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発達障害児における対人交渉方略と心の理論との関連 A 児の事例からの検討 東京学芸大学大学院連合学校教育学研究科 二 川 敬 子 横浜国立大学教育人間科学部 高 山 佳 子

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心の理論との関連

―A児の事例からの検討―

東京学芸大学大学院連合学校教育学研究科

二 川 敬 子

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発達障害児における対人交渉方略と

心の理論との関連

―A児の事例からの検討―

二川 敬子*・高山 佳子**

Ⅰ.はじめに・目的 私達は日常生活において「あの人はどうし てあんな行動をとったのだろう」「彼女はきっ とこう考えるに違いない」等、相手の意図や 考え、好みといった相手の心的状況を考えな がら対人関係を築いている。社会性とは「相 手の気持ちがわかり、相手の立場に立ち、良 好なコミュニケーションをとり、円滑な社会 生活ができること」(板倉,2009)であり、「社 会的相互作用は本当は心的状況の相互作用で ある」(Astington,1993)と言われているよ うに、人との関わりにおいて相手の心的状況 を理解することは必要不可欠な能力であると 考えられる。 発達障害児は仲間関係を作り、維持するこ と に 困 難 が あ る(Solish, Minnes, & Kupferschmidt, 2003)等、対人関係が上手く いかないことが指摘されている。発達障害の 一つである自閉症児・者に関しては、心的状 況の理解、つまり「心の理論」(Premack & Woodruff,1978)の指標と言われる「誤信念 課題」の通過率が低く、心の理論の獲得に困 難が見られること(Baron-Cohen, Leslie &

Frith, 1985; Perner, Frith, Leslie & Leekam, 1989)から、心の理論の獲得の遅れが自閉症 児・者の社会性、特に対人関係上の問題の原 因とされてきた。一方、知的に高い自閉症児 の中には誤信念課題を通過する者がおり、複 数の研究において言語能力の高さと心の理論 の 獲 得 に は 関 連 が あ る と 言 わ れ て い る (Ozonoff, Rogers & Pennington, 1991; Bowler, 1992; Happé, 1994, 1995; Astington & Jenkins, 1999)。では、誤信念課題を通過で きた自閉症児には対人関係上の困難さは見ら れないかというとそうではなく、誤信念課題 を通過し心の理論が獲得できていると思われ る自閉症児であっても、日常生活では他者の 心を読み違えた奇妙な行動をとる、他者の心 を読み取って適切に人と関われない(Bowler, 1992; Frith, Happé & Siddons, 1994)等の対人 関係上の問題が明らかにされている。別府・ 野村(2005)は高機能の自閉症児が高い言語 能力に依拠して心の理論を獲得するという考 えから、自閉症児は健常児とは質的に異なっ た内容を心の理論として形成しているのでは ないかという仮説を検証するために、健常児 と高機能自閉症児に誤信念課題(サリーとア ン課題)を実施し、対象児にその判断の言語 *東京学芸大学大学院連合学校教育学研究科 **横浜国立大学 教育人間科学部

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的理由付けを求めた。その結果、誤信念課題 を通過した健常児は課題の判断理由が述べら れなくても行動レベルでは心の理論をふまえ た行動がとれる段階から、理由が述べられる ようになるという発達がみられた。一方、高 機能自閉症児には、誤信念課題を通過した者 で判断の理由付けができない者が一人もいな かったことから、健常児のような発達的変化 が見られないことが示された。高機能自閉症 児が心の理論をふまえた行動をとるためには 言語的理由付けが可能になるような言語能力 が必要であることから、彼らが獲得する心の 理論は、そのプロセスと内容について健常児 とは質的に異なるという仮説が検証された。 自閉症児の日常生活における対人関係の問題 は、健常児が形成するような言語的理由付け を必要としない心の理論、つまり情動や感情 による「直観的な心の理論」の形成が困難な ことが原因と考えられる。言語能力によって 誤信念課題を通過することができても、言語 的命題の積み重ねによる類推だけでは、日常 生活で瞬時に他者の心を理解し、適切な判断 および行動をとることができない場合がある ということが示唆される。だが、誤信念課題 を通過した自閉症児・者が対人関係において、 彼らが形成する「言語的理由づけによる心の 理論」では適切に対応しにくい場面、または 対応が可能な場面とはどのような場面なの か、また、「言語的理由づけによる心の理論」 が形成されることによって自閉症児・者の対 人行動にはどのような変化が見られるのかと いう点に関しては、まだ不明な点が多い。健 常幼児については、子安・服部・郷式(2000) により、心の理論の発達と他者の心の理解過 程について、幼児の集団行動の縦断的観察が 行われており、誤信念課題通過前と通過後で、 対象児の行動にどのような変化が見られたか を事例分析により検討している。発達障害児 においても、心の理論の形成という視点から 行動を分析し、彼らの課題を明らかにするこ とが必要であり、社会性の発達を促すための 必要な支援を行うことにつながると思われ る。 心 の 理 論 以 外 の 社 会 性 の 指 標 と し て、 Yeates & Selman(1989)が提唱した対人交 渉方略(Interpersonal Negotiation Strategy: INS)があげられる。対人交渉方略は人が葛 藤場面において問題解決を行うために生み出 す方策のことであり、彼らは対人交渉方略を 生み出す社会的情報処理ステップとして、① 問題の定義(社会的問題の性質を適切に定義 する能力)②方法の産出(問題を解決するに はどのような方略があるのかを考える力)③ 方法の選択と実行(複数の方略の中でその場 面に一番ふさわしい方略を選択し、実行する 力)④結果の評価(そうした方略によって生 じた結果を評価する力)という 4 つのステッ プを設定し、年齢が上昇するにつれて問題を 解決する方略のレベルが上がることを示唆し た。対人交渉方略モデルは先行研究(金城・ 梅本,1991;渡部,1993,1995;長峰,1996 等)により、日本の児童・生徒にも適応は可 能であることが明らかにされている。障害児 を対象にした対人交渉方略の研究は、ダウン

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症者および広汎性発達障害者を除いた知的障 害者を対象にしたもの(小島・池田,2002)、 青年期ダウン症者を対象とした研究(Kojima & Ikeda,2002)、発達障害者を対象とした研 究(小島,2005)等が見られ、これらの研究か ら、知的障害者が相手の社会的地位や状況の 変化を適切に認知して対人交渉方略を変化さ せること、彼らの対人交渉方略は「自分の意 見を主張する方略(自己重視型方略)」と「相 手の意見を受け入れる方略(他者重視型方 略)」がほぼ同じ割合で有意に多く、「じゃん けん」や「相手の意見と自分の意見をふまえ、 話し合いによって解決しようとする方略(相 互・互恵的方略)」は少ないという彼らの対人 交渉の特徴が指摘されている。長峰・加藤・ 井(2011)は健常児・者と高機能自閉症児・ 者を対象に葛藤場面の例話を作成・提示して 対人交渉方略に関する質問を行い、質問に対 する回答の比較から、高機能自閉症児・者の 対人交渉方略を検討している。その結果、高 機能自閉症児・者は状況を理解しやすい場面 においては、健常児・者とほぼ同レベルの方 略を選択することができるが、それぞれの方 略の質を見ると健常児・者の方が自分と相手 との視点を調整するような方略を選択してい ること、状況が理解しにくい場面では、高機 能自閉症児・者は健常児・者よりも未発達な 方略を選択し、思春期以降も互恵的な方略を とることができないことが明らかになった。 また、「グループ学習のテーマに関する意見 の衝突」のように状況を理解しやすい場面に おいて、高機能自閉症児・者は「こういう意 見が対立した時はこういう方法をとればよ い」というような命題的な知識を適用して「相 互・互恵的な方略」を選択したのではないか と考察されている。この点については、心の 理論の獲得について「高機能自閉症児・者が 言語的命題の積み重ねによる言語的類推で補 償することによって心の理論を形成する」と いう別府・野村(2005)の指摘と重なると思 われる。長峰ら(2011)によれば、「対人交渉 方略と心の理論は、他者の心的状況を推測す る能力という点で共通しているが、対人交渉 方略にはそうした能力を使って他者との間で 交渉(自他の視点の調整)ができるかどうか という側面が加わっている」とされている。 つまり対人交渉方略は心の理論を獲得してい ても、自他の視点を第三者的に捉え両方を調 整する能力がないと、高いレベルの方略を選 択することができないと考えられる。心の理 論の獲得の指標となる誤信念課題の結果と対 人交渉方略を合わせて考察することにより、 対象児の対人交渉における課題をより明らか にできるのではないだろうか。対人交渉方略 は日常的に起こりやすい具体的な葛藤場面を 例話として設定し「あなただったらどうしま すか?」と質問をするため、自身の問題とし て回答する可能性が高いという点、例話と同 様の葛藤場面が日常生活で起こった場合、回 答で選択された方略を実際に使用することが できるのかという行動面との関連を検討する ことが可能である点から、発達障害児の対人 交渉を明らかにするための有効な指標である と考える。

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二川・高山(2013)は例話による回答とい う認知面と行動観察による行動面から、発達 障害児の対人交渉方略を明らかにし、心の理 論との関連を検討したが、対人交渉方略の質 問に関する回答と心の理論課題の結果を比較 することはしていない。また、実際の葛藤場 面の分析において交渉のやりとりを流れとし てとらえるという課題が挙げられており、実 際の交渉がどのように進み終結したのかを含 めた対人交渉の検討が必要である。これらの 課題をふまえ、本研究は発達障害児がどのよ うな対人交渉を行っているのかについて、実 験的場面の結果と日常生活の行動観察から対 象児の対人交渉方略と心の理論について明ら かにするとともに、対人交渉方略と心の理論 との関連について考察を行うことを目的とす る。 Ⅱ.方法 1.対象児 公立小学校特別支援学級に在籍する A 児 (5 年男子、高機能自閉症)。クラスは知的障 害学級と自閉症・情緒障害学級を合わせた編 成となっており、ここには A 児を加えた 9 名 が在籍し、担任教師は 3 名である。クラスの 児童の実態は Table 1 に示す通りである。表 の数値は A 児、H 児と I 児に関しては WISC-Ⅲ(平成 21 年実施)、その他の児童について はWISC-Ⅳ(平成24年実施)の結果である。 2.手続き ⑴ 対人交渉方略について 二川・高山(2013)の研究と同様に、渡部 (1993)の研究を参考に、2つの葛藤場面(遊 び場面での意見の衝突と教室場面での嫌なこ との押し付け)の例話を設定した。これらの 葛藤場面は、渡部(1993)の予備調査により 学校生活の中で教師が目にしやすい対人葛藤 場面であるとされている。発達障害者を対象 とした小島(2005)の先行研究においても、 現職の養護学校中学部、高等部の教員 2 名に 日頃養護学校でよく見かける対人葛藤場面に ついて聞き取り調査を実施した結果から、友 人との遊び場面で葛藤が生じる場面を設定し ている。「遊び場面での意見の衝突」という 場面は、特別支援学級においても起こりやす い葛藤場面と考えられる。もうひとつの「一 方の当番がもう一方の当番に仕事を押し付け る」という理不尽な場面は、「仲間からの侵害 に対する応答場面であり、社会的適応児と不 適応児の差が顕著である(Dodge, McClasky & Feldman, 1985)」と指摘されているため、 対象児の対人交渉における課題が捉えやすい のではないかと考え、例話Ⅰに加えて例話Ⅱ の場面を設定した。A 児の個別学習の時間 に、教師 1 名が挿絵を用いて説明した後、例 話毎に「問題の定義」「方法の産出」「方法の 選択と実行」「結果の評価」という社会的情報 処理ステップに基づいた 4 つの質問を対象児 に行った。例話と A 児に行った質問を Table 2、使用した挿絵をFig. 1とFig. 2に示す。

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Table 1 対象児とクラスの児童の実態 対象児とクラスの児童 全検査 言語理解 知覚推理 ワーキングメモリ 処理速度 A (5年男子・高機能自閉症) 82 VIQ : 86 PIQ : 80 B (1年男子・自閉症) 64 58 87 65 70 C (2年男子・自閉症) 76 69 70 88 94 D (2年女子・知的障害) 49 60 65 50 58 E (2年女子・自閉症) 47 62 51 54 55 F (3年男子・自閉症) 69 62 76 88 76 G (4年男子・高機能自閉症) 106 105 102 88 121 H (5年男子・アスペルガー障害) 87 VIQ : 77 PIQ : 100

I (6年男子・知的障害、弱視) ― VIQ : 48 PIQ : 40 *FIQは算出されなかった Table 2 対人交渉方略についての例話と質問 今から2つお話しをして、その後4つの質問をします。分からないことや難しいところがあったら、 聞いてください。ひとつめは、遊びについてのお話です。 Aさんは、ブロック遊びとおにごっこのどちらが好きですか? →A児はブロック遊びと回答 「ブロック遊び」の方が「おにごっこ」よりも、かなり好きだと思ってください。 ○例話Ⅰ Aさんとこのお友達は仲の良い友達です。(挿絵使用 Fig. 1) 中休みに二人で一緒に遊ぶ約束をしていました。 Aさんは「ブロックで遊びたい」と思っていますが、仲の良い友達は「おにごっこをして遊びたい」と 言い出しました。 ○例話Ⅱ これはAさん、この人はAさんと仲の良い友達です。(挿絵使用 Fig. 2) 2人は今日当番なので、2人で外にあるゴミ捨て場にゴミを捨てに行かなくてはいけません。でも、 外は雨が降っています。Aさんも友達も「行きたくないな」と思っています。 その時、友達が「A君、一人でごみを捨てに行ってきてよ」と言いました。 ○質問 ⑴ <問題の定義>このお話で困っていることは何ですか? Aさんはどんな気持ちですか? ⑵ <方法の産出>Aさんはどうしたらいいと思いますか? それは、どうしてですか? 他に方法はありますか?できるだけたくさん答えてください。 それは、どうしてですか? ⑶ <方法の選択と実行>Aさんが考えた方法の中で、一番いいと思うものはどれですか? それはどうしてですか? ⑷ <結果の評価>その方法をすると、Aさんはどんな気持ちになるでしょう? 相手(友達)はどんな気持ちになるでしょう? Fig. 2 例話Ⅱ「教室場面での嫌なことの押し付け」の 挿絵 Fig. 1 例話Ⅰ「遊び場面の意見の衝突」の挿絵 Table 1 対象児とクラスの児童の実態 対象児とクラスの児童 全検査 言語理解 知覚推理 ワーキングメモリ 処理速度 A (5年男子・高機能自閉症) 82 VIQ : 86 PIQ : 80 B (1年男子・自閉症) 64 58 87 65 70 C (2年男子・自閉症) 76 69 70 88 94 D (2年女子・知的障害) 49 60 65 50 58 E (2年女子・自閉症) 47 62 51 54 55 F (3年男子・自閉症) 69 62 76 88 76 G (4年男子・高機能自閉症) 106 105 102 88 121 H (5年男子・アスペルガー障害) 87 VIQ : 77 PIQ : 100

I (6年男子・知的障害、弱視) ― VIQ : 48 PIQ : 40 *FIQは算出されなかった Table 2 対人交渉方略についての例話と質問 今から2つお話しをして、その後4つの質問をします。分からないことや難しいところがあったら、 聞いてください。ひとつめは、遊びについてのお話です。 Aさんは、ブロック遊びとおにごっこのどちらが好きですか? →A児はブロック遊びと回答 「ブロック遊び」の方が「おにごっこ」よりも、かなり好きだと思ってください。 ○例話Ⅰ Aさんとこのお友達は仲の良い友達です。(挿絵使用 Fig. 1) 中休みに二人で一緒に遊ぶ約束をしていました。 Aさんは「ブロックで遊びたい」と思っていますが、仲の良い友達は「おにごっこをして遊びたい」と 言い出しました。 ○例話Ⅱ これはAさん、この人はAさんと仲の良い友達です。(挿絵使用 Fig. 2) 2人は今日当番なので、2人で外にあるゴミ捨て場にゴミを捨てに行かなくてはいけません。でも、 外は雨が降っています。Aさんも友達も「行きたくないな」と思っています。 その時、友達が「A君、一人でごみを捨てに行ってきてよ」と言いました。 ○質問 ⑴ <問題の定義>このお話で困っていることは何ですか? Aさんはどんな気持ちですか? ⑵ <方法の産出>Aさんはどうしたらいいと思いますか? それは、どうしてですか? 他に方法はありますか?できるだけたくさん答えてください。 それは、どうしてですか? ⑶ <方法の選択と実行>Aさんが考えた方法の中で、一番いいと思うものはどれですか? それはどうしてですか? ⑷ <結果の評価>その方法をすると、Aさんはどんな気持ちになるでしょう? 相手(友達)はどんな気持ちになるでしょう? Fig. 2 例話Ⅱ「教室場面での嫌なことの押し付け」の 挿絵 Fig. 1 例話Ⅰ「遊び場面の意見の衝突」の挿絵 Table 1 対象児とクラスの児童の実態 対象児とクラスの児童 全検査 言語理解 知覚推理 ワーキングメモリ 処理速度 A (5年男子・高機能自閉症) 82 VIQ : 86 PIQ : 80 B (1年男子・自閉症) 64 58 87 65 70 C (2年男子・自閉症) 76 69 70 88 94 D (2年女子・知的障害) 49 60 65 50 58 E (2年女子・自閉症) 47 62 51 54 55 F (3年男子・自閉症) 69 62 76 88 76 G (4年男子・高機能自閉症) 106 105 102 88 121 H (5年男子・アスペルガー障害) 87 VIQ : 77 PIQ : 100

I (6年男子・知的障害、弱視) ― VIQ : 48 PIQ : 40 *FIQは算出されなかった Table 2 対人交渉方略についての例話と質問 今から2つお話しをして、その後4つの質問をします。分からないことや難しいところがあったら、 聞いてください。ひとつめは、遊びについてのお話です。 Aさんは、ブロック遊びとおにごっこのどちらが好きですか? →A児はブロック遊びと回答 「ブロック遊び」の方が「おにごっこ」よりも、かなり好きだと思ってください。 ○例話Ⅰ Aさんとこのお友達は仲の良い友達です。(挿絵使用 Fig. 1) 中休みに二人で一緒に遊ぶ約束をしていました。 Aさんは「ブロックで遊びたい」と思っていますが、仲の良い友達は「おにごっこをして遊びたい」と 言い出しました。 ○例話Ⅱ これはAさん、この人はAさんと仲の良い友達です。(挿絵使用 Fig. 2) 2人は今日当番なので、2人で外にあるゴミ捨て場にゴミを捨てに行かなくてはいけません。でも、 外は雨が降っています。Aさんも友達も「行きたくないな」と思っています。 その時、友達が「A君、一人でごみを捨てに行ってきてよ」と言いました。 ○質問 ⑴ <問題の定義>このお話で困っていることは何ですか? Aさんはどんな気持ちですか? ⑵ <方法の産出>Aさんはどうしたらいいと思いますか? それは、どうしてですか? 他に方法はありますか?できるだけたくさん答えてください。 それは、どうしてですか? ⑶ <方法の選択と実行>Aさんが考えた方法の中で、一番いいと思うものはどれですか? それはどうしてですか? ⑷ <結果の評価>その方法をすると、Aさんはどんな気持ちになるでしょう? 相手(友達)はどんな気持ちになるでしょう? Fig. 2 例話Ⅱ「教室場面での嫌なことの押し付け」の 挿絵 Fig. 1 例話Ⅰ「遊び場面の意見の衝突」の挿絵 Table 1 対象児とクラスの児童の実態 対象児とクラスの児童 全検査 言語理解 知覚推理 ワーキングメモリ 処理速度 A (5年男子・高機能自閉症) 82 VIQ : 86 PIQ : 80 B (1年男子・自閉症) 64 58 87 65 70 C (2年男子・自閉症) 76 69 70 88 94 D (2年女子・知的障害) 49 60 65 50 58 E (2年女子・自閉症) 47 62 51 54 55 F (3年男子・自閉症) 69 62 76 88 76 G (4年男子・高機能自閉症) 106 105 102 88 121 H (5年男子・アスペルガー障害) 87 VIQ : 77 PIQ : 100

I (6年男子・知的障害、弱視) ― VIQ : 48 PIQ : 40 *FIQは算出されなかった Table 2 対人交渉方略についての例話と質問 今から2つお話しをして、その後4つの質問をします。分からないことや難しいところがあったら、 聞いてください。ひとつめは、遊びについてのお話です。 Aさんは、ブロック遊びとおにごっこのどちらが好きですか? →A児はブロック遊びと回答 「ブロック遊び」の方が「おにごっこ」よりも、かなり好きだと思ってください。 ○例話Ⅰ Aさんとこのお友達は仲の良い友達です。(挿絵使用 Fig. 1) 中休みに二人で一緒に遊ぶ約束をしていました。 Aさんは「ブロックで遊びたい」と思っていますが、仲の良い友達は「おにごっこをして遊びたい」と 言い出しました。 ○例話Ⅱ これはAさん、この人はAさんと仲の良い友達です。(挿絵使用 Fig. 2) 2人は今日当番なので、2人で外にあるゴミ捨て場にゴミを捨てに行かなくてはいけません。でも、 外は雨が降っています。Aさんも友達も「行きたくないな」と思っています。 その時、友達が「A君、一人でごみを捨てに行ってきてよ」と言いました。 ○質問 ⑴ <問題の定義>このお話で困っていることは何ですか? Aさんはどんな気持ちですか? ⑵ <方法の産出>Aさんはどうしたらいいと思いますか? それは、どうしてですか? 他に方法はありますか?できるだけたくさん答えてください。 それは、どうしてですか? ⑶ <方法の選択と実行>Aさんが考えた方法の中で、一番いいと思うものはどれですか? それはどうしてですか? ⑷ <結果の評価>その方法をすると、Aさんはどんな気持ちになるでしょう? 相手(友達)はどんな気持ちになるでしょう? Fig. 2 例話Ⅱ「教室場面での嫌なことの押し付け」の 挿絵 Fig. 1 例話Ⅰ「遊び場面の意見の衝突」の挿絵

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Table 3 心の理論課題の内容と質問項目 各 課 題 の 内 容 と 質 問 課題1.ボールの問題 ○なつきは自分のボールを箱にしまい遊びに行った。部屋に入ってきたゆうたは箱の中のボールを見つ け、それをバッグに入れ替えた。 ① ボールは今どこにありますか? ② ボールは最初どこにありましたか? ③ また、ボールで遊ぼうと思ったなつきちゃんは、箱とバッグどちらをさがすでしょうか。 課題2.トランプの問題 ○なつきがトランプの箱を持っている。 ① この箱の中には何が入っていますか? →箱を開けて中のビー玉を見せる。 ② 今、この箱の中には何が入っていますか? ③ ゆうた君はこの箱の中を見ていません。この箱を見せて何が入っているか聞いたら何というで しょうか? ④ あなたは初めてこの箱を見た時、中に何が入っていると答えましたか? 課題3.ハムスターの問題 ○なつきは誕生日のプレゼントにハムスターをもらえると期待していた。しかし、プレゼントはクマの ぬいぐるみだった。なつきは「ありがとう、欲しかったの、クマのぬいぐるみ。」とお母さんに答えた。 ① なつきちゃんはクマのぬいぐるみが欲しかったのでしょうか? ② なつきちゃんは本当のことを言っていますか? ③ なつきちゃんはどうして本当のことを言わなかったのですか? 課題4.おもちゃばこの問題 ○箱の中におもちゃが入っている。サンタはおもちゃを見つけるともうひとつおもちゃをくれるが、泥 棒はおもちゃを見つけると持って行ってしまう。サンタにはおもちゃが見つかるよう助け、泥棒には 見つからないよう邪魔をする。そしておもちゃを増やす。 ① サンタが来たら、あなたは箱を開けておきますか?それとも鍵をかけておきますか? ② 泥棒が来たら、あなたは箱を開けておきますか?それとも鍵をかけておきますか? 鍵が無くなり箱に鍵がかけることができなくなりました。 ③ サンタが来て「箱に鍵はかかっている?それともかかっていない?」と聞いたらあなたは何と答 えますか。 ④ 泥棒が来て「箱に鍵はかかっている?それともかかっていない?」と聞いたらあなたは何と答え ますか? 課題5.やきいもの問題 ○なつきとゆうたが公園でやきいも屋さんに会う。やきいも屋さんが午後も公園にいると言ったため、 ゆうたは家にお金を取りに行く。その間にやきいも屋さんは駅前に移動することをなつきに言って、 移動してしまう。やきいも屋さんは駅へ行く途中でゆうたに会い、駅前に行くことを告げる。 ① やきいも屋さんが、なつきちゃんと話したことをゆうた君は知っていましたか? ② やきいも屋さんが、ゆうた君と話したことをなつきちゃんは知っていましたか? ③ なつきちゃんは、ゆうた君がやきいもを買いにどこへ行ったと思いますか? ④ なつきちゃんは、なぜそう思ったのでしょうか? ⑤ ゆうた君は、本当はやきいもを買いに、どこに行きましたか? ⑥ やきいも屋さんは最初どこにいましたか? Table 3 心の理論課題の内容と質問項目 各 課 題 の 内 容 と 質 問 課題1.ボールの問題 ○なつきは自分のボールを箱にしまい遊びに行った。部屋に入ってきたゆうたは箱の中のボールを見つ け、それをバッグに入れ替えた。 ① ボールは今どこにありますか? ② ボールは最初どこにありましたか? ③ また、ボールで遊ぼうと思ったなつきちゃんは、箱とバッグどちらをさがすでしょうか。 課題2.トランプの問題 ○なつきがトランプの箱を持っている。 ① この箱の中には何が入っていますか? →箱を開けて中のビー玉を見せる。 ② 今、この箱の中には何が入っていますか? ③ ゆうた君はこの箱の中を見ていません。この箱を見せて何が入っているか聞いたら何というで しょうか? ④ あなたは初めてこの箱を見た時、中に何が入っていると答えましたか? 課題3.ハムスターの問題 ○なつきは誕生日のプレゼントにハムスターをもらえると期待していた。しかし、プレゼントはクマの ぬいぐるみだった。なつきは「ありがとう、欲しかったの、クマのぬいぐるみ。」とお母さんに答えた。 ① なつきちゃんはクマのぬいぐるみが欲しかったのでしょうか? ② なつきちゃんは本当のことを言っていますか? ③ なつきちゃんはどうして本当のことを言わなかったのですか? 課題4.おもちゃばこの問題 ○箱の中におもちゃが入っている。サンタはおもちゃを見つけるともうひとつおもちゃをくれるが、泥 棒はおもちゃを見つけると持って行ってしまう。サンタにはおもちゃが見つかるよう助け、泥棒には 見つからないよう邪魔をする。そしておもちゃを増やす。 ① サンタが来たら、あなたは箱を開けておきますか?それとも鍵をかけておきますか? ② 泥棒が来たら、あなたは箱を開けておきますか?それとも鍵をかけておきますか? 鍵が無くなり箱に鍵がかけることができなくなりました。 ③ サンタが来て「箱に鍵はかかっている?それともかかっていない?」と聞いたらあなたは何と答 えますか。 ④ 泥棒が来て「箱に鍵はかかっている?それともかかっていない?」と聞いたらあなたは何と答え ますか? 課題5.やきいもの問題 ○なつきとゆうたが公園でやきいも屋さんに会う。やきいも屋さんが午後も公園にいると言ったため、 ゆうたは家にお金を取りに行く。その間にやきいも屋さんは駅前に移動することをなつきに言って、 移動してしまう。やきいも屋さんは駅へ行く途中でゆうたに会い、駅前に行くことを告げる。 ① やきいも屋さんが、なつきちゃんと話したことをゆうた君は知っていましたか? ② やきいも屋さんが、ゆうた君と話したことをなつきちゃんは知っていましたか? ③ なつきちゃんは、ゆうた君がやきいもを買いにどこへ行ったと思いますか? ④ なつきちゃんは、なぜそう思ったのでしょうか? ⑤ ゆうた君は、本当はやきいもを買いに、どこに行きましたか? ⑥ やきいも屋さんは最初どこにいましたか? Table 3 心の理論課題の内容と質問項目 各 課 題 の 内 容 と 質 問 課題1.ボールの問題 ○なつきは自分のボールを箱にしまい遊びに行った。部屋に入ってきたゆうたは箱の中のボールを見つ け、それをバッグに入れ替えた。 ① ボールは今どこにありますか? ② ボールは最初どこにありましたか? ③ また、ボールで遊ぼうと思ったなつきちゃんは、箱とバッグどちらをさがすでしょうか。 課題2.トランプの問題 ○なつきがトランプの箱を持っている。 ① この箱の中には何が入っていますか? →箱を開けて中のビー玉を見せる。 ② 今、この箱の中には何が入っていますか? ③ ゆうた君はこの箱の中を見ていません。この箱を見せて何が入っているか聞いたら何というで しょうか? ④ あなたは初めてこの箱を見た時、中に何が入っていると答えましたか? 課題3.ハムスターの問題 ○なつきは誕生日のプレゼントにハムスターをもらえると期待していた。しかし、プレゼントはクマの ぬいぐるみだった。なつきは「ありがとう、欲しかったの、クマのぬいぐるみ。」とお母さんに答えた。 ① なつきちゃんはクマのぬいぐるみが欲しかったのでしょうか? ② なつきちゃんは本当のことを言っていますか? ③ なつきちゃんはどうして本当のことを言わなかったのですか? 課題4.おもちゃばこの問題 ○箱の中におもちゃが入っている。サンタはおもちゃを見つけるともうひとつおもちゃをくれるが、泥 棒はおもちゃを見つけると持って行ってしまう。サンタにはおもちゃが見つかるよう助け、泥棒には 見つからないよう邪魔をする。そしておもちゃを増やす。 ① サンタが来たら、あなたは箱を開けておきますか?それとも鍵をかけておきますか? ② 泥棒が来たら、あなたは箱を開けておきますか?それとも鍵をかけておきますか? 鍵が無くなり箱に鍵がかけることができなくなりました。 ③ サンタが来て「箱に鍵はかかっている?それともかかっていない?」と聞いたらあなたは何と答 えますか。 ④ 泥棒が来て「箱に鍵はかかっている?それともかかっていない?」と聞いたらあなたは何と答え ますか? 課題5.やきいもの問題 ○なつきとゆうたが公園でやきいも屋さんに会う。やきいも屋さんが午後も公園にいると言ったため、 ゆうたは家にお金を取りに行く。その間にやきいも屋さんは駅前に移動することをなつきに言って、 移動してしまう。やきいも屋さんは駅へ行く途中でゆうたに会い、駅前に行くことを告げる。 ① やきいも屋さんが、なつきちゃんと話したことをゆうた君は知っていましたか? ② やきいも屋さんが、ゆうた君と話したことをなつきちゃんは知っていましたか? ③ なつきちゃんは、ゆうた君がやきいもを買いにどこへ行ったと思いますか? ④ なつきちゃんは、なぜそう思ったのでしょうか? ⑤ ゆうた君は、本当はやきいもを買いに、どこに行きましたか? ⑥ やきいも屋さんは最初どこにいましたか? 対象児の回答にみられた対人交渉方略につ いても、二川・高山(2013)と同様に発達障害 者を対象とした小島(2005)の先行研究を基 に①自己重視型方略:自分の考えを自己主張 する(例:「ブロック遊びがしたい」と言う) ②他者重視型方略:相手の考えを受け入れる (例:何も言わずに相手の意見に従う)③じゃ んけん:じゃんけんを提案する(例:「じゃん けんで決めよう」と言う)④相互・互恵的方 略:相手の意見を踏まえながらも、自分の意

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Table 4 A児の対人交渉方略の例話に対する回答 質問 例話Ⅰ 例話Ⅱ 1 どっちにしようか迷っているところ 分かりません。雨に濡れるのは困る。 2 ジャンケン。相談する。譲り合う。交替で遊ぶ。 一人で行く。友達がそう言ってたから。(ジャンケンは)負けた人がかわいそう。譲り合う。 一番良い方法だとは思わないが、他の方法が分からない。 4 「良かった」っていう気持ち。相手は譲られたら嬉しい。 自分は服が濡れてちょっと嫌な気持ち。相手は服が濡れなくて嬉しい気持ち。 Table 4 A児の対人交渉方略の例話に対する回答 質問 例話Ⅰ 例話Ⅱ 1 どっちにしようか迷っているところ 分かりません。雨に濡れるのは困る。 2 ジャンケン。相談する。譲り合う。交替で遊ぶ。 一人で行く。友達がそう言ってたから。(ジャンケンは)負けた人がかわいそう。譲り合う。 一番良い方法だとは思わないが、他の方法が分からない。 4 「良かった」っていう気持ち。相手は譲られたら嬉しい。 自分は服が濡れてちょっと嫌な気持ち。相手は服が濡れなくて嬉しい気持ち。 Table 4 A児の対人交渉方略の例話に対する回答 質問 例話Ⅰ 例話Ⅱ 1 どっちにしようか迷っているところ 分かりません。雨に濡れるのは困る。 2 ジャンケン。相談する。譲り合う。交替で遊ぶ。 一人で行く。友達がそう言ってたから。(ジャンケンは)負けた人がかわいそう。譲り合う。 一番良い方法だとは思わないが、他の方法が分からない。 4 「良かった」っていう気持ち。相手は譲られたら嬉しい。 自分は服が濡れてちょっと嫌な気持ち。相手は服が濡れなくて嬉しい気持ち。 Table 4 A児の対人交渉方略の例話に対する回答 質問 例話Ⅰ 例話Ⅱ 1 どっちにしようか迷っているところ 分かりません。雨に濡れるのは困る。 2 ジャンケン。相談する。譲り合う。交替で遊ぶ。 一人で行く。友達がそう言ってたから。(ジャンケンは)負けた人がかわいそう。譲り合う。 一番良い方法だとは思わないが、他の方法が分からない。 4 「良かった」っていう気持ち。相手は譲られたら嬉しい。 自分は服が濡れてちょっと嫌な気持ち。相手は服が濡れなくて嬉しい気持ち。 見を主張し、話し合いによって解決しようと する(例:やりたい遊びを交代で行うことを 提案する)の4つに分類した。 ⑵ 心の理論課題の実施 A児に対し「アニメーション版心の理論課 題ver. 2」(小池,2005)を実施した。課題は パソコンの音声を聞いて A 児が回答すると いう形で個別に行った。心の理論課題の課題 5 つの内容と全 20 の質問項目は Table 3 に示 す通りである。 ⑶ 行動観察 休み時間等の教室にビデオを置き、特定の 児童に限らず、児童全体の様子を録画した。 ビデオ撮影は平成 23 年 4 月〜9 月末に不定期 に行った。このうち A 児が撮影されたのは 17 日間で撮影時間は計 114 分であった。この うち A 児と友達・教師との葛藤場面におい て、A児にどのような対人交渉方略が見られ たかを上記4つの対人交渉方略(小島,2005) に分類し、A児からの交渉なのか、または他 者から A 児への交渉なのか(交渉の方向)・ 交渉の相手・対人交渉方略の種類・交渉の内 容、さらに交渉がどのように続いてどのよう に終結したかという交渉の過程や結果につい ても検討を行った。対人交渉方略の分類や検 討に関しては、筆者 2 名において協議して 行った。また、A児が心の理論を理解してい ると思われる場面・理解していないと思われ る場面についても観察を行った。 対象児の対人交渉方略に関する例話の回 答、心の理論課題の結果および行動観察によ る結果を合わせて検討する。 Ⅲ.結果 ⑴ 対人交渉方略について A 児の回答は Table 4 に示す通りである。 質問1の「問題の定義」については、例話Ⅰで は葛藤の原因となっている問題を適切に述べ ることができたが、例話Ⅱでは「(困っている ことが)わからない。雨に濡れるのは困る。」 という回答であり、友達が当番としての責任 を果たそうとせず自分に押し付けるという問 題点を指摘することはできなかった。質問 2 の「方法の選出」では、例話Ⅰでじゃんけん

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Table 5 実際の葛藤場面におけるA児の対人交渉方略の相手と方略の数 相手 A児から他者への交渉 他者からA児への交渉 自己重視型 方略 他者重視型方略 じゃんけん 相互・互恵的方略 自己重視型方略 他者重視型方略 じゃんけん 相互・互恵的方略 B児 C児 D児 1 E児 F児 G児 3 26(2) 8(2) H児 I 児 2 教師 1 合計 3 30(2) 8(2) ( )内は方略数のうち行動のみで示された方略の数 Table 5 実際の葛藤場面におけるA児の対人交渉方略の相手と方略の数 相手 A児から他者への交渉 他者からA児への交渉 自己重視型 方略 他者重視型方略 じゃんけん 相互・互恵的方略 自己重視型方略 他者重視型方略 じゃんけん 相互・互恵的方略 B児 C児 D児 1 E児 F児 G児 3 26(2) 8(2) H児 I 児 2 教師 1 合計 3 30(2) 8(2) ( )内は方略数のうち行動のみで示された方略の数 Table 5 実際の葛藤場面におけるA児の対人交渉方略の相手と方略の数 相手 A児から他者への交渉 他者からA児への交渉 自己重視型 方略 他者重視型方略 じゃんけん 相互・互恵的方略 自己重視型方略 他者重視型方略 じゃんけん 相互・互恵的方略 B児 C児 D児 1 E児 F児 G児 3 26(2) 8(2) H児 I 児 2 教師 1 合計 3 30(2) 8(2) ( )内は方略数のうち行動のみで示された方略の数 や相互・互恵的な方略(相談する・譲り合う・ 交替で遊ぶ)、例話Ⅱでは他者重視型方略(友 達がそう言うので一人で行く)だけが回答さ れた。質問3「方法の選択と実行」は、例話Ⅰ ではじゃんけんで負けた人のことを考え、譲 り合うという方略が選択され、例話Ⅱでは、 一番いい方法ではないと思いつつ「一人で行 く」という方略しか思いつかないという回答 であった。質問 4「結果の評価」では、例話 Ⅰ・Ⅱとも自分と相手の気持ちを想像して回 答した。 ⑵ 心の理論課題について A児はパソコンの画面に興味を示し、回答 していった。「ボールの問題」と「おもちゃ箱 の問題」には全問正答したが、「トランプの問 題」は問③で「ビー玉」と答えたため誤答、 「ハムスターの問題」は問①で「クマのぬいぐ るみは欲しくなかった」と正答したものの、 次の問②で「(主人公が)本当のことを言って いる」として誤答となった。「やきいもの問 題」は問③で「駅前」、問④で「やきいも屋さ んがゆうた君に駅前に行くと話しているか ら」と答えたため、二つの質問で誤答となっ た。全 5 問中 2 問が通過、3 問が不通過であ り、これらの結果から、A児は他者の信念や 本心と発言内容の食い違いについて理解でき ていないこと、さらに「人物 A が事象 X を (誤って)信じているということを人物 B が (誤って)信じている」という他者の信念につ いての信念(二次の信念)の理解に困難があ ることが推測された。 ⑶ 行動観察について 行動観察において、A児と他者との葛藤場 面は計 16 場面であった。これらの場面のや りとりを文章で記録し、交渉の経過を意識し て、一発話ごとに方略を分析し検討を行った。 葛藤場面に見られた A 児の対人交渉方略と 交渉の相手、交渉の方向(A児からの交渉か、

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他者からA児への交渉か)をTable 5に示す。 A 児から他者への交渉は 3 回で、全て自己重 視型方略を使って G 児に向けたものであり、 G 児に自由帳を破られたことへの抗議や遊び の中での主張という内容であった。他者から A児への交渉は38回で、自己重視型方略が約 8 割と最も多く、残りは他者重視型方略であ り、じゃんけんや相互・互恵的方略は見られ なかった。A児に対して交渉を行った相手は ほとんどが G 児であり、遊びの中で G 児から の要求に対して自分の意見を主張したり要求 を拒否したりといった自己重視型方略が 26 回、「じゃあ、それでいいよ。」等 G 児の要求 に従う他者重視型方略が 8 回見られた。ま た、G 児からの交渉においては、「(やりたく ない遊びの場からA児が)黙って離れる」(自 己重視型方略)や「(気が進まないが)相手の 言う通りに黙って座る」・「(嫌だと言ってい たが)相手の言う通りにさせておく」(他者重 視型方略)というように行動のみで示された 交渉方略が 4 回見られた。その他、他者から A児への交渉については、急に抱き付いてき た I 児や A 児の椅子に勝手に座った D 児のよ うに不適切な係わりをしてきた相手に対して 強く怒ったり、教師からの指示に不満を言っ たりするという自己重視型方略がとられてい た。 行動観察により、A 児はクラスの中で G 児 と関わることが多く、会話が長く続いて遊び が展開していく反面、遊びの途中で 2 人の間 に葛藤が起こることがわかった。他の児童と 関わっている場面の回数は少なく葛藤場面も ほとんど見られない。G 児との交渉の過程を 見ると、G「A君、目をつむってて。」→Aは 黙ってその場を離れる→ G「もう、二度と遊 ばない。」→A「いいよー。」というようにお 互いに自分の意見を通そうとするが、こうし た交渉が続きG児が「フン!もう二度と遊ば ない。」と怒り始めてくると、「わかったよ、 もう。」と A 児が G 児の要求を呑むという場 面が数回見られた。葛藤場面の交渉の過程に おいて、A 児と G 児はお互いに自己重視型方 略を使用する回数が多いが、最後にはA児が 相手の意見に従うという他者重視型方略をと るという交渉の特徴がうかがえた。 行動観察の中で、A児が心の理論を理解で きていないと推測される場面は次のような場 面である。 ・ A 児と G 児が遊びの中で会話が盛り上がり 大声でふざけあう。授業開始の時間や周り の友達が学習に入ろうとしていることに気 づかず、教師2名から注意される。 ・ A 児が F 児を誘い、筆箱を何かに見立てて 遊んでいる場面で、A「でこぼこにされて しまった。縦にかければいいんだよ。ボー ン。はいチーズだって、ドーン。はいチー ズ、ドーン。はい、チーズ。ドーン。じゃ あ、写真を撮るよ。はい、チーズ。ドーン。」 と一人で盛り上がり、F 児はほとんど会話 をしていない。F 児をおいて、一人だけ遊 びに没頭している。 反対に A 児が心の理論を理解しているの ではないかと思われる場面を次に示す。 ・G児との遊びの中で、G「お口あーん、して

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ください。」→A「やだねー。」→G「注射し ないから。」→A「どうせするだろう?」→ G「しないよー。しないから。」→A「すー る。」というように G 児が「注射(のまね) はしない。」と言っているが、A児は「しな いと言っているけれど、口を開ければG君 は注射のまねをする」と考えている。 ・自由帳を破ってしまったことに対して、「お 母さんに、弁償されちゃうんだ。」と言い、 お母さんが「弁償しなさい」と怒ることを 予想している。 ・E 児がランドセルを背負ったのを見て、教 師「かわいいけどねえー、なんか。」(ラン ドセルについているストラップを見る)→ A「付け過ぎだよ。付け過ぎ。」→教師「そ うでなくても落ちそう。」→A「僕、ストラッ プつけてないよ。」→教師「その方が良い よ。」→ A「ひっかかっちゃうから。」→教 師「そうそう、ひっかかっちゃうよねー。」 という会話が続いた。この場面で A 児は 教師が注目している物と発言の意図を理解 し、「かわいいけどねえー」に続く言葉を予 想して、会話を続けている。 ・I児からの「A君」という呼びかけやH児の 「A 君はおなかが痛くなっちゃいました。」 等の声かけに、A児が何も答えない場面が 見られた。I 児は行動観察の中で 5 回「A 君。」と話しかけてくる場面が見られたが、 A 児はその全てに無反応であった。I 児が ふざけたくて声をかけてくることや、H 児 はおそらく意地悪なことを言って気を引こ うとしているのだろうということを理解し ていたのかは分からないが、A児が無反応 であったことによって、その後のトラブル には発展しなかった。 Ⅳ.考察 対人交渉方略の例話Ⅰと例話Ⅱの回答か ら、A児は社会的問題を定義できる場面にお いては複数の方略の中から、自分と相手、両 者にとって良い方法を選択することができ、 相手の心情についても答えることができてい る。しかし例話Ⅱでは「仲間からの侵害」を 定義することができなかったため、社会的な 問題を適切に定義する力には不十分な面が見 られ、問題を定義できない場合には相手の言 うことに従う「他者重視型方略」を選択して いる。例話Ⅱの状況と長峰・加藤・辻井(2011) の研究で使用された「ある人物がトイレに行 く前にパソコンを使っていたことをもう一人 の人物は知らない」ということを前提とした 葛藤場面の状況とは異なっているが、どちら も高機能自閉症児・者が理解しにくい状況で あった。長峰ら(2011)の研究において、こ の場面で健常の小学 4 年生から 6 年生の 75 パーセントが互恵的な方略を選択しているこ とから、A児の採った方略は健常児よりも低 いレベルの方略だと考えられる。本研究の結 果は、「高機能自閉症児は状況が理解しやす い場面では健常児と同様の互恵的な方略が採 れるが、状況が理解しにくい場面では健常児 より未発達な方略を採る」という点で長峰ら (2011)の先行研究の結果を支持していると いえる。

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心の理論課題で A 児は「ハムスターの問 題」の問①に対して「なつきちゃんはクマの ぬいぐるみは欲しくなかった」と正答しなが ら、問②では「本心を言っている」として誤 答になってしまった。クマのぬいぐるみは欲 しくなかったと理解できていることから、問 ②の質問を十分理解せず「欲しくなかった」 というのが本心だと答えてしまったことも予 想される。しかし、その他の結果を合わせて 考えると、A児は幼稚園から低学年程度で獲 得されると考えられる心の理論を獲得できて いないと推測される。 対人交渉方略に関する質問の回答と心の理 論課題の結果から、A児は他者の信念や発言 とは異なる相手の心情を理解することは難し いが、対人交渉方略の例話Ⅰでは自分と相手 の視点を調整し、譲り合うという互恵的な方 略を選択することができている。このことか ら、自他の視点を調整する能力は心の理論が 完全に獲得されてから発達するのではなく、 心の理論が未発達であっても、いくつかの方 略を考え自他の視点を調整した最も適切な方 略を選択することができる場面があることが 示唆された。しかし、高機能自閉症児の心の 理論の発達と対人交渉方略の発達がどのよう に関連するのかという点については、本事例 のみからでは十分明らかにはなっていない。 複数の事例による検討や A 児の今後の発達 により、両者がどのように変化していくかと いう検討が必要である。長峰ら(2011)は状 況を理解しやすい葛藤場面としにくい葛藤場 面の違いについて、登場人物の視点や心的状 態の推測のしやすさ「メタ表象」の認知のし やすさの違いを挙げているが、本研究におい ては、似たような葛藤場面の経験の有無や「当 番としての責任」の理解等、それ以外にも場 面に違いがでる要因が考えられるため、場面 の違いに関しては今後の検討課題といえる。 A 児は年齢相応の心の理論が未獲得であ り、対人交渉方略の問題の定義に困難な面が 認められるが、日常生活ではG児以外の児童 との葛藤場面はほとんどなく、クラスの中で は比較的穏やかな児童である。行動観察では 「遊び場面での意見の衝突」という葛藤場面 の例話Ⅰと同様の葛藤場面が確認された。例 話Ⅰでは「譲り合う」という相互・互恵的な 方略を選択していたA児だが、実際にはG児 との「バトル遊び」の最中に自由帳が描きた くなり、G 児が「ちょっと、まだバトルの最 中だろ。」と言っても聞き入れず「見てー。見 てー。」と自由帳を出してきて自分のやりた い遊びを進めるという自己重視型方略を採っ ている。遊びの中での意見の衝突は、この場 面以外にも数回見られたが、譲り合うという 方略は一度も見られなかった。結果に示した ように、実際の遊び場面でA児は周囲の様子 が分からないほど遊びの世界に集中してしま う様子が観察されたことから、問題が理解し やすい場面であっても、A児が実際の行動で 低いレベルの方略を使用してしまうのは、実 際の葛藤場面では情報処理ステップの順を 追って考える時間的・精神的なゆとりがない ことが原因ではないかと考えられる。A児の 交渉方略は自己中心的方略の数が非常に多い

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が、交渉の経過と終結を見ると自己重視型方 略が続いた後、最後に「相手の要求に従う」 という他者重視型方略を採ってしまうという 特徴が明らかになった。対人交渉を検討する 場合には、方略の数だけでなく、交渉の経過 と終結という点からも検討することでより正 確に交渉の実態を把握することができると思 われる。こうした対人交渉の特徴から、A児 に対しては葛藤場面の状況を正しく理解し適 切な方略を教師と考え、同様の葛藤場面で適 切な方略の使用が可能になるような支援や相 手の心情を考慮しながら自分の要求を上手く 伝え調整できる方略を身につけるような支援 が必要であろう。 A児の対人交渉の特徴には、「無反応」と「行 動のみの方略」が見られた。F 児や I 児から の声かけ前後に A 児が別の児童とは会話を していることから、聞こえなかったのではな く A 児が意図的に答えなかったと考えられ るが、どのような意図であったかは不明であ るため、今回の分析では無反応は方略に分類 していない。しかし、無反応や行動も対人交 渉においては、一つの方略とみなすことがで きるため、より詳しく方略を分類する方法に ついても検討していきたいと考える。A児は 心の理論課題の通過率が低かったが、行動観 察では、母親や教師の心情を推測したり、G 児が自分をだまそうとしていることを指摘し たりと他者の心的状況を理解できていると思 わ れ る 場 面 が い く つ か 観 察 さ れ た。 Chandler, Fritz, & Hala(1989)は、あざむき 行動は誤った信念よりも早く発達すると指摘 しており、A児についても心の理論課題で「お もちゃ箱の問題」に通過していること・行動 面でも G 児の行動を疑っていることから、 Chandlerら(1989)の主張通りであると言え る。別府・野村(2005)は「からかい」や「だ まし」という行動が、健常児では日常生活で 2 歳後半という早い段階から可能になること について、心の理論が情動や感情と深く関 わった問題であるとし、からかわれた・だま された過去の感情経験による身体感覚の記憶 がそれと類似した場面で、だましやからかい を回避する行動を可能にすると考察してい る。この考察によれば、「怒られる」という経 験も情動や感情と深く関わる問題であり、そ の感情経験から A 児は過去に母親に怒られ ることや友達が怒られそうなことを推測でき たのではないかと考えることができる。しか し、般化することが難しい高機能自閉症児に 関しても健常児と同様に、類似の場面で感情 経験による身体感覚の記憶の想起が可能なの だろうか。例話の葛藤場面の状況理解のしや すさ・しにくさと合わせて、行動面において も相手の心的状況の理解がしやすい場面とし にくい場面の違いを行動観察から検討するこ とが、有効な支援につながると思われる。 Ⅴ.今後の課題 本研究は発達障害児の心の理論課題の結果 と対人交渉方略に関する質問の回答、日常生 活における対人交渉方略を合わせて分析し、 対象児 A の対人交渉について明らかにした。 特に、実際の交渉の過程を方略の種類・数・

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方向だけでなく、交渉の過程と終結という視 点から分析したことで A 児の対人交渉の特 徴と課題をより明らかにすることができたの ではないかと思われる。 本研究の今後の課題としては、第一に交渉 方略の分類を検討することである。行動観察 では、「無反応」や「行動のみによる方略」が いくつか見られた。行動に関しては、その意 味を解釈し、小島(2005)の先行研究の4つの 分類(自己重視型方略、他者重視型方略、じゃ んけん、相互・互恵的方略)に当てはめるこ とにした。無反応に関しては分類できなかっ たため方略数には入れていない。Yeates & Selman(1989)の対人交渉方略は葛藤場面の 例話を扱っているため、日常生活における対 人交渉の全てを捉えにくい面もある。「無反 応」や「会話だけを聞くと自己重視型方略だ が、行動では相手に従っている(他者重視型 方略)」等日常生活における対人交渉をとら えられるよう分類方法や交渉の過程が分かり やすい記述の方法を工夫したい。二点目は、 心の理論の発達による対人交渉の変化を明ら かにすることである。本研究で対象となった A児は心の理論が未発達であり、葛藤場面の 社会的問題の定義に困難が見られるが、日常 生活では他者の心的情報を理解して行動して いると思われる場面もいくつか見られる子ど もであった。今後 A 児が年齢上昇とともに 心の理論を獲得していく中で、自他の視点の 調整ができ、行動としてどのような変化が見 られるのかを縦断的にとらえる研究が必要で ある。三点目は、発達障害児が葛藤場面にお ける状況が理解しやすい場面としにくい場 面、また、日常生活において他者の心的状況 を理解できる場面としにくい場面、つまり「言 語的理由づけによる心の理論」で補償できる 場面と補償しにくい場面の違いについて、複 数の事例研究を通して明らかにすることであ る。心の理論が未発達な子どもへの支援に は、ソーシャルスキルトレーニングにより誤 信念課題を解くためのスキルを指導した研究 (Ozonoff, & Miller, 1995)やコンピューター 教材を使って指導した研究(Swettenham, 1996)等があるが、指導されたスキルをその 他の領域で活用することが難しく大きな効果 は見られていない。これは、日常生活におい て誤信念課題を通過できるような「言語的理 由づけによる心の理論」では補償できない場 面が残るためだと考えられる。しかし、今後 の研究により「言語的理由づけによる心の理 論」で補償可能な場面と不可能な場面の違い を明らかにすることで、彼らの対人交渉を とって有効な支援の糸口がつかめるのではな いかと考える。 文献

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Table 1 対象児とクラスの児童の実態 対象児とクラスの児童 全検査 言語理解 知覚推理 ワーキングメモリ 処理速度 A (5年男子・高機能自閉症) 82 VIQ : 86 PIQ : 80 B (1年男子・自閉症) 64 58 87 65 70 C (2年男子・自閉症) 76 69 70 88 94 D (2年女子・知的障害) 49 60 65 50 58 E (2年女子・自閉症) 47 62 51 54 55 F (3年男子・自閉症) 69 62 76 88 76 G (4年男子・高機能自閉症) 1
Table 3 心の理論課題の内容と質問項目 各 課 題 の 内 容 と 質 問 課題1.ボールの問題 ○なつきは自分のボールを箱にしまい遊びに行った。部屋に入ってきたゆうたは箱の中のボールを見つ け、それをバッグに入れ替えた。 ① ボールは今どこにありますか? ② ボールは最初どこにありましたか? ③ また、ボールで遊ぼうと思ったなつきちゃんは、箱とバッグどちらをさがすでしょうか。 課題2.トランプの問題 ○なつきがトランプの箱を持っている。 ① この箱の中には何が入っていますか? →箱を開けて中のビー玉
Table 4 A児の対人交渉方略の例話に対する回答 質問 例話Ⅰ 例話Ⅱ 1 どっちにしようか迷っているところ 分かりません。 雨に濡れるのは困る。 2 ジャンケン。相談する。譲り合う。 交替で遊ぶ。 一人で行く。 友達がそう言ってたから。 3 (ジャンケンは)負けた人がかわいそう。譲り合う。 一番良い方法だとは思わないが、他の方法が分からない。 4 「良かった」っていう気持ち。 相手は譲られたら嬉しい。 自分は服が濡れてちょっと嫌な気持ち。相手は服が濡れなくて嬉しい気持ち。Table 4 A児の対人交渉
Table 5 実際の葛藤場面におけるA児の対人交渉方略の相手と方略の数 相手 A児から他者への交渉 他者からA児への交渉 自己重視型 方略 他者重視型方略 じゃんけん 相互・互恵的方略 自己重視型方略 他者重視型方略 じゃんけん 相互・互恵的方略 B児 C児 D児 1 E児 F児 G児 3 26(2) 8(2) H児 I 児 2 教師 1 合計 3 30(2) 8(2) ( )内は方略数のうち行動のみで示された方略の数Table 5 実際の葛藤場面におけるA児の対人交渉方略の相手と方略の数相手A児から他者

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