在宅医療における精神的・社会的フレイル(Frailty)への多職種連携アプローチ -心と身体に関わる医療・介護・福祉専門職等を対象とした多職種連携研修会-
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(2) 目. 次 1.はじめに 研修会実施の背景―フレイルを多職種連携の中に位置づけていく 目的―研修会「テーマ」の設定 本報告の構成・内容 開催団体紹介 2.研修会までの経緯 研修会概要の策定 研修会講師との熊本での打ち合わせ ・熊本市内の状況 ・講師の選定 ・ 『くまモン座』映画上映の意味 研修会開催の広報活動 介護・災害などのボランティア活動者への呼びかけ 3.研修会報告 研修会スケジュール 参加者の状況 各講演報告 1)開会挨拶――フレイルと今回の研修会の目的:小村 富美子 2) 「くまモン座」まごころ館支配人 定永祐子先生 「くまもとで、まってる。 」 3)講演:濱川 慶之先生 4)講演:岡元 奈央先生 5)講演:勝谷 知美先生 6) 「くまモン座」映画 第二部 「ふるさとで、ずっと。」 7)講演:住田 功一先生 8)講師と参加者の意見交換(開場からの質問用紙をもとに) 9)総括:荒井 秀典先生 4.研修会を終えて その後の参加者の方々からのご意見・反応 5.反省と感想. 2.
(3) 1.はじめに 【研修会実施の背景―フレイルを多職種連携の中に位置づけていく】 超高齢社会となった日本において、高齢化率は 2014 年に 26%に達し、人口の 4 人に 1 人が 65 歳以上という状況にある。また高齢者に限らず、国民の 60%以上が介護が必要となった時、 「自 宅での療養」を希望しており(平成 20 年 厚生労働省「終末期医療に関する調査」) 、地域で各部 門・職種が連携をとりながら、在宅医療の支援を推進していく必要がある。高齢化の一方で少子 化も進み、家庭や地域での介護力は不足している状況にある。地域在住高齢者・在宅療養者およ びその家族の抱える社会生活における困難感・精神的ストレスは増大しており、身体面での支援 以外にも生活環境整備や心理・精神面のサポート整備は、地域包括ケア推進の上で喫緊の課題と なっている。 高齢者医療において、最近特にフレイルが注目されている。「フレイル(Frailty) 」とは、「高 齢期に生理的予備能が低下することで、ストレスに対する脆弱性が亢進し、不健康を引き起こし やすい状態」とされ、日本で議論され始めた頃は「虚弱」と訳されていた経緯がある。近年、諸 外国では「フレイル」を身体機能だけではなく、精神的・心理的機能(認知機能や抑うつ等) ・社 会的機能(地域社会との交流等)も含めた生活機能全体の低下に着目した研究が行われている。 これは在宅生活の継続を支援する上できわめて重要な視点であり、当事者および家族の「精神的・ 心理的フレイル」 「社会的フレイル」を予防・軽減するために関係専門職が連携を取り合い、精神 的(心理的) ・社会的支援をスムーズに行うための基盤作りが、在宅療養生活継続のためには必須 である。 各専門職の他職種業務に対する認識状況の把握は、職種間連携を改善・構築していく上で基本 となる情報である。高齢者・在宅療養者およびその家族が「精神的・心理的フレイル」 「社会的フ レイル」に陥ることなく、より良質な在宅生活を継続していく上で、両分野の専門職の相互認識 が深まり、業務連携が活性化することが期待される。 【研修会「テーマ」の設定】 本研修会は、地域在住高齢者・在宅療養者およびその家族の精神的・社会的フレイルの予防あ るいは軽減を支援する医療・介護・福祉専門職の相互認識と連携状況をいかに構築していくか、 そのためには何が必要であるのかを、 「あるテーマ」をもとに講師の講演を通して学び、その後の 意見交流で、共に考え、次の行動につなげていくことを目的とする。 研修会での意見交流では、どのような専門職間の連携が、高齢者・在宅療養者およびその家族 の精神的・社会的フレイルの予防あるいは軽減に寄与できるか、どの職種が何に貢献できるかに ついて、各職種の立場から意見交流と講師との質疑応答を行い、精神的・社会的フレイルの予防・ 軽減に対する多職種連携の課題と可能性を探る。 研修会の主たる目的は以上に示したものであるが、参加者がより身近に感じ、講師との意見交 流が可能な「テーマ設定」が必要であった。その「テーマ設定」を検討中の 2016 年 4 月 14 日 21 時 26 分頃、熊本を震源とする大地震が発生した。その後も 4 月 16 日 1 時 25 分に震度 6 強の 本震が再び熊本を襲い、その被害状況がマスメディアを通じて連日報道された。 本研究会事務局の小村は、4 月末に熊本市の知り合いを通じて、熊本の状況を携帯電話(固定 3.
(4) 電話は寸断されていた)で直接聞く機会を得た。今回の熊本地震もそうだが、地震は「まさか自 分達の住んでいる土地には起こらないだろう」と思っている時に予測なしに襲ってくる。その被 害は高齢者や児童、病気や障がいを持つ人には、とりわけ厳しい状況を一瞬にして作り出す。 「身 体的なフレイル」はもちろんだが、日頃はあまり目立ちにくかった「精神的・心理的フレイル」 「社会的フレイル」が一気に露呈してくる状況に遭遇し、当初より予定していた「認知症介護」 に加え、 「震災時に露呈するフレイルとそれらへの多職種の対処」を、研修会のテーマに設定す ることとした。震災に対して、 「どこか遠いところの出来事」と認識しがちな京都でこの研修会を 行い、震災と「様々な人々の持つ弱さ」を考え合うよい機会になると考えた。 【報告の構成・内容】 ① 本研究会実施に関する財団への申請時には、 「認知症介護とフレイル」周辺の課題を取り上 げることは決まっていた。その後の起こった熊本地震により「地震災害とフレイル」 「ふるさとで ずっと住み続ける困難さ」をテーマに加えることになった。その経緯についても報告する。 ➁ また、今回の研修会では「広報」に実に多くの団体や個人の方は多のご協力を得て、研修会 までたどり着いた経緯がある。 「フレイル」という言葉は、日本老年医学会の「フレイルに関する ステートメント」 (当日配布資料 1)にもあるように、2 年前よりやっと我が国で普及活動が始ま ったばかりの用語であり、それを含めた研修会であることをパンフレットだけで理解いただき、 参加申込みをしていただくためには、パンフレットの修正や協力団体への説明など、これまで当 研究室が行ってきた「多職種連携のための研修会」とは異なるハードルが存在した。広報活動に はかなりの時間と労力を費やした。 「認知症介護」や「フレイル」をより身近なものと感じてもら えるよう、 広報パンフレットも周囲の意見を入れながら工夫を行った(記載必要内容は変更せず) ので、それについても報告する。 ③ 研修会でのプログラム構成・講演内容・講師と参加者との質疑応答内容を報告する。 ④ 研修会後の参加者からの問い合わせや質問、今後への希望についても報告する ⑤ 当研究室で継続して行っている「多職種連携研修会」の効果評価のための調査も同時に実施 した(無記名自記式) 。これは、医療・介護・福祉関連職種の参加者に限定して配布し、他の研修 会との比較分析を行っている。 「地域連携尺度得点」「クリティカルシンキング得点」などを質問 票に加え、今後の研修会開催時の参考になる指標作成を目的としている。今回の報告書では他研 修会との比較が困難なため結果報告は掲載していないが、しかるべき時期に論文報告予定である。 【開催団体】 京都大学 フレイルと多職種連携研究会 顧 問. :荒井秀典 (国立長寿医療研究センター 副病院長). 共同研究者:濱川慶之 (十条武田リハビリテーション病院 内科部長) 事 務 局:小村富美子(京都大学大学院医学研究科 人間健康科学系専攻 博士課程) 4.
(5) 2.研修会までの経緯 【研修会概要の策定】 当研究会事務局の小村は、その後も熊本の友人で研修会にて講師として講演をしてくれた定永 祐子氏に事前に数回、研修会講師を誰に依頼するのか、候補を挙げてもらった。その時点で ・震災時の認知症高齢者の受け入れ … 岡元奈央氏 (NPO 法人「あやの里」副代表) ・震災時の在日外国人の避難援助および避難所開設の実施 … 勝谷知美氏(熊本市国際交流振興事業団 事務局長) ・阪神淡路大震災を振り返って … 住田功一アナウンサー(NHK 大阪放送局 ) の推薦を受けた。講師陣との交渉の結果、9 月開催が可能となったため、会場予約を行い、6 月 22 日から 25 日にかけて熊本市を訪問し、震災後の熊本の状況の把握、各講師との打ち合わせを 行った「フレイル」の講義については、当研究会顧問である荒井秀典が学会主催のためスケジュ ールの調整に無理が生じたため、荒井作成の資料を配布し、 「フレイルとは何か」を小村が資料を もとに最初に解説をすることとした。 【研修会講師との熊本での打ち合わせ】 熊本市内の状況 2016 年 6 月 22 日から 25 日にかけて、熊本市にて講師を依頼していた定永氏・勝谷氏・岡元 氏と講演内容や全体構成についての打ち合わせを行った。 訪問時の熊本市内はあちこちの建物がブルーシートに覆われており、倒壊した建物がそのまま の状態で撤去を待っている状況も見られた。移動で走った道路はいたるところでひび割れやいび つな隆起や陥没が多数見られた。 《毎日新聞 報道写真より》. 九州自動車道の被害. 熊本城天守閣の被害. 講師の選定 定永祐子氏は、熊本大学で外国からの留学生への日本語を教えながら、認知症介護の家族会世 5.
(6) 話役、 『くまモン座』まごころ館支配人(資料 8 参照)など多忙な中、今回の企画に大変なご尽 力をいただいた。 「熊本チームの講師」の勝谷氏、岡元氏および NHK 大阪放送局の住田氏は、全て定永氏よりご 紹介をいただいたが、定永氏とは仕事などで交流のある方で、 「このテーマであればこの方々はど うか」と推薦をいただいた。研究会にて熟考の上、勝谷氏、岡元氏および住田氏に講師依頼を行 い、全員より快諾を得た。 『くまモン座』映画上映の意味 定永氏が『くまモン座』まごころ館館長であったことは偶然のことであった。私自身はこの映 画のことは知っており、 「くまもとで、まってる。」 「ふるさとで、ずっと。 」の二作品が熊本地震 前に撮影を終えていたため、震災前の熊本の情景が映像に残されていたこと、 「ふるさとで、ずっ と。 」については在宅生活を目指すことと合わせて考えるたいへん良いきっかけとなると思い、上 映を定永氏に依頼した。 「自分の住んできた場所でずっと住み続けられるとは限らない」という状 況は震災などでも起こるし、経済的および家族の諸事情にも影響を受けるので、今回の研修会に は「やわらかい視線からの問題提起」という位置づけでの上映となっている。 【研修会開催の広報活動】 広報活動への協力者 これまでも荒井秀典研究室では、毎年夏に地域医療に関する研修会を、京都大学内の施設で実 施してきた。参加者リストをもとに、7 月より本研修会について連絡を行ったが、参加申込み数 は思うように集まらなかった。そこで、関連のある職種団体などにパンフレット配布やホームペ ージ、新聞への掲載を依頼した。こうしたご協力があって、多くの方々に研究会の存在を知って いただき、参加をいただけた。本報告書の最後に、広報活動にご協力いただいた団体を記載させ ていただく。依頼させていただいた団体は、これまでの研修会のアンケートなどで「こうした職 種とつながるべき」 「研修会の声をかけるべき」とのご意見をいただいた団体であった。その点を 考えると、この広報活動そのものが「多職種連携」のひとつの現れになっていたかもしれない。 また、 「フレイル」という我が国ではまだ専門家以外にはさほど馴染みのない用語の説明を「初 版」パンフレット(資料 1)に入れたため、 「読みづらいのではないか」との意見をいただき、 「要 約版」のパンフレット(資料 2)を作成して、関連団体や個人宛郵送にて配布を行った。広報範 囲は、会場が JR 京都駅前であったことから、京都府・滋賀県・奈良県とした。 【介護・災害などのボランティア活動者への呼びかけ】 京都市でボランティア活動をまとめている団体から、 「ボランティア活動をしている方々に広報 をしたいので、パンフレットを送ってほしい」との依頼を受けた。熊本での打ち合わせでは、各 施設で日本人・外国人問わずボランティアの人々が集まり、整然とした活動をみていたため、 「要 約版」のパンフレットでは積極的に「ボランティア活動をしている方々」 「興味のある方々」に声 かけをしていった。 「多職種連携の研修会」というとこれまで「専門職に限る」という参加資格の 縛りがあったが、それに対して「ボランティアという大きな力を活かす連携」を考えるよいきっ かけとなった。 6.
(7) 《資料 1》 案内用パンフレット(初版:表). ※「字が細かく読みにくい」との意見で「要約版」作成. 7.
(8) 案内用パンフレット(初版:裏). 8.
(9) 《資料 2》 案内用パンフレット(修正 要約版:表). ※ 参加資格に「ボランティア」を加える. 9.
(10) 案内用パンフレット(要約版:裏). 10.
(11) 3.研修会報告 ・会場:キャンパスプラザ京都 第 1 講義室(JR 京都駅 徒歩 5 分) ・日時:2016 年 9 月 17 日(土)16 時~19 時 45 分 【参加者】 ・申込人数:87 人 ・当日参加者:73 人 ・テーマ: 『こころ・からだ・生活の「弱さ(フレイル) 」を多職種で支えていこう』 ・主催:京都大学 フレイルと多職種連携研究会 ※ 当日の会場スタッフは経費の関係で「ボランティア」の方々4 名にお願いした。 《職種・年齢》 ボランティア実践者も参加しているため、職種集計はあくまで自己申告にもとづいている。 薬剤師. 13. 看護師. 7. 訪問看護師. 2. ケアマネジャー. 2. 薬学生. 2. MSW. 1. 精神保健福祉士. 1. 作業療法士. 1. 臨床検査技師. 1. 歯科衛生士. 1. 介護福祉士. 1. 心理カウンセラー. 女性. 男性. 20代以下. 3. 1. 1. 20代. 2. 0. キャリアコンサルタント. 2. 30代. 6. 0. 行政職. 1. 40代. 7. 1. 学校教諭. 2. 50代. 18. 3. 出版関係者. 3. 60代. 6. 4. 大学院生. 2. 70代. 8. 2. 施設管理者. 1. 福祉用具専門相談員. 1. 80代. 1. 1. 生活相談員. 1. 不 明. 6. 4. その他(ボランティア他). 27. 合 計. 57. 16. 合 計. 73. ※ 20歳以下の参加者は親の同伴者. 11.
(12) 【研修会 スケジュール】 16:00 ~ 16:30. 「くまモン座」公演 第一部 映画 『くまもとで、まってる。 』 (熊本大学・「くまモン座まごころ館」支配人 定永 祐子). 16:45 ~ 17:00. 開会あいさつ. 「フレイルとは何か」. (京都大学医学研究科 小村 富美子) 17:00 ~ 18:00. 『認知症と向き合う―私の経験から』 (十条武田リハビリテーション病院内科部長 濱川 慶之). 18:00 ~ 18:20. 『これからの介護施設に求められる役割 ― 熊本地震からみえた地域包括ケアシステムのあり方』 (熊本市 NPO 法人「あやの里」副代表 岡元 奈央). 18:20 ~ 18:40. 『災害時における外国人支援の在り方― ―外国人避難所の運営及び避難所巡回から見えてきたこと』 (熊本市国際交流振興事業団 事務局次長 勝谷 知美). 18:40 ~ 19:10. 「くまモン座」公演 第二部 映画 『ふるさとで、ずっと。』 (熊本大学・「くまモン座まごころ館」支配人 定永 祐子). 19:10 ~ 20:10. 『語り継ぐとは…阪神淡路大震災ノートから』 (NHK大阪放送局アナウンサー 住田 功一). 20:10 ~ 20:35. 講師と参加者との意見交換. 20:35 ~ 20:45. 総括. 20:45 ~. 閉会あいさつ (小村 富美子). (国立長寿医療研究センター 副病院長 荒井秀典). 《受付の様子とボランティアスタッフの皆さん》. 12.
(13) 《資料 3》 研修会当日のプログラム. 13.
(14) 《資料 4》 研修会での「フレイル」に関する配布資料 1. 14.
(15) 《資料 5》 研修会での「フレイル」に関する配布資料 2 超高齢社会におけるフレイルの意義. 荒井. 秀典. 国立長寿医療研究センター 副院長. 少子高齢化により、現在高齢者人口は 25%を超えており、約 10 年後の 2025 年には 75 歳以上 の後期高齢者が 2000 万人を超えると推定されている。このような人口構成の変化を示すわが国 においては、さらなる健康寿命の延伸が求められている。我が国の健康寿命は男性で約 9 年、女 性で約 13 年平均寿命より短く、介護を必要とする期間は依然として長い。したがって、いかに 要介護状態に陥らないようにし、健康寿命を延伸するかが、超高齢社会である日本に課せられた 喫緊の課題である。 加齢に伴い、様々な疾病への罹患が増えるが、同時に臓器機能が徐々に低下し、生理的な予備 能が減少する。65 歳以上 75 歳未満の前期高齢者と 75 歳以上の後期高齢者を比較すると、後期 高齢者においては加齢による様々な生理的予備能の衰えにより、外的なストレスに対する脆弱性 が高まり、感染症、手術、事故を契機として要介護状態に陥ることが増えてくる。このように、 加齢とともに環境因子に対する脆弱性が高まった状態が「フレイル」であるが、もともと虚弱と 訳されていた概念である。平成 26 年 5 月当学会から、Frailty の日本語訳として、新たに提唱し たのがフレイルである。その理由としては、加齢に伴う身体機能の衰えは不可避的なものではあ るが、適切な介入がなされれば、要介護に至ることが予防でき、健常な状態に戻る可逆性を有す るためである。すなわち、 「虚弱」では、可逆性などの性質と相反する印象を与えかねないために、 カタカナ表記とした。フレイルは、高齢者の生命・機能予後の推定や包括的医療を行う上でも重 要な概念であり、介入可能な病態であることから高齢者の健康増進を考える上では、すべての国 民が理解すべき概念である。本プレスセミナーでは、その概念、病態生理、適切な介入方法など について述べたい。. 当日配布資料 出典:日本老年医学会 第 2 回プレスセミナー 「フレイルとサルコペニアを知る」 2015 年 5 月 11 日 大手町サンスカイルーム. 15.
(16) 《資料 6》 研修会での「フレイル」に関する配布資料 3. 当日配布資料 出典:日本老年医学会 第 2 回プレスセミナー 「フレイルとサルコペニアを知る」 (荒井秀典) 2015 年 5 月 11 日 大手町サンスカイルーム. 16.
(17) 《講演内容の報告》 講演者との事前の話し合いで、各講演者の資料は配布せず。報告スライドについても個人情報 保護のため、内容を小村がまとめて「報告」するという形をとる。 1.. 開会挨拶 『フレイルと今回の研修会の目的』 小村 富美子 (京都大学大学院医学研究科). 「フレイル(Frailty) 」とは、 「高齢期に生理的予備能が低下することで、ストレスに対する脆弱 性が亢進し不健康を引き起こしやすい状態」とされ、日本では「虚弱」と訳されていた経緯があ ります。 「フレイル」は、身体機能だけではなく、精神的・心理的機能や社会的機能も含めた側面 への注目も重要で、高齢者・在宅療養者およびそのご家族が「精神的・心理的フレイル」や「社 会的フレイル」に陥ることなく住み慣れた地域で自分らしい在宅生活を続けるには、関係専門職 がこうした「フレイル」を理解し、互いの業務を理解しながら連携を取り合うことが、日常はも ちろん「非常時」にも強い力を発揮するでしょう。 本日は、認知症介護・熊本震災・阪神淡路大震災という3つの場面での体験報告を聴きながら、 そうした場面でどのような「フレイル」が存在し、私たちはそれらに対して何ができるか考えた いと思います。 本日の研修会は、16 時から 20 時前までという長丁場で参加者の皆様には苦行を強いるかもし れません。しかし、参加されている京都・滋賀・奈良の方々にとって、つい先日震災のあった熊 本から 3 名の講師をお招きして直接お話を聴ける機会は滅多にないと思われますので、ご無理の ない範囲でこの時間を共有し合い、最後の討議が活発になりますことを願っています。 2.. 「くまモン座」まごころ館による映画上映 第一部『くまもとで、まってる。』 定永 祐子 ( 「くまモン座」まごころ館支配人 熊本大学) 本日の研修会では「くまモン座」映画『くまもとで、まってる。』 『ふるさとで、ずっと。』 が. 上映されます。この 2 本の映画は、 「総支配人」であるくまモンが厳正な審査で「支配人」を選 び、その「支配人」によって小山薫堂氏が総監督、県内 5 つのテレビ局が協力して制作された 2 本のドキュメンタリー映画をさまざまな場所で上映するというプロジェクトです。 これらの映像には、図らずも今年 4 月の熊本地震の被害を受ける前の「くまもと」が記録され ています。 本日は映画を通して、ご参加の皆さんと共に「ふるさとで、ずっと」生きていく意味を感じ合 いたいと思います。. 17.
(18) 3.. 濱川慶之先生による講演 『認知症と向き合う―私の経験から』 (十条武田リハビリテーション病院内科部長) 濱川先生は、現在お勤めの十条武田リハビリテーション病院に移られる前は、平成 26 年 3 月. まで京都大学老年内科で病棟医長として認知症の診療に携わっておられました。勤務先を変えら れた理由を、 「これからさらに高齢化がすすんでいくというこの時代に、高齢者の人々の診療を考 えていかなければいけない時期に、京都大学医学部の老年内科は廃科となり、なくなりました」 ということをご自身の紹介文でいただきました。 当日のご講演は、先生ご自身のお父様が認知症によって独り暮らしが難しくなっていき、お母 様の施設入所の後、 お父様の入所という経緯を、 写真を使ってわかりやすくお話くださいました。 認知症がどのように進んでいくのか、医師である濱川先生は辛さをこらえつつ、お父様の様子 を写真に収めていかれました。その写真のどれもが、認知症の人を介護している人たちならば「あ ぁ!そう!これ!…このことにどれだけ苦しみ悩んできたことか…」と深い共感を呼ぶものであ ったと思います。そして、 「ではどうすればいいのか」――多く方が「自分のこと」と感じられて いたようでした。濱川先生からいただいた文章をそのまま載せさせていただきます。 「現在は内科一般診療を行っております。認知症の診療を行ってきたからこそ、今日こ こに集まって来ていただいた皆様に見ていただくように、自分の親が認知症の進行でむ ちゃくちゃになっていく経過を記録できたのだと思います。今だからこそ笑って講演で きますが、認知症の父親に関わっていたときは、自分自身もうつになるような思いで、 夜もなかなか熟睡できない日々でした。 本日の講演の 1 枚 1 枚のスライドは、皆様に新しい知識を学んでいただける内容はほ とんどありませんが、私の深い思いが詰まっております。その思いを直に感じていただ き、認知症という病気の理解に少しでもお役立ちできればと願います。 私もこのたびの両親の介護経験を通じて学んだことはたくさんあります。認知症の診 療だけでは到底知りえないこともたくさんありました。歳をとるということがここまで 大変なことなのかと思い知らされました。 これからの超高齢化時代において認知症予防は、医療の分野だけで対処できるもので はありません。認知症予防を有効に行うためには、地域住民一人ひとりが認知症という 病気への意識を高め、理解を深めることも大切であります。 認知症を抱えるご家族のために、またご自身の認知症予防のために、まずは個人の知 識と理解を深めるために少しでも今日の講演がお役立ちできることを念願します。」 老年内科医である濱川先生が、 「お父様の記録」という意味をはるかに超えて、多くの認知症を 介護する家族を励ますため、学生教育に「認知症とは何か」を教えるために、我々にお見せくだ さったスライドとお話は、どのような認知症の本よりも参加者の胸に深く響いたのではないかと 思います。 今回のもう一つのテーマである「震災」などの環境の激変の際には、 「認知症」は家族や施設に とっても社会にとっても、 きわめて難しい問題を多く投げかけてくることは確かだと感じました。 18.
(19) 《濱川先生のご講演の様子》. 4.. 岡元 奈央先生による講演 『これからの介護施設に求められる役割― 熊本地震からみえた地域包括ケアシステムのあり方』. (熊本市 NPO 法人「あやの里」副代表) 講師の岡本奈央先生は、国際線のキャビンアテンダントとして勤務されていた経歴がおありで す。お母様が「あやの里」の代表を務められ、日々介護の仕事に打ち込まれている姿をご覧にな り、介護の世界に飛び込まれました。 入居者の皆さんは認知症の方々がほとんどとのことで、1 回目の震災の夜、2 回目の震災とス タッフの中にも被害に遭われた方がおられたそうです。2 回目の本震は夜中の 1 時半頃でしたが、 機転を利かせたスタッフ達に助けられ、大揺れの中をなんとかしのがれました。 地震直後は水が止まり、スタッフの皆さんのご苦労は大変なものだったと思われます。 「あやの 里」は震災被害がそれほど大きくなかったとのことですが、それでもライフラインの寸断など大 変な中、近隣の高齢者の方々を受け入れられたそうです。室内は大地震の際には危険ですし、当 然、室内には入りきらない状態となり、屋外(庭)で非難されてきた方々と共に過ごされたよう です。こうした極限状態のような中、施設代表の岡元あやさんの明確な指示の下、スタッフの皆 さんは各持ち場で入居者さんの心の安心を守るべく、機敏に動かれていたようです。. ※ 「あやの里」Facebook より. 6 月 16 日の屋外(庭)での避難の様子 19.
(20) 16 日夜から雨が降り出し、室内に移動されました。外からの避難者の方で大変にぎやかな庭で の朝食時には、入居者の方の「人がたくさんいて楽しい。キャンプみたいやわ」と嬉しそうな笑 顔と言葉に、お疲れだっただろうスタッフの皆さんは、心が癒されたとのことでした。 講師の岡元奈央さんの過去のご経歴もあってか、 「あやの里」には大勢の外国人のボランティア の方々が常時来られて、ここを起点のようにして動いておられる様子を、熊本に伺った際に拝見 しました( 「言葉の壁がない」ということです)。ボランティアの方々の精力的な姿に、こうした 災害の際に、ボランティアを上手に連携の中に組み込む仕組みが必要であることを感じました。 それが「あやの里」でうまく機能したのは、施設代表の明確な指示をスタッフが信じて動いてい ること、そしてその間で上手にまとめておられる奈央さんの働きがあったからこそではないかと 感じています。. 介護は 24 時間であり、入居者さんが「認知症」であれば、それぞれの個性に合わせて動く大 変さもあります。 「最も大変な時に地域の被災者を受け入れた」「小学生が園内を通って通学して いる」など、地域になくてはならぬ存在となった施設である「あやの里」の在り方から、 「介護と は何のか」を学ぶことは多いと考ええます。 熊本での打ち合わせの際も「介護とは何なのか」を岡元親子は何度も言われていました。. ※ 「あやの里」Facebook より. ボランティアの方々の拠点だった as a cafe. 外観. (この場所で打ち合わせを実施). 20.
(21) 5.. 勝谷 知美先生による講演 『災害時における外国人支援の在り方― ―外国人避難所の運営及び避難所巡回から見えてきたこと』. (熊本市国際交流振興事業団 事務局次長 勝谷 知美) 熊本市国際交流振興事業団は、①多文化共生社会づくり推進事業 ②地球市民育成事業 ③国 際化推進事業 ④文化施設管理運営、まちづくり推進事業 ⑤財団法人運営. などを行っている. 組織で、熊本市の国際化の拠点施設として、国際交流会館を、市民や在住外国人の皆さんの視点 に立って管理運営されています。普段は異文化交流や語学教室など、在日外国人と日本人の交流 の場として機能しているのですが、4 月の震災では、 「外国人の避難所」 「情報拠点」 「事業団まで たどり着けない外国人へ支援組織」といった機能を、一晩にして担うことになったわけです。. ※ 熊本市国際交流振興事業団 ホームページ「事業紹介」より 震災時には情報が命綱で、固定電話が使えなくなった熊本では、携帯電話が在日外国人の方々 の孤立を防ぎ、必要物資を確保するために役に立ったのは言うまでもありません。家屋の損傷な ので自宅におられなくなった外国人たちは、やはり熊本市国際交流振興事業団に集まってこられ ました。被害は出ていましたが、事業団の 1 階・2 階での寝泊りはなんとかできたようです。 イスラムの方々は「ハラールフード」を食べておられるため、震災対応に食料が届いても、な んでも食べられるわけではありません。それを知った某ホテルから「ハラールフード」の弁当が 届いた時には、本当に安堵されたそうです。 被災された外国人の皆が事業団にやってきたわけではなく(距離的に遠い場合や情報が届かな い場合) 、そういう方には必要物資や食料を届けに行かれたそうです。しかし、地震の後というこ ともあり、なかなか警戒心を解いてもらうのに苦労された面もあったようです。 ここで非難されていた外国人の方々は長居をすることはあまりなかったようで、自分でなんと かなりそうなら出て行かれる方も多かったそうです。1 日だけいて去っていかれる方もおり、事 業団は震災から約 1 ヶ月で「避難所」としての役目を終え、通常の運営に戻りました。. 21.
(22) 海外から来て震災に遭う――日常ではあまり思い至らない事例ですが、決して珍しいことでは ないのです。言語の違い、文化の違い、情報獲得量の違いが「社会的な弱さ」や「心理的な弱さ」 と隣り合わせであることは明らかだと感じました。それをどのようにカバーしていくのか、それ をどの職種が担うのか、多くの課題を胸に刻んだ報告であったと思います。 6.. 「くまモン座」まごころ館による映画上映 第二部『ふるさとで、ずっと』 定永 祐子氏 ( 「くまモン座」まごころ館支配人 熊本大学) 2011 年作成の第一部「くまもとで、まってる。」の続編。第一部で撮影した人々を 4 年後にく. まモンが訪ねていくというストーリーであり、震災前の熊本の風景が映像の中に想い出のように 生きています。涙をすする音が会場のあちこちから聞こえました。. ※ 映画パンフレットより 「ふるさとで、ずっと。 」という言葉を厚労省の「在宅で、ずっと」に置き換える時に、現実はな かなか難しいことを、誰もが感じながら「未来の自分」の居場所を考えたのではないでしょうか。. 参加者の皆さんはこの「鑑賞券」を大事に 持って帰られました。 手作りの少し厚手の紙で作ったものですが 「自分の生きてきた町でずっと住み続ける ために何をすべきか、何を考えておくべき か、機会あるごとに思い返してもらえれば と願っています。. 22.
(23) 《資料 7》 『くまモン座』映画パンフレット(表). 23.
(24) 《資料 8》 『くまモン座』映画パンフレット(裏). 24.
(25) 7.. 住田 功一先生による講演 (NHK大阪放送局アナウンサー) 『語り継ぐとは…阪神淡路大震災ノートから』. 住田氏は、できるだけ再度の質疑応答の時間を残すべく、アナウンサーのプロの技で講演を進 めてくださいました。その語り口の自然さ、わかりやすさと見事さに、参加者は疲れも忘れて聞 き入ったと思います。 住田氏は阪神淡路大震災の際、ご自分の実家にたまたま帰っておられ、被災されました。1995 年 1 月 17 日午前 5 時 46 分のことです。その際、現場からレポートをされているのですが、その 時の状況はご著書『阪神淡路大震災ノート 語り継ぎたい。命の尊さ』に詳しく書かれています。. 住田さんはご家族に障がいのある方がおられ、 「福祉避難所」について、その必要性と現状を述 べられました。障がいの種類によっては、通常の避難所ではとてもいることができず、ずっと車 中泊を続けるなど、とても困った状態が起こってくるからです。 内閣府による調査(2015 年 7 月)によると、指定避難所数(2014 年 10 月1日現在)は、全 国で合計 48,014 施設(944 自治体) 、そのうち福祉避難所数は 7,647 施設(791 自治体)とな っています。 「福祉避難所」は、阪神・淡路大震災を総括した「災害援助研究会」 (厚生労働省 平 成 7 年)で、その必要性が初めて報告されました。公式に福祉避難所が開設されたのは、平成 19 年の能登地震の時なのですが、その後も認知度はあまり上がっていなかったようです。先の東日 本大震災の時には、仙台では「福祉避難所は高齢者が対象だと思っていた」といった誤解もあっ たということです。 数をみても「足りていない」ことは明らかですし、 「機能していない」ことも伺い知れます。 熊本地震では、職員の手が「いっぱいいっぱい」で、とても福祉避難所まで手が回らなかった という厳しい現実がありました。 住田氏は「地震が起こるまで、自分たちのところに地震は起こらない」と思っている人たちに 対して、以下のような提言をされました。 ① 想像力を働かせる――できることを考えてみる ➁ いざという時の連携を考えておく ③ 自分の住んでいる土地の災害の歴史を調べておく(知っておく) ④ 被災は「災害」だけではない。事故や事件もある 「自分の住んでいる土地の災害の歴史を調べておく」 これは「きわめて重要なこと」でしょう。その上で具体的な対策を立てておくことが、いざと いう時の心のエネルギーになるのではないでしょうか。 25.
(26) 8.. 講師と参加者との意見交換 これだけの長丁場にもかかわらず、多くの参加者が最後まで残ってくださった。 あらかじめ各講師への質問票を配布しており、それに従って講師より回答や補足をいただいた。 中には講師の話をご自分の状況と重ねて、熱い想いを長文に書かれた方もおられた。 以下、質問紙による質問・換装である。. 濱川先生の講演への感想・質問 ・離れて暮らす義父母が要介護状態で、義母の介護ストレスが増えてきていて思い悩む。義母 は 24 時間 365 日義父の介護をしており、なんとかしてあげられないものかと悩む。医師の立 場で家族として深く苦しみ、思い悩み、辛い胸中を語っていただけたことが、「共感」という 意味で気持ちを少し楽にしてくれた。「すべてを味方、すべてが味方」読んでみようと思う。 ・ボランティアの場、自治会活動の場などで「もしかして、認知症?」という方に出会うこと がある。楽しみに来られるので、どう対応すべきか。 → そのようなケースは割とよくあると思う。まずは様子をよく見て、会話などで 「おかしいな」と感じれば、家族に連絡をしてはどうか。 ・ご自分のプライベートなことをお話されるのは、勇気がいることだと思いました。 自分の母も認知症だが、便の汚れなどどう声掛けしていいのか迷う。 ・在宅で働いていると、どの医師も利用者さんの認知症に対しての診断や経過観察、家族への 説明やフォローに消極的な印象を受ける。もどかしく感じる。 → 在宅医療や認知症の患者さんに対して、あまり積極的でない医師は多い印象は持って いる。そこがなんとかならないか…と感じることは多い。. 26.
(27) くまモン座への感想 ・映画を観ながら、それぞれの方が素晴らしい生きざまを貫かれて素晴らしいと感動した。 ・泣いてしまった。くまモンは他のゆるキャラとは違う。何が違うのだろう。 私たちを笑顔にしてくれる。勇気づけてくれる。 ・ 「今住んでいる場所でずっと住み続ける」ことがいきなりできなくなる。震災は怖い。 ・連れて行った子ども達が、スクリーンいっぱいのくまモンに大感激でした。 ・何回みても泣いてしまいます。特に熊本城があのようになった後では…映像の力はすごい。. 岡元先生への感想・質問 ・あの震災の時、慢性疾患患者さんのお薬はどうされたのでしょうか。 医療者間の調整、情報提供はどうされたのでしょうか。 → 日頃から医療者とは関係性ができていることが多いので、大丈夫だった。 やはり、 「日常の関係性を作っておくこと」が大事かと思う。 ・ 「あやの里」のような施設にできれば入りたいと思った。京都からでは無理ですね… ・独居高齢者が増えているが…日頃からつながりをもつたえに何をすべきか。 → 「あやの里」では近所の子どもたちが施設内を通っていく。同じように、できるだけ 近隣の人と触れ合う機会をもつことが大事ではないか。 周囲にそういった人がいるか、目配りをすることも大事。 勝谷先生への感想・質問 ・外国の方が日本で被災した時に何を用意しておくべきか――初めて考えました。 ・スマートフォンで情報交換をされていたと聴き、 「情報格差」によって被災した時の生きていく 環境が大きく変わることを実感した。 ・事業団の中に日本人の被災者が避難してくることはなかったか。 → 「国際事業団」だということをわかっているからか、なかったのではないか。 ・ 「ハラールフード」のお弁当がどーん!と届いたと聴いた時には、本当にほっとした。 世の中には、困っている人々にちゃんと心が向けられる人がいることを知りました。. 27.
(28) 住田先生への感想・質問 ・京都は比較的災害の少ない地域でよかったと感じています。災害に見舞われた経験が少ないだ けに、想像力が働かないかもしれない…その時にどう対応すればいいのか…お話をきいている間 に解決法が見えてきた気がした。 ・西宮の友人のマンションが見事につぶれ、少しでも…と水や生活雑貨を持って行ったことがあ ります。梅田から電車に乗り、西宮に着くまでの異様な感覚はいまでも忘れられません。梅田は 何事もなかったようにキラキラしていて、涙が出てきました。 ・ 「福祉避難所」の充実のために奮闘する人たちは誰なのか。行政の動きを待っていても当てにな らないし、当事者の方々に任せるのは無責任だと思うし…こういうことって多いですね。 9.. 総括: 荒井秀典先生(国立長寿医療研究センター 副病院長) 名古屋での学会から大急ぎで京都まで戻ってきてくださいました。 当研究会の顧問の荒井先生です。 この日の学会でも討議されていたそうですが、 「今後も増加の一途をたどる」と言われてきた認. 知症も、調整をかけた分析で予想していくと、それほど悲壮なことばかり考えなくても済むかも しれない」とのお話に、参加者の表情が急に明るくなりました。 16 時から 21 時近くまでという長丁場の研修会に最後まで参加してくださった方々へのねぎら いの言葉もいただきました。 荒井先生は資料にもお名前が明記されていますが、日本での「フレイル」と介護予防の研究と 意識の普及に日々努めておられます。 「認知症」を恐れるばかりではなく、何とかできるかもしれない――そんな期待を参加者にもた らしてくださった荒井先生の総括の言葉でした。. 4.研修会を終えて 参加者の皆さんは気持ちが高揚されていたのか、お互いの意見を交換したり、質問に来られた りと、閉館の 21 時 30 分まで大変盛り上がっていた。 事務局の私が多く受けた質問は、 「もっとフレイルのことが知りたい」 「認知症について勉強す る機会が欲しい」というものだった。 28.
(29) 申込みをしていたものの参加できなくなった方々の多くが、メールで連絡してきてくださり、 申込み段階での皆さんの意識の高さを感じた。 今後、 「こころ」 「からだ」 「生活」のフレイルについて、さまざまな形での研修会が持てるよう 努力していきたいと思う。 また、 研修会修了後に大学宛てに質問票や感想をお送りいただいた方々 もいた。ほとんどは濱川先生の認知症のお話に関するものだった。以下がその内容である。 ・御父上の介護のお話に感動した。自分も認知症の義母を介護し大変な苦労をした。自分 は遠方の子どもに頼まなくてはならないのを恐れている。 ・母は病気で末期は口もきけず寝たきりとなった。自分は薬剤師だったが何もできなかっ た。先生が今後もこのお話を多くの方々にされることを希望します。自分も介護の現場か ら目をはなすことはしないつもり。 ・濱川先生の辛かった胸の内を見ることができました。医療者ならば先が見えるので、一 層つらかっただろうと想像します。 ・80 歳を迎え、認知症のことに心を傷めるようになった。濱川先生のご家族の実態をお辛 い思いのある中、お話頂き心に響いた。子どもに迷惑をかけたくないけれど、どうしよう もない現実を受けとめなくてはならねばと思った。ありがとうございました。 中には、ご感想の電話まで頂戴した方もいて、今回の研修会が何かの形で参加者の皆さんに届 いたのかもしれないと安堵するとともに、 「フレイル」については今回の研修会では「認知症」 「震 災」に遭遇した際に「弱さ」として「こころ」「からだ」 「生活」にどのように現れるか――を意 識して講演を聴いてほしい」という程度にとどめた。定義自体がまだ確定的であるが、 「基礎から 多職種で勉強する機会」を作っていきたいと考える。. 5.反省と感想 ・ 「フレイル」というまだ医療・介護福祉職にもそれほど浸透していない用語をタイトルに入れ、 広報して参加者を集めることが大変であることを知った。 「フレイル」の研修会や勉強会を行って いく必要性を感じたし、参加者の多くがそうした期待を伝えてこられた。 「フレイル」に強い関心 を抱いている医療・介護福祉専門職が多いことも実感した。 ・この報告書の最後に、広報にご協力いただいた団体を記載させていただいた。このリスト以外 にも、個人的に賛同してくださって、熱心に広報活動を行ってくださった方々が多くいてくださ った。この方たちにご協力がなければ、87 名の参加申込みは得られなかったと思う。広報をご縁 に連絡を取り合う関係になった方々もおり、そうした「連携」が生まれたことはうれしい限りで ある。 ・ 「認知症に関する講演」には、参加者が深い感銘を受けていた。自分や家族の現状や今後を考え る大変よい機会となったのではないか。質問票に多く書かれていたが、 「自分が介護されるのが辛 29.
(30) い」 「迷惑をかけたくない」と本気で思っている当事者たちは、最後まで「自分の家」で過ごす選 択をとるのだろうか――と考えさせられた。また介護の苦労をしている方々にとっても、介護者 への支援が重要であるものの、それが十分に機能していないことは明らかである。「多職種連携」 によりそうした状況を打開していくには、これまでよりももっと「有効性が明確な」方法を提示 していかなくてはならないと感じた。 ・京都に住む人たちにとって、地震はどこか「遠い存在」となってはいないか。 当時はまだ熊本では余震も続き、報道もされていたため、「直接熊本の話を聴くことができる」 ため、参加者はもっと多くなるかと考えたが、申込み者 87 人、実際の参加者は同伴の児童も加 えて 73 名+ボランティア 4 人であった。 住田氏の話にあったように、自分の住んでいる土地の災害の歴史を調べておくことで、 「ここは 『絶対に災害のない地域ではない』ということがわかるはずである。 ・住田氏の触れていた「福祉避難所」の充実は、 「まさかの時の命綱」となるものだが、それがう まくいっていない背景には、さまざまな(一括りにはできない)障がい者の「避難」 、および「日 常生活の充実」自体が社会的に軽んじられている風潮があるからではないか――と考える。 「痴呆」と言われていた「認知症」が患者数の増加により社会的に「認知」されて、研究も進ん できている。同じように、さまざまな「障がい」――こころ・かだら・生活に弱さ(フレイル) を持つ人々の実態をどのように把握し、困った状況に追い込まれる前に支援していくかを、考え ていく必要を感じる。 ・参加者数が会場申込み時には予測できず、キャンパスプラザ京都で最も大きな部屋を借りた。 参加者は 100 名を下回ったが、休憩や軽食付きとはいえ 5 時間におよぶ研修会をゆったりとした 環境で聴いていただけたのはよかったかと考える。 ・最後に、名古屋の学会より駆けつけてくださった研究会顧問の荒井先生の「認知症の今後の動 向」についての話に、 「認知症は増えていくばかりではないのかもしれない」と少し落ち着いて今 後を見ていこうと思われた参加者は多いようだった。マスメディアが連日煽るように「認知症」 の暗い部分を報道するため、悲観的になっていた参加者が多いことが質問票の文章にも表れてい た。怖がるだけでなく、冷静に動向を見ていくことで、希望が抱けるような研修会を当研究会で も今後実践していきた。. 30.
(31) 最後に、今回の研修会の広報にご尽力いただいた団体・個人様に深く感謝申し上げます。 ・京都府医師会 ・京都府保険医協会 ・京都府病院協会 ・京都地域包括ケア推進機構 ・京都府 健康福祉部 高齢者支援課 ・京都府歯科医師会 ・京都府薬剤師会 ・京都府女性薬剤師会 ・京都府歯科衛生士会 ・京都府訪問看護ステーション協議会 ・京都府看護協会 ・京都府作業療法士会 ・京都府介護支援専門員会 ・京都府臨床検査技師会 ・社会福祉法人 京都府社会福祉協議会 ・京都福祉サービス協会 ・京都市福祉ボランティアセンター ・京都市災害ボランティアセンター ・社会福祉法人 京都府社会福祉事業団 ・京都府心身障がい者福祉センター. ・京都福祉介護用品協会 ・京都熊本県人会 ・京都新聞社 ・ (株)しまだ(福祉介護用具) ・全国保健・医療・福祉心理職能協会 ・奈良県薬剤師会 ・奈良県理学療法士協会 ・奈良県障がい者総合支援センター 子ども地域支援事業 ・高次脳機能障がい支援センター ・奈良市保健福祉部 福祉政策課 ・滋賀県立成人病センター. ・滋賀県理学療法士協会 ・滋賀県作業療法士会. ・滋賀県言語聴覚士会 ・滋賀県臨床心理士会 ・NPO 法人ゲートキーパー支援センター. ★本研修会は「公益財団法人. 在宅医療助成. 勇美記念財団」の助成をいただいておこなっており. ます。. 31.
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