• 検索結果がありません。

Vol. 19 No. 4 December 2012 level and replace them to the original category, and (2) cut not-is-a links between categories and category-to-articles. E

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "Vol. 19 No. 4 December 2012 level and replace them to the original category, and (2) cut not-is-a links between categories and category-to-articles. E"

Copied!
51
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

上位下位関係オントロジーの構築

柴木 優美

・永田 昌明

††

・山本 和英

Wikipedia を is-a 関係からなる大規模な汎用オントロジーへ再構成した.Wikipedia の記事にはカテゴリが付与され,そのカテゴリは他のカテゴリとリンクして階層構 造を作っている.Wikipedia のカテゴリと記事を is-a 関係のオントロジーとして利 用するためには以下の課題がある.(1) Wikipedia の上位階層は抽象的なカテゴリで 構成されており,これをそのまま利用してオントロジーを構成することは適切でな い.(2) Wikipedia のカテゴリ間,及びカテゴリと記事間のリンクの意味関係は厳密 に定義されていないため,is-a 関係でないリンク関係が多く存在する.これに対して 我々は (1) を解決するため,上位のカテゴリ階層を新しく定義し,Wikipedia の上位 階層を削除して置き換えた.さらに (2) を解決するため,Wikipedia のカテゴリ間, 及びカテゴリ記事間の not-is-a 関係のリンクを 3 つの手法により自動で判定し切り 離すことで,Wikipedia のカテゴリと記事の階層を is-a 関係のオントロジーとなる ように整形した.本論文では not-is-a 関係を判定するための 3 つの手法を適用した. これにより,“人”,“組織”,“施設”,“地名”,“地形”,“具体物”,“創作物”,“動植 物”,“イベント” の 9 種類の意味属性を最上位カテゴリとした,1 つに統一された is-a 関係のオントロジーを構築した.実験の結果,is-a 関係の精度は,カテゴリ間で 適合率 95.3%, 再現率 96.6%,カテゴリ‐記事間で適合率 96.2%,再現率 95.6%と 高精度であった.提案手法により,全カテゴリの 84.5%(約 34,000 件),全記事の 88.6%(約 422,000 件)をオントロジー化できた. キーワード:オントロジー,シソーラス,is-a 関係,上位下位関係,Wikipedia

Constructing Large-Scale General Ontology

from Wikipedia

Yumi Shibaki, Masaaki Nagata†† and Kazuhide Yamamoto We have built a Japanese large-scale general ontology restructured from Wikipedia, that represents a is-a relation hierarchy. A Wikipedia’s article page belongs to one or more categories that are organized hierarchically by linking to others. However, there are the following two issues to be solved in order to use the categories and the articles as is-a ontology: (1) The higher levels of the hierarchy seems to be too abstract so that it cannot be applied directly into an ontology. (2) There are many

not-is-a links seen in the articles, because of low-quality descriptions that may

hap-pen in consumer-generated media. In order to solve these, we (1) redefine the highest

長岡技術科学大学電気系, Department of Electrical Engineering, Nagaoka University of Technology †† NTT コミュニケーション科学基礎研究所, NTT Communication Science Laboratories

(2)

level and replace them to the original category, and (2) cut not-is-a links between categories and category-to-articles. Experimental results show that the accuracy of is-a links between categories is 95.3% precision and 96.6% recall, while that of is-a links between a category and the article is 96.2% and 95.6% respectively. The accu-racies significantly outperform the previous methods. We extracted 84.5% categories (approximately 34,000) and 88.6% articles (approximately 420,000) in Wikipedia. Key Words: ontology, thesaurus, is-a relation, super-subrelation, Wikipedia

1

序論

近年,質問応答や要約,含意認識などで,幅広い知識の必要性が高まっている.幅広い分野 の一般的知識を記述したものに汎用オントロジーがある.オントロジーとは概念の意味と概念 同士の関係を定義したものであり,特定の分野に偏らず幅広い分野に対応したオントロジーを 汎用オントロジーという.概念間の関係には,is-a 関係1(上位‐下位概念)や part-of 関係(全 体‐部分関係)など様々な種類がある.固有名詞や日々生まれる新しい語彙への即時対応を目 指して,即時更新性と知識量の多さに優れたオンライン百科事典である Wikipedia を利用した is-a 関係の汎用オントロジーの作成が注目されている (森田,山口 2010). 汎用オントロジーと言われるものには少なくとも 2 つのタイプがある.一つは,WordNet (Fellbaum 1998) のように,語と語の関係(synset で表現される語義と語義の関係)を表現する ものと,日本語語彙大系 (池原,宮崎,白井,横尾,中岩,小倉,大山,林 1997) のように,あ る語の上位概念をさまざまな粒度で表現したもの(語を階層的に分類したもの)である.前者 は,上位下位関係を構成している単語対をたくさん獲得する方法であり,例えば「紅茶はお茶 の一種で,紅茶にはアールグレーやダージリンがある」というような,ある単語を中心として 上位概念と下位概念を表現する用語の集合を獲得する(ある単語の近傍の単語の集合を密に獲 得する)目的に適している.またこのような目的のために,7.1 節で述べるように Wikipedia か ら is-a 関係の抽出の研究も行われている. 本研究では後者のタイプの汎用オントロジーを目指す.このタイプの汎用オントロジーから は,葉節点にある概念(Wikipedia の記事の見出し)の上位語を,トップレベルとして設定した 10 個程度の上位概念まで,細かな粒度から荒い粒度まで順に,葉節点の概念を分類する用語が 並んでいるような知識表現が得られる.このようなオントロジーの典型的な応用は,クエリロ グの解析のためにアイドルの名前を集めたり,アニメのタイトルのリストを作るといった用語 リストを作ることである.特に,何らかのアプリケーションのために,「日本の今」を反映する ような固有表現辞書を作る場合に有効である.

(3)

Wikipedia の記事にはカテゴリが付与され,そのカテゴリは他のカテゴリとリンクして階層 構造を作っている.しかしオントロジーと違い,Wikipedia のカテゴリ間,カテゴリ‐記事間 のリンクの意味関係は厳密に定義されていない.そこで,Wikipedia のリンク構造から is-a 関 係のリンクを抽出する,以下のような研究が行われている.

1. Wikipedia のカテゴリ間のリンクから is-a 関係のリンクを抽出し,is-a 関係のリンクでつ ながる部分的なカテゴリ階層を複数抽出する研究 (Ponzetto and Strube 2007; 桜井,手 島,石川,森田,和泉,山口 2008; 玉川,桜井,手島,森田,和泉,山口 2010) 2. WordNet や日本語語彙大系のような既存のオントロジーに,Wikipedia のカテゴリや記

事を接続する研究 (Suchanek, Kasneci, and Weikum 2007; 小林,増山,関根 2008, 2010) 3. 既存のオントロジーの下位に,Wikipedia から抽出した部分的なカテゴリ階層と記事を 接続する研究 (柴木,永田,山本 2009) 1∼3 の手法は is-a 関係のリンクの抽出や既存のオントロジーの接続に文字列照合を用いるため, 適合率は高いが再現率が低い.手法 2 では,Wikipedia のカテゴリ階層の情報が失われる.手法 3 は Wikipedia のカテゴリ階層の情報をオントロジーに組み込めているが,上位階層に既存のオ ントロジーを用いているため,多くのカテゴリ階層の情報が失われる.また手法 3 は既存のオ ントロジーと Wikipedia のカテゴリの接続部分を人手で判定しているため半自動の手法である. 本研究では,Wikipedia の階層構造を出来るだけそのまま生かし,新たに定義した上位カテ ゴリ階層に Wikipedia を整形した階層を接続することで 1 つに統一された is-a 関係のオントロ ジーを自動で構築する(図 1).目標とするオントロジーの特徴は主に以下の 2 点である. 1. Wikipedia の各記事名に対して,上位下位関係に基づく順序が付いた上位語のリストを Wikipedia のカテゴリ階層から作成する.

2. Wikipedia の記事名の全体集合を,網羅的 (broad coverage) かつ重なりなく (disjoint) 分 類できるような,上位下位関係に基づく階層的な分類体系を Wikipedia のカテゴリ階層 から作成する.

本手法では初めに,Wikipedia の上位のカテゴリ階層を削除する.またカテゴリ間とカテゴリ‐ 記事間の is-a 関係でないリンク(以下,not-is-a 関係)を高い精度で削除し,残ったリンクを is-a 関係とみなすことで Wikipedia を is-a 関係のリンクのみでつながる階層へ整形する.次にそれ らの階層を新たに定義した深さ 1 の上位階層の下位に接続することで,1 つに統一された階層 を再構成する. 本研究では,(1) 全概念を網羅していることを明確化するため (2) 標準的な構造 (3) 計算機処 理しやすい,という理由から,体系が統一された汎用オントロジーの構築を目指す. (1) 一般に,「人オントロジー」「組織オントロジー」など個別のオントロジーを作成しても それらのオントロジー間の関係は並列とは限らない.また今回作成した 9 つで概念のど れだけを網羅しているのかも分かりにくい.我々は,(ほぼ)全概念を 9 種類の排他的な

(4)

図 1 本手法で構築する汎用オントロジーの一部 意味属性で網羅していることを明確化するため,一つのオントロジーとして構築した. (2) これまでに提案されているオントロジーである日本語語彙大系なども同様の形式であり, このような構造にすることによる恣意性,特殊性はない.本研究はオントロジーのある べき表現構造の議論を行うのが主眼ではないため,最も標準的な構造のオントロジー構 築を目指した. (3) 計算機で処理する上で全体が統一された一つの構造となっているほうが便利であり,ま た柔軟性がある.汎用オントロジーとして構築したものの一部(例えば「人」オントロ ジーのみ)を利用することは可能だが,一般に逆は可能とは限らない. 本研究で作成するオントロジーの利用例として質問応答システムを取り上げる.集合知によっ て作成された百科事典である Wikipedia は,一般的な(常識的な)知識を記述したものであり, Wikipedia の記事名の集合は,多くの人が興味を持つ「もの」と「こと」のリストと考えられ る.本研究で構築するオントロジーを用いると,記事名に関して用途に応じて様々な粒度での

(5)

分類や記述が可能になる.例えば質問応答システムにおいて,「ドラゴンボールとは何か?」と いう質問に対して,その上位語「格闘技漫画」「冒険作品」「週刊少年ジャンプの漫画作品」は いずれも回答となる.また上記項目 2 のように一つの統一された階層分類になっていることで, 任意の 2 つの記事名に対して必ず共通の上位語が存在し,共通の上位語に至るまでの上位語は 2 つの記事名の違いを特徴付けることができる.例えば「ONE PIECE と名探偵コナンの違い は?」という質問に対して,共通の上位語である「漫画作品」と,それぞれの上位にある語「週 刊少年ジャンプの漫画作品」,「週刊少年サンデーの漫画作品」を使って,「どちらも漫画作品だ が,ONE PIECE は週刊少年ジャンプの漫画で,名探偵コナンは週刊少年サンデーの漫画」と いうような回答が可能になる. 本論文では以降,2 章でオントロジーと Wikipedia について説明した後,3 章で本研究で提案 する汎用オントロジー構築手法を示す.次に 4 章で実験条件,5 章で実験結果,6 章で考察を述 べる.そして 7 章で Wikipedia からのオントロジーを構築する関連研究について紹介し,最後 に 8 章で本論文の結論を述べる.

2

オントロジーと Wikipedia

本研究で扱うオントロジーは,対象とする世界に存在する概念とそれらの間に成立する関係 を記述したものを指す.概念間の関係は様々なものがあるが,代表的なものは is-a 関係(上 位‐下位概念)と part-of 関係(全体‐部分関係)である.is-a 関係とは,B is a A,(B は A の 一つ,B は A の一種)が成り立つときの A と B の関係をいう.例えば図 2 では「自動車は乗り 物の一種」が成り立つので,乗り物と自動車は is-a 関係である.このとき A を上位語,B を下 位語という.part-of 関係とは,B is a part of A(B は A の一部)が成り立つときの A と B の 関係をいう.図 2 では「タイヤは自動車の一部」が成り立つので,自動車とタイヤは part-of 関

(6)

係である.このとき A を部分語,B を全体語という. 概念を単語の集合(カテゴリ)と考えると,カテゴリには具体物(インスタンス)が分類さ れる.本研究では,カテゴリ間とカテゴリ‐インスタンス間を is-a 関係で表したオントロジー を扱う. is-a 関係で表したオントロジーを用いれば,階層を用いて語彙を抽象化したり,リンクの距 離から類似度を計算したりできる.これらは,検索,意味処理,情報抽出,機械学習や統計処 理など様々な用途に適用可能である. 幅広い分野の一般的知識を記述した汎用オントロジーの一つに日本語語彙大系 (池原 他 1997) がある.日本語語彙大系は,日本語約 30 万語を約 3,000 種類の意味属性で分類したオントロジー である.日本語語彙大系には,約 2,700 のカテゴリと約 10 万のインスタンス(普通名詞)から なる一般名詞の意味体系(図 3)が収録されている2.語彙大系のカテゴリ階層は木構造になっ ていて,カテゴリ間,カテゴリ‐インスタンス間の関係は is-a 関係で表される3.また多義性が あるインスタンスはいくつかのカテゴリが付与される.例えば,「モデル」は “人” と “玩具” の 2 つの意味があるので,2 つのカテゴリ “芸人” と “遊び道具・文房具” が付与される. 現状では,既存のオントロジーの大部分は,多大なコストをかけて手動で構築されている (森 田,山口 2010).そこで近年,半構造化された Wikipedia から(半)自動でオントロジーを構築 図 3 日本語語彙大系 2 以降,日本語語彙大系の一般名詞意味体系を “語彙大系” と表記する. 3 一部 part-of 関係も存在する.

(7)

する研究が盛んに行われている. Wikipedia は即時更新性に優れた自由に利用できるオンライン百科事典であり,Web 上で XML 形式のダンプデータが公開されている4.記事の本文には,見出し語と説明文(本文の第一文は 見出し語の定義文であることが多い),記事を分類するカテゴリが書かれている.そしてこの カテゴリは他のカテゴリとリンクして階層構造を作っている(図 4).しかしオントロジーと違 い,カテゴリ間の関係やカテゴリ‐記事間の関係は定義されておらず,is-a 関係が最も多いが is-a 関係でないものもある.例えば,カテゴリ「変光星」と,このカテゴリが付与されている記 事「爆発変光星」は is-a 関係にあるが,同じく「変光星」が付与されている記事「アメリカ変 光星観測者協会」とは is-a 関係にない.2,500 件のサンプル調査の結果,is-a 関係のリンクの割 合はカテゴリ間で 72.1%,カテゴリ‐記事間で 74.7%であった5.またオントロジーの最上位カ テゴリと違い,Wikipedia のカテゴリ階層は is-a 関係による分類を目的としておらず,ジャンル を分類するための 9 カテゴリ(主要カテゴリ)を最上位としている. 図 4 Wikipedia 4 http://download.wikimedia.org/jawiki 5 本論文でのサンプル調査は全て 2008 年 7 月 24 日の日本語 Wikipedia を用いた.

(8)

3

汎用オントロジー構築手法

Wikipedia のカテゴリと記事の階層は日本語語彙大系のような 1 つに統一されたオントロジー のように見えるが,前節で述べたように,上位のカテゴリ階層や,カテゴリ間,カテゴリ‐記 事間のリンク関係が定義されていないため,オントロジーとは言えない.そこで本手法では Wikipedia の上位のカテゴリ階層を削除して新たに定義した上位カテゴリ階層と置き換える.さ らに,カテゴリ間,カテゴリ‐記事間の is-a 関係でないリンク(not-is-a 関係)を自動で切り離 し,is-a 関係でつながる階層へと整形する.削除した上位カテゴリ階層と置き換える上位階層 として,図 1 のように “人”,“組織”,“施設”,“地名”,“地形”,“具体物”,“創作物”,“動植 物”,“イベント” の 9 種類の意味属性をカテゴリとする深さ 1 の階層を定義した.この上位カ テゴリ階層の下位層として,Wikipedia を整形した階層を接続する. 7 節で述べるように,従来の研究は is-a 関係となっている 2 語の特徴を如何にして捉えるか に注力されてきた.これに対して我々は,is-a 関係の特徴を捉えることよりも,補集合である not-is-a 関係の特徴を捉えるほうがタスクとして容易であると考え,not-is-a 関係の判別問題と してタスク設定することを提案する.両者は得られた集合の補集合を取ることで結果として同 じタスクとなるが,これは両タスクの問題の困難性が同じであることを意味しない. 本章では初めに,3.1 節で Wikipedia のカテゴリ間,カテゴリ‐記事間のリンクが not-is-a 関 係になる場合についての調査結果を述べる.次に 3.2 節で,本手法で使用する上位カテゴリ階層 を定義する.3.3 節∼3.5 節では,not-is-a 関係であるリンクを網羅的に判定することで,is-a 関 係のリンクのみを残す手法を提案する.最後に 3.6 節で,新たに設定した上位カテゴリ階層と, 整形した Wikipedia のカテゴリ階層を接続して 1 つの階層に再構成する手法について述べる.

3.1

Wikipedia のリンクと is-a 関係

図 4 のように,Wikipedia のカテゴリは主要カテゴリと呼ばれる 9 カテゴリを最上位として いる.主要カテゴリは語彙大系の最上位カテゴリと異なり,is-a 関係による分類を目的とした ものではない.本手法では,Wikipedia の上位のカテゴリ階層を削除して,新たに定義する上 位階層へ置き換える.上位のカテゴリは意味が抽象的な単語(例:社会,技術)となる傾向が あるため,本手法では意味が抽象的な単語を削除することで上位階層の削除を行う. 一方,下位の階層になるほど分類はより具体的になり is-a 関係になりやすい傾向にある.し かし最下位階層でも,地名や人名,組織などの固有名詞がカテゴリ名になっている場合,「長岡 市← 長岡まつり」,「長岡市 ← 北越銀行」のようにカテゴリと記事は is-a 関係になりにくい傾 向にある.以上を踏まえ,我々は Wikipedia のカテゴリ間,カテゴリ‐記事間のリンクが is-a 関係になりにくい場合を以下の 3 種類の規則にまとめた.

(9)

1. 親子が意味的に類似していない場合は not-is-a 関係とする (例)筆記用具← 万年筆メーカー,植物 ← 草木の神 単語同士が深く関連していても,意味的に類似していない場合は is-a 関係にならない. 2. 親が固有名詞の場合は not-is-a 関係とする (例)少年ジャンプ←ONE PIECE,新潟県 ← 長岡市 オントロジーは上位になるほど概念が抽象的になり共通概念が増えるが,反対に下位と なるほど概念が個別化,具体化する.最も個別化した固有名詞はすべて最下位の概念に 属し,基本的に下位に単語を持たない. 3. 子名の前方が親名と一致する場合は not-is-a 関係とする (例)火星← 火星の衛星,缶 ← 缶コーヒー 日本語は修飾語が先行して被修飾語が後続する構造のみが許される言語であることから, ある二つの単語が前方一致する(かつ完全一致しない)場合,概ね一方は修飾語,他方 は被修飾語として使用される.「火星」と「火星の衛星」の場合は,一方の概念は「火星」 だが,他方は「火星」を修飾語として立てる被修飾語,すなわち「火星に何らかの意味 関係がある別の概念」(この例の場合は「衛星」)である可能性が高くなる.このように 親名の主辞が子名の主辞以外に存在するとき,子と親は is-a 関係ではなく part-of 関係や 話題が類似した関係にあることが多い. Wikipedia の上位階層の削除と,規則 1 の判定を行うために,幅広い分野に適用可能な 9 種類の 意味属性(表 1)にカテゴリ名または記事名を分類する.どの意味属性にも分類されない単語は 抽象的な単語と判定し,削除する.また規則 1 は親子が同じ意味属性に分類されなければ意味 的に類似していないと判定する.規則 2 は親名が固有名詞かどうかを判定すればよい.規則 3 は単純な文字列照合で判定可能である. これらの方法で抽象的すぎる単語を削除,及び is-a 関係でないリンクを判定したとき,どの程 度 is-a 関係を判定できるのか人手で調査した.全カテゴリ間,全カテゴリ‐記事間のリンクか ら無作為抽出した各 2,500 件のサンプル調査の結果,9 種類の意味属性での is-a 関係の精度は, カテゴリ間で適合率 98.9%,再現率 99.3%,カテゴリ‐記事間で適合率 99.3%,再現率 98.9%で あった.適合率を下げる誤りは,親子が同じ意味属性かつ親名が普通名詞でも not-is-a 関係と なる場合に発生する(例:血液←血球,千葉県の道路←千葉県の道の駅,日本の内閣総理大臣 ←内閣総理大臣夫人).再現率を下げる誤りは,親名が固有名詞でも is-a 関係が成り立つ場合 (例:中東欧←東欧,沖縄県営鉄道←沖縄県営鉄道糸満線)や,子名の前方が親名と一致しても is-a 関係が成り立つ場合(例:日本人←日本人の学者,映画←映画作品)に発生する.しかし, 全体から見ればこれらは少数の例外とみなせるため,結果として提案した方法で not-is-a 関係 のリンクを切り離せば,is-a 関係を高精度で判定できることを確認した.

(10)

表 1 意味属性に対応する主な語彙大系のカテゴリと,分類される単語例 意味属性 対応する語彙大系のカテゴリ 分類される単語例 人 人*,職業,人名 人名,職業,氏族,民族,神,魔物,マスコット 組織 仕事場*,組織* 企業,スポーツ団体,政党,公演組織,軍,家系,組合 施設 公共機関*,施設*,家屋(本体), 建造物 交通路,学校,病院,博物館,図書館,公園,遊園地, 寺院,城,競技場 地名 地域*,国家,行政機関 国,都市,場所,地域 地形 自然* 山,川,峠,島,海,河川,天体 具体物 無生物*,工芸,彫刻 物質,道具,食べ物 創作物 創作物*,文書*,出版物 映画,音楽,番組,本,新聞,ソフトウェア,絵画 動植物 生物* 動物,植物,体の一部 イベント 出来事*,式・行事等*,戦争,競 争,紛争,闘争,開会,会議,会 談,行為(宗教)*,不全*,非生命 現象*,活動,騒ぎ,選挙,改革, 試験,訴訟・裁判*,入籍,慶弔*, スト,事,自然現象 事件,戦争,式,行事,スポーツ大会,天気,病気,選 挙,試験,裁判,会議,社会運動,電気,熱,火,色 その他 上記以外の全てのカテゴリ 文化,歴史,経済,行為,規則,言語,スポーツ,賞, 学問,Wikipedia の内部向けのページ ※上記の語彙大系のカテゴリ名に「*」が付与されている場合,そのカテゴリ以下の全てのカテゴリ(ただし,他の意 味属性に対応付けされているカテゴリを除く)を指す. ※ 1 つの意味属性に対し,平均 130 個の語彙大系のカテゴリを対応づけている. ※語彙大系のカテゴリと意味属性は 1 対 1 で対応する.

3.2

上位カテゴリ階層の設定

我々は Wikipedia のカテゴリを調査し,独自に Wikipedia の階層を下位層として網羅できる ような,深さが 1 の上位カテゴリ階層を定義した.本手法では図 1 のように “人”,“組織”,“施 設”,“地名”,“地形”,“具体物”,“創作物”,“動植物”,“イベント” の計 9 種類の意味属性を最 上位カテゴリとして定義する.定義の際,以下の 3 点を考慮した. 1. Wikipedia の記事名の集合を網羅するような上位語の集合であり,かつ,抽象的過ぎな いこと. 2. not-is-a 関係の判定手法の 1 つ「1. 親子が意味的に類似していない場合は not-is-a 関係 とする」の「意味的に類似していない」を判定できる粒度であること. 3. 一般的な上位下位概念の粒度 10 前後の分類とほぼ対応がとれること. 基本的には関根の拡張固有表現階層6の第一階層である 10 カテゴリを参考にしている.これら のカテゴリは語彙大系のカテゴリの第四階層とほぼ対応がとれる.ただし,機械学習による分 類器が作れるほどのカテゴリと記事数がないもの(例:規則,スポーツ,賞)や,語彙大系に対 6 http://sites.google.com/site/extendednamedentityhierarchy/

(11)

応付けが難しいもの(例:行為,サービス)に関しては意味属性を設定しても分類精度が落ち るため,今回は対象外とした.表 1 に意味属性に対応する語彙大系のカテゴリと,分類される 単語の例を示す.また表 2 に提案手法で設定した意味属性と関根の拡張固有表現階層のカテゴ リとの対応表を示す.2,500 件のサンプル調査の結果,Wikipedia のカテゴリでは全体の 86.3%, 記事では 90.4%がいずれかの意味属性に分類された.各意味属性別の割合を図 5 に示す. 表 2 提案手法の意味属性と関根の拡張固有表現階層のカテゴリの対応表 提案手法の意味属性 対応する関根の拡張表現階層のカテゴリ名 人 人名,神名,製品名‐キャラクター名,製品名‐称号名 組織 組織名 施設 施設名(“施設名‐遺跡” を除く) 地名 地名‐ GPE,地名‐地域名 施設名‐遺跡 地形 地名‐温泉名,地名‐地形名,地名‐天体名 具体物 製品名‐材料名,製品名‐衣類名,製品名‐貨幣名,製品名‐医薬品名,製品 名‐武器名,製品名‐乗り物名,製品名‐食べ物名,自然物名‐元素名,自 然物名‐化合物名,自然物名‐鉱物名 創作物 製品‐芸術作品名,製品‐出版物名 動植物 自然物名‐生物名,自然物名‐生物部位名 イベント イベント名,病気名,色名 ※上記したカテゴリより下位にカテゴリがある場合はそのカテゴリも含む. ※製品名‐株名,賞名,勲章名,罪名,便名,等級名,識別番号,主義方式名,規則名,称号名,言語名,単位名,時 間表現,数値表現は提案手法の意味属性とは対応していない. ※病気名,色名は語彙大系においてカテゴリ “自然現象” の下位にあるため “イベント名” に対応づけた. (a) カテゴリ (b) 記事 図 5 意味属性に分類される Wikipedia のカテゴリと記事の割合(各 2,500 件調査)

(12)

3.3

意味属性分類による上位カテゴリ階層の削除と not-is-a 関係の判定

本節では,上位カテゴリ階層の削除,及び 3.1 節の規則 1「親子が意味的に類似していない場 合は not-is-a 関係になる」を判定するために,カテゴリと記事を 9 種類の意味属性に分類する. どの意味属性にも分類されない単語は抽象的な単語と判定し,削除する.また親子が同じ意味 属性に分類されなければ意味的に類似していないと判定する. 本手法では,9 種類の意味属性をまたがる複数ノードへの所属は許可していない.例えば「シ ンデレラ」はカテゴリ「グリム童話」であるが他方でカテゴリ「文学の登場人物」でもある. よって本来は意味属性「創作物」と「人」のどちらにも分類すべき単語である.しかし本提案 手法においては(SVM の出力値より)「創作物」と判定され,作成されたオントロジー上では 文学の登場人物の意味は失われる.ただ,我々の観察ではこのように複数ノードに所属される べき事例は実際にはほとんどないことから,2 単語が所属する意味属性が異なる場合はほとん ど not-is-a 関係ということになり,この性質を利用して高精度に判別している.よって「シン デレラ」のような事例に対しては現状で対処できず,今後の検討課題としている. 一方,同じ意味属性内においては複数ノードへの所属を許している.例えば,「イチロー」は 「アメリカンリーグ首位打者」であり「シアトル・マリナーズの選手」でもあるため,意味属性 はどちらも「人」となる.このような状況では「アメリカンリーグ首位打者」と「シアトル・マ リナーズの選手」の両カテゴリの下位単語であることを許している.この結果,作成したオン トロジーは木構造とはなっていない. 3.3.1 カテゴリ分類 Wikipedia のカテゴリを SVM による分類器を用いて 9 種類の意味属性に分類する.本手法で は,多値分類を行うために one-vs-rest 法を用いる.SVM の出力値が 0 以上かつ最も出力値の 高い分類器に Wikipedia のカテゴリを分類する.今回は,カテゴリを 9 種類の意味属性に分類 するための 9 個の分類器に,「その他のカテゴリ名」を分類するための分類器を加えた計 10 個 の分類器を作成した. 提案手法では,機械学習による分類器の作成に「再分類法」を用いる.提案手法における再 分類法とは,初めにあらかじめ用意した少数の学習データを用いて分類器を作成してカテゴリ を分類した後,分類器の出力を学習データに加えて再び分類器を作成し,前ステップで未分類 だったカテゴリを分類する手法である.本手法では,カテゴリを 1 件も分類できなくなるまで 再分類を繰り返す.素性作成にはカテゴリ名や以下に定義する周辺の単語などを用いた.以下 に使用した単語を示す7 7 今後,カテゴリ名を取り扱う際には,末尾の特定の文字列を削除することで単語を整形する.特定の文字列とは, 括弧書きや,“の一覧”, “のジャンル” などを指す.

(13)

a. 対象カテゴリ名 b. 親カテゴリ名 c. 子カテゴリ名 d. カテゴリ中の記事の定義文からとれる上位語 e. カテゴリと末尾の形態素が一致する記事の定義文からとれる上位語 「定義文からとれる上位語」とは,記事の定義文(第一文)からパターンマッチで抽出する見出 し語の上位語となる単語である.パターンマッチの例を以下に示す8 ... は,[上位語] の一種である. ... は,[上位語] である. ... [上位語]. 例えば,図 4 の記事の定義文「爆発変光星(ばくはつへんこうせい)とは,変光星の一種.」か らは,見出し語「爆発変光星」の上位語として「変光星」が抽出される.項目 e は,例えばカテ ゴリ名が「イタリアの諸島」で,その下位に末尾の形態素が一致する記事「エオリア諸島」が存 在した場合,この記事の定義文からとれる上位語「島々」を素性に使用する.記事名がカテゴリ 名の末尾の形態素と一致する場合,カテゴリと記事は同じ意味属性である可能性が高い.よっ て,その記事の定義文からとれる上位語はカテゴリそのものの上位語を指すことが多く,カテ ゴリ名を抽象化できる.素性作成の際にはこれらの単語の形態素や品詞,JUMAN におけるカ テゴリ名9を利用した.また,カテゴリ名の末尾の文字列と最長一致する語彙大系のインスタン スに付与された,語彙大系のカテゴリ名及び表 1 で対応づけた意味属性名を素性にした.例え ば Wikipedia のカテゴリ名が「若手小説家」だった場合,末尾の文字列と最長一致する語彙大系 のインスタンスは「小説家」である.よって,「小説家」に付与されている語彙大系のカテゴリ “作家・詩人” を素性にする.また,“作家・詩人” に付与されている意味属性 “人” も素性にす る10.このように「若手小説家」を,語彙大系カテゴリ “作家・詩人” や意味属性 “人” に抽象化 することで,高精度な分類が期待できる.a∼e の単語は普通名詞であることが多く,JUMAN のカテゴリや語彙大系を利用しやすい.表 3 に,学習に用いた素性と,図 6 において生成され る素性を示す.各素性に対し頻度を求めた後,各素性ごとに最大値が 1 になるように正規化し た値を素性ベクトルの値とする.例えば,表 3 の 6-d の素性例は,“人” が 2 件,“具体物” が 1 件なので,素性ベクトルは人:1,具体物:0.5 となる. 本手法のカテゴリ分類では再現率の向上のため,直前のステップで得られた出力を学習デー 8 定義文からの上位語抽出パターンは,小林ら (2008) と隅田ら (2009) の手法をもとに作成したものを使用した. 9 JUMAN の辞書は特定の普通名詞に “人”,“動物”,“植物”,“人工物”,“抽象物” などの意味カテゴリ 22 種を名 詞の意味情報として付与してある. 10本論文では,ある単語の末尾の文字列と最長一致する語彙大系のインスタンスに付与された語彙大系のカテゴリ名 及び意味属性名のことをそれぞれ「単語に文字列照合する語彙大系のカテゴリ」,「単語に文字列照合する意味属性 名」と呼ぶ.

(14)

表 3 カテゴリ分類のための基本素性 素性 図 6 において設定される素性 1 (a: 対象カテゴリ|b: 親カテゴリ |c: 子カテゴり |d: 全 記事の上位語|e: 末尾一致記事の上位語)の末尾の形態 素が X a X=家 b X=者 c X=者 d X=ライター,家 e X=人 2 (a: 対象カテゴリ|b: 親カテゴリ |c: 子カテゴリ)の末 尾以外の形態素が X a X=音楽 b X=音楽,関係 c X=指揮 3 (a: 対象カテゴリ)の末尾の形態素の品詞が X a X=接尾辞 4 (a: 対象カテゴリ|b: 親カテゴリ |c: 子カテゴリ |d: 全 記事の上位語|e: 末尾一致記事の上位語)に文字列照合 する語彙大系のカテゴリが X a X=接辞(人間/単体),家屋(本体),... b X=人間,接辞(人間/単体) c X=人間,接辞(人間/単体) d X=筆者,家庭用具,作家・詩人... e X=人間,他人,... 5 (a: 対象カテゴリ|b: 親カテゴリ |c: 子カテゴリ |d: 全 記事の上位語|e: 末尾一致記事の上位語)の末尾の形態 素の JUMAN のカテゴリが X a X=人 b X=人 c X=人 d X=人工物‐その他,人 e X=人 6 (a: 対象カテゴリ|b: 親カテゴリ |c: 子カテゴリ |d: 全 記事の上位語|e: 末尾一致記事の上位語)に文字列照合 する意味属性が X a X=人,組織,施設 b X=人 c X=人 d X=人,具体物,人 e X=人 ※(○○| ○○)は,それぞれについて別の素性を作成することを意味する. 図 6 カテゴリ分類のための基本素性の例

(15)

図 7 カテゴリ分類のための,既に意味属性が確定している周辺カテゴリを利用した素性 タに加える再分類法を用いる.直前のステップまでに決定したカテゴリの意味属性をもとにし た素性を設定することで,既に意味属性が決定したカテゴリの周辺カテゴリの意味属性を決定 しやすくする.図 7 の例は,対象カテゴリ「子供」の意味属性が未決で,その周辺の 3 つのカ テゴリの意味属性は直前のステップまでに確定した状態である.対象カテゴリ「子供」と子カ テゴリ「子役」は語彙大系のカテゴリ “少年・少女” に属するため,意味的に類似しているとい える.意味的に類似した「子役」の意味属性は “人” なので,「子供」の意味属性も “人” である 可能性が高くなるように素性を設定する.表 4 に,既に意味属性が決定したカテゴリをもとに 設計した素性と,図 7 において生成される素性を示す. 3.3.2 記事分類 カテゴリ分類の後,記事を 9 種類の意味属性に分類する.本手法では,SVM による分類器を 用いて記事分類をした後,どの分類器にも分類されなかった記事を,既に分類された記事情報 をもとに分類する.記事の SVM による分類器はカテゴリ分類器と同様,素性作成には記事名 や以下に定義する周辺の単語,語彙大系を使用した11.以下に記事分類のために使用する単語 を示す. a. 対象記事名 b. 記事の定義文からとれる上位語 c. 対象記事に付与されているカテゴリ名 d. 記事の定義文 11再分類法を用いたところ精度が低下したため,記事分類では用いていない.

(16)

表 4 カテゴリ分類のための,既に意味属性が確定している周辺カテゴリを利用した素性 素性 図 7 において設定される素性 1 (b: 親カテゴリ|c: 子カテゴリ)の分類された意味属性が X b X=その他 c X= 創作物,人 2 (a: 対象カテゴリ)と,(b: 親カテゴリ|c: 子カテゴリ)の末尾の形 態素が一致し,(b|c) の分類された意味属性が X a-b a-c 3 (e: 末尾一致記事の上位語)と,(b: 親カテゴリ|c: 子カテゴリ)の 末尾の形態素が一致し,(b|c) の分類された意味属性が X e-b e-c 4 (a: 対象カテゴリ)と(b: 親カテゴリ|c: 子カテゴリ)の文字列照合 する語彙大系カテゴリが一致し,(b|c) の分類された意味属性が X a-b a-c X=人 5 (e: 末尾一致記事の上位語)と(b: 親カテゴリ|c: 子カテゴリ)の文 字列照合する語彙大系カテゴリが一致し,(b|c) の分類された意味属 性が X a-b a-c 6 (a: 対象カテゴリ)の文字列照合する意味属性と,(b: 親カテゴリ| c: 子カテゴリ)の分類された意味属性が X で一致 a-b a-c X=人 7 (e: 末尾一致記事の上位語)の文字列照合する意味属性と,(b: 親カ テゴリ|c: 子カテゴリ)の分類された意味属性が X で一致 e-b e-c X=人 ※(○○| ○○)は,それぞれについて別の素性を作成することを意味する. 本手法の SVM による分類器での記事分類では,精度を向上させるためにカテゴリ名と記事名の 類似性を判定し,記事名とカテゴリ名が似ていれば,そのカテゴリの意味属性が優位になるよ うに素性を設計した.例えば,図 9 では記事「ロータリー車」とカテゴリ「鉄道車両(具体物)」 は後方の文字列が両者とも語彙大系のカテゴリ “乗り物(本体(移動(陸圏)))” に文字列照合 (両者は意味的に類似)するので,「ロータリー車」が「鉄道車両」と同じ具体物である可能性 が高くなるように素性を設計した.記事分類のための素性を表 5 と表 6 に示す.表 6 は,既に 意味属性が確定しているカテゴリに着目して設定した素性である.表 5,表 6 にそれぞれに,図 8,図 9 を例にしたときの素性も合わせて示す. 次に,SVM による分類器で分類できなかった残りの記事を分類する.ここでは,is-a 関係の 記事を下位に持つことが多いカテゴリを判定し,そのカテゴリより下位にある意味属性が未確 定な記事を,そのカテゴリと同じ意味属性に分類する.

Wikipedia には,is-a 関係の記事を下位に持つことが多いカテゴリと,カテゴリと記事が is-a 関係ではない何らかの関係になっていることが多いカテゴリがある.例えば,カテゴリ「日本 の俳優」は「蒼井優」や「反町隆史」などカテゴリと is-a 関係になる記事のみを持つが,カテ ゴリ「長岡市」は「蒼柴神社」や「長岡まつり」など is-a 関係でない記事を多く持つ.このよ うな is-a 関係の記事を下位に持つことが多いカテゴリを,以降「上位概念カテゴリ」と呼ぶ. 小林ら (2010) は,is-a 関係の記事12の割合が閾値以上のカテゴリを上位概念カテゴリとみなし, 12カテゴリと is-a 関係にある記事を抽出するのに,小林ら (2008) の手法を用いている.

(17)

表 5 記事分類のための素性 1(カテゴリの分類結果に依存しない) 素性 図 8 において設定される素性 (a: 記事名|b: 上位語 |c: カテゴリ名)の末尾の形態素が X a X=カレー b X=ルー c X=カレー,食品 (a: 記事名|b: 上位語)の末尾以外の形態素が X a X=バーモント b X=即席,固形,カレー (a: 記事名|b: 上位語 |c: カテゴリ名)が文字列照合する語 彙大系のカテゴリが X a X=飯,料理(その他) b X=調味料 c X=飯,料理(その他),食品 (a: 記事名|b: 上位語 |c: カテゴリ名)の末尾の形態素の JUMAN のカテゴリが X a X=人工物‐食べ物 b X=人工物‐食べ物 c X=人工物‐食べ物,人工物‐食べ 物 (a: 記事名|b: 上位語 |c: カテゴリ名)が文字列照合する意 味属性が X a X=具体物 b X=具体物 c X=具体物,具体物 d: 定義文の形態素が X(存在すれば 1,しなければ 0) d X=バーモント,カレー,は,... ※(○○| ○○)は,それぞれについて別の素性を作成することを意味する. 表 6 記事分類のための素性 2(カテゴリの分類結果に依存する) 種類 図 9 において設定される素性 1 (c: カテゴリ名)の分類された意味属性が X c X=具体物,その他 2 (c: カテゴリ名)の末尾が(一覧| ジャンル | 種類 | 分類 | 形態 | 分野| 名前 | カテゴリ | 名)で (c) の分類された意味属性が X c 3 (c: カテゴリ名)が名詞以外の品詞を含み,(c) の分類された意味 属性が X c 4 (a: 記事名|b: 上位語)と(c: カテゴリ名)の末尾の形態素が一 致し,(c) の分類された意味属性が X a-c b-c X=具体物 5 (a: 記事名|b: 上位語)と(c: カテゴリ名)の文字列照合する語 彙大系のカテゴリが一致し,(c) の分類された意味属性が X a-c X=具体物 b-c X=具体物 6 (a: 記事名|b: 上位語)の文字列照合する意味属性と,(c: カテ ゴリ)の分類された意味属性が X で一致 a-c X=具体物 b-c X=具体物 ※(○○| ○○)は,それぞれについて別の素性を作成することを意味する. 上位概念カテゴリとその全ての下位記事を is-a 関係として抽出している.本手法ではこの手法 を参考にし,既に決定したカテゴリの意味属性と記事の意味属性が一致する割合を求め,この 割合があらかじめ決めた閾値以上であれば,そのカテゴリを上位概念カテゴリとする.そして 上位概念カテゴリとされたカテゴリに分類されている,意味属性が未確定の記事を,カテゴリ と同じ意味属性に分類する.例えば図 10 のように,カテゴリ「カクテル(具体物)」に分類さ

(18)

図 8 記事分類の素性作成のための例 1(カテゴリの分類結果に依存しない) 図 9 記事分類の素性作成のための例 2(カテゴリの分類結果に依存する) れている,意味属性が決定した記事のうち,4 件が “具体物” で,1 件が “人” だったとする.こ のとき,カテゴリと同じ意味属性である “具体物” の割合は 80%である.この割合が高いほど, カテゴリ「カクテル(具体物)」には具体物が分類されやすいといえる.よって,あらかじめ設 定した閾値が 80%以下であれば意味属性が未確定の記事を “具体物” に分類する.

(19)

図 10 上位概念カテゴリ判定による未確定記事の意味属性分類例 1 つの記事に対して付与する意味属性は 1 つなので,記事に意味属性の異なる上位概念カテ ゴリが複数付与された場合は,意味属性を選択しなければならない.本手法ではまず,上記の 割合が高いほうの上位概念カテゴリと同じ意味属性を記事に付与する.もし割合が同じだった 場合は,カテゴリを分類したときの SVM の出力値が最も高かった上位概念カテゴリの意味属 性を付与する.

3.4

固有名詞抽出による not-is-a 関係の判定

本節では,3.2 節の規則 2「親が固有名詞の場合は not-is-a 関係になる」を解決するために,カ テゴリ名(記事が親となることはない)から固有名詞を抽出する.固有名詞を抽出するために, MeCab と英語 Wikipedia のカテゴリ名・記事名を用いた 2 種類の手法を提案する. 3.4.1 MeCab を用いた固有名詞抽出 親名が MeCab の辞書に固有名詞として辞書登録されていれば固有名詞と判定する. 3.4.2 英語 Wikipedia のカテゴリ名・記事名を用いた固有名詞抽出 日本語 Wikipedia のカテゴリは,英語 Wikipedia の同じカテゴリにリンクしていることがあ る.例えば,日本語カテゴリ「音楽家」は英語カテゴリ「Musicians」にリンクしている.英語 表記の固有名詞の頭文字のアルファベットは大文字表記であると述べたが,カテゴリ名の頭文 字は原則すべて大文字で表されるため,この基準では判定できない.ここでは,各形態素の頭 文字が全て大文字であれば固有名詞である,という基準を用いる(前置詞 “at, of, the, on, and, in, to”,冒頭以外に冠詞 “the” を含む単語を除いて,2 形態素以上ある単語に限る).ただし, 例外として意味属性が “動植物” と判定されたカテゴリは全て普通名詞とみなすことにした.な ぜなら,“動植物” のカテゴリ名のほとんどがスミレ科 (Violaceae),バラ亜綱 (Rosidae) など普 通名詞であるが,これらの英語表記は,初めの頭文字を大文字のアルファベットとするためで

(20)

ある.また,意味属性が “人” と判定されたカテゴリにおいて,主辞13が複数形だった場合も普 通名詞として扱う.ヨーロッパ系アメリカ人 (European Americans) やアメリカ合衆国上院議員 (United States Senators) のように主辞が複数形であれば,それより下位に is-a 関係の単語を持 つからである.このような現象は特に “人” に多いので,“人” のみにこの規則を適用する.図 11 に,英語 Wikipedia のカテゴリ名を用いた固有名詞抽出のための決定木を示す. さらに多くのカテゴリ名を固有名詞として抽出するため,Wikipedia の記事も用いる.Wikipedia のカテゴリは通常本文を持たないが,カテゴリ名と同名の記事が分類されていることがある. その場合,カテゴリ名と記事名は同一のものを指すので,記事を解析することでカテゴリ名か ら固有名詞を抽出する.英語カテゴリ名と同様に,各形態素の頭文字が全て大文字であれば固 有名詞である,という基準を用いる.さらに記事の本文に注目し,記事の本文中の文頭以外で 記事名が使われているとき,その頭文字のアルファベットが大文字であれば固有名詞とする. 図 12 に,英語 Wikipedia の記事名を用いた固有名詞抽出のための決定木を示す. 以上の 2 種類の手法において,いずれの出力も普通名詞でなく,いずれかの出力で固有名詞 だったカテゴリ名を,固有名詞と判定する.そして,カテゴリ間,カテゴリ‐記事間において, 親名が固有名詞の場合は not-is-a 関係と判定する.しかし「パリメトロ←パリメトロ 2 号線」や 「どうぶつの森←おいでよ どうぶつの森」のように,親名が固有名詞でも is-a 関係が成り立つ 場合がある.この場合,子カテゴリが親カテゴリの固有名詞をさらに細分化した is-a 関係が成 図 11 英語 Wikipedia のカテゴリ名を用いた固有名詞抽出のための決定木

13本手法では,基本的には連続する名詞の最後の形態素を主辞とし,“of, in, to, on, at” が含まれている場合はその

(21)

図 12 英語 Wikipedia の記事を用いた固有名詞抽出のための決定木 り立つ.そこで本手法では例外処理として,以下の 2 つの条件の場合,リンクを not-is-a 関係 としないことにした. (1) 「パリメトロ←パリメトロ 2 号線」,「ロックマン←ロックマン X」のように,子名の前方 が親名と一致した時(パリメトロ,ロックマン),一致部分を削除した部分(2 号線,X) が数字または記号を含む場合は not-is-a 関係としない. (2) 「どうぶつの森←おいでよ どうぶつの森」,「オールナイトニッポン←ゆずのオールナイ トニッポン」のように子名の後方が親名と一致した場合は not-is-a 関係としない.

3.5

文字列照合による not-is-a 関係の判定

3.1 節の規則 4 で,「子名の前方が親名と一致する場合は not-is-a 関係とする」とした.「火星 ←火星の衛星」,「缶←缶コーヒー」のように子名の前方が親名と一致するかどうかは文字列照 合で判定する.ただし,前節で述べたように,「パリメトロ←パリメトロ 2 号線」のように,子 名の前方が親名と一致した時,一致部分を削除した部分(2 号線)が数字または記号を含む場合 は,子名の前方が親名と一致しても not-is-a 関係としないことにする.

3.6

オントロジー階層の再構成

3.3 節∼3.5 節の手法を用いて抽象的すぎるカテゴリを削除することで Wikipedia の上位階層 を削除する.また 3.3 節∼3.5 節の手法のいずれかで not-is-a 関係と判定さたカテゴリ間,カテ ゴリ‐記事間のリンクを切り離す.この状態の Wikipedia は 1 つの階層構造ではなく,複数の 階層に分離している.これら複数の階層を 3.2 節で定義した上位カテゴリ階層である 9 種類の意

(22)
(23)

味属性の下位に接続する.その際,階層の中で親を持たないカテゴリ及び記事(以下,ルートカ テゴリ,ルート記事)を,同じ意味属性の最上位カテゴリの下位に接続する.図 13 に Wikipedia の階層から,is-a 関係のオントロジー階層を再構成するまでの例を示す. Wikipedia のカテゴリ階層には循環がある.提案手法で抽出した部分的な階層が循環していた 場合にどこでその循環を切るかという問題は容易には解決できないと考え,本研究では便宜的 に下記処理を行った.すなわち,循環している階層を構成するカテゴリの内,最も ID 番号14 小さいカテゴリを指す is-a 関係のリンクを not-is-a 関係とすることで,循環のないカテゴリ階 層を構築した.

4

実験条件

4.1

実験設定

2008 年 7 月 24 日時点での日本語 Wikipedia のダンプデータ15を使用して評価実験を行った. カテゴリ数は 40,385 件,記事数は 475,941 件,カテゴリ間のリンク数は 85,353 件,カテゴリ‐ 記事間のリンク数は 1,173,894 件である16 4.1.1 カテゴリ分類 全カテゴリから無作為抽出した 2,500 件を,作業者 1 名が人手で 9 種類の意味属性(+その他) に分類したものを,評価データとした.他の作業者 1 名が同じデータに正解を付与した結果,一 致率は 98.4%であった.精度評価は,評価データ 2,500 件の 5 分割交差検定で行った.また,評 価データ以外のカテゴリは,評価データから無作為抽出した 2,000 件のカテゴリを学習データ とした分類器により分類した.分類実験では,単語の形態素,品詞を抽出するために,形態素解 析器 JUMAN Ver. 6.017を使用した.また本手法では JUMAN の代表表記を用いて語彙大系の インスタンスを拡張して使用した.例えば「代表表記:癌/がん」とあった場合,語彙大系の インスタンス “癌” と同じカテゴリに “がん” を追加する.SVM には TinySVM0.0918を利用し, カーネルには線形カーネルを用いた. 4.1.2 記事分類 全記事から無作為抽出した 2,500 件を,作業者 1 名が人手で 9 種類の意味属性(+その他)に 分類したものを,評価データとした.判定基準は,意味属性に付与した語彙大系の普通名詞を参 14Wikipedia の各カテゴリには ID 番号が振られている. 15http://download.wikimedia.org/jawiki 16初めに,Wikipedia の内部向けのカテゴリや記事(例:“画像:”,“Help:”),オントロジーのカテゴリとして扱い にくいカテゴリ “1986 年生” などを文字列照合で取り除いた.詳細は付録 C を参照. 17http://www-lab25.kuee.kyoto-u.ac.jp/nlresource/juman.html 18http://chasen.org/˜taku/software/TinySVM/

(24)

考にした.他の作業者 1 名が同じデータに正解を付与した結果,一致率は 98.9%であった.学習 データには,Wikipedia の記事に対して関根の拡張固有表現階層の分類を付与した渡邉らによる NAIST-jene19のデータを用いた20.NAIST-jene のデータのうち,本実験で使用する Wikipedia と記事名が一致し,かつ評価データに含まれない 11,554 件を学習データとした.学習データに 対して意味属性を付与する際は,11,554 件を 5 分割交差検定したときの出力を用いた.また,上 位概念カテゴリを判定するための閾値の決定にもこの 11,554 件のデータを利用し,学習データ において最も F 値の高くなる閾値を評価に用いた. 4.1.3 固有名詞抽出 全記事から無作為抽出した 1,000 件に対し,作業者 1 名が人手で固有名詞または普通名詞を 付与したものを,評価データとした.MeCab による固有名詞抽出では,MeCab 0.9821で IPA 辞 書 Ver.2.7.0 を用い,英語の形態素の複数形を調べるために Apple Pie Parser 5.922を用いた.英 語 Wikipedia は 2011 年 1 月 15 日時点のダンプデータ23を用いた. 4.1.4 is-a 関係の判定 全カテゴリ間,全カテゴリ‐記事間のリンクから無作為抽出した各 2,500 件に対し,作業者 1 名が人手で is-a 関係か否かを判定したものを評価データとした.他の作業者 1 名が同じデー タに正解を付与した結果,一致率はカテゴリ間で 98.8%,カテゴリ‐記事間で 98.8%であった. さらに,is-a 関係が成り立つ単語対に対しては,意味属性を付与した.

4.2

比較手法

本実験では,記事分類,カテゴリ間の is-a 関係判定,カテゴリ‐記事間の is-a 関係判定にお いて関連研究との比較を行う.カテゴリの意味属性分類,記事名の固有名詞抽出の関連研究は 我々が知る限り存在しなかったため,関連研究との比較を行わない.本実験では関連研究を独 自に実装した結果と比較を行う. 4.2.1 記事分類の比較手法 記事分類の比較手法には藤井ら (2010) の手法を用いた.藤井らは Wikipedia の記事を関根の 拡張固有表現階層のカテゴリに分類する手法だが,本実験では本研究で設定した 9 種類の意味 属性に分類し,提案手法との比較を行う.記事中の定義文に出現する形態素とページのカテゴ 19http://sites.google.com/site/masayua/p/naist-jene 20本手法の意味属性と,関根の拡張固有表現階層の第一階層は異なる部分があるので,一部修正して使用した. 21http://sourceforge.net/projects/mecab/

22http://nlp.nagaokaut.ac.jp/Apple Pie Parser 23http://download.wikimedia.org/enwiki

(25)

リ情報を利用して学習を行い,one-vs-rest 法で分類対象となるページの固有表現クラスを一意 に決定する.ここでカテゴリ情報として,Wikipedia のカテゴリ階層構造の最上位のカテゴリ である「主要カテゴリ」から対象記事までの最短パス上にあるカテゴリ名の末尾の形態素を素 性として用いる.分類器の学習には本実験と同じ TinySVM0.09 を用い,学習データも本実験と 同じものを用いた. 4.2.2 カテゴリ‐記事間の is-a 関係判定の比較手法 カテゴリ‐記事間の is-a 関係判定の比較手法には小林ら (2008) の手法を用いた.彼らは語彙 大系のカテゴリに is-a 関係となる Wikipedia のカテゴリを接続し,さらに,分類されている記事 をインスタンスとする手法を提案している.語彙大系の下位に構築されたカテゴリ‐記事間の is-a 関係のリンクと,提案手法で判定できたカテゴリ‐記事間の is-a 関係のリンクを比較する. 小林ら (2008) の手法の概要を図 14 に示す.この図は,語彙大系のカテゴリ「星」に Wikipedia のカテゴリと記事の対「変光星←爆発変光星」を接続した例である.初めに,語彙大系のカテ ゴリのインスタンスに,末尾の文字列が照合する Wikipedia のカテゴリを,下位カテゴリ候補 として対応づける(「星」と「変光星」が文字列照合する).次に,このカテゴリの下位の記事の 定義文からとれる上位語が,接続先の語彙大系のカテゴリまたはそれより上位のカテゴリのイ ンスタンスと文字列照合すれば,カテゴリ‐記事を語彙大系カテゴリの下位に接続する(記事 「アメリカ変光星観測者協会」の上位語「国際非営利団体」は文字列照合しないが,上位語「爆 発変光星」の「変光星」は文字列照合する).本実験では,語彙大系のカテゴリと Wikipedia の カテゴリのリンクが is-a 関係であるか否か(正しいか否か)に関係なく,語彙大系に接続した Wikipedia のカテゴリと記事のリンクを is-a 関係とみなし,提案手法と比較する. 4.2.3 カテゴリ間の is-a 関係判定の比較手法 カテゴリ間の is-a 関係判定の比較手法には桜井ら (2008) の手法である「後方文字列照合」を 用いた.「後方文字列照合」は,「空港←日本の空港」のように,子カテゴリ名の後方の文字列 図 14 小林ら (2008) の手法の概要

(26)

が親カテゴリ名であった場合,両者を is-a 関係とする手法である.しかしこれでは再現率が低 いので,本実験では「アジアの空港←日本の空港」のように,親カテゴリと子カテゴリの末尾 の形態素が一致した場合に両者を is-a 関係とみなす.末尾の形態素を得るために本実験と同じ JUMAN Ver. 6.0 を使用した.

5

実験結果

5.1

カテゴリと記事の意味属性分類

本手法では初めに,カテゴリと記事を 9 種類の意味属性へ分類した.カテゴリ分類精度は適 合率 98.0%,再現率 98.1%,記事分類精度は適合率 96.5%,再現率 93.4%であった.Wikipedia のカテゴリ全体の 84.5%(34,142 件),記事全体の 88.6%(421,873 件)が 9 種類の意味属性のい ずれかへ分類された.カテゴリと記事分類の意味属性別と全体の精度,分類数,全体からみた 分類数の割合を表 7 に示す.また,図 15,図 16 に,意味属性別と全体の精度のグラフを示す. カテゴリ分類は記事分類より全体的に精度が高い.カテゴリ名は普通名詞が多いため,意味 属性に対応づけた語彙大系のカテゴリ情報との一致を素性にすることで高い精度が得られたと 考える.適合率は全ての意味属性で 95%以上で,特に “人”,“地形” で適合率が 99%以上と高 かった.適合率を下げる誤りの約半数は,“その他” が付与されたカテゴリが,9 種類の意味属性 に分類されたことが原因だった.再現率に関しては “イベント” を除けば全て 95%以上である. 特に “地名”,“地形”,“動植物” で再現率が 100%と高かった.“イベント” は種類が多様(表 1) なため学習が難しく,再現率が他より低くなったと考える. 記事分類での適合率は,最も低い具体物で 92.0%,最も高い動植物で 100%であった.記事名 は固有名詞が多くカテゴリに比べて精度が落ちるが,記事に付与されたカテゴリ名や記事の定 義文からとれる上位語のような普通名詞を素性に使用したり,既に意味属性の確定しているカ テゴリ情報を素性に用いたりすることで高精度な分類ができたと考える.“組織” と “具体物” は 他より適合率が低い.他より適合率が低い “具体物” の誤りの多くは,“その他” が付与された カテゴリが “具体物” に分類されてしまったことが主な原因であった.一方 “組織” で適合率が 低い主な原因は,“施設” が “組織” に分類されたことにある.“施設” と “組織” は区別が曖昧な ことがあり,例えばカテゴリ「久慈ラジオ中継局」は本評価データでは “施設” を付与したが, 分類器では “組織” に分類された.記事分類の再現率はカテゴリ分類の再現率より 4.7 ポイント 低い. 再現率が特に低い “動植物” と “イベント” の分類誤りを調査したところ,記事と同じ意味属 性のカテゴリが 1 つも付与されていないことが多いことがわかった.例えば,記事「国際切手 展(イベント)」に付与されたカテゴリは「切手(具体物)」「郵趣(その他)」なので,記事と 同じ意味属性のカテゴリは付与されていない.評価データを調査したところ,“動植物” と “イ

(27)

表 7 カテゴリ,記事の意味属性分類精度(評価データ 2,500 件による) 意味属性 カテゴリ 適合率 [%] 再現率 [%] 全体の分類数 分類数の割合 [%] 人 99.1 (568/573) 98.8 (568/575) 8,953 22.2 組織 96.9 (279/288) 95.9 (279/291) 4,273 10.6 施設 98.2 (326/332) 98.8 (326/330) 5,134 12.7 地名 98.5 (262/266) 100.0 (262/262) 4,310 10.7 地形 100.0 (80/80) 100.0 (80/80) 1,538 3.8 具体物 98.6 (136/138) 95.8 (136/142) 2,487 6.2 創作物 96.3 (316/328) 98.1 (316/322) 5,094 12.6 動植物 96.6 (57/59) 100.0 (57/57) 1,116 2.8 イベント 96.8 (92/95) 93.9 (92/98) 1,237 3.1 全体 98.0 (2116/2159) 98.1 (2116/2157) 34,142 84.5 意味属性 記事 適合率 [%] 再現率 [%] 全体の分類数 分類数の割合 [%] 人 97.7 (709/726) 99.0 (709/716) 141,664 29.8 組織 92.7 (217/234) 91.6 (217/237) 43,285 9.1 施設 96.8 (338/349) 94.2 (338/359) 70,470 14.8 地名 98.3 (171/174) 92.4 (171/185) 31,210 6.6 地形 97.9 (47/48) 83.9 (47/56) 10,992 2.3 具体物 92.0 (185/201) 89.8 (185/206) 34,250 7.2 創作物 97.2 (308/317) 95.7 (308/322) 64,312 13.5 動植物 100.0 (60/60) 78.9 (60/76) 11,865 2.5 イベント 97.4 (76/78) 73.8 (76/103) 13,825 2.9 全体 96.5 (2111/2187) 93.4 (2111/2260) 421,873 88.6 図 15 カテゴリ分類の意味属性別と全体の精度 図 16 記事分類の意味属性別と全体の精度 ベント” ではそれぞれ 90.8%,81.5%の記事に同じ意味属性のカテゴリが付与されていたのに対 し,再現率,適合率がともに高い “人” と “創作物” ではそれぞれ 95.5%,98.1%と高かった.こ のことから,カテゴリの意味属性が記事の意味属性の決定に深く関わっているといえる.

(28)

5.2

固有名詞抽出

本手法の固有名詞抽出手法では「1. MeCab を用いた手法」「2. 英語 Wikipedia のカテゴリを 用いた手法」「3. 英語 Wikipedia の記事を用いた手法」の 3 種類の手法により is-a 関係を判定 した.3 手法のいずれでも普通名詞でなく,いずれかで固有名詞と判定されたカテゴリを固有 名詞とした結果,適合率 95.2%,再現率 70.2%であった.各手法と全ての手法を合わせた固有 名詞抽出精度を表 8 に示す.3 手法を組み合わせることで,個々の精度より高精度で固有名詞 抽出ができたといえる.しかし,日本語 Wikipedia が英語 Wikipedia にリンクしている件数が 少ないことで再現率が低くなっている.全カテゴリ 40,385 件中,英語 Wikipedia にリンクして いるカテゴリ数と記事数はそれぞれ 20,713 件,10,136 件24であった.英語 Wikipedia にリンク が存在していることを前提条件とした場合,「2. 英語 Wikipedia のカテゴリを用いた手法」は 再現率 44.4% (25/54),「3. 英語 Wikipedia の記事を用いた手法」は再現率 83.6% (102/122) で あった.英語記事が存在さえすれば,高い再現率で固有名詞抽出が可能である.記事を用いた 手法は,記事本文での記事名の表記を見ることで固有名詞を抽出するルールにより,本文を持 たないカテゴリよりも再現率が高い. 本手法の固有名詞抽出において,普通名詞を固有名詞としてしまった誤りでとくに多かったの は,「Independent Administrative Institution(独立行政法人)」「Japan Defense Ship(自衛官)」 のように,普通名詞にも関わらず英語表記の各形態素の頭文字が全て大文字のアルファベット だった場合である.また日本語 Wikipedia と英語 Wikipedia でカテゴリの意味が異なる場合に 起きる固有名詞抽出誤りもあった.例えば日本語 Wikipedia のカテゴリ「過去のジャニーズ所 属者」は英語 Wikipedia のカテゴリ「Johnny’s Jr.」にリンクしているが,前者は普通名詞であ り後者は固有名詞である.

5.3

is-a 関係判定

本手法では「1. 意味属性分類」「2. 固有名詞判定」「3. 文字列照合」の 3 種類の手法により is-a 関係を判定した.3 手法のいずれでも not-is-a 関係と判定されなかったカテゴリ間,カテゴリ‐ 表 8 カテゴリ名の固有名詞抽出精度(評価データ 1,000 件による) 手法 適合率 [%] 再現率 [%] F 値 [%] 抽出数 1. MeCab 100.0 (75/75) 44.6 (75/168) 61.7 3,016 2. 英語 Wikipedia のカテゴリ 88.9 (24/27) 14.3 (24/168) 24.6 1,279 3. 英語 Wikipedia の記事 97.1 (102/105) 60.7 (102/168) 74.7 4,566 全ての手法の組み合わせ 95.2 (118/124) 70.2 (118/168) 80.8 5,305 24カテゴリと同名の記事は 12,964 件存在し,そのうちの 10,136 件が英語 Wikipedia とリンクしている.

図 1 本手法で構築する汎用オントロジーの一部 意味属性で網羅していることを明確化するため,一つのオントロジーとして構築した. (2) これまでに提案されているオントロジーである日本語語彙大系なども同様の形式であり, このような構造にすることによる恣意性,特殊性はない.本研究はオントロジーのある べき表現構造の議論を行うのが主眼ではないため,最も標準的な構造のオントロジー構 築を目指した. (3) 計算機で処理する上で全体が統一された一つの構造となっているほうが便利であり,ま た柔軟性がある.汎用オントロジ
図 2 オントロジーの例
表 1 意味属性に対応する主な語彙大系のカテゴリと,分類される単語例 意味属性 対応する語彙大系のカテゴリ 分類される単語例 人 人*,職業,人名 人名,職業,氏族,民族,神,魔物,マスコット 組織 仕事場*,組織* 企業,スポーツ団体,政党,公演組織,軍,家系,組合 施設 公共機関*,施設*,家屋(本体), 建造物 交通路,学校,病院,博物館,図書館,公園,遊園地,寺院,城,競技場 地名 地域*,国家,行政機関 国,都市,場所,地域 地形 自然* 山,川,峠,島,海,河川,天体 具体物 無生物*,工芸,彫
表 3 カテゴリ分類のための基本素性 素性 図 6 において設定される素性 1 (a: 対象カテゴリ |b: 親カテゴリ |c: 子カテゴり |d: 全 記事の上位語 |e: 末尾一致記事の上位語)の末尾の形態 素が X a X=家bX=者cX=者 d X=ライター,家 e X=人 2 (a: 対象カテゴリ |b: 親カテゴリ |c: 子カテゴリ)の末 尾以外の形態素が X a X=音楽b X=音楽,関係 c X=指揮 3 (a: 対象カテゴリ)の末尾の形態素の品詞が X a X=接尾辞 4 (a: 対象カ
+7

参照

関連したドキュメント

 その後、徐々に「均等範囲 (range of equivalents) 」という表現をクレーム解釈の 基準として使用する判例が現れるようになり

 複雑性・多様性を有する健康問題の解決を図り、保健師の使命を全うするに は、地域の人々や関係者・関係機関との

ヨーロッパにおいても、似たような生者と死者との関係ぱみられる。中世農村社会における祭り

本検討で距離 900m を取った位置関係は下図のようになり、2点を結ぶ両矢印線に垂直な破線の波面

・関  関 関税法以 税法以 税法以 税法以 税法以外の関 外の関 外の関 外の関 外の関係法令 係法令 係法令 係法令 係法令に係る に係る に係る に係る 係る許可 許可・ 許可・

それに対して現行民法では︑要素の錯誤が発生した場合には錯誤による無効を承認している︒ここでいう要素の錯

本判決が不合理だとした事実関係の︱つに原因となった暴行を裏づける診断書ないし患部写真の欠落がある︒この

「海にまつわる思い出」「森と海にはどんな関係があるのか」を切り口に