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2. 不動産競売制度の概要 2.1 最低売却価額制度の改正

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Academic year: 2021

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不動産競売に係る最低売却価額制度改正による落札確率及び落札価額への影響 政策研究大学院大学まちづくりプログラム

MJU14610 高橋修

1. はじめに

1)

不動産競売において、担保物件をより迅速、低費用かつ 高値で売却ができれば、当該債務者の債務を大きく圧縮で きるとともに、債権者たる金融機関としては金融コストを 下げることが可能となるため、これまで、不動産競売に関 して様々な研究・提言・制度改善が行われてきた。

不動産競売の最低売却価額制度に関する研究もその一つ である。

本稿は、制度改正前後に東京都、千葉県、神奈川県及び 埼玉県で行われた不動産競売データを使用し、最低売却価 額制度の廃止・売却基準価額制度への移行によって、落札 確率と落札価額がどのように変化したのかについての実証 分析を行うものである。

2. 不動産競売制度の概要 2.1 最低売却価額制度の改正

2004 年の民事執行法の改正前は、裁判所が評価人の評 価を基に最低売却価額を設定し、その金額以上の入札がな い場合には、当該不動産競売を不成立としていたが、法改 正によって、最低売却価額の名称を「売却基準価額」へ変 更し、それを2割下回る価額以上なら競売を成立させるこ ととした。

2.2 オークション理論の不動産競売への適用

オークション設計の目標としては効率性の目標及び収益 性の目標の二つがあるといわれているが、不動産競売にお いては、収益性の目標を目指していくのが望ましいと考え る。なぜなら、民事執行の機能は、「実体法に従い債権者の 権利を適正・迅速に実現するもの」だからである。

不動産競売において収益性を構成する要素として落札確 率と落札価額があるが、オークション理論においては、最

1)本稿は論文の要約であるため、参考文献等については論文を参照 されたい。

低売却価額を引き下げることにより、落札確率は上昇し、

落札価額は下落するため、売主や債権者にとってはトレー ドオフの関係にあることが知られている。また、最低売却 価額を巧妙に高く設定することができれば、収益性を最大 化することができるということもいわれている。 しかし、

統計的に巧妙に計算して最適な最低売却価額を割り出すに は、売り手にとって買い手が対称的で、かつ彼らの、担保 物件の評価値の確率分布について確信があるときだけであ るとされている。不動産競売では対称性は満たす。しかし、

評価値の確率分布は分からないため、現実的には、最適な 最低売却価額を統計的に算出し、完璧な最低売却価額を設 定することは不可能である。したがって、本稿では、最適 な最低売却価額設定のための検討材料の一つである落札確 率及び落札価額に関する法改正の効果をデータにより分析 する。

3. 最低売却価額制度の改正が不動産競売に与え る影響についての実証分析

3.1 実証分析1(落札確率・落札価額への影響)

3.1.1 問題の背景

オークション理論は不動産競売も包含するが、それにお いては、最低売却価額を引き下げたことにより、落札確率 は上昇し、落札価格は下落することが示されている。

よって、当該法改正の効果として、どの程度の落札確率 の上昇と、落札価額の下落が見られるのか、実際のデータ を分析し導きたいと考えた。

3.1.2 データ

本稿では、東京地方裁判所、千葉地方裁判所、横浜地方 裁判所及びさいたま地方裁判所の本庁及び各支部(さいた ま地方裁判所熊谷支部案件を除く。)で実施された競売事件 を対象とし、この地域において、2004年8月~2005年2 月(改正法施行前)及び2005年8月~2006年2月(改正 法施行後)に開札が行われた案件で、かつ、種別をマンシ

(2)

2

ョンに限定して抽出したデータを使用した。

3.1.3 推計モデル

法改正前後の落札確率・落札価額に与える効果について、

以下のモデルにより分析する。

(a) Pr(落札・不落ダミー=1)=G(α0+αa法改正後ダ ミー+Σαbcontrol変数)

(b) 落札価額の対数値=β0+βa法改正後ダミー+Σβ

bcontrol変数+ε

(a)のモデルは、法改正後の落札確率へ及ぼす影響を把握 するためのプロビットモデルであり、関数Gは標準正規分 布の分布関数を示す。被説明変数は落札・不落ダミーであ り、落札された案件であれば1を、不落だった案件であれ ば0を示す。なお、分析にあたっては、当該モデルを基に 限界効果を算出したうえで行う。

また、(b)のモデルは、法改正後の落札価額へ及ぼす影響

を把握するためのOLSモデルであり、落札した案件を対 象にしている。被説明変数は落札価額(円)の対数値であ る。

法改正後ダミーは、改正後の開札案件であれば1を、改 正前の開札案件であれば0をとっており、法改正の効果を 確認するために、落札確率・落札価額ともにこれの結果に 着目する。

control変数は最寄駅からの距離、東京駅からの距離、

専有部分面積、総戸数、階数、総階数、管理費、滞納ダ ミー、短期賃借権ダミー、賃借権ダミー、築年数、鉄骨鉄 筋ダミー、S56以前建築ダミー、30㎡未満ダミー、敷地権 所有権以外ダミー、売却基準価額の対数値である。

なお、α0及びβ0は定数項を、εは誤差項を示す。

3.1.4 推定結果とその考察

モデル(a)の結果は表1のとおりである。モデル(a)におい て、落札確率は法改正により、1%水準で有意に2.2%ポイ ント程度理論どおり上昇したことが確認された。これによ り、不良債権処理の加速という意味で望ましい結果となっ たことがわかる。なお、もともと、当該データセットの案 件全体の法改正前落札率は93%程度と高かったので、上昇 幅は限定的となったものの、効果があったと言える。

モデル(b)の結果は表2のとおりである。モデル(b)におい

て、法改正前後で、1%水準で有意に2.9%程度理論どおり 下落したことが確認された。入札者は、落札の最低ライン が買受可能価額まで下がったことから、平均的には自らも 価格を下げて入札し、その結果従来落札されなかったもの も落札されるようになったことが考えられる。

表1 推定結果(落札確率)

落札ダミー

係数 標準偏差

法改正後ダミー 0.0220557 0.0063812 ***

最寄駅からの距離 -0.0000257 0.00000468 ***

東京駅からの距離 -0.00000125 0.000000264 ***

専有部分面積 0.0011235 0.0002932 ***

総戸数 0.0000453 0.0000274 *

階数 0.0025098 0.0015435

総階数 0.0030782 0.0017038 *

管理費 -0.000000195 0.000000389

滞納ダミー -0.007708 0.0075652

短期賃借権ダミー 0.0085617 0.0110524

賃借権ダミー -0.0118937 0.0170067

築年数 -0.0032663 0.0006513 ***

鉄骨鉄筋ダミー -0.00129 0.0108962

S56 以前建築ダミー 0.0012979 0.0115268

30 ㎡未満ダミー 0.0084677 0.0127886

敷地権所有権以外ダミー -0.0209641 0.012745 *

ln 売却基準価額 -0.0315202 0.0074914 ***

補正R-square 0.1144

サンプル数 3576

***、*はそれぞれ、1%、10%の水準で統計的に有意であることを示す。

表2 推定結果(落札価額)

ln 落札価額

係数 標準偏差

法改正後ダミー -0.0293348 0.0088121 ***

最寄駅からの距離 -0.0000908 0.00000786 ***

東京駅からの距離 -0.00000382 0.000000392 ***

専有部分面積 0.0033458 0.0003745 ***

総戸数 0.0000398 0.0000336

階数 0.0059241 0.0018781 ***

総階数 0.0144314 0.0020546 ***

管理費 0.00000194 0.00000055 ***

滞納ダミー -0.0181069 0.0106085 *

短期賃借権ダミー 0.0446384 0.0147337 ***

賃借権ダミー 0.0734278 0.0268688 ***

築年数 -0.0102691 0.00094 ***

鉄骨鉄筋ダミー 0.0012577 0.0126677

S56 以前建築ダミー 0.0246545 0.0168199

30 ㎡未満ダミー -0.0255763 0.0176421

敷地権所有権以外ダミー -0.0218907 0.0189965

ln 売却基準価額 0.7495274 0.0103144 ***

定数項 4.342675 0.1656064 ***

補正R-square 0.8698

サンプル数 3374

***、*はそれぞれ、1%、10%の水準で統計的に有意であることを示す。

(3)

3 3.2 実証分析2(裁判所管轄毎の落札確率・落札 価額への影響)

不動産競売を行う裁判所(地域)が異なれば入札者たる 不動産会社の数、属性、物件の評価人(裁判所が定める不 動産鑑定士)等、競売の結果を左右する要素が異なるため、

裁判所管轄毎に、法改正の影響が異なることが考えられる ため、これにより分析する。

3.2.1 推計モデル

(c) Pr(落札・不落ダミー=1)=G(γ0+Σγacontrol変 数+Σγb裁判所ダミー

+Σγc(法改正後ダミー×裁判所ダミー)) (d) 落札価額の対数値=δ0+Σδacontrol変数

+Σδb裁判所ダミー

+Σδc(法改正後ダミー×裁判所ダミー))

+ε

(c)のモデルは、裁判所管轄毎に、法改正後の落札確率へ 及ぼす影響を把握するためのプロビットモデルである。

被説明変数は落札・不落ダミーであり、落札された案件 であれば1を、不落だった案件であれば0を示す。なお、

分析にあたっては、当該モデルを基に限界効果を算出した うえで行う。

また、(d)のモデルは、裁判所管轄毎に、法改正後の落札

価額へ及ぼす影響を把握するためのOLSモデルであり、

落札した案件を対象にしている。被説明変数は落札価額の 対数値である。

説明変数及びcontrol変数は3.1同様である。また、γ0

及びδ0は定数項を示す。

裁判所ダミーは、当該裁判所管轄案件については1を、

それ以外は0をとる変数である。

3.2.2 推定結果とその考察

モデル(c)の結果は表3のとおりである。

東京地裁本庁及び横浜地裁本庁は1%水準で、横浜地裁 小田原支部は5%水準で統計的に有意に落札率が上昇して いる。なお、統計的に有意となっていない他の裁判所にお いては、係数の絶対値が小さく、法改正の影響は軽微だと いえる。

モデル(d)の結果は表4のとおりである。

さいたま地裁本庁は 1%水準で、千葉地裁松戸支部及び横 浜地裁相模原支部5%水準で統計的に有意に落札価額が下 落している。なお、統計的に有意となっていない他の裁判 所においては、係数の絶対値が小さく、統計的に有意とな っている裁判所と比べて法改正の影響は軽微だといえる。

表3 推定結果(落札確率・裁判所管轄別)

落札ダミー

係数 標準偏差

(法改正後ダミー)×(東京地裁本庁ダミー) 0.0408951 0.0113663 ***

(法改正後ダミー)×(さいたま地裁本庁ダミー) -0.0209357 0.0173974

(法改正後ダミー)×(千葉地裁本庁ダミー) 0.0265548 0.0222004

(法改正後ダミー)×(横浜地裁本庁ダミー) 0.0466426 0.0161385 ***

(法改正後ダミー)×(東京地裁八王子支部ダミー) 0.0023442 0.0150356

(法改正後ダミー)×(さいたま地裁越谷支部ダミー) 0.0306656 0.0378723

(法改正後ダミー)×(さいたま地裁川越支部ダミー) 0.0294857 0.0254524

(法改正後ダミー)×(千葉地裁松戸支部ダミー) -0.0059536 0.0309418

(法改正後ダミー)×(横浜地裁川崎支部ダミー) 0.0062683 0.0230399

(法改正後ダミー)×(横浜地裁小田原支部ダミー) 0.0556477 0.024712 **

(法改正後ダミー)×(横浜地裁横須賀支部ダミー) 0.0028568 0.0602118

(法改正後ダミー)×(横浜地裁相模原支部ダミー) 0.014407 0.0473768

各地裁本支部ダミー yes

補正R-square 0.1493

サンプル数 3576

***、**はそれぞれ、1%、5%の水準で統計的に有意であることを示す。

表4 推定結果(落札価額・裁判所管轄別)

ln 落札価格

係数 標準偏差

(法改正後ダミー)×(東京地裁本庁ダミー) -0.0025349 0.0158012

(法改正後ダミー)×(さいたま地裁本庁ダミー) -0.0881745 0.0310067 ***

(法改正後ダミー)×(千葉地裁本庁ダミー) -0.032744 0.0240574

(法改正後ダミー)×(横浜地裁本庁ダミー) 0.0305531 0.0209379

(法改正後ダミー)×(東京地裁八王子支部ダミー) -0.0223997 0.0290533

(法改正後ダミー)×(さいたま地裁越谷支部ダミー) 0.0111913 0.0423997

(法改正後ダミー)×(さいたま地裁川越支部ダミー) -0.0568956 0.039983

(法改正後ダミー)×(千葉地裁松戸支部ダミー) -0.1140048 0.0461156 **

(法改正後ダミー)×(横浜地裁川崎支部ダミー) 0.0103129 0.0392399

(法改正後ダミー)×(横浜地裁小田原支部ダミー) -0.0364219 0.0457697

(法改正後ダミー)×(横浜地裁横須賀支部ダミー) -0.0021489 0.0778576

(法改正後ダミー)×(横浜地裁相模原支部ダミー) -0.0905863 0.0457185 **

各地裁本支部ダミー yes

定数項 4.448866 0.1847996 ***

補正R-square 0.878

サンプル数 3374

***、**はそれぞれ、1%、5%の水準で統計的に有意であることを示す。

なお、落札確率及び落札価額について、係数の符号に着 目する(表5)と、統計的に有意となっていないところも

(4)

4

含めると、東京地裁本庁並びに横浜地裁小田原支部及び相 模原支部などのように、確率がプラスで価額がマイナスと いう理論どおりのところもあれば、さいたま地裁本庁及び 千葉地裁松戸支部のように、確率・価額ともにマイナスで あったり、横浜地裁本庁のように、確率・価額ともにプラ スとなった裁判所もあったように、違いが見られた。

表5 落札確率及び落札価額に係る係数の符号

(統計的に有意のものを含む裁判所を抜粋)

落札確率 落札価額

符号 符号

東京地裁本庁 ***

さいたま地裁本庁 ***

横浜地裁本庁 ***

千葉地裁松戸支部 **

横浜地裁小田原支部 **

横浜地裁相模原支部 **

***、**はそれぞれ、1%、5%の水準で統計的に有意であることを示す。

3.3 分析結果のまとめ

全体として、法改正前後で落札確率は上昇し、落札価額 は下落し、同時に上昇しないという意味で一長一短があっ たことが判明した。

また、裁判所毎では、落札確率又は落札価額が統計的に 有意となるかどうか、係数の絶対値及び係数の符号の観点 から、違いが見られた。

4.政策提言

オークション理論から、「最適」な最低売却価額の設定は 困難であることが分かった。また、本稿の実証分析から、

法改正の効果が裁判所(地域)毎に異なっていることが判 明した。さらに、不動産競売においては、債権者毎に、競 売不成立のリスクのとらえ方が異なるということがいえる。

ここでいう「リスクのとらえ方」とは、落札確率と落札価 額がトレードオフの関係にあるときに、落札確率を優先し た方がより好ましいと考えるのか、落札価額を優先した方 がより好ましいと考えるのかが債権者毎に異なるというこ とを意味している。

以上のことを総合的に勘案すると裁判所が一律のルール を定めるよりも、競売物件から高い収益を得ることにイン センティブがある債権者が案件ごとに「最低価額ライン設

定ルール」を選択できるようにすることが望ましいと考え る。なお、ここでいう「最低価額ライン設定ルール」とは、

最低価額ラインの設定をするのかしないのか、そして、設 定する場合にはその金額を裁判所が決めるのか、債権者が 決めるのかということである。

また、この債権者選択制を導入する場合には、付随して 検討すべき点がある。

まず1つ目に、債務者等の保護についてである。すなわ ち、債権者が最低価額ラインを著しく低く設定して債務者 等の利益を害する可能性への対応である。対応方法として は、債務者等に担保供託金を納めさせる代わりに最低価額 ライン引上請求権を与える又は買戻権を与えることが考え られる。

2つ目に、債権者による、競売詳細データの入手等につ いてである。債権者が意思決定をするためには、債権者が 過去の競売データ等を分析することが必要となるため詳細 な情報が要求されるが、現状、債権者が入手できる情報は 限定的であるため、改善が求められる。

なお、自らがより望ましいと考える最低価額ラインを設 定する能力がある債権者とその能力がない債権者がいると 考えられる。後者は従来どおり裁判所が設定した最低価額 ラインを用いた不動産競売を選択することも可能とはいえ、

裁判所から提供された情報も含め、様々な情報を蓄積・分 析し、このような案件の場合にはこのような最低価額ライ ンを設定すればより望ましい結果になるという提案を債権 者に行うようなサービスがあれば、債権者が最低価格ライ ンを決定する機会が増えるだろう。

3つ目に、非司法競売の導入についてである。最低価額 ラインの債権者選択制を導入した場合、必ずしも裁判所が 物件の評価や最低売却価額の設定をする必要がなくなる。

このような基幹業務の一つを裁判所が行う必要がないので あれば、競売執行業務の一部を民間に開放し、競争させる ことで迅速、低費用かつ高値での売却を目指すことを検討 しやすくなる。

なお、非司法競売の導入を行った際にどのような業態の 事業者が参入するかは、業務遂行能力とインセンティブに よって決まると考えられ、これを考慮して非司法競売のス キームを検討すべきである。

参照

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