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認証保育所制度が女性の就業に与える影響

<要旨> 尐子高齢化の進展により,女性の雇用労力化の促進と出産・育児と就業継続の両立支 援策の必要性がいわれている.本稿では,東京都が両立支援策として独自に実施してい る無認可保育所に対する補助制度(「東京都認証保育所制度」)が女性の生産性に応じ た効率的な就業促進となっているのかどうか,女性の生産性をフルタイム勤務およびパ ートタイム勤務とみなして認証保育所の整備が女性の就業形態選択に与えている影響 をみることにより実証的に分析した.その結果,認証保育所を整備しても,女性の就業 を促進する明らかな効果はないことが示された. この結果を踏まえ,どのような保育所整備の支援の形が社会的効率性の観点から両立 支援策としてより有効であるかについて提言を行った.

2012年2月

政策研究大学院大学政策研究科

MJU11002

植松 陽子

(2)

目 次

1. はじめに ... 3

2. 現状分析 ... 4

2.1 研究の背景 ... 4

2.2 両立支援策としての保育所制度の現状 ... 6

2.3 認証保育所制度の概要 ... 7

3. 問題の所在 ... 9

4. 関連研究 ... 10

5. 実証分析のモデルとデータ ... 11

5.1 推定方法 ... 11

5.2 データ ... 12

6. 推定結果 ... 13

7. おわりに ... 15

7.1 まとめと考察 ... 15

7.2 政策提言 ... 16

参考文献 ... 17

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1. はじめに

尐子高齢化の進展により,今後労働力人口の本格的な減尐や国民負担の増大が危惧さ れる中,すぐに取り組める解決策として,女性の雇用労力化の促進と出産・育児と就業 継続の両立支援策の必要性がいわれている.平成22年6月に閣議決定された新成長戦略 においては,「尐子高齢化による「労働力人口の減尐」は,我が国の潜在的な成長エン ジンの出力を弱めるおそれがある.そのため,出生率回復を目指す「尐子化対策」の推 進が不可欠であるが,それが労働力人口増加に結びつくまでには20年以上かかる.した がって,今すぐ我が国が注力しなければならないのは,若者・女性・高齢者など潜在的 な能力を有する人々の労働市場への参加を促進」することであり,「若者・女性・高齢 者・障がい者の就業率向上のための政策目標を設定し,そのために,就労阻害要因とな っている制度・慣行の是正,保育サービスなど就労環境の整備等に2年間で集中的に取 り組む」こととし,2020年までに25歳女性から44歳までの女性の就業率を73%,第1子 出産前後の女性の継続就業率55%とする目標が掲げられているところである. 我が国の女性の年齢階級別就業率がM字型であることは繰り返し指摘されている.日 本的雇用慣行と育児支援策等の不足から出産・育児にともなう女性の機会費用が高く, 育児を行いながら就業継続することが非常に難しいことがその原因である.この負担を 緩和するため,企業においては育児休業制度等の整備が進められ,公的には保育所の整 備が進められている.特に保育所に注目してみると,認可保育所には多額の公費が投入 されている現状がある.それにも拘わらずM字型カーブはいまだに解消されておらず, 十分に女性の就業促進ができていない. 認可保育所の利用実態をみてみると生産性の低い女性に集中しており,認可保育所サ ービスが一定以上の生産性を有すると考えられる女性に対し十分に行き届いておらず, 女性の生産性に応じた効率的な就業促進になっていない可能性が高い. 一方,全国で最も待機児童問題が深刻であり,延長保育や休日保育など多様な保育サ ービスに対する需要が非常に大きいといえる東京都は,独自の制度として2001年5月か ら「東京都認証保育所制度」を展開し,認証を付与した無認可保育所に対して補助を実 施している.本補助制度は,認可保育所よりも補助比率が低いうえに民間事業者等に広 く参入を認め競争的に行われているために運営が効率的であることから,公費の投入額 は認可保育所よりも低く抑えられているが,設置基準や運営主体側への補助など基本的 な補助制度の構造は認可保育所と変わらない.そのため,認証保育所制度においても認 可保育所と同様の問題が生じている可能性がある. 公的な保育サービスによる女性の就業促進の効果について分析を行った関連研究1 は,認可保育所の充実を保育所定員率と定義し,それが有意に女性の就業を促進させる との結果を得ているものがあるが,保育所の整備が就業形態選択の意思決定へ与える影 1 滋野・大日 (2001) など

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響をみているものは見あたらない. そこで本稿では,女性の生産性をフルタイム勤務およびパートタイム勤務とみなし, 特に認証保育所の整備が女性の就業形態選択に与えている影響をみることにより,現在 の認証保育所に対する補助制度が女性の生産性に応じた効率的な就業促進になってい るのかどうか実証的に分析を行った.そして,分析の結果を踏まえ,保育所整備の支援 のどのような形が社会的効率性の観点から両立支援策としてより有効であるかを考察 し提言を行った. 本論文の構成は以下の通りである.次章で,現状分析として現在の日本の雇用慣行に よって歪められた女性の労働市場,両立支援策としての保育所制度の現状及び認証保育 所制度を概観する.第3章で問題の所在を明らかにし,第4章では関連研究を紹介する. 第5章で本稿の分析に用いる推定モデル及びデータの説明を行い,第6章では推定結果を 述べる.最後に,第7章において推定結果をまとめるとともに考察を行い,それを踏ま えた提言を行う.

2. 現状分析

2.1 研究の背景

日本の企業では,これまで男性が働き,女性が家事・子育てに専念することを前提と した雇用慣行が支配的であり,その特徴として,新規一括採用と定年時までの長期雇用 保障,企業内部での教育訓練への投資,その代償としての長時間労働と頻繁な転勤・配 置転換,年功型賃金,正社員の中途採用機会の乏しさ等があった.2 このような雇用 環境の下では育児を行いながらの就業継続は非常に困難であり,従来は女性は結婚・出 産する際に辞めてしまう可能性が高かったため,男女を違う雇用体系で雇ったり,そも そも女性がフルタイムで採用されにくいといった企業内での男女間の固定的な役割分 担が行われる状況があった.女性の高学歴化・社会進出が進んでいる近年,育児を行い ながらフルタイム就業を継続する困難さを緩和するために,企業においては育児休業制 度や勤務時間短縮制度等の福利厚生が整備されつつあり,公的には保育所の整備が進め られているものの,現行の雇用慣行の下では出産・育児はいまだに女性がフルタイム就 業を中断せざるをえない大きな理由となっている. また,育児を代行する保育サービスに関しても,整備が進められているものの,需要 に見合った供給が確保されていないという問題がある.児童福祉施設としての認可保育 所の設置・運営は,自治体以外の民間事業者が行う場合には都道府県知事の認可が必要 であり,また,一定の人員配置や設備等の基準を満たすことが求められている.2000 年にそれまで原則社会福祉法人のみとされていた認可保育所の設置・運営に,営利法人 2 八代尚宏 (2000) を参照.

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やNPOが参入できることが形式上認められたが,運営費の使途制限や実質的な配当の禁 止,特殊な会計基準の適用等の規制が課されているため,実質的に参入規制は存在した ままである.さらに,常勤職員比率や専用の調理室の必置,保育所の土地・建物の自己 所有を求める等の設置基準についても内容の妥当性が問われており,これらの適切でな い規制によって保育所の供給が妨げられているとの指摘がされている.また,認可保育 所の保育料は実質的に応能負担の料金体系になっており,所得に応じて負担額が変わる が,極端に低い水準に設定されている.それによって超過需要が起き,慢性的に保育所 が不足する状況となっている.3 定員超過のため認可保育所には入所できず,本来の生産性に見合った賃金を得られる 雇用環境で働けず男女の賃金格差で賃金も安いため,無認可保育所の保育料を払ってま で働く意味がない,こういった状況が相まって,女性が育児をしながらフルタイム就業 を継続する機会費用が高まっている.つまり,結婚・出産とフルタイム就業継続はトレ ードオフの関係になっており,フルタイムでの就業継続が難しい状況になっている. こういった状況を示すものとして,日本の女性の年齢階級別就業率はM字型であるこ とで知られている(図1).M字型カーブのボトムは年々上昇しているものの,依然と して落ち込みがみられることに変わりはない.前述のとおり子育て期は就業継続が難し い状況がいまだに続いている. さらに,図2の女性の学歴別の年齢階級別有業率をみると,大院卒の女性は,他の学 歴に比べ子育て期に入ると有業率の下がり方が大きく,有業率の回復も鈍い.他の学歴 3 周・大石 (2005) に詳しい. 図1 女性の年齢階級別就業率の変化 (出典:総務省統計局「労働力調査」)

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に比べ大院卒の女性の子育て期の有業率の下がり方が大きいのは,大院卒女性は時間の 自由がききにくい雇用者比率が他の学歴よりも高いため,育児をしながらフルタイム勤 務を継続することが困難な場合が多いことが理由として考えられる.また,大院卒女性 は正社員での復帰を望む場合が多いが,子育て後の女性の再就職機会は多くの場合パー トタイム勤務に代表される雇用条件の不利な補助的な仕事に限定されるため,望むよう な復職が難しく復職自体を断念してしまうことが,他の学歴に比べ有業率が回復しない 理由として考えられる.既婚の専業主婦に占める就業希望者比率をみると,大院卒女性 は40%以上と学歴平均の1.5倍以上の高さとなっており,就業を希望している人が多い もののそれが難しい状況にあることがわかる.つまり,現行の制度の下では,生産性の 高い女性ほどフルタイム勤務を継続することが困難化しているといえる.

2.2 両立支援策としての保育所制度の現状

育児と就業継続を両立するために欠かせない育児支援の一つとして保育サービスが あるが,その中心的なものは保育所である.保育所には,児童福祉法第7条で児童福祉 施設として定められている保育所(認可保育所)と,市場で自由に提供される保育施設 (無認可保育所)があり,認可保育所には多額の公費が投入されている. 認可保育所には,自治体が直接運営する公立保育所と,主に社会福祉法人などが運営 する私立保育所があるが,私立保育所を設置・運営する場合には都道府県知事の認可が 必要である.また,厚生労働省が定める一定の基準(児童福祉施設最低基準や厚生労働 省児童家庭局長通知各種)を満たす必要がある.一方,無認可保育所には,各自治体が 図2 女性の学歴,年齢階級別有業率 (出典:総務省統計局「就業構造基本調査」(平成19年))

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応急的に設置している小規模の保育所・保育室や,企業内保育施設,ベビーホテルなど 多種多様な形態がある.東京都では,無認可保育所についてもすべての施設に開設・変 更・休廃止の届出を義務付けており,設置・運営について「認可外保育施設に対する指 導監督要綱」に定める基準を満たすことを求めている.ベビーホテルについては,原則 として事前通告なしで尐なくとも年1回以上立入調査を実施しており,その結果につい てホームページで公開している.しかし,すべての無認可保育所について把握・指導を 徹底することは難しいのが実情であるようだ. 認可保育所には運営費や施設整備費に対する公費補助(さらに東京都は独自に多額の 加算を実施している)があるが,無認可保育所は原則として公費補助はなく,保護者か らの保育料のみで運営している. 認可保育所に入所するには,保護者が区市町村の窓口に申し込み,「保育に欠ける」 要件を満たすか否かの調査が行われ,認定されれば希望する保育所への入所が認められ る.申込者が定員を上回る場合には,区市町村が選考を行う.無認可保育所にはそのよ うな制限はなく,希望すれば誰でも施設に直接申し込み,契約することができる. 保育料については,認可保育所は,区市町村が各世帯の所得に応じて定め徴収する. そのため地域内のどの保育所に入所しても同じ金額になる.無認可保育所は,設置者が 自由に設定できるため施設によって様々である.4 東京都の23区の公立保育所の0歳児 一人あたりの月額保育費用は40万~50万円台といわれている5が,認可保育所入所者の 実際の平均的な保育料は月額2万円強6であり,いかに多額の公費が投入されているかが わかる.一方,無認可保育所の月極め保育料の平均は約6万円となっており7,両者の利 用者負担額に大きな差があることがわかる.

2.3 認証保育所制度の概要

既存の認可保育所,無認可保育所に加え,東京都には認証保育所が存在する.これは 東京都独自の制度であり,「国の基準による従来の認可保育所は,設置基準などから大 都市では設置が困難で,また0歳児保育を行わない保育所があるなど,都民の保育ニー ズに必ずしも応えられて」いないことから,「東京の特性に着目した独自の基準を設定 して,多くの企業の参入を促し事業者間の競争を促進することにより,多様化する保育 ニーズに応えること」8を目的として創設された.2001年5月から実施され,2012年2月 現在で624の施設が運営されている.本制度は,都が定めた一定の基準を満たし知事か ら認証された無認可保育所に対し,運営費と開設準備経費(A型を駅前に開設する場合 等)について一部補助が与えられるものである(一部の市区では独自の補助をさらに加 4 東京都福祉保健局HP参照. 5 鈴木 (2010) 6 内閣府 (2009) 7 東京都福祉保健局『平成20年度認可外保育施設(ベビーホテル)立入調査結果報告書』 8 財団法人東京都福祉保健財団・とうきょう福祉ナビゲーション HPより引用.

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算している場合がある.). 認証保育所の運営主体は,ほとんどが株式会社,有限会社,NPO,個人などである. 東京都認証保育所事業実施要綱に基づき,全施設に対し0歳児保育の実施,13時間以上 の開所を義務付けている.職員配置基準や施設基準は認可保育所の基準に準じていてほ ぼ変わりなく,緩和されているのは,保育士が常勤職員の6割以上(認可保育所では10 割)とされている点と,乳児室・ほふく室の1人当たり基準面積が2.5㎡まで弾力化され ている点のみである. 入所については,利用者と保育所が直接利用契約することになっており,料金は上限 (3歳未満児8万円,3歳以上児7万7千円)の範囲内で施設側が自由に設定できるように なっている.実際の料金設定は,0歳児で最低の月3万円から最高でも7.2万円までの価 格に設定されており,ほとんどが4~6万円台に集中している.9 しかし,各区市町村 では利用者に対し独自の補助を設けており(利用者への直接補助),利用者が実際に負 担している金額はこれよりも尐ない.さらに,利用者の所得状況に応じた利用者補助を 実施しているところもあるため,利用者が負担している実際の料金としては実質的に応 能負担に近い場合もある.10 9 鈴木 (2009) 10 認証保育所の運営実態については,鈴木 (2009),東京都福祉局 (2004) が詳しい. 表1 認可保育所と認証保育所,無認可保育所との比較 (東京都福祉保健局HP等から筆者作成) ベビーホテル等 主体 民間事業者等(知事へ届出) 保育者 配置基準 上記と同じ 開所時間 各施設によって様々 申込等 各施設と利用者が直接契約 補助金 原則なし 認可保育所 無認可保育施設 認証保育所 社会福祉法人等 (都道府県知事の認可) 定員 60人以上 A型:20~120人 (0歳~2歳を1/2以上) B型:6~ 29人 各施設によって様々 保育料 住民税又は所得税の課税額に応じた階 層区分に基づき区市町村が徴収 各施設で自由設定 0~5歳 0歳児枠がない保育所がある 11時間が基本 区市町村に申込み、区市町村で入所決定 対象年齢 0~5歳 0歳児保育を必ず実施 入所者は1~3歳児が中心 施設基準 認可保育所と同様の配置基準とする。 ただし、保育士は常勤職員の6割以上 とする。 保育士 0歳児:3人につき一人以上、 1・2歳児:6人につき一人以上 等 児童福祉施設最低基準  ・調理室・便所の必置  ・0歳児・1歳児の一人当たりの基準   面積は3.3㎡ 運営費、施設整備費の大幅な補助 株式会社を対象とする補助制度はない 民間事業者等(知事の認証)  ・認可に準じた基準  ・0歳児・1歳児の一人当たり基準   面積を2.5㎡まで緩和 認可外保育施設指導監督基準 13時間以上の開所義務 下記の上限額の範囲内で自由設定  3歳未満児は80,000円  3歳以上児は77,000円 運営費、 開設準備経費(駅前の場合等) 各施設と利用者が直接契約 東京都認証保育所事業実施要綱 (東京都福祉保健局HP等から筆者作成)

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3. 問題の所在

保育所に関する補助制度を概観してきたが,認可保育所を利用している世帯の経済状 況をみてみると,利用世帯は低所得層と高所得層に二極化しており,特に低年齢児がい る世帯でその傾向が強い.末子の年齢が3歳未満の世帯では,認可保育所を利用する世 帯の30%が第1および第2所得分位に属している(図4).11 図4は世帯の所得であるた め妻の所得そのものを表しているわけではないが,女性の9割以上は同学歴以上の男性 と結婚するという結婚行動を考慮すれば,妻が就業している場合,世帯所得は妻の所得 を一定程度表しているものと考えられる.とすれば,所得は生産性を一定程度表すもの と捉えた場合,現在の認可保育所に対する補助制度は,生産性の低い女性に補助が集中 している可能性があると考えられる. 社会全体の厚生水準を考えたとき,効率的なのは生産性の高い女性が働いている状態 である.女性全体の育児に関する機会費用を中立的に引き下げた場合,生産性の高い女 性は働くことによって得られる便益が高いから,生産性の低い女性よりも就業が促進さ れるはずである.しかし現状は生産性の低い女性に対する選別的な補助になっている可 能性が高く,これは非効率な状態をもたらしているといえる.つまり,女性の生産性に 応じた効率的な就業促進になっていない可能性がある. 11 大石 (2005) (出典:東京都福祉局『東京都認証保育所実態調査結果報告書』) 図3 保育費用の負担の考え方

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認証保育所制度についてもみてみると,前述のとおり認証保育所制度の認証基準はほ ぼ認可基準と変わらないことや,一部の区市町村では利用者への補助上乗せにより実質 的に応能負担となっている実態があることからすると,認証保育所に対する補助制度は 認可保育所のそれとほぼ同じ構造になっており,認証保育所制度も認可保育所と同様に 女性の生産性に応じた効率的な就業促進になっていない可能性があると考えられる.

4. 関連研究

保育政策が女性の就業に与える効果に関する研究は,滋野・大日 (2001)などがある. 滋野・大日 (2001)では,国民生活基礎調査の個票データや都道府県別の認可保育所の データを用いて保育サービスの内容別に女性の就業に与える影響を推定している.認可 保育所の充実を保育所定員率と定義し,それは有意に保育者の就業を促進させるが,他 の保育サービス(早朝保育実施率,夜間保育実施率,0歳児定員率,早期保育実施率) の効果については不確実であるとの結果を得ている. 女性の就業選択に関する研究の多くは就業か非就業かの選択を扱っており,フルタイ ム就業・パートタイム就業・非就業の選択行動について扱っているものは多くはない. 滋野・大日 (2001)についても,就業選択についての効果はみているが,就業形態の選 択への影響はみていない.フルタイム就業・パートタイム就業・非就業の選択を扱って 図4 認可保育所利用世帯の経済状況(末子の年齢が3歳未満の世帯) (出典:国立社会保障・人口問題研究所 編 (2005)『子育て世帯の社会保障』)

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いるものとしては,橘木・高畑・横山 (2004),大井・松浦 (2003)などがある.大井・ 松浦 (2003)は転職・退職理由が就業形態の選択に与える影響を分析している.橘木・ 高畑・横山 (2004)は育児施設費用を説明変数に入れ,その影響を分析しているが,育 児施設費用は公立および私立幼稚園の費用になっている. 一方,認証保育所に関する実証的研究は,現在のところほとんど見あたらない.東京 都を例として保育と子育て支援制度の多様化の現状について政策評価を行っている周 (2007)は,認証保育所を含む保育サービスと子育て支援の充実度を児童福祉費で 表し, それが出生率にどのような影響を与えているかについて区市町村別のデータを用いて 検証している. 本稿は,東京都の各区市町村の認証保育所数と,保育所定員比率として定義した認可 保育所の充実を説明変数とし,それらの変数が直接女性の就業形態の選択に与える影響 を分析したところに特徴がある.さらに,関連研究の多くは個票データによって分析を 行っているが,本分析では国勢調査という大規模な集計データを用いており,サンプル ・セレクションが生じる可能性が低く,得られる推定結果も広く一般的な傾向を表すも のと考えられる点に特徴があるといえる.

5. 実証分析のモデルとデータ

本稿では,フルタイム就業率とパートタイム就業率を女性の生産性を表す代理変数と し,認証保育所の整備がそれぞれの就業率に与えている影響をみることにより,現在の 認証保育所に対する補助制度が女性の生産性に応じた効率的な就業の促進にどのよう な影響を与えているかを分析する.

5.1 推定方法

具体的には,女性が,認証保育所等の保育サービスや育児の機会費用等との関係から, フルタイム就業かパートタイム就業か非就業かの意思決定を行っていると考え,これら 3形態の選択行動の分析を行う. 推定式は以下のとおりである.多項選択モデルをOLS(最小二乗推定法)により推定 する. ( )

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被説明変数は,東京都の各区市町村(島嶼部除く)の子育て世代の女性(20歳~49 歳)のフルタイム就業率/非就業率の対数,パートタイム就業率/非就業率の対数,フ ルタイム就業率/パートタイム就業率のパート率の対数を用いる.各被説明変数は,非 就業の状態から移行してフルタイム就業を選択する場合,非就業の状態から移行してパ ートタイム就業を選択する場合,パートタイム就業からフルタイム就業へ移行する場合 の各就業形態間の代替関係を示している. 説明変数について,DOUは三世代同居率,ZAIは財政力指数,TEIは認可保育所の定員 比率(保育所定員比率),HAIは20歳~49歳の女性の有配偶比率,TAXは個人住民税1 人当たり負担額,USIXは6歳未満児の人口,NINは認証保育所数,YEARDは2005年ダミ ー,TEI_YDは保育所定員比率と2005年ダミーの交差項である.

5.2 データ

認証保育所制度が2001年から実施されたことから,制度導入前後の2000年と2005年の 2年分の東京都の各区市町村(島嶼部を除く)別の集計データを使用することとした. (1) 被説明変数 総務省「国勢調査」(2000年,2005年)より,各区市町村の子育て世代の女性(20 歳~49歳)の人口のうち,「主に仕事」をしている就業者の割合をフルタイム就業率, 「家事のほか仕事」・「通学のかたわら仕事」をしている就業者の割合をパートタイム 就業率とし,それ以外を非就業率とした.データの制約上6歳未満の子供を持っている 女性のみの就業率を抽出することができなかったため,6歳未満の子供を育てている可 能性がある年齢で区切ることによって抽出した. (2) 説明変数 認証保育所数は,東京都福祉保健局がHPで公表している『東京都認証保育所一覧』 より,2005年中に開設した各区市町村の認証保育所数とした.三世代同居率は総務省「国 勢調査」(2000年,2005年)より,各区市町村の夫婦のいる一般世帯のうち,末子が6 歳未満の三世代世帯の割合を算出した.保育所定員比率は,東京都福祉局総務部計画調 整課『社会福祉統計年報』より2000年,2005年各年の4月1日時点の各区市町村の認可保 育所の定員数を,6歳未満児の人口(総務省「国勢調査」2000年,2005年より)で割っ た値とした.それ以外の説明変数については表2に記す.

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説明変数 定義,データの出典等 三世代同居率 総務省「国勢調査」(2000 年,2005 年)より,各区市町村の夫婦のい る一般世帯のうち,末子が 6 歳未満の三世代世帯の割合を三世代同居 率とした. 財政力指数 東京都総務局行政部 HP,東京都総務局行政部区政課『特別区決算状況』 より平成 12 年度,平成 17 年度のデータを引用した. 保育所定員比率 東京都福祉局総務部計画調整課『社会福祉統計年報』より 2000 年,2005 年各年の 4 月 1 日時点の各区市町村の認可保育所の定員数を,6 歳未 満児の人口(総務省「国勢調査」2000 年,2005 年より)で割った値と した. 有配偶比率 総務省「国勢調査」(2000 年,2005 年)より,各区市町村の 20 歳~ 49 歳の女性人口のうち,配偶者を有する人の割合を有配偶比率とした. 個人住民税 1 人当 たり負担額 『東京都統計年鑑』より平成 12 年度,平成 17 年度のデータを引用し た. 6 歳未満児の人口 総務省「国勢調査」(2000 年,2005 年)より,各区市町村の 6 歳未満 児の人口を算出した. 認証保育所数 東京都福祉保健局が HP で公表している『東京都認証保育所一覧』より, 2005 年中に開設した各区市町村の認証保育所数を得た. 2005 年ダミー 2005 年を 1 とし,2000 年を 0 とした.上記の説明変数では説明できな いような女性の就業選択行動に与えている影響を捉えるため,年ダミ ーを用いた.係数は 2005 年の平均的な傾向を表す. 保育所定員比率と 2005 年ダミーの 交差項 2001 年の認証保育所制度開始により,2005 年の認可保育所の混み具合 等は何らかの影響を受けている可能性があるため,2005 年ダミーとの 交差項とすることで認証保育所の影響を受けた 2005 年の認可保育所 の定員比率を表す.

6. 推定結果

推定結果は表3に掲げるとおりである.まず認証保育所の整備がどのような効果を持 つかを検証し,次に保育所定員比率に触れ,既存の保育所補助制度の持つ効果について も検証を行う.また,女性の就業を促進する可能性のある説明変数として三世代同居率 についても触れる. (1) 認証保育所整備の効果 認証保育所数については,いずれの被説明変数に対しても統計的に有意な結果は示さ なかった.認証保育所数が増えても,非就業の状態からパートタイム就業・フルタイム 表2 説明変数

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就業を増やす効果,パートタイム就業からフルタイム就業へ移行させる効果はいずれも ないことがわかった.表3にあげているほかに説明変数として地域ダミーを推定式に加 え地域の特性をコントロールするなど数パターンの推定を実施したが,認証保育所は有 意に出る場合もあったものの全体としては不安定な結果となり,やはり認証保育所は就 業を促進する効果は明らかにはないといえる. (2) 認可保育所整備の効果 保育所定員比率はいずれの被説明変数にも有意な影響を与える結果となった.認可保 育所の定員が増えると,非就業からパートタイム就業へ,非就業からフルタイム就業へ と,女性の就業全体を促進することがわかる.また,パートタイムからフルタイムへ移 行する場合には符号がマイナスになっており,フルタイム就業よりもパートタイム就業 をより促進することが明らかになった. 表3にあげているほかに説明変数として地域ダミーを推定式に加え地域の特性をコン トロールするなど数パターンの推定を実施したが,いずれの推定式の場合にも係数の符 号は同じになり,さらに非就業からパートタイムへ移行する場合とパートタイムからフ ルタイムへ移行する場合は常に有意な結果を示すという頑健な結果が出た. (3) 三世代同居率の効果 三世代同居率が女性の就業へ与える効果は,世帯内に妻の他に育児や家事を分担でき る家族が存在すれば保育所やベビーシッター,家事代行等を利用する費用が不要または 削減できるので育児コスト・家事コストが低下し,女性の就業促進につながる可能性が ある反面,逆に介護など女性の家事労働が増える可能性があり,理論的にあらかじめに はわからない.大井・松浦 (2003)は三世代同居の場合,より有利だから,あるいは会 社都合で転職・退職したケースでは正規就業から非正規就業へ移行していると報告して いる.表3の分析結果では,三世代同居率は,全ての被説明変数に対し統計的に有意な 影響があることがわかった.非就業からパートタイムへ移行する場合,非就業からフル タイムへ移行する場合は,係数の符号がプラスになっており,一般的に女性の就業を促 進する効果があることがわかる.しかし一方で,パートタイムからフルタイムへ移行す る場合には符号がマイナスになっており,すなわちフルタイムからパートタイムへの移 行を促進する効果がある.これは大井・松浦 (2003)の結果とも整合的である.各区市 町村の三世代同居率を見てみると,ほぼすべての市区が10%以下であり,都市部である という地域性を考慮すると,三世代同居率は介護等女性の家事労働が増える方向へ働い ているものと考えられる.

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7. おわりに

7.1 まとめと考察

推定結果をまとめると,認証保育所が増えても,パートタイム就業,フルタイム就業 どちらの促進にもつながらない.また,認可保育所を整備し定員を増やすと女性の就業 を一般的に促進する効果はあるが,フルタイム就業よりもパートタイム就業をより促進 することがわかった.以上を総合すると,現在の保育所への補助はフルタイム就業より もパートタイム就業をより促進しているということがいえる.つまり,仮説のとおり, 0.00423 *** 0.00780 *** -0.00357 *** [ 0.00149 ] [ 0.00136 ] [ 0.00099 ] -0.10418 * 0.06899 -0.17317 *** [ 0.05859 ] [ 0.05346 ] [ 0.03907 ] 0.00701 ** 0.01081 *** -0.00380 ** [ 0.00276 ] [ 0.00252 ] [ 0.00184 ] -0.00852 *** 0.01795 *** -0.02647 *** [ 0.00254 ] [ 0.00232 ] [ 0.00169 ] 0.00000 ** 0.00000 *** 0.00000 *** [ 0.00000 ] [ 0.00000 ] [ 0.00000 ] 0.00000 0.00000 0.00000 [ 0.00000 ] [ 0.00000 ] [ 0.00000 ] -0.00447 -0.00669 0.00223 [ 0.00476 ] [ 0.00434 ] [ 0.00317 ] -0.19976 0.00493 -0.20469 ** [ 0.12471 ] [ 0.11378 ] [ 0.08315 ] 0.00259 0.00214 0.00045 [ 0.00370 ] [ 0.00337 ] [ 0.00246 ] 0.41739 ** -2.24934 *** 2.66673 *** [ 0.17487 ] 0.15955 ] 0.11660 ] R2 0.558 0.859 0.908 観測数 106 106 106 認証保育所数 2005年ダミー 保育所定員比率 ×2005年ダミー 定数項 三世代同居率 財政力指数 保育所定員比率 有配偶比率 個人住民税1人当たり 負担額 六歳未満人口

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表3 推定結果 注1:[ ]内は標準誤差 ***,**,*はそれぞれ1%,5%,10%の水準で統計的に有意であることを示す.

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女性の生産性に応じた効率的な就業促進になっているとはいえないことが明らかにな った. これは,認証基準が認可保育所とほぼ同じ基準であること等のため,認証保育所はフ ルタイム就業の女性にとってはあまり利便性が高いとはいえず,結果的に期待されたほ どフルタイム就業の女性による利用が進まず,フルタイム就業の促進につながっていな いということかもしれない.また,認証保育所の保育料は自治体の補助によって利用者 の負担は軽減されるものの,認可保育所と比べた場合,パートタイムで働く人達にとっ てはやはり負担が重くなるために,パートタイム就業の女性の利用も進まなかったため, 結局どちらの就業促進にもなっていないのではないか. 認可保育所は,フルタイムで就業する人達にとっては保育時間が短い等利便性があま り高くないという問題があるが,パートタイム就業の場合には保育時間等の利便性はあ まり問題にならない場合が多く,それ以上に応能負担の料金体系のため世帯所得が低い 場合には保育料が非常に安いということが強く働き,パートタイム就業をより促進する という結果になっているのではないだろうか.

7.2 政策提言

以上の考察結果を基に,保育所制度とその補助制度の今後の在り方について政策提言 を行う. 本稿で注目してきた認証保育所制度は,女性の生産性に応じた効率的な就業を促進す る仕組みにはなっていない認可保育所制度に倣って設計されていることから,効率的な 補助制度になっていないことは当然といえる.保育所制度の現状を概観したとおり,認 可保育所への補助が効率的になっていない原因は,参入規制や,応能負担原則に基づく 料金体系,さらに極端に低い水準に設定された利用料金により発生した超過需要・慢性 的な保育所不足にある. よって,認証保育所制度のように,既存の制度に追加的に補助制度を作るのではなく, まずは参入規制や適切でない細かい設置基準などの規制は廃止し,自由に参入できるよ うにすべきである. その上で,保育所への補助を行う場合は,利用者がそれぞれのニーズに応じた保育サ ービスを自由に選択できるよう,認可,無認可問わず,ベビーシッターなど様々な保育 サービスに利用できるバウチャーを利用者に直接補助すべきであると考える.その場合, バウチャーの金額は所得によって差をつけるのではなく,一定の金額にすべきである. 現在の保育所への補助は結果的に所得再分配機能をもつことになっているが,本来であ れば,女性の就業促進・両立支援策としての保育所制度には所得再分配機能は含めるべ きでないと考える.バウチャーの金額は一定にし,それ以上の負担が発生する場合には 自己負担とすることによって,それぞれの生産性に応じて保育所の利用の仕方が選択さ れることとなり,結果として生産性に応じた効率的な補助となると考える.

(17)

参考文献

宇南山卓 (2011)「結婚・出産と就業の両立可能性と保育所の整備」『日本経済研究』 No.65 大井方子・松浦克己 (2003)『女性の就業形態選択に影響するものとしないもの―転職 ・退職理由と夫の年収・職業を中心として―』会計検査研究 (27), 213-226 大石亜希子 (2005)「保育サービスの再分配効果と母親の就労」国立社会保障・人口問 題研究所 編『子育て世帯の社会保障』東京大学出版会,165-183 滋野由紀子・大日康史 (2001)「保育政策が女性の就業に与える影響」岩本康志 編著 『社会福祉と家族の経済学』東洋経済新報社, 51-70 周燕飛 (2007)「保育・子育て支援制度の多様化の現状と尐子化対策としての課題―東 京都の取組みを例として―」季刊・社会保障研究Vol.43 No.3,197-210 周燕飛・大石亜希子 (2005)「待機児童問題の経済分析」国立社会保障・人口問題研究 所 編『子育て世帯の社会保障』東京大学出版会,185-208 鈴木亘 (2009)『「認証保育所の運営状況に関する調査」結果報告書』 鈴木亘 (2010)『社会保障の「不都合な真実」』日本経済新聞出版社 橘木俊昭・高畑雄嗣・横山由紀子 (2004)「女性の就業と経済制度,世帯属性」 東京都福祉局 (2004)『東京都認証保育所実態調査結果報告書』 東京都福祉保健局『平成20年度認可外保育施設(ベビーホテル)立入調査結果報告書』 内閣府 (2009)「保育や子育てに関するインターネット調査について」 八代尚宏 (2000)『尐子・高齢化の経済学-市場重視の構造改革-』東洋経済新報社 (謝辞) 本稿の作成にあたり,中川雅之教授(主査),プログラム・ディレクターの福井秀夫 教授(副査),北野泰樹助教授(副査)から丁寧なご指導をいただいたほか,西脇雅人 助教授,安藤至大准教授からお忙しい中大変貴重なご意見をいただきましたことに心よ り感謝申し上げます.なお,本稿における見解および内容に関する誤りは全て筆者に帰 します.また,本稿は筆者の個人的な見解を示したものであり,筆者の所属機関の見解 を示すものではないことを申し添えます.

参照

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