1.はじめに
台湾の南部に位置し、台北から台湾高速鉄道(台湾新幹線)で 2 時間弱。台湾第二の都市と 呼ばれる高雄(Kaoshiung)にて、アジアスポーツマネジメント学会(Asian Association for Sport Management Conference:以下 AASM と略す)が開催された。
AASM は、表 1 にあるように 2002 年に韓国ソウルでの開催を発端とし、2004 年に中国の北京、 2006 年に日本の東京、2008 年にタイのバンコク、2009 年に台湾の台北、2010 年にマレーシア のクアラルンプール、2011 年にモンゴルのウランバートル、2012 年に中国の長春、2013 年に マレーシアのクアラルンプールにて過去 9 回開催されてきた。そして今年、2014 年 6 月 24 日か ら 26 日まで、台湾の高雄にて 10 回目の記念すべき大会が行われた。
会場となったガーデン・ヴィラ・ホテル(Garden Villa Hotel)は、車で新幹線の左営駅より約 5 分、 高雄国際空港より 25 分の場所に位置し、ホテル周辺には、約 5 年前に開通した高雄 KMRT の地 下鉄駅が 2 つあり、鉄道駅もあるアクセス面では比較的便利な場所にある。植物園を始め、幾つ もの自然公園に囲まれており、会場のすぐ近くには湖、と自然環境が整った立地でもあった。
台湾の人気の高いスポーツは野球であり、唯一プロリーグが存在している。日本でも特に有名な 台湾出身の野球選手は、日本野球機構(NPB:Nippon Professional Baseball)の北海道日本ハムファ イターズ(パシフィック・リーグ)で活躍する陽岱鋼(ヤン・ダイガン)や現在大リーグ(MLB:
■国際会議レポート
アジアスポーツマネジメント学会 2014 年度大会
The Asian Association for Sport Management Conference 2014
棟田雅也(大阪体育大学生涯スポーツ実践研究センター)
Major League Baseball)のボルチモア・オリオールズ(元中日ドラゴンズ)に所属する陳偉殷(チェン・ ウェイン)などが挙げられる。台湾プロ野球リーグ(CBPL:Chinese Professional Baseball League) は 4 チームで編成され、1試合の平均観客動員数は 2 千人程度である。日本のプロスポーツにお ける1試合の平均観客動員数と比較すると、バスケットボールがほぼ同じマーケット規模であると 言える。
本大会のテーマは “Mutual Benefits of International Cooperation (国際協力の相互利益) ” とされ、開 催期間の 3 日間、表 2 に示されている日程で研究発表だけでなくさまざまな催しが行われた。ア ジアの各国が、国勢や、言語、文化、宗教など様々な違いを理解した上で、どのように連携・協力 を図っていくのか、といった課題解決に向けて様々な視点からシンポジストやパネリストが提言を 行った。 アジア圏を中心として産業界、国や地方自治体、大学や研究機関に所属する多くの研究者及び実 表1 過去の大会スケジュール
Session Time Host City Session Time Host City 1st 2002 Korea Seoul 6th 2010 Malaysia
Kuala Lumpur 2nd 2004 China Beijing 7th 2011 Mongolia Ulaanbaatar
3rd 2006 Japan Tokyo 8th 2012 China Changchun
4th 2008 Thailand Bangkok 9th 2013 Malaysia
Kuala Lumpur 5th 2009 Taiwan Taipei 10th 2014 Taiwan Kaohsiung
表2 大会概要
日程 6 月 24 日 ( 火 ) 6 月 25 日 ( 水 ) 6 月 26 日 ( 木 )
タイムスケジュール
09:00 ~ Conference Registration
09:30 ~ Asian Summit Forum of Sport Management II
“The Experiences of Internaitonal Collaboration in Asian Area”
09:30 ~ Keynote Speech III
“Legal Aspects of International Collaboration”
10:00 ~ Opening Ceremony
10:30 ~ Closing Ceremony 11:00 ~ Keynote Speech I
“Strategies of Sucessful
Interna-tional” 11:30 ~ Lunch Break 11:30 ~ Lunch Break & TASSM
As-sembly 12:00 ~ Lunch Break
13:00 ~ Keynote Speech II
“2017 Taipei Summer Universiade” 13:00 ~ Oral Presentation II 13:00
14:00 ~ Asian Summit Forum of Sport Management I
”The Cross Culture Issues of Inter-national”
16:00 ~ Poster Presentation I
16:30 ~ Oral Presentation I 16:30 ~ Poster Presentation I
17:00 18:00 ~ Welcome Party
務家、学生等が参加し、熱気のあるディスカッションが繰り広げられた。日本からの参加者は、写 真 2 のように日本スポーツマネジメント学会(JASM:Japanese Association for Sport Management) 会長の早稲田大学・原田宗彦氏を始め、AASM 理事及び役員として順天堂大学・小笠原悦子氏、 早稲田大学・松岡宏高氏、一般の参加者として、早稲田大学から 5 名、順天堂大学から 1 名、東 海大学から 1 名、至学館大学から 3 名、東海学園大学から 1 名、大阪体育大学から 5 名(筆者含む) (順不同)の合計 19 名が参加した。
2.基調講演
基調講演は、3 つのセッションに分かれての発表であった。表 2 に示したように学会初日の午 前中には基調講演 1「University of Northern Colorado スポーツ科学部学部長の Dr. David STOTLAR より “Strategies of Successful International (国際的成功戦略) ”」、午後には基調講演 2「University of Taipei 学長の Dr. Hsia-Ling TAI より “2017 Taipei Summer Universiade(2017 年台北サマーユニバー シアード) ”」が行われ、学会最終日に基調講演 3「WASM:World Association for Sport Management, オーストラリア会長の Dr. Paul JONSON より “Legal Aspects of International Collaboration (国際協働 の法的側面) ”」と題して講演が行われた。基調講演 1 “Strategies of Successful International (国際的成功戦略) ” では、国際的に協働をしてい くにあたり、人的協働がもっとも大きな力になるものと述べ、そのためにも、大学が国際的に連携 を取り、交換留学などのカリキュラムやプログラムを確立すべきであると提言した。オリンピック 大学において世界中の講義を聴講できる様子などは大変興味深いものであった。
基調講演 2 “2017 Taipei Summer Universiade (2017 年台北サマーユニバーシアード) ” では、動 画を中心とした発表で、会場となる施設などの広告映像が流された。2020 年には東京オリンピッ クの開催も決定しており、メガスポーツイベント開催国の準備過程などスポーツイベントをマネジ メントするにあたって貴重な情報を得ることができた。
基調講演 3 “Legal Aspects of International Collaboration (国際協働の法的側面) ” では、法律の原理 (Legal Principles)についてWASM(Would Association for Sport Management)を事例として紹介された。
国や地方ごとに異なる法制度によりスポーツの法整備に問題が生じることや、国際的に共通した法 律をつくることは可能であるが、それとドメスティック(Domestic)との権利がどのように協働さ れるのかは慎重な議論が必要であることを述べた。
3.フォーラム
フォーラムは、2 つのセッションに分かれて行われた。表 2 に示したように学会初日の午後 にアジアスポーツマネジメントサミットフォーラム 1 “The Cross Culture Issues of International Collaboration(国際協働の異文化的問題点) ”、2 日目の午前中にアジアスポーツマネジメントサミ ットフォーラム 2 “The Experiences of International Collaboration in Asian Area(アジア圏における国 際協働の経験)” と題してプログラムが進められた。
アジアスポーツマネジメントサミットフォーラム 1 “The Cross Culture Issues of International Collaboration(国際協働の異文化的問題点)” では、前 AASM 会長の原田宗彦氏をモデレーターとし、 タイ・フィリピン・シンガポール・台湾・インドより 5 名のパネリストを迎え、パネリストから各国々 の事例が紹介された。10 周年を迎える AASM にとって、ステイクホルダーにより多くの機会やサ ービスの提供するために AASM にできることは何かについて、活発な議論が展開された。
アジアスポーツマネジメントサミットフォーラム 2 “The Experiences of International Collaboration in Asian Area(アジア圏における国際協働の経験) ” では、AASM 会長の Dr. Nasanbat OYUNBAT を モデレーターとし、日本・マレーシア・台湾・タイ・モンゴルより 5 名のパネリストを迎え、各 パネリストから講演が行われた。各パネリストの講演は、各国の経験的な事例が紹介され、日本か らは順天堂大学・小笠原悦子氏が登壇した。
小笠原氏の発表では、「Asian Network on Women in Sport : How Should We Collaborate to Advance Women in Sport by Using Knowledge of Sport Management?(女性スポーツにおけるアジアネットワー ク:スポーツマネジメントの知識を用いた女性スポーツの推進のためにどのように協働すべきか)」 のテーマについて、日本のなでしこジャパンなどの成功事例を基に、個人的、組織的、政策的に女 性アスリートをサポートすることの重要性、また、質の高い女性リーダーを創出する必要性を述べ 表3 国別発表件数 国名 2013 年 % 2014 年 % 台湾 25 37.3% 64 49.2% 韓国 10 14.9% 16 12.3% タイ 8 11.9% 12 9.2% マレーシア 8 11.9% 11 8.5% シンガポール 1 1.5% 11 8.5% 日本 8 11.9% 10 7.7% 中国 0 0.0% 4 3.1% ベトナム 5 7.5% 0 0.0% モンゴル 0 0.0% 1 0.8% インド 2 3.0% 1 0.8% 合計 67 100% 130 100%
た。それらを基にフロアも含め一斉にディスカッションを行い、アジア圏における国際協働につい ての提言を行った。
4.一般研究発表
2013 年度の AASM の口頭発表数は 58 題、ポスター発表数が 9 題の合計 67 題であった。今回 の 2014 年度は口頭発表数が 69 題(中国語発表 7 題を含む)、ポスター発表数が 61 題(中国語発 表 8 題を含む)の合計 130 題であった。前回大会に比べて口頭発表数は中国語発表を差し引くと それほど差はない。ポスター発表数は中国語発表を差し引いても 44 題の増加が見られた。 表 3 は、2013 年度前回大会および本大会の国別発表件数の推移をまとめたものである。本大会 の国別発表件数の上位 3 か国は前回大会と同様に上から台湾、韓国、タイであった。最も発表件 数の多い台湾は本大会において約半数を占める発表件数であった。発表件数の上昇率は台湾が 39 件で最も多く、開催国であったこと、中国語発表が設けられていたことなども要因に挙げられるが、 本大会の約半数をひとつの国が占めるという事実は重く受け止めなければならない。 表 4 には、日本からの発表タイトルと発表者が示されている。口頭発表 5 題、ポスター発表 5 題の合計 10 題の研究発表が行われた。そのうち、大阪体育大学教授の藤本淳也氏が発表した「The Effect of Attitude toward Facebook Page of the Professional Baseball team on Team Loyalty and Intention to Attend Games(プロスポーツチームの Facebook ページがチーム愛着と行動意図に及ぼす影響に関 する研究)」が優秀発表賞(口頭発表部門)として表彰を受けた。表 4 日本からの発表タイトルと発表者
発表タイトル 発表者(敬称略)
オーラル発表
Team Leadership and Team Competency in Collegiate Women's
Vol-leyball Teams 順天堂大学大学院渡邉 夏美 Examining the Spectator Loyalty and Identification Model:
A Case Study of Volleyball Top League Spectators in Japan 東海学園大学出口 順子 Effects of Carrer Counseling Sessions:
Preliminary Examination with Student Athletes in Japan 至学館大学徳山 性友 The Effect of Attitude toward Facebook Page of the Professional
Baseball team on Team Loyalty and Intention to Attend Games 大阪体育大学藤本 淳也 A Comparative Study between Chinese and Japanese Sport
Specta-tors Motives 早稲田大学大学院王 程程
ポスター発表
Study on the Development of Women's Soccer in Japan and Issues to Be Addressed:
From the Perspective of Changes in Women's Soccer Wear
東海大学 恩田 哲也 Development of a Scale to Measure the Team Mascot Image in
Professional Sport 大阪体育大学大学院長谷川 堅一 The Growth Process of a Dance Critic 早稲田大学大学院醍醐 笑部 Course Design in Sport Management Education:
A Sport-Based University Students' Preference through Conjoint Methodology
大阪体育大学生涯スポーツ実践研究センター 棟田 雅也
また、大阪体育大学生涯スポーツ実践研究センター研究員の棟田雅也(筆者)が発表した「Course Design in Sport Management Education: A Sport-Based University Students' Preference through Conjoint Methodology(スポーツマネジメント教育におけるコースデザイン:コンジョイント分析を用いた 体育系大学生の選好行動に関する研究)」が優秀発表賞(ポスター発表部門)として表彰を受けた。 表 5 は、2013 年度前回大会および本大会の研究分野別発表件数の推移をまとめたものである。 これら 11 の分類項目は、北米スポーツマネジメント学会大会報告(新井、2011;井上・佐藤、 2010;佐藤・本間、2012;吉田、2009)、および日本スポーツマネジメント学会が示す研究・実 践分野(日本スポーツマネジメント学会公式ホームページ、2014)を参考に筆者が作成した。前 回大会でも 3 割以上を占めているマーケティング(Marketing)が 42 題(32.3%)で最も多い結 果となった。前回大会に比べ比率は減少しているものの、発表件数は 17 件の上昇となっている。 なかでも消費者行動(Consumer Behavior)が 19 件(45.2%)を占め、消費者行動研究に関する関 心の高さが伺える。2 番目には、マネジメント(Management)/リーダーシップ(Leadership)が 33 題(25.4%)で本大会全体の 4 分の 1 の発表件数を占めていることが分かる。前回大会に比べ 比率・件数ともに増加しており、上昇率では最も大きい結果となった。3 番目には、教授法(Teaching) が 25 題(19.2%)であった。前回大会に比べ比率・件数ともに増加している。特に、学生(Student)、 アスリート(Athlete)、プログラム(Program)、キャリア(Career)、仕事(Job)、動機(Motivation)、 満足度(Satisfaction)などのキーワードか並び、2012 年度の AASM でもスポーツマネジメント教 育の基調講演(Key Note Speech)が行われたように(恩田・駱、2012)、今後大きなテーマなって いくことが発表件数の推移からも伺える。
全体として全分野を通じてスポーツイベント(Sport Event)に関する研究が 18 件を占めた結果 となった。これは、近年、オリンピック(Olympic)やユニバーシアード(Universiade)などの国 際的なスポーツイベントがアジア圏で開催されることの影響であると考えられる。
施設(facility)、ボランティアなどの労働力(Volunteer Worker)、経済効果(Economics Effect)、 スポンサーシップ(Sponsorship)、住民認知(Recognition by City Citizens)などのイベント・マネ ジメントの視点が重要となり、国際的に注目を浴びているイベントに向けて研究が加速することを 期待したい。 表5 研究分野別発表件数 カテゴリー 2013 年 % 2014 年 % Communication 2 3.0% 4 3.1% Economics/Finance 1 1.5% 3 2.3% Governance 2 3.0% 2 1.5% Legal Aspects 0 0.0% 2 1.5% Management/Leadership 15 22.4% 33 25.4% Marketing 25 37.3% 42 32.3% Organizational Theory/Culture 9 13.4% 11 8.5% Research/Statistical methodology 1 1.5% 2 1.5% Sport Tourism 3 4.5% 2 1.5% Teaching 9 13.4% 25 19.2% Others 0 0.0% 4 3.1% 合計 67 100% 130 100%
5.まとめ
以上、AASM2014 第 10 回大会における基調講演、フォーラム、一般研究発表を略説した。基 調講演では、Dr. David STOTLAR、Dr. Hsia-Ling TAI、Dr. Paul JONSON の 3 名より戦略的視点、イ ベント・マネジメントの視点、法的視点など様々な視点から各国、各カンファレンスの国際協働に ついて提言がなされた。フォーラムでは、アジア圏の国際協働について異文化的・経験的な観点の 2 つのセッションに分かれ、ディスカッションが行われた。一般研究発表では、前回大会と同様に マーケティングに関する発表が最も多かったが、一方で学生の教育プログラムやアスリートの人材 育成システム、キャリアシステムなどのスポーツマネジメント教育の分野や施設・人材マネジメン トやスポンサーシップなどの視点からのスポーツイベントに関する研究も扱われ、アジア圏におけ るスポーツマネジメント研究の動向が垣間見えた。
本大会は “Mutual Benefits of International Cooperation (国際協力の相互利益) ” というテーマで開催 された。冒頭でも述べたが、AASM は、国や大陸、言語、文化、宗教などの違った様々な国々の メンバーから成り立つ組織である。このようにアジアという混在した地域性、地理的条件の特異性、 格差問題などを踏まえたあるいは特化した研究を促進していくことで AASM という組織を特色付 けていくことができるのではないだろうか。 なお、次回 AASM2015 第 11 回大会は、2015 年の 6 月下旬にマレーシアのランカウイ島にて 開催される予定である。 【参考文献】 新井彬子(2011)北米スポーツマネジメント学会 2011 年度大会.スポーツマネジメント研究,3(1): 100-104. 井上雄平・佐藤幹寛(2010)北米スポーツマネジメント学会 2010 年度大会の研究動向.スポーツマネジ メント研究,2(2):179-184. 恩田哲也・駱嘉寅(2012)アジアスポーツマネジメント学会 2012 年度大会.スポーツマネジメント研究, 4(1):49-53. 佐藤晋太郎・本間崇教(2012)北米スポーツマネジメント学会 2012 年度大会.スポーツマネジメント研究, 4(1):43-48. 吉田政幸(2009)北米スポーツマネジメント学会 2009 年度大会の研究動向.スポーツマネジメント研究, 2(1):57-62. 【参考 URL】 日本スポーツマネジメント学会ホームページ http://e-jasm.jp/(2014 年 8 月 22 日アクセス)