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中国における日系コンビニエンスストアの出店戦略

章 胤杰(東北大学・院)

1.はじめに

 中国経済と中国小売業の成長が減速している 中,コンビニエンスストア(以下,CVS)は近年 において成長業態として注目されている。中国に おけるCVSの販売額は小売市場全体の約2%し か占めていない1)ために成長する余地が大きく, 政策面でも支持されている。その中で,日系CVS 各社の事業展開の歴史は長く,進出地域と都市も 増えつつある。しかし,店舗数ベースではいずれ のチェーンも規模が大きいとは言えず,ドミナン ト出店を達成できずにいる。その原因を究明する 必要がある。  本稿の課題は,日系CVSが中国においてどの ように事業展開を行っているのかを明らかにした 上で,なぜ事業拡大がうまく進まないかを分析す ることである。以下,2節では先行研究を検討す る。3節では中国のCVS業界における日系の位 置づけを確認する。4節ではマスターフランチャ イズ(以下,マスターFC)の次元から日系4社の 事業展開を整理し,5節ではサブフランチャイズ (以下,サブFC)の次元から主要3社のFCシス テム導入による店舗開発の実態を明らかにする。 その上で,6節では本稿の課題についてディス カッションを行う。7節はまとめである。

2.先行研究の検討と分析視角の

設定

 本稿のテーマは広くみれば「小売国際化」であ る。しかし,これでは理論的にも実証的にも検討 すべき範囲が広すぎるため,ここでは二つの限定 を加える。  一つは理論的限定である。先進国企業が自ら Abstract

 This study analyzed the store opening strategy of Japanese convenience store chains in China, including 7-Eleven, FamilyMart, Lawson, and Ministop, from the perspective of the franchise system. In a master franchise agreement, there is a trade-off between strong control of master franchisees and rapid store opening. As a result, it is important to utilize local business partners’ resources. On the other hand, in sub-franchise agreements, relatively high franchising thresholds and low profitability have negative effects on business expansion. However, in the case of Japanese convenience store chains’ business development in China, apart from the need to avert a trade-off, innovation in achieving both rapid store opening and a high operational level is also desired.

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の優位性を海外で活用する方法には,輸出,ラ イセンシング,直接投資があるが,中でもオペ レーションの優位を海外で実現する際にはライ センシングと直接投資である。Hymer[1976], Dunning[1979]などの多国籍企業論は,主とし てそれが直接投資によって実現する際の条件を論 じ て き た。 一 方,Hackett[1976],Dunning & McQueen[1981], 川 端[2008][2010] な ど の 研究が明らかにしてきたように,外食業,小売業 やサービス業においては,「投資」や「貿易」で はなく,フランチャイズ(FC)方式すなわち「契 約」による海外進出もしばしば観察され,内部化 優位がない場合は直接投資よりもFC方式を選択 し,現地ビジネスパートナーのノウハウを活用し たほうがよいことであった。そのため,本稿では これらを巡る議論を重視しなければならない。も う一つは対象の限定である。小売業の中でも,業 態によって国際化の行動パターンが大きく異な り,時期や地域によって事業展開にも差異が見ら れる(矢作[2007])。そのため,ここでは研究対 象を中国におけるCVSに絞り,それに関する先行 研究を中心に検討する。 (1)日系CVSの優位性に関する研究  中国の小売研究者は,2000年代頃から近代的な 小売業態であるCVSに注目しており,その中には 日系CVSに注目した研究も多数ある。付[2004] は日本国内におけるセブン−イレブンの成功要因 が,店舗開発と商品開発の強化,および情報管理 システムと物流システムにおけるイノベーション にあると主張し,そこから中国のCVSが学べるこ とを明らかにした。それに対し,付・胡[2011], 孫[2011a],李[2014]などの研究は,日系CVS が中国市場において,①便利なサービスの提供, ②商品差別化,③鮮度管理,④店舗立地選択,⑤ 情報システムの構築,⑥統一配送と物流戦略,な どを重視していることを判明した。  日本における研究では,日系CVSの国際展開の 経緯が整理されており(川辺[2006][2012],矢 作・鍾[2009]),本国で培われてきたオペレー ション上の優位性を,いかに海外市場に移転する かを巡る議論が多い(矢作[2007],金[2008], 鈴木・陳[2009],Sato[2009],鍾[2015])。優 位性の移転について,矢作[2007]は小売事業モ デルの国際移転を重視しており,複数の事例を通 して,現地化の度合いによって「完全なる標準 化」,「標準化のなかの部分適応」,「創造的な連続 適応」,「新規業態開発」という4つのパターンを 提示している。それに対し,金[2008]はノウハ ウの移転を重視し,比較的に移転されやすいノウ ハウと,現地小売環境における制約のために修正 されることが多いノウハウを選り分けている。一 方,鈴木・陳[2009]は矢作[2007]の分析枠組 みを用いて,物流システムと小売業務システムの 二つの側面から,中国におけるローソンの競争優 位性の移転と現地適応化プロセスを解明した。ま た,Sato[2009]はファミリーマートが合弁に よって優位性を中国市場に移転したことを明らか にした。具体的には,日本ファミリーマートが運 営システムやノウハウを提供し,伊藤忠商事と頂 新グループが商品開発,製造と物流を担い,そし て台湾ファミリーマートが文化的資源(言語), 制度的資源(税制度,商習慣),経験と人材,台 湾企業間ネットワークなどを提供する形であっ た。  これらの研究を通して,日系CVSが中国におい て,地場系に対して優位性をもっていることは明 らかである。しかし,それにも関わらず,なぜ事 業規模がうまく拡大しないかを巡る議論が不足し ている。そこで興味深いのは,フランチャイズシ ステムに関連付けた議論である。 (2)FCに関連付けた議論  川端[2008][2010]によれば,企業がフラン チャイズ方式で海外に進出する「国際フランチャ イジング」には,本部機能を本国に残したまま隣 国でFC店を募集する「ダイレクトFC」,現地本 部を開設してそれに本部機能を代行させる「マ スターFC」(都市や地域ごとに別々の現地企業に フランチャイズ事業権を与える場合は「エリア FC」),そして現地企業が加盟店を募集してフラ ンチャイズ契約による店舗展開を行う「サブFC」

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の優位性を海外で活用する方法には,輸出,ラ イセンシング,直接投資があるが,中でもオペ レーションの優位を海外で実現する際にはライ センシングと直接投資である。Hymer[1976], Dunning[1979]などの多国籍企業論は,主とし てそれが直接投資によって実現する際の条件を論 じ て き た。 一 方,Hackett[1976],Dunning & McQueen[1981], 川 端[2008][2010] な ど の 研究が明らかにしてきたように,外食業,小売業 やサービス業においては,「投資」や「貿易」で はなく,フランチャイズ(FC)方式すなわち「契 約」による海外進出もしばしば観察され,内部化 優位がない場合は直接投資よりもFC方式を選択 し,現地ビジネスパートナーのノウハウを活用し たほうがよいことであった。そのため,本稿では これらを巡る議論を重視しなければならない。も う一つは対象の限定である。小売業の中でも,業 態によって国際化の行動パターンが大きく異な り,時期や地域によって事業展開にも差異が見ら れる(矢作[2007])。そのため,ここでは研究対 象を中国におけるCVSに絞り,それに関する先行 研究を中心に検討する。 (1)日系CVSの優位性に関する研究  中国の小売研究者は,2000年代頃から近代的な 小売業態であるCVSに注目しており,その中には 日系CVSに注目した研究も多数ある。付[2004] は日本国内におけるセブン−イレブンの成功要因 が,店舗開発と商品開発の強化,および情報管理 システムと物流システムにおけるイノベーション にあると主張し,そこから中国のCVSが学べるこ とを明らかにした。それに対し,付・胡[2011], 孫[2011a],李[2014]などの研究は,日系CVS が中国市場において,①便利なサービスの提供, ②商品差別化,③鮮度管理,④店舗立地選択,⑤ 情報システムの構築,⑥統一配送と物流戦略,な どを重視していることを判明した。  日本における研究では,日系CVSの国際展開の 経緯が整理されており(川辺[2006][2012],矢 作・鍾[2009]),本国で培われてきたオペレー ション上の優位性を,いかに海外市場に移転する かを巡る議論が多い(矢作[2007],金[2008], 鈴木・陳[2009],Sato[2009],鍾[2015])。優 位性の移転について,矢作[2007]は小売事業モ デルの国際移転を重視しており,複数の事例を通 して,現地化の度合いによって「完全なる標準 化」,「標準化のなかの部分適応」,「創造的な連続 適応」,「新規業態開発」という4つのパターンを 提示している。それに対し,金[2008]はノウハ ウの移転を重視し,比較的に移転されやすいノウ ハウと,現地小売環境における制約のために修正 されることが多いノウハウを選り分けている。一 方,鈴木・陳[2009]は矢作[2007]の分析枠組 みを用いて,物流システムと小売業務システムの 二つの側面から,中国におけるローソンの競争優 位性の移転と現地適応化プロセスを解明した。ま た,Sato[2009]はファミリーマートが合弁に よって優位性を中国市場に移転したことを明らか にした。具体的には,日本ファミリーマートが運 営システムやノウハウを提供し,伊藤忠商事と頂 新グループが商品開発,製造と物流を担い,そし て台湾ファミリーマートが文化的資源(言語), 制度的資源(税制度,商習慣),経験と人材,台 湾企業間ネットワークなどを提供する形であっ た。  これらの研究を通して,日系CVSが中国におい て,地場系に対して優位性をもっていることは明 らかである。しかし,それにも関わらず,なぜ事 業規模がうまく拡大しないかを巡る議論が不足し ている。そこで興味深いのは,フランチャイズシ ステムに関連付けた議論である。 (2)FCに関連付けた議論  川端[2008][2010]によれば,企業がフラン チャイズ方式で海外に進出する「国際フランチャ イジング」には,本部機能を本国に残したまま隣 国でFC店を募集する「ダイレクトFC」,現地本 部を開設してそれに本部機能を代行させる「マ スターFC」(都市や地域ごとに別々の現地企業に フランチャイズ事業権を与える場合は「エリア FC」),そして現地企業が加盟店を募集してフラ ンチャイズ契約による店舗展開を行う「サブFC」 などの種類がある。その中で,「マスターFC」に おける国際間のFC契約と,「サブFC」における 現地でのサブFC契約という異なる次元の契約を 明確に区分する必要があるという。  日系CVSの国際展開は基本的に「ダイレクト FC」ではなく,「マスターFC」方式を採用する。 その中でも,日本本社が現地本部に出資しない 「ストレートFC」,一部を出資する「合弁FC」, および全額で出資する「子会社FC」の三種類が あり,出資比率が高くなるにつれて統治もしやす くなる。日系CVSの場合,日本で開発されたFC システムを進出先市場で再現することの確実性が 優先されるため,子会社FCや合弁FCを採用する ことで統治を強める傾向があるが,その結果とし てFCのメリットを活かせず,出店速度が落ちる と主張されている。谷ヶ城[2015]もまた,タイ におけるファミリーマートの事例と中国における ローソンの事例を通して,店舗の開発速度とオペ レーション水準にはトレードオフ関係があると し,海外市場における日系CVSの不振は,こうし たトレードオフ関係の発生に起因すると主張して いる。  また谷ヶ城[2015]は,FCシステムの導入と 物流・情報システムの構築がCVS発展の二つの軸 であり,物流・情報システムの構築と出店の優先 順位は進出市場の特徴によって決まると主張して いる。日本ではFCシステムの導入による分厚い 零細小売店の組織化が先行していたのに対し,台 湾では商社の協力によって,FCシステムの導入 と物流・情報システムの構築がほぼ同時に行われ ていたという。そのとおりであろうが,物流・情 報システムへの投資だけが突出することは考えに くいため,少なくとも一定の出店規模が確保され ねばならないとも見ておくべきだろう。  さらに,孫[2011b]はサブFCの部分に注目し, 中国における日系CVSのFC加盟戦略を取り上げ た。北京におけるセブン−イレブンがFC加盟によ る拡大を図っていないのに対し,ローソンとファ ミリーマートはある程度の加盟募集と店舗の共同 運営<合作経営>を行っていることが判明され た。  以上のような国際フランチャイジングの観点は 継承すべきものであると思われる。ただし,先行 研究では現地本部と現地の加盟者との間にある サブFCが十分に扱われていない傾向があるため, この点を補う必要がある。孫[2011b]が示した ように,中国における日系CVSにとって,サブ FCの部分は事業展開の具体的な仕方であり,そ れをも検討しなければならないからである。 (3)分析視角と研究方法  先行研究の検討を踏まえ,本稿では中国にお ける日系CVS各社の出店行動を取り上げる。マ スターFCの形態を重視し,エリアFCはマスター FCのあり方を補完するものとして扱う。さらに, 出店戦略を明らかにするために,本稿ではサブ FCの具体的なあり方に注目し,日系CVSがどの ようにFCシステムを導入しているのかを解明す る。  研究方法としては,新聞記事や各社のアニュア ルレポートなどの二次資料のほか,筆者が2016年 2月に実施した現地調査が用いられる。同調査で は,江蘇省無錫市と上海市における日系CVSに対 する店舗観察,および無錫ファミリーマートと上 海ローソンのFC加盟説明会(無錫は2月15日開 催,上海は2月24日開催)への参加による情報収 集を行った。

3.中国における日系CVSの

位置づけ

(1)中国におけるCVSの概況  中華人民共和国商務部[2004]によれば,CVS (中国語では便利店と呼ぶ)は,顧客の利便性需 要を満足させることを主な目的とする小売業態で ある。具体的には,①商業中心地域,交通要所や 駅,病院,学校,娯楽場所,オフィスビル,ガソ リンスタンドなどの公共活動地域に立地し,②営 業面積が100㎡前後で,③即席食品,日用雑貨を 中心とする3000SKU前後の即時消費性,小容量, 応急性のある商品を取扱い,④営業時間が16時間

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以上で,⑤即時性食品の補助的施設や様々なサー ビスを提供し,⑥セルフサービス方式を採用して レジでまとめて会計を行い,⑦主に小商圏におけ る単身者や若者をターゲット顧客とする小売業態 であると定義されている。中国連鎖経営協会の データによると,2015年に100店舗以上を持つ主 要CVSチェーンの市場規模は62チェーンの83004 店舗である(表1)。  表1をみると,中国におけるCVSは全体的に店 舗数の伸び率が高く,大量拡張期であると認識で きる。1位と2位は全国展開のガソリンスタンド 型CVSチェーンで規模が大きく,店舗数の合計が 業界全体の約半分を占める。3位は広東省にある CVSチェーンであり,ウェブサイトで掲載され ている紹介や店舗のレイアウトを見る限り,いわ ば日本型CVSである。一方,日系CVSとしては, セブン−イレブンが7位,ファミリーマートが10 位,ローソンが20位にランクインしている。ミニ ストップも中国市場に参入しているが,店舗数が まだ少ない。また,一部のチェーンについて単店 平均日販を計算すると,基本的には日系CVSの日 販が地場系より高いことが判明できる2) (2)中国における日系CVSの出店速度と店舗 数推移  日系CVSの中国進出の歴史が長く,進出地域と 都市も増えつつあるが,多くの市場においては当 初の出店計画を達成できずにいる3)。中国におけ る日系CVSの出店が全体的に遅く,セブン−イレ ブンの成都,天津,上海および山東市場,ファミ リーマートの広州市場,ローソンの上海市場,ミ ニストップの青島市場では,店舗数純減の年さえ みられる。  とりわけ問題なのは出店速度である。主要ブラ ンドについて,事業スタート時から2015年までの 平均店舗純増数を計算してみると,中国資本の美 表1 2015年主要CVSチェーンの概況(店舗数順) 順位 ブランド 運営会社名 主な展開地域 店舗数 前年比 (%) 単店平均 日販(元) 上位 10社 1 易捷 中石化易捷銷售有限公司 全国 25000 5.4 2718 2 崑崙好客 中国石油銷售公司 全国 17000 13.3 1697 3 美宜佳 東莞市糖酒集団美宜佳便利店有限公司 広東省 7400 15.8 3082 4 天福 広東天福連鎖商業有限公司 広東省 2830 10.2 2156 5 紅旗連鎖 成都紅旗連鎖股份有限公司 四川省 2274 44.2 12259 6 上好 広東上好便利店有限公司 広東省 2200 6.3 ― 7 セブン−イレブン 柒―拾壹(北京)有限公司、ほか 北京市、天津市、成都市、 広東省、香港、マカオ、 上海市、山東省、重慶市 2182 5.7 19264 8 快客 上海華聯快客便利有限公司 上海市、北京市、広州市、 大連市、浙江省、江蘇省 1650 −4.0 ― 9 十足、之上 十足集団股份有限公司 浙江省 1633 4.9 ― 10 ファミリーマート 上海福満家便利有限公司、ほか 上海市、広州市、蘇州市、 杭州市、成都市、深圳市、 無錫市、北京市、東莞市 1530 17.2 9017 その 他の 日系 20 ローソン 上海華聯羅森有限公司、ほか 上海市、重慶市、大連市、 北京市、江蘇省、浙江省 655 29.2 5463 ― ミニストップ 青島迷你島便利店有限公司 青島市 61 15.1 ― 合計(62チェーン) 83004 9.8 5870 注:セブン−イレブンの単店平均日販は北京市のみの数値である。 出所:中国連鎖経営協会『主要連鎖便利店企業発展状況』(各年版),中国連鎖経営協会『2015年中国快速消費品連鎖百強』,およ び日系CVS各社ウェブサイトより筆者作成。

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以上で,⑤即時性食品の補助的施設や様々なサー ビスを提供し,⑥セルフサービス方式を採用して レジでまとめて会計を行い,⑦主に小商圏におけ る単身者や若者をターゲット顧客とする小売業態 であると定義されている。中国連鎖経営協会の データによると,2015年に100店舗以上を持つ主 要CVSチェーンの市場規模は62チェーンの83004 店舗である(表1)。  表1をみると,中国におけるCVSは全体的に店 舗数の伸び率が高く,大量拡張期であると認識で きる。1位と2位は全国展開のガソリンスタンド 型CVSチェーンで規模が大きく,店舗数の合計が 業界全体の約半分を占める。3位は広東省にある CVSチェーンであり,ウェブサイトで掲載され ている紹介や店舗のレイアウトを見る限り,いわ ば日本型CVSである。一方,日系CVSとしては, セブン−イレブンが7位,ファミリーマートが10 位,ローソンが20位にランクインしている。ミニ ストップも中国市場に参入しているが,店舗数が まだ少ない。また,一部のチェーンについて単店 平均日販を計算すると,基本的には日系CVSの日 販が地場系より高いことが判明できる2) (2)中国における日系CVSの出店速度と店舗 数推移  日系CVSの中国進出の歴史が長く,進出地域と 都市も増えつつあるが,多くの市場においては当 初の出店計画を達成できずにいる3)。中国におけ る日系CVSの出店が全体的に遅く,セブン−イレ ブンの成都,天津,上海および山東市場,ファミ リーマートの広州市場,ローソンの上海市場,ミ ニストップの青島市場では,店舗数純減の年さえ みられる。  とりわけ問題なのは出店速度である。主要ブラ ンドについて,事業スタート時から2015年までの 平均店舗純増数を計算してみると,中国資本の美 表1 2015年主要CVSチェーンの概況(店舗数順) 順位 ブランド 運営会社名 主な展開地域 店舗数 前年比 (%) 単店平均 日販(元) 上位 10社 1 易捷 中石化易捷銷售有限公司 全国 25000 5.4 2718 2 崑崙好客 中国石油銷售公司 全国 17000 13.3 1697 3 美宜佳 東莞市糖酒集団美宜佳便利店有限公司 広東省 7400 15.8 3082 4 天福 広東天福連鎖商業有限公司 広東省 2830 10.2 2156 5 紅旗連鎖 成都紅旗連鎖股份有限公司 四川省 2274 44.2 12259 6 上好 広東上好便利店有限公司 広東省 2200 6.3 ― 7 セブン−イレブン 柒―拾壹(北京)有限公司、ほか 北京市、天津市、成都市、 広東省、香港、マカオ、 上海市、山東省、重慶市 2182 5.7 19264 8 快客 上海華聯快客便利有限公司 上海市、北京市、広州市、 大連市、浙江省、江蘇省 1650 −4.0 ― 9 十足、之上 十足集団股份有限公司 浙江省 1633 4.9 ― 10 ファミリーマート 上海福満家便利有限公司、ほか 上海市、広州市、蘇州市、 杭州市、成都市、深圳市、 無錫市、北京市、東莞市 1530 17.2 9017 その 他の 日系 20 ローソン 上海華聯羅森有限公司、ほか 上海市、重慶市、大連市、 北京市、江蘇省、浙江省 655 29.2 5463 ― ミニストップ 青島迷你島便利店有限公司 青島市 61 15.1 ― 合計(62チェーン) 83004 9.8 5870 注:セブン−イレブンの単店平均日販は北京市のみの数値である。 出所:中国連鎖経営協会『主要連鎖便利店企業発展状況』(各年版),中国連鎖経営協会『2015年中国快速消費品連鎖百強』,およ び日系CVS各社ウェブサイトより筆者作成。 宜佳,天福,上好はそれぞれ411.1,257.3,169.2 であるのに対して,日系のセブン−イレブン,ファ ミリーマート,ローソンはそれぞれ64.2,139.1, 34.5に過ぎない。また,日系のこの数値は,日本 国内における出店速度(セブン−イレブン442.2, ファミリーマート277.5,ローソン309.9)4)と比べ るといかにも見劣りがする。つまり,日系CVSは 中国においてドミナント出店を実現できていない のである。  また,日系CVSに絞って,中国における店舗数 推移をチェーン別に表したのが図1である。セブ ン−イレブンの店舗数がもっとも多いが,その大 半は7-Eleven Inc.(旧Southland社,現在はセブ ン&アイ・ホールディングスの在米子会社)から のストレートFCで参入した香港・広東省・マカ オ市場での店舗である。究極的には日系CVSと言 えるが,その経営ノウハウは,フランチャイジー のJardine Matheson Holdings と,その子会社で 1981年から運営を始めていたDairy Farm社に由 来する部分が多く,日本本社に由来するのではな い。一方,セブン−イレブン・ジャパン(以下, SEJ)が直接に関わる市場では,店舗数が伸び悩 んでいる。日本本社からのマスターFCに基づく 部分ではファミリーマートの出店が相対的に順調 であり,後発者にも関わらず,店舗数ベースでは 2009年にローソンを超えている。

4.中国における日系CVSの

事業展開

(1)セブン−イレブン  表2は,中国におけるセブン−イレブンの事業 概要をまとめたものである。柒一拾壹(中国)投 資有限公司は,SEJが100%出資した在中国投資 会社であるため,SEJと一体とみなす。  まず,香港,広東省,マカオにおけるセブン− イレブンは,前述のとおりSEJとの資本関係がな い。SEJが本格的に中国事業を始めたのは,2004 年北京・天津市場における現地会社との合弁FC である。ただし,合弁相手が経営に関与しないた め,北京・天津市場における事業展開は実質的に 日本側の単独経営である(Sato[2009])。  店舗数の推移(図1)でみたように,北京・ 天津市場における事業拡大が遅いため,セブン− イレブンは2009年に台湾市場でのビジネスパー トナーである統一グループにライセンスを与 え,ストレートFCで上海市場に参入した。さら に,2011年には子会社FCで成都市に進出したが, 2012年に山東省,2013年に重慶市では,現地企業 との合弁FCを採用し,協業している。 図1 中国における日系CVSの店舗数推移 出所:各社IR資料より筆者作成。                           ࢭࣈࣥ-࢖ࣞࣈࣥ 㸦SEJ㐠Ⴀ௨እ㸧 ࣇ࢓࣑࣮࣐࣮ࣜࢺ ࣮ࣟࢯࣥ ࢭࣈࣥ-࢖ࣞࣈࣥ 㸦SEJ㐠Ⴀ㸧 ࣑ࢽࢫࢺࢵࣉ

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(2)ファミリーマート

 表3のように,ファミリーマートは中国におい て,全家便利商店股份有限公司(台湾ファミリー マート)と台湾の頂新グループとの三社合弁で China CVS (Cayman Islands) Holdingを設立し

ている。各進出市場における運営会社は,すべて その合弁会社の100%出資によって設立されてい るため,事実上は合弁企業とみなしてよい。  ファミリーマートが中国事業を始めたのは, 2004年における上海市場への進出である。2007年 に広州と蘇州市場にも展開し,その後は暫くこの 表3 中国におけるファミリーマートの事業概要 地域 1号店 運営会社名 出資比率 FC類型

― ― China CVS(Cayman Islands) Holding Corp. 頂全(開曼島)控股有限公司:50.5% ファミリーマート・チャイナ・ホールディング (FMCH):49.5% (FMCHの出資比率はファミリマート:54.61%,全家 便利商店股份有限公司:45.39%である。) 合弁 上海市 2004年 上海福満家便利有限公司 CCH:100% CCHか ら のエリア FC(子会 社) 広州市 2007年 広州市福満家連鎖便利店有限公司 CCH:100% 蘇州市 2007年 蘇州福満家便利店有限公司 CCH:100% 杭州市 2011年 杭州頂全便利店有限公司 CCH:100% 成都市 2012年 成都福満家便利有限公司 CCH:100% 深圳市 2013年 深圳市頂全便利店有限公司 CCH:100% 無錫市 2014年 無錫福満家便利店有限公司 CCH:100% 北京市 2014年 北京頂全便利店有限公司 CCH:100% 東莞市 2014年 東莞市頂全便利店有限公司 CCH:100% 出所:ファミリーマートウェブサイト『アニュアルレポート』(各年版)をもとに筆者作成。 表2 中国におけるセブン−イレブンの事業概要 地域 1号店 運営会社名 出資比率 FC類型 ― ― 柒一拾壹(中国)投資有限公司 セブン−イレブン・ジャパン:100% 子会社 香港 広東省 マカオ 1981年 1992年 2005年

Dairy Farm International Holdings

Limited ― ストレート 北京市 2004年 柒一拾壹(北京)有限公司 柒一拾壹(中国)投資有限公司:65.0% 北京王府井百貨(集団)股份有限公司:25.0% 中国糖類酒類集団公司:10.0% 合弁 天津市 2009年 柒一拾壹(天津)商業有限公司 柒一拾壹(北京)有限公司:100% 合弁 上海市 2009年 統一超商(上海)便利有限公司 統一超商香港控股有限公司:100% ストレート 成都市 2011年 柒一拾壹(成都)有限公司 柒一拾壹(中国)投資有限公司:100% 子会社 山東省 2012年 山東衆邸便利生活有限公司 衆地陽光集団有限公司:65.0% セブン−イレブン・ジャパン:20.0% 柒一拾壹(中国)投資有限公司:15.0% 合弁 重慶市 2013年 新玖商業発展有限公司 柒一拾壹(中国)投資有限公司,三井物産,南方希 望実業有限公司の三社による共同出資 合弁 注:以下,出資比率は2015年2月現在のものである。 出所:セブン&アイウェブサイト『事業概要2015年2月期』,セブン&アイウェブサイト2012年5月8日付リリース,および三井 物産株式会社ウェブサイト2013年3月15日付リリースをもとに筆者作成。

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(2)ファミリーマート

 表3のように,ファミリーマートは中国におい て,全家便利商店股份有限公司(台湾ファミリー マート)と台湾の頂新グループとの三社合弁で China CVS (Cayman Islands) Holdingを設立し

ている。各進出市場における運営会社は,すべて その合弁会社の100%出資によって設立されてい るため,事実上は合弁企業とみなしてよい。  ファミリーマートが中国事業を始めたのは, 2004年における上海市場への進出である。2007年 に広州と蘇州市場にも展開し,その後は暫くこの 表3 中国におけるファミリーマートの事業概要 地域 1号店 運営会社名 出資比率 FC類型

― ― China CVS(Cayman Islands) Holding Corp. 頂全(開曼島)控股有限公司:50.5% ファミリーマート・チャイナ・ホールディング (FMCH):49.5% (FMCHの出資比率はファミリマート:54.61%,全家 便利商店股份有限公司:45.39%である。) 合弁 上海市 2004年 上海福満家便利有限公司 CCH:100% CCHか ら のエリア FC(子会 社) 広州市 2007年 広州市福満家連鎖便利店有限公司 CCH:100% 蘇州市 2007年 蘇州福満家便利店有限公司 CCH:100% 杭州市 2011年 杭州頂全便利店有限公司 CCH:100% 成都市 2012年 成都福満家便利有限公司 CCH:100% 深圳市 2013年 深圳市頂全便利店有限公司 CCH:100% 無錫市 2014年 無錫福満家便利店有限公司 CCH:100% 北京市 2014年 北京頂全便利店有限公司 CCH:100% 東莞市 2014年 東莞市頂全便利店有限公司 CCH:100% 出所:ファミリーマートウェブサイト『アニュアルレポート』(各年版)をもとに筆者作成。 表2 中国におけるセブン−イレブンの事業概要 地域 1号店 運営会社名 出資比率 FC類型 ― ― 柒一拾壹(中国)投資有限公司 セブン−イレブン・ジャパン:100% 子会社 香港 広東省 マカオ 1981年 1992年 2005年

Dairy Farm International Holdings

Limited ― ストレート 北京市 2004年 柒一拾壹(北京)有限公司 柒一拾壹(中国)投資有限公司:65.0% 北京王府井百貨(集団)股份有限公司:25.0% 中国糖類酒類集団公司:10.0% 合弁 天津市 2009年 柒一拾壹(天津)商業有限公司 柒一拾壹(北京)有限公司:100% 合弁 上海市 2009年 統一超商(上海)便利有限公司 統一超商香港控股有限公司:100% ストレート 成都市 2011年 柒一拾壹(成都)有限公司 柒一拾壹(中国)投資有限公司:100% 子会社 山東省 2012年 山東衆邸便利生活有限公司 衆地陽光集団有限公司:65.0% セブン−イレブン・ジャパン:20.0% 柒一拾壹(中国)投資有限公司:15.0% 合弁 重慶市 2013年 新玖商業発展有限公司 柒一拾壹(中国)投資有限公司,三井物産,南方希 望実業有限公司の三社による共同出資 合弁 注:以下,出資比率は2015年2月現在のものである。 出所:セブン&アイウェブサイト『事業概要2015年2月期』,セブン&アイウェブサイト2012年5月8日付リリース,および三井 物産株式会社ウェブサイト2013年3月15日付リリースをもとに筆者作成。 三つの都市で地盤を固めていた。2011年からは, 毎年一つの新市場に進出するペースで,杭州,成 都,深圳市場にまで事業を拡大させ,さらに2014 年には無錫,北京,東莞市場への進出を果たし, 事業展開のスピードを上げている。台湾系のビジ ネスパートナーとの協業によって,中国における ネットワーク,商習慣や法規制に関する知見が得 られ,安定した進出パターンも円滑な事業拡大に 貢献していると思われる。 (3)ローソン  表4は,中国におけるローソンの事業概要をま とめたものである。羅森(中国)投資有限公司は ローソン100%出資の在中国投資会社であるため, ここもローソンと一体とみなす。  ローソンは1996年に合弁FCで上海市場に進出 した。しかし,ビジネスパートナーである華聯/ 百聯グループとの経営理念と経営方針の違いか ら,出資比率と主導権が再三に変わり,現在はほ ぼ日本側の独資となっている。上海市場での教訓 を踏まえ,重慶と北京市場では子会社FC,大連 と杭州市場では合弁FCによって進出したが,い ずれも日本側が主導権を握っている。  一方,2015年以降の江蘇省(常州市を除く), 浙江省および湖北省における事業展開は,すべて 上海ローソンが各省の現地企業と組み,エリア FCによって進出したものである。上海ローソン では各省の現地企業をエリアフランチャイザーと し,それらに店舗開発を任せている5)。また,上 海ローソンは2016年に近隣の江蘇省常州市にも出 店を開始した。 (4)ミニストップ  表5のように,ミニストップの中国事業は現 在,イオンが進出している山東省青島市のみであ る。それは,ミニストップと青島イオンとの合弁 で展開されているものであり,事業規模がまだ小 さい。 表4 中国におけるローソンの事業概要 地域 1号店 運営会社名 出資比率 FC類型 ― ― 羅森(中国)投資有限公司 ローソン:100% 子会社 上海市 1996年 上海華聯羅森有限公司 羅森(中国)投資有限公司:94.0% 百聯集団有限公司:6.0% 合弁 重慶市 2010年 重慶羅森便利店有限公司 羅森(中国)投資有限公司:100% 子会社 大連市 2011年 大連羅森便利店有限公司 羅森(中国)投資有限公司:98.3% 大連亜恵快餐有限公司:1.7% 合弁 杭州市 2012年 浙江羅森百貨有限公司 上海華聯羅森有限公司,羅森(中国)投資有限公司の 二社による共同出資 合弁 北京市 2013年 羅森(北京)有限公司 羅森(中国)投資有限公司:100% 子会社 江陰市 2014年 江陰華聯商厦有限公司 ― 上海華聯 羅森有限 公司から のエリア FC(スト レート) 寧波市 2015年 寧波甬鑫世紀貿易有限公司 ― 無錫市 2015年 江陰華聯商厦有限公司 ― 鎮江市 2015年 鎮江九森商貿有限公司 ― 蘇州市 2015年 江蘇中能匯宏経済発展有限公司 ― 嘉興市 2015年 嘉興市友的貿易有限公司 ― 武漢市 2016年 中百超市有限公司 中百控股集団股份有限公司:100% 常州市 2016年 上海華聯羅森有限公司 羅森(中国)投資有限公司:94.0% 百聯集団有限公司:6.0% 合弁 出所:ローソンウェブサイト『統合報告書 2015』,上海羅森ウェブサイト(http://www.lawson.com.cn/), 2016年2月実施の 現地調査(上海ローソンのFC加盟説明会)で得られた情報をもとに筆者作成。

(8)

(5)小括  日系CVSの中国事業は基本的にマスターFCで 展開されている。そのうち,ストレートFCで展 開されているのは,アメリカの7-Eleven Inc. がイ ニシアチブを取ったセブン−イレブンの香港,広 東省,マカオ市場,および上海市場のみである。 日本本社は参入の初期段階では,子会社FCより も合弁FCを採用する傾向があったが,合弁FCで 比較的に安定成長しているのは台湾のビジネス パートナーと組んでいるファミリーマートのみで ある。セブン−イレブンとローソンの場合は,一 時は出資比率を上げたり,新たに参入した市場で 子会社FCを採用したりすることでコントロール を強める傾向があった。しかしその結果としての 事業展開は,決して順調とは言えない。近年では 現地企業との協業を深める方向に転換して,セ ブン−イレブンは現地企業出資比率の高い合弁FC を,ローソンは上海からのエリアFCを採用して いる。

5.FCシステムの導入による店舗

開発

(1)日系CVSの加盟種類6)  日系CVS各社は,自ら直営店を出すと同時に, 現地の加盟者を募集して加盟店を増やしており, すなわちFCシステムの導入によって店舗開発を 行っている。中国における日系CVSの加盟種類 は,大別して「委託経営」と「FC加盟<特許加 盟>」の二種類がある。  委託経営は,本部が店舗物件を用意し,その運 営を加盟者に委託する方式であり,基本的には本 部が家賃と内装設備工事費用を負担する。一方, FC加盟では,加盟者自身が店舗物件を用意する 必要がある。本部は,加盟に適した物件を持つ加 盟者にライセンスを与えてFC契約を結び,経営 指導などのサポートを行う。この場合は,加盟者 が家賃と内装設備工事費用を負担する。「委託経 営」と「FC加盟」のいずれも,本部と加盟者の 間では一定のチャージ率に基づいて粗利益が分配 され,すなわち「粗利分配方式」が採用されてい る。 (2)加盟契約の日中比較  FCシステムの導入による店舗開発の実態を明 らかにするために,ここではセブン−イレブン, ファミリーマート,ローソンの3社を取り上げ, 加盟契約の日中比較を行う。その際,いずれの チェーンについても,本部が店舗物件を用意する 場合と加盟者が店舗物件を用意する場合に分けて 検討する。なお,以下の各表における「契約タイ プ」は,各社が提示している加盟契約プランの名 称であり,契約内容はすべて2016年5月31日現在 のものを用いる。また,人民元と日本円の換算は 2016年5月31日の為替レート(1人民元=16.797 日本円)による。 ①セブン−イレブン  表6は,日中におけるセブン−イレブンの加盟 契約の比較である。中国におけるセブン−イレブ ンについて,ここではSEJが運営している北京・ 天津市場と成都市場,およびストレートFCで展 開されている広東市場での契約内容を取り上げ る。  まず,本部が店舗物件を用意する場合,北京・ 天津,成都市場におけるセブン−イレブンは,日 本のような15年契約ではなく,ともに5年契約と なっている。所要資金についても日本の倍に上 表5 中国におけるミニストップの事業概要 地域 1号店 運営会社名 出資比率 FC類型 青島市 2009年 青島迷你島便利店有限公司 ミニストップ:60.0% 青島永旺東泰商業有限公司(青島イオン):40.0% 合弁 出所:ミニストップウェブサイト2009年4月2日付リリースをもとに筆者作成。

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(5)小括  日系CVSの中国事業は基本的にマスターFCで 展開されている。そのうち,ストレートFCで展 開されているのは,アメリカの7-Eleven Inc. がイ ニシアチブを取ったセブン−イレブンの香港,広 東省,マカオ市場,および上海市場のみである。 日本本社は参入の初期段階では,子会社FCより も合弁FCを採用する傾向があったが,合弁FCで 比較的に安定成長しているのは台湾のビジネス パートナーと組んでいるファミリーマートのみで ある。セブン−イレブンとローソンの場合は,一 時は出資比率を上げたり,新たに参入した市場で 子会社FCを採用したりすることでコントロール を強める傾向があった。しかしその結果としての 事業展開は,決して順調とは言えない。近年では 現地企業との協業を深める方向に転換して,セ ブン−イレブンは現地企業出資比率の高い合弁FC を,ローソンは上海からのエリアFCを採用して いる。

5.FCシステムの導入による店舗

開発

(1)日系CVSの加盟種類6)  日系CVS各社は,自ら直営店を出すと同時に, 現地の加盟者を募集して加盟店を増やしており, すなわちFCシステムの導入によって店舗開発を 行っている。中国における日系CVSの加盟種類 は,大別して「委託経営」と「FC加盟<特許加 盟>」の二種類がある。  委託経営は,本部が店舗物件を用意し,その運 営を加盟者に委託する方式であり,基本的には本 部が家賃と内装設備工事費用を負担する。一方, FC加盟では,加盟者自身が店舗物件を用意する 必要がある。本部は,加盟に適した物件を持つ加 盟者にライセンスを与えてFC契約を結び,経営 指導などのサポートを行う。この場合は,加盟者 が家賃と内装設備工事費用を負担する。「委託経 営」と「FC加盟」のいずれも,本部と加盟者の 間では一定のチャージ率に基づいて粗利益が分配 され,すなわち「粗利分配方式」が採用されてい る。 (2)加盟契約の日中比較  FCシステムの導入による店舗開発の実態を明 らかにするために,ここではセブン−イレブン, ファミリーマート,ローソンの3社を取り上げ, 加盟契約の日中比較を行う。その際,いずれの チェーンについても,本部が店舗物件を用意する 場合と加盟者が店舗物件を用意する場合に分けて 検討する。なお,以下の各表における「契約タイ プ」は,各社が提示している加盟契約プランの名 称であり,契約内容はすべて2016年5月31日現在 のものを用いる。また,人民元と日本円の換算は 2016年5月31日の為替レート(1人民元=16.797 日本円)による。 ①セブン−イレブン  表6は,日中におけるセブン−イレブンの加盟 契約の比較である。中国におけるセブン−イレブ ンについて,ここではSEJが運営している北京・ 天津市場と成都市場,およびストレートFCで展 開されている広東市場での契約内容を取り上げ る。  まず,本部が店舗物件を用意する場合,北京・ 天津,成都市場におけるセブン−イレブンは,日 本のような15年契約ではなく,ともに5年契約と なっている。所要資金についても日本の倍に上 表5 中国におけるミニストップの事業概要 地域 1号店 運営会社名 出資比率 FC類型 青島市 2009年 青島迷你島便利店有限公司 ミニストップ:60.0% 青島永旺東泰商業有限公司(青島イオン):40.0% 合弁 出所:ミニストップウェブサイト2009年4月2日付リリースをもとに筆者作成。 り,成都市場での内訳をみると,セブン−イレブ ンは20万元(約336万円)ほどの「保証金」をとっ ていることが判明できる。また,北京・天津市場 における本部チャージ率は三段階のスライド制と なっており,粗利益の高い部分に対してチャージ 率も高くなる。  一方,加盟者が店舗物件を用意する場合,北京・ 天津市場での契約期間が10年間となり,加盟に必 要な資金も約558万円であり,日本よりハードル が高い。成都市場での場合は,所要資金が約484 万円であり,本部チャージ率は粗利益が12万元を 超えるかどうかによって異なる。また,ストレー トFCで展開されている広東市場では二種類のFC 加盟プランがあり,いずれも5年契約となる。設 備費の負担の仕方によって所要資金が異なるが, プラン①では約252万円であり,他の市場に比べ ると安い。また,所要資金の内訳をみると,やは り一定額の保証金が含まれている。 ②ファミリーマート  表7のように,中国におけるファミリーマート の契約内容は日本と似ており,基本的には市場別 ではなく,各市場に共通するものとなっている。 ただし,中国ファミリーマートのウェブサイトに よれば,加盟者が本部の直営店を引き受けて経営 する「委託加盟」のプランは,相対的に成熟した 上海,蘇州,広州市場では現在適用されていない。  まず,本部が店舗物件を用意する場合,中国に おけるファミリーマートの契約期間は5年間であ り,日本の10年契約より短い。所要資金は約437 表6 セブン−イレブンの加盟契約の日中比較 (本部が店舗物件を用意する場合) 日本 中国(北京・天津) 中国(成都) 契約タイプ Cタイプ 店舗委託経営型 委託管理型 契約期間 15年間 5年間 5年間 所要資金 研修費:50万円 開業準備手数料: 50万円 自己資本:150万円 小計:250万円 北京:約35万元(約587万円) 天津:約28万元(約470万円) 加盟金:10万元 訓練費:1.1万元 開店準備金:2.1万元 保証金:20万元 小計:33.2万元(約558万円) 本部チャージ率 スライド制 4万元以下部分:52% 4万元~10万元部分:68% 10万元~22万元部分:78% ― (加盟者が店舗物件を用意する場合) 地域 日本 中国(北京・天津) 中国(成都) 中国(広東) 契約タイプ Aタイプ 特許加盟連鎖型 帯店加盟型 プラン① プラン② 契約期間 15年間 10年間 ― 5年間 5年間 所要資金 研修費:50万円 開業準備手数料: 100万円 自己資本:150万円 小計:300万円 訓練費,加盟金, 保証金等で 約33.2万元 (約558万円) 加盟金,訓練費, 開店準備金,保証金, 商品代等で 約28.8万元 (約484万円) 加盟金:5万元 保証金:10万元 許認可料等 小計:約15万元 (約252万円) 加盟金:5万元 保証金:15万元 許認可料等 小計:約20万元 (約336万円) 本部チャージ率 43% 24時間営業店舗: 38%(五年後36%) 16時間営業店舗: 40% 粗利益が12万元以下 の場合:43% 粗利益が12万を超え る場合:46% ― 出所:セブン−イレブン・ジャパンウェブサイト(http://www.sej.co.jp/),北京・天津セブン−イレブンウェブサイト(http:// www.7-11bj.com.cn/),成都セブン−イレブンウェブサイト(http://www.7-11cd.cn/),広東セブン−イレブンウェブサイ ト(http://www.7-11.cn/cn/),および『華西都市報』2012年4月9日付,『北京商報』2012年12月24日付,『中華合作時報』 2013年6月21日付をもとに筆者作成。

(10)

万円であり,日本の350万円をやや上回る。中国 における委託加盟C型プランと委託加盟A型プラ ンでは,家賃の負担の仕方によって本部チャージ 率が異なる。本部が家賃を負担する場合は,本部 チャージ率が定率の62%であるのに対し,本部と 加盟者が共同で家賃を負担する場合は低めのスラ イド制となっている。  一方,加盟者が店舗物件を用意する場合,中国 におけるファミリーマートの契約期間は同じく5 年間であり,所要資金は日本並みの約353万円で ある。本部チャージ率は30%であり,日本よりや や低く設定されている。 ③ローソン  表8は,ローソンの加盟契約の日中比較であ る。中国におけるローソンの契約内容について, ここでは上海,重慶,大連市場でのものを取り上 げる。  まず,本部が店舗物件を用意する場合,上海 ローソンのウェブサイトによると,契約期間が5 年間であり,所要資金が約336万円である。しか し,筆者がFC加盟説明会に参加した際に実施し たヒアリングによれば,現在は委託経営での募集 をしておらず,加盟したい場合は加盟者が自ら店 舗物件を用意することとなっている。  一方,加盟者が店舗物件を用意する場合,上海, 重慶,大連市場ではいずれも5年契約となる。所 要資金について,重慶では日本並みの約370万円, 大連では日本をやや下回る約286万円となってい るが,内訳をみると,いずれも10万元(約168万 円)程度の保証金が含まれている。一方,上海に おける契約内容をみると,重慶や大連市場と異 なって保証金がないため,所要資金が約118万円 で相対的に安い。その代わりに,本部は店舗物件 表7 セブン−イレブンの加盟契約の日中比較 (本部が店舗物件を用意する場合) 地域 日本 中国 契約タイプ 1FC−Cタイプ 2FC−Cタイプ 委託加盟C型 (2FC−C) 委託加盟A型 (2FC−A) 契約期間 10年間 10年間(シニアは5年間) 5年間 所要資金 加盟金:50万円 開店準備手数料:100万円 元入金(両替現金/商品代金の一部):150万円 スタッフ募集,許認可申請等:50万円 小計:350万円 技術訓練服務費:2万元 管理諮問費:4万元 保証金:20万元 開店準備金:4万元 小計:30万元(約504万円) 本部チャージ率 48% 62% (加盟者が店舗物件を用意する場合) 地域 日本 中国 契約タイプ 1FC−Aタイプ 1FC−Bタイプ 委託加盟C型(1FC−B) 契約期間 10年間 10年間 5年間 所要資金 加盟金:50万円 開店準備手数料:100万円 元入金(両替現金/商品代金の一部):150万円 スタッフ募集,許認可申請等:50万円 小計:350万円 技術訓練服務費:2万元 管理諮問費:4万元 保証金:15万元 小計:21万元(約353万円) 本部チャージ率 35% 38% 30% 注:日本における1FC−C契約と2FC−N契約,また1FC−A契約と1FC−B契約では,内装設備工事費用の負担の仕方によって,本 部チャージ率が異なる。 出所:ファミリーマートウェブサイト(http://www.family.co.jp/),中国ファミリーマートウェブサイト(http://www.familymart. com.cn/),2016年2月に実施した現地調査(無錫ファミリーマートのFC加盟説明会)で得られた情報をもとに筆者作成。

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万円であり,日本の350万円をやや上回る。中国 における委託加盟C型プランと委託加盟A型プラ ンでは,家賃の負担の仕方によって本部チャージ 率が異なる。本部が家賃を負担する場合は,本部 チャージ率が定率の62%であるのに対し,本部と 加盟者が共同で家賃を負担する場合は低めのスラ イド制となっている。  一方,加盟者が店舗物件を用意する場合,中国 におけるファミリーマートの契約期間は同じく5 年間であり,所要資金は日本並みの約353万円で ある。本部チャージ率は30%であり,日本よりや や低く設定されている。 ③ローソン  表8は,ローソンの加盟契約の日中比較であ る。中国におけるローソンの契約内容について, ここでは上海,重慶,大連市場でのものを取り上 げる。  まず,本部が店舗物件を用意する場合,上海 ローソンのウェブサイトによると,契約期間が5 年間であり,所要資金が約336万円である。しか し,筆者がFC加盟説明会に参加した際に実施し たヒアリングによれば,現在は委託経営での募集 をしておらず,加盟したい場合は加盟者が自ら店 舗物件を用意することとなっている。  一方,加盟者が店舗物件を用意する場合,上海, 重慶,大連市場ではいずれも5年契約となる。所 要資金について,重慶では日本並みの約370万円, 大連では日本をやや下回る約286万円となってい るが,内訳をみると,いずれも10万元(約168万 円)程度の保証金が含まれている。一方,上海に おける契約内容をみると,重慶や大連市場と異 なって保証金がないため,所要資金が約118万円 で相対的に安い。その代わりに,本部は店舗物件 表7 セブン−イレブンの加盟契約の日中比較 (本部が店舗物件を用意する場合) 地域 日本 中国 契約タイプ 1FC−Cタイプ 2FC−Cタイプ 委託加盟C型 (2FC−C) 委託加盟A型 (2FC−A) 契約期間 10年間 10年間(シニアは5年間) 5年間 所要資金 加盟金:50万円 開店準備手数料:100万円 元入金(両替現金/商品代金の一部):150万円 スタッフ募集,許認可申請等:50万円 小計:350万円 技術訓練服務費:2万元 管理諮問費:4万元 保証金:20万元 開店準備金:4万元 小計:30万元(約504万円) 本部チャージ率 48% 62% (加盟者が店舗物件を用意する場合) 地域 日本 中国 契約タイプ 1FC−Aタイプ 1FC−Bタイプ 委託加盟C型(1FC−B) 契約期間 10年間 10年間 5年間 所要資金 加盟金:50万円 開店準備手数料:100万円 元入金(両替現金/商品代金の一部):150万円 スタッフ募集,許認可申請等:50万円 小計:350万円 技術訓練服務費:2万元 管理諮問費:4万元 保証金:15万元 小計:21万元(約353万円) 本部チャージ率 35% 38% 30% 注:日本における1FC−C契約と2FC−N契約,また1FC−A契約と1FC−B契約では,内装設備工事費用の負担の仕方によって,本 部チャージ率が異なる。 出所:ファミリーマートウェブサイト(http://www.family.co.jp/),中国ファミリーマートウェブサイト(http://www.familymart. com.cn/),2016年2月に実施した現地調査(無錫ファミリーマートのFC加盟説明会)で得られた情報をもとに筆者作成。 や加盟希望者の資質などに対して厳しい適性審 査を実施し,加盟者を慎重に見極めている7)。ま た,本部チャージ率について,上海と重慶市場で は35%となっており,日本の34%とほぼ変わらな い。 (3)日販と収益  中国連鎖経営協会が公表したデータによれば, 2015年中国CVS業界の単店平均日販は5870元で あるが,台湾(14942元)や日本(42032元)とは 大きな差がある。取扱商品の構成比率についても, 食品が6割以上を占めているものの,そのうち ファストフードの割合が7.0%にとどまっており, 日本の34.0%より遥かに低い8)。もっとも,地場 系CVSに比べて,日系CVSはおでんや中華まんな どのファストフード,お弁当やサンドイッチなど の加工食品,さらに輸入商品などを充実させてお り,表1でみたように単店平均日販としてはセブ ン−イレブン北京が19264元,ファミリーマート が9017元であり,業界平均値の5870元を上回って いる。しかし,それにしても台湾や日本の水準に 及ばないのが現状である。地域差はあるものの, 北京におけるセブン−イレブンの相対的な高日販 を考慮すると,ほかのチェーンにとって,またほ かの地域においてはまだまだ日販を向上させる余 地があると思われる。一方,中国におけるCVS業 界の平均粗利率は23.2%であり,これも日本や台 湾の約30%より低い9) 表8 ローソンの加盟契約の日中比較 (本部が店舗物件を用意する場合) 地域 日本 中国(上海) 契約タイプ FC−Cnタイプ 委託経営(委託B)型 契約期間 10年間 5年間 所要資金 加盟金:100万円(内訳は研修費50万円, 開店準備手数料50万円) 出資金(商品代金の一部):150万円 開店準備金:50万円(釣銭準備金,営業許認可料等) 小計:300万円 合作費:5万元 新店雑費:0.6万元 設計及び監督管理費:0.4万元 内装費及び許認可料:14万元 小計:20万元(約336万円) 本部チャージ率 300万円以下の部分:45% 300~450万円の部分:70% 450万円を超える部分:60% ― (加盟者が店舗物件を用意する場合) 地域 日本 中国(上海) 中国(重慶) 中国(大連) 契約タイプ FC−B4タイプ 特許経営(FC−B)型 委託加盟B型 ― 契約期間 10年間 5年間 5年間 5年間 所要資金 加盟金:150万円(内訳 は契約金50万円,研修 費50万円,開店準備手 数料50万円) 出資金(商品代金の一 部):150万円 開店準備金:50万円 (釣銭準備金,営業許認 可料等) 小計:350万円 加盟金:5万元 新店雑費:0.6万元 設計及び監督管理費: 0.4万元 釣銭準備金:0.7万元 許認可料:0.2万元 小計:約7万元 (約118万円) 加盟金:7万元 保証金:10万元 訓練費:0.5万元 その他費用:4.5万元 小計:22万元 (約370万円) 加盟金:5万元 保証金:10万元 訓練費:0.2万元 釣銭準備金:0.8万元 小計:17万元 (約286万円) 本部チャージ率 34% 35% 35% ― 出所:ローソンウェブサイト(http://www.lawson.co.jp/),上海ローソンウェブサイト,重慶ローソンウェブサイト(http:// www.cqlawson.com.cn/),大連ローソンウェブサイト(http://www.dllawson.com.cn/),加盟募集紹介パンフレット(上海・ 江蘇エリア),および2016年2月に実施した現地調査(上海ローソンのFC加盟説明会)で得られた情報をもとに筆者作成。

(12)

 実際に,中国において日系CVSに加盟する場合 の収益をみると,北京セブン−イレブンの試算で は,家賃,人件費等をすべて差し引いた純利益が 約1万元/月であり,ファミリーマートも全国平均 の純利益は約1.5万元/月である10)。現時点におい て,日系CVSに加盟する際の収益性は決してよい とは言えない。 (4)小括  日系CVS各社は進出先の中国においても,FC システムを導入し,加盟店を募集することによっ て店舗開発を行っている。FC契約の日中比較を 通じて,日本のように粗利分配方式が採用されて いることが判明できる。  一方,中国におけるFC契約には,日本より短 い契約期間や,チェーンによっては地域ごとに契 約種類が異なるといった特徴がある。また,加盟 所要資金についても,中国の場合では日本と異な り,10~20万元の保証金が必要となっている。保 証金は解約時に返金されるものとはいえ,初期投 資額を押し上げ,加盟所要資金そのものを日本 より高いものにしている。これは,中国において CVSという小売業態がまだ成熟していないため, 日系CVS各社は店舗開発に際しての様々なリス クを軽減しながら,個々の加盟店の質を確保しよ うとするからである。  また,加盟のハードルが高い割には,加盟後の 収益は相対的に低い。FC契約の日中比較で分か るように,中国において本部チャージ率が特に高 いわけではない。収益を低迷させている要因は, 日販と粗利率の低さだと考えられる。

6.ディスカッション

 以上のように,中国における日系CVSの事業展 開と,FCシステムの導入による店舗開発の実態 を概ね把握することができた。この節では,マス ターFCとサブFCという二つの次元に分けて,な ぜ日系CVSの事業拡大がうまく進まないのかに ついて議論したい。 (1)マスターFC  進出形態別でみると,ストレートFCで展開さ れているセブン−イレブンの香港,広東省,マカ オ市場における店舗数が,合弁FCや子会社FCで 展開されているセブン−イレブンの北京・天津市 場およびローソンやファミリーマートの各市場よ り多い。ストレートFCゆえに運営会社の裁量権 が大きく,Dairy Farm社およびその親会社であ るJardine Matheson Holdingsが,長年の国際ビ ジネスで蓄積されてきた経営資源やノウハウを活 かしていることが,店舗数を増やせた一因であろ う。  一方,合弁FCで事業展開を始めた市場では, 明暗が分かれている。セブン−イレブンは北京・ 天津市場において実質的な単独経営となってお り,パートナーの力を借りることはあまりなかっ たと考えられる。ローソンの場合は日本本社と現 地合弁相手との経営理念の違いに直面して,中国 事業が日本側の思惑通りに進まなかった。その後, 両社は子会社FCを志向するようになるが,今度 はビジネスパートナーが存在しないゆえに,物件 探し,経営理念の共有および従業員のトレーニン グなどが困難となる。現在では,新しい市場にお いて再び現地企業との協業に切り替え,模索を続 けている。それに対し,ファミリーマートの合弁 FCは,台湾ファミリーマートと台湾の頂新グルー プをビジネスパートナーとして選んでいる。進出 先の現地企業ではないものの,ファミリーマート は似たような言語や習慣を持つ華人・華僑系企業, なおかつ台湾市場で協業した経験のある企業と組 むことで,事業規模の拡大を図ろうとしている。  すなわち,日系CVSの中国事業が全体的にうま く進んでいないということは,マスターFCの次 元では少なくとも二つ異なる性質の問題があると 考えられる。一つは,進出形態の選択にみるよう にコントロールを強めようとして出店がうまくい かない問題であり,言い換えればコントロールの 強さと出店拡大のトレードオフ関係をうまく解消 できていない問題である。セブン−イレブンのう ちSEJが運営する部分やローソンの事例がそれに

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 実際に,中国において日系CVSに加盟する場合 の収益をみると,北京セブン−イレブンの試算で は,家賃,人件費等をすべて差し引いた純利益が 約1万元/月であり,ファミリーマートも全国平均 の純利益は約1.5万元/月である10)。現時点におい て,日系CVSに加盟する際の収益性は決してよい とは言えない。 (4)小括  日系CVS各社は進出先の中国においても,FC システムを導入し,加盟店を募集することによっ て店舗開発を行っている。FC契約の日中比較を 通じて,日本のように粗利分配方式が採用されて いることが判明できる。  一方,中国におけるFC契約には,日本より短 い契約期間や,チェーンによっては地域ごとに契 約種類が異なるといった特徴がある。また,加盟 所要資金についても,中国の場合では日本と異な り,10~20万元の保証金が必要となっている。保 証金は解約時に返金されるものとはいえ,初期投 資額を押し上げ,加盟所要資金そのものを日本 より高いものにしている。これは,中国において CVSという小売業態がまだ成熟していないため, 日系CVS各社は店舗開発に際しての様々なリス クを軽減しながら,個々の加盟店の質を確保しよ うとするからである。  また,加盟のハードルが高い割には,加盟後の 収益は相対的に低い。FC契約の日中比較で分か るように,中国において本部チャージ率が特に高 いわけではない。収益を低迷させている要因は, 日販と粗利率の低さだと考えられる。

6.ディスカッション

 以上のように,中国における日系CVSの事業展 開と,FCシステムの導入による店舗開発の実態 を概ね把握することができた。この節では,マス ターFCとサブFCという二つの次元に分けて,な ぜ日系CVSの事業拡大がうまく進まないのかに ついて議論したい。 (1)マスターFC  進出形態別でみると,ストレートFCで展開さ れているセブン−イレブンの香港,広東省,マカ オ市場における店舗数が,合弁FCや子会社FCで 展開されているセブン−イレブンの北京・天津市 場およびローソンやファミリーマートの各市場よ り多い。ストレートFCゆえに運営会社の裁量権 が大きく,Dairy Farm社およびその親会社であ るJardine Matheson Holdingsが,長年の国際ビ ジネスで蓄積されてきた経営資源やノウハウを活 かしていることが,店舗数を増やせた一因であろ う。  一方,合弁FCで事業展開を始めた市場では, 明暗が分かれている。セブン−イレブンは北京・ 天津市場において実質的な単独経営となってお り,パートナーの力を借りることはあまりなかっ たと考えられる。ローソンの場合は日本本社と現 地合弁相手との経営理念の違いに直面して,中国 事業が日本側の思惑通りに進まなかった。その後, 両社は子会社FCを志向するようになるが,今度 はビジネスパートナーが存在しないゆえに,物件 探し,経営理念の共有および従業員のトレーニン グなどが困難となる。現在では,新しい市場にお いて再び現地企業との協業に切り替え,模索を続 けている。それに対し,ファミリーマートの合弁 FCは,台湾ファミリーマートと台湾の頂新グルー プをビジネスパートナーとして選んでいる。進出 先の現地企業ではないものの,ファミリーマート は似たような言語や習慣を持つ華人・華僑系企業, なおかつ台湾市場で協業した経験のある企業と組 むことで,事業規模の拡大を図ろうとしている。  すなわち,日系CVSの中国事業が全体的にうま く進んでいないということは,マスターFCの次 元では少なくとも二つ異なる性質の問題があると 考えられる。一つは,進出形態の選択にみるよう にコントロールを強めようとして出店がうまくい かない問題であり,言い換えればコントロールの 強さと出店拡大のトレードオフ関係をうまく解消 できていない問題である。セブン−イレブンのう ちSEJが運営する部分やローソンの事例がそれに 当てはまる。もう一つは,トレードオフ関係にと どまらない問題である。つまり,セブン−イレブ ンのうちストレートFCで展開されている部分や ファミリーマートのように,比較的に進んでいる チェーンの場合はビジネスパートナーの裁量を認 め,リスクをとって出店を進めているが,それに も関わらずドミナント出店を達成できていないと いうことは,ビジネスパートナーの力を十分に引 き出せていない問題があると考えられる。 (2)サブFC  一方,サブFCについて,日系CVSは基本的に 日本でのFC契約をベースとしながら,現地事情 に合わせて部分的な修正を行っている。中国にお いてはCVSが未成熟な小売業態であり,事業リス クが相対的に高いため,日系CVSのようにFC契 約を通して,店舗運営の質をコントロールするこ とは確かに必要である。  しかし,主要3社のFC契約の日中比較を通じ て,中国における加盟プランのほとんどでは,初 期の所要資金が多額な保証金によって押し上げら れ,日本よりも高くなってしまうケースが多いこ とが判明された。これは日系CVSがリスク軽減の ために加盟者を選別することを意味するが,結果 的にはその慎重さが出店速度を低下させたと考え られる。  また,加盟のハードルが高いだけでなく,日販 や粗利率が低いために純利益が高まらないという 問題もあり,加盟店募集のスピードを遅らせてい る。粗利率については,事業規模がうまく拡大し ないために,サプライヤーに対する交渉力(仕入 力)も弱く,これが粗利率の低さに跳ね返ってい ると考えることもできるだろう。その意味では, これも少なくとも一部は慎重な出店の結果と言え るだろう。しかし,そうして選別されたはずの各 店舗における日販が低いということは,別の問題 を示唆している。それは,日系CVSの優位性と見 られてきたオペレーションにおいても,まだまだ 改善の余地が大きいということである。

7.おわりに

 本稿は,FCシステムの導入という視点から, 中国における日系CVSの事業展開を考察した。日 系CVSが優位性を持っているにもかかわらず,中 国事業がうまく拡大しない理由は,マスターFC とサブFCの両方にあると判明された。マスター FCの次元では進出形態の選択やビジネスパート ナーの力を十分に引き出せていないこと,サブ FCの次元では高い加盟ハードルとそれに見合わ ない収益性,および店舗のオペレーション水準も 十分でないことが挙げられるが,加盟者の加盟イ ンセンティブに直接影響を及ぼすサブFCの部分 がより問題だと考えられる。   マ ス タ ーFCに つ い て 本 稿 の 貢 献 は, 川 端 [2008][2010]や谷ヶ城[2015]の論点を例証し ただけでなく,進出先市場において出店速度とオ ペレーション水準のトレードオフ関係を克服する ためには,ビジネスパートナーの力を引き出す ことも重要だと明らかにしたことである。また, 本稿はサブFCについて独自の観点を付け加えた。 国際フランチャイジングの成否は,現地本部がど のようにFCシステムを導入し,加盟者を募集す るかというサブFCによっても大きく左右される のである。中国における日系CVSの事業展開の場 合は,全体的に日販が低いため,トレードオフの 中での調整だけでなく,出店速度とオペレーショ ンの水準向上を同時に達成する仕組みが求められ ているかもしれない。  今後においては,店舗開発という側面から,中 国における日系CVSの事業展開を引き続き観察す る必要がある。日系CVS各社が,ビジネスパート ナーとの協業によって,統治の強さと出店の速さ のトレードオフ関係を克服していくことができる かどうかを, マスターFC,サブFCの双方の次元 において検討していく。また,中国における日系 CVSの事業展開を影響する要因として,出店だけ でなく,現地消費者の嗜好,外資参入に関する規 制,商品構成とマーチャンダイジング,および物 流システムと情報システムの構築などを含めて考 察する必要がある。これらも今後の課題としたい。

参照

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