ネガティブフィードバック構造に基づく生物振動子の周期調節可能性の解析
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(2) Vol.2017-BIO-51 No.10 2017/9/26. 情報処理学会研究報告 IPSJ SIG Technical Report. A. x. Tunability θ pij =. Neg-only. τmax τmin τmax. 0.35. dx1. kd ⋅ x h1 = ks1′ ( x1max − x1 ) − h11 n h1 x1 dt K1 + xn. Amplitude εi. τmin x1. dx2 kd ⋅ x h2 = ks2′ ( x2max − x2 ) − h22 1 h2 x2 dt K 2 + x1. x2. ⋮. 0.25. 0.2 0.1. dxn kd ⋅ x hn = ksn′ ( xnmax − xn ) − hnn nh−n1 xn dt K n + xn −1. τmax. 0.3. 0.15. 0.2. 0.25. 0.3. Period τ. 図 2. xn. 周期調節可能性 (tunability) の計算方法.赤点は基準となる パラメータ値を使ったときの周期と振幅である.そこから調節. ksi′ = ksi / ximax for i = 1, 2,… , n. パラメータ pj を変化させると出力変数 xi の周期 τ と振幅 ϵi が青線に沿って変わる.灰色の長方形は,基準パラメータ値を 使ったときの振幅から 10%の範囲を示す.振幅がこの範囲に. B. 入ったままで実現できる周期の最大値が τmax ,最小値が τmin. Pos-Neg. である.. dx1. kd ⋅ x h1 = ks1′ ( x1max − x1 ) − h11 3 h1 x1 dt K1 + x3 + ksn +1′ ( x1max − x1 ). xlb i =. hn+1 1. x K. hn+1 n +1. ksi xmax i ksi + kdi xmax i. max xub i = xi. hn+1 1. +x. (3). x1. dx2 kd ⋅ x h2 = ks2′ ( x2max − x2 ) − h22 1 h2 x2 dt K 2 + x1. 次の平均相対振幅は,すべての変数に関する相対振幅の平 均である.. x2. ⋮ hn n −1 hn n −1. dxn kd ⋅ x = ksn′ ( xnmax − xn ) − h3n dt Kn + x. M ean Relative Amplitude = xn xn. nx 1 ∑ ρi nx i=1. (4). ここで,nx は変数の数である.. ksi′ = ksi / ximax for i = 1, 2,… , n. 2.3 周期調節可能性の定量化. ksn +1′ = ksn +1 / x1max 図1. (2). Tsai らは,視覚的な方法でモデル間の周期調節可能性. 微分方程式とネットワークマップ.(A) Neg-only モデル,(B). を比較している ([6] の図 4F).しかし,この方法は定量性. Pos-Neg モデル.Pos-Neg モデルにのみ存在する部分を赤で. を欠くために,モデル間の周期調節可能性が統計的に有意. 示した.. なのか判断できない.本研究では,次の方法で周期調節可. らは,Pos-Neg モデルの調節可能性が Neg-only モデルよ. 能性を定量化する (図 2).まず,出力変数を xi ,調節パラ. りも高いことを明らかにし,ポジティブフィードバックが. メータを pj とする.基準となるパラメータセットを使っ. 周期調節可能性を向上させると結論づけた [6].. てシミュレーションを行って,xi の振動の周期と振幅を調 べる (図 2 の赤点).次に,調節パラメータを変化させて, もとの振幅からの変化を 10 %以内に抑えたままで周期が. 2.2 周期,振幅,相対振幅 図 1 で与えられる微分方程式系を数値積分すると変数 xi. どれだけ変化できるかを調べる.このようにして得られた. の時間発展が得られる.そして,そこから周期や振幅など. 周期の最大値を τmax ,最小値を τmin とする.このとき,次. 振動の特徴が求められる.周期 τ は,振動の頂点から次の. のようにして求められる θpxji を周期調節可能性の指標とし. 頂点までの距離で与えられる (どの変数に着目しても同じ. て用いる.. である).変数 xi の振幅 ϵi は,xi の振動の底から頂点まで の距離である.さらに,xi の相対振幅は次のようにして求 められる.. ρi =. xub i. θpxji =. τmax − τmin τmax. (5). 次に,モデル間での周期調節可能性の比較を簡単にする. ϵi − xlb i. (1). ub ここで,xlb i と xi はそれぞれ出力変数 xi がとりうる最小. ために,平均周期調節可能性という指標を導入する.. M ean T unability =. np nx ∑ 1 ∑ θ xi nx np i=1 j=1 pj. (6). 値と最大値である.図 1 のモデルでは次のようになる.. c 2017 Information Processing Society of Japan ⃝. 2.
(3) Vol.2017-BIO-51 No.10 2017/9/26. 情報処理学会研究報告. B. 1. 0.8. 0.6 0.4 0.2. 0.4 0.2 0. 0 Pos-Neg. Neg-only. D. Neg-only 0. -2 r = 0.76. Pos-Neg. Pos-Neg 0. -4 -3 -2 -1 0 log (Mean Relative Amplitude) 10. 0.6. 0.4. 0.2. 0 n=3. n=5. n=7. n=3. n=5. n=7. -2. Neg-only. r = 0.85. 10. 10. log (Mean Tunability). 0.6. Mean Relative Amplitude. Mean Tunability. 0.8. Neg-only. C. A. 0.8. log (Mean Tunability). A. Mean Relative Amplitude. IPSJ SIG Technical Report. Pos-Neg. B. -4 -3 -2 -1 0 log (Mean Relative Amplitude). 0.8. 10. Mean Tunabiilty. 図 3 Neg-only モデルと Pos-Neg モデルの比較.(A) 平均相対振 幅,(B) 平均周期調節可能性,(C,D) 平均相対振幅と平均周期 調節可能性の相関. ネガティブフィードバックループを構成 するタンパクの数は3とした (n = 3).. 0.6. 0.4. 0.2. 0. 2.4 パラメータランダム化に基づくモデル比較. n=3. 図 1 のような微分方程式系の挙動は,式の形だけでな くパラメータ値に依存する.本研究では,特定のパラメー. n=5. n=7. n=3. Neg-only. 図4. n=5. n=7. Pos-Neg. ネガティブフィードバックループの長さの影響.(A) 平均相対. タ値の選び方に依存しない解析を行うために,パラメータ. 振幅,(B) 平均周期調節可能性.n はネガティブフィードバッ. のランダム化を行う.その解析の手順は次の通りである.. クループを構成するタンパクの数.. まず,モデルに対してパラメータ値をランダムに与えてシ ミュレーションを行う.そして,振動が生じたら,全ての. 3.2 相対振幅の大きい振動子は周期調節可能性が高い. 出力変数と調節パラメータの組み合わせに関して周期調節. 図 3B から分かる通り,モデル構造が同じでもパラメー. 可能性を計算する.この手順を十分なサンプル数が得られ. タ値によって平均周期調節可能性は大きく異なる.平均周. るまで繰り返す.十分なサンプル数が得られたら,周期調. 期調節可能性の高い振動子にはどのような特徴があるのだ. 節可能性の分布をモデル間で比較する.. ろうか.これを調べるために,パラメータ値,周期,振幅,. 3. 結果 3.1 ポジティブフィードバックは周期調節可能性を向上 させる. 相対振幅などと平均周期調節可能性の相関を調べた.その 結果,平均相対振幅と平均周期調節可能性との間に正の相 関があった (図 3CD).つまり,相対振幅の高い振動子は 周期調節可能性も高い傾向にある.. まず,n = 3 として解析を行った.出力変数 x1 ,調節パ ラメータ ks2 とした場合について注目してみると,Pos-Neg モデルの周期調節可能性は Neg-only モデルよりも大きかっ. 3.3 ネガティブフィードバックループが長いほど周期調 節可能性が高い. た (data not shown).これは,Tsai らの解析結果と一致. 一般に,ネガティブフィードバック振動子ではネガティ. する.ここから,我々の周期調節可能性の定量化法が信. ブフィードバックループが長いほど相対振幅が大きくな. 用できることがわかる.Tsai らは,出力変数 x1 ,調節パ. る [3].また,すでに見たとおり,平均相対振幅と平均周. ラメータ ks2 とした場合の周期調節可能性しか調べてい. 期調節可能性には正の相関がある.そこで,ネガティブ. ないが,我々の解析の結果,出力変数と調節パラメータ. フィードバックループを長くすることで周期調節可能性. の 45 の組み合わせ (3変数× 15 パラメータ) のうち 44 で. が向上するのか調べた.予想通り,ネガティブフィード. Pos-Neg モデルの周期調節可能性が Neg-only モデルより. バックループが長いほど振幅が大きく,周期調節可能性が. 高かった.従って,ポジティブフィードバックが周期調節. 高いことがわかった (図 4).特に,この傾向はネガティブ. 可能性を向上させると言える.Pos-Neg モデルと Neg-only. フィードバックループが短いときに平均相対振幅と平均周. モデルの平均周期調節可能性の分布を比較してみると,や. 期調節可能性が小さい Neg-only モデルで顕著であった.. はり Pos-Neg モデルの方が平均周期調節可能性が高かった. (図 3B).また,興味深いことに,Pos-Neg モデルの方が平 均相対振幅も高かった (図 3A).. c 2017 Information Processing Society of Japan ⃝. 3.4 高い周期調節可能性を達成する仕組み どのような仕組みで高い周期調節可能性が実現されるの. 3.
(4) Vol.2017-BIO-51 No.10 2017/9/26. 情報処理学会研究報告 IPSJ SIG Technical Report. だろうか.これを調べるために,周期調節可能性の高い振. Pos-Neg model (n = 3). 動子と低い振動子の振動の様子を調べた (図 5).周期調節. 8. 8. 可能な Pos-Neg モデルは x1 が双安定性を示す (図 5B).そ. ks1 = 0.077 ks1 = 0.77. 6. Tunable. 4. x1. x1. して,2つの平衡点を行き来することで振動が生み出され. B. A. 0. 1. 2 Time. 1. 0.5. (あるいは緩和振動子) の周期調節可能性が高いことは先行. 0. ks1 = 9.1. ks1 = 12. 0.2. 0.4. 0. ks1 = 9.1 ks1 = 12. 0.5 0 2.45. 2.5. Time. 研究でも報告されている [6]. 長いネガティブフィードバックループを持つ Neg-only. 2.55 x3. 2.6. 2.65. Neg-only model (n = 7) E. し,Neg-only モデルは,ポジティブフィードバックを持 x1. Tunable. ks1 = 6.6. F. ks1 = 66. 8. 8. 6. 6 x1. モデルは高い周期調節可能性を達成できる (図 4B).しか. 4. 0. 0 0. Neg-only モデルは,ヒステリシス駆動振動に依らない方法. ks1 = 6.6 ks1 = 66. 4 2. 2. い.従って,長いネガティブフィードバックループを持つ. 5. 10. 0. 15. Time. H. G. Non-tunable. x1. 節可能な長い Neg-only モデルでは,相対振幅が大きく,x1. ks1 = 2.4. 0.2. 0.15. 0.15 0.1. 0.1. 2 x7. 3. 4. ks1 = 2.4 ks1 = 4.8. 0.05. 0.05. いる (図 5EF).この振動の場合,振幅は下限と上限の差で. 1. ks1 = 4.8. 0.2 x1. で高い周期調節可能性を実現しているはずである.周期調 ub が,その下限 (xlb 1 ≈ 0) と上限 (x1 ≈ 8) の間を行き来して. x1. x1. とができる (図 5A).このようなヒステリシス駆動振動子. 1. 1.5. 1. Non-tunable. 0.5 x3. D. 1.5. メータとすることで,振幅を変えずに周期だけを変えるこ. たないのでヒステリシス駆動振動を起こすことができな. 0. 3. C. て,2つの平衡点の高さを変えないパラメータを調節パラ. ks1 = 0.77. 0. 0. の平衡点を行き来するのにかかる時間が周期である.従っ. ks1 = 0.077. 4 2. 2. ている.このとき振幅は2つの平衡点の差で決まる.2つ. 6. 0 0. 決まる.従って,下限と上限に影響を与えないパラメータ. 1. 2 3 Time. 4. 5. 0 0.5. 1 x7. 1.5. を調節パラメータとすることで,振幅を変えずに周期だけ. 図 5 周期調節可能な振動子 (Tunable) とそうでない振動子 (Non-. を変えることができる (図 5E).相対振幅の大きい振動子. tunable) の違い.実線はモデルが示す実際の軌道,破線は平. はこの「振幅の飽和」によって,高い周期調節可能性を達. 衡点.. 成していると考えられる.長いネガティブフィードバック ループは相対振幅を向上させ,振幅を飽和させることで周 期調節可能性を実現できる.. いる [6]. 我々は,Repressilator にポジティブフィードバックを加. 周期調節可能性の低い振動子は,ヒステリシス駆動振. えたり,ネガティブフィードバックループを長くしたりす. 動を起こすことができないだけでなく相対振幅が小さい. ることで Repressilator の周期調節可能性が向上できるか調. (図 5CDGH).. べた.まず,Repressilator にポジティブフィードバックを. 以上をまとめると,我々は,振幅の飽和が周期調節可能. 加えたモデルを構築した.このモデルを Pos-Repressilator. 性を向上させる上で重要であることを初めて明らかにし. と呼ぶことにする.Pos-Repressilator では,遺伝子の1つ. た.長いネガティブフィードバックループは,振幅の飽和. が自分自身の翻訳速度を向上させる.. を通して周期調節可能性を向上させる.. Repressilator と Pos-Repressilator に対して,Tsai モデ ルの場合と同様に解析を行った.Pos-Repressilator は,Re-. 3.5 人工遺伝子回路振動子の周期調節可能性の改善. pressilator と比較して周期調節可能性が高い (図 6B).ま. これまでの Tsai のモデルの解析で得られた結果にはど. た,Repressilator と Pos-Repressilator の両方において,ネ. れほどの一般性があるのだろうか.また,これまでの解析. ガティブフィードバックループを長くすると,つまり,ネガ. 結果をもとに,周期調節可能性の低い振動子を改良して. ティブフィードバックループを構成する遺伝子数を増やす. 周期調節可能性を向上させることは可能だろうか.これ. と,平均相対振幅と平均周期調節可能性の両方が向上する. を調べるために,我々は,Repressilator の解析を行った.. (図 6).以上の結果から,実在する遺伝子回路振動子でも. Repressilator は,初めて人工的に合成された遺伝子回路振. ポジティブフィードバックを加えたり,ネガティブフィー. 動子である [1].3つの遺伝子がリング状に隣の遺伝子の. ドバックループを長くしたりすることで周期調節可能性が. 発現を抑制するような遺伝子ネットワーク構造になって. 向上することが示唆される.. おり,これらの遺伝子の発現レベルが周期的に増減する.. Repressilator には微分方程式モデルが存在し,このモデル の解析結果から,その周期調節可能性は低いと考えられて. c 2017 Information Processing Society of Japan ⃝. 4. おわりに 本発表では,パラメータランダム化に基づくモデル比較. 4.
(5) Vol.2017-BIO-51 No.10 2017/9/26. 情報処理学会研究報告 IPSJ SIG Technical Report. るという予想を与えた.この予想が正しいのかどうか実際. Mean Relative Amplitude. A. の生物学実験によって検証する必要がある.. 1 0.8. 参考文献. 0.6. [1]. 0.4 0.2. [2]. 0 n=3. n=5. n=7. n=3. Repressilator. n=5. n=7. Pos-Repressilator. B. [3]. [4]. Mean Tunability. 0.8. [5]. 0.6 0.4. [6] 0.2 0 n=3. n=5. n=7. n=3. Repressilator 図6. n=5. Elowitz, M. B., Leibler, S.: A synthetic oscillatory network of transcriptional regulators, Nature, Vol.403 , pp.335 (2000). Maeda, K., Kurata, H.: Quasi-multiparameter sensitivity measure for robustness analysis of complex biochemical networks, J Theor Biol, Vol.272, pp.174 (2011). Maeda, K., Kurata, H.: Analytical study of robustness of a negative feedback oscillator by multiparameter sensitivity, BMC Syst Biol, Vol.8 Suppl 5, S1 (2014). O’Brien, E. L., Itallie, E. V., Bennett, M. R.: Modeling synthetic gene oscillators, Math Biosci, Vol.236, pp.1 (2012). Purcell, O., Savery, N. J., Grierson, C. S., di Bernardo, M.: A comparative analysis of synthetic genetic oscillators, J R Soc Interface, Vol.7, pp.1503 (2010). Tsai, T. Y., Choi, Y. S., Ma, W., Pomerening, J. R., Tang, C., Ferrell, J. E., Jr.: Robust, tunable biological oscillations from interlinked positive and negative feedback loops, Science, Vol.321, pp.126 (2008).. n=7. Pos-Repressilator. ネガティブフィードバックループの長さの影響.(A) 平均相対 振幅,(B) 平均周期調節可能性.n はネガティブフィードバッ クループを構成する遺伝子の数.. を行うことで,ネガティブフィードバック振動子が周期調 節可能性をもたらす仕組みを明らかにした.これまで,ポ ジティブフィードバックを持つネガティブフィードバック 振動子が高い周期調節可能性を示すことが知られていた. 本研究では,ポジティブフィードバックなしでも,長いネ ガティブフィードバックループがあれば高い周期調節可能 性を達成できることを明らかにした.ポジティブフィード バックを持つ振動子は,2つの定常状態を行き来するヒス テリシス駆動振動によって高い周期調節可能性を達成す る.一方,長いネガティブフィードバックループを持つ振 動子は,振幅を飽和させることによって周期調節可能性を 向上させる.最後に,これらの結果を基にして,実在する 合成遺伝子回路振動子である Repressilator の周期調節可 能性を改善できることを示した. 本研究では,実際に調節パラメータを変化させて,その 都度周期を求めることで,周期調節可能性の定量化を行っ た.この方法では,微分方程式の数値積分を行う回数が多 く,非常に計算コストがかかる.最近,我々は,マルチパラ メータ感度 [2] と平均周期調節可能性に相関があることを 見出した.今後,マルチパラメータ感度を使うことで,よ り大規模な振動子モデルの周期調節可能性の解析が可能に なるかもしれない.また,本研究では,ポジティブフィー ドバックを加えたり,ネガティブフィードバックループを 長くすることで Repressilator の周期調節可能性が向上す. c 2017 Information Processing Society of Japan ⃝. 5.
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