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通学区制度が地価を通じて教育に与える影響

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通学区制度が地価を通じて教育に与える影響

政策研究大学院大学 まちづくりプログラム MJU09052 和泉孝嗣

1. はじめに1

公立高校の通学区制度は「高等学校の教育の普及」と

「機会均等」を目的として導入され、高校進学率を100%

近くまで上げてきた。この点では通学区制度は目的を達 成するために一定の成果を上げたと言えるが、現在では 社会情勢も変化し、「機会均等」の意味合いも教育を受け る機会を均等にすることから、受けたい教育の選択でき る機会を均等にすることへと変化していると考えられる。

このような動きから、現在において通学区制度は既に 目的を達成し、逆に学校選択幅を限定することで、教育 の消費者である生徒に何らかの悪影響を及ぼしているの ではないかと考えられる。よって本研究では、地価に与 える影響に注目して、通学区制度の中でも最も選択幅が 限定される小学区制度に焦点を当てて分析を行う。

2. 通学区制度の概要と問題意識 2-1. 制度の概要と目的

公立高校の通学区制度とは、都道府県教育委員会によ り県域を複数個に区分し、生徒が就学可能な高校を、居 住する学区内のみに限定する教育制度である。その中で も小学区制度は、その学区に含まれる学校数を1校とす る制度である。

通学区制度による通学区設定の義務付けは 1948 年に 教育委員会法第54条、そして1956年に地方教育行政の 組織及び運営に関する法律第50条にて規定された。その 後、2000年の行政改革推進本部規制改革委員会にて、「通 学区域の弾力化により学校選択の機会を拡大することが、

学校間の競争による多様で個性的な教育の推進につなが る」との提言より、国は2002年の法改正により、通学区 設定の義務付けを廃止し、通学区の設定に関しては公立 高校を所管する各都道府県の教育委員会の判断に委ねる こととした。

2-2. 制度の現状と問題意識

その判断を委ねられた各都道府県では通学区の見直し を検討し、その結果としては、生徒の学校選択の機会拡 大を図るため、全国的には通学区を統合、撤廃する傾向 にある。一方、島根県では小学区制度による教育成果と 実績があるとして、松江市内の公立普通高校においての み小学区制度を維持し続けている。

1 本稿は論文の要約であるため、参考文献等については論文を参照 されたい。

しかし、通学区制度の維持は過去の実績のみに焦点を 当てた政策であり、生徒の学校選択の機会を奪うことを 考慮していない。そのため学校選択の機会を限定するこ とで教育の消費者である生徒に対し、何らかの弊害が発 生していると考えられる。そこで小学区制度に代表され る通学区制度による学校選択の限定が、教育にどのよう な影響を与えるのか地価に注目して研究を進める。

3. 小学区制度が教育に与える影響の理論分析 3-1. 小学区制度が地価に与える影響のメカニズム

小学区制度がどのような影響を与えるかについてのメ カニズムを図1に示す。

ある地域Xに定員が同数の高校AとBがあり、高校 Aの方が教育水準は高く、定員を超える志願者が出た場 合は入試による選抜とする。また、生徒(生徒を持つ世 帯)は所得、学力水準が異なるが、所得と学力には相関 がなくランダムに分散している。このとき生徒の通学の コストはゼロであり、教育水準以外の条件がA高、B高 ともに同じとすれば、すべての生徒は教育水準の高い高 校Aを志望すると考えるものとする。

小学区制度を採用しない場合、学力が高い生徒から高 校Aに入学できる。しかし小学区制度を採用する場合、

生徒が高校Aに入学するには学区Aに居住することが条 件となる。これより、学区Aの土地需要が高まり、地価 が上昇すると予想される。ここで小学区制度が地価水準 に影響を与え、中でも教育水準が高い高校の位置する学 区の地価水準がその他の高校が位置する学区の地価水準 に比べて高くなるという仮説を立てることができる。

3-2. 小学区制度が教育に与える影響の理論分析 メカニズムより小学区制度が地価水準に影響を与える

図 1 小学区制度が与える影響のメカニズム 学力水準により高校入学

a)学区制無の場合

高校 A

(教育水準高)

高校 B

(教育水準低)

地域 X

所得:高/学力:高 所得:低/学力:高

所得:高/学力:低 所得:低/学力:低

所得水準により高校入学 学区 A 学区 B

地価水準上昇 地価水準上昇 地価水準上昇 地価水準上昇 b)学区制有の場合

高校 A

(教育水準高)

高校 B

(教育水準低)

地域 X

所得:高/学力:高 所得:高/学力:低

所得:低/学力:高 所得:低/学力:低

(2)

- 2 - という仮説に基づき理論分析を行う。所得水準にかかわ らず教育への評価額は同じであり、学力の高い生徒ほど 教育への評価額が高いとすると、高校A、高校Bに対す る需要曲線は図2のように示される。

また、小学区制度を採用しない場合、学力の高い生徒 から高校Aに入学できる。一方、小学区制度を採用する 場合は、所得水準により居住できる学区が限定されてし まうと考えられ、所得水準が高い生徒は高校Aに、所得 水準が低い生徒は高校Bに入学することとなるためそれ ぞれの場合の需要と供給の関係は図3で示すことができ る。

その結果、それぞれの場合の余剰を比較すると、小学 区制度を採用する場合は、採用しない場合と比べ死荷重 が増加する(図4)。この死荷重の増加は、所得が高く学 力の低い生徒の余剰増加分に比べ、所得が低く学力が高 い生徒の余剰減少分が大きいことによるものである。

つまり、小学区制度により学校選択の機会が限定され ることは、所得水準により居住できる学区も限定され、

その結果、地域X全体の総余剰を減らすという弊害を生 んでいると言える。

4. 小学区制度が地価に与える影響の実証分析 4-1. 分析の対象となる松江市の概要

4-1-1. 松江市の小学区制度について

次に小学区制度が地価水準に影響を与えるという仮説 を実証分析する。分析を行うにあたり、現在でも小学区 制度を維持する島根県松江市を分析の対象地とした。松 江市には普通高校が松江北・南・東と3校存在し、居住 地により北高学区、南高学区、東高学区に分けられ、志 願できる高校が1校に限られている。

4-1-2. 教育水準の状況

松江市内3校の教育水準の指標として、各高校の大学 進学率を用いる。各高校の年度別の大学進学率を図5に 示す。松江北高校が他の2校と比較して進学率が高いた め、教育水準が高いと言える。

4-1-3. 土地需要の状況

松江市内の土地需要の状況について、各学区の開発規 模別の宅地開発件数を図6に示す。全体的に北高学区は 他学区と比べて宅地開発件数が多いといえる。

図 4 学区制度の有無による余剰比較 図 2 高校教育に対する需要曲線

図 3 学区制度の有無による余剰 図 5 旧帝大進学率

図 6 各学区の宅地開発件数

評価額

人数 DA(教育水準高)

DB(教育水準低)

N人 a)所得が高い生徒の需要

評価額

人数 DA

DB

N人 b)所得が低い生徒の需要

人数 DA

DB 評価額

2N人 c)地域X生徒全体の需要

人数 DA

DB 評価額

2N人 b)小学区制度有の場合

SA(高校Aの供給)

高校A N人 高校B 人数

DA

DB 評価額

2N人 a)小学区制度無の場合

SA(高校Aの供給)

高校A N人 高校B

評価額

人数

小学区制 有の余剰

死荷重 増加分 DA DB

2N人 N人

旧帝大進学率 旧帝大進学率旧帝大進学率 旧帝大進学率

0%

2%

4%

6%

8%

10%

12%

14%

H9 H10 H11 H12 H13 H14 H15 H16 H17 H18 H19

松江北 松江南 松江東

0.0 10.0 20.0 30.0 40.0 50.0

1,000m2未満 1,000~3,000m2 3,000~5,000m2 5,000m2以上

宅地開発件数 宅地開発件数宅地開発件数

宅地開発件数((((2001~2005年年)))

※北高学区面積を1とした場合の学区面積当たりの開発件数 北高学区 南高学区 東高学区

(3)

- 3 - このことより、北高学区が他の学区と比較して土地需 要があり、小学区制度であることが土地需要つまり地価 に少なからず影響を与えているのではないかと推測する ことができる。

4-2. 分析方法

小学区制度が教育水準の高い高校の学区の地価水準に 正の影響を及ぼしているという仮説を実証するために、

ヘドニック・アプローチに基づく分析を行う。

推定方法については、最小二乗法による推計に加え、

説明変数だけでは表しきれない観測地点に含まれる地域 固有の影響をコントロールするため、変量効果モデルに よる推定も行い分析結果の頑健性を確保することとした。

まず、小学区制度を採用する場合に学区内の教育水準 が地価水準にどのような影響を与えるのか分析する。次 に、学区の有無により教育水準が地価水準に与える影響 にどのような変化があるのか分析することにより、学区 と地価の影響をより緻密に分析する。

4-3. 小学区制度が地価水準に与える影響の実証分析 4-3-1. 推定モデル及び説明変数

小学区制度が地価水準に与える影響を分析するため、

以下のモデルにより推定を行う。

P :地価(円/m2

GD:学区ダミー(i=1~2)

YD:年次ダミー(j=1~12)

X :その他のコントロール変数(k=1~8)2

また実証分析に用いる松江市の住宅地価データは、国 土交通省地価公示及び都道府県地価調査(1997~2009年)

のデータを採用し、高校の学区属性をはじめとした観測 地点の属性を表すいくつかの変数を追加して推計を行っ た。主要な説明変数の解説を以下に示す。

・学区ダミー(北高学区、南高学区)

北高学区及び南高学区について、当該学区ならば1、

そうでなければ0とするダミー変数であり、教育水準 の高い高校の学区は地価水準に正の影響を与えるとい う仮説より、教育水準の高い北高学区ダミーは正の係 数になると予想される。

2 オフィスワーカー世帯数比率、中心(松江)駅までの距離、最寄 駅までの距離、第一種住居専用地域ダミー、第二種住居専用地域ダ ミー、地積、前面道路幅員、不形状地ダミーの8つを加えた。

4-3-2. 推定結果

推定結果を表1に示す。

北高学区ダミーについて、すべての結果において予想通

り1%もしくは10%水準で統計的に有意に正の係数とな

っている。よって、北高学区であることが地価水準に正 の影響を与えていると言える。

表 1 推定結果

4-4. 教育水準が地価水準に与える影響の実証分析 4-4-1. 比較対象地域の設定

次に、学区の有無により教育水準が地価水準に与える 影響にどのような変化があるのか分析するために、小学 区制度を採用していない近隣の鳥取県米子市を比較対象 として分析する。

4-4-2. 推定モデル及び説明変数

教育水準が地価水準に与える影響を分析するため、以 下のモデルにより推定を行う。

P :地価(円/m2) MD:松江市ダミー

HD:各地域No.1高校までの距離

YD:年次ダミー(i=1~12)

ln P = β0+ β1MD + β2HD + β3MD ∙ HD + + β4iYDi

i

+ β5jXj j

+ ε ln P = α0+ α1iGDi

i

+ α2jYDj j

+ α3kXk k

+ ε

ln 地価 高校属性

 北高学区 0.0820 *** 0.0954 * (0.0141) (0.0503)  南高学区 0.0406 *** 0.0275

(0.0140) (0.0517) 所得属性

0.0013 ** 0.0006 0.0005 (0.0006) (0.0006) (0.0003) 宅地属性

 松江駅までの距離 -0.1273 *** -0.1272 *** -0.1267 ***

(0.0045) (0.0044) (0.0168)  最寄駅までの距離 0.0008 0.0098 0.0017

(0.0061) (0.0063) (0.0238)  第一種住居専用地域 -0.0062 -0.0339 ** -0.0339

(0.0160) (0.0164) (0.0582)  第二種住居専用地域 0.0504 *** 0.0157 0.0168

(0.0128) (0.0139) (0.0321)

 地積 0.0004 *** 0.0004 *** 0.0005 *

(0.0001) (0.0001) (0.0002)  前面道路幅員 0.0471 *** 0.0452 *** 0.0249 ***

(0.0028) (0.0028) (0.0056)  不形状地 -0.1456 *** -0.1123 *** -0.0530 ***

(0.0253) (0.0256) (0.0150)

定数項 11.2170 *** 11.2219 *** 11.3438 ***

(0.0464) (0.0463) (0.0991) 年次ダミー

補正R2値 F値 サンプル数

(注)***,**,*はそれぞれ1%,5%,10%で統計的に有意であることを示す。

()内は標準偏差である。なお、年次ダミーについては省略した。

有(省略)

0.8121 624

0.0000 0.0000 0.0000

0.7442

有(省略)

 オフィスワーカー  世帯数比率

624 624

0.7571 有(省略)

(1)OLS (2)OLS (3)RE

(4)

- 4 -

X :その他のコントロール変数(j=1~8)3

また実証分析に用いる住宅地価データは、前節のデー タに米子市のデータを追加して推計を行った。主要な説 明変数の解説を以下に示す。

・各地域No.1高校までの距離

・各地域No.1高校までの距離*松江市ダミー

各観測地点から地域No.1高校までの道路距離(km)

であり、この説明変数と松江市ダミーの交差項をとる ことにより、地域間でNo.1高校までの距離が地価に与 える影響の差を知ることができる。

小学区制度を採用する場合のみ教育水準の高い高校 の学区は地価水準に正の影響を与えるという仮説より、

高校までの距離と地域ダミーの交差項は負の係数にな り、高校までの距離のみの係数はゼロに近い係数にな ると予想される。

4-4-3. 推定結果

推定結果を表2に示す。

表 2 推定結果

3 オフィスワーカー世帯数比率、中心駅までの距離、中心駅までの

距離*松江市ダミー、最寄駅までの距離、第一種住居専用地域ダミ

ー、第二種住居専用地域ダミー、地積、前面道路幅員の8つを加え た。

地域No.1 高校までの距離と地域ダミーの交差項につ いて、予想通り1%もしくは10%水準で統計的に有意に 負の係数となっている。一方、地域No.1高校までの距離 については変量効果モデルにおいて 10%水準でも統計 的に有意でない。よって、教育水準が地価水準に与える 影響は、松江市と米子市では有意に差があり、小学区制 度を採用する松江市地域においては影響を与えており、

米子市地域においてはほとんど影響を与えていないと言 える。

4-5. 分析結果の考察

これらの推計結果から、小学区制度は、教育水準の高 い学区の地価水準に正の影響を与えるという仮説を実証 し、さらに小学区制度を採用する場合のみ教育水準が地 価水準に影響を与え、採用しない場合は地価水準に影響 を与えないことが分かった。

5. 結論

小学区制度による学校選択幅限定の影響を分析した結 果、小学区制度を採用する場合、教育水準の高い学区に おいて地価水準が上昇するという仮説に基づくと、理論 分析により生徒全体の総余剰を減少させることが分かっ た。また、実証分析において理論分析で仮説とした教育 水準が地価水準に与える影響を分析し、小学区制度を採 用する場合のみ教育水準の高い学区において地価水準の 上昇がみられることを実証した。このような通学区制度 における弊害は、通学区を統合、撤廃することにより緩 和できることから、小学区制度に代表される通学区制度 は統合、撤廃すべきであると考える。

6. まとめ

本研究では、小学区制度を採用する場合と採用しない 場合を比較し、学校選択の機会を限定することは、教育 にどのような影響を与えるかを考察した。

小学区制度を採用する場合に教育水準が地価水準に影 響を与えるという仮説に基づき、理論分析では小学区制 度は総余剰を減らすことが分かり、実証分析において仮 説の整合性を検証した。分析の結果より、小学区制度に 代表される通学区制度は統合、撤廃を進めるべきである との結論に至った。

なお、本研究では最も学校選択幅が限定される小学区 制度に着目して分析を行った。中学区制度における影響 について分析を行い、小学区制度の場合と比較すること により通学区制度の統合、撤廃による効果をより緻密に 分析することが可能となり、今後の更なる研究の発展が 期待できる。

ln 地価 地域属性

 松江 0.2866 *** 0.3638 *** 0.4192 ***

(0.0258) (0.0259) (0.0803) 高校属性

0.0213 ** 0.0148 (0.0101) (0.0335) -0.0597 *** -0.0652 *

(0.0107) (0.0355) 所得属性

0.0005 -0.0005 -0.0022 ***

(0.0005) (0.0005) (0.0005) 宅地属性

-0.1032 *** -0.1109 *** -0.0957 ***

(0.0061) (0.0092) (0.0300) -0.0210 *** 0.0247 ** 0.0209

(0.0072) (0.0105) (0.0348)  最寄駅までの距離 0.0045 0.0033 0.0021

(0.0052) (0.0050) (0.0164)  第一種住居専用地域 0.0091 -0.0493 *** -0.0752

(0.0161) (0.0162) (0.0501)  第二種住居専用地域 0.0703 *** 0.0358 *** -0.0285

(0.0115) (0.0114) (0.0306)

 地積 0.0000 0.0001 ** 0.0003 ***

(0.0001) (0.0001) (0.0001)  前面道路幅員 0.0477 *** 0.0400 *** 0.0248 ***

(0.0026) (0.0026) (0.0075)

定数項 11.0760 *** 11.1313 *** 11.2679 ***

(0.0379) (0.0372) (0.0733) 年次ダミー

補正R2値 F値 サンプル数

(注)***,**,*はそれぞれ1%,5%,10%で統計的に有意であることを示す。

()内は標準偏差である。なお、年次ダミーについては省略した。

0.0000  松江地区*地域No.1

 高校までの距離

 松江地区*地域中心  駅までの距離

有(省略)

有(省略) 有(省略)

1014 (1)OLS (2)OLS (3)RE

0.6654 0.7263 0.7538

0.0000

1014 0.0000  地域No.1高校

 までの距離

 オフィスワーカー  世帯数比率  地域中心駅までの  距離

1014

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