執筆 池田美雪 * ミラノ在住
ニュースレター
「ミラノ通信
No.5
」
発行日 平成23年3月18日
発行者 富山・ミラノデザイン交流倶楽部 高岡市オフィスパーク 5 社団法人富山県デザイン協会内 TEL.0766-63-7140 商品の小売りシステムが、近年のインターネットの普及により根本から変化してきているのは周知の事実で あるが、この現象がイタリア国内でどのように具体的に表れているのかを探ってみた。一言で表現するなら、 「既存の小売りシステムに比べ販売パターンが縦横無尽に多岐にわたる」と言える。販売に関わる主要素と して、オフライン・ショップ(従来の街に存在する店舗)、オンライン・ショップ、オンライン・ショップであるウエブ サイトの構成、商品の選択、ショップの宣伝方法、支払い方法、などが挙げられるが、これらの要素がどのよ うに関連し合っているかはケースバイケースであるためスタンダードなパターンが見えない。イタリアの国民 性と言えるのだが、それぞれが好きな形でショップを運営しており、その数は非常に多い為に残念ながら全貌 が見えないのだが、大きな流れとマーケティングおよび実例を通してイタリアの現状を紹介させて頂きたい。 オンライン・ショッピング概況
イタリアの経済新聞「Il Sole 24 ORE」(2011年1月25日付け)によると、イタリア国内の2011年度のオンライン での購入は、昨年比20%増、売り上げ12億ユーロに達すると予想されている。低迷しているこの経済状況にも かかわらず、ウエブサイト上での小売り販売は急速な成長を続ける国内市場の一つである。昨年の成長率は 25%、売り上げ10億2500万ユーロを記録し、イタリアは、イギリス52億ユーロ、ドイツ39億ユーロ、フランス31億 ユーロに続き、ヨーロッパ諸国内のオンライン購入ランキングで4番目に位置づけされる。また、イタリア人一 人あたりの年間でのオンライン・ショッピングの平均支出は1173ユーロ、平均購入点数は27点、とヨーロッパ平 均の1072ユーロ、25点を上回っている。 オンライン・ショッピングは昨年度に成長率を急激に伸ばし、オフライン・ショップでの購入の成長率を上回っ たが、今年も引き続きオンラインでの購入の成長率は伸びるであろうと予測されている。イタリア国内の消費 者は、通常価格よりも15%以上の値引きが期待できるオンライン・ショップでの購入に魅力を感じており、休日 や夜に自宅で商品を選択できることやさまざまな商品を幅広く検討できることと並び、オンライン・ショッピング の成長を促す大きな理由となっている。 ケースヒストリー – YOOX 数々のオンラインショップの中でも大成功を収めているイタリアのサイト「YOOX」の成功例を紹介したい。 ファッション分野でのオンライン販売は書籍の販売と共に年々販売高が伸びており、特にアメリカでは、低価 格の商品よりも有名ブランドの品質に裏付けされた超高価格商品が売り上げを伸ばすという不思議な現象が 起きている。有名なブランドであれば品質は高いであろうという信頼感と、気に入らなければ返品ができると いう安心感が引き金となっている。この現象の一端を担うのがファッション大国であるイタリアの資本100%の YOOXである。YOOXのウエブサイトは67ヶ国を対象に制作されており、世界各国からのオーダーと各国ごとへ の発送システムが整備されている。また、カスタマー・ケアを充実させることで末端消費者とのダイレクトなコン タクトを行ない、ユーザーから多大な信頼を得ている。昨年12月の1カ月の間に、計120万人の単体ユーザー が利用し9600万ページが閲覧されるという驚異的な数字を記録している。
YOOXグループは2000年に、マルチ・ブランドのバーチャル・ブティックとし て銀行家であるイタリア人Federico Marchettiが創業を開始した。現在では、 マルチブランドを扱うyoox.comおよびthecorner.comを手がける他、PRADAや DIESEL、DOLCE&GABBANAなどの単体ブランドのオンラインショップを独占 契約で運営している。 YOOXは、デザイナー、製造者そして専属ディーラーたちとのダイレクトの取 引、さらには新しい流行のコンスタントなリサーチを続ける内に、従来のショッ プの流通経路ではなし得ない商品構成を作り上げてきた。 また、2008年に立ち上げたthecorner.comは、高級カットソーを扱うブランド をセレクトし、このサイトの為だけに制作されたイメージ・ビデオで付加価値を 出し、これらのヴィジュアルを介してそれぞれのブランドのミニ・ショップ(コー ナー)を展開している。 決して安くはない商品構成にもかかわらず、過去3年間の収益を見る と、2007年687万ユーロ,2008年1億145万ユーロ、2009年1億5221万ユー ロ、2010年度予測2億900万ユーロと3年間で約3倍の伸び率を示している。 YOOXのビジネススタイルは、末端消費者と事業家の関係がここ数年間で いかに劇的に変化してきているかを示す良い例といえるだろう。 インターネットに対し懸念を抱いていた高級ブランドも、ウエブサイトの力を 単なる販売ルートとして見なすだけではなく、末端消費者と直接コンタクトを もつことができるグローバルなルートと見なし、マーケティングへの活用を行 なっている。この流れに呼応し、YOOXは、従来のショップと同等の商品販売 をインターネット上で展開することを希望する、単体ブランドの管理を2006年 より開始した。その結果、柔軟なテクノロジー・プラットフォーム、革新的なイ ンターフェース、グローバルな流通、徹底したカスタマー・ケア、国際的レベ ルでのウエブ・マーケティングなどを提供しうる国際企業へと成長を続けてい る。 ファッション高級ブランドのオンライン・ショップ開設への流れは、「物品を販売するにあたりオンライン・ショ ップを併設しなければ生き残れない」という現実と「オンライン・ショップへの信頼性」を象徴的に表している が、他のどの業界においても同様である。 デザイン製品のオンライン・ショップ さて、デザイン界はどうであろうか。イタリアから発信されるデザイン製品やインテリア製品を扱うオンライ ン・ショップはそれなりの数が存在するが、そのカテゴリーは大きく3つに分かれる。1つはメーカー自身が運 営する単体ブランドのオンライン・ショップ、次に、有名デザイナーの家具やデザイン製品、照明器具をより安 く売るアウトレット・ショップ、最後に、選りすぐりのデザイン雑貨、インテリア関連商品などオフライン・ショップ にはない幅広い品揃えを持つ、あるいは個性的な製品のみを扱うセレクトショップ、である。その多くは、イタ リア国内へ向けての販売であり、いまだイタリア語表記のみのウエブサイトも多く見られる。 商品のセレクトや個性が強く、デザイン性の高いセレクトショップをいくつかピックアップしてみたので、参考 にして頂きたい。(次ページの右サイドに記載しています) YOOX 日本語ホームページ http://www.yooxgroup.com/jp/home-page.asp thecorner.com 日本語ホームページ http://www.thecorner.com/home. asp?tskay=36EC9ED6&memory=1)
ノー・コンヴェンショナル・マーケティング コンシューマからプロシューマへの移行 80年代以降から現代に至るポスト・モダンと呼ばれる時代は、多方面で 急速な発展がなされている時代であるが、これらの発展は文化的な流れ や製造上のプロセスを変化させただけではなく、商品を見極める方法をも 変化させてきた。これまで、製造・販売プロセスのサイクルの一部と見なさ れてきた「コンシューマ(消費者)」は単なる消費者から、商品をプロデュー スしていく「プロシューマ(プロデューサー + コンシューマ)」へと位置づけ が変化し、今後も消費システムの重要な鍵を握ると見なされている。 この発展の様相は、ユーザーが新しい方法や考えを作り出すことに積極 的に参加することができるプラットフォームであり、またノー・コンヴェンショ ナル・マーケティングが根本の部分に存在する「インターネット」を介して顕 著に表れている。様々な方法で発信されるアミューズメントや情報がそれ を享受するユーザーでサイクルが終わる従来のマーケティングとは異な り、ノー・コンヴェンショナル・マーケティングは、それ自体がアミューズメン トや情報であり、ユーザー・サイドの参加を促すこと抜きには成り立たない のである。 ノ ー ・ コ ン ヴ ェ ン シ ョ ナ ル ・ マ ー ケ テ ィ ン グ の 分 か り や す い 例 と し て は、YouTubeサイト上にアップロードされた面白おかしいビデオ、あるいは ビデオゲームの中に組み込まれた製品紹介、新聞や雑誌の紙面にブラン ド名を書き込むことを目的に作り出された奇妙なシチュエーション、街の戦 略的なロケーションで行なわれる商品のデモンストレーション、などが挙げ られるであろう。 ノー・コンヴェンショナル・マーケティングの根幹となるコンセプトは、何は さておき口コミである。おもしろい、興味深い、あるいは役に立つといった 理由で、ユーザーたちが商品やサービスなどの宣伝を自ら発信するので ある。 これらの流れを促すプラットフォームとしてソーシャル・ネットワークの 存在は欠かせない。ソーシャル・ネットワークは、バーチャル・コミュニテ ィーの中でもここ数年で裾野が大きく広がっているカテゴリーだが、イタ リア国内ではFACEBOOKの使用率が年々増加しており、顕著な社会現 象として話題になっている。FACEBOOKには、個人の登録以外に企業や 文化団体などもページを持つことができ、「お気に入りのページ」として登 録している多数のユーザーへ向けて随時ニュースを発信している。この 宣伝効果は、企業が持つ単独のウエブサイトへの直接アクセス数に比 べ、FACEBOOK上での同じ情報へのアクセス数は10倍以上というデータ からも裏付けされている。ユーザーが自分のホームページを開くだけで、 友達からのおすすめの情報やイベント情報、ニュース、新製品の紹介な ど、さまざまな情報を多数の友人から簡単に入手できることが、人との接 触を大事にするイタリア人の現代の生活スタイルに合っているといえる。 このシステムを利用する企業サイドの利点としては、情報や広告を閲覧し たユーザーの数を確実に把握できる点である。同時に「口コミ」=「生きた 情報網」を介しての商品アピールやイベント告知などは、従来の媒体では DESIGN2 http://www.designdesign.it/ 有名な建築家と新進クリエイターが制作 したアーティスティックな製品を扱う KIKAU STORE http://www.kikaustore.it/ キッチン用品からガーデニングや旅行カ バンまで幅広い品揃え PIGR’ http://www.pigr.it/ 大量生産ではない、個性的なデザイン 製品を扱う AtCasa http://atcasa.corriere.it/yoox/ イタリアの新聞Corriere della Sera紙の デザイン・ポータルAtCasaがYooxと提携 しているショップ
網羅しきれなかった範囲にまで及ぶことができる。昔からイタリアでは情報交換を街の広場で行なってきた が、FACEBOOKはバーチャル版の街の広場として活用されている。 これらのノー・コンヴェンショナル・マーケティングの手法により、企業は現代消費者を巻き込んだ有効な販 売システムを活用できるはずなのだが、その理念は残念ながら広く理解されておらず、このマーケティングの 輪郭が形成されるのは、もう少し先になるだろう。 テンポラリー・ショップ(ポップアップ・ショップ) ノー・コンヴェンショナル・マーケティングの活用形として、ここ1、2年の間、ミラノ市内でその数を増やすテン ポラリー・ショップが定着しつつある。テンポラリー・ショップは、2002年、ロンドン市内にて、とある大手スーパ ーがクリスマス商戦を勝ち抜く為に出展した仮店舗が発端と言われている。さらに、2008年のリーマンショッ ク以降、広告費を大幅に削減した企業が、限られた予算で確実に末端消費者へ商品イメージを伝え、また彼 らからの直接のリアクションを期待できるテンポラリーショップに注目し始めたことから、このマーケティング手 法が急速に使われ始めた。ショップのオープニング期間は、3日間といった短期イベント的なものから3ヶ月と いった一種のギャラリー展示的なものまで、企業の狙いに応じてフレキシブルに変容する。 ミラノで毎年行なわれるフオーリ・サローネの期間中に、デザインとは関係のない数多くの企業が、このイ ベントの集客力と話題性に惹かれ参加し、究極のテンポラリー・ショップとして頂点を極めている。ただし、こ のイベントは特殊なケースであり、数限りない展示の中で、いかに見るものにインパクトを与えブランドイメー ジを残すかといった戦略を駆使する時、そこにかける予算は決して低くはない。 年間を通じミラノ市内の主要なショッピングストリートに点在するスペース内では、約1ヶ月サイクルで中身 がリニューアルされているようだ。その多くが、マルチブランドを扱うブティックなのだが、Corso Garibaldi 59番 地にあるスペースではその立地の良さで、サイクル毎にたいへん魅力的なテンポラリー・ショップを展開して いる。同スペース内では、昨年9月に「WA-Infinity」と題し、日本人アーティストや伝統工芸家たちが現代の日 本文化を紹介し、同時にイタリア文化との接点を模索するパフォーマンス的なイベントが行なわれ話題を呼 んだので、ご存知の方もいるだろう。 また、クリマスシーズンには大手チョコレート会社FERREROが「テンポラリー・ブティックFERRERO」として、 このスペース内にハイクラスのブティックをプロデュースし、1対1のエスコート嬢を配するなどして従来の小 売りのチョコレートのイメージ・アップを目論んだ。 短期間で効率よく商品アピールができ、かつ消費者のダイレクトなリアクションを得られるイベント性の高い この方法は、ショップのオープン前のグローバルな告知が成功の鍵を握っているが、低予算で実現可能な案 である。 セレクトショップ イタリア国内の地方都市では、街の規模が小さい為に単体ブランドのショップが参入しにくいこともあり、デ ザイン性の高いインテリア関連商品やキッチン用品を扱うセレクトショップが根強く幅を利かせている。イタリ アでは、納得のいく物を購入しようと思えば、地方のこの種のショップに行けば手っ取り早いように思える。 ミラノは街の規模に比べ、日本でいうセレクトショップは数が非常に少ない。近年のグローバル化の影響で 大型チェーン店が台頭しており、オーナーが選んだセンスの良い物を数多く手がけるショップは、まさに個人 経営の難しさを物語っているようだ。非常に規模が小さいショップであれば、ナヴィリオ地区とブレラ地区(ア ートに関連した地区)にいくつか点在し、それぞれが個性的に手の温もりの伝わる商品やクリエイティブ性の 強い商品を紹介している。
執筆者 略歴 池田美雪 インテリアデザイナー 武蔵野美術大学基礎デザイン学科卒 1994年よりミラノ在住 主に個人邸の改築、パブリックスペースの設計に携わる 設計外に携わったプロジェクトとして ”do it jubunde”展(無印良品、ニコレッタ・ブランヅィとのコラボレーション) を企画ならび実現 ”Soundesign”展 (Marangoniファッションスクール主催) にて弦楽器”Caravantar”を発表 写真雑誌“ZOOM”日本版のコーディネート、翻訳 など “TuPlay”展にてグラス楽器”FASOLA”を発表 現在はクリエイティブ・コンサルティング会社 (デジタルゲーム、ウエヴサイト、グラフィックデザイン) の共同経営者として活動 しながら、デザイン・ アートに関するコーディネイト、翻訳および通訳に携わっている また、イタリア人新進デザイナー達を世界へ紹介するインタビュー・プロジェクト”11x11x2011”を企画制作中 その中にあって、商品の品揃えと集客力で不動の地位を確立しているのが、Corso Comoの近くにあるセレ クトショップ、High-Techである。1982年、インク工場として使われていた建物を改造して、「機能性が高く」「セ ンスの良い」「正当な価格の商品」を扱うショップとしてオープンし、現在では2000平米から構成されるこのシ ョップの他に、ミラノ郊外にCARGOという名の巨大な支店を併設している。商品は世界各国から選ばれた、 インテリア雑貨、照明器具、日用雑貨、キッチン用品、 バス用品、 ホームウエア、家具、 文具、 ペット用品、 ガーデニング、など非常に幅広く、昨年にはティーコーナーも新設され、「ここに来れば、探している物が必ず 見つかる」という安心感を与えている。その中には、質の良い日本製品も数多く販売されている。 その他、イタリア唯一のデパートRinascenteの本店地下に2009年秋にオープンした「Design Supermarket」 があるが、これも1つのセレクトショップといえるだろう。名前から察するとおり「スーパーで買い物をするよう に気軽にデザイン製品を買おう」というコンセプトがベースになっている。世界中から集めた有名ブランドの デザイン製品(食器、インテリア関連商品、雑貨など)にはデザイナーの名前が明記され、消費者のデザイ ンへの意識を高めると共に総合的なライフスタイルの提案を行なっている。一般客が路面店ならば足を踏み 入れるのをためらう高級ブランドを数多く扱い、身近に気軽にハイクオリティ・デザインに触れる場を設けてい る。 High Tech ミラノの老舗のセレクトショップ。2000平米の広い店内で は、生活に関わるあらゆるデザイン製品が販売される。 テンポラリー・ブティックFERRERO Ferrero社がクリスマス商戦に向けてオ ープンしたテンポラリーショップ。 Design Supermarket リナシェンテ百貨店本店地下に新設 された、デザイン製品を扱うセレクト ショップ