『複言語・多言語教育研究』 日本外国語教育推進機構会誌 No.6 (2018) pp.152-164
高 校 スペイン語 既 習 者 の外 国 語 学 習 観
―インタビュー調 査 の結 果 から― 齋 藤 華 子 ・高 畠 理 恵 1. はじめに 英 語 の重 要 性 ばかりが強 調 される昨 今 、このような時 代 だからこそ、英 語 以 外 の外 国 語 学 習 の意 義 を今 一 度 深 く考 え、主 張 していかなければならないと考 える。文 部 科 学 省 のデータを見 ると、平 成 28(2016)年 度 に英 語 以 外 の外 国 語 を学 んでいた高 校 生 の数 は 44,539 人 で、高 校 生 全 体 (約 330 万 人 )の約 1.3%に過 ぎない(文 部 科 学 省, 2016; 2017)。つまり大 半 の生 徒 が外 国 語 といえば英 語 を学 んで高 等 学 校 (以 下 、高 校 )を卒 業 していく。そして大 学 に進 学 して初 めて、いわゆる第 二 外 国 語 を学 ぶ機 会 を得 ることになるわけだが、その大 学 においても、必 要 単 位 数 が減 ったり、必 修 から選 択 科 目 へ移 行 されるなど、英 語 以 外 の外 国 語 教 育 は活 況 とはとても呼 べな い現 状 がある。そのような中 、高 校 で自 ら選 択 して二 つ目 の外 国 語 を学 んでいる生 徒 たち自 身 の声 は、多 様 な外 国 語 を学 ぶ価 値 を見 直 し、訴 えるための貴 重 な資 料 と なるだろう。 高 校 スペイン語 の場 合 、限 られた授 業 数 ・期 間 に、大 学 受 験 にも関 わりの ない外 国 語 を学 ぶということであり、現 実 的 には言 語 能 力 の飛 躍 的 な向 上 はなかなかはか れない。しかし外 国 語 教 育 には、言 語 に結 びつく多 様 な文 化 を理 解 し受 け入 れる力 を育 てたり、言 語 間 の関 係 性 に目 を向 けるきっかけを作 る、さらには、なぜ私 たちは外 国 語 を学 ぶ必 要 があるのかについて、あらためて見 つめ直 す機 会 を与 える等 の役 割 があるはずである。そこで、高 校 でスペイン語 を学 んだ経 験 を持 つ学 習 者 にインタビュ ーを実 施 し、高 校 でのスペイン語 学 習 を通 して彼 らが何 を思 い、どのような意 識 を持 つに至 ったのかを調 べることにした。 2. 調 査 英 語 以 外 の外 国 語 を学 ぶ高 校 生 の意 識 については、長 谷 川 (2016)が大 規 模 な 調 査 を行 っている。英 語 のみを学 ぶ高 校 生 と英 語 以 外 の外 国 語 を学 ぶ高 校 生 を対 象 に、英 語 等 の外 国 語 の学 習 動 機 や学 習 に対 する考 え等 についての質 問 文 を用『複言語・多言語教育研究』 日本外国語教育推進機構会誌 No.6 (2018) pp.152-164 意 、「当 てはまる」から「まったく当 てはまらない」までの 5 件 法 で回 答 を求 め、英 語 の みを学 習 するグループと、英 語 以 外 も学 ぶグループの回 答 結 果 を比 較 している。両 者 の回 答 割 合 を比 べることで、英 語 以 外 の外 国 語 を学 ぶ生 徒 たちが、より目 的 意 識 を持 って学 習 を楽 しみ、当 該 言 語 圏 への理 解 を深 めることができると感 じな がら学 ん でいることを明 らかにしている。ただこの調 査 結 果 からは、実 際 に生 徒 たち自 身 が、ど のような場 面 でそうした意 識 を持 ったのか、といった具 体 的 なエピソードや経 験 を知 る ことはできない。担 当 者 の裁 量 に任 される高 校 スペイン語 の授 業 を考 えるとき、高 校 でスペイン語 を学 ぶ生 徒 たちがどのようなことをきっかけに、目 的 意 識 を持 って学 習 を 楽 しみ、スペイン語 圏 への理 解 を深 めたと実 感 しているのか等 の、より具 体 的 な情 報 が得 られれば、授 業 作 りにも大 いに役 立 つだろう。 そこで、高 校 でのスペイン語 学 習 経 験 者 を対 象 に、どのような経 験 が彼 らの意 識 に 影 響 を与 えたのか、聞 き取 り調 査 をすることにした。聞 き取 るにあたり、長 谷 川 (2016) が調 査 で 用 いた質 問 の うち、「 当 該 言 語 学 習 の手 ごたえ 」「 当 該 言 語 学 習 の効 果 」 「英 語 以 外 の外 国 語 の学 習 に対 する考 え」「英 語 学 習 に対 する考 え」という 4 つの観 点 を尋 ねる質 問 文 を参 考 にして、表1 のとおりの質 問 項 目 を用 意 した。それぞれの質 問 文 が自 分 にとってどの程 度 当 てはまるか、または当 てはまらないかを考 えながら、そ の理 由 を述 べてもらい、得 られたコメントを分 析 していく手 法 を取 った。 表 1 質 問 内 容 (Cf. 長 谷 川 : 2016: 192) {1. 英 語 / 2. スペイン語 }の勉 強 は難 しかった。 {3. 英 語 / 4. スペイン語 }の勉 強 は楽 しかった。 {5. 英 語 / 6. スペイン語 }を学 ぶことで、世 界 がより広 がったと思 う。 7. 英 語 を学 ぶことで、英 語 が使 われている国 ・地 域 への理 解 が深 まった。 8. スペイン語 を学 ぶことで、スペイン語 が使 われている国 ・地 域 への理 解 が深 まっ た。 9. 英 語 を学 ぶことで、英 語 圏 の文 化 や人 々に対 して親 しみを感 じるようになった。 10 スペイン語 を学 ぶことで、スペイン語 圏 の文 化 や人 々に対 して親 しみを感 じるよう になった。 {11. 英 語 / 12. スペイン語 }を学 ぶことで、自 分 とは異 なるさまざまな文 化 をもっと 知 りたいと思 うようになった。 {13. 英 語 / 14. スペイン語 }を学 ぶことで、日 本 語 や日 本 文 化 に対 する理 解 も深 まった。 {15. 英 語 / 16. スペイン語 }を学 んでおけば将 来 役 に立 つと思 う。
『複言語・多言語教育研究』 日本外国語教育推進機構会誌 No.6 (2018) pp.152-164 17. 英 語 が話 されていない国 に出 かけるときにも、英 語 が理 解 できれば十 分 だと思 う。 18. 英 語 が話 されていない国 に出 かけるときには、その国 の言 葉 を学 ぶ必 要 がある と思 う。 19. 世 界 共 通 語 は英 語 なので、自 分 も英 語 を勉 強 しておかないと後 で困 ると思 う。 20. あらゆるひとが最 低 限 、英 語 だけは話 せるようになるべきだと思 う。 21. スペイン語 を学 んだけれど、実 際 には英 語 だけ学 べば十 分 だと思 う。 22. 第 二 外 国 語 を履 修 しようと思 っている人 に、どのようなアドバイスをするか1。 2.1 調 査 対 象 者 都 内 の高 校 においてスペイン語 を自 由 選 択 科 目 として初 めて、1 年 または 2 年 間 学 習 した、合 計 12 名 の既 習 者 に話 を聞 いた。対 象 者 は全 員 同 じ高 校 で、週 100 分 、 年 間 約 25 回 前 後 、日 本 人 教 員 と ALT の 2 名 体 制 で行 われる授 業 を受 けてきた。 2.2 調 査 方 法 2017 年 12 月 から 2018 年 1 月 にかけて、質 問 項 目 順 に約 1 時 間 程 度 、個 別 にイ ンタビューを行 い、その内 容 を録 音 し文 字 に起 こした。対 象 者 には、調 査 記 録 や回 答 は、研 究 調 査 のためだけに使 用 することを断 ったうえで協 力 してもらった。 3. 結 果 高 校 でのスペイン語 学 習 経 験 を通 して、生 徒 が何 を学 んだと考 え、それがどのよう に学 習 者 の意 識 に影 響 を与 えているのか、聞 き取 り内 容 を分 析 していった。本 稿 で は、彼 らの外 国 語 学 習 観 に焦 点 を絞 りまとめてみたい。 調 査 対 象 者 の中 には、幼 少 期 から英 語 圏 に滞 在 した経 験 のある生 徒 や、中 学 入 学 前 に英 語 を学 んでいた生 徒 もおり、そうした経 験 は彼 らのコメントに反 映 されている。 本 稿 では、各 質 問 に、より具 体 的 な理 由 や体 験 談 を話 してくれた、英 語 圏 ・スペイン 語 圏 に滞 在 したことのあった 2 名 と、日 本 の学 校 教 育 においてのみ英 語 ・スペイン語 を学 んだ1 名 の聞 き取 り結 果 を用 いて、スペイン語 学 習 に対 する考 え、および英 語 学 1 質 問 22 は、調 査 の過 程 で必 要 性 を感 じ、後 から追 加 した。
『複言語・多言語教育研究』 日本外国語教育推進機構会誌 No.6 (2018) pp.152-164 習 に対 する考 えを分 析 する。それぞれの外 国 語 経 験 と 、高 校 で学 んだスペイン語 学 習 を、彼 らはどのように関 連 付 け、外 国 語 を学 ぶということに対 してどのような意 識 を 持 つようになったのか、異 なるバックグラウンドを持 つ 3 名 のコメントから探 っていく。以 下 では、書 き 起 こしたコメントをイタリック体 で記 していく。必 要 な場 合 、筆 者 が文 言 をかっこで 補 足 している 。また書 き 起 こした 表 現 がわかりづ らい部 分 に関 しては、内 容 に影 響 が生 じない範 囲 で一 部 修 正 を加 えた。[ ]の中 の算 用 数 字 は、そのコメン トが得 られた質 問 項 目 を指 す。 3.1 エリの場 合 (スペイン語 圏 ・英 語 圏 滞 在 経 験 あり) 調 査 時 に高 校 3 年 生 であったエリ(仮 名 )は、日 本 語 と英 語 のバイリンガル環 境 で 育 っており、英 語 圏 への渡 航 経 験 も頻 繁 にある生 徒 であった。スペイン語 を高 校 2 年 次 に1 年 間 学 習 した後 、スペインでの 2 週 間 の語 学 研 修 にも参 加 した。 高 校 で第 二 の外 国 語 を履 修 しようとしている人 に、エリは次 のようにアドバイスした いと言 う。 ( 1 ) 履 修 するように言 います。理 由 は、まず世 界 が広 がるというのと、絶 対 に 違 う言 語 を学 ぶことは楽 しいと私 は思 ったから。世 界 が広 がるっていう面 では、 道 端 にあるカフェの名 前 が理 解 できるというだけでも嬉 しいし、流 れてきた歌 詞 が習 っている言 語 の歌 詞 だと「これ〜!」ってなる。そんな小 さな発 見 がバカみ たいに嬉 しい。そういうところがあるから、もし迷 っている人 がいたら勧 めます。 [22] 新 しい言 語 であるスペイン語 を学 ぶことや新 たな発 見 を楽 しく、嬉 しいことととらえて いる。「世 界 が広 がる」と述 べるに至 る経 験 はさらに次 のように語 られる。 ( 2 ) こんなにスペイン語 圏 って多 いんだ。[…]スペイン語 圏 によっても文 化 の 違 いや、スペイン語 の違 いや、方 言 じゃないけど、があったりして、そういうのを 授 業 で教 えてくれたりして、メキシコはこうなんだよ、とか、[…]知 るのも楽 しくて。 [4] ( 3 ) 初 めてヨーロッパに行 って、これがヨーロッパの文 化 なんだ、とか知 れて。 今 まではアメリカの中 の多 文 化 だったけど、もっとちゃんと世 界 に出 てこれたな、
『複言語・多言語教育研究』 日本外国語教育推進機構会誌 No.6 (2018) pp.152-164 っていうか。本 当 に今 違 う文 化 に触 れているんだな、って実 感 が湧 いて。で、そ れで他 のスペインじゃないヨーロッパ圏 ではどうなんだろう?って思 ったりした。 [12] (2)ではスペイン語 の授 業 を通 して、言 語 のみならず、スペイン語 を話 す地 域 にも 注 目 している様 子 がうかがえる。さらに (3)で、初 めてのスペイン滞 在 経 験 から、スペ イン以 外 のヨーロッパの国 々へと視 野 が広 がっていることがわかる。 ( 4 ) 英 語 は絶 対 に使 うと思 う。日 本 の会 社 でも使 うと思 う。[…]どこかしらで必 ず使 う機 会 はある。役 に立 つと思 う。[15] ( 5 ) 他 の言 語 に興 味 がなくても英 語 くらいは話 せたらいいと思 う。[19] エリは英 語 ・日 本 語 のバイリンガル家 庭 で育 ったということもあり、英 語 で問 題 なくコ ミュニケーションをとることができる。エリにとって英 語 は使 うための言 語 、役 に立 つ言 語 である。しかしながら、どこへ行 ってもまずは英 語 、という考 えは持 っていないことが 次 を見 るとわかる。 ( 6 ) 世 界 共 通 語 という英 語 のイメージが大 きすぎて、スペイン語 はいらないん じゃない?って、思 っている人 が多 いかも知 れない。でも私 はやってよかったと 思 っている。[21] ( 7 ) その国 に行 く目 的 にもよると思 う。旅 行 だったらホテルなど英 語 が通 じる から、そういう面 では(現 地 語 を)学 ぶ必 要 はないのかも知 れないけど[…]。でも、 ただの旅 行 ではないのであれば、ホテルとかじゃない場 所 に行 くじゃないですか。 町 のパン屋 さんとか警 察 の人 とか。文 化 を知 るためには、ただのホテルの人 と かじゃなくて、もっとその土 地 に根 付 いている人 と話 す必 要 があると思 うから、そ ういう所 では絶 対 にその土 地 の言 葉 を知 っておいて、きちんとコミュニケーショ ンを取 らないと、と思 います。[18] 実 際 に、スペインで英 語 が通 じなかった経 験 により、どこでも英 語 が通 じるわけでは なく、対 話 者 となる相 手 の言 語 を知 ることが重 要 であることを体 感 している。 ( 8 ) スペインでハプニングがあって、英 語 で話 そうと思 っても(相 手 に英 語 が)
『複言語・多言語教育研究』 日本外国語教育推進機構会誌 No.6 (2018) pp.152-164 通 じなくて、[…]英 語 が理 解 できれば十 分 ではないと思 った。[…]日 本 もそうだ し、その国 にはその国 の言 語 があって、[…]英 語 でいけば乗 り切 れるというのは なんか違 うなと思 った。実 感 した。[17] ( 9 ) (スペインでは)ホストファミリーにいた同 じ年 の女 の子 は英 語 が話 せた。 (私 は彼 女 と)はじめは英 語 でコミュニケーションを取 っていたが、途 中 からスペ インにいるのでスペイン語 を使 うようにした。[…](私 がスペイン語 を)きちんと話 せなくても聞 いてくれて、意 味 を取 ってくれた。それをしたことで、自 分 のスペイ ン語 の理 解 も深 まったし、相 手 にも「私 の言 語 (スペイン語 )を話 してくれようとし ている」という信 頼 感 が生 まれたと思 う。「頑 張 って話 そうとしてくれてありがとう ね」と言 ってくれた。そこから、スペイン語 を話 すことは重 要 だと感 じた。[18] スペイン滞 在 当 初 、エリは英 語 を使 用 した方 がより円 滑 にホストファミリーとコミュ ニ ケーションがとれるため、英 語 を使 っていた。しかし、たとえ思 っていることの全 てを伝 えられなかったとしても、相 手 の言 葉 を使 うことが信 頼 関 係 を深 め、人 間 関 係 を構 築 する手 段 となることを実 感 していることがわかる。 3.2 ヒカリの場 合 (英 語 圏 滞 在 経 験 あり) ヒカリ(仮 名 )は幼 稚 園 をインターナショナルスクールで過 ごし、高 校 在 学 中 にも短 期 の語 学 研 修 で英 語 圏 に滞 在 したことがある。スペイン語 は高 校 2、3 年 次 の 2 年 間 履 修 した。インタビュー時 点 では高 校 を卒 業 して1 年 が経 過 していた。 ( 1 0 ) その子 のやりたいことにもよると思 うけど、私 はスペイン語 を勧 めます。も ちろん大 変 だと思 うけど、どのみち楽 なものはないし、それだったら、最 後 の授 業 にパーフェクトにスペイン語 を話 せるようにならなくてもいいから、ある程 度 知 った単 語 があると、いざ自 分 が喋 れなくても、スペインの人 と話 せなくても、知 っ ている単 語 だけででも会 話 した時 に、すごい可 能 性 が広 がると思 う。可 能 性 を 広 げてほしいという意 味 でもスペイン語 をとってね、っていうかもしれない。[22] スペイン語 が流 暢 に使 えるようにならなくても、少 しの単 語 を知 っていることだ けでも 可 能 性 を広 げると述 べる。次 のような意 識 の変 化 が、そうした考 え方 を裏 付 けている。
『複言語・多言語教育研究』 日本外国語教育推進機構会誌 No.6 (2018) pp.152-164 ( 1 1 ) 今 まではスペイン語 を話 せないから、[…]スペイン語 圏 の人 々はそんな に視 野 になかった人 々だった。スペイン語 を学 ぶことで、[…]スペイン語 を話 す 人 と会 話 してみたいと思 うようになったので、前 に比 べてみたら、親 しみを感 じる ようになった。[10] ( 1 2 ) それまで自 分 は英 語 圏 のアメリカとかイギリスなどの二 つの文 化 しか見 ていなかった。スペイン語 を学 ぶことにより、[…]スペイン語 を話 す地 域 はもちろ ん、他 の国 もいろんな良 さがあって、いろんな文 化 があるんだなということを知 れ た。これも世 界 、視 野 が広 がった。[6] スペイン語 の学 習 を始 める前 は、滞 在 経 験 もある英 語 圏 にしか向 いていなかった 関 心 が、スペイン語 を学 ぶことによりスペイン語 を話 す地 域 へ、さらにはその他 の地 域 にも向 けられていき、そうした自 らの視 野 の広 がりを話 している。 また、英 語 については、その有 用 性 を強 く感 じている。 ( 1 3 ) (英 語 を学 ぶことで)選 択 肢 が増 えると思 う。これからの社 会 は世 界 を視 野 に入 れて動 いていると思 う。2020 年 にはオリンピックもあるし、英 語 を話 せる か話 せないかで、絶 対 に変 わってくると思 います。[15] ( 1 4 ) 母 語 の次 に英 語 を学 んでいる国 が多 いと思 うから。ある程 度 は英 語 で 通 じるんじゃないかと思 う。[17] ( 1 5 ) みんな英 語 は学 んでいるし、何 かあったときや、ビジネスなど英 語 を使 っている。[19] しかし次 のコメントから、誰 もが英 語 を話 せるようになる必 要 はなく、各 自 やりたいこ とを最 優 先 し、必 要 がある人 が学 べばいいと考 えていることがわかる。 ( 1 6 ) 自 分 が何 をするかによると思 う。世 界 に出 て活 躍 したいと思 う人 は、英 語 くらいは話 せた方 が得 だと思 う。でもそうじゃなくて、今 住 んでいる場 所 で活 躍 したいと思 っている人 にとっては、学 ぶ必 要 はない。そこまでのレベルは必 要 ないと思 う。その人 のやりたいことによると思 う。やりたいことをする時 間 を割 いて まで、無 理 に学 ぶ必 要 はない。必 要 がある人 が学 べばいい。[20] また、相 手 の母 語 で会 話 する方 が英 語 で話 すときよりも、相 手 の受 け取 り方 が異
『複言語・多言語教育研究』 日本外国語教育推進機構会誌 No.6 (2018) pp.152-164 なると予 想 している。 ( 1 7 ) やっぱり英 語 圏 以 外 の人 も日 本 に来 るわけだし。世 界 といっても英 語 が第 二 の言 語 みたくなっているけど、やっぱり色 々な国 があるわけだし。その中 でスペ イ ン 語 と か 話 せた ら 、 相 手 も 受 け 取 り 方 が 違 っ て来 るの か な ?と 思 う 。 [16] ( 1 8 ) 英 語 だけでことが足 りる場 面 は多 いと思 う。でもやっぱりそれぞれの言 語 にはそれぞれの特 徴 がある。[…]やっぱ海 外 の人 と英 語 を話 すときは、代 理 の言 葉 を持 ってきて話 してる感 じがするじゃないですか。でもそうではなくて、例 えば相 手 がスペイン人 であれば、相 手 の国 に合 わせて、スペイン語 を持 ってい った方 がより慣 れ親 しめる気 がする。[…]相 手 への印 象 も良 くなるし。[21] 英 語 がわかれば、最 低 限 の意 思 を伝 達 することに関 しては十 分 かもしれない。しか し、相 手 への印 象 を良 くしたり、親 しくなるためには、相 手 の言 葉 を知 ることが必 要 で あるだろうと、実 際 にスペイン語 圏 でそうした体 験 をしたわけではないとしても、想 像 す ることができている。 3.3 ナミの場 合 (海 外 滞 在 経 験 なし) ナミ(仮 名 )は国 内 の公 立 学 校 で英 語 とスペイン語 を学 習 してきた生 徒 である。海 外 に滞 在 した経 験 もない。スペイン語 は高 校2、3 年 次 に 2 年 間 履 修 した。ナミは新 し い言 語 であるスペイン語 を学 習 することにより、これまで学 習 してきた英 語 と比 較 しな がら、英 語 とは異 なる言 語 的 特 徴 を見 つけ、その新 たな発 見 に喜 びを感 じている。 ( 1 9 ) 第 二 言 語 を選 んだ方 がいいと思 うよと言 う。2 年 生 でとってみて、自 分 に合 わなければやめればいいと思 う。3 年 生 では違 う科 目 を履 修 すればいいと 思 う。とりあえずチャレンジしてみることは大 事 。チャレンジ精 神 が大 事 。英 語 と 日 本 語 って 2個 だけにしか目 線 がいかないんじゃなくて、もう一 つ新 しいのを入 れてみて、そのスペイン語 を学 ぶことによって英 語 の見 方 が変 わったりと か、日 本 語 の見 方 が変 わったりすることもあると思 うので、それはその人 のためになる と思 う。[22]
『複言語・多言語教育研究』 日本外国語教育推進機構会誌 No.6 (2018) pp.152-164 ( 2 0 ) 私 はあなたが好 きだ、っていうのとか2。順 序 が英 語 とは違 って、面 白 か った。[4] また、自 らの視 野 の広 がりを次 のように語 っている。 ( 2 1 ) 英 語 だったら、英 語 と日 本 語 だけみたいなって感 じだったけど、スペイ ン語 を入 れると視 野 が広 くなって。やっぱ英 語 を話 している人 たちとは違 う、ス ペイン語 を話 している人 たちの文 化 があって、 […]それはすごい面 白 いなって 思 うし、 気 に なった。だ からいろんな文 化 に 触 れ てみたいと思 うように なった。 [12] ( 2 2 ) スペイン語 を学 ぶまでは、英 語 圏 、アメリカ、オーストラリアなど、その地 域 にしか目 がいかなかった。でも学 んでからは、南 米 とか、ヨーロッパの方 にも 目 がいくようになった。こういう、英 語 を使 っている国 ではなくて、他 の言 語 を使 っている地 域 があるということも知 れたし、やっぱ、文 化 とかも知 れた。これから 先 、世 界 に出 ることがあった時 、他 の人 よりかは理 解 できるかな、と思 う。[8] 三 つ目 の言 語 であるスペイン語 を学 んだことで、英 語 しか勉 強 していない人 と比 べ たら理 解 が深 まったことに自 信 をつけていることがわかる。また、これまで英 語 圏 にし か向 いていなかった視 野 がスペイン語 圏 に広 げられたことにより、世 界 にはさらに他 の 異 なる文 化 があるということをあらためて意 識 している。 またナミは、中 学 ・高 校 での英 語 教 育 に対 して肯 定 的 なイメージを持 っており、英 語 は必 要 不 可 欠 なコミュニケーションのツールであると述 べる。 ( 2 3 ) 日 本 でグローバル化 が進 んで、英 語 を話 せないと就 職 とか、外 国 人 観 光 客 とかに対 応 できなくなっちゃうので。学 生 に求 められるものは英 語 だと思 う。 [15] ( 2 4 ) やっぱ就 職 に役 立 つかというと、英 語 、中 国 語 が強 いと思 う。[16]
2 「〜が好 きだ」と言 う場 合 、英 語 では“I like music.”のように他 動 詞 “like”を用 いて、「好 き」と感 じている人 を主 語 、「好 きな事 物 」を動 詞 の目 的 語 にして表 す。一 方 スペイン語 では“Me gusta la música.”のように、“gustar”「気 に入 る」という自 動 詞 を用 いて、「好 き」と感 じている人 “me (間 接 目 的 格 代 名 詞)”が動 詞 の目 的 語 となり、「好 きな事 物 」“la música”が主 語 となる。
『複言語・多言語教育研究』 日本外国語教育推進機構会誌 No.6 (2018) pp.152-164 学 生 に求 められるのは英 語 である、と英 語 の重 要 性 を述 べる。一 方 で次 のように、 英 語 は必 要 がある人 が学 べばよいというコメントも出 てくる。 ( 2 5 ) 日 本 にずっといる人 ならば、何 がなんでも学 ぶ必 要 はない。[20] また文 化 を深 く知 り、人 々と親 しくなるには現 地 の言 葉 を学 ぶ方 がいいと考 えてい る。 ( 2 6 ) (スペイン語 を話 せたら)その国 の文 化 やその国 の人 たちとより親 しくな れると思 っているので。やっぱスペイン語 圏 の 人 と仲 良 くなるためにはスペイン 語 を学 んだ方 がより距 離 が近 くなれると思 う。[21] ( 2 7 ) (スペイン語 圏 の人 とは)スペイン語 を話 せた方 が会 話 が進 むし、相 手 を深 く知 れるんじゃないかな?って思 う。[16] さらにそのような意 見 を裏 付 ける経 験 も語 られる。 ( 2 8 ) バイト先 に外 国 人 の観 光 客 が来 た時 に、やっぱ英 語 で話 しかけてくれ て、英 語 で対 応 した。でも料 理 を出 す時 に会 話 が聞 こえるじゃないですか。あ っ、これスペイン語 だ〜、って思 って。[…]そのグループの人 たちがスペイン語 で話 していて、スペイン語 話 してる〜って思 って。より親 近 感 じゃないけど、それ で最 後 に gracias って言 ってみたりして、ほんの少 しだけど交 流 ができたので、 ちょっと親 しみを感 じました。[10] 海 外 滞 在 経 験 がなくても、当 該 言 語 話 者 との出 会 いの中 、相 手 の言 語 を使 うこと で、その距 離 を縮 めることができる経 験 も不 可 能 ではないことを示 す例 であろう。 4. 考 察 長 谷 川 (2016)の調 査 において、英 語 以 外 の外 国 語 を学 ぶ高 校 生 は、英 語 のみ を学 ぶ生 徒 に比 べて、学 習 した言 語 圏 の文 化 理 解 がより深 まったと感 じていた。この 結 果 から、「外 国 語 学 習 の目 的 として異 文 化 理 解 が重 要 だとされるにも関 わらず、文 化 の扱 いが曖 昧 になっているのは、英 語 教 育 における限 界 といえるのかもしれない。
『複言語・多言語教育研究』 日本外国語教育推進機構会誌 No.6 (2018) pp.152-164 これに対 し、英 語 以 外 の外 国 語 の場 合 は学 習 者 にとっても当 該 言 語 と文 化 の結 び つきが明 確 に意 識 されやすく、教 える側 も言 語 と文 化 を結 びつけて指 導 しているとい うことが表 れているものと思 われる。(長 谷 川 2016:197)」と指 摘 されているが、本 調 査 においても、海 外 滞 在 経 験 の有 無 にかかわらずスペイン語 の学 習 を通 して、それま で英 語 圏 のみに向 けられていた視 線 が、スペイン語 圏 、さらには 他 の文 化 圏 に広 が ったことを、既 習 者 自 身 が自 覚 していることがわかる。 また、英 語 が話 されていない国 ・地 域 を理 解 するために現 地 語 を学 ぶべきである、 と考 える背 景 には、最 低 限 の意 思 を伝 える手 段 として、またはお互 いの‟代 理 の言 葉 ” としての英 語 使 用 よりも、相 手 の言 語 を用 いることが、たとえ完 璧 ではなくても、対 話 者 との距 離 を縮 め、より親 密 な関 係 性 を築 くために重 要 であることを、授 業 内 外 での 体 験 から実 感 できている、ということが見 て取 れる。 英 語 学 習 に対 しても、英 語 以 外 を学 ぶ高 校 生 の方 が英 語 のみのグループよりも、 「勉 強 しておかないと後 で困 る」と考 えていた長 谷 川 の結 果 と同 様 、本 稿 で取 り上 げ た 3 名 は皆 、英 語 の有 用 性 や、自 分 にとっての英 語 学 習 の必 要 性 を主 張 していた。 その一 方 で、万 人 が英 語 を学 ぶべきであるとは考 えていない。それぞれの必 要 性 や 目 的 に応 じて、外 国 語 と向 き合 っていってよいのだということを、スペイン語 既 習 者 た ちはスペイン語 学 習 を通 して気 がついていったと推 測 する。これは「節 英 」という考 え 方 にもつながる(木 村 2016)。「自 分 の英 語 使 用 がどのような意 味 をもつかを自 覚 し て、節 度 をもって使 うこと」、こうした姿 勢 を、英 語 ではない言 語 を学 ん でみて、生 徒 た ちが身 につけ始 めているといえるのではないか。 5. おわりに 本 調 査 対 象 者 たちの声 から、英 語 以 外 の外 国 語 学 習 が、自 分 にとって外 国 語 を 学 ぶとはどのような意 味 を持 つのかを自 覚 できる貴 重 な経 験 となっていることがうかが われる。高 校 での多 言 語 学 習 が、言 語 の多 様 性 に気 づき、受 け入 れることの大 切 さ を知 るための第 一 歩 となるのだとすれば、より多 くの高 校 生 が英 語 に加 えて多 言 語 を 学 ぶのが理 想 的 であり、実 際 に、高 校 における複 数 外 国 語 必 修 化 の提 言 もすでに 発 信 されている(日 本 言 語 政 策 学 会 多 言 語 教 育 推 進 研 究 会 2014)。しかしながら、 教 員 養 成 や配 置 、教 科 書 、大 学 受 験 との関 連 等 ハードルが高 く、すぐに実 現 に向 け 動 き出 すとはいえないのが現 実 であろう。そうなると、やはり日 本 の多 くの若 者 にとって、 英 語 以 外 の外 国 語 に触 れる最 初 で最 後 の場 が大 学 ということになる。その 大 学 が「グ
『複言語・多言語教育研究』 日本外国語教育推進機構会誌 No.6 (2018) pp.152-164 ローバル化 」の名 の下 に、ビジネスに必 要 だとして英 語 に集 中 した教 育 をおこなって いくのだとすれば、より一 層 真 剣 に大 学 生 が多 言 語 を学 ぶ重 要 性 について考 え、訴 えていかなければならないだろう。 大 木 (2014)は、「大 部 分 の日 本 の学 生 に必 要 なのは、高 いレベルの言 語 運 用 能 力 ではなくて、「偏 見 をなくし、お互 いへの関 心 と寛 容 の精 神 を育 むのに貢 献 する」 異 文 化 間 能 力 である(大 木 2014:48)」と主 張 する。大 学 においても、限 られた時 間 で初 めて学 ぶ外 国 語 の授 業 では、ネイティブ話 者 のように話 せるようになることのみを 目 標 に設 定 する必 要 はない。それまで振 り返 ることのなかった母 語 や自 文 化 を顧 みる こと、他 者 の言 語 ・文 化 を尊 重 し、知 ろうとすること等 、運 用 能 力 を向 上 させる以 上 に 重 要 なこうした価 値 に目 を向 けてもらうことこそが肝 要 であろう。大 学 での有 効 な多 言 語 教 育 の一 例 として、大 山 (2017)の実 践 が大 変 参 考 になる。今 回 の調 査 で得 られ た高 校 生 の意 見 を踏 まえて、大 学 の多 言 語 教 育 のあるべき姿 もさらに検 討 していき たい。 (清 泉 女 子 大 学 ・東 京 都 立 杉 並 総 合 高 等 学 校 ) 参 考 文 献 大 木 充 (2014) 「グローバル人 材 育 成 政 策 と大 学 人 の良 識 」『「グローバル人 材 」再 考 』く ろしお出 版, 48-79 頁 . 大 山 万 容 (2017) 「大 学 の初 修 外 国 語 における複 言 語 教 育 -フランス語 の授 業 におけ るEOLE 実 践 -」『複 言 語 ・多 言 語 教 育 研 究 』日 本 外 国 語 教 育 推 進 機 構 会 誌 No.5., 37-52 頁 . 木 村 護 郎 クリストフ(2016) 『節 英 のすすめ 脱 英 語 依 存 こそ国 際 化 ・グローバル化 対 応 のカギ!』 萬 書 房 . 日 本 言 語 政 策 学 会(JALP)多 言 語 教 育 推 進 研 究 会 (2014) 『グローバル人 材 育 成 のた めの外 国 語 教 育 政 策 に関 する提 言 -高 等 学 校 における複 数 外 国 語 必 修 化 に向 けて-』 長 谷 川 由 起 子 (2016) 「高 校 生 の意 識 -英 語 だけではもの足 りない-」森 住 衛 ・古 石 篤 子 ・杉 谷 眞 佐 子 ・長 谷 川 由 起 子 (編 )『外 国 語 教 育 は英 語 だけでいいのか』くろしお 出 版, 190-202 頁 . 文 部 科 学 省 (2016) 「平 成 28 年 度 学 校 基 本 調 査 (確 定 値 )の公 表 について」 http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa01/kihon/kekka/k_detail/1375036.ht m [accessed 3 Nov. 2018] 文 部 科 学 省 (2017) 「平 成 27 年 度 高 等 学 校 等 における国 際 交 流 等 の状 況 について」 http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/ 2017/07/06/1386749_27 -2.pdf [accessed 3 Nov. 2018]
『複言語・多言語教育研究』 日本外国語教育推進機構会誌 No.6 (2018) pp.152-164
Perspectives on foreign language learning among high school
students of Spanish:
Results of an interview-based survey of Japanese students Hanako SAITO, Rie TAKABATAKE
The purpose of this article is to understand what effects high school Spanish classes had on students’ consciousness of foreign language learning. To analyze, we conducted one-on-one interviews with students who studied Spanish in high school. The results show that these students developed a better understanding of the importance of learning not only Spanish, but also of English as well. Also, the survey provides a clearer picture of how their respective views about language have taken shape.