(東京女医大隻脚26巻第9号頁459−463昭和31年9月)
玉穗村に於ける血液型調査報告
東京女子医科大学小児科教室(主任磯田仙三郎教授)助教授 笠
カサ 井イ 禾n’ カズ 昭和医科大学法医学教室(指導野田金次郎講師) 永 ナが金
カネ 尾 オ 箱雄
ユ、ウ 房 フナ ン 人 口 問 題 研 究 所 荻 オギ 野 ノ 島 シマ 郎 ロウ 枝 工 子 (受付 昭和3工年8月1日) 緒 言 人B問題研究所は昭和30年度人B学的綜合調査 のうち農村地域に関する調査を昭和30年9月山梨 県下に於て行った。私逮はその調査の一部として 中巨摩郡玉穂村のうち旧稲積村に於て血液型検査 を行ったので,その結果を一括し多少の説明を加 えて報告する。 調査の状況 1)調査目的及び調査事項 今回調査の主なる目的はわが国入P中特に停滞的過 剰入口層を形成している農村地域の過剰人口の在り方 を人口学的に明かにすると謳ってある。この目的に対 して各種調査事項があげられているがその中入口再生 産力に回する事項中に出産歴及び流早産等の調査も行 われたので,近来血液型不適合妊娠に於ける障害が報 告されていることから血液型的見地より之を調査した のである。調査員の不足と不馴れの為に例数は少かっ たが家系の明かなものについて2代,3代,時には4 代にわたる入々の血液型検査の可能であった事は研究 上誠に有意義であったと思う。村民各位の調査に対す る理解と御協力による賜と思い鼓に謝意を表する次第 である。 2)調査地域及び調査入員 調査を行った地域は山梨県中巨摩郡玉穂村のうち旧 稲積村でその中でも井の口及び中門部落を主とした。 調査人員は家族調査対象59家族285名を含む516人 で男242入,女274入であった。3)調査期日
昭和30年9月5日より約2週聞にわたって行った。 4)調査した血液型及びその方法 血液型はABO式血液型及びMN式血液型}こついて 調べた。方法はホールグラス法,室温30分にて判定し た。調査成績
DABO式並にM:N式.血液型の分布
この大要は第1表に示す通りである。家族的調査群の59家族285名の血液型分布はABO式血液
型ではA型35.4%,0型33.3%,B型20.4%, A B型10.9%を示し,MN式血液型ではMN型53.3 %,M型28。8%, N型ユ7.9%を示した。この他に 保育所その他個人的調査群231名についてはAB O式ではA型32.5%,0型31.2%,B型23.4%, AB型12・9%, MN式ではMN型50.6%, M型 25.1%,N型24.3%となり,全人員総計ではAB 』0式血液型ではA型34.1%,0型32.3%,B型 21.7%,AB型11.9%, MN式血液型ではM:N型Kazu KASAI (Dept. of Pediatrics, Tokys Wornen’s Medical College), Yujiro NAGAO, Fusae KANEBAKO (Dept. of Legal Medicine, Showa Medical Co]lege) & Shimako OGINO (lnstitute of Population Problems ; Report on the hemotypologica] investigation upon Tamaho−mura vilJagers.
血液型別 A B o
2式
第 1 表 家族例:実数峰入例:実劉総計:実数 (%)1 (o/s)1 (%);/ 1Ai
101(35.4) 75(32.5)1 176(34.1) B 1 ss(20.4)1 54(23.4)i 112(21.7)(o
9. 5 (33. 3) ll 72 (31. 2) ll 167 (32. 3)]A’DTr s一’5ift6Jg一)T一’M, i,. g l’ii(一,il’6)1
M
N !M
式 @ K @ 1塑」…一璽53・r)L.三17)50・6)i 269 (52. 1) im’一一m一一”一Nl
・…8…i58剛・4…弼
sl a7. g)」 s6 (24・. 3)1 lo7 (20. 7)i
総計}285 23・ 1・・6
52.1%,M型27.1%, N型20.7%であった。何れ の群につV・て見ても,ABO並並にMN式血液型 分布上之に特異的と考えられるような分布の偏り は認められなかった。因に日本人については大体 A:O:B:AB==4:3:2:1, ]V.(N:M:N=5: 3:2位である。 ff)調査成績の家族的考察 A)血液型による自然淘汰 血液型は人類の正常に生理的に有する遺伝型質 に属する事は周知の事であり,且その遺伝型式の 確立されている唯一のものと云えよう。医学的に は輸血の際にABO式血液再検査が重要であり之 を誤ると患者を死の危険にさらす事は既に明らか な窮である。それは正常に人」血清中には型的抗体 (α・β)が存在するからである。例えばA型の人 はその一血清中にこ凝集素を有しているから輸血の 際B型質を有する一血球即ちB型又は.AB型血球は 不適合である。この考えはK.LandsteinerのA BO式」血液型発見工)と同時に指摘された事であ る。 Rh式血液:型2)(K。 Landsteiner&A. S. Wiener)の発見後この血液型がA B O式適合輸 .血の際ue k’見られる副作用の原因の1である事及 び胎児赤芽球症の原因である事がわかり,これに 刺戟されて再びABO式血液型の不適合妊娠が胎 児に及ぼす影響について論ぜられ内外にも症例の 報告がある。しかしこの聞題は血液型発見後5)∼4) 日ならずして一応老えられ研究された問題であった。Rh因子発見とその臨床的応用からABO式
血液型と妊娠・分娩・新生児の状態・妊娠中毒症 等の関係が再認識され研究され出しπ。就中新生 児重症黄疸の原因がABO式不適合妊娠による母 体免疫の結果と考えられた症例5,∼6ノが日本にも屡 k’一W告された7・∼10)。これらより見ると少くも或 る母に於てはかかる事態が起り得る事は明らかと なった。しかしこの事がどの程度一般的に老えら れるかと云う事については未だ問題が残されてい る。 それらの関係事項の中で,本調査に於て調査し た事項は,例えば母がA型で父が0型であった家 族の子供のA型及び0型の生れ方と,父がA型で母が0型の両親の子供のA型及び0型の生れ方
との聞に差があるかと云う事である。これと同様 な関係にあるべぎ母と子の組合せには如何なるも のがあるかと云う展望2表の通りである。かかる 子を生むべき両親の組合せ(前例のA×0)によ って自然淘汰が行われる結果,不適合の胎児は流 早産等により自然に淘汰されるであろうと云う報 告がある。 第 ■ 表1子
、駒血一高 適 合の血液型
下r
陸齢嚥
下A
B 1 B,O
o
.Ll A, o 1 B, ABO IA,
AB [iA, B, ABI A, AB B 子にあって母 にない因子は練霧別
従って父の血1 液型も考える1 必要が生じて1 来る 1 そこで本調査例で両親及び子供の血液型を検し 得た59家族につV・てかかる観点より検討を加えて 見る。今回の調査例は問診では何れも流早産を経 験しなかった例のみであったから前記の老えに対 して老えれば対照的成績であるべきである。前記 の様な組合せの父・母と子供数とを表示すれば第 3表の様になる。(以下母の血液型一父の血液型 の組合せと略記する。) A−0の組合せ10家族,子供数17名中A型9, 0型8で差がなく,淘汰の起り得るO−Aの組合 せ9家:族では,子供数25名中0型6,A型19で淘 汰の行われるべきA型の子供の方が圧倒的に多か った。同様関係をB×0の組合せで見ると,B−0の組合せ5家族,子供数12名ではB型7,0型
5となりあまり差を認め難い数字であるが,淘汰 の起り得べき0−Bの組合せ4家族,子供数8の 一 460 一母一父隊族酬
第 皿 表
子 (1血液型理数)
A−O
lo IA−g, o−sO−A
コ
gIA−6・0一・9 B−ol s iB−7, o−s
・一・い1B−5,・一3
A−B
.71
A−6, B−4, AB−7, O−2AB−O
8 IA−4, B−2, AB−9, O−2A−2, B−2
AB−Ol 2
・二畑二[一
例ではB型5,0型3となり,淘汰があればその 対象となるべきB型の方が多くなっている。同様 にしてA−Bの組合せ7家族,子供数19の例ではB型4,AB型7, A型6,0型2と淘汰のある
べきB型叉はAB型の子供の数の方が多くなって いる。B−Aの組合せ8家族,子供数!7名ではA4,AB型9, B型2,0型2となりここでも淘
汰のあるべge A蝉茸はAB型の方がその他の型よ りむしろ数多く生れてv・る。AB−Oの組合せで は完全に適合型でありその2家族ではA型とB型 とが各々2名つつ生れて居り之は掌理はなV、。 そこで第2表の如く健.康の子供と母との間の関 係を考慮に入れて,父母血液型の組合せとあわせ て,全例59家族を調べた結果を第4表に一括表示 した。父子共に母血液型に対して父適合・不適 第 IV 表亡母適働蜘聯二一讐不響:
齎31評隠ll/噺1±鼠
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熬cli平生i臨18
1一”UL=’oL”i一一’TM−−’C・7”7t”26 i,一.’/117/i LET, UII””一6=tt’
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l 、 旨 1 1 1四 計
子適合・不適合の組合せ別に表示して見れ ば,同一の母を中心とした二合に適合・不適合の 型は自ら或る組合せを取る筈である。即ち父母適 合型の間からは母子適合型が生れ,父母不適合型 の聞からは母子適合型・不適合型が共に生れて来 る可能性がある。前記説明を再び総括的に通覧し て見よう。父母適合型である40家族子供79名,父 母不適合型である29家族子供73名について見る と,父母不適合型で母子適合型のもの24名,不適 合型のもの49名である。この母子不適合の組をな お詳細に検討して見ると,母A型であった揚合の 7家族では適合型であるA型.及び0型8名,不適29 i 24 i 4 i73
.[ 合型であるB因子を有するものは11名であり,母 B型の揚合には適合型7名に対し不適合型即ちA 因予を有するもの14名を算してv・る。母0型の場 合にも適合9型に対し不適合型24となり,この結 果から見ると,勿論少数なので決定的なことは云 えないが少くも本調査例からはABO因子による 淘汰の結果は認められないと云うことになる。 B)ABO, M:N因子の交叉・非交叉の問題に つNハて 本調査中三代に亘る調査例で血液型の因子型を 知り得る家族が6家族あった。1血液型の表現型と因子型の関係は第5表0通Pであり,而もABO
一 di61 一第 V表
A
B
o
式 血 液 型M
N
式 血. 液 型 .表現型 因 子 型 Homozygot 1 HeterozygotA [ AA, i AO
B
BB
BO
o
oo
AB
AB
”.1M
MM
N
NN
.N 1MN
式では0型の子供が1人置も居ればその両親のA 型叉はB型はHeterozygotであり,両i親の一方 に0型が居れば1その子のA型叉はB型はHeter− ozygotである。 A B型と0型とは親子たり得な い。以上の関係を老えると因子型を確定し得るわ けである。MN式血液型はそのまま因子型を知り得る。そこでABO式eMN式両型の因子型を組
合せて考えて見よう。2・3例示してその決定法 を示す。第1図について云うと,第1代のA:NはABO
式でぱHeterozygotかHomozygotか不明であ
るが,子供が0型であるから当然Heterozygot のA即ちAO型である。 MN式ではN型でこれはNN型である。従って両型組合せではAN/ON
であらはし得る。第2代の父峠0:N型故これは当然ON/ON型である。母はABNでANIBN
型となる。第3代のANは父が0型であるから
HeterozygotでありAN/ON型, B Nの子もや はりBN/ON型である。 第工図 aNIONION ftN) AbS/ON ABN) BNfAN 第E図 oN/o ・咽亟 oMN)oM/eN OMSOOM/oN 砺油. 0陥NAN BNiONIBN A鞭N A鞭N G卜㌍N AN〆OM A卜i/OM第2図について云うと本例は4代に亘ってい
る。第1代はOMNであるから00のHomozygot
とMNの.HeterozygotでO M/0:N型となる。従ってその子供たる第2代のBNはBは当然
HeterozygotでBO型,:Nは:N NのHomozygotであるからBN/ON型である。.その妻OMNの
型は当然OM/0:N型である。その子BMN型で
はBは親に0型がいるからHeterozygotのBO
型でBM/ON型か或はBN/OM型である。第2
代OMN型の息子の妻はAM:N型であり,.その子にOMN型が生れているからこのAはHeteroz−
ygotでAO型,従ってAM/ON型かAN/OM
型となる。同様理由により第4代はAMN型はA
M/ON型かAN/OM型, OM:N型はOM/0:N
型である。 第3図について云うと第3代に0型の子供がv・るから第2代目AMN型はHeterozygotでA O
型でAM/ONかAN/OM型である。そのi妻OM
型は当然OM/OM型である。従って第3代目子
供OMN型はOM/ON型でありAMN型のAは
HeterozygotであるからAM/ON型かAN/O
M型である。 第皿図 AM錺趣
oM)oNifeM oM7bNleMN +di lv図 AMN A蘭NA図@
…瀦
…繍
ABMN) 一 (ABM A“rlg/?N A>4 /BM ANIBM 第4図を説明すると第1代に0型があるからその息子である第2代のAM型は当然AM/OM型
である。その妻ABMN型はAM/BN型かAN/
BM型かである。第3代のABMN型は当然A
M/BN型かAN/撃M型かであり, ABM型はA
M/BM型である。 この様に分析して行った結果所要の家系第1図 ∼第6図を得た。これらについていささか検討を 加えて見る。 第v図∵ド
樋rL画畑
第w図 BMN ON/BN IBN BN AN ON/酬.ONi IAN
.DNfON DNIANABO式血液型とMN式血液型とは遣伝的には
.▽一462ド全く独立であIP関連性がないと云う事は発見の時 からその様に報告され,その後の多数の調査例に 著ても統計学的に立証されている所である。つま 1)A型の人はM型が多いとか少いとか云う事がな いわけである。私達の過去の経験からも全くその 通りである。もう少し突込んで伴えればAを決定 するゲンとMを決定するゲンが関連性をもつて次 代に移行すると云うことがなV㌔Aが次代に移っ て行く事とMが次代に移って行く事とは全く独自 の立場で移行して行くのである。 そこでABO式の因子型とM:N式の因子型を組 合せた型で考えて行くと,例えば親からAM/O Nの型で受けついだAM:N型の人が次の代へ造脅 する型としては再びAN/OMの型の分離を示す かどうかは全く無関係であり,或はAN/OMの 型に分離し或はAM/ONの.型に分離して行くと 考えられる。従って次代に移る揚合に前代から移 行した型と同じ型で分離する場合(非交叉型と略 称する)と異った型で分離する揚合(交叉型)と が同率であってよい筈である○ この考えで前記6家族を見て見ると,第1図で は第3代の2入は何れも非交叉で受けついだ型と なる。第2図では第3代の兄弟2人は非交叉型で
ある。第4代の3人もその母がAN/OM型であ
ってもAM/0:N型であっても非交叉型である。第3図では第2代の男のAMN型はAM/0:N型
かAN/OM型かであり,第3代のOMN型は母が
OM/OM型であるから父からはどうしてもON
を受けつぐべぎであり,その父の型はAM/0:N型であり,AMN型の子の揚合はOM因子は母から
来るから父はA:N/OM型であるべきで交叉型で ある。第4図では第3代の子は図示の通りの型で あり且そのB因子は母から由来してv・るからA因子は父から由来しM因子は父がMのHornozygot
であるから当然父から由来しN因子は母から由来 してv・る。従って母の因子型はAM/BNと老えられる。父はこの草合AM/ON型かAN/OM型
であるが何れの子も0因子がなv・からAM/ON型となる。そこでABMN型の子は父からAM母
からBNを受けてABMN型となり, ABM型の
子は父からAM母からBMを受けつv・だ事になり ここに交叉型を認める。第5図も同様に検して行くと第3代OMN型の子の解合は母AM/0:N型
であり,ABM型の子の場合ぱAN/OM型であ
る。第6図では交叉が認あられなv・。 以上の如ぎ結果を得たが之から関連の有無を結 論するには例数が少なすぎる。しかし第1e2図 の1部,3・4。5・6図より交叉:非交叉=1: 4の比を得た事実のみを記して今後のかかる方向 への研究の方々に便宜の為図示解説を試みたにと どめる。 緒 び 本調査の結果を総括すれば次の様である。 1) 調査対象の一血液型分布は家族調査例59家族 285名ではA型101名35.4%,B型58名20.4%,0 型95名33,3%,AB型31名109%, MN型152名 53.3%, M型8空名28.8%, N型51名17.9%で, イ固 三晃調査例の231名ではA型75名32.5%,B型54 名23e4%,0型72名31.2%, AB型30名12.9%, MN型117名50.6%, M型58名25.1%, N型56名 24・3%で,総計516名ではA型176名34.1%,0 型167名32.3%,B型∬2名21.7%, AB型61名 11.9%,MN型269名52.1%, M型140名27.1% N型107名20.7%であった。特異的な偏りは認め られなV・。 2) 本調査例でぽABO式血液型による自然淘汰 の確証は得なかった。 3) ABO式因子, MN式因子の組合せを6家系 について図示し,交叉型:非交叉型=1:4の比を 得たが詳細は今後の問題である。 交 献1) Landsteiner, K.:Wien. Klin. Wschft.41, 1!32 (1901)
2) Landvbteiner, K. & Wi・].ner, A.S. : Proc.
Soc. Exp. Biol. & Med. 54, 223 (1940)
3) Diens t, A.:Zblt. i”. Gynak. 12, 353 (1905)
4) Rottenbemg, R. : J.A.MA 81, 295 (1923) 5) Halhreckt, 1.:Am. J. Dis. Child. 68, 248 (1944)
6) Wiener, A.S., Waxler, 1.B. & Hur“t, 」.G. :
Biood, 6, 1014 (1949)
7)膳所美光:産婦の世界 2,293(1950) 8)膳所美光;臨産婦 5,45(1951)
9)野田金次郎他3名;産婦の世界4,48(1952) 10)野田金次郎他2名:児科診療14,677(1951) 11) Race, R.R. &f Sau.asr, R.:B]ood Grou.ps in
Man, Charles C. Thomas (1954)
12)松男∼英他:第37次並第38次,日本法医学会誌抄
録集(1953及び1954)