• 検索結果がありません。

〈論文〉程度表現の意味論

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "〈論文〉程度表現の意味論"

Copied!
23
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)程度表現の意味論 潰本秀樹. 1 .t ; tじめに 程度表現とは、何らかの段階性を持つ述語を修飾し、その述語の持つ 意味特性のより寓い程度での適応を示す強意的作用(q u a l i t a t i v ed e g r e e. i n t 叩 s 助i n ge f f e c t:例えば「とても安い」の「とても」の作用)か、あ u a n t i t a t i v ed e g r e e るいは述語の持つ意味特性の量的程度を示す作用(q 妊e c t:例えば「もっと評価する」の「もっと」の作用)を持つ i n c r e a s i n ge ,b ,c)、動詞(l d ,e ,f )、動詞派 ものをいう 1。修飾する対象は形容詞(1a. 生形容調(1g ,h )、複数可算名調( l i )、不可算名詞(日)に及ぶ。イタリツ クが程度表現であり下線を施した語が修飾対象である。また日本語では程 度表現を太字、修飾対象に下線を施している。このようにこの小論では外 国語の例文に対する日本語の訳は単に意味を示すだけではなく、対応する 日本語の例示にもなっている点に注意されたい。. ( l ) a . JohnisaMηinte 出g e n tm飢. (ジョンはとても知的な人だ). b .K e n j i ’ sworki s田 g o o d邸 Taro ’ s . (健二の作品は太郎のものと同じくらい良い). c.T o s h i k oi sc l e v e r e r也 祖 h e rf a 出e ri nI i n g u i s t i 凶. (俊子は言語学では父より偉い). 【 8 9 ]. (1).

(2) d .J o h na p p r 芭c i a t e dK e i k o ’ sa d v i c em o r e也ans h e由。u g h t . (ジョンは敬子のアドバイスを彼女が思ったよりも評価した). e.Imuchr e g r e t t e dwhatIhadd o n et oh e r . (彼女にしたことをとても悔いている). f .K e i k o白 needal o ty e s t e r d a y .. (敬子は昨日たくさん踊った). g .K e n j iw部 muchp l e a s e dw i 也h e rp r e s 回 t (健二は彼女のプレゼントをとても喜んだ). h .T h i sa r 批l ei sw e l ldocum 回 . t e d .(この記事はよく文章化ができている) i.K e i k oh a sm any仕i e n d swhoh e l ph e rw i l l i n g l y . (敬子には喜んで助けてくれる多くの友人がいる). j.Shed o e s n ' thavemuchp a t i e n c e .. (彼女はあまり辛抱がない). これらの程度表現がどのような修飾対象をとるかという共起性を基準にし たタイプ分類が D o e t j e s( 2 0 0 8 )で提案されている。例えば Cタイプでは形 容詞、段階的動調、事態動調、不可算名調、複数名調を修飾対象にとるこ とができるが Bタイプは形容詞と段階的動詞を修飾対象にとれることにな る。意味よりも可能な修飾対象( I∼ V)による分布になっている点に注 意を要する。 表 1 程度表現の分布(仏):フランス語、(蘭):オランダ語、(伊):イタリア語 I I Aタイプ I Bタイプ I Cタイプ I Dタイプ v e r y ,a s ,e rI t e r r i b l y , I more,l e s s ,I ( 伊 ) 段階形容詞 I I I Eタイプ |(蘭)町g I e n o u g h , I abb 槌. t a n z a , 段階的動剥 al o t( o f )I |(仏)仕o p l a s s a i 画一 ( 仏 ) タイプ <蘭} b e a u c o u p | ( 蘭 ) v e e l Im 即位 事態動詞 l ' I( 伊 ) G タイプ N m o l t o , 不可算名詞 ロ10untam a 回n t o. 1. I F. I. J吋 V d. プ. Hm. 沼 田. 引 也. E. a胞 mm. V 複数名詞. タm. ( o f ). ( 伊 ). ( D o e t j e s2 0 0 8を参考にし、イタリア語の例を追加したもの o 例を追加した ため元のタイプ表示とは対応しない) [ 8 8 ] (2).

(3) ここで段階形容詞(g r a d a b l ea d j e c t i v e s )とは「高い」「大きい」などのよ. r a d a b l ev e r b s)とは うに段階性を持つ形容調を示す。また段階的動調(g 「評価する」「批評する」などのように、その質的程度(q u a l i t a t i v ed e g r e e ) が段階性を持ちうるものをいう。事態動詞(e v e n t i v ev e r b s )とは「歩く」 「泳ぐ」などのような行為動調で、行為が量的、累積的に進行はするが特に 完結性を持たないものを言う。 本論文の構成を述べる。次の 2節で上記の表 1の各タイプの振る舞いを 検討するが表 1には示されていない日本語の程度表現について分布特性と 意味の近似性の観点から分類を試みる 20 さらに日本語の程度表現の中で、 その共起状況を上記の他言語の場合と比較した場合、特有の振る舞いを持 つものを取り上げ分析する。 3節では他言語を含め、この様な分布の背後に ある意味論的制約についての試論を提示し、意味論的分析の可能性を検討 する。最後に 4節では総括を簡単に述べる。. 2 . 各タイプの程度表現 段階性は形容調独特の意味的特質であるように見られてきた。段階性に ついては確かに形容調が中核的なものと考えられるが、上述の表 1に示さ れるように、質的強意の程度表現に感応する段階性、また量的な程度表現 に応じる段階性をふまえて考えると多くの文法範略が段階性を持つことが 分かる。この節では各タイプの意味的特性を日本語の対応表現も含めて検 討する。尺度(s 四l e)の持つ性質に段階性は依拠し、さらに程度表現はこ れらの段階性の意味特性に適合するかどうかが共起可能性の背後にあるこ とが見えてくる。この点についても考察し次節の意味的分析の準備とする。 まず表 1の補足として日本語の程度表現を分類することから始めたい。. 【 8 7 ]. (3).

(4) 2 . 1 日本語の程度表現 前節の英語その他言語の程度表現に対応する日本語の程度表現をまとめ た表をあげておく。ここでの分類は分布特性によるもので前掲表 1のタイ プ分類に概ね対応している。日本語では対応するものがないタイプ A、E と Hは按いてある。 Oは適合、*は不適合、?は一応適合するが文法性判 断にゆれのあるものを示す。 表 2 日本語の程度表現の分布 B C すごい(すご さらに(さら く)、ひどい なる)、充分 (ひどく) な、. D F とても、同じ たくさん、 く、もっと、 多く より. I形容詞 美しい、 大きい. 0すごく美し 0さらに/充 0とても/同. E段階性 動詞 評価する、 ・ t aす. 0すごく評価 Oさらに/充 0とても/同. い、ひどく 小さい. *. *. *. 分に評価す る. 0ひどい痛み 0充分なピ] すごい痛み. *. じく/もっ と/より美 しい. じく/もっ と/より評 日価する E事態動詞 0すごく歩く 0さらに/充 I V?とても働 ?たくさん働 歩〈、働く ひどく歩く 分歩く く く 0もっと/よ ?多く歩く り働く. N抽象 ・ 物質名詞 美、痛み、 ピ}ル、. する、ひど くa t す. 分に美しい. G 山のような. 事. J レ、さらな. 官 S. 0たくさんの 0山のような /多くの美. る要求、. 要求、・山 のような痛 み. 要求 V可算名詞 トマト. 0すごいトマ 0充分な/さ ト ?ひどいトマ ト. *. らなるトマ ト. 0たくさんの 0山のような /多くのト マト. トマト. 上記の表での名詞の扱いについて注意されたい。日本語では名調の複数と. (4). [86].

(5) 単数も文法化された区別がなく、可算名詞と不可算名詞の区別もないもの と考えられてきた。あるいはまた、(2)で示すように、数量を示す時、助教 詞を使う点、では全て不可算名調的であるとの捉え方もある。しかし、下の ( 3 )を見れば「多数の」「多量の」とで後に来る名調を選択すること、また. 「 3個の」に続くのは可算性のある名詞に限られることから、日本語でも潜 在的には可算性・不可算性を認識していることは明らかである。「多くの」 のように抽象・物質・普通名調をまたいで修飾できる表現の存在や、単− 複の区別が文法化されていないため意識上で顕在化しないだけである。こ のため上記の表では I V (抽象・物質名詞)、 V (可算名詞)として分類した。 ( 2 )a.3b o t t l 田 o fbeer /3本のピール. b . 3cats/3匹の猫 ( 3 ) a . 多数の猫. b..多量の猫 C.. 多量の米. d . ・多数の米. e . 3個の小石 f . ・3個の砂利(c f .3キロの砂利) g . ・3個の米(c f .3個の米粒). 表 1に記載されているようにタイプ Aは英語では M η、民比較の屈折形. e rがここに分類される。屈折形態素は形容調にのみ付加されるのでタ 態素 イプ Aであり、意味的には同じ働きをする比較 moreがタイプCであるの は分布特性による。 moreに対応する日本語の比較を示す「もっと」、「より」 は分布的にタイプ Dになる。また日本語では「とても」、同等比較の「同 じく」が意味的にはタイプ A の英語の対応表現に近いが英語の A タイプよ りも修飾対象が広く、分布特性による分類ではタイプDになる。このため タイプ A には日本語の表現は対応しない。タイプ Bの「すごい」「ひどい」 e r r i b l yに近いが分布特性は大きく異なる。英語は I∼ は意味的に英語の t. 【 8 5 ]. (5).

(6) Eであるのに対し日本語では I∼ Vに及ぶ。従ってこのタイプのみ意味特 性を重視した分類になっている。タイプCは修飾対象範囲が I∼ Vと広い。 これは英語、日本語に共通する。タイプ Dは I∼ Eを修飾対象とする。タ イプFとGも修飾対象範囲はそれぞれE∼V、N∼Vであり日本語、他言 語ともこの範囲の修飾対象を持つ。 次節では以上の程度表現について英語のタイプ分類を基準にそれぞれを 詳しく見ていくことにする。 2 . 2 タイプ A. タイプ A の英語の程度表現 m η、a s 、erは形容詞(4 a ,c .d)を修飾し、 v e η は動詞から派生した形容調(4 b)を修飾できるが段階動詞(S a )や. 事態動詞(Sb )を修飾できない。もちろん名調(Sc )を修飾することも )にみるように動調派生型形容詞であっても できない。また m η は(5d needed 、p r a i s e dなどの修飾はできず代わりに muchが使われる。一方向η. に意味的に近い日本語の「とても」は分布上タイプ Dに分類されるが、形 容詞、動詞派生形容調、評価動詞、事態動詞を修飾しさらに v e η の修飾で d )の受け身表現の修飾も可能である。 きない(5. ( 4 )a.G e o r g ei sv e η t a l l .. (ジョージはとても背が高い). b.G e o r g ewas仰の w o r r i e dbyt h ed i a g n o s i s . (ジヨ}ジは診断をとても心配していた). c .G e o r g ew弱 t a l l e r白 血 K y o k o .. (ジョージは京子より背が高い). d.K e n j iwasasi n t e l l i g e n t踊 h i sf a せ1 e r .(健二は父と同じく知的だった) ( 5 )a.G e o r g emuch/ " v e ηappreciatedh e rk i n dr e m a r k .. (ジョージは彼女の親切な意見をとても評価した). b.K e n j iworkedal o t / " v e η. (健二は?とても働いた:文法性について(Sc )参照). c.K e i k oa t eal o to fI句eηorang , 田 . (敬子はたくさんのミカンを食べた) (6). [84].

(7) d.Thes u r v e yi smuch /・ v e r yc r i t i c i z e d( n e e d e d ,p r a i s e da p p r e c i a t e d ). (その研究はとても批判されている・必要とされている・ 称賛されている・評価されている). KennedyandMcN a l l y( 2 0 0 5 )や Kennedy(却町)では v e η と muchの共 起パタ」ンの違いを形容詞の関連する尺度の意味的性質の違いから説明し ている。 Kennedyらによれば形容調で段階性を持つものは次のように分類 できるという\. ( 6 )段階的形容詞(g r a d a b l 回)の分類 i.相対段階的(r e l a t i v eg r a d a b l 四 ). …. 両端開放(ho 也o pene n d s: e x p e n s i v e ,w o r r i e d ). i 絶対段階的(a b s o l u t eg r a d a b l e s ). ( 下 端 閉 鎖 … 伽e d :w e t , c i 批e d) 上端閉鎖(u pperendc l o s e d :d r y ,s t r a i g h t ) 両端閉鎖(b o t he n d sc l o s e d: aw 紅 e ,k n o w n ,w r i t t e n ) 段階的形容調は全て何らかの尺度(測度)に関係する。例えば t a l l .s h o r t であれば長さという尺度である。両端開放的とは下端、上端の限界がない. xp 阻 s i v e )」であればその価格 尺度に関連性を持つことを示す。「高価な(e に上限がなく、下端にも(物理的に組み込まれたような)限界性がないこ とを示す。下端閉鎖的とは、たとえば w e t (濡れている)であれば、湿り気 の尺度でゼロポイント以上であれば x i sw e t(湿っている)と言えるから (湿り気の)下端点に基準があることを示す。同様に上端閉鎖的とは上端点 に基準があることを示す。 d η (乾いた)であれば完全に乾いた状態を示す ので上端点が基準になる。さらに両端閉鎖的な絶対段階的形容詞 ( aware 、. known 、w r i t t e nなど)は下端にゼロポイント、上端に最大ポイントがあ り、例え l : fknown (知られて)であれば、「全く知られていないゼロポイン 幼 nown ) 」から「最大に知られている最大ポイント = (com ρl e t e l y ト(= u. 【 8 3 ]. (7).

(8) known ) 」までを意味的に包括しているということである。. KennedyandM c N a l l y( 2 0 0 5 )ではりe η は相対段階的形容調(7 a )との み共起し、 muchは絶対段階的形容詞のうちで下端閉鎖的な動詞派生形容. 5 a , d ) 、 (7 b )参照)とのみ共起すると述べている九また両端閉鎖的 調( ( な形容詞(7 c ,d)は w e l lが修飾するとしている。次の例で分布を確認され たい。 ( 7 )a.T a k a s h ii sVぽ y/ " m u c h / " w e l lr i c h .. b . 阻 so p i n i o nwasmud ♂v e r y / " w e l la p p r e c i a t e d C.. J o h n ’ sworki sw e l l / 0 m u c h / " v e r yknown.. d.K a t ei sw e l l/ " m u c h / " v e r yawareo fh i sl i e . ) 日本語では「とても」がこの m η (あるいは much )に近いがこれには 考慮が必要である。「とても」は本来「とてもかくても」という語の派生的 表現で「どうしても∼できない」という意味であった。これは芥川龍之介 の「澄江堂雑記」(大正 7 1 3年)にも言及がある。 「とても安い」とか「とても寒い」と云ふ「とても」の東京の言葉にな り出したのは数年以前のことである。勿論「とても」と云ふ言葉は東京 にも全然なかったわけではない。が従来の用法は「とてもかなはない」 とか「とてもまとまらない」とか云ふやうに必ず否定を伴ってゐる。 現在は肯定的強意として使われる「とても」であるが、「どうしても」とい う「質的判断」が意味的背景にあり、そのため段階的動調(「とても評価す る」)では容認できるが、事態動詞とともに使われる場合は何らかの質的評 価語が必要のように感じられる(下の(8 b , c )参照)。 ( 8 ) a . 武田君はとても賢い(賢明きの程度で高い)。. b . 武田君はとてもよく働く(仕事の質の程度で高い)。. (8). [82].

(9) C.. ?武田君はとても働いた/;歩いた/話した。(何の程度?). ( 8 c )を容認する日本語話者も多いがその場合、「良く」「長く」「鵠舌に」. というような評価需を補って解釈しているように思われる九現時点では 「とても」は量的累積性の強意の使用に関して制約が感じられるが、やがて この制約も意識されなくなるだろう(表 2で、「とても」に下向きの矢印を 付けたのはこの意味である)。 英語の v e r y / m u c h / w e l lは関連する尺度の意味的性質で棲み分けているこ とを上で見たが、それでは日本語の「とても」は両端開放 ( v e η のみ使用 muchのみ使用可)、両端閉鎖 ( w e l lのみ使用可)の棲み 可)、下端閉鎖 (. 分けとは関わっているのだろうか。この聞いには極めて興味のある特性が 観察される。. ( 9 ) a . この時計の値段はとても高い。. (高い= e x p e n s i v e;両端開放型). b . このラインはとても曲がっている。(曲がって= b e n t:下端閉鎖型) C.. 京子の作品は・とても/よく知られている。 (知られて=known:両端閉鎖型). d . 健史は・とても/よくそのことに気づいている。 (気づいて=a ware:両端閉鎖型) e r yや muchとは違い、両端開放型、下端閉鎖型 上で見るように、英語の v. の区別を「とても」は乗り越えてしまう。しかし面白いことに両端閉鎖型 については英語と同様の制約が作用するようである。(9 c )は「よく知られ ている」の方が良いと思われる。(9 c )を容認する人は「とてもよく」の補 充的解釈であり、これは「肯定解釈」の倒である。(9d)は「よくそのこと に気づいている」とすべきである。従って、「両端閉鎖型は『よく 』 と共起 する」とすれば英語の分布と対応していることになる。 2 . 3 Bタイプ. 英語の t e r r i b l y (恐ろしく)やオランダ語の e r g (ひどい)がこのタイプ 【 8 1 ]. (9).

(10) である。これらは形容詞と程度動詞を修飾する。 加 〕a .I ’ mt e r r i b l ys o ロy . (本当にすみません). b.Shel o o k st e r r i b l yh a p p y .. (彼女はすごく幸福そうに見える). c.Shem i s s e dhimt e r r i b l y . (彼女は彼のいないことをひどく寂しがっていた). d." J o h nw a l k e dt e r r i b l y .. (?ジョンはひどく歩いた). e.Ih a dat e r r i b l ep出1inmys 旬m a c h . (私はひどい腹痛が起こった) 本来、「恐ろしい」という否定的意味合いを持つ表現が程度の強意に使われ ている。元来の否定的意味合いを残しながらも(10b)のように h a ρ 卸と いうような肯定的表現の意味強化にも使用される。また(1 0 c )のように. t e r r i b l yは形容調だけではなく段階的動詞 ( m i . 町「寂しがる」、これには程 度が関与)も修飾できる。ただし( 1 0 d )のように事態動詞とは単独では共 起できない(c f .J o h nw a l k e dt e η i b l yf a s t )。また形容調の t e r r i b l eは抽象的 O e 。 ) 名詞を修飾できる( l. 否定的な意味を持つ表現が、その本来の意味が薄れるとともに、程度の 強さのみが取り出され、強意表現として使われる例は多くの言語に見られ る。フランス語の a t r o c e m e n t( d e smursa t r o c e m e n tb l a n 四:恐ろしいほ ど白い壁)、イタリア語の s p a v e n t o s o (Hofames p a v e n t 田a :恐ろしいほど 空腹だ)などは否定の意味合いを残しながらも強意表現として使用されて いる。日本語ではもちろん「ひどく」、「すごく」がこれに該当するが、「す ごく」は英語に比べ共起する対象が広い。「ひどく」は未だに「ひどく痩れ た」のように否定的意味合いを残している。一方、「凄し」が「ぞっとする ほど恐ろしい、鬼気迫るようである(日本国語大辞典)」という原義である ことはほぼ意識に上らない。そのため「ひどくうれしい」に比べ「すごく うれしい」の方が受容度において高いように思われる。また口語的ではあ るが「これはすごいトマトだ」のように、ある物の性質(トマトであれば 味、大きさ、色など)を評価する場合にも使用できる。英語では名詞を修. ( 1 0 ). [80].

(11) 飾する場合には t e r r i b l eρ a i n (ひどい痛み)のように否定的文脈に限られる. ( c f .t e r r i b l yhappy )。「すごい」と t e n ゆかを比較する限りでは「すごい」 の方が否定の意味の漂白(b l e a c l 也i . g )が進んでいると言ってよい。 さてここで(10a )に対応する日本語が「すごくすみません」や「ひどく すみません」ではなく「本当にすみません」となるのかを考えてみたい。 強意表現の「すごく」は「ひどく」よりも本来の否定的意味合いの漂白が 進んでいるとはいえ、未だにその感覚は無になったわけではない。そのた め修飾対象が肯定的意味であれば強意的に作用できるが「すみません」は 「すまない」のだから否定的であり、この場合否定的要素に匝害され強意的 用法には使用できないと恩われる。しかし現状でも「すごく申し訳なく思 う」は容認可とする人が多いことからすれば「すごく」の強意用法は(「ひ どく」よりも)拡大していくと予想される。. 2 . 4 Cタイプ C タイプの程度表現は形容詞から、段階的動詞、事態動詞、抽象名調、. 可算名詞まで全ての範囲 (I∼ V)までを修飾できる。英語の moreやイタ リア語の m o l t oなどが分布特性からこれに分類される。これらの moreや m o l t oは質的なより高い程度(l l a ,b ,d .1 2 a .b ,d)を表現したり、量や距離 のより大きいこと(l l c , e ,1 2 c ,e)を表したりする。イタリア語の m o l t oと t a n t oは形容詞としては量の多さを、副詞としては強意表現として働き分布 特性上は不可算名詞と抽象名調( N)、可算名詞( V)をも修飾対象にとれ る 。 ( 1 1 )a.J o h ni smoreen 出u s i 踊 白 血m h i sb r o 也e r .. (ジョンは兄よりもっと熱心だ). b.K e n j i却 炉e c i a t e dK e i k o ' sad 計四 m ore也ans h e也ought (健二は敬子のアドバイスを彼女が思ったよりもっと評価した). c . Le ピ swalkm o r e .. (もっと歩こう). d.Wen e e dmorep a t i e n c e .. (もっと多くの忍耐が必要だ). 【 7 9 ]. ( 1 1 ).

(12) e.Canyous e l lmoreo r a r 沼田?(もっと多くのオレンジは売れないですか) 自 2 )a.G i o v a n n ie m o l t ogen 甘l e .. (ジョパンニはとても親切だ). b.C a r l osemprev a l u t am o l t oi ll a v o r od iG i a n n i . (カルロはいつもジャンニの仕事をとても評価する). c.F r a n c e s c ohal a v o r a t om o l t oo g g i . (フランチェスコは今日とても働いた). d.G i o v a n n inonham o l t af o r t u n a . (ジョパンニは多くの幸還を持っていない=幸運に恵まれない). e.C is o n om o l t ir a g a z z i .. (たくさんの子供がいる). 〕 但 a.S a t o k owaso l de n o 昭 ht ot r a v e la l o n e . (聡子は一人旅ができるに充分な年齢だ). b.Kentae x e r c i s e senought obei ng oods h a p e . (健太は健康を保つに充分な運動をしている). c . Wedon ’ ta p p r e c i a t eenough也epowero fo u r也o u g h t s . (我々は自分の思想の力を充分に評価していない). d.Id i 也1 ’ tpayenougha t t e n t i o nt omyd a y sf l o a t i n gb y . (私は過ぎ去る日々に充分な注意を払わなかった). e.Weh a v eenoughe 殴r ;f o rf i v eo m e l e t s . (5人分のオムレツに充分な卵がある). 上の闘のように、「充分な」を示す enoughも形容詞、段階的動詞、事態 動詞、抽象名詞、可算名詞を修飾できる。日本語では「充分(な)」「さら なる」が分布的にタイプ Cに対応し、それらは英語と同様に形容詞、段階 動調、事態動調、名詞を修飾できる(帥の日本語訳参照)。. 2 . 5 Dタイプ イタリア語の「充分な」「大いに」の意味を持つ a b b a s t a n z aや a s s a iは名. ( 1 2 ). [78].

(13) 詞を修飾できない。 Dタイプ表現が名詞を修飾できないことは、量や質の 程度を示す m o l t oがその役回りをはたしているためであろう九日本語では. Dタイプにはその分布特性からみて「とても」、「同じく」、「もっと」、「よ t a n z a同様、形容調、段階的動調、 り」が入る。これらもイタリア語の ab白s. 事態動詞を修飾できるが名調は修飾できない 7。上述の(l l d ,e)の日本語 訳でも、「もっと多くの忍耐」「もっと多くのオレンジ」のように直接的に 名詞の示すものの量を強意的に表現できず、「多くの」を必要としそれを強 めている。. 2 . 6 Eタイプ このタイプには英語の al o t( ψ、フランス語の beaucoゆが来る。これ らは形容調とは共起しないが動詞、名詞を修飾する。下の倒に見るように 動詞の修飾では「行為動詞の示す量的部分の強意(1 4 a )」、「段階動詞の持 つ質的部分の強意( 1 4 b )」の両尺度の強意に使われる。 ( 1 4 )a.Kenw orksal o t. (ケンはたくさん/?多く. 働く). b.Hea p p r e c i a t e sh e rk i n dr 四 国r kal o t (彼は彼女の親切な意見をとても/*たくさん評価する) C.. T a k a s h ih 田 al o to fm o n e y . (隆はたくさんの/多くのお金を持っている). d.K e i k oh a sal o to f企i e n d s .(敬子はたくさん/多くの友人を持っている) 上記制の日本語の訳文に明らかなように日本語では「たくさん」が al o tに 近いが、これは数量的に多いことが原義であり、質的な程度が高いことを o tとは異なり段階的動調とは共起できな 描写できない。そのため英語の a l. い(*たくさん評価する、*たくさん批評する)。一方、事態動調では事態 の進行が量的蓄積として捉えられるので「たくきん働く、歩く、泳ぐ」の ように容認可能である。そのため分布特性からみて日本語には Eタイプは なく、「たくさん」は次の Fタイプに分類することにする。. 【 7 7 ]. ( 1 3 ).

(14) 2 . 7 Fタイプ 表 lによればこのタイプはオランダ語の v e e l(とても)があげられてい る 。 D o e t j e s (初回)はさらにドイツ語の v i e l(とても)もこのタイプと判 断している。これらは形容調、段階的動調を修飾できず、累積的、量的な 合意を持つ事態動調や名詞と共起する。 恒 〕 a.v e e lw a n d e l e n( w剖kal o t ). b.v e e lb o e k e n( al o to fb o o k s ) C.. ・ v e e lw a a r d e r e n( a p p r e c i a t eal o t ). e ) d." v e e la a r d i g( v e r y凶c ( D o e 句.白羽凶:1 3 0 ) 貯 ,α 2渇)はこの分布は Bタイプとの「棲み分け(Elsewhere D o e t j e s( 1 9. C o n d i t i o n )」の結果であると解説している。 日本語では上の凶の訳文に明らかのように、形容詞と段階的動詞とは共 起できず事態動詞と名調を強意的に修飾できるものとして、「たくさん」と 「多く」がある。これらは分布からみて Fタイプに分類される。英語の G タイプの manyとは異なり、不可算名詞とも共起できる。またオランダ語 の場合とは異なり Bタイプとの「棲み分け」現象は起こっていない。 ( 1 . 6 )a.健二はたくさん(多く)歩いた。. b . たくさんの(多くの)トマト/美/幸せ/米 また一見すると段階的動調と共起可能と思える場合がある。下の例を見 られたい。 間加藤先生は機会を見つけ児童たちをたくさん褒めるようにした。 (解釈 1 )Katot r i e dt op r a i s emanys t u d e n t se v e r yt i m ehehada. c h a n c e .. ( 1 4 ). [76].

(15) (解釈 2 )Kato位 i e dt of i n d部 manyc h a n c e sa shec o u l dandh ep r a i s e d. h i ss t u d e n t s . (解釈 3 ) ?K a t o甘i e dt of i n dac h a n c ei nw hichhep r a i s e dh i ss t u d e n t s. al o t 日本語では数量詞は遊離可能であることは知られている(奥海 1 悌3 )。「た くさん」も数量調と考えられるので、解釈 lは「たくさん」を「たくさん の児童たちを」という「を」格の名調句からの移動と捉えたものである。 解釈 2は「たくさんの機会を」という「を」格の名詞句からの移動とみた ものである。解釈 3は「たくさん」が「褒める」を修飾しているとする解 釈であるが容認度が他の解釈より落ちるように思われる。. 2 . 8 Gタイプ 「やまのような」を示す am o u n t a i no f がこのタイプの代表であるが他に. as t a c ko f , ah e a po f , 、a ρi l eo f 等がある 8。この英語の表現は名調のみ修飾 するが名詞は可算名詞、不可算名詞でもよい。 ( 1 8 )a.am o u n t a i no fb o o k s/t o m a t o e sIdreams. (山のような本、トマト、多くの夢). b.am o u n t a i no fi l l e 伊l i t y/d e s p a i r/l o v e (多くの不法性、絶望、愛) c . ah e a po f仕 o u b l e s/p o t a t o 田/c l o t h e s (山のような困難、ポテト、服). d . ah e a po fm白 r t a i n t y/l o v e. (多くの不確かさ、愛). 可算名詞がくると物品を積み上げた山のような形状が念頭に浮かぶ。しか しEタイプの a l o t(胡も本来は「一組」「分け前」の意味を持っていた がこれが意味的に謀白され、「たくさん」の意味になり、やがて名詞以外に 動詞も修飾できるようになっていったことを考えると、 am o u n t a i nも不可 算名調とともに使われる場合には「山の形状」は既に話者の意識から消去. 【 7 5 ]. ( 1 5 ).

(16) されていると思われる。一方、日本の「やまのような」は直喰であり「山」 の形状に関する意識は漂白されていない。先にも述べたように日本語では 可算、不可算の区別が文法化されていないが、「多数・多量」、「 3つの」な どの数量表現の分布から潜在的には可算、不可算の区別は了解可能と考え られる。可算・不可算を前提にすると、「やまのような」は可算名詞に多く 使われる傾向を持つ。しかし英語では可算名詞とされる dreamsのような語 についても「山のような夢」は奇妙に聞こえる。. 側a . 山のような本、トマト、服、. b . 多くの(・山のような)不確かさ、愛、絶望、違法性、. 3 . 試酪程度表現の意味の形式的分析 以上の議論では程度表現の個別特性(i d i o s y n ぽ 酪y )を見てきた。程度 表現は段階性に働きかけるものであるが、被修飾対象 I∼ Vに段階性があ るとして、なぜ表 l 、表 2で見られるような分布の違いが存在するのかが 理論的に説明されねばならない。これらの分布特性を単に意味的個別性 ( i d i o s y n c r 錨 y )に還元するのであれば意味論的説明ではなく辞書的解説と. いうことになってしまう。そこでこの節ではいくつかの程度表現をとりあ げ、その意味を形式的に表示しそこから分布特性の意味論的解釈を導き出 すことを試みる。 3 . 1 段階形容聞と程度表現. ここでは段階性が重要な概念である。先に、「程度表現とは何らかの段階 性を持つ述語を修飾し、その述語の持つ意味特性のより高い程度の適応状 態を示す強意的作用か、あるいは述語の持つ意味特性のより大きな量的程 度を示す作用を持つものをいう」と述べた。程度表現は修飾対象として何 らかの段階性を持つ述語を前提にするのであるから、先ず段階性を持つ述 語の代表として段階形容詞を取り上げよう。 Kennedy& McNally ( 2 0 0 5 、 ). ( 1 6 ). [74].

(17) Kennedy ( 2 0 0 7 、 ) Kennedy& L e v i n(却凶)では段階形容詞を次のように. 定義している。. 帥a . 段階形容調はその項を抽象的な測度表示、すなわち程度(degree) に投射する。. b . ある次元に関して全順序的な程度 dの集合は尺度(配a l e)を形成す る 。 この規定に基づくと存在論的には個体 e 、真偽値じ可能世界(w=s×i )の 他に程度 dを含めると言うことになる。また段階形容詞は測度関数でタ イプ<e ,d>と捉えることを提案している九この意味は例えば段階形容調 e x p e n s i v eならば個体の集合に属する物を取り出し、それを費用の尺度の程. 度に対応付ける関数とするのである。 刷物の集合(s e to fe n t i t i e s ). 程度の集合(s c a l e :s e to fd e g r e e s ). 測度関数としての段階形容詞は、ある物を項にとるとそれについて程度を x )というおなじみの関数表記をそのま 返す関数と捉えるのだから、 y=f( ま採用すれば、 d=f( x )と表記できる。ここで fが段階形容詞であり対象 物 xについて形容調の関与する尺度でその程度 dを返すということになる。 同段階形容詞の意味. I IAll=lxヨd[A (x)=d ] (A:段階形容調). 次に考えるべきことは比較基準である。形容詞の原級(p叩 i t i v e )を含む 文、例えば「この店のコーヒーは高い」は文脈上で適切な比較基準(ds:. 【 7 3 ]. ( 1 7 ).

(18) s t a n d a r dd e g r e e )を考え、「比較程度よりこの店のコーヒーの値段の程度が. 高い」という主張と理解されるだろう。これは下の闘に示される。もちろ ん比較基準は文脈に大きく依存する。地域によってもコーヒーの価格に関 する比較基準は異なるだろう。また競馬の騎手とパスケットポールの選手 では「背の高さ」の比較基準は大きく異なるだろう。しかしここでは議論 の単純化のため簡略的に表記していると理解されたい。 伺この店のコ}ヒ}は高い(= T h i ss h o p ’ sco 宜e ei se x p e n s i v e ) e x p e n s i v e ’ ( 也i ss h o p ’ sc o f f e e )>d s. 次に比較級や同等比較はどうなるだろうか。「この店のコーヒーはあの店よ り高い」、「この店のコーヒーはあの店と同じくらいだ」では、. 倒a .e x p e n s i v e( t h i ss h o p ' sc o f f e e )> 明e n s i v e( t h a ts h o p ’ sc o f f e e ) b .e x p e n s i v e( 也i ss h o p ' sco 丘e e )孟 e却 e n s i v e( t h a ts h o p ' sc o f f e e ). になるだろう。同等比較は「∼と同じかそれ以上」の意味であるから、記 号的には孟をつかう。ここで Kennedy& McNally ( 2 0 0 5 )に従い、程度表 現を持つ形容詞の意味を一般化してみよう。 R ( d )を形容詞の程度項 dに. 帥 , .. 関わる制約(比較級なら d曲 叫 ’Bcoffee >dthat. )とし、 Pを程度表現. c o f f e e. IDeg(p)I Iとは程度表現 Pの意味ということである: とする。 I 伺 I IDeg(p)I I= , l .G, l .xヨd [ R ( d ) 八G(d)( x ) ] この一般式の読み方は、程度表現に応じて R ( d )の部分が変わるというこ とである。 3 . 2 程度表現 v e r y 、「とてもJ 、m o t t oの分布の遣い. 以上の議論を基盤に程度表現の代表としてタイプ A の ωη、タイプ D. ( 1 8 ). [72].

(19) の「とても」、さらにタイプ Cの m o l t oを取り上げ考えてみよう。程度表現 M η と「とても」、さらに m o l t oは段階形容詞を修飾する場合、程度 dが比. 較対象の d sより大きく越えるほど高いことを示す。ここで「大きく越える 程度に高い」を記号〉で示すことにすると上の帥式の R ( d )は d>dsで 表現される。そうすると℃o f f e ea t出i ss h o pi sv e ηexpensive ,,、「この店. f ea lq u s e t ob a remoltoαro ”は全て次の のコーヒーはとても高い」、℃a ように形式化される。 倒 i.I IDeg(totemo)I I=. lG. lXヨd [ d > d s / ¥ G ( d )( x ) ]. i.v e r ye x p e n s i v e=. lG. lxヨd [ d > d s / ¥ G ( d )( x ) ]( 偲P田 s i v e ' ) Gの挿入. =. Axヨd [ d > d s / ¥ e x p e n s i v e '( d )( x ) ] i i i .C o f f e ea t出 ss h o pi sv e . 叩 e x p e n s i v e. = ; .xヨd[d>ds/¥expensive ( ’d )( x ) ]( t h i s凶 op ’ sc o f f e e ) xの挿入. = ヨd[d>ds八 位P阻 . s i v e '( d )( 也i ss h o p ' sc o f f e e )] 上の(2 6出)の読みは、「この店のコーヒーの高価さの程度は dであり、 それは標準的なコーヒーの価格の程度を大きく越える」という意味である。 この形式化は形容詞 mη、「とても」イタリア語の m o l t oでも同じであり、 ある対象が関与する段階形容調の適合性の段階において標準的段階を大き く越えることを示していることは共通である。それでは次になぜ mη、「と ても」、 m o l t oで分布の差が生じるのかを考えたい。ここで再度、これらの 程度表現の分布を確認しておく。. 【 7 1J. ( 1 9 ).

(20) 。~. v e r y (タイプ A) とても(タイプ D ) m o l t o (タイプ C ) m o l t oa l t o v a l t a r em o l t o I a v o r a r emol 旬 m 事態動調 •very work ?とても働く (とてもたくさん働く) m o l t ab i r r a ・とてもピール N 不可算名詞 •very beer (多くのピール) m o l t ir a g a z z i h i l d r e n ・とても子供たち V 可算名詞 •very c (多くの子供) 修飾対象. I 段階形容詞 veryt a l l とても背が高い v a l u a t e∼ とても評価する I 評価動詞 •very e. この論文の最初で「程度表現とは何らかの段階性を持つ述需を修飾し、そ の述語の持つ意味特性のより高い程度での適応を示す強意的作用か、ある いは述語の持つ意味特性の量的程度を示す作用を持つものをいう」と述べ た。その観点に立てば、段階形容調以下 I∼ Vの文法項目は程度表現の修 飾対象であるからには何らかの段階性を持っているはずである。その可能 な段階性は、 ( i)意味特性のより高い程度での適応を示す強意的程度表現に感応する性. 質のものか、あるいは (証)意味特性の量的程度に感応するもの のどちらかでなければならない。 ここで程度表現の被修飾要素の持つ段階性の意味的性質を詳しく考察し てみよう。段階形容詞の定義を再度下に述べておく。そこから評価動詞そ の他の段階性との比較を行うことにする。 同(=帥). a . 段階形容詞はその項を抽象的な測度表示、すなわち程度(d e g r e e ) に投射する。. b.ある次元に関して全順序的な程度 dの集合は尺度(配a l e)を形成す る 。. ( 2 0 ). [70].

(21) 段階形容詞はその意味が規定する次元(例えば「賢い」であれば賢さの次 元、「やさしい」であればやさしさの次元)で、各項について測度表示、つ まり程度を与えその可能な程度の集合が全順序的な尺度となる。つまり段 階形容詞の段階性は対象に対するその形容詞の意味的妥当度の集合という ことである。これに近いのが評価動詞であり、「評価する」「尊重する」の 意味を持つ動調類である ( e v a l u a t e 、ゆi f ) r e c i a t e 、v a l u t a r eなど)。しかしこ れらの評価には下の例文でみるように質的側面だけではなく量的側面が関 与する。. 同 a.Theye v a l u a t e dmyh o u s ea t8 0 畑 0d o l l a r s . (彼らは私の家を 8万ドルと評価した). b.Hea p p r e c i a t e dh e rremarkonh i sworkv町 ym u c h . (彼は作品に対する彼女の意見をとても評価した) c.I ls u om o b i l i l i oe s t a t ov a l u t a t oc i n q u em i h o n i .. (彼の家具は反泊万に評価された). ( 2 9 a , c )は e v a l u a t eが量的な段階性を持つことを示す。また(2 9 b)では 峨p r e c i a t eという動調が量的な意味を持つ v e η muchという表現を修飾し. ている。評価動詞は量的評価をも表すとすれば M ゆが評価動詞を修飾でき. e r yの機能が質的強意に限定されるからであると説明できる。一 ないのは v 方「とても」は評価が質的側面のみならず量的側面に及んでも修飾できる とすれば「私は彼の作品をとても評価する」が容認されることが説明でき る。しかし事態動調では、たとえば workであれば時間経過とともに累積す る仕事の量的性質が先ず中心に考えられる。このため「とても働く」は質 的要素が関与せず量的な段階性のみが関わるため文法性判断には疑義が生 じる。イタ l Jア語の mo加は量的な段階性にも完全に適用可能であるため 評価動詞、事態動調、不可算名詞、可算名詞の全てに置いて修飾可能であ る。このように段階性を闘のように定義すれば質的強意にのみ作用する程 度表現、質的、量的の両方に作用する程度表現という意味的性質がそれぞ. 【 6 9 ]. ( 2 1 ).

(22) れの修飾可能性分布に関与することが理解されるのである。. 4 . 総括 この小論では英語、日本語その他言語の程度表現の修飾可能な要素の分 布を確認し、さらにその分布の背後にある段階性の意味的性質に言及した。 程度表現は何らかの段階性を意味として持つ要素でなければ修飾できない。 そこで程度表現の定義である( i )意味特性のより高い程度での適応を示す強 意的程度表現に感応する性質のもの、あるいは(証)意味特性の量的程度に感 応するもの、という規定と被修飾要素の段階性の意味的性質である( i )質的 段階性(形容調)のみを持つ、(i)質的段階性と量的段階性を併せ持つ、(出) 量的段階性のみを持つ、という特質との相互の意味的相性で分布が決定さ れることをみた。 注. 1 段階表現には、もちろんマイナス方向への弱化、量的減少を示す段階表現も含める。 2 訳文に現れる日本語表現の多くが英語その他の言語と同タイプになっていないのは日 本語の分布特性による。 3 従来の見方では(4) のr e l a t i v eg r a d a b l e sのみが g r a d a b l eであるが Kennedy ( 1 鈎9 )は a 凶o l u t eg r a d a b l e sb段階的としている。相対段階的形容詞は原級では文脈に依存した 比較クラスを基準として必要とする(K e n j ii s切且(釦1 o n gk i d so ft h e関 meage))が絶 対段階形容詞では比較基準が意味の中に組み込まれており文脈に依存しない(Thef l o o r i s閉 じ 百el i n ei ss t r a i g h t ロ ) 4 muchは出現範囲が極めて限定的で否定対極表現としての性質を持ち肯定文ではあま り使われない。このため表 11 こは表記されていない。また下端的形容詞でも通常の形容 f .muchp r a i s e ds p e e c h ・ ,muchwet。 ) 詞とは共起しない(c 5 文脈から肯定的解釈を補充することは日本語ではよくある。これを「肯定的解釈原則」 と名付けておくことにする。 6 例文(l l d )の訳文を「もっと忍耐が必要である」、(I l e )を「もっとオレンジは売れ ないですか」としていないのは「もっと」は動詞を修飾し英語の moreのように名詞を 修飾できないためである。同様に( 7 ) のm o t t oの例の全てに「とても」古切応していない のも「とても」は(m o l t oのようには)名詞を修飾できないからである。 7 「より働く」のように「より+事態動詞」は「もっと+事態動詞」よりも容認度が落ち る 。. ( 2 2 ). [68].

(23) 8 母語話者の判断では s t a c k 、heap、p i l eは置き換え可能だが銃犯kが一番整頓された積 載物の集合をさすという。. 9 K四 1 e d y& McN 凶yでは標準的な規定として段階形容詞を程度と個体の集合の関係と. e ,t>>を与えている。この論文では簡便的で直観理解の容易な しそのためタイプ<d<. e .d>としているが原理的な説明はいずれにせよどちらにも適合する。. く. R e f e r e n c e s y( 却0 8 ) “A d j e c t i v 凶 組dd e g r e em o d i . f i c a t i 叫” A d j e c t i v e sanda d v e r b s ,ed D o e t j e s .T, 幽l 凶s eMcNallyandC h r i s t o p h e rK e n n e d y ,1 2 3 1 5 5 ,OxfordU n i v e r s i t yP r e s s ,New byLo Y o r k . 笈Y J 7 ) “Vaguen 凶 sa ndGrammar , 廿1 esem 組 . t i c so fr e l a t i v eand K e n n e d y ,C h r i s t o p h e r( 四 fL i n g u i s t i c sandP h i l o s o p h y3 0 ,1 4 5 a b s o l u t eg r a d a b l ea d j e c t i v. K e n n e d y ,C h r i s 旬i p h e r ,andL o u i s eMcNally( 2 0 0 5 ) “S c a l es t r u c t u r e ,d e g r e em o d i f i c a t i o n , 組 d也es e m a n t i 凶 o fg r a d a b l ep r e d i c a t e s , ”L angi 昭 e8 1 ,3 4 5 3 8 1 K町 田dy,Ch 由 同h e r , 組dB e 也L e v i n( 2 0 0 8 ) ‘Me 岱 u r eo fc h a n g e :Thea d j 回 v a lc o r eo f d e g r e ea c 凶e v e m e n t s , • Adj 制 i v e s側 da d v e r b s ,edbyLo 凶s eMcNallyandC h r i s t βp ,h er 5 6 1 8 2 ,OxfordU凶v e r s i t yP r e s s ,NewYork K e n n e d y ,1 市 町 加 Kennedy( 却1 3 ) “Degreev s .mannerw e l l:A 叩 M c N a l l y ,L o u i s eandCh s t u d yi ns e l e c t i v eb i n d 也g , "Advancesi nG e n e r a t i v eL e x i c o nT h e o r y ,e d .byJames ぽ, Dぽ d r e c h t P u s t e j o v s k y ,2 4 7 2 6 2 ,S p r i n g. 奥書官敬一郎( 1 蜘)「数量詞移動再審者」『人文学割 1 6 0 ,東京都立大学人文学部, 1 剖.. 【 6 7 ]. ( 2 3 ).

(24)

参照

関連したドキュメント

はある程度個人差はあっても、その対象l笑いの発生源にはそれ

「聞こえません」は 聞こえない という意味で,問題状況が否定的に述べら れる。ところが,その状況の解決への試みは,当該の表現では提示されてい ない。ドイツ語の対応表現

しい昨今ではある。オコゼの美味には 心ひかれるところであるが,その猛毒には要 注意である。仄聞 そくぶん

いかなる使用の文脈においても「知る」が同じ意味論的値を持つことを認め、(2)によって

従って、こ こでは「嬉 しい」と「 楽しい」の 間にも差が あると考え られる。こ のような差 は語を区別 するために 決しておざ

うのも、それは現物を直接に示すことによってしか説明できないタイプの概念である上に、その現物というのが、

と言っても、事例ごとに意味がかなり異なるのは、子どもの性格が異なることと同じである。その

本論文での分析は、叙述関係の Subject であれば、 Predicate に対して分配される ことが可能というものである。そして o