大振幅集団運動の微視的理論について
(未発表ノート 2013 June 15) 平均場の時間発展をつかさどる少数の集団変数に対する集団ハミルトニアンを導出して 大振幅集団現象を記述する微視的理論の主要なアイディアとその低励起4重極スペクトル への最近の適用についてレビューする。 構成 A. 原子核の低エネルギー集団運動の基本課題 低励起4重極スペクトルの特徴/ 形の量子揺らぎと破れた対称性を回復する集団運動/ 5 次元集団ハミルトニアン/ 集団変数の導出と時間変化する平均場の集団量子化 B. QRPA を超える微視的理論の現状と今後の課題 ボソン展開法/ 時間依存密度行列理論と高次 QRPA/ 生成座標の方法 (GCM)/ 拘束 HFB+ 断熱摂動論/ 断熱的 TDHF (ATDHF) 理論 C. 集団ハミルトニアンの微視的導出 集団多様体を抽出する必要性/ 自己無撞着集団座標 (SCC) の方法/ 断熱的 SCC 法 [拘束 HFB 方程式との相違, 対回転自由度に関するゲージ不変性, 断熱展開と集団質量の物理的 意味, ASCC 法の適用例 (68Se)] D. 変形共存/ゆらぎ現象の微視的記述 5 次元集団ハミルトニアンの微視的導出/ 異なった変形の共存と大振幅ゆらぎ現象への適 用/ LQRPA の適用例 (68Se, 32Mg)/ 他のアプローチ E. 今後の課題A.
原子核の低エネルギー集団運動の基本課題
低励起4重極スペクトルの特徴 本章では低励起スペクトルで支配的な役割を果たしている低振動数の 4 重極集団運動を 取り上げる。(前章で議論したように、) 高励起状態に現れる多様な巨大共鳴は時間依存 Hartree-Fock (TDHF) 理論の小振幅近似である RPA でよく記述できる。これらと異なり、 低振動数の 4 重極振動は有限な超流動系である原子核の表面の形の量子的ゆらぎモードで あり、平均場のシェル構造と対相関が本質的な役割を果たしている (Bohr and Mottelson, 1975; Aberg, Flocard, and Nazarewicz, 1990; Bender, Heenen, and Reinhard, 2003; Rowe and Wood, 2010; Matsuyanagi et al., 2013)。また、これらは 4 重極平衡変形への量子相 転移のソフトモードでもある。古くから良く知られているように、球形から4重極変形へ の量子相転移の転移領域にある原子核、すなわち、平均場の球対称性が破れる寸前にある原子核や対称性の破れが弱い場合には振動の振幅が著しく大きくなる。広い転移領域が 存在し多様な励起スペクトルが観測されるのは原子核のような有限量子系に特有なこと であり、量子相転移の過程を低励起スペクトルの研究を通じて詳細に調べる絶好の機会を 与えてくれている。これらの現象を記述するためには(対相関を取り込んで拡張された TDHF 理論である)時間依存 HF-Bogoliubov (TDHFB) 理論の小振幅近似である準粒子 RPA 近似 (QRPA) を超えた理論が必要になる。上で述べたように、シェル構造と対相関 が低励起4重極モードの集団性の形成とこれらの性質を決定する上で本質的な役割を果 たしているから、これらの集団モードを記述するためにはシェル効果と対相関を取り入れ た大振幅集団運動の微視的理論を構築する必要がある。 形の量子揺らぎと破れた対称性を回復する集団運動 超伝導の BCS 理論が理論物理の基礎概念を革新したことは良く知られている。その中 心となる概念は「対称性の自発的破れ」と「破られた対称性を回復する集団モードの存 在」である (Anderson, 1958; Nambu, 1960; Brink and Broglia, 2005)。良く知られた軸対 称変形核の回転スペクトルはこの概念で理解できる分かりやすい具体例である (Bohr and Mottelson, 1975; Frauendorf, 2001)。すなわち、これらの回転励起は平均場近似によって 破られた球対称性を回復する集団励起とみなせる。しかしながら、有限量子系としての原 子核の形はつねに量子ゆらぎを伴っていることを忘れてはならない。平均場のエネルギー が有限の β 値に極小点をもっていても、このポテンシャル極小が浅ければ揺らぎの振幅が 大きくなる。特に軸対称性を破る γ 変形方向に大きい揺らぎを示している原子核が広範 に存在する。これらは γ-soft な原子核と呼ばれている。軸対称変形では対称軸周りの量子 力学的回転運動は禁止されているが、形の量子ゆらぎによって軸対称性がダイナミカルに 破れれば 3 つの主軸周りの回転運動の自由度がすべて活性化する。球対称性が破れていて も、このようなことが起こっている γ-soft な状況では回転スペクトルは単純な I(I + 1) 則 を示さない。 5 次元集団ハミルトニアン 原子核の振動・回転運動は一般化された平均場の時間変化として記述できる。よく知ら れているように、このことは Bohr-Mottelson の統一モデルの基本アイディアである (Bohr, 1976; Mottelson, 1976)。Bohr-Mottelson モデルでは 4 重極集団振動と回転運動を統一的に 記述する 5 次元集団ハミルトニアンは以下の様に与えられる (Bohr and Mottelson, 1975; Pr´ochniak and Rohozi´nski, 2009)。
ˆ H = ˆTvib+ ˆTrot+ V (β, γ), (1) Tvib = 1 2Dββ(β, γ) ˙β 2 + Dβγ(β, γ) ˙β ˙γ + 1 2Dγγ(β, γ) ˙γ 2 , (2) Trot = ∑ k ˆ Ik2 2Jk(β, γ) . (3)
ここで β は 4 重極変形の大きさ、γ は軸対称からのずれを表現する力学変数である。これ らは 4 重極モーメントの期待値を通じて定義され原子核表面の形と関係づけることができ る。 ˙β, ˙γ はそれらの時間微分をあらわす。振動の運動エネルギー Tvibの D は振動運動に 対する慣性質量を表す。これらは一般に β, γ に依存する関数である。回転運動のエネル ギー Trotの ˆIkは角運動量の 3 つの成分、Jk = 4β2Dk(β, γ) sin2(γ− 2πk/3) は対応する慣 性モーメントを表す。これらの成分は実験室に静止した座標系でなく、時間とともに揺ら ぐ平均場の瞬間的な主軸に乗っかった物体固定主軸系で定義されていることに注意。この 座標系は intrinsic 系ともいわれる。V (β, γ) は 4 重極集団運動に対するポテンシャルエネ ルギーであり、(以下で議論するように)微視的ハミルトニアンの TDHFB 状態に関する 期待値として定義される。球対称性が自発的に破れた変形核で V (β, γ) が有限の β 値かつ γ = 0◦または γ = 60◦ に深い極小点をもつ場合、低励起スペクトルは綺麗な回転スペクト ルを示す。また β や γ 変形自由度に関する振動モードが励起した β band や γ band を同 定できるようになる。しかしながら、より詳細にそれらの性質を調べてみると、γ 振動は 顕著な非線形性を示している。一方、β 振動は pairing gap の振動である pairing vibration との結合が強いことが古くから知られていたが、最近の新しい実験データはそれらの性格 について根本的な見直しが必要であることを示唆している (Heyde and Wood, 2011). 集団変数の導出と時間変化する平均場の集団量子化
時間変化する (一般化された) 平均場の状態ベクトルは数学的には一般化コヒーレント 状態となっている。また、時間依存 HFB 理論 (TDHFB) を大次元ハミルトン力学系の理 論として厳密に定式化できることも分かっている (Negele, 1982; Abe and Suzuki, 1983; Yamamura and Kuriyama, 1987; Kuriyama et al., 2001). このように、TDHFB 平均場の 時間発展を決める運動方程式は大次元の古典ハミルトン方程式と等価なので、(この近似 の枠内では)自発核分裂の量子トンネル現象も低励起状態の量子スペクトルも記述でき ない. 現実の集団現象を記述するためには平均場の時間発展を司る少数の集団変数を導入 し、これらを量子化する必要がある。時間変化する (一般化された) 平均場理論において、 平衡点まわりの振動の振幅が小さいと仮定し運動方程式を線形近似 (調和近似) する取り 扱いが RPA と(これを超伝導状態に拡張した)QRPA であり、これらが集団運動の微視 的理論の出発点となった。有限量子系における平均場はシェル構造をもち、(粒子-空孔配 位数あるいは2準粒子配位数に対応した) 膨大な微視的自由度を内包している。したがっ て、一口に「時間変化する平均場」と言っても実に多様な集団励起モードが現れる。例え ば, 四重極振動に低励起モードと巨大共鳴モードという全く性格の異なる二つのモードが 存在するのもこのためである。QRPA の最大の長所は量子多体系の極めて多数の微視的自 由度から出発して集団座標の微視的構造を理論的に決定できることである。QRPA 理論 は TDHFB 理論の小振幅近似として導出でき、多数の粒子-空孔励起のコヒーレントな重 ね合わせとして集団振動モードが形成される微視的機構を記述できる。QRPA のもう一 つの長所は平均場近似で破られた(連続)対称性を回復する Anderson-Nambu-Goldstone モードを分離できて, それらの集団質量を計算できることである (Ring and Schuck, 1980; Blaizot and Ripka, 1986; Brink and Broglia, 2005)。こうして, QRPA によって平均場が
破った(連続)対称性を (近似の範囲内でコンシステントに)回復できる。QRPA のこの ような利点を保持し拡張する形で大振幅集団運動の微視的理論を構築することは核構造 物理学の長期にわたる課題であった。以下では、この目標に向かっての様々な試みとそれ らの問題点をごく簡単にレビューする。
B. QRPA
を超える微視的理論の現状と今後の課題
本節では集団座標と集団運動量の微視的導出という目的に照らして、大振幅集団運動 の記述に現在よく用いられている代表的なアプローチの成果と今後の課題を簡潔にまと める。初期の成果は Ring and Schuck (1980) の教科書に、2000 年頃までの到達点は Do Dang, Klein and Walet (2000) のレビューに纏められているので、このレビューでは主と して最近 10 年余りの進展を紹介する。先ず、そのために必要な最小限の概念を復習する ことから始める。 ボソン展開法 非調和(非線形)振動を取り扱う実用的で優れた微視的方法のひとつとしてボソン展 開法がよく知られている。このアプローチでは球形平均場での QRPA によって得られた 集団励起モードの多フォノン状態を用いて、広大なシェルモデル状態空間の中に集団部分 空間を構成し、これらの状態をボソン空間内に 1:1対応で転写する。こうして、QRPA で無視された非調和効果はボソン演算子の冪級数展開の高次項として記述される。また、 古典的 5D 集団ハミルトニアンに対応する量子的 5D 集団ハミルトニアンを微視的に導出 することができる。ボソン展開法は球形から4重極変形の量子相転移領域を含めて広範 な原子核の低励起4重極スペクトルの解明に用いられ大きな成果を上げてきた (Sakamoto and Kishimoto, 1988; Klein and Marshalek, 1991)。時間依存平均場描像の観点からみる と、ボソン展開法では QRPA を解いて得られた少数の集団励起モードの生成消滅演算子 (Γ†i, Γi) あるいはそれらに対応する集団座標と集団運動量演算子 ( ˆQi, ˆPi) を用いて時間依 存平均場状態を以下の様に構成している。 |φ(t)i = ei ˆG(t)|φ 0i, (4) i ˆG(t) = ∑ i ηi(t)Γi− ηi∗(t)Γ†i (5) = ∑ i pi(t) ˆQi− qi(t) ˆPi. (6) 4重極変形振動の振幅|ηi(t)|(集団座標 qi(t) の値) が非常に大きくなると非線形効果がま すます強くなると考えられる。このような状況にも適用可能な大振幅集団運動の微視的理 論を構築するためには、集団演算子 ( ˆQi, ˆPi) の微視的構造が qi(t) の値に依存して変化す ることを許すように理論の枠組みを拡張することが望まれる。この課題については次節で 議論を具体的に展開する。時間依存密度行列理論と高次 QRPA
TDHF は一体密度行列 ρij =hφ| c†jci|φi の時間発展を記述するが、時間依存変分原理に
基づくより一般的なアプローチとしては、ρijに加えて二体相関行列
Cijkl =hφ| : c†kc†lcjci :|φi ≡ hφ| ck†c†lcjci|φi − ρikρjl+ ρilρjk (7)
の時間発展 idCijkl dt =hφ| [: c † kc † lcjci :, H]|φi (8)
を考慮する時間依存密度行列(TDDM)理論が知られている(Wang and Cassing, 1985)。 巨大共鳴の減衰機構や非調和効果の分析に用いられている extended RPA (Tohyama and Schuck, 2007) や second RPA (Dro˙zd˙z et al., 1990; Gambacurta et al. 2011, 2012; To-hyama and Nakatsukasa, 2012)は TDDM 理論の小振幅近似として導かれる。後者は前 者において特定の項(以下で述べる)を無視した近似である。これらの仕事では HF 基底 で定義された粒子-空孔表示が用いられている。核子対相関を取り込んだ準粒子基底を用 いて TDDM 理論を最も一般的なかたちに拡張する試みは未だなされていないが、その小 振幅近似は高次 QRPA と呼ばれるアプローチに対応すると考えられる。高次 QRPA では QRPA での準粒子 2 体集団励起モード演算子 Γ(2)n †=∑ (ij) (ψijn(2)a†ia†j + ϕn(2)ij ajai) (9) に加えて、準粒子 4 体集団励起モード演算子 Γ(4)n † = ∑ (ijkl) (ψijkln(4)a†ia†ja†kal†+ φn(4)ijkla†ia†jalak+ ϕ n(4) ijklalakajai) (10) を決定する運動方程式を導く。上式から明らかなように、このアプローチは(集団励起の 量子が2個励起した)2フォノン状態における準粒子間パウリ原理に由来する非調和効果 の厳密な取り扱いや集団励起モードの減衰の記述に有力な方法と考えられる。ただし、注 意すべき点がある。Γ(4)† n のなかの a†ia†jalak項を無視した計算が広く行われているが、この 項を無視すると 4 準粒子励起に対応する基底状態相関が取り込めないため2フォノン状態 の集団性がうまく記述できない (Tamura and Udagawa, 1964)。 この困難を克服した理論 は多準粒子 New Tamm-Dancoff 法として定式化されている (Kanesaki et al., 1973; Sakata et al., 1981)。粒子-空孔励起の場合の second RPA では a†ia†jalak に対応する項がもたらす
基底状態相関が無視されているが、Tohyama and Schuck(2007) の extended RPA 計算 ではこの相関効果が取り入れられている。TDHF に基づいて ATDHF 理論が展開された こととアナロガスに、TDDM 理論に基づいて大振幅集団運動を記述するために集団変数 を導入しようという試みは未だない。
生成座標の方法では生成座標の値が異なる多数の平均場の重ね合わせとして集団運動状 態を記述する。f 個の生成座標 (generator coordinates) を α = (α1, α2, ..., αf)、α で指定 される平均場の状態を|φ(α)i とし、状態ベクトルを |Ψi = ∫ dαf (α)|φ(α)i (11) と書く。与えられた平均場の状態群|φ(α)i に対して重み関数 (weight function) f(α) を決
める変分方程式は ∫ dαf (α)hφ(α)| H − E |φ(α0)i = 0 (12) で与えられる。ここで積分記号∫ dα は f 個の生成座標に関する多重積分を表す。一般に は積分の体積要素を考慮する必要があるが、上式ではそれは重み関数 f (α) の中に含まれ ているとする。 GCM は広範な原子核現象に用いられてきた。GCM を用いた研究のレビューとしては Reinhard and Goeke (1987)、Egido and Robledo (2004)、Bender (2008) が参考になる。 比較的最近の仕事としては例えば Robledo and Bertsch (2011) による低励起八重極振動の 系統的な分析がある。 低励起4重極集団運動への適用では生成座標 (generator coordinates) として軸対称変形 パラメター β、非軸対称変形パラメター γ、集団回転運動のオイラー角 Ω = (ϑ1, ϑ2, ϑ3)、 中性子と陽子の対回転自由度 (ゲージ角)ϕn, ϕp、中性子と陽子の対ギャップ ∆n, ∆pなど が用いられる。5 次元四重極変形パラメタ―(β, γ, Ω) +陽子数・中性子数に関する対回転 角 (ゲージ角)(ϕn, ϕp) を生成座標とする場合、つまり、α = {β, γ, Ω, ϕn, ϕp} の場合、 3次元回転のオイラー角 Ω と対回転角 (ϕn, ϕp) への依存性は解析的に求まり、状態ベク トルは ΨiN ZIM = ∫ dβdγ∑ K fN ZIKi (β, γ) ˆPNPˆZPˆIM K|φ(β, γ)i (13) と書ける。ここで ˆPN と ˆPZは中性子数・陽子数射影演算子、 ˆPIM Kは角運動量射影演算 子である。多くに場合、変形パラメータ (β, γ) は四重極演算子の期待値を通じ定義され る。拘束 HFB 法によって (β, γ) 平面の各点で平均場を計算し、そこから 3 次元角運動量 射影して得られた状態を量子力学的に重ね合わせて変分するには膨大な計算時間を要す る。このような計算を実行することは核構造物理学の長年にわたるチャレンジであった。 この点で、この数年、目覚ましい進展があった。現在、いくつかの研究グループによって そのような計算が実行されている (Bender and Heenen, 2008; Rodriguez and Egido 2010; Rodriguez and Egido 2011; Yao et al., 2010; Yao et al., 2011)。密度依存有効相互作用を 用いた HFB 計算は近年になって密度汎関数理論 (DFT) によって基礎づけられるようにな り、現代的な GCM 計算は multi-reference DFT とも呼ばれている (Bender and Heenen, 2008)。
GCM は実用的で便利な方法であるが, 次のような問題が残っている。 1) まず、発散を回避する必要がる。生成座標は連続変数であるが数値計算では離散化す る。離散化の連続極限は一般には収束しないので, 最適な離散化を見つけなければならな い (Bonche et al., 1990)。実際計算では最適な離散化を経験的に決めているが, その物理 的根拠のより深い理解が望まれる。また、密度汎関数を用いて量子数射影を行う際に密度 依存有効相互作用に起因する発散が起こり得る。現在、この問題を克服するための努力が 行われている (Anguiano, Egido, and Robledo, 2001; Dobaczewski et al., 2007; Duguet et al. 2009)。
2) 実数の生成座標を用いた生成座標法から出発し、重なり積分をガウス近似 (GOA) す ることによって集団シュレーディンガー方程式を導出できることが知られている (Griffin and Wheeler, 1957; Onishi and Une, 1975, Rohozi´nski, 2012)。しかし、実数の生成座標 のみを使って求められた集団質量(慣性関数ともいう)には平均場の time-odd 成分によ る物理的効果が十分に取り込めている保障がない。この効果を取り込むためには一般には 複素数の生成座標を用いる必要があるだろう。古くからよく知られていることだが、この 方法を重心運動に適用した場合、得られた集団質量が正しい慣性質量と一致するためには 複素数の生成座標を用いなければならないことがわかっている。生成座標を複素数にする ことは座標と運動量の両方を生成座標とすることに対応する (Peierls and Thouless, 1962; Ring and Schuck, 1980)。
3) このアプローチにおけるもう一つの重要な問題は何を最適な生成座標として選ぶか、と いう問題である。つまり、状態群|φ(α)i 自体も変分的に決定することが望ましい。状態 群|φ(α)i の張る空間 S の変分を δS と書けば、状態ベクトルの変分は |δΨi = ∫ S+δS dα(f (α) + δf (α))|φ(α)i − ∫ S dαf (α)|φ(α)i (14) と書ける。状態空間 S を決める方程式は ∫ dαf (α)hφ(α)| H − E |δφ(α0)i⊥ = 0 (15) で与えられる。ここで、|δφ(α0)i⊥は状態群|φ(α)i の張る空間 S に垂直な方向への変分を 表す。かって Holzwarth and Yukawa (1974) は上式を解いて最適な生成座標を変分的に 決定することを試み、 生成座標が一つの場合には、最適な集団経路は変形ポテンシャル の谷(valley)を走ることを示した。この仕事は Reinhard and Goeke (1979) などによっ て更に進展し 、以下で議論する大振幅集団運動の微視的理論構築に向けての大きな流れ に合流していった。
ここで注意することがある。現在広く行われているの GCM 計算は小振幅振動の極限で (Q)RPA を含まない。もちろん、すべての粒子-空孔 (2 準粒子)自由度に対して複素数の生 成座標を導入すれば小振幅の極限で(Q)RPA に帰着するが (Jancovici and Schiff, 1964)、 4重極変形パラメタ―などに対応する少数の実数の生成座標を用いる場合には一般には (Q)RPA に帰着しない。
拘束 HFB+断熱摂動論 大振幅集団運動に対する微視的計算として現在広く採用されているアプローチでは、先 ず少数の集団座標に対応する一体演算子を仮定し、それらの期待値に拘束をかける拘束 HFB 法(又はその近似として拘束 HF+BCS 法)によって集団運動のポテンシャルエネル ギーを計算する。そのうえで、大振幅集団運動は速度が遅くて断熱近似が当てはまると仮 定し、断熱摂動論を用いて平均場の運動エネルギーを計算する。一体演算子 ˆFiの基底状 態期待値が指定された値 αiをとるように拘束された HFB 方程式は δhφ0(α)| ˆH− ∑ i αiFˆi|φ0(α)i = 0, (16) αi =hφ0(α)| ˆFi|φ0(α)i (17) で与えられる。この方程式を解いて得られた平均場の基底状態|φ0(α)i をある時刻での断 熱配位とみなし、その時間発展を断熱摂動論 (adiabatic perturbation) を用いて計算する と集団運動の運動エネルギーは次のように与えられる。 Tcoll = 1 2 ∑ ij Dij(α) ˙αiα˙j. (18) ここで Dij(α) = 2 ∑ n hφ0(α)| ˆFi † |φn(α)i hφn(α)| ˆFj|φ0(α)i (En(α)− E0(α))3 (19) は集団質量に対するクランキング公式、あるいは対相関が考慮されていることを示すため に Inglis-Belyaev 公式と呼ばれている (Ring and Schuck, 1980)。この式で|φn(α)i は励起
状態を表すが、 ˆFiが一体演算子なので|φ0(α)i からの2準粒子励起状態のみが寄与する。
クランキング質量は現象論的平均場と組み合わされて核分裂ダイナミクスなど多様な集団 現象に広く用いられてきた(Brack et al., 1972)。最近になって、拘束 HFB 方程式を自己 無憧着に解いて得られた平均場を用いて核分裂ダイナミクスを微視的に研究できるように なった(Baran et al., 2011)。クランキング公式は低励起四重極集団運動のダイナミクス の研究にも広く用いられてきた(Libert et al., 1999; Yuldashbaeva et al., 1999; Pr´ochniak et al., 2004; Delaroche et al, 2010)。最近、相対論的 HFB 理論 (Vretenar et al., 2005) に 基づき、クランキング質量を用いて5次元四重極集団ハミルトニアンを導出して多様な低 励起集団スペクトルが系統的に研究されている (Nikˇsi´c et al., 2009; Li et al., 2009; Li et al., 2010a; Li et al., 2010b; Li et al., 2011; Nikˇsi´c et al., 2009)。クランキング質量は実用 的であるが集団運動に対する基礎的理論の観点からはひとつの問題を抱えている。それは 平均場の time-odd 成分の効果が無視されていることである。このため、集団質量が過小 評価されている (Dobaczewski and Dudek, 1995). この効果を取り入れてクランキング質 量を補正すると低励起スペクトルをよりよく記述できることが示されている (Hinohara et al., 2012). 運動する平均場の一粒子ポテンシャルは集団運動によって誘起された(時間反 転に対して符号を変える)time-odd 成分をもっており、この効果を取り込むためには以
下で議論する自己無撞着な微視的理論の開発が求められる。この成分を考慮することは一 粒子運動の有効質量と集団運動の質量をコンシステントに取り扱うためにも必要である。 断熱的 TDHF (ATDHF) 理論
ATDHF 理論の源流は 1960 年代の Belyaev (1965) や Baranger and Kumar(1965) の仕 事にまで遡る。彼らは時間変化する平均場の描像に基づき、4 重極演算子の期待値を通じ て集団座標 (β, γ) を定義してで 5D 集団ハミルトニアンを微視的に導出した。そして広範な 原子核の低エネルギースペクトルを系統的に議論した。これらの計算では簡単な分離型相 互作用である Pairing+Quadrupole (P+Q) force モデル (Bes and Sorensen, 1969) が微視 的ハミルトニアンとして用いられた。このアプローチは 1970 年代になって Baranger and V´en´eroni (1978), Brink et al. (1976), Goeke and Reinhard (1978) などによって ATDHF と呼ばれる一般性のある理論として定式化され、任意の有効相互作用に対して適用できる ようになった。
ATDHF では大振幅集団運動の速度は小さいと仮定して時間変化する密度行列 ρ(t) を次 のように書き、集団運動量に対応する χ(t) に関して冪展開する。
ρ(t) = eiχ(t)ρ0(t)e−iχ(t) (20)
= ρ0(t) + i[χ(t), ρ0(t)]− 1 2[χ(t), [χ(t), ρ0(t)]] + ... (21) = ρ0(t) + ρ1(t) + ρ2(t) + ... (22) 時間依存平均場のハミルトニアン W (t) も同様に χ(t) に関して冪展開する。 W (t) = W0(t) + W1(t) + W2(t) + ... (23) そして、時間依存変分原理の方程式が χ(t) に関する各冪で成り立つべしとの要請から、 χ(t) の一次で i ˙ρ0 = [W0, ρ1] + [W1, ρ0], (24) χ(t) の二次で i ˙ρ1 = [W0, ρ0] + [W0, ρ2] + [W1, ρ1] + [W2, ρ0] (25) を得る。これらが ATDHF 法の基本方程式である。 ここで、集団座標を密度行列の時間発展を記述するパラメタとして導入しよう。密度行 列 ρ0(t) の時間発展が f 個の集団座標 α = (α1, α2, ..., αf) によって決められる、つまり、 ρ0(t) = ρ0(α(t)), (26) ˙ ρ0(t) = ∑ i ∂ρ0 ∂αi ˙ αi (27)
と仮定して ATDHF 方程式の解を求めることができるだろうか。Baranger and V´en´eroni (1978) は集団座標を self-consistent に決めるための iterative な処方を議論しているが、こ
れまでに行われた実際の適用では集団座標は仮定されており、この iterative な処方は実 践されていない。ここで、少数の集団座標を手で導入した場合には、ATDHF の解が小振 幅の極限で RPA に帰着する保証はないことに注意しておく。
ATDHF 理論にはもうひとつ Villars (1977) によるアプローチがある。Villars 理論は集 団座標をパラメタとして持ち込むのではなく、時間依存変分原理に基づいて最適な集団 座標を自己無撞着に決定する方程式を提案しているという意味で Baranger and V´en´eroni (1978) より野心的な試みといえる。しかし、この理論は集団径路(集団多様体)を決定 する基本方程式の解がユニークに定まらないという理論的困難に直面した。この困難の根 源はその後 Mukherjee and Pal (1981) や Klein et al. (1991) によって深く分析され、 集 団運動量に関する展開の2次まで項を consistent に取り扱うことによって解決できること が示された。同時に、彼らは非集団的自由度と最大限に decouple した集団経路は TDHF 理論に付随する多次元配位空間の谷 (valley) と一致することを明らかにした。
対相関が重要な役割を演じている低エネルギー四重極集団運動を記述するためには、 ATDHF 理論を ATDHF-Bogoliubov (ATDHFB) 理論に拡張する必要がある。今日まで ATDHF の適用が主として対相関を無視しても差し支えない spherical closed shell 核同士 の低エネルギー衝突に限られていた (Goeke et al., 1983) のはその為である。対相関を無 視できる GQR にも適用されたが (Giannoni and Quentin, 1980)、GQR は小振幅であって ATDHF の目的とする現象ではない。低励起スペクトルにおける大振幅の shape fluctuation では single-particle level crossing がしばしばおこる。crossing point を乗り移って adiabatic configuration をとり続けるためには対相関が必要である。対相関の存在は大振幅集団運動 が adiabaticity の条件を満たすうえで不可欠といえる。
ATDHFB への拡張はかって Dobaczewski and Skalski(1981) によって試みられた。こ の仕事では軸対称四重極変形パラメタを集団座標と仮定して ATDHFB 方程式の解の性質 が議論された。ごく最近、ATDHFB に基づく 5 次元四重極ハミルトニアンの微視的導出 が試みられている (Li et al., 2012).
ATDHF を ATDHFB へ拡張することは実は straightforward ではない。大振幅集団運動 と AGN モードである pairing rotational modes との decoupling を保障する必要があるか らである。ためには gauge invariance を満足するように大振幅集団運動の微視理論を定式 化しなければならない。平衡点近傍の QRPA の場合、この条件は満たされており、これが QRPA の優れた点のひとつであった。小振幅の極限で QRPA に帰着するように ATDHFB 理論を定式化することは未だ行われていない。低エネルギー集団励起スペクトルを記述す る集団ハミルトニアンの微視的導出にはこの問題を解決しなければならない。
C.
集団ハミルトニアンの微視的導出
前にも触れたように、超流動系に一般化された平均場の時間発展を記述する時間依存 HFB 理論 (TDHFB) は大次元ハミルトン力学系と等価であり、TDHFB 状態はこの TDHFB 位相空間のなかでトラジェクトリーを描く。対称性の制限を課さない場合、この TDHFB 位相空間の次元は TDHFB 状態に伴うあらゆる 2 準粒子状態の総数の 2 倍という膨大なも のとなる。集団運動を記述する集団ハミルトニアンを導出するにはこの一般化された平均 場の時間発展が少数の集団変数によって支配されていると仮定する必要がある。 ボソン展開法による 5 次元集団ハミルトニアンの導出では、多くの場合、QRPA で得ら れた最低励起エネルギーの 2+モードによって集団座標が定義される (see, e.g. Sakamoto
and Kishimoto, 1988)。この QRPA モードの微視的構造をみると 4 重極演算子の準粒子 表現と比べてフェルミ表面近傍の準粒子の重みが大きく、両者に著しい違いがみられる。 最適な集団座標演算子が一般には4重極演算子と異なることは例えば Nakatsukasa et al. (1999) に示されている。このことは集団座標を微視的に決定することの重要性を示して いる。 1970 年代後半より TDHFB 理論に基づいて集団座標も導出し、大振幅集団運動を記述 できる微視的理論を構築しようという試みが始まった。これらの試みによって集団運動の 基礎的概念に大きな進展があった。とりわけ重要なことは集団ハミルトニアンを導出する ということは膨大な次元数の TDHFB 位相空間の中に近似的に埋め込まれた集団部分多 様体を抽出することであるとの認識である。この観点からば、この部分多様体を記述する ために便利な正準座標系を局所的に選んでそれを集団座標と呼ぶことができる。以下で は、このことを定式化する新しい集団運動理論について議論する。 自己無撞着集団座標 (SCC) の方法 断熱性を仮定せず集団座標と集団運動量を対等に取り扱う理論を構築しようという試 みは Rowe and Bassermann (1976) や Marumori (1977) によって開始され、 Marumori, Maskawa, Sakata, and Kuriyama (1980) によって Self-Consistent Collective Coordinate (SCC) 法 として定式化された。これは時間変化する平均場の描像に基いて、現象論的に導 入されていた集団座標や集団運動量を核子多体系のダイナミクスとして微視的に導出しよ うとする野心的な試みである。この理論は集団運動と非集団運動の maximum decoupling を指導原理として、 集団多様体を微視的に決定する原理的な方程式を与えた。この理論で は「大次元 TDHF 位相空間の中から集団経路 (集団多様体) を抽出すること」が集団運動の 微視的理論の目標として明確に設定されている。すなわち、集団座標は座標系の選択に依 存するが集団経路 (集団多様体) は座標系の変換に対して不変な幾何学的実体 (geometrical object) である。「座標系の選択に依存しない集団運動の理論」というアイディアは同じ頃 Rowe (1982) や Yamamura and Kuriyama (1987) などによっても展開された。これらの 研究は集団運動の基礎概念に大きな転換をもたらしたといえる。SCC 法は当初 TDHF 状 態に対して提案されたが、後に Matsuo (1986) によって時間依存 HFB(TDHFB) 状態に
拡張され 超伝導状態を取り扱えるようになった。 SCC 法では TDHFB 状態の時間変化が少数の集団座標 q = (q1, q2, ..., qf) とそれらに正 準共役な集団運動量 p = (p1, p2, ..., pf) によって決められると仮定し |φ(t)i = |φ(q, p)i = ei ˆG(q,p)|φ 0i , (28) あるいは、同じことだが、 |φ(t)i = |φ(η, η∗)i = ei ˆG(η,η∗)|φ 0i (29) とおく。ここで |φ0i は HFB の基底状態を表し、η = (η1, η2, ..., ηf), ηi = 1 √ 2(qi+ ipi), η ∗ i = 1 √ 2(qi− ipi) (30) である。TDHFB 状態|φ(t)i が正準変数条件といわれる hφ(η, η∗)| ∂ ∂ηi |φ(η, η∗)i = 1 2η ∗ i, (31) hφ(η, η∗)| ∂ ∂ηi∗|φ(η, η ∗)i = −1 2ηi (32) を満たすと、(q, p) が正準変数となることが分かっている。時間微分が ∂ ∂t = ∑ i ( ˙ηi ∂ ∂ηi + ˙ηi∗ ∂ ∂ηi∗) (33) と書けることに注意すると、時間依存変分原理の方程式 δhφ(η, η∗)| i∂ ∂t − H |φ(η, η ∗)i = 0 (34) と正準変数条件から未知の一体演算子 ˆG(η, η∗) を決定する方程式が得られる。次に、 ˆG を (η, η∗) に関して ˆ G(η, η∗) = ∑ ij ∑ minj ˆ Gminj(η ∗ i) miηnj j (35) と冪展開し、時間依存変分原理が (η, η∗) の各冪で成立することを要請すると一体演算子 ˆ Gminjを逐次的に決定することができる。この解法は (η, η∗) 展開法と呼ばれる。この展 開の最低次である一次の項が QRPA に対応し、選ばれた少数の集団座標に関する演算子 ˆ G の高次項に非集団的なモードを含めて QRPA のすべてのモードの寄与が繰りこまれる ことに注意。この意味でこの展開法はボソン展開法のダイナミカルな拡張になっている (Matsuo and Matsuyanagi, 1985a)。したがって、SCC 法は特定の集団振動モードの非調和 性の微視的構造はもとより、他の QRPA モードとのモード-モード結合が特定の集団モー ドの性質をどのように変化させていくかを分析するのに有用である。微視的ハミルトニ アンの|φ(η, η∗)i に関する期待値を集団ハミルトニアンと定義し、これを正準量子化する
と量子集団ハミルトニアンが得られる。SCC 法は先ず軸対称変形核の非調和γ振動に適 用された (Matsuo and Matsuyanagi, 1985b; Matsuo et al.,1985c). 続いて、4重極集団ハ ミルトニアンの微視的導出と転移領域核の低エネルギースペクトルの分析に用いられた (Yamada, 1993). また、回転運動を含め様々な現象に適用されてその有効性が確認されて いる (see, e.g. Shimizu and Matsuyanagi, 2001)。
断熱的 SCC 法 前述の (η, η∗) 展開は平均場のある平衡点での QRPA を最低次とする解法なので、変形 共存現象のように平均場の複数の平衡点が共存して、それらをまたがる大振幅の集団振 動が起こっている状況を取り扱うには適していない。そのような大振幅振動運動の振動 数は小さく断熱的であることを考慮した別の解法が望まれる。このような要請に応えて、 SCC 法の基本方程式を集団運動量に関する展開で解く新しい手法が開発された (Matsuo, Nakatsukasa, and Matsuyanagi, 2000) これを Adiabatic SCC 法 (ASCC 法) と呼ぶ。こ の新しい方法を用いると ATDHF 法の困難も解決される。類似した理論は Klein et al. (1991), Almehed and Walet (2004) によっても展開された。 ただし、そこでは TDHFB 状態におけるゲージ不変性 (粒子数保存則)の破れを回復する方法が与えられていない。実 は、TDHF を TDHFB へ拡張することは straightforward ではない。HFB 理論の平衡状態 に対してはゲージ不変性 (粒子数保存則)の破れを回復する方法が知られているが (Brink and Broglia, 2005)、これを非平衡状態である TDHFB 状態に拡張する必要があるからで ある (Nakatsukasa, 2012)。そうしなければ大振幅集団運動は粒子数揺らぎモードと混合 して物理的に意味のない結果をもたらす恐れがある。 ゲージ不変性の要請を満たす大振幅集団運動の微視的理論は以下のような筋書きで構築 できる。まず、TDHFB状態の時間発展が少数の集団座標 q = (q1, q2, ..., qf) と集団運動 量 p = (p1, p2, ..., pf) によって記述できると仮定する。超流動状態の記述には粒子数変数 n(τ )とそれに共役なゲージ角 ϕ(τ ) を導入する必要がある(添字 τ = n, p は中性子と陽子 を区別する)。これらの集団変数を用いて TDHFB 状態は次のように書けると仮定する。 |φ(q, p, ϕ, n)i = e−i∑τϕ(τ )N˜(τ )|φ(q, p, n)i = e−i
∑ τϕ(τ )N˜(τ )ei ˆG(q,p,n)|φ(q)i , (36) ˆ G(q, p, n) = ∑ i piQˆi(q) + ∑ τ =n,p n(τ )Θˆ(τ )(q), (37) ˆ Qi(q) = QˆiA(q) + ˆQiB(q) =∑ αβ
[QiAαβ(q)a†αa†β + QiAαβ∗(q)aβaα+ QiBαβ(q)a†αaβ], (38)
ˆ Θ(τ )(q) = ∑ αβ [Θ(τ )Aαβ (q)a†αa†β+ Θ(τ )Aαβ ∗(q)aβaα]. (39) ここで a†α, aαは moving-frame HFB 状態|φ(q)iで定義された準粒子の生成・消滅演算子であ る。この式ではゲージ角 ϕ(τ )に伴う対回転自由度を顕わに示した。状態|φ(q, p, n)i は対回転 に対する内部状態とみなせる。一方、|φ(q)i は大振幅集団運動の座標 q(t) での内部状態を表 わし、moving-frame HFB 状態とよばれる。これらの表式で ˆQi(q) と ˆΘ(τ )(q) は無限小生成演
算子と呼ばれる一体演算子、 ˜N(τ )は粒子数演算子 ˆN(τ )から期待値 N(τ ) 0 ≡ hφ(q)| ˆN(τ )|φ(q)i を差し引いたもの、 ˜N(τ )≡ ˆN(τ )− N0(τ )であり、また粒子数変数 n(τ )は n(τ )≡ N(τ )− N0(τ ) と定義されている。 未知の演算子 ˆQi(q), ˆΘ(τ )(q) と moving-frame 状態|φ(q)i を時間依存変分原理を満足する ように決めよう。 δhφ(q, p, ϕ, n)| i∂ ∂t− ˆH|φ(q, p, ϕ, n)i = 0. (40) ここで ˆH は微視的ハミルトニアンである。この式を集団運動量 p と粒子数変数 n(τ )に関 して冪展開し、p の 2 次まで考慮することによって moving-frame HFB 方程式 δhφ(q)| ˆHM(q)|φ(q)i = 0, (41)
moving-frame QRPA 方程式(local harmonic equations)
δhφ(q)| [ ˆHM(q), ˆQi(q)]− 1 i ∑ k Bik(q) ˆPk(q) + 1 2 [ ∑ k ∂V ∂qkQˆ k(q), ˆQi(q) ] |φ(q)i = 0, (42) δhφ(q)| [ ˆHM(q), 1 i ˆ Pi(q)]− ∑ j Cij(q) ˆQj(q)− 1 2 [[ ˆ HM(q), ∑ k ∂V ∂qkQˆ k(q) ] ,∑ j Bij(q) ˆQj(q) ] −∑ τ ∂λ(τ ) ∂qi N˜ (τ )|φ(q)i = 0(43) が得られる。ここで ˆHM(q) は系とともに運動する座標系でのハミルトニアン (moving-frame Hamiltonian) ˆ HM(q) = ˆH− ∑ τ λ(τ )(q) ˜N(τ )−∑ i ∂V ∂qiQˆ i(q) (44) である。 ˆ Pi(q) は|φ(q)i を変位させる演算子で ˆ Pi(q)|φ(q)i = i ∂ ∂qi |φ(q)i , (45) ˆ Pi(q) = i ∑ αβ
[Piαβ(q)a†αa†β − Piαβ∗ (q)aβaα] (46)
によって定義される。Cij(q) は Cij(q) = ∂2V ∂qi∂qj − ∑ k Γkij∂V ∂qk, (47)
Γkij(q) = 1 2 ∑ l Bkl(∂Bli ∂qj + ∂Blj ∂qi − ∂Bij ∂ql ) (48) である。式 (??) における二重交換子の項は無限小生成演算子 ˆQi(q) の q 微分に由来し、集 団多様体の curvature を反映している。 これらの方程式を自己無撞着に解けば無限小生成演算子 ˆQi(q) と ˆPi(q) の微視的構造が 決まる。つまり、 ˆQi(q) と ˆP i(q) を|φ(q)i に関して局所的に定義された準粒子の生成・消滅
演算子の bilinerar form として explicit に表現することができる。集団ハミルトニアンは H(q, p, n) = hφ(q, p, n)| ˆH|φ(q, p, n)i = V (q) +∑ ij 1 2B ij(q)p ipj + ∑ τ λ(τ )(q)n(τ ) (49) と書ける。ここで V (q) = H(q, p, n) p=0,n=0, (50) Bij(q) = ∂p∂2H i∂pj p=0,n=0 , (51) λ(τ )(q) = ∂n∂H(τ ) p=0,n=0, (52) V (q) は集団ポテンシャル、Bij(q)は集団運動に対する慣性を表す集団質量の逆数、λ(τ )(q) は化学ポテンシャルである。いずれも集団座標 q の関数であることに注意。 大振幅集団運動理論の基本方程式 (??) と (??), (??) は ∂V /∂qi = 0 を満足する平均場の 平衡点でそれぞれ HFB 方程式、QRPA 方程式に帰着する。すなわち、この理論は HFB-QRPA 理論の非平衡状態への自然な拡張になっている。ここで注釈を少し加えておく。 1) 拘束 HFB 方程式との相違:Moving-frame TDHB 方程式は拘束 HFB 方程式と類似して いるが、拘束演算子に対応する無限小生成演算子 ˆQ(q) は集団座標 q の各点で moving-frame QRPA 方程式の局所的な解として ˆP (q) と対になって自己無撞着に決定されることに注意 しよう。したがって、理論の外から与えられる拘束演算子と異なり、これらの演算子の微 視的構造は集団座標 q に依存して変化する。つまり、核子の多体系が集団座標 q の各点で 局所的に最適な「拘束演算子」を決定しながら大振幅集団運動の経路を進んでいく、とい う構造になっている。このようにして、多次元 TDHFB 配位空間に埋め込まれ、少数の集 団変数の組で記述される集団超曲面(collective hypersurface) が抽出される。広い空間に 埋め込まれた超曲面上の集団運動に対するシュレーディンガー方程式を導くという課題は 理論物理の広い分野で議論されている「拘束系の量子化」問題と似ている (Rowe, 1982). 通常の「拘束系の量子化」問題においては拘束条件は外から与えられたものであるが、私 達が抽出しようとしている集団超曲面は量子多体系が自らの動力学の結果として自発的 に生み出すものである。 2) 対回転自由度に関するゲージ不変性: よく知られているように、QRPA の利点のひと つは粒子数保存を回復するゼロ・エネルギーの Anderson-Nambu-Goldstone モードと他の 振動モードの分離が保障されていることである (Brink and Broglia, 2005). ASCC 法では
この概念が非平衡の HFB 状態に拡張されている。TDHFB 状態 (??) におけるゲージ角 ϕ は集団座標 q の各点で局所的に任意に選ぶことができる、ということに注目しよう。この ため、ASCC 理論の基本方程式はゲージ角 ϕ の回転変換に関するゲージ不変性をもって いる。ゲージ角を回転させる無限小生成演算子 ˆΘ(q) も ˆQ(q) や ˆP (q) と同様にして決定で きる。ゲージ不変性の存在は実際の数値計算に於いて適切なゲージ固定条件を与えなけれ ばならないことを意味する (Hinohara et al., 2007). 3) 断熱展開と集団質量の物理的意味: ASCC 法では集団運動量 p に関して2次まで考慮 するという意味で断熱近似という用語をもちいているが、集団運動の速度が1粒子運動の 速度に比べて非常に遅く、集団運動エネルギーが 2 準粒子内部励起エネルギーと比べて非 常に小さいという仮定は必要としない。ASCC 理論は小振幅の極限で HFB 平衡点近傍で の通常の QRPA に帰着し、QRPA の大振幅への自然な拡張になっていることから分かる ように、断熱摂動論では無視されている残留相互作用と moving-frame QRPA モードの振 動数 ω(q) が有限である効果を取り込んでいる。一方、先に指摘したように、ATDHFB 理 論の集団質量は一般には小振幅極限で QRPA 質量と異なる。[仮定された拘束演算子に関 する遷移強度に励起エネルギーの3乗の逆数の重みをつけた和則値に一致する (Giannoni and Quentin, 1980)] このように、ASCC 集団質量、ATDHFB 集団質量、GCM+GOA 近 似による集団質量、クランキング質量はすべて異なっているので、これらを比較検討する ことは集団質量の物理的意味をより深く理解ために重要なことである。 よく知られているように、集団質量の大きさとその集団座標依存性は対相関にきわめて 敏感である。集団座標の変化につれて平均場の1粒子エネルギースペクトルも徐々に変化 し、1粒子準位交差が次々と起こる。フェルミ面近傍で準位交差が起こると集団座標のあ る値での最低エネルギー配位も変わる。この際、系は配位替えをしてよりエネルギー的に 有利な配位に移れるだろうか。このダイナミクスが集団運動の断熱性 (adiabaticity) と透 熱性 (diabaticity) を決める。断熱性とは集団座標での最低エネルギー配位に移ろうとする 性質、透熱性とは配位を保とうとする性質である。フェルミオン多体系における大振幅集 団運動の質量は「多粒子配位替え」のしにくさ (慣性) を表す。 つまり、慣性とは配位を 保とうとする性質といえる。対相関は核子の配位換えを起こり易くして集団振動の慣性質 量を小さくする働きをしている (Barranco et al., 1990)。 集団経路の一例: HFB 平均場がエネルギーが近似的に縮退した二つの極小点をもつ例として、変形共存 現象が広く知られている。Figure 1 に68Se におけるオブレート変形とプロレート変形の 共存現象に対して ASCC 法を適用した計算例を示す。この計算では有効相互作用として 四重極対相関も取り入れるように拡張された P+Q force モデルが用いられている(以下 の Figures 2,3 でも同様)。
Figure 1. 68Se における変形共存現象への ASCC 法の適用 (Hinohara et al. (2009))
(a) (β, γ) 変形面に射影された変形ポテンシャルの谷を通過する集団経路が赤線で示され ている。
(b) lowest および second-lowest 状態の振動波動関数の二乗。振動波動関数の各 K 成分と それらの和が γ(q) の関数としてプロットされている。励起スペクトルについては Fig. 2 参照。 この計算では二つの平衡点をつなぐ一次元の集団経路が自己無撞着に決定され 3 次元回 転運動の自由度と合わせて 4 次元の集団ハミルトニアンが微視的に導出された。Figure 1 の計算結果は68Se や72Kr 周辺の原子核でオブレート変形とプロレート変形をつなぐ集団 経路は非軸対称変形領域を通過する変形ポテンシャルエネルギーの谷に沿って走り、この 経路上で大振幅の集団振動運動が起こっていることを示している(詳細は Hinohara et al. (2009) 参照)。
D.
変形共存
/
ゆらぎ現象の微視的記述
5 次元集団ハミルトニアンの微視的導出 集団変数が 2 個以上ある場合に ASCC 方程式を自己無撞着に解いて集団多様体 (超平面) を決定することは大規模数値計算が必要とされまだ実行されていない。そこで ASCC 方 程式の近似解をもとめる簡便で実用的な方法として Local QRPA (LQRPA) 法が考案さ れた (Hinohara et al., 2010; Sato and Hinohara, 2011; Sato et al., 2012)。ASCC 法では 基本方程式 (??) - (??) を反復的 (iterative) に解いて自己無撞着 (self-consistent) な解を求 めるが、LQRPA はこの最初のステップと位置づけられる。この近似法を用いると以下に 説明するように四重極集団 Hamiltonian を容易に導出することができる。先ず四重極変形 (β, γ) に対応する 2 次元振動エネルギーの表式を導き、続いて 3 次元回転運動エネルギー を考慮する。 集団座標が 2 個の場合の moving-frame HFB 方程式の近似として、最初に以下の拘束 HFB 方程式を解く。 δhφ(β, γ)| ˆHCHFB(β, γ)|φ(β, γ)i = 0, (53) ˆ HCHFB(β, γ) = Hˆ − ∑ τλ (τ )(β, γ) ˜N(τ ) −∑m=0,2µm(β, γ) ˆD (+) 2m. (54) ここで ˆD2m(+)は四重極演算子で、これらの期待値を通じて四重極変形 (β, γ) が通常の様に 定義される。 β cos γ = ηD(+)20 = ηhφ(β, γ)| ˆD20(+)|φ(β, γ)i , (55) 1 √ 2β sin γ = ηD (+) 22 = ηhφ(β, γ)| ˆD (+) 22 |φ(β, γ)i . (56)次に moving frame QRPA 方程式の curvature terms を無視した
δhφ(β, γ)| [ ˆHCHFB(β, γ), 1 i ˆ Pi(β, γ)]− Ci(β, γ) ˆQi(β, γ)|φ(β, γ)i = 0 (i = 1, 2) (58) を解く。この方程式は local QRPA 方程式と呼ばれる。集団座標 (q1, q2) のスケールをこ れらに関する集団質量が 1 となるように選べるから、振動の運動エネルギーは Tvib = 1 2 ∑ i=1,2 (pi)2 = 1 2 ∑ i=1,2 ( ˙qi)2. (59) と書ける。集団座標 (q1, q2) の無限小変位による四重極変形の変化は dD2m(+)= ∑i=1,2 ∂D (+) 2m ∂qi dqi, (m = 0, 2) (60) で与えられる。上の微分は次のように交換子の期待値として計算できる。 ∂D(+)20 ∂qi = ∂ ∂qihφ(β, γ)| ˆD (+) 20 |φ(β, γ)i = hφ(β, γ)| [ ˆD20(+),1iPˆi(β, γ)]|φ(β, γ)i , (61) ∂D(+)22 ∂qi = ∂ ∂qihφ(β, γ)| ˆD (+) 22 |φ(β, γ)i = hφ(β, γ)| [ ˆD(+)22 ,1iPˆi(β, γ)]|φ(β, γ)i . (62) こうして、上の振動運動エネルギーを四重極変形の時間微分に関する形に書き直せる。 Tvib = 1 2M00[ ˙D (+) 20 ]2+ M02D˙ (+) 20 D˙ (+) 22 + 1 2M22[ ˙D (+) 22 ]2. (63) ここで Mmm0(β, γ) = ∑ i=1,2 ∂qi ∂D(+)2m ∂qi ∂D2m(+)0 (64) である。続いて、四重極変形の時間微分を (β, γ) の時間微分で書き直すと 5 次元集団ハミ ルトニアンの振動運動エネルギー Tvibの表式が得られる。更に、(β, γ) 面の各点で回転運 動に対する QRPA 方程式を解くことにより3次元回転運動エネルギー Trotの慣性モーメ ントの表式 Jk = 4β2Dk(β, γ) sin2γk, (65) γk = γ− (2πk)/3 (66) に含まれる慣性関数 Dk(β, γ) を微視的に決定できる。 こうして得られた 5 次元集団ハミルトニアンをパウリ処方により量子化すると量子化さ れた振動ハミルトニアンは Tvib = −¯h 2 2√W R { 1 β3 [ ∂ ∂β ( β3 √ R WDγγ ∂ ∂β ) − ∂ ∂β ( β3 √ R WDβγ ∂ ∂γ )] (67) + 1 sin 3γ [ − ∂ ∂γ (√ R W sin 3γDβγ ∂ ∂β ) + ∂ ∂γ (√ R W sin 3γDββ ∂ ∂γ )} (68)
という形で与えられる。ここで W = Dββ(β, γ)Dγγ(β, γ)− Dβγ2 (β, γ), (69) R = D1(β, γ)D2(β, γ)D3(β, γ) (70) である。この表式に含まれているすべての慣性関数 Dββ, Dγγ, Dβγ, D1, D2, D3 を定数 D と近似すると Tvib =− ¯ h2 2D ( 1 β4 ∂ ∂ββ 4 ∂ ∂β + 1 β2sin 3γ ∂ ∂γ sin 3γ ∂ ∂γ ) (71) なる。この近似は球形まわりの小振幅振動には妥当であるが一般には正当化できない。 通常の様に集団波動関数を ΨIM k(β, γ, Ω) = I ∑ K=0 ΦIKk(β, γ)hΩ|IMKi, (72) hΩ|IMKi = √ 2I + 1 16π2(1 + δ K0) (DM KI (Ω) + (−)IDIM−K(Ω)) (73) とおき、振動の波動関数に対する固有方程式 ( ˆ Tvib+ V (β, γ) ) ΦIKk(β, γ) + I ∑ K0=0
hIMK| ˆTrot|IMK0i ΦIK0k(β, γ) = EI,kΦIKk(β, γ) (74)
を解くことにより、低エネルギースペクトルが得られる。 異なった変形の共存と大振幅ゆらぎ現象への適用 平均場の平衡点が二つ以上存在し、それらが同じエネルギー領域で競合する場合には 異なる平衡点の間のポテンシャル障壁をトンネル通過する大振幅集団運動が起こりうる。 この状況はもはや一つの HFB 平衡点に基づく摂動的枠組みでは捉えきれず, 大振幅集団 運動の理論が必要になる。このトンネル現象は一粒子が外場によってつくられたポテン シャル障壁をトンネル効果で透過する場合と異なり, フェルミオン多体系の巨視的量子現 象である。ポテンシャル障壁自体が自己束縛した多体系のダイナミクスの結果として作ら れている。HFB 近似で得られる基底状態は場の量子論の真空に対応し, 変形共存現象は複 数の真空が同一のエネルギー領域に共存することに対応する。近年、この様な概念の必要 性を示唆している低励起スペクトルが広範な原子核で見出されている (Heyde and Wood, 2011).
LQRPA の適用例
Figure 2. 68Se での oblate-prolate 変形共存現象に対する LQRPA の適用
集団ポテンシャル V (β, γ), 対ギャップ ∆(n)0 (β, γ), ∆(n)20 (β, γ), 振動質量 Dββ(β, γ), Dγγ(β, γ),
励起スペクトル、振動波動関数(β4つき)、一次元 ASCC 集団経路上での ASCC と LQRPA
の比較。
LQRPA を低励起四重極スペクトルへ適用した最近の計算の典型例として、Figure 2 に
68Se での oblate-prolate 変形共存現象に対する結果 (Hinohara et al. (2010) ) を示す。集
団ポテンシャルはオブレート変形とプロレート変形に対応した二つの極小点をもつが、こ れらをつなぐ谷が非軸対称変形領域を走り、この集団経路に沿っての障壁は低い。この ような状況における集団ダイナミクスは興味深い。Figure 1 に示されている計算結果は この核が二つの極小点の間のポテンシャル障壁が高くて oblate 変形と prolate 変形の混 合が抑制される理想的な oblate-prolate 変形共存の極限と障壁が全くないγ不安定モデル (Wilet and Jean, 1956) の極限の間の中間的状況にあることを示しいる。このような状況 では oblate 変形と prolate 変形が非軸対称変形したポテンシャルの谷に沿って量子力学的 に混ざり合う大振幅の γ 振動が起こっていることが分かる。この計算結果は一次元 ASCC 集団経路上での ASCC と LQRPA による計算がよく一致していることを示している。こ のように、68Se の oblate-prolate 変形共存現象は大振幅集団運動の集団経路の概念がよく 成立している典型例と考えられる。また、単極および四重極対ギャップ、振動質量、(図 には示されていないが)慣性モーメントは四重極変形 (β, γ) に依存して著しく変化してい る。運動する HFB self-consistent field の time-odd 項の効果によって振動質量と慣性モー メントの値は Inglis-Belyaev クランキング質量より 20-30% 大きくなっており、両者の比 も (β, γ) に依存して大きく変化している (詳細は Hinohara et al. (2010) 参照 )。
最近、relativistic 密度汎関数に基づく拘束 HFB 方程式を解いて集団ポテンシャルを計 算し、Inglis-Belyaev クランキング質量に LQRPA で見積もられた time-odd effect の補正 を施すことによって得られた集団ハミルトニアンは Xe や Ba の低励起スペクトルをよく 再現することが示された(Hinohara et. al. (2012) 参照)。
Figure 3. 32Mg に対する LQRPA の適用 Hinohara et al. (2011) 32Mg に対する集団ポテンシャル、0+ 1, 0 + 2, 2 + 1, 2 + 2 状態の振動波動関数(β4なし)、励起ス ペクトル。 Figure 3 に32Mg に対して 5D 集団ハミルトニアンと LQRPA を適用した計算例を示す。 この核は球形シェルモデルの魔法数 N = 20 であるにも拘わらず基底状態が四重極変形し ていることを示唆する実験データが得られ長年にわたって興味を集めてきた。この図は形 の大きな量子ゆらぎが起こっていることを示している。これは量子相転移の転移領域に特 徴的な様相である。基底 0+ 1 状態でも励起 0 + 2 状態でも大振幅の四重極変形振動が起こって おり、実際には球形状態と四重極変形状態が入れ替わる単純な二準位交差モデルの想定は 成立していない(詳細は Hinohara et al. (2011) 参照)。物理的解釈を確定するには 2 核子
移行反応を含め、励起スペクトルに対するより詳しい実験データが望まれる。
E.
今後の課題
低エネルギースペクトルでは四重極型だけでなく八重極型や両者が絡み合った集団運 動など多様な集団スペクトルが知られてきた (Butler and Nazarewicz, 1996)。高い励起エ ネルギーにもかかわらず超低温状態にある高スピン・イラスト領域では新しい型の集団振 動・回転モードが出現する (Satula and Wyss, 2005)。これらさまざまな集団現象に対して 大振幅集団運動の微視的理論を適用することは今後の興味ある課題である (Matsuyanagi et al., 2010)。巨視的量子トンネル現象である自発核分裂やポテンシャル障壁以下の核融 合現象を記述できる微視的理論の構築は核構造ダイナミクスの長年の夢であったが、遂 にこの目標に本格的に取り組む段階に達したと言えよう。これからはより良いエネルギー 密度汎関数に基づいて大振幅集団運動の微視的計算を遂行することが大きな課題となる。 そのための有力なアプローチの一つである LQRPA 法では、(一般には複数の成分をもつ)
集団座標 q の各点で moving-frame HFB 方程式と moving-frame QRPA 方程式を同時に 満たす解を求める効率的な数値計算アルゴリズムを開発する必要があるが、この目的に も前章で紹介した有限振幅法 (Nakatsukasa, Inakura, and Yabana, 2007; Avogadro and Nakatsukasa, 2011, 2013) が有効であろう。
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