学研究小史
著者
青木 三郎
雑誌名
東洋大学紀要 自然科学篇
号
54
ページ
147-160
発行年
2010-03
URL
http://id.nii.ac.jp/1060/00004078/
Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/3.0/deed.jaAbstract
During 1964 to 2010, Oinuma and Aoki have studied clay minerals in marine sedi-ments from seas and oceans in the world. In this short review, the author summarizes the previous study by them before the work at Toyo University and studies in the fol-lowing ten years span;study in 1971 to 1980 characterized by many samples from various seas and oceans, study in 1981 to 1990 characterized by the observation of analytical transmission electron microscope, paleoenvironmental study in 1991 to 2000 and the recent study in 2001 to 2010.
はしがき
東洋大学自然科学研究室に在職中、生沼 郁と青木 三郎は約半世紀に亘って、日本に おける海底堆積粘土鉱物学の研究をリードしてきた。彼らの研究は、青木三郎が 2010 年 3 月をもって定年退職するので、その研究史をレビューし総括することはこの研究に従事 してきた者として責務と考えた。生沼は東京教育大学地質鉱物学の大学院博士課程を修了 した 1961 年に、東洋大学文学部一般教養課程自然科学研究室に着任した。東京教育大学 では、須藤俊男教授の指導下で同僚の小林和夫と共に堆積岩および堆積物中の粘土鉱物の 定性・定量分析の研究を行ってきた。自然界の堆積岩や堆積物中には、数種類の粘土鉱物 が混在しており個々の種類の同定や定量方法を決定することは、地球科学上重要な研究課 題であった。生沼らは独自にこの問題にチャレンジしこの分野の開拓者となった。結果、 世界に先駆けて海底堆積物サンプルを使用した研究成果を次々と発表してきた。小論では 生沼らが海底堆積物中の粘土鉱物の定性・定量に関する研究成果を発表し先駆けとなった東洋大学自然科学研究室における
海底堆積粘土鉱物学研究小史
青 木 三 郎
Historical Review of Clay Mineralogy in Marine
Sediments Studied at Natural Science Laboratory,
Toyo University Since 1964
研究時代から、青木三郎が東洋大学に赴任した 1976 年以降から 2010 年に退職するまで、 生沼、青木とその共同研究者による研究成果をレビューする。
東京教育大学から東洋大学自然科学研究室に着任するまでの時代
生沼は 1953 年に東京教育理学部地質学鉱物学教室に入学し、55 年から室内及び野外に おける実質的な地質鉱物学的訓練を受けるようになった。須藤俊男教授の指導下で粘土鉱 物の研究に着手したのは、卒業論文で海底堆積物サンプルを分析したことに始まる。使用 したサンプルは共同研究者の小林和夫が水路部の観測船に乗船し、日本海溝の深海堆積物 の調査時に採集したものである。その報告書が最初の研究論文となった(生沼・小林、 1957)。この論文で特筆されることは、わが国で最初に海底堆積物サンプル中の粘土鉱物 の分析方法を詳細に記述していることである。生沼・小林の研究は、その後も水路部や東 京大学海洋研究所と共同研究として実施されてきた。それらの研究では、東京湾底堆積物 や東シナ海堆積物などを使用しその成果を国内外の研究雑誌に発表した。(Kobayashi et al., 1959; 小 林 ら、1961; 生 沼・ 小 林 1962;Kobayashi et al., 1964; 小 林・ 生 沼、 1965)。生沼らは、またこの期間中に粘土鉱物の分析方法について各種の分析機器を使用 してさらに分析精度を高めていった(例えば、生沼・小林、1961;Kodama and Oinuma, 1963)。東洋大学自然科学研究室着任以降の研究成果
1964∼1970 年まで 生沼が 1964 年に東洋大学文学部自然科学研究室に赴任してから、海底堆積物を使用し た最初の研究論文は有明海から採集されたコア・サンプルに関する分析結果である(小 林・生沼、1964)。この年には、それまでの研究内容を総括した論文が、海外の有名雑誌 に掲載された(Kobayashi et al., 1964)。また、東シナ海堆積物サンプルを分析した研究 成果(小林 和夫・生沼 郁、1965)や、第 5 次南極海調査時に採集されたサンプルの 分析結果(Sato et al., 1965)が報告された。この研究で注目されたのは、分析されたサ ンプル中にそれまで海底サンプルから報告されていない、3-8 面体のイライトの存在が確 認されたことである。このイライトは、大陸に広く分布する花崗片岩中の黒雲母から変質 したものと解釈された。生沼(1966)は、中央太平洋深海盆底から採集された 10 m の長 柱状コア・サンプルについても分析し、コア上下の粘土鉱物組成がほとんど変化していな いことから、続成作用による鉱物間の影響はなかったと解釈している。生沼はこの期間も 粘土鉱物のキャラクタリゼーションの研究を、一方において続けている(Oinuma and Kodama, 1967;Oinuma, 1968;Simoda et al., 1969)。1969 年に東京で国際粘土学会が 開催され、その特集号では“海洋底の粘土”のタイトルでそれまでの日本における海底粘 土鉱物学の研究成果を紹介している(Oinuma, 1969)。1971 年∼1980 年まで
1970 年代に入ると、それまでの海底粘土鉱物の研究成果を総括した論文を発表してい る(生沼、1971;生沼、1972、生沼ら、1972)。この論文で始めて、青木との共同研究が 発表された。青木はこの時、まだ東京教育大学の須藤教授の研究室で海底堆積粘土鉱物学 専攻の大学院生であった。青木との共同研究は、日本海山陰沖の堆積物を使用して実質的 に開始された(Aoki and Oinuma, 1973)。他方、生沼はキャラクタリゼーションの研究 を続け、その成果は X 線回折強度からクロライトの化学組成を判別する三角ダイアグラ ムの作成となった。一方、青木は生沼との共同研究以前に、海底粘土鉱物学上で大きな研 究成果を発表している。それは、北東太平洋深海底から採集された 1 本のコア・サンプル 中からほぼ純粋なモンモリロナイトを発見したことである(Aoki and Sudo, 1972;Aoki et al., 1974)。Deep-Sea Res. に掲載されたこのコア・サンプルの長さは 4 m ほどである が、その下部層 2 m がスメクタイトだけで構成され、最下部層はクリストバライトであ る。X 線回折、DTA,IR、化学組成分析の結果、このスメクタイトは 2-8 面体の鉄質の バイデライトで火山性物質の続成作用によって生成されたものと解釈された。この論文の 発表にたいして、多くの海外の研究者から別刷りのリクエストをいただいた。青木はさら に大学院時代に、国際インド洋調査時に採集された 12 本のコア・サンプルを分析した結 果を論文で発表している。この論文では、第四紀の氷期でイライトとクロライトが、また 間氷期ではスメクタイトとカオリナイトが卓越する傾向があること、それは気候変動と連 動していることを指摘した(Aoki and Sudo, 1974)。1974 年で、青木と生沼の共同研究 で特筆されることは、日本海全域で採集されたピストン・コアサンプルを使用した粘土鉱 物の分布図を作成したことである(Aoki et al. 1974)。分析は青木が担当し、生沼は分布 図の作製で見事なスキルを発揮した。この論文では、スメクタイトの含有率が東北日本海 で高くなること、逆にイライトは南西日本海で高くなることを指摘した。また、クロライ トの含有率は、スメクタイトと同様、東北日本海で高く、カオリナイトは逆に南西日本海 で高い傾向があることを指摘し、このような分布パターンの特徴は日本海周辺の地質や土 壌特性さらに海流の分布によって規制されていることも明らかにした。また、Aoki &Oinuma(1974)は、東シナ海を含む南西諸島周辺海域で採集されたコア・サンプルを 分析した結果、イライト含有率が極めて高いのは中国大陸からの供給を指摘した。また、 カオリナイト含有率も 10%以上を示し、この海域堆積物中の粘土鉱物組成の特性を明ら かにした。同年、Aoki(1974)はペルシャ湾堆積物中から粘土鉱物以外に、aragonite, low-Mg calcite, high-Mg calcite, Quartz 及び feldspar の存在を同定している。1975 年 に、須藤俊男教授が東京教育大学を定年退官された。この年に青木ら(1975)は、小林 和夫と共著で、これまでの海底粘土鉱物の研究成果を退官記念論文集に発表した。同年、 青木(1975)は、房総半島沖海底から採集された 1 本のコア・サンプル中の粘土鉱物組 成とサンプル中に含まれている肉眼観察可能な石膏を見つけ、この鉱物の自生か他生につ いて検討した。1977 年には、アメリカコロンビア大学の調査船が日本海で採集した 7 本 のコア・サンプルについて分析・検討した(Oinuma and Aoki, 1977)。最長のコア・サ ンプルは 19 m あり、最下部の年代は第三紀鮮新世に達している。これらのコア・サンプ
ルの粘土鉱物組成の検討から、日本海における鮮新世以降の古環境変動について検討し た。同年、青木(1977)は南海舟状海盆底から採集された 2 地点の堆積物サンプルにつ いて、粘土鉱物組成、化学組成、含水比などの物理試験を実施し新しい見地から海底土を 検討した。同様な研究方法で、青木(1977)は中央太平洋海盆底から採集されたコア・ サンプルについて分析報告し、深海底土の鉱物学と土質工学の境界領域の問題にアプロー チした。Aoki & Oinuma(1977)は、ペルシャ湾底から採集された表層堆積物とコア・ サンプルを分析し、この論文で初めてイライトーモンモリロナイト不規則混合層鉱物の存 在を報告した。先行した Aoki(1974)の論文に対して、この論文では粘土鉱物組成と周 辺陸域からこれら微細鉱物の供給源について詳細に検討している。青木と生沼は日本海に 続いて、オホーツク海の全域から採取されたコア・サンプルについても分析報告した (Aoki and Oinuma, 1978)。これらのサンプルは、当時の気象庁が実施した日本周辺海域 における海底堆積物採集成果よる。この論文で、オホーツク海堆積物中には、クロライト が卓越していることを指摘し、高緯度海域における分布特性であることを証明した。ま た、この論文では生沼が作成した三角ダイアグラムを使用して、これのクロライトの化学 組成は Fe-Mg 質であることを指摘した。さらに高緯度海域であっても少量のカオリナイ トの存在することを、赤外吸収スペクトル法を使用して明らかにした。1979 年に、Aoki et al.(1979)らは、海底粘土鉱物学における記念すべき成果を発表している。それは 1974 年続く発見そして成果である。南東太平洋深海底から採集された長さ 125 cm ほど のピストン・コアの下部 80 cm の部分がほぼ純粋なスメクタイトで構成されていた。 XRD,DTA,IR 分析と化学組成分析の結果、このスメクタイトは、Fe 質タイプと他に Al 質タイプが存在していることを確認した。Fe 質モンモリロナイトは熱水反応で生成さ れ、Al 質タイプは火山灰の変質作用によって生成されたと解釈された。1 本のコア・サ ンプル中に 2 つのタイプの純粋なモンモリロナイトが含まれていることが判別できたこと に大きな関心がもたれた。この論文についても海外から多数の別刷りのリクエストをいた だいた。このコア・サンプルは青木が乗船参加した南十字星航海(東京大学研究船白鳳 丸)時に採集されたものである。1980 年代の最初の研究論文(Aoki and Oinuma, 1980) は、南極海近傍で採集された堆積物サンプルに関するものである。南極半島に近接する 6 地点の表層堆積物は、サンプルによってモンモリロナイト、クロライト、そしてイライト がそれぞれ卓越しその含有率変化が際立った。また、2 本のコア・サンプルでもモンモリ ロナイトが卓越するコアとイライトが卓越するコアで大きな含有率変化を示した。 1981∼1990 年まで
Aoki and Oinuma(1981)は、通産省地質調査所が初代白嶺丸を使用して実施し、青木 も参加した第 1 回マンガン団塊調査研究(中央太平洋海嶺域)時に採集したサンプルにつ いても分析報告した。同年、青木・生沼(1981)は、駿河湾底から採集した 160 地点の サンプルを分析し、駿河湾底に分布する詳細な粘土鉱物組成図を作成した。その論文で は、イライトは湾西岸寄りに、モンモリロナイトとカオリナイトは湾東岸寄りに、クロラ イトはそのいずれにも属さない分布パターンを示した。さらに石英は、イライトの分布と 同じく西岸よりで高い含有率を示すパターンを示した。これらの分布パターンの特徴か
ら、駿河湾底の粘土鉱物は、周辺陸上の地質と密接に関連していて、含有率が西高東低の イライト、石英は湾西岸域に分布する堆積岩および堆積物に由来し、東高西低のモンモリ ロナイト、カオリナイトは東岸域に分布する火山岩および火山砕屑岩に由来していること を指摘した。同年、青木(1981)は東京湾底から採集された堆積物を、粘土鉱物組成の 他に、含水比、比重、有機物含有量や他の物理的特性の実験を実施している。1982 年に は星野ら(1982)との共同研究で湖底堆積物中の粘土鉱物の研究を実施した。この研究 では宍道湖底の 24 地点から採集された表層、及びコア・サンプルを分析した。結果、サ ンプル中には、それまで海底堆積物中から報告されなかった、バーミキュライトやハロイ サイトの粘土鉱物の存在が指摘された。同年、Aoki(1982)は、中央太平洋海盆底から 採集された複数のコア・サンプルについても分析し、その中でサンプル P165 は 165 cm 以下最下部 685 cm までほぼスメクタイト成分だけの X 線回折パターンを示し、この海域 の堆積物中にこの種のスメクタイトが広く分布することを示唆した。青木(1982)はま た、日本海堆積物中の粘土鉱物の研究をレビューする中で、粒度の差異による粘土鉱物組 成についても検討し報告している。Aoki(1983)は、海底堆積物中の粘土鉱物と他の堆 積物特性との関連を調べるために、ベーリング海大陸棚堆積物を分析しその結果を報告し た。同年、東シナ海堆積物に関するシンポジュームが中国の杭州で開催された。Aoki ら (1983)はこれまでの研究データに、揚子江河口に近接する海底堆積物サンプル中の粘土 鉱物組成データを新たに付け加えた分析結果を報告した。1983 年には、深海掘削底計画 で採取されたドリル・コアを始めて分析した(Kagami et al., 1983)。このドリル・コア はフロリダ沖で採集され、白亜紀に達する黒色頁岩であった。粘土鉱物学的見地からいえ ば、いずれのサンプルもスメクタイト含有率が卓越しクロライトを欠くサンプルであっ た。1984 年の論文(Aoki, 1984)は、中央太平洋海盆北部海域から採集された 3 本のコ ア・サンプルの分析結果である。予察的な研究報告ではあったが、3 本のコアはいずれも 第三紀層に達し、上部層から下部層へのスメクタイト含有率の顕著な増加が認められた。 1985 年に青木ら(1985)は、三陸沖大陸棚から斜面にかけて採集された 118 地点のサン プルの分析結果についても報告している。この年には、青木は GDP の研究航海に参加し、 北部フィリピン海域や大東島周辺海域から採集されたサンプルの分析を実施している。 Aoki and Oinuma(1985)はこの航海で、大東海嶺域で採集された漸新世のドレッジサン プルの泥岩中に粘土鉱物として 15Å だけのピークを示すものを発見している。1986 年 に、青木ら(1986)は、日本海青森県沖海底で発見された黄褐色物質中の粘土鉱物につ いて分析報告している。この黄褐色物質は、3,200 m の深海底に斑点状に分布していて、 3 箇所で採集したサンプルを分析した結果、粘土鉱物としては平均的な 4 種類を含んでい るが、分析電子顕微鏡による解析結果では、熱水変質の可能性を指摘した。同時に、黄褐 色物質は Fe-P 鉱物であることを同定した。同年、メキシコ湾底で採集された 4 本のドリ ル・コアサンプルについて分析・報告した(Ishizuka et al., 1986)。青木は、1987 年国内 特別研究制度を利用して、労働省産業医学研究所(当時)に出向し分析電子顕微鏡の操作 方法を習得している。これにより、その後の研究にはこの分析電子顕微鏡を使用した研究 内容が多くなる。例えば、1988 年の最初の研究論文は、海底堆積物中の粘土鉱物を分析 電顕により分析した内容となっている(青木・神山、1988)。この EDX によって分析し
考察した論文では、その最下部層の年代が 15,000 年と判定されている長さ 4 m 弱のピス トン・コアサンプルと漸新世と年代測定されている大東海嶺域で採集されたいずれも良質 なサンプルが使用され、XRD と EDX によるスメクタイトの化学組成分析にもとずくそ の成因と供給源について検討している。さらに青木・神山(1988)は日本海溝における セジメント・トラップに捕捉された微細鉱物についても報告している。また、青木・神山 (1988)は男女群島域海底で採集された最下部層の年代が 8000 年と測定された 11 m 強の ピストン・コアサンプルについても同様な研究成果を報告している。同年、Aoki and Oinuma(1988)は、オホーツク海から南シナ海までの東アジア縁辺海堆積物中の粘土鉱 物の分布特性についてまとめ報告している。 1991∼2000 年まで 1990 年代の最初の研究論文(Kawahata et al., 1991)は、ガラパゴス諸島とコスタリ カの中間に位置するパナマ海盆底で掘削されたドリル・コアサンプルの分析結果である。 この海域の海底には熱水性堆積物が分布していることが知られていて、粘土鉱物種からそ のことを証明することを試みたが、結果は Al スメクタイトが卓越していて海底自生では なく陸起源であることを暗示した。Aoki and Kohyama(1991)は、中央太平洋海盆底か ら採取された 5 本のピストン・コアを XRD と ATEM で分析し、第三紀堆積物にはスメ クタイトが卓越しているが、第四紀にはイライト、クロライト、カオリナイトなどの砕屑 性粘土鉱物が増加し始めていることから、粘土鉱物組成変動と気候変動との相関性につい て言及した。また、スメクタイトは Fe 質バイデライトであることその形態から熱水作用 や火山活動によって生成した海底自生起源であると指摘した。Aoki ら(1991)は、ベン ガル扇状地で採集された 3 本のドリル・コア中の粘土鉱物組成を調べた。これらのコアは いずれも第三紀中新世に達し、後期新生代以降のベンガル湾及びその周辺域の粘土鉱物組 成と堆積史を検討した。その中で、イライトプラスクロライト含有率とヒマラヤ山脈の隆 起についての相関性について検討し、隆起が大きければ含有率は高く、逆に小さければ低 くなるとの考えを示した。一方、スメクタイトプラスカオリナイト含有率は隆起量が小さ い時に高くなることを指摘した。またサンプル中の Fe バイデライトはデカン高原の普通 輝石玄武岩に由来するものと推定している。 同年、青木(1991)は、フィリピン海全域の粘土鉱物の分布について、粘土鉱物組成 だけでなく分析電子顕微鏡データを取り入れ総合的に検討している。Aoki and Kohyama (1992)は、日本海溝底上に設置されたセヂメント・トラップに捕集された微細鉱物の分 析を実施した。8 ヶ月間に亘り水深、8,700 m と 4,000 m に仕掛けられたセジメント・ト ラップには 13 個の捕集器が備えられた。各捕集器に捕集された 64 ミクロン以下の鉱物 種が同定された。この中で、粘土鉱物種は 5 種で 8 種類が非粘土鉱物であった。結論とし て、これらの微細鉱物は、日本列島から河川や海流によって運搬されてくる砕屑性鉱物と 他は大気運搬されてくるタイプがあると推定された。また、中国大陸から運搬されてくる レス起源の鉱物は、1 年内に海溝底に達すると考えた。一方、青木(1993)は、粘土鉱物 と古環境問題についての論文を発表している。この論文では、ベンガル扇状地のドリル・ コアサンプルと中央太平洋海盆底のピストン・コアサンプルの研究成果から論じた。同様
な研究として、青木(1994)は、日本列島に近接する海底で採集され年代測定がなされ ている 2 本のピストン・コアについての研究成果を発表している。 青木(1995)は、日本海溝底上でセジメント・トラップに捕集された微細鉱物の研究 から、それらの堆積運搬のメカニズムについて論じ、乱泥流や風性塵による関連性につい て指摘した。 同年、Aoki(1995)は、東シナ海からフィリピン海全域におよぶそれまでの研究成果 をまとめた。青木(1996)はまた、伊豆・小笠原海溝底堆積物中の粘土鉱物を分析電子 顕微鏡により調べた結果を報告している。この研究によって、スメクタイト、クロライ ト、イライトのより詳細な化学組成も明らかになった。同年、Aoki ら(1996)は、先に 報告した日本海盆底で発見した黄褐色物質中の粘土鉱物について詳細に検討し、Fe 質ス メクタイトやクロライトは低温下の熱水作用によって生成された可能性を暗示した。青木 (1997)は、東シナ海堆積物中の粘土鉱物について、分析電子顕微鏡によって分析してい る。Aoki and Kohyama(1998)は、中央太平洋海盆のマジェラントラフから採集された 12 本のピストン・コアの詳細な分析結果から、新生代の同海域における粘土鉱物の堆積 史について論じた。この論文では、前期新生代は海底自生起源の Fe スメクタイトやゼオ ライトが卓越するが、鮮新世以降はイライト、クロライトなどの砕屑性粘土鉱物がアジア 大陸から偏西風により搬入が強められ、これらの鉱物がスメクタイトに代わって多くなっ たと指摘している。青木・神山は(1998、1999)大阪湾と東京湾堆積物中の粘土鉱物に ついて分析電子顕微鏡による研究結果を発表している。青木ら(2000)は、七島―硫黄 島海嶺域から採集された 2 本のピストン・コアサンプルについて、XRD,ATEM、さら に XRF によって分析した結果を報告した。この研究によって、イライトとクロライトが 主要な粘土鉱物であり、スメクタイトとカオリナイトの含有率は高くないこと、これら粘 土鉱物は大気や黒潮などの水塊によって運搬されてくること及び、火山灰に含まれている サポナイトは海底自生起源であることを指摘した。また、過去 25,000 年間の砕屑性鉱物 の影響と生物生産活動は、気候変化による風力と湧昇流の強度に連動していることについ ても論じた。 2001∼2010 年まで 2001 年には、2 つの論文を発表している。その 1 つ(Aoki et al., 2001)は、東アジア 大陸縁辺海における粘土鉱物の分布とそれらの透過型分析電子顕微鏡による化学組成との 相関性についてである。その結果、分析サンプルは、スメクタイトは Al-Fe バイデライ トが多いが、フィリピン海サンプルでは Fe-Al タイプが多い。また、サポナイトは量的 には多くないが、すべてのサンプル中に含まれていることが判明した。一方、クロライト は、オホーツク海サンプルでは Fe-Mg タイプが多いが他の海域のサンプルでは Mg-Fe タイプが多いことが明らかになった。また、イライトの層間中の K イオンは低緯度海域 のサンプルほど減少する傾向が認められた。粘土鉱物の形態的特性は、緯度ごとサンプル の差異は認められない。他の 1 つの論文(Aoki et al., 2001)は、西カロリン海域で採集 されたセジメント・トラップサンプル中の微細鉱物と 1 本のピストン・コア中の粘土鉱物 の研究結果である。2 サイトのセジメント・トラップは、当海域の 1500~1700 m の水深
に約 1 年係留された。そこで捕集された微細鉱物は粘土鉱物 5 種類と非粘土鉱物 7 種類で あり、その比率は 60:40 であった。粘土鉱物ではスメクタイトが最も多く存在し、石英 と長石類が非粘土鉱物では最も含有率が高い。Fe サポナイトが、1 つのトラップに偏在 していることはその給源と運搬経路に特性がある。コア・サンプルの分析から、クロライ トとイライトが卓越していること及びその形態と化学組成からこれらは陸源砕屑性である ことを暗示している。コア最下部の年代が 14 万年のデータから、コアの粘土鉱物組成に 有意な垂直的変化が認められないので、この年代に堆積物の埋没作用による続成変化は発 生しなかったことが推定される。2002 年に、第 45 回粘土科学討論会が、東洋大学朝霞校 舎で開催された。青木(2002)は日本における海底粘土鉱物研究にける過去、現在、未 来のタイトルで講演している。また、青木(2002)は、死海沿岸堆積物中の粘土鉱物の 分析結果から、イライト/スメクタイト不規則混合層と Fe クロライトの存在を指摘して いる。同年青木(2002)は、日本粘土学会の「粘土基礎講座Ⅰ」に海底堆積物中の粘土 鉱物―近海及び遠洋堆積物を例としてーの解説書で、相模湾周辺海域と中央太平洋海盆底 のサンプルの分析結果を例として、海底堆積物中の粘土鉱物を XRD による分析と結果を 平易に解説した。Aoki ら(2003)は、メキシコ湾底で採集された 3 本のドリル・コアを、 XRD,XRF,ATEM によって分析した。コアの長さは 200~500 m であったが、いずれ も第四紀の堆積物で、粘土鉱物組成と含有率の差異からコアによって供給源が異なること を指摘した。カオリナイト含有率が相対的に高いのは、メキシコ湾周辺の気候に関係して いることも指摘した。スメクタイトは Fe-Al-Mg タイプのバイデライトが、クロライト は Fe-Mg タイプが多いことも明らかにした。また、それらの形態的特徴から陸源砕屑性 であると指摘した。この年、生沼(2003)に豊後水道海底で採集されたサンプルについ ても報告している。Aoki and Kohyama(2004)は、日本海溝底上に係留された深度の異 なる 4 本のセジメント・トラップに捕集された微細鉱物についても分析している。 ATEM によって同定された粒子数は 10,400 個に及ぶ。この研究では、粘土鉱物 5 種類、 非粘土鉱物 8 種類が同定された。スメクタイトとイライトが最も多い粘土鉱物で、非粘土 鉱物では石英が一番多い。スメクタイトは、Fe-Mg サポナイト、Fe-Al バイデライト、 Al-Fe モンモリロナイトが同定されている。クロライトは Fe-Mg タイプが多い。これら の微細鉱物は、日本列島やフィリピン海域から懸濁物として黒潮によって、また中国大陸 からは大気運搬されてくることを指摘した。青木(2005)は、日本海溝底 9,750 m から 採集された長さ 7 m のピストン・コアについて分析した。このコアの粘土鉱物組成の特 徴は、クロライトとイライトの含有率が高くスメクタイトは低いことである。スメクタイ トは Fe-Al バイデライトが多く含まれるが、Fe サポナイトも含まれていることが判明し た。クロライトは Fe-Mg タイプである。クロライトとイライトの含有率が高いこと、ス メクタイトの形態的特徴からこれらの粘土鉱物は陸源砕屑性であることを暗示している。 また、粘土の化学組成分析から、過去 200 年間は陸源砕屑性鉱物の搬入が強まったこと、 それ以前では逆に弱まり生物生産性の活動が強まったことを示している。ODP117 はア ラビア海で計画・掘削された。Aoki ら(2006)は、7 本のドリル・コアの分析を実施し た。粘土鉱物学的成果として、パリゴルスカイトを発見していることである。パリゴルス カイトは陸地からの距離や地質年代による量的な差異は認められない。他の粘土鉱物では
クロライトとイライトが卓越し、スメクタイトとカオリナイトの含有率は少ない。これら の化学組成と形態的特徴は、陸源砕屑性であることを示している。サンプル中の Fe- サ ポナイトの存在は、アラビア半島やアラビア海底基盤のオフィオライトに由来する可能性 を指摘した。ODP127 は、日本海で実施された。Aoki ら(2008)は、4 本のドリル・コ アを分析した。長さ 900 m から 460 m に達するコアの最下部の年代は中新世に達してい る。スメクタイト含有率は、第四紀から初期中新世に向けて著しく増加しているのに対し イライト含有率は逆の傾向を示す。クロライト含有率もコアの深さと共に増加する傾向が あるが、スメクタイトほどではない。これらのことより、中新世の日本海は海底及び陸上 での火山活動起源のスメクタイトが多く堆積するが、鮮新世後はその影響は弱まり、さら に第四紀に入ると気候サイクル、陸域での削剥作用、河川運搬や風化作用などの環境変化 によって砕屑性粘土鉱物の周辺陸域からの搬入が強まった。一方、日本海深海底では、還 元環境下でグロコナイトやパラゴナイトの海底自生鉱物が形成された。Aoki ら(2008) は、また日本海北東部で採集されたサイト 794 コアの青色凝灰岩中から、純粋なスメク タイトを発見、XRD,ATEM,IR,DTA 分析によりそれがモンモリロナイトであるこ とと、6.9Ma に海底で発生した火山破砕流によって形成されたものであると推論した。青 木(2009)は、青森県陸奥湾底から採集された 69 サンプル中の粘土鉱物組成について分 析した。この結果は、スメクタイト含有率が卓越していること(平均で 48%)とクロラ イトプラスイライトの平均含有率が 38%、カオリナイト含有率は 14%であることが判明 した。これらの含有率分布は周辺の地質環境と調和している。つまり、陸奥湾周辺は第三 紀、四紀火山岩及び同砕屑岩が卓越していて、これら火山岩類に由来するスメクタイトが 周辺の河川から運搬堆積していることが明らかにされた。粘土鉱物分布として、明瞭な差 別堆積と考えられるパターンは認められなかった。青木(2010)は、東洋大学勤務最後 の研究として、播磨灘、大阪湾及び紀伊水道表層堆積物中の粘土鉱物組成について報告し た。 謝辞 本研究史をまとめるうえで、これまで実に多くの方々にご指導ご鞭撻をいただいた。東 京教育大学名誉教授 故須藤俊男先生には、同大学院入学以来一貫して海底堆積粘土鉱物 学の研究を勧めてくださり多大の励ましをいただいた。東洋大学名誉教授の生沼 郁教授 かには東洋大学に勤務することを勧められ、共同研究の機会を与えてくださった.独立行 政法人産業医学総合研究所の神山宣彦博士(現東洋大学教授)と篠原也寸志博士には同研 究所の機器備品の使用を許可してくださった。また、海底堆積物サンプルの提供にも多く の研究所と個人の協力があった。特に、元東京大学海洋研究所の石塚明男博士、元通産省 地質調査所有田博史博士からは多大な協力をいただいた。さらに、東京水産大学(現東京 海洋大学)からも多数のサンプルの提供をいただいた。最後に、海洋地質学への興味をご 教授くださった東京水産大学名誉教授の故新野 弘先生には深甚なる感謝を申し上げる次 第です。
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