物 質 で あ るascarisとLAR発 症 と の 関 連 を 示 唆 す る 成 績 と考 え ら れ る. ま た,気 道 反 応 陽 性 群 に お け るBALF細 胞 成 分 中 の 抗 原 物 質 の 推 移 と細 胞 組 成 の 比 較 に よ る 検 討 で は,抗 原 物 質 の 増 加 したLAR後 に は マ ク ロ フ ァー ジ,好 中球 及 び 好 酸 球 の 増 加 が み ら れ た.こ の 結 果 か ら,ま ず 気 道 内 に 再 増 加 した 抗 原 物 質 が,マ ク ロ フ ァ ー ジ や 顆 粒 球 系 の 炎 症 細 胞 の 遊 走 及 び 活 性 化 を も た らす 事 は 容 易 に 想 定 され る.し か し,さ ら に 岡 田 ら17)によ り ヒ トの 末 梢 血 の 検 討 で,LAR時 に 好 塩 基 球 表 面 に 結 合 す るIgG抗 体 が 増 加 し て い る こ と,ま た 小 栗 栖13)に よ りLAR発 症 例 のBALFの 検 討 でIgG サ ブ ク ラ ス抗 体 の う ちIgG 1の 増 加 が 明 らか に さ れ て い る こ と か ら,か か る再 増 加 し た抗 原 物
質 が 気 道 に 集 積 した 顆 粒 球 を,そ の 表 面 のIgG 1受 容 体 を介 し て 刺 激 し活 性 化 し喘 息 発 作 を 惹 起 せ しめ る過 程 が 考 え られ る. 次 にBALF細 胞 塗 抹 標 本 及 び肺 組 織 標 本 の オ トラ ジ オ グ ラ フ ィ ー で は 主 に マ ク ロ フ ァー ジ に お い て 抗 原 物 質 が 確 認 され た.以 上 よ り,LAR で の 抗 原 物 質 の再 増 加 に は特 に マ ク ロ フ ァ ー ジ の 関 与 が 示 唆 さ れ る結 果 で あ っ た.こ の 気 道 内 に 残 留 し た 抗 原 物 質 とマ ク ロ フ ァ ー ジ が 如 何 に 気 道 反 応 と関 連 す るか に つ い て は 以 下 の2つ の 可 能 性 が 想 定 され る.そ の 第1は,マ ク ロ フ ァ ー ジ に 一 度 取 り込 ま れ た 抗 原 が そ の ま ま の 形 あ る い は ご く一 部 に修 飾 を受 け るな ど してLAR の 時 点 で放 出 さ れ る.か か る抗 原 物 質 がIARと 同 様 の 機 序 で 肥 満 細 胞 上 で のIgE抗 体 の 架 橋 形 成 を起 こ す こ と に よ り脱 顆 粒 し,各 種 メ デ ィ エ タ ー が 放 出 さ れ る か,ま た は先 に述 べ た 顆 粒 球 表 面 のIgG 1受 容 体 を刺 激,活 性 化 す る こ と に よ り気 道 反 応 を惹 起 す る と い う抗 原 物 質 の 直 接 的 な 作 用 が 考 え られ る.第2の 可 能 性 は,マ ク ロ フ ァー ジ に 取 り込 まれ た 抗 原 物 質 が 細 胞 内 で処 理 を受 け た 後 にT細 胞 を介 し て 気 道 反 応 を 惹 起 す る経 路 が 想 定 さ れ る.後 者 に 関 して は 近 年 免 疫 応 答 の 開 始 に お け る 樹 状 細 胞,マ ク ロ フ ァ ー ジ な ど の 抗 原 提 示 細 胞 の 重 要 性 が 明 らか に さ れ て い る18)-21).そ れ らに よ る と,生 体 内 に 侵 入 し た 抗 原 物 質 は まず 樹 状 細 胞 に よ り捕 捉 処 理 さ れ,主 要 適 合 性 抗 原(MHC抗 原)と と も に 細 胞 表 面 に 提 示 さ れT細 胞 を感 作 す る.次 い で マ クロ フ ァー ジやB細 胞 な どの 抗 原 提 示 細 胞 が, 抗 原 を 細 胞 内 に 取 り込 み そ の 分 子 の 高 次 構 造 を 解 い た り分 子 を 分 解 して 免 疫 原 性 を露 出 し た 後 に,細 胞 内 で 合 成 したMHC抗 原 と共 に 細 胞 膜 表 面 に 表 現 し,T細 胞 表 面 の 抗 原 特 異 的T細 胞 レ セ プ ター に提 示 し22),活性 化 され たT細 胞 か ら 各 種 リ ン フ ォ カ イ ンが 産 出 さ れ 免 疫 反 応 が 始 ま る と さ れ て い る. 今 回 の 実 験 で はLAR時 の 気 道 内 マ ク ロ フ ァ ー ジに 抗 原 物 質 が 特 異 的 に 増 加 す る こ とが 判 明 し,さ ら に 前 述 し た 如 くマ ク ロ フ ァー ジが 抗 原 提 示 能 を有 す る こ とや,ま たHoltら23)に よ り 気 道 の 表 面 に はMHC抗 原 を 多量 に 発 現 して い る樹 状 細 胞 が か な りの 密 度 で 存 在 す る こ とな ど が 判 明 して い る.こ れ ら の 免 疫 開 始 機 構 を 気 道 反 応 の 場 に 当 て は め て 考 え る と,ま ず 気 道 反 応 のIARに つ い て は 前 述 の ご と くIgE-肥 満 細 胞 に よ り説 明 さ れ る.そ れ に 対 し てLARで は 気 道 内 の 抗 原 提 示 細 胞 に よ り捕 捉 さ れ た 抗 原 物 質 がLARの 時 相 でT細 胞 を 活 性 化 す る こ とに よ り24-26),ア レ ル ギ ー 反 応 が 開 始 後 さ ら に 持 続 し て い く可 能 性 が 想 定 さ れ る.以 上 よ り気 管 支 喘 息 の 重 症 化 機 序 に お い て,気 道 内 の 抗 原 提 示 細 胞 に よ り持 続 的 にT細 胞 が 活 性 化 され 気 道 に お け る 炎 症 機 転 が 継 続 して い る状 態,つ ま り木 村 の 提 唱 す る細 胞 反 応 型 ア レル ギー27)として気 管 支 喘 息 の 重 症 難 治 化 の 要 因 と な っ て い る事 が 示 唆 さ れ た. 方,LAR時 の 抗 原 物 質 の再 増 加 に つ い ては, 今 回 の 実 験 結 果 か ら は 気 道 内 に 進 入 し た 抗 原 物 質 が 一 度 リン パ 系 ま た は 血 液 中 な ど肺 外 に 移 送 さ れ,LARの 時 点 で 再 び マ ク ロ フ ァー ジ な ど に よ り気 道 内 に 再 現 され る 可 能 性 が 考 え られ るが, こ の 詳 細 な 機 序 に つ い て は 今 後 さ らに 検 討 を要 す る も の と思 わ れ る. 結 論 即 時 型 の み な らず 遅 発 型 気 道 反 応 の 発 症 機 序 の う ち,そ の 反 応 の 引 金 と な る抗 原 の 関 与 を解 明 す る 目的 で,ascaris抗 原 の 腹 腔 内 注 射 で 感 作 した モ ル モ ッ トを含 む76匹 に 対 し,標 識 抗 原 物 質 を 気 管 内 に 注 入 し経 時 的 にBALF,肺 組 織 の 放 射 活 性 を 測 定 し抗 原 の 動 態 を検 討 した. 1. BALF中 の 細 胞 成 分 及 び肺 組 織 に お け る 標 識 抗 原 物 質 で あ る125-ascarisの 放 射 活 性 は, LAR前 に は 無 反 応 群 と の 間 に 差 は認 め られ な か っ た.し か しLAR後 で は,同 一 時 点 の 無 反 応 群 に 対 し平 均 値 の 比 較 で は,単 位 容 積 当 た りの BALF細 胞 成 分 で は約1.8倍,単 位 細 胞 数 当 た り の 細 胞 成 分 で は 約5.8倍,肺 組 織 で は 約2.7倍 と い ず れ も 有 意 に 高 値 を 示 し(p<0.05),ま た BALF細 胞 成 分 で はLAR前 に 比 し て も増 加 傾 向 が 認 め られ た. 2. BALF細 胞 成 分 中 の標 識 抗 原 物 質 の 推 移 は,BALF中 の マ ク ロ フ ァ ー ジ と平 行 関 係 に あ る こ とが 窺 わ れ た. 3. 非 特 異 物 質 と して 用 い た125I-OAはIAR,
462 武 田 勝 行 LARの 発 現 に 影 響 を受 け ず 速 や か に減 少 す る傾 向 を 示 し た. 4. BALF中 の 細 胞 及 び 組 織 の 標 本 の オー ト ラ ジ オ グ ラ フ ィ ー で は,主 に マ ク ロ フ ァー ジ に 標 識 抗 原 物 質 の 放 射 活 性 が 確 認 さ れ た. 以 上 よ り,LARの 際 に 抗 原 物 質 はBALF細 胞 成 分 及 び 肺 組 織 に 増 加 して お り,そ の 局 在 は 主 に マ ク ロ フ ァー ジ に 見 られ る こ と に よ り,抗 原 物 質 は マ ク ロ フ ァー ジ な ど に よ りLAR時 に 気 道 内 に再 現 され 各 種 炎 症 細 胞 を介 してLAR発 現 の 要 因 に な っ て い る こ と が 想 定 され た. 稿 を終 え るに あ た り,ご 指 導 な ら びに 御校 閲 を賜 り ま た直 接 ご指 導 頂 き ま した 高橋 清 元講 師(現 国立 療 養 所 南 岡 山病 院 副 院 長)に 深 謝 致 し ます. 養 所 南 岡 山病 院 副 院長)に 深 謝 致 し ます. (本論 文 の要 旨は,第41回 日本 ア レル ギー 学会 総 会 に お いて 発 表 した.)
文
献
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464 武 田 勝 行