新しい関節リウマチ動物モデルにおける顎関節の病
態と疾患感受性遺伝子の解析
著者
森 士朗
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病態と疾患感受性遺伝子の解析
1 5390607平成15年度∼平成17年度科学研究責補助金
(基盤研究(B))研究成果報告書
平成18年4月
研究代表者 森 士朗
東北大学病院講師
は し が き はじめに、本研究は、科学研究費補助金、基盤研究(B)、課題番号15390607の援 助を得て行ったものであることを記して、ここに謝意を表する。 近年、顎関節症が一般市民に広く認知されるようになり、顎関節の症状を訴え口腔 外科を受診する患者が増加する傾向にある。しかし、これらの患者の中には、関節リ ウマチ(RA)の患者も含まれており、顎関節の症状がきっかけとなり、 RAと診断され る症例もしばしば認められる。 RAは、人口の0.4-0.5%, 30歳以上の人口の1%に 認められるとされているが、この膨大な患者数を考えれば、顎関節に障害をきたしな がら、適切な治療を受けていない多くの潜在的な患者が存在する可能性がある。 RAにおいては、早期診断、早期治療が非常に重要とされている。しかし、 RAの痛 因は現在解明されておらず、かなりの専門的な知識や臨床経験がなければ、 RAの早期 診断は難しく、特に、顎関節のRA病変に関して言えば、他の顎関節疾患との鑑別が 困難である場合が多く、早期診断は困難な状態である。従って、顎関節のRAの早期 診断、予後判定、治療法の開発には、これまでの顎関節局所を対象とした画像診断や 血清学的な研究とは異なった新しい研究分野の展開が必要かと思われる。 本研究の目的は、現在、マウス-ヒト相同染色体領域からのヒト相同遺伝子の同 定が可能であること、関節炎の発症を規定する遺伝子群が存在すること、勝原病病変 発症の臓器特異性を規定する遺伝子座が存在することが知られていることから顎関 節炎を規定する遺伝子座が存在する可能性があること、顎関節炎の病理組織学的な病 像を規定する遺伝子群が存在する可能性があることなどのこれまで明らかとなった 知見を基に、新しいRAモデルマウスを用いて、 RAの顎関節における病態および疾患 感受性遺伝子の解析を試み、RAの顎関節病変の早期診断、予後の判定、治療法の開発、 予防法の開発などに寄与することである。 近年のゲノム解析により、 RA等の勝原病の遺伝要因が、ポリジーン遺伝として働 いていることが示唆されてきた。しかし、ヒトの勝原病のゲノム解析を行う場合には、 勝原病の責任遺伝子のひとつひとつの浸透度が低いこと、 DNA多型が超多様であるこ と、家族構成が縮小化していることなどからヒトの家系調査に基づく連鎖解析のみで 遺伝様式や原因遺伝子を明らかにすることは困難である。そこで、これまで我々は、 ヒトと病像相同性を有し、遺伝的に均一で、自由に交配可能な疾患モデルマウスを用 いて、モデルマウスの感受性遺伝子座の解析から、直接あるいはヒト染色体相同領域 の探索を経て、ヒト原因遺伝子の決定を試みてきた。 これまで我々は、 1py変異遺伝子(Fas欠損変異)を有し、関節炎、唾液腺炎、糸 球体腎炎、血管炎等を同一個体に発症すると同時に、多様な自己免疫現象が発現する MRL/MpJ-1pz/1py(MRL/1pr)マウスのトータルゲノムを対象に、このマウスが示す多彩 な病変の感受性遺伝子座を包括的に解析してきた。その結果、 RAの発症はそれぞれ複
数の遺伝子座に支配されており、一個の遺伝子座、のみでは浸透度は低くこれらの遺 伝子座間には相加性と階層性が存在すること、感受性遺伝子座のいくつかには、翻訳 領域の多型を示す遺伝子が存在し、その中には多型に基づく機能的差異が見出される ものが存在すること、勝原病病変発症の臓器特異性を規定する遺伝子座が存在するこ とを明らかにしてきた。 一方、これまで我々は,勝原病発症マウスであるMRL/1prマウスと勝原病非発症 マウスであるC3H/HeJl1pT/1pT (C3H/1pr)マウスとの交配により、約30系統の遺伝
子組み替え近交系マウス(recombinant inbred (RI)系マウス)であるMXH系マウスを
作出してきた。これらの系統のマウスは,世界で唯一の勝原病発症系のRI系マウス であり、これまで行ったゲノムワイドスクリーニングの結果から、MXH系マウス群は、 ランダムなゲノムモザイクを有するライブラリーであることが明らかとなっており、 また、病理組織学的検討から、関節炎、唾液腺炎、糸球体腎炎、血管炎等の勝原病の 病像が、ゲノムの再編により分離していることが確認されている。このRI系は、個々 ゐ勝原病の病態,病像に関わる遺伝子の感受性あるいは抵抗性アレル(ポリジーン) をホモのかたちで、種々の組み合わせで有しているマウス系統群であり、このゲノム の組み合わせがもたらす特定の表現型を、任意の週齢と臓器組織でプロットし得る利 点から、勝原病の原因遺伝子の同定やそれらの遺伝子と細菌感染、ウイルス感染、薬 剤投与を含む環境因子による特定の免疫応答形質に関わる遺伝子との関連を明らか にすることが可能である。 最近、我々は、強直症に至る関節炎をほぼ100%発症する系統を含む数系統の新 しい関節リウマチモデルマウスをMXH系マウスの中から見出しており、驚くべきこと には、これらの中には、関節の骨破壊病変と滑膜炎が系統毎に独立して存在している 所見を示すものがみられ、関節炎の病像さえもある特定の遺伝子の組み合わせにより 規定されていることが示唆された。上述したように、現在、マウス-ヒト相同染色体 領域からのヒト相同遺伝子の同定が可能であること、関節炎の発症を規定する遺伝子 群が存在すること、勝原病病変発症の臓器特異性を規定する遺伝子座が存在すること から顎関節炎を規定する遺伝子座が存在する可能性があること、さらには、顎関節炎 の病像を規定する遺伝子群が存在する可能性があることなどから、本研究で期待され る結果は、顎関節における関節病変の早期診断、予後の判定、治療法の開発、予防な ど-の道を開くものと思われる。 本研究の結果については、本報告書の中で述べたいと思うが、今回の限られた研究 期間を考慮すれば、満足できる結果が得られたと思う。 2
研究組戯
研究代表者:森 士朗 (東北大学病院講師) 研究分担者:能勢 異人(愛媛大学医学部教授) 研究分担者:小野 栄夫(東北大学大学院医学研究科教授) 交付決定額(配分額) (金額単位:円) 直接経費 亊I ィニ N 合計 平成15年度 迭テ3 テ 0 迭テ3 テ 平成16年度 テs テ 0 テs テ 平成17年度 テs テ 0 テs テ 総計 "テs テ 0 "テs テ 3研究発表
(1) 学会誌等
1. Akihiro Yamada, Tatsuhiko Miyazaki, Ling-Min Lu, Masao Ono, Mitsuko R. Ito, Miho Terada, Shiro Mori, Kazuya Hata, Yoshimi Nozaki, Shuichi Nakatsuru, Yusuke Nakamura, Morikazu Onji, Masato Nose: Genetic basis of tissue-specificity of vasculitis in MRL/lpr mice. Arthritis Rheum 48(5): 1445-1451, 2003.
2. Tatsuhiko Miyazaki, Masao Ono, Wei-Min Qu, Min-Cai Zhang, Shiro Mori, Shuichi
Nakatsuru, Yusuke Nakamura, Tatsuya Sawasaki, Yaeta Endo, Masato Nose: Implication1 0f allelic polymorphism of osteopontin inthe development of lupus nephritis in MRL/1pr mice. Eur ∫ Imuno1 35(5): 1 5 10-20, 2005
3. Yoshinobu Toda, Ryo Aoki, Yuika Ikeda, Yuya Azuma, Noriyuki Kioka, Michinori Matsuo, Maya Sakamoto, Shir° Mori, Manabu Fukumoto, Kazumitsu Ueda:
Detection of ABCA7-positive cells In salivary glands from patients with Sjogren's syndrome. PathoI Int 55: 6391643, 2005
4. Hiroaki Komori, Hiroshi Furukawa, Shiro Mori, Mitsuko R. Ito, Miho Terada, Ming-Cai Zhang, Naoto Ishii, Nobuhiro Sakuma, Masato Nose,and Masao Ono: A Signal Adaptor SLAM-Associated Protein Regulates Spontaneous A山oimmunity and
FasIDependent LymphoprolifTeration in MRLFaslpr Lupus Mice. J Immun01
176:395-400, 2006
5. Shiro Mori, Ming-Cai, Naoko Tanda, Fumiko Date, Masato Nose, Hiroshi Furukawa, Masao Ono: Genetic characterization of spontaneous ankylosing arthropathy with unlque inheritance fTrom Fas-deficient strains of mice. Ann Rheum Dis 2006 Mar28
(Epub ahead of print)
(2) 口頭発表 1. 小森浩章,岩崎美津子,小野栄夫,森 士朗,鈴木和男,能勢真人:組み換え近 交系 MXH/lpr 系マウスを用いた勝原病病態とそのゲノム的基盤の解析 (2-卜W28-6-0/P).第33回日本免疫学会総会. 2003.12.8-10.福岡 2. 森 士朗,岩崎美津子,寺田美穂,小森浩章,丹田奈緒子,小野栄夫,能勢真人: 早期に関節強直を自然発症するリコンビナントコンジェニックマウス McH-/pr/TprRAlの樹立(WP35-2).第48回日本リウマチ学会総会・学術集会. 2004.4.15-17.岡山 3. 能勢真人,宮崎龍彦,岩崎美津子,小森浩幸,小野栄夫,森 士朗:勝原病の病 像多様性のゲノム的しくみ(WS-5-5),ワークショップ5 GenotypeとPhenotypeの掛 け橋.第93回日本病理学会総会. 2004.6.9-ll.札幌 4. 小森浩章,岩崎美津子,森 士朗,能勢真人:新規組換え近交系MXH/1prマウス による勝原病病態,病理の時間的動態と遺伝基盤の解析(1-E-3).第93回日本病 理学会総会. 2004.6.9-ll.札幌 5. 小森浩章,久保田領志,辻 祥江,寺田美穂,森 士朗,岩田久人,田辺信介,能 勢真人:組換え近交系MXH/lprマウスを用いた環境化学物質感受性のゲノム解析. 沿岸環境科学研究センター年次研究成果報告会. 2004.4.21-22.松山
6. Hiroaki Komori, Miho Terada, Mitsuko R. Ito, Kazuya Hata, Yoshimi Nozaki, Shiro Mori, Masato Nose: Genetic dissection of autoimmune disease phenotypes ln a new recombinant Inbred strain of mice MXH/lpr (P12101). lst International Conference on Basic and Clinical lmmunogenomics, Budapest Congress Centre, Oct. 3-7, 2004
7. 能勢真人,岩崎美津子,寺田美穂,茎田昌敬,森 士朗,城戸幹太,岩月宏文: RAモデルマウスMcH/lpr-RAlにおけるNSAIDの関節破壊抑制効果(S1-4).シン ポジウム1 「関節炎におけるNSAIDの最近の考え方」第19回日本臨床リウマチ学会 総会. 2004.ll.26-27.東京 小森 浩幸,森 士朗,能勢 異人:組み換え近交系を用いたヒ素急性毒性ならび に免疫毒性のゲノム解析(P3-ト220)第94回日本病理学会総会 2005.4.14-16. 横浜 5
9. 小森浩章,寺田美穂,岩崎美津子,小野栄夫,森士朗,能勢真人:組み換え
近交系を用いたPoly I:Cによる勝原病病態促進効果のゲノム解析(W414)第49
回日本リウマチ学会総会・学術集会2005.4.17-20.横浜
10・ Hiroaki Komiri, Miho Terada, Mitsuko lwazaki, Masao Ono, Shir° Mori, Masato
Nose: Acceleration of collagen diseaase phenotypes by poly I:C: Genomic analysis
using recombinant Inbred strains MXC/lpr (W4-4).
The 14th International Rheumatology Symposium・ April 17-20, 2005, Yokohama.
11・ 森士朗,張明才,小野栄夫:マウスFl世代で出現する軟骨増殖骨化性・強直性 足関節症の遺伝メカニズム(P-28):第2回日本病理学会カンファレンス,日本病理 学会カンファレンス2005道後一免疫難病-の新たな挑戦. 2005.7.29-30.松山 12・ 森士朗,張明才,小野栄夫:マウスFl世代に出現する強直性足関節症の病 理・遺伝解析(5)第15回 日本リウマチ学会 北海道・東北支部学術集会 2005.9.30.-10.1.仙台
13・ Shiro Mori・ Ming-Cai Zhang, Hiroshi Furukawa, Masao Ono: A unique genetic control for the onset of ankylosing disorders in mice by the two non-MHC susceptibility loci (1-A-W1-22-P)第35回 日本免疫学会総会・学術集会,
2005.12.13-15.横浜
14. 城戸幹太,高橋雅彦,青井あつ子,鈴木麻衣子,小玉哲也,森士朗,古川
宏,小野栄夫:マイクロバブルを用いた脊髄-の遺伝子導入法の開発(17)第
33回日本歯科麻酔学会総会2005.10.27∴10.28.鹿児島
研究成果
本研究の目的は、現在、マウス-ヒト相同染色体領域からのヒト相同遺伝子の同 定が可能であること、関節炎の発症を規定する遺伝子群が存在すること、勝原病病変 発症の臓器特異性を規定する遺伝子座が存在すること、勝原病の病理組織学的な病像 を規定する遺伝子群が存在する可能性があることなどのこれまで明らかとなった研 究結果を基に、我々が作出した新しい関節リウマチ(RA)モデルマウスを用いて、 RA の顎関節における病態および疾患感受性遺伝子の解析を試み、RAの顎関節病変の早期 診断、予後判定、治療法の開発などに寄与することである。 これまで我々は、勝原病好発系MRL/lprと嫌発系C3H/lprマウスを交配した MRL乃prx (MRL/lpr x C3HApr)Flマウスに足関節の腫脹を示す個体を見出し、この N2マウスを始祖とする兄妹交配系のF44世代から10世代以上にわたり顕著に足関 節腫脹を示す個体を選択的に交配させ、早期に関節強直を自然発症する近交系マウ スMcH-1py/1pT湖1を樹立した。マウスの顎関節においては、 osteophyteの形成が認 められ、顎関節疾患の新たなモデルとして期待できる。 さらに最近、 MRL/1prマウスのリンパ節腫脹を抑制する突然変異を見出し、その 遺伝子を同定したが、このマウスとC3H系マウスのFlに関節強直が誘発されるこ とが明らかとなった。これらのマウスの関節病変の病態解析の結果、この関節病変は、 肉眼的に高度の腫脹,変形を呈し、顕微所見では、関節周囲の腺組織や関節腔内に、 著明な軟骨増生および骨化を認めた。また、この関節症に特徴的な遺伝様式は、常染色 体優性感受性遺伝子座とY染色体にリンクした遺伝子座によることが示唆された。さらに、こ の関節症を誘発するマウスの滑膜病変を規定する遺伝子座を検討したところ、このマウスの 滑膜病変は、上記の軟骨増生および骨化を規定する遺伝子座とは異なる遺伝子座に規定 されていることが明らかとなった。 以上に、これまで本研究課題において、我々が得た研究成果の概要を述べたが、これら の研究成果をまとめた論文を次項以後に示した。 7TOUR : Tohoku University Repository コメント・シート 本報告書収録の学術雑誌等発表論文は本ファイルに登録しておりません。なお、このうち東北大学 在籍の研究者の論文で、かつ、出版社等から著作権の許諾が得られた論文は、個別にTOUR に登録 しております。 TOUR http://ir.library.tohoku.ac.jp/