水素吸蔵合金タンクを中心とした
トータル・システム・エンジニアリング
岡本 英之
1・川上 理亮
1・小澤 由行
1・赤井 誠
2 1高砂熱学工業株式会社 総合研究所 243-0213 神奈川県厚木市飯山3150 2独立行政法人 産業技術総合研究所 小型分散システム研究グループ 305-8564 茨城県つくば市並木 1-2-1Total Energy System Engineering by Coring Metal Hydride Tanks
Hideyuki OKAMOTO1, Yoshiaki KAWAKAMI1, Yoshiyuki KOZAWA1 and Makoto AKAI2
1Research and Development Center, Takasago Thermal Engineering Co., Ltd. 3150 Iiyama, Atsugi, Kanagawa 243-0213
2National Institute of Advanced Industrial Science and Technology 1-2-1 Namiki, Tsukuba, Ibaraki 305-8564
Hydrogen is a possible energy carrier in the near future, because it has fruitful characteristics as for reversible conversion and high volumetric storage density of energy. By using the total energy system integrated by electrolysis, metal hydride and fuel cell functions, it is possible to realize simultaneously the effective use of energy, the load leveling of electricity, and the energy cost reduction. In this report, we have picked up the critical R&D issues as for the system engineering and the component design to achieve the high energy-performance, based on the energy flow analysis of such a total system. Next, we have performed both of the numerical analysis and the scope experiment to obtain the optimum thermal-hydraulic design technologies among electrolysis pressure, hydrogen flow rate and metal hydride utilization rate.
Keywords: Electrolysis, Metal hydride, Fuel cell, Load-leveling of electricity, Optimum thermal-hydraulic design
1. 緒言 水素はエネルギーの可逆変換と高体積密度貯蔵に特長 を有する。その中でも、エネルギー貯蔵に関しては、図1 に示すように、人工的な方法の中では水素吸蔵合金を用 いることで、圧倒的に高い体積貯蔵密度を簡単な仕組み を用いて享受することができる[1]。 一方、現状の我が国におけるエネルギー需給構造を認 めた上で、その中に新たな二次エネルギーである水素エ ネルギーを導入する場合に、エネルギーの供給から利用 に至るトータルなマネージメントを実践できる最適な例 題としては、図2 に示すような電力の負荷平準化がある [2]。このシステムは、電力供給と熱供給が可能なエネル ギー貯蔵機能を有するコージェネレーション・システム と言える。また、本システムの構成機器として、水電解と 燃料電池の機能を同一場所で発揮できる可逆セル・スタ ックを開発導入できることが、エネルギー・パフォーマン 0.01 0.1 1 10 10 100 1000 104 高圧水素ガス (10MPa) 質量エ ネルギー 密度 [k Wh /kg ] 体積エネルギー密度 [kWh/m3] 石油 石炭 メタノール LNG 液体水素 水素吸蔵合金 天然ガス (10MPa) リチウムイオン NaS ニッケル水素 鉛蓄電池 レドックスフロー 10000 (1MPa以下、 100℃以下) (常温) (-160℃) (-250℃) (350℃) (-30~60℃) (常温) (-20~80℃) 図 1. 各種のエネルギー貯蔵密度の比較
スを高める意味から望ましい。この可逆セル・スタック は、今後に自然変動型電源の安定的な有効利用を図る上 での汎用機器にもなる。 本研究では、図3 に示すような、発電能力 5kW 級の水 電解-水素吸蔵合金-燃料電池からなるトータル・エネ ルギー・システムにおける水素吸蔵合金タンクの最適化 および「水素」と「電気」、ならびに「熱」の同時有効利 用技術の確立を主な研究の目的とした。 本報では、まずは図3 のトータル・エネルギー・シス テムについて、システム全体のエネルギー・フローの分 析・評価を行うことで、既存のコージェネレーション・ システムや他の新型二次電池に対する本システムの競合 力を、総合エネルギー利用効率を用いて評価した。次に本 システムの熱管理の課題について、システム全体の運転 性能に大きく影響する水素吸蔵合金タンクの最適化に着 目し、本システムに最適な水素吸蔵合金と水素吸蔵合金 タンクの設計仕様、ならびにシステムの運転条件をそれ ぞれ特定した。なお、水素吸蔵合金タンクの設計仕様を 特定する方法として、システム全体をモデル化した数値 解析を行い、さらにその妥当性を検証する実験を行った。 2.総合エネルギー利用効率によるシステム評価 図3 のエネルギー・システムにおいて、システム全体 の性能を把握するために、システムの電気出力と排熱利 用(排熱利用効率を70%と設定)とを組み合わせた総合 エネルギー利用効率を試算した。 試算した結果、図4(1)に示すように、総合エネルギー 利用効率という観点から本システムを評価(ここでは補 機動力を除く)した場合、その値は、原理的には80%以上 にすることができ、既存のコージェネレーション・シス テムの60~80%[3]や他の新型二次電池の 70~90%[4-5] の場合と遜色ない性能になることを確認した。 次に、本システムを既存の機器で構築した場合のエネ ルギー・フローを図 4(2)に示す。ここでは、システムの 実運用に必要な補機類も含めて評価した。この場合、総合 エネルギー利用効率は 13%近傍まで低下してしまう結 果になった。その主な原因としては、以下の三つがある。 第1 には、本システムを構成する主要な機器自体には、 エネルギー・システムという目的に則した設計がなされ ていないことにある。例えば、既存の水電解装置の多く は、水素を安定に生成することを最優先に機器設計や運 転条件の特定がなされているために、エネルギー収支の 上での無駄が多い。 第2 には、燃料電池に供給する燃料ガス(水素・酸素) の温・湿度条件を整えるために投入されるエネルギーが 過大である。例えば、本システムにおける供給ガスの加 湿方式としては、簡便なバブリング方式を採用している。 この方式であれば、将来的に本システムの水電解と燃料 電池とを一体化した可逆セル・スタックに代替して、さら に必要なシステム補器を簡素化する場合にも有利である。 しかしながら、バブリング方式の場合には、その補器自体 が大きくなり、またガス/水/配管経路などの温湿度管 理のために、過大なエネルギー投入が起きがちである。 第3 には、本システムで使用する補機類用の動力にあ る。これも既存の機器でシステムを構成した場合には、 それぞれの機器の運転条件/運転方法なども含めて、エ ネルギー・システムに適した補機の設計/選定が、必ずし も行われていない。 そこでトータル・システム・エンジニアリング技法を 駆使することによって、上述のような課題を克服し、本シ ステムにおける総合エネルギー利用効率の向上を図るた めに、システム側での対策と機器単体での対策の両面か らアプローチすることにした。 図 2. 水素を用いた電力負荷平準化システムの概要 O2 熱 需 要 昼 夜 温熱 <昼~夜> 可逆セル・スタック Reversible Cell Stack
H2 H2 O2 系 統 電 力 電 力 需 要 冷熱 水素を用いた電力負荷平準化システム 酸素貯蔵 水電解運用 水素貯蔵 (水素吸蔵合金タンク) 燃料電池運用 図 3. 5kW 水電解-水素吸蔵合金-燃料電池からなる トータル・エネルギー・システムの実証試験装置 水電解 ユニット 除湿 ユニット 水電解 ユニット 水電解装置( 5Nm3/h ) 恒温槽 ( ) 排熱回収用 ( ガス冷却用 恒温槽 ) 水素吸蔵合金タンク ( ) 750kg 燃料電池 ( 5kW ) 負荷装置 大気放出 切替弁 流量計 流量計 凝縮器 流量計 ( 水電解装置 3Nm3/h ) 除湿 ユニット 恒温槽 ( / ) 冷熱回収 冷却用 流量計 ガス加湿 ユニット 切替弁
システム側からのアプローチとしては、①加湿の高効 率化、②燃料電池の水素利用率の向上、③各装置の排熱 利用効率の向上といった三点が挙げられる。 まず加湿に関しては、バブリングにおける気泡サイズ や気/液の温度制御の最適化に加えて、システムの起動 時を考慮して過大に設計されているヒータ能力を、主に 二次側の負荷変動量に適合させる最適制御へと変更させ ることによって、現状で必要な投入エネルギーの75%削 減を改善の目標にすることができる。次に燃料電池にお ける水素利用率に関しては、燃料電池の廻りに高効率な 水素循環の仕組みを導入することで、現状の 50%から 90%まで向上させても、その電力変換効率は変わらない。 ただし、水素利用率を向上させるほど、水素消費量が減 尐、つまりその分だけの水素吸蔵合金からの水素放出量 が減尐するために、水素吸蔵合金タンクからの排熱回収 の総量は低下する。なお、排熱利用効率に関しては、可能 な限り余分な仕組みを排除することで熱損失を低減させ ること、さらには負荷側(利用系)との最適統合を行う ことによって、現状の30%から 70%まで向上できよう。 一方、主要機器単体からのアプローチとしては、水素 吸蔵合金タンクにおける熱管理の最適設計と、水電解装 置と燃料電池のエネルギー・システムとしての設計仕様 の見直しが挙げられる。水素吸蔵合金タンクに関しては、 単に水素貯蔵性能というだけでなく、システム全体の運 転性能に大きく影響することを考慮しなくてはならない。 その詳細は次項で述べる。水電解装置に関しては、前述 した通り、エネルギー・システムとしての仕様を再検討し、 水電解効率を 90%以上でかつ排熱利用を可能にする必 要がある。さらに燃料電池に関しては、水素吸蔵合金タン クの改善策と同様なことが言えることから、排熱利用効 率を70%にまで向上できよう。 以上のようなエネルギー・システムとして成立させる 上での第一ステップの改善策を施すことにより、本シス テムの総合エネルギー利用効率は、図4(3)に示すように、 40%を越す値まで向上可能であると推測される。 3.システムの熱管理 本システムの熱管理として、ここではとくに、システム 全体の運転性能に大きく影響する水素吸蔵合金タンクの 最適化について検討した。その結果、本システムに最適 な水素吸蔵合金と水素吸蔵合金タンクの設計仕様、なら びにシステムの運転条件を特定することができた。 本システム中の水素吸蔵合金タンクを最適化するため の指標としては、合金利用率がある。高い合金利用率を 達成することによって、水素吸蔵合金の使用量に係わる コストとタンクの設置スペースを低減できる。しかし、 水素吸蔵合金タンクの水素吸放出性能および排熱回収量 は、システム全体の運転性能に大きく影響するために、水 (1) 総合エネルギー利用効率の目標値 (2) 総合エネルギー利用効率の現状値 (3) 総合エネルギー利用効率の改善値 図 4. 本システムにおけるエネルギー・フローの分析 48.2% 43.2% 水電解装置 水素吸蔵合金タンク 燃料電池 利用電力 17.0kW 100% 82.8% 出力電力 5kW 43.2% 排熱 80 5.6kW 排熱 80 1.4kW 吸蔵排熱 35 1.4kW 放出排熱 10 1.0kW 総合エネルギー 利用効率 89.0 排熱70 利用 補機動力除く FC運転 13 WE運転 9 21 0 6 7 12 17 20 8.6% 8.6% (時刻) 8.6% 運転電力 100% 水電解装置 水素吸蔵合金 タンク 燃料電池 利用電力 41.2kW 50.2% 補助機器 49.8% 1.5% 10.3% 34.8% 3.6% 3.6% 排熱 80℃5.8kW 10.1% 19.2% 排気水素 % 水素利用率50 0.3% 直交変換ロス % 変換効率97 出力電力 5kW 8.8% 8.8% 補機 2.1% 冷却 4.6% 除湿 2.8% 2.1% 加湿 35.2% 3.0% 総合エネルギー 利用効率 12.9 % % 排熱30 利用 補機 補機 直交変換ロス % 変換効率97 排熱 80℃8.5kW 吸蔵排熱 35℃2.9kW 放出排熱 10℃2.0kW ( ) 補機動力含 ( h) FC運転 13 ( h) WE運転 9 21 0 67 12 17 20 (時刻)
素吸蔵合金タンクは、単に水素貯蔵量のみで設計するこ とはできない。 そこで本研究では、システム全体を合理的に設計する ために、まず必要な設計パラメータの抽出を行い、次に設 計パラメータが合金利用率に及ぼす影響を特定すること によって、高い合金利用率を達成することのできる運転 条件とシステムの設計仕様の特定を行った。 3.1 水素吸蔵合金タンクとシステムの運転条件 図5 には、水素吸蔵合金タンクの設計パラメータとシ ステムの運転条件との関係を示す。本システムでは、水 素吸蔵時の発熱を通常の冷却塔で得られる冷水程度で除 去し、一方、水素放出時の吸熱反応を空調機の冷熱源と して利用することにする。したがって、システムの固定 条件としては、水電解モードでの冷却水の入口温度 (35℃)と燃料電池モードでの冷水の入口温度(10℃) がある。また、燃料電池の運転圧力は、既存の機器の仕 様や安全確保の観点から、0.1MPa とすることが適当で あり、これも固定条件になる。そこで、設計上の可変パラ メータとしては、①水素吸蔵合金タンクの熱交換性能、 ②水電解の運転圧力、③水素吸蔵合金特性の三つになる。 これらのうち、①と②に対しては、水素吸蔵合金タン クにおける熱交換機構の簡素化と水電解における運転圧 力の低減化とが求められる。しかし、図5 に示すように、 これらはトレード・オフの関係にある。すなわち、水素 吸蔵合金タンクの熱交換性能を高くすれば、水電解の運 転圧力を低下させることができる。しかし、その水素吸蔵 合金タンクには高度な構造・機構が必要となり、結果的 に高価な装置となってしまう。それに対して、水電解の運 転圧力を高くすれば、その分、水素吸蔵合金タンクの熱 交換性能に余裕はできるが、排熱回収が難しくなるため に、システム全体の効率が低下してしまう。 一方、③の水素吸蔵合金特性によっても必要な水素吸 蔵合金タンクの熱交換性能や水電解圧力は影響される。 しかも、本システムに適した水素吸蔵合金の特性は、上 述の固定条件からほぼ決定されるものの、設計通りの特 性を有する水素吸蔵合金を製作できるか否かについては、 即断はできない。本研究ではまず上述の固定条件を基に 水素吸蔵合金を製作してみることにし、その特性値を用 いて、①と②の設計パラメータによる数値解析を行った。 3.2 数値解析によるシステム設計概要 3.1 項の設計パラメータを基に、水素吸蔵合金タンク の設計仕様のみならず、システム全体の設計/運転仕様 を決定するために、図6 に示すようなシステム全体を対 象にした熱と物質の連成移動現象の非定常数値解析を行 った。図に示すように、本システムが成立する条件とは、 四つの水素流量の瞬時値と積算値とをそれぞれ満足する ことである。 具体的には、水電解/燃料電池モードで生成/消費す る水素流量と水素吸蔵合金タンクで吸蔵/放出可能な水 素流量について、それらの積算値と瞬時値の双方を整合 させる必要がある。 すなわち本システムを設計する上では、水電解モード での水素流量は、水電解からの生成流量と水素吸蔵合金 タンクでの吸蔵流量のいずれに律速されるのか、また燃 料電池モードでの水素流量は、水素吸蔵合金タンクから の放出流量と燃料電池での消費流量のいずれに律速され るのか、さらに可逆セルを想定した場合には、それらの 水素流量は、水電解と燃料電池のいずれのモードに律速 されるかを特定する必要がある。なお、ここでの水素吸 図 5. 合金タンクの設計パラメータとシステム の運転条件との関係 水電解・燃料電池運転 時の水素吸放出能力 水電解運転圧力 吸蔵ライン 圧 力 ln 温度 1/T 冷却水 放出ライン 冷水 水素吸蔵合金タンク 内の温度分布 燃料電池運転圧力 設計パラメータ 水素吸蔵合金特性 設計パラメータ 熱交換性能 水電解運転時の 水素吸蔵能力 設計パラメータ 水電解運転圧力 1MPa 0.1 MPa 35 10 固定 上限 固定 固定 図 6. 数値解析モデルの概念図 水電解圧力 H2 Pump = 発熱 PWE Qa PFC = Pump d 吸熱 Qd = 冷却塔 空調負荷 可逆セル・スタック 燃料電池圧力 夜間電力 昼間発電 U
a/d=f(Fa/d), Ca/d=f(Fa/d)
Fa/d=f(Ta/d, PWE, τ) Qa/d=f(Fa/d) 水素吸蔵合金 Xp Xa/d=f(Fa/d) 必要条件 Xa基準 Xp基準 を同時満足 生成流量 消費流量Xc Xa 吸蔵流量 放出流量Xd 吸蔵 放出 L1 (冷却 コイル長さ L2 Tin, WE T in, FC Xd基準 Xc基準 Ta/d=f(Qa/d,a/d,Ca/d,L1,L2,d,U,τ)
H2 Fa Ta Fd Td 必要条件
0 13h Xd dt
Xc dt 0 13h
0 9h Xa dt
Xp dt 0 9h U Xa ≧ Xp Xd ≧ Xc 合金利用率が評価規準 合金利用率η 実際の吸放出量 理論吸放出量 十分条件 35 10 0.1 MPa蔵合金タンク内の数値解析においては、図7 に示すよう なモデルを採用した。 ここで、数値解析で用いた式について説明する。 水素吸蔵合金タンクの水素吸蔵量基準/水素放出量基 準の場合の水素流量計算式を式1 に、水電解の生成量基 準/燃料電池の消費量基準とした場合の水素流量の計算 式を式2 にそれぞれ示す。
2 1 0 2 2 theory d a 2 2 1 d a2
d
d
4
L L DN
r
r
z
t
F
L
L
X
··· (式 1)
3600
WEFC theory c p
N
X
··· (式 2) ここで、η[-]は式 3 に示した合金利用率である。また Fa/d [-]は水素吸蔵合金の水素吸蔵率(組成)であり、吉田 らの実験式[6]に従い、式 4 および式 5 で、それぞれ表さ れるものとした。
9h13h 0 ad theoryd
1
t
X
N
··· (式 3) 吸蔵反応:
13 a a 0 a a eq, WE a a1
ln
1
2
3
F
F
P
T
P
P
k
t
F
··· (式 4) 放出反応:
d 0 FC d d eq, d dF
P
P
T
P
k
t
F
··· (式 5) なお、Peq[MPa]は水素吸蔵合金の平衡圧力であり、大 角の近似式[7]に従い、式 6 で表されるものとした。また、 Ta/d [K]は水素吸蔵合金の運転温度であり、図 7 の左に示 す仮定により、水素吸蔵合金のエネルギー保存式のみで、 式7 のように表される。
2
2
tan
B
A
exp
0 0 eq
X
X
T
P
ad d a ··· (式 6) ここでのφ、φ0はプラトー域の平坦性、βはプラトー 域のヒステリシス、X0は最大水素吸蔵量をそれぞれ示し、 A、B は水素吸蔵合金の特性によって決まる定数である。 なお、±の記号は、吸蔵のときを+、一方放出のとき を-としている。
r
T
r
t
T
C
eff,ad ad d a d a1
ad d a d a eff, d a d a eff,1
1
Q
z
T
z
r
T
r
··· (式 7) ここで、C a/d[kJ/(kg・K)]は式 8 に示す水素吸蔵合金の 比熱であり、またQa/d [W/m3]は式 9 に示す水素吸蔵合金 の発熱/吸熱能力である。さらにλeff, a/d[W/(m・K)]は式 10 に示す水素吸蔵合金の有効熱伝導率であり、吉田らの 実験結果[6]を基に作成した。 2 a/d 1 a/da
F
a
C
··· (式 8)t
F
H
Q
a/d a/d ··· (式 9) a/d 4 3 a/d eff,
a
a
F
··· (式 10) ここでのα1・2[]は、水素吸蔵合金の構成材料によって 決まる定数(Neuman-Kopp 則による)である。 以上の式を用いて、本システムにおける水素吸蔵合金 の仕様およびシステムの運転条件の特定を行った。 3.3 水素吸蔵合金の設計・製作 図5 の固定条件に基づいて製作した水素吸蔵合金の特 性を図 8 に示す。この図から、水素吸蔵合金の設計仕様 通り、水電解最大運転圧力である1.0MPa以下において、 合金利用率 80%を満足する水素吸蔵合金を製作できた ことを確認するとともに、数値解析に必要な水素吸蔵合 金の固有定数を特定することができた。その値を表1 に まとめて示す。 3.4 数値解析結果に基づくシステム設計 3.2 項の数値解析と並行して、別途に行った実験結果 との比較によって、両運転モードにおいて、本数値解析 の妥当性は確認できている[8]。そこで、本解析方法を用 図 7. 水素吸蔵合金充填層内の数値解析モデル 計算領域 合金充填層 熱媒配管 熱媒配管 流速 U r z 長さ L2 ピ ッ チ L1 管径 D 境界条件
T合金 T管壁
h n T 0 n T 境界条件 数値解析モデルにおける仮定 水素ガスによる熱移動および 水素と合金間の熱移動を無視 水素と合金のρ×CPを比較す ると 合金の方が2 3オーダー 大きい 熱物性値の温度依存性を無視 本実験の温度範囲 ΔT=30K では 温度による合金の熱物性 値の変化量は水素吸蔵率による 変化量の1/10以下であるいて、合金タンクの熱交換機構と水電解の運転圧力とが 合金利用率に及ぼす影響を計算することによって、本シ ステムに適した設計条件の特定を行うことができる。そ の数値解析結果を図9 に示す。 図9 上方の左側には、水電解モードにおける計算結果 を、また右側には、燃料電池モードにおける計算結果を、 さらに下方の左側には、両モードの計算結果を組み合わ せた可逆セル・スタックを想定した場合の計算結果を、 加えて下方の右側には、熱媒配管系におけるコイルの管 径についての計算結果をそれぞれ示している。 これらによると、水電解の運転圧力と熱媒配管系のコ イル・ピッチ(隣接する熱媒配管の距離)は、常に水素 流量を「生成/消費」基準とした場合の水素吸放出特性 に律速されていることが分かり、合金利用率80%を満足 するためには、0.7MPa 以上の水電解の運転圧力が必要 なこと、コイル・ピッチは水電解モードでの水素吸蔵特 性に影響されることなく、燃料電池モードでの水素放出 特性から決定されることが分かった。すなわち、水電解 の運転圧力は、水電解モードでの水素吸蔵特性で設計可 能であり、コイル・ピッチと管径によって決定される水 素吸蔵合金タンクの熱交換性能は、燃料電池モードでの 水素放出特性で設計可能であることが分かった。 以上の計算結果は、これまでの小型(水素吸蔵合金量: 2kg)の装置を用いて検証実験を行った結果から、十分 に整合性のある設計法であることを確認している[8]。 さらに本システムについて、実用規模における本設計 法の妥当性を実証するために、表2 に示すような熱交換 の能力と性能の異なる大容量の水素吸蔵合金タンクを製 作した。その水素吸蔵合金タンクの外形写真を仕様とと もに図10 に示す。これにより、これまでの小型の実験装 置では検証できていない総合エネルギー利用効率や排熱 の有用性の確証、さらには本システムにおける負荷追従 性/操作性/安全性等をも含めて、本システムの実用化 に向けた実証に供することができる。 4.結論 「水素吸蔵合金を中心としたトータル・エネルギー・ システム」を対象にした検討を行った結果、以下のこと が得られた。 本システムの総合エネルギー利用効率は原理的には 80%以上にでき、その値は既存のコージェネレーショ ン・システムや他の新型二次電池の場合と遜色のない性 能であることが確認できた。 また、既存の水電解や燃料電池等の機器を用いて構成 させたシステムの総合エネルギー利用効率の評価を行う 図 8. 水素吸蔵合金の PCT 特性曲線 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 吸蔵(30℃) 放出(30℃) 吸蔵(10℃) 放出(10℃) 0.1 1 圧力 ln P [M P a] 水素吸蔵率(組成:H/M) F [-] 燃料電池運転圧力( = 0.1MPa) 合金利用率 80% 水電解最大運転圧力( = 1.0MPa) 表 1. 製作した水素吸蔵合金の固有定数 A B φ φ0 β X0 10.85 3534 0.093 0.002 0.13 1.05 図 9. 数値解析によるシステム設計 水電解モードでの合金利用率 WE[%] 燃料電池モードでの合金利用率FC[%] 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1.0 20 30 40 50 60 コイルピッチ L1[mm] 水 電 解 運 転 圧 力 PW E [ M P a] 水 電 解 運 転 圧 力 PWE [ M P a] 1.0 0.9 0.8 0.7 0.6 0.5 60 50 40 30 20 コイルピッチ L1 [mm] D =9.53mm D =6.35mm D =12.7mm 、 ■水素の流量基準を ① 吸蔵、② 生成、③ 放出、④ 消費とした場合の解析結果 ④ 消費流量基準 ③ 放出流量基準 ② 生成流量基準 ① 吸蔵流量基準 管径D: 9.53mm ■運転条件が律速される流量基準 ■管径 D の影響 生成・消費基準 ( ) 、 可逆セル・スタックで 合金利用率80%以上を確保できる運転条件 1.0 0.9 0.8 0.7 0.6 0.5 水 電 解 運 転 圧 力 PW E [ M P a] 60 50 40 30 20 コイルピッチ L1 [mm] 合金利用率 WE [%] 80 70 60 50 70 60 50 吸蔵・放出 基準 80 合金利用率 FC [%] 70 60 50 40 30 20 コイルピッチ L1 [mm] 60 706080 80 0.85 0.85 生成・消費 基準 38 ( ) 水素吸蔵合金タンク 1号機 設計ポイント ( ) 水素吸蔵合金タンク 3号機 設計ポイント 、 、 。 ※水電解運転圧力の設計は 今後の合金種類の変化に対応可能なように 余裕を設定した ( 2号機 )
ことで、システム全体の最適な運用方法や今後に重点的 に行うべき機器の改善課題の特定ができ、さらに本シス テムにおける「水素」と「電気」、ならびに「熱」の同時 有効利用に関するエンジニアリング技法を開発した。と くに、システム全体を対象にした数値解析を行うことで、 本システムに最適な水素吸蔵合金および水素吸蔵合金タ ンクの設計仕様を特定することができた。 今後は、本解析結果を基に設計・製作した水素吸蔵合金 タンクを含む図3 に示す発電能力 5kW を擁するトータ ル・エネルギー・システム試験装置にて、負荷追従運転 制御方法を検証・確証するとともに、システム全体およ び運転制御系の簡素化を図り、図 4(1)に示した総合エネ ルギー利用効率の実現を目指す。 なお本研究は、独立行政法人産業技術総合研究所の分 野別重点課題:「分散型エネルギー大規模導入実証研究」 の内の1 テーマである「水素エネルギー・トータル・マ ネジメント手法の研究」に連携して実施したものである。 主な記号 C :比熱 [kJ/(kg・K)] D :合金タンク内の熱媒配管の管径 [m] F :水素吸蔵合金の水素吸蔵率(組成;H/M) [] H :体積当たりの水素吸蔵合金の反応熱 [kJ/m3] K :水素吸蔵時の反応速度定数 [s-1] L1 :水素吸蔵合金タンク内の熱媒配管間の距離 [m] L2 :水素吸蔵合金タンク内の熱媒配管の長さ [m] Ntheory :水素吸蔵合金単位質量当たりの 理論水素吸放出量 [mol/(s・kg)] P :運転圧力 [MPa] Peq:水素吸蔵合金の平衡圧力(合金温度と 雰囲気圧力と水素吸蔵量で定まる圧力) [MPa] PFC:燃料電池運転圧力(= P0) [MPa] P0:標準気圧(= 0.101325) [MPa] Q :水素吸蔵合金の発熱/吸熱能力 [W/m3] T :温度 [K] U :水の流速 [m/s] X :水素流量 [mol/(s・kg)] Xa:水素吸蔵基準の水素流量 [mol/(s・kg)] Xc:水素消費基準の水素流量 [mol/(s・kg)] Xd:水素放出基準の水素流量 [mol/(s・kg)] Xp:水素生成基準の水素流量 [mol/(s・kg)] τ :運転時間 [h] ε :水素吸蔵合金充填層の空隙率 (=1-合金充填率) [] η :合金利用率 [] λ :熱伝導率 [W/(m・K)] λeff :有効熱伝導率 [W/(m・K)] :密度 [kg/m3] 添字 a :水素吸蔵 d :水素放出 FC :燃料電池 in :入口 MH :水素吸蔵合金 WE :水電解 参考文献 1. 小澤由行;"水素利用技術集成 製造・貯蔵・エネルギー利用 第5 編将来展望 第 2 章「水素の多角的機能を活用したエネ ルギーマネージメント」"、株式会社エヌ・ティー・エス、2003、 p516-542
2. 増田正夫、小澤由行; Thermal Science & Engineering, 8[1], 47(2000) 3. 通産資料出版会;"コージェネレーション総合マニュアル"、 日本コージェネレーションセンター編、2003、p30 4. 中部電力㈱;"ナトリウム硫黄電池による電力貯蔵の研究"、 技術開発ニュースNo.69、1996、p29 5. 西嶋健一;電気評論,82(7),36(1997) 6. 吉田篤正、仲恭宏、大北勉;日本機械学会論文集B編, 56 (522), 278-282(1990) 7.大角泰章;"水素吸蔵合金-その物性と応用-"、株式会社アグ ネ技術センター、1997、p419 8. 岡本英之、増田正夫、小澤由行、飯塚雅由;第 36 回空気調 和・冷凍連合講演会予稿集, 9-12(2002) ■水素吸蔵合金仕様 ①合金種類:MmNi 系 ②充填量:210kg(充填率:50%) ③合金利用率:80% ■水素吸蔵合金タンク仕様 ①型式:シェル&チューブ型(フィンなし) 熱交換器 ②水素吸放出制御方式: 水素吸蔵合金温度制御 図 10. 製作した水素吸蔵合金タンクの外形写真と機器仕様 表 2. 製作した水素吸蔵合金タンクの仕様 熱媒配管 外径 熱媒配管 ピッチ タンク 外径 タンク 長さ 1 号器 12.7 38 400A 500 2 号器 12.7 30 400A 500 3 号器 9.53 30 400A 500