食品 ・ 生体試料中の微量抗生物質分析のための前 処理法及び誘導体化に関する研究
著者 坂本 泰洋
学位名 博士(薬学)
学位授与機関 星薬科大学
学位授与年度 2013年度
学位授与番号 32676甲第169号
URL http://id.nii.ac.jp/1240/00000675/
食品・生体試料中の微量抗生物質分析のための 前処理法及び誘導体化法に関する研究
Study of cleanup methods and derivatization methods for trace analysis of antibiotics in foods and biological samples
薬品分析化学教室
坂本 泰洋
目次
論文リスト …
1
略語リスト …
2
緒論 …
4
第
1
章 クリーンアップ効果が高い前処理法の構築第
1–1
節 序論 …6
第
1–2
節 分子インプリントポリマー(MIP
)の有用性評価 …7
第
1–2–1
項MIP
をクリーンアップに応用したハチミツ及びローヤルゼリー中クロラムフェニコールの分析
…
7
第
1–2–2
項 ブランク試料の測定 …8
第
1–2–3
項LC/UV
測定によるクロマトグラムの比較 …9
第
1–2–4
項LC/UV
測定による添加回収試験…
11
第
1–2–5
項LC/MS
測定におけるマトリックス効果の比較…
13
第
1–2–6
項ELISA
における抗原抗体反応への影響の比較 …15
第
1–3
節 イムノアフィニティークロマトグラフィー(IAC
)の有用性評価 …17
第
1–3–1
項 食肉中ゲンタマイシンの分析におけるIAC
の適用 …17
第
1–3–2
項IAC
条件の最適化 …18
第
1–3–3
項IAC
と固相抽出法による精製効果の比較 …19
第
1–4
節 小括 …21
第
2
章 操作性を改良した前処理法の構築第
2–1
節 序論 …22
第
2–2
節 オンライン-IAC
システムの有用性評価 …23
第
2–2–1
項IAC
操作の自動化 …23
第
2–2–2
項 添加回収試験…
25
第
2–3
節 固相分散抽出法(SPDE
)の有用性…
28
第
2–3–1
項SPDE
をクリーンアップに用いた血清中バンコマイシンの分析 …28
第
2–3–2
項 除タンパク操作の検討…
31
第
2–3–3
項SPDE
条件の最適化 …32
第
2–3–4
項 実試料へのSPDE
の適用 …34
第
2–3–5
項 添加回収試験…
36
第
2–3–6
項 カートリッジ式固相抽出法による操作時間及び回収率の比較 …37
第
2–4
節 小括 …38
第
3
章 カラムスイッチング-オンカラム蛍光誘導体化LC
法の構築第
3–1
節 序論 …39
第
3–2
節 プレカラム蛍光誘導体化法の検討…
40
第3–3
節 カラムスイッチング-オンカラム蛍光誘導体化LC
法の有用性 …41
第
3–3–1
項 カラムスイッチング-オンカラム蛍光誘導体化LC
法による鶏肉中コリスチンの分析 …
41
第
3–3–2
項 カラムスイッチング-オンカラム蛍光誘導体化LC
法の検討 …43
第
3–3–3
項 カラムスイッチング-オンカラム蛍光誘導体化LC
法とプレカラム蛍光誘導体化法による
OPA
誘導体化生成物の安定性の比較 …45
第
3–3–4
項 分析法バリデーション…
47
第
3–3–5
節 添加回収試験…
48
第
3–4
節 小括 …49
総括 …
50
謝辞 …
52
実験の部 …
53
参考文献 …
64
論文リスト
本論文は,学術雑誌に掲載された次の報文を基本とするものである.
1)
坂本 泰洋,斉藤 貢一,波田 梨公子,方波見 志織,岩崎 雄介,伊藤 里恵,中澤 裕 之:分子インプリントポリマーをクリーンアップに応用したハチミツ及びローヤルゼ リー中クロラムフェニコールの分析,分析化学,61(5),383–389
(2012
).(第
1
章)2) Y. Sakamoto, Y. Iwasaki, R. Ito, K. Saito: Determination of gentamicins in meat by LC/FL accompanied with online immunoaffinity chromatography cleanup system, Nippon Shokuhin Kagaku Gakkaishi (Jpn. J. Food Chem. Safety), 20(3), 170–177 (2013).
(第
1
章,第2
章及び第3
章)3) Y. Sakamoto, Y. Jinno, I. Shinodzuka, Y. Iwasaki, R. Ito, K. Saito: Sample cleanup by
solid-phase dispersive extraction for determination of vancomycin in serum, Anal. Sci., 30(2), 271–275 (2014).
(第
2
章)4)
坂本 泰洋,方波見 志織,岩崎 雄介,伊藤 里恵,斉藤 貢一:カラムスイッチング-オンカラム蛍光誘導体化
LC
法による鶏肉中コリスチンの分析,日食化誌,20(3),209–214
(2013
).(第
3
章)略語リスト
BCA Bicinchoninic acid
ビシンコニン酸CAP Chloramphenicol
クロラムフェニコールCL Colistin
コリスチンCLA Colistin A
コリスチンA
CLB Colistin B
コリスチンB
ELISA Enzyme-linked immunosorbent assay
固相抗体免疫測定法FL Fluorescence detector
蛍光検出器FMOC 9-Fluorenylmethyl chloroformate 9-
フルオレニルメチル クロロホルメートFPIA Fluorescence polarization immunoassay
蛍光偏光免疫測定法GM Gentamicin
ゲンタマイシンIAC Immunoaffinity chromatography
イムノアフィニティークロマトグラフィー
LC Liquid chromatograph
液体クロマトグラフLOD Limit of detection
検出限界LOQ Limit of quantification
定量限界MDL Method detection limit
方法検出限界MDRA Multiple drug-resistant Acinetobacter
多剤耐性アシネトバクターME 2-Mercaptoethanol 2-
メルカプトエタノールMIP Molecularly imprinted polymer
分子インプリントポリマーMQL Method quantification limit
方法定量限界MS Mass spectrometer
質量分析計NIP Non-molecularly imprinted polymer
非分子インプリントポリマーOPA o-Phthalaldehyde
オルトフタルアルデヒドPBS Phosphate buffered saline pH 7.4
リン酸緩衝生理食塩水pH 7.4
RSD Relative standard deviation
相対標準偏差TCA Trichloroacetic acid
トリクロロ酢酸TDM Therapeutic drug monitoring
治療薬物モニタリングUV Ultraviolet detector
紫外吸光度検出器VCM Vancomycin
バンコマイシン緒論
抗生物質は,ヒトや家畜の感染症治療に汎用されている主要な医薬品であるが,抗生物 質の乱用による耐性菌の出現が問題となっている.特に家畜の場合,抗生物質は疾 病治療 のための動物用医薬品のみならず,感染症予防を目的に飼料添加物としても用いられてい る.動物用医薬品及び飼料添加物は,使用できる動物の種類,用法用量及び休薬期間が法 律で規定され 1),畜産食品中への残留防止が図られている.しかし,法律で定められた用 法用量や休薬期間を遵守しなかった場合,これらの動物用医薬品が畜産食品中に残留する ことが懸念され,耐性菌の出現の原因となる恐れがある.日本では,ポジティブリスト制 度が施行されたことにより 2),食品中での残留基準が設定された動物用医薬品は大幅に増 加し,基準が設定されていないものについても一律基準(
0.01 ppm
)が適用されている.食品に残留する抗生物質を測定するために,高感度且つ精度の高い分析法が要求されてい る.食品中に残留する抗生物質の分析法の一つに微生物学的試験法がある.微生物学的試 験法とは,抗生物質が有する微生物の増殖抑制作用を利用した分析法であり,抗生物質の 残留の有無をスクリーニングする手法として有用である 3–5).しかし,選択性に欠ける面 があり,極微量に存在する抗生物質を検出・同定することは困難である.
他方,ヒトの疾病治療において,有効治療域の狭い抗生物質 では副作用が 生じ やす く,
適切な治療効果が得られないこともあり,このような場合,治療薬物モニタリング(
TDM
) が推奨されている.TDM
は,薬剤の適正使用や副作用発現などのリスクマネジメントを行 うための方法であり,抗菌薬 6)や免疫抑制剤7)など多くの薬剤に適用されている.TDM
に おける血中薬物濃度の測定には,固相抗体免疫測定法(ELISA
)の一種である蛍光偏光免 疫測定法(FPIA
)が汎用されている8, 9).しかし,FPIA
は温度や試料粘性の変化で測定結 果がばらつくため 10),血中薬物濃度を正確に測定できない場合がある.したがって,TDM
に際して血中薬物濃度を正確に測定するため及び食品の安全を確保するために,食品及び 生体試料を対象とした微量抗生物質の簡便・迅速且つ精度の高い分析法が必要とされてい る.食品及び生体試料中の微量な抗生物質を正確に測定する方法として,従来,機器分析に よる理化学的試験法が用いられている.近年では,高速液体クロマトグラフ
/
紫外吸光度検る食品や生体試料中に存在する夾雑物の影響を受けて,微量な抗生物質の分析に支障をも たらすことがある.試料中に含まれる夾雑物を取り除くために,液液分配抽出法や固相抽 出法(
SPE
)等による試料精製が行われている 19–21).しかし,夾雑物の多い試料ではクリ ーンアップが不十分となり,UV
やFL
測定に際して夾雑物由来の妨害を受けることがある.また,
MS
測定ではマトリックス効果によるイオンサプレッションなどの問題がある.他方,測定感度の向上もしくは選択性や分離能を改善する目的で,誘導体化操作を行う ことがある.例えば,極性が高く逆相系クロマトグラフィーでは分離が困難な物質を誘導 体化によってその極性を下げて分離能を改善することができる.更に,紫外部吸収や発蛍 光作用を持たない物質を
UV
やFL
で検出可能な化合物に誘導体化することがある.また,MS
測定ではイオン化効率を高め,感度を向上させる目的で誘導体化することもある.こ のように食品や生体試料中の微量抗生物質の分析では,検出器に応じて試料の前処理や誘 導体化を併用することが重要である.しかし,夾雑物除去のために行う選択性の高い前処 理法や高感度化を達成できる誘導体化法は操作が煩雑なことが多く,実験者の習熟度の差 により,測定結果にバラツキが生じることもあった.そこで,本研究では従来法の欠点を 改善することを目的として,クリーンアップ効果が高い前処理法及び操作性を改良した前 処理法を検討した.また,操作が簡便で,且つ高感度な誘導体化法を構築し,それらの有 用性の評価を行った.第
1
章では,従来汎用されている逆相系やイオン交換系の固相ゲルと比較して,効果的 に夾雑物を除去できる分子インプリントポリマー(MIP
)ゲル及びイムノアフィニティー クロマトグラフィー(IAC
)用ゲルを用いたSPE
のクリーンアップ効果を検討した.第
2
章では,前処理法の操作性を改善することに主眼を置き,クリーンアップ操作の自 動化及び試料液中で固相ゲルを分散させることによって迅速な操作が可能な固相分散抽出 法(SPDE
)を検討した.第
3
章では,LC
における検出系を改善し,簡便・迅速で且つ精度の高い分析を行うた めに,誘導体化操作と検出を一体化したカラムスイッチング-オンカラム蛍光誘導体化LC
法を構築した.第
1
章 クリーンアップ効果が高い前処理法の構築第
1–1
節 序論従来,クリーンアップ法には
SPE
や液液分配抽出法が用いられてきたが,夾雑物の除去 が不十分で分析に支障をきたすことがあった.そのため,食品及び生体試料中の微量抗生 物質分析において,より効果的に夾雑物を除去できるクリーンアップ法が必要とされてい る.本章では,従来汎用されてきた逆相系やイオン交換系の固相ゲルと比較して,効果的 に夾雑物を除去できるMIP
ゲル及びIAC
用ゲルを用いたSPE
を検討した.MIP
の有効性を確認するために,ハチミツ及びローヤルゼリー中に残留するクロラムフ ェニコール(CAP
)の分析を試みた.MIP
とは,鋳型分子に相互作用する官能基をもつモ ノマーと鋳型分子との複合体を形成・重合させた後,鋳型分子を除去することで,鋳型分 子を特異的に認識する部位を有するポリマーである.MIP
は,抗原に対する抗体のように その特異性が高いことから,人工抗体とも呼ばれている.他方,
MIP
と同等のクリーンアップ効果を有するIAC
にも着目し,その有用性の評価を 行った.IAC
は特異性の高い抗原抗体反応を利用した方法で,対象化合物を選択的に保持 することができる.IAC
を食肉中に残留するゲンタマイシン(GMs
)の分析に適用し,従 来用いられてきたイオン交換系SPE
とクリーンアップ効果について比較検討した.第
1–2
節 分子インプリントポリマー(MIP
)の有用性評価第
1–2–1
項MIP
をクリーンアップに応用したハチミツ及びローヤルゼリー中 クロラムフェニコールの分析
CAP
(Figure 1
)は,グラム陽性菌やグラム陰性菌など広範な菌種に抗菌作用を示す抗生物質であり,畜産動物などの疾病治療や予防を目的とした動物用医薬品として用いられて いる.我が国のポジティブリスト制度において,
CAP
は遺伝毒性物質 22)及び発ガン性物質23)である可能性が高いことから,食品への残留について「不検出」基準が設定され 24),家 畜等への使用も禁止されている.しかし,
CAP
は低コスト,且つ入手が容易であることか ら,違法に使用されることが懸念されている.実際,厚生労働省の食品衛生法第26
条第3
項に基づく検査命令により,輸入食品からCAP
が高頻度に検出されている 25, 26).また,中国産のハチミツやローヤルゼリーなどからも
CAP
が検出される事例が報告されている27).したがって,ハチミツ及びローヤルゼリー中
CAP
をモニタリングするため,精度の高 い残留分析法が要求されており,これまでにLC/UV
28)またはLC/MS
29–31)などを用いた方法 が報告されてきた.ハチミツ及びローヤルゼリーのクリーンアップ法にはSPE
32)や液液分 配抽出法 33)が用いられてきたが,夾雑物の多いソバ蜜やローヤルゼリーでは,夾雑物の除 去が不十分で分析に支障をきたすことがあった.そのため,より効果的に夾雑物を除去で きるクリーンアップ法が必要とされている.そこで,アフィニティークロマトグラフィー としても利用されているMIP
に着目し34–37),ソバ蜜を含めたハチミツ及びローヤルゼリー 中CAP
分析の前処理に適用した.MIP
によるクリーンアップ効果の評価は,LC/UV
測定 におけるクロマトグラム及び添加回収試験,またLC/MS
測定によるマトリックス効果の影 響,更に,ELISA
における抗原抗体反応への影響を検討することで行った.HN
Cl
Cl O
OH OH
N
+- O O
Figure 1 Chemical structure of CAP.
第
1–2–2
項 ブランク試料の測定従来,
MIP
の合成過程において鋳型分子を完全に洗浄・除去することは極めて困難であ った.そのため,鋳型分子に測定対象物質を用いた場合,微量の測定対象物質がMIP
に残 留し,試験操作の際に溶出して測定結果に影響を及ぼすことがあった.このような問題点 に対応するため,当薬品分析化学教室ではMIP
を合成する際に,鋳型分子に測定対象物質 の安定同位体を用いることで,鋳型分子溶出に起因する測定対象物質のコンタミネーショ ンを防止する方法を報告した 38).しかし,一般に安定同位体は高価で,入手も困難であり,また,検出器に
MS
を用いなければ測定対象物質とその安定同位体の分別ができないこと から,安定同位体を鋳型分子に用いる手法はLC/UV
による測定に適さなかった.本法で用いた
SupelMIP
TMSPE-Chloramphenicol
は,入手が容易な市販品で,鋳型分子に 化学構造がCAP
に類似する物質を用いることで,MIP
内に残留した鋳型分子が溶出しても 測定結果に影響を及ぼさないことが報告されている 39, 40).実際に当該MIP
を用いて,ブ ランク試料のクリーンアップを行ったところ,LC/MS
及びLC/UV
のいずれにおいてもCAP
は検出されなかったことから,当該MIP
の活用を検討することとした.第
1–2–3
項LC/UV
測定によるクロマトグラムの比較CAP
標準溶液を添加したアカシア蜜,ソバ蜜及びローヤ ルゼリーの抽出液を用い,公定 検 査 法 「CAP
試 験 法 」41)に 用 い ら れ るOasis
®HLB
で 前 処 理 し た 試 験 溶 液 , も し く はSupelMIP
TMSPE-Chloramphenicol
でクリーンアップした試験溶液を用いて,そのクリーンアップ効果を比較検討した.その結果,夾雑物の少ないアカシア蜜では,
Oasis
®HLB
及びMIP
のいずれを用いても,妨害ピークのない良好なクロマトグラムが得られた.しかし,夾雑物の多いソバ蜜やローヤルゼリーを試料とした場合,
Oasis
®HLB
ではクリーンアップ が不十分であり,夾雑物の影響を受けてCAP
ピークを検出することが困難であった.他方,MIP
を 用 い た 場 合 で は 夾 雑 物 の 影 響 は ほ と ん ど 認 め ら れ ず , 定 量 分 析 も 可 能 で あ っ た(
Figure 2
).本法で用いた
SupelMIP
TMSPE-Chloramphenicol
の操作において,溶出液にメタノールを 用いていることから,当該MIP
の結合様式は,主に立体的な分子構造認識部位における疎 水性相互作用と水素結合であると推察された.なお,MIP
自体はポリマーであることから,非分子インプリントポリマー(
NIP
)と呼ばれる分子構造を認識しない部位も存 在し,そ こ で の 非 特 異 的 相 互 作 用 に よ る 結 合 が 問 題 と な る こ と が あ る . し か し ,SupelMIP
TMSPE-Chloramphenicol
における主たる結合部位は,NIP
に比べてCAP
を選択的且つ強固に保持すると報告されている 42).このような特徴を有していることから,当該
MIP
では酢酸 水溶液や水酸化アンモニウム水溶液,ヘプタンなどの溶媒で夾雑物を洗浄・除去すること を可能にしている.その結果,MIP
によるクリーンアップは,Oasis
®HLB
のような従来の 逆相系固相ゲルに比べてより特異性の高いクリーンアップが可能 であることが示唆された.Time (min) 10 15
5 0
( a )
6 5 4 3 2 1 0
mV
Time (min) 10 15
0 5
( b )
CAP
6 5 4 3 2 1 0
mV
Figure 2 LC/UV chromatograms of royal jelly spiked with CAP at 1.0 μg/g and purified with
(a) Oasis
®HLB and (b) MIP.
第
1–2–4
項LC/UV
測定による添加回収試験ハチミツ(アカシア蜜,レンゲ蜜,オレンジ蜜,サクラ蜜,ビワ蜜,ローズマリー蜜,
ラベンダー蜜及びソバ蜜)に
CAP
を0.2 μg/g
,またローヤルゼリー(A–E
)にCAP
を1.0 μg/g
添加し,抽出操作後,MIP
によるクリーンアップを行い,LC/UV
で測定して添加回収試験 を行った.その結果をTable 1
及びTable 2
に示す.ソバ蜜については他の蜜に比べて平均回収率が
64.5%
と少し低めになったが,ソバ蜜を除く全てのハチミツで75.5–81.8%
{相対標準偏差(
RSD
);5.6%
以下},ローヤルゼリーでは76.4–83.2%
(RSD
;8.2%
以下)の回収 率が得られた.これは,畜産物中に残留する動物用医薬品の検査指針の一つであるAOAC
のガイドラインで設定されている基準 43)(1 μg/g
添加における平均回収率75–120%
,RSD 10%
以内)を満たしていたことから,残留分析法として十分に定量性があると考えられた.なお,ソバ蜜において回収率が低くなった原因として,ソバ蜜は他のハチミツに比べて,
夾雑物が多く,その夾雑物が
MIP
のCAP
認識部位を覆い,CAP
との結合を妨害した可能 性が考えられた.特に,ソバ蜜に多く含まれるルチンはフェノール性化合物であり,MIP
の分子認識部位とπ-π
相互作用などで部分的に結合してしまった可能性が推察された.Table 1 Recoveries of CAP in honey samples purified with MIP.
Flower species
Amount spiked (μg/g)
Recovery (%) Average RSD
Acasis 0.2 77.9 3.1
Astragalus 0.2 81.8 3.7
Orange 0.2 76.7 5.6
Cherry 0.2 77.7 2.8
Medlar 0.2 75.5 2.8
Rosemary 0.2 81.0 3.7
Lavender 0.2 80.8 3.0
Buckwheat 0.2 64.5 2.7
(n = 5)
Table 2 Recoveries of CAP in royal jelly samples purified with MIP.
Royal jelly Amount spiked (μg/g)
Recovery (%) Average RSD
A 1.0 83.2 3.7
B 1.0 79.4 8.2
C 1.0 79.8 8.2
D 1.0 78.0 5.8
E 1.0 76.4 5.9
(n = 5)
第
1–2–5
項LC/MS
測定におけるマトリックス効果の比較LC/UV
測定で判明したように,Oasis
®HLB
でクリーンアップした試料ではLC
カラムからの
CAP
溶出付近にマトリックス由来の夾雑物が多く溶出されており,マトリックス効果 によるイオンサプレッションなどの影響が危惧された.そこで,アカシア蜜,ソバ蜜及び ローヤルゼリー(A
,B
)を試料として,マトリックス検量線を作成してマトリックス効果 について比較検討した.予め,MIP
またはOasis
®HLB
で前処理して得られた溶出液に,CAP
標準溶液をそれぞれ10
,50
,100
,250
及び500 ng/mL
になるように添加し,それぞれ
LC/MS
で測定した.その結果,Oasis
®HLB
でクリーンアップした場合,アカシア蜜ではマトリックス検量線の傾きが小さくなり,イオンサプレッションを受けていることが分
かった(
Figure 3–a
).ソバ蜜に関しては,アカシア蜜に比べて,高濃度領域でイオンサプレッションの度合いが顕著であった(
Figure 3–b
).他方,MIP
で前処理した場合,アカシ ア蜜では,CAP
標準溶液による検量線と同等の検量線が得られた(Figure 3–c
).また,ソ バ蜜では,Oasis
®HLB
に比べて,イオンサプレッションの低減が認められた(Figure 3–d
).ローヤルゼリーにおいては,
Oasis
®HLB
でクリーンアップした場合,ローヤルゼリーA
で は,高濃度領域で面積値がやや大きくなり,イオンエンハンスメントを受けていると推察 された.また,ローヤルゼリーB
では,高濃度領域で面積値が小さくなり,イオンサプレ ッションを受けていると推察された.これに対してMIP
を用いた場合,マトリックス効果 の影響を抑制し,ローヤルゼリーA
,B
共にCAP
標準溶液による検量線と変わらない良好 なマトリックス検量線が得られた.ハチミツの主な組成は糖であり,ローヤルゼリーには糖の他にタンパク質が含まれる.
このように組成の異なる試料においても,
MIP
によるクリーンアップは,同様の洗浄操作 で夾雑物を十分に取り除き,マトリックス効果の影響をほぼ無くすことができた.このことから,
LC/UV
のみならずLC/MS
においても信頼性の高い値を得られ,CAP
分析における
MIP
の有用性が示唆された.18
12
6
0
Pe ak ar ea ( × ) 10
5400 500 200 300
100
0 Concentration (ng/mL)
(a) Acasia 18
12
6
0
Pe ak ar ea ( × ) 10
5400 500 200 300
100
0 Concentration (ng/mL) (b) Buckwheat
18
< Oasis
®HLB >
18
12
6
0
Pe ak ar ea ( × ) 10
5500 400
300 200
100
0 Concentration (ng/mL) (c) Acasia
12
6
0
Pe ak ar ea ( × ) 10
5400 500 200 300
100
0 Concentration (ng/mL) (d) Buckwheat
< MIP >
Figure 3 Comparison of slopes of calibration curves of CAP for standard and sample spiked after extraction with Oasis
®HLB and MIP.
○ : Standard solution ; a,
◆: Acacia (Oasis
®HLB); b, ▲: Buckwheat (Oasis
®HLB); c, ●: Acacia (MIP); d, ■: Buckwheat (MIP).
第
1–2–6
項ELISA
における抗原抗体反応への影響の比較これまでの機器分析による測定結果から,
Oasis
®HLB
でクリーンアップした場合,夾雑 物が多く残存していることが判明している.そこで,ソバ蜜及びローヤルゼリーA
の抽出液を,
MIP
またはOasis
®HLB
を用いて,前処理した溶出液にCAP
標準溶液をそれぞれ0.05
,0.1
及び1.0 ng/mL
になるように添加し,ELISA
によりマトリックス検量線及びCAP
標準溶液による検量線を作成して
IC50
を算出し,抗原抗体反応への影響を比較検討した.その結果,
Figure 4
に示すように,CAP
標準溶液による検量線からのIC50
は1.11 ng/mL
であったが,
Oasis
®HLB
を用いた場合,ソバ蜜及びローヤルゼリーA
のIC50
は,それぞれ0.20
ng/mL
及び0.18 ng/mL
となり,真の濃度より高く算出され(真の濃度との比:4.4–9.3
),正確な濃度を算出することは困難であった.他方,
MIP
では,ソバ蜜及びローヤルゼリーA
のIC50
はそれぞれ0.66 ng/mL
及び0.71 ng/mL
となり,Oasis
®HLB
で前処理した場合よ りもCAP
標準溶液による検量線に近いマトリックス検量線を得ることができた.この値か ら算出された試料のCAP
濃度と真の濃度との比は,1.4–2.0
であった.MIP
によるクリーンアップは,ハチミツ及びローヤルゼリー由来の夾雑物による抗原抗 体反応に対する妨害を抑制することができ,ELISA
における前処理法としても有用である ことが示唆された.100
0.01 80
60 40
20 0
R el at iv e ab so rb an ce (% )
0.1 1 10
Concentration (ng/mL)
100 80 60
40 20 0
R el at iv e ab so rb an ce (% )
0.01 0.1 1 10
Concentration (ng/mL) (a)
(b)
Figure 4 Matrix calibration curves of CAP in (a) buckwheat and (b) royal jelly A purified with Oasis
®HLB and MIP by ELISA.
○
:Standard solution (y = -10.76 ln(x) + 51.118)
;▲
:Buckwheat (Oasis
®HLB
・y
= -11.08 ln(x) + 32.289)
;■
:Buckwheat (MIP
・y = -10.85 ln(x) + 45.474)
;△:Royal
jelly A (Oasis
®HLB
・y = -9.227 ln(x) + 34.247)
;□
:Royal jelly A (MIP
・y = -10.70
ln(x) + 46.285).
第
1–3
節 イムノアフィニティークロマトグラフィー(IAC
)の有用性評価第
1–3–1
項 食肉中GMs
の分析におけるIAC
の適用IAC
は特異性の高い抗原抗体反応を利用した方法で,対象化合物を選択的に保持するこ とができる 44–46).また,IAC
はMIP
とは異なり,カラムを洗浄することで繰り返し使用で きる利点を併せ持つ.そこで,IAC
を食肉中に残留するGMs
の分析に適用し,その有用性 を評価した.アミノグリコシド系抗生物質である
GMs
(Figure 5
)は,抗菌スペクトルが広く,強い 抗菌力を有することから,畜産動物の感染症治療薬として汎用されている.しかし,用法 用量及び休薬期間などの使用方法が不適切だった場合,食肉中に残留し,ヒトへの健康被 害を引き起こすことが懸念される.GMs
は高極性物質であるため,食品中に残留した場合,試料精製が困難である.従来,イオン交換系の
SPE
が用いられてきたが,夾雑物の多い試料では試料精製が不十分となり,LC/FL
やLC/MS
のクロマトグラムにおいて夾雑物由来の妨害ピークが出現して測定が困難となることがあった.そこで,クリーンアップ効果が高い
IAC
に着目し,夾雑物の多い 豚腎臓を含む食肉中GMs
分析の前処理に適用した.IAC
の性能評価は,GMs
を9-
フルオ レニルメチルクロロホルメート(FMOC
)誘導体化後,LC/FL
で測定して得られたクロマ トグラムを,従来法である陽イオン交換系SPE
を用いた場合と比較した.C O
NH
2O
NH
2NH
2HO O O OH
CH
3OH NHCH
3R
2R
1H Gentamicin C
1R
2= NHCH
3R
1= CH
3Gentamicin C
1aR
2= NH
2R
1= H Gentamicin C
2R
2= NH
2R
1= CH
3Gentamicin C
2aR
2= CH
3R
1= NH
2Figure 5 Chemical structures of GMs.
第
1–3–2
項IAC
条件の最適化HiTrap
TMNHS-activated column
のカップリングプロトコールに従い,作製したイムノア フィニティーカラムにGMs
標準溶液(500 ng/mL
)1 mL
を負荷したところ,溶出液からの回収率は
43.3%
であった.この際,試料負荷液及び洗浄液からGMs
は検出されなかったことから,回収率が低かった理由は,カラムから
GMs
が十分に溶出されなかったためと推察 された.この理由として,イムノアフィニティーカラム作製時の0.5 M
モノエタノールア ミ ン に よ る ブ ロ ッ キ ン グ が 不 十 分 で あ っ た た め に ,GMs
の ア ミ ノ 基 とHiTrap
TMNHS-activated column
内の未反応活性基が不可逆的に結合した可能性が推察された.そこで,より高濃度の
1.0 M
及び2.0 M
モノエタノールアミンでブロッキングを行ったが,回 収率の改善が認められなかった.GMs
が溶出されなかった原因に別の因子が関係していると考え,HiTrap
TMNHS-activated
column
のホルダーに使われている高分子素材にGMs
が吸着した可能性が考えられた.そこで,通常の
ELISA
において,マイクロウェルプレートの固相表面をブロッキングする目 的で用いられるスキムミルクでイムノアフィニティーカラムのブロッキングを試みた 47). その結果,回収率の改善が認められ,99.8–101.3%
の回収率が得られた.IAC
の溶出液には,抗体を変性させ,目的物質を溶出させるため,酸性溶媒や有機溶媒 が用いられている 44–46, 48).GMs
は水溶性塩基性物質であることから,IAC
の溶出液として 酸性溶媒を選択し,酢酸,シュウ酸,リンゴ酸及びクエン酸を検討した.その結果,クエ ン酸水溶液で最も高い回収率が得られた.更に,クエン酸水溶液の濃度を10 mM
,50 mM
及び
100 mM
と変化させて検討したところ,いずれの濃度でも良好な回収率が得られた.そこで,抗体への負担が少ないと考えられる低濃度の
10 mM
クエン酸水溶液を溶出液とし て採用した.第
1–3–3
項IAC
と固相抽出法による精製効果の比較従来の食肉中
GMs
分析では,クリーンアップに際して,陽イオン交換系SPE
(Oasis
®MCX
)が汎用されている 21).そこで,IAC
とOasis
®MCX
との精製効果を比較検討した.試料には,食肉の中でも夾雑物が多く試料精製が困難である豚腎臓の抽出液を選択し,
GMs
標準溶液を添加した.これらをIAC
及びOasis
®MCX
でそれぞれ試料精製を行い,LC/FL
で測定した.その結果,
Oasis
®MCX
で試料精製した場合では,夾雑物由来のピークの影響を受けてGMs
のピークを検出することが困難であった.他方,IAC
で試料精製した場合では,夾雑 物の影響が少ない良好なクロマトグラムが得られた(Figure 6
).0 500 1000
0 5 10 15 20
mV
Time (min) (A)
0 5 10 15 20
Time (min)
0 500 1000
mV
(B)
C
1aC
2C
1C
1aC
2C
1C
2aFigure 6 LC/FL chromatograms of pork kidney extract spiked with GMs at 500 ng/g and
purified with (A) Oasis
®MCX and (B) IAC.
第
1–4
節 小括本章では,従来汎用されている逆相系やイオン交換系の固 相ゲルより効果的に夾雑物を 除去できる
MIP
及びIAC
に用いる固相ゲルを検討した.MIP
はソバ蜜やローヤルゼリーのように,夾雑物が多く,従来の固相ゲルでは精製が困 難な試料においても,夾雑物を十分に取り除くことが可能となった.これにより,LC/UV
測定において夾雑物の影響が少ないクロマトグラムが得られ,LC/MS
測定ではマトリック ス効果の影響をほぼ無くすことができ,信頼性の高い測定が行えるようになった.同様に,MIP
で前処理を行った試料をELISA
に適用したところ,夾雑物による抗原抗体反応への妨 害を低減することができた.しかし,
MIP
は高価であること,また基本的な使い方は単回使用であり,複数回使用す ると,抽出率が低下する欠点があった.そこで,MIP
と同等のクリーンアップ効果を有す るIAC
に着目した.IAC
を食肉中GMs
の分析に適用し,クリーンアップ効果を評価した ところ,夾雑物が多く分析が困難とされている豚腎臓の前処理に際しても,IAC
は,従来 のSPE
による前処理法に比べてより夾雑物の影響が少ない良好なクロマトグラムが得られ た.以上の結果から,前処理法としての
IAC
及びMIP
は,従来法のSPE
と比較してクリー ンアップ効果が高く,夾雑物の多い試料に対して選択性の高い前処理法として有用である ことが示唆された.第
2
章 操作性を改良した前処理法の構築第
2–1
節 序論夾雑物除去のために行う選択性の高い前処理法は煩雑なことが多く,実験者の手技技術 の差により,測定結果にバラツキが生じることがあった.そこで,本章では前処理法の操 作性を改善することに主眼を置いた前処理法を検討した.
IAC
のクリーンアップ効果は高いが,その操作はカラムへの通液速度を一定に保つ必要 があり,熟練した操作技術を要する.そこで,オンラインでIAC
操作を行い,且つ自動化 するためにカラムスイッチング法を利用したオンライン-IAC
システムを構築し,その操作 性を評価した.他方,前処理法の操作性を改善した方法として,試料液中で逆相系固相ゲルを分散させ ることによって迅速な抽出及びクリーンアップが可能な
SPDE
を検討した.従来のカート リッジ式SPE
で汎用される減圧吸引型マニホールドを使用する場合,全てのSPE
カートリ ッジにおいて通液速度を合わせることが困難であり,回収率にバラツキが生じることがあ った.これに対して,SPDE
による固相への吸・脱着は試料分散時にほぼ瞬時に行われ,多数検体の処理も遠心分離で行うため,カートリッジ式
SPE
に比べて検体間でのバラツキ を解消する利点があった.試料分散や遠心分離時は密閉系で処理するので,カートリッジ 式SPE
に比べて感染性試料による曝露の危険性を低減する.更に,SPDE
は血清試料のよ うな高粘性試料にも適用可能であり,また,十分な除タンパク能力を有していることを見 出した.そこで,血清中バンコマイシン(VCM
)の分析にSPDE
を適用し,対象物質の抽 出率を向上し,且つ除タンパク操作を省略した方法を構築した.第
2–2
節 オンライン-IAC
システムの有用性評価第
2–2–1
項IAC
操作の自動化IAC
の操作は対象物質を効率よく保持するため,カラムへの通液速度を一定に保つ必要 がある.しかし,通液速度を一定に維持することは難しく,測定結果にバラツキが生じる ことがあった.そこで,精度の高い測定結果が得られる前処理法の開発を目的に,オンラ インでIAC
操作を行い,且つ自動化するためにカラムスイッチング 法を利用したオンライ ン-IAC
システムを構築した(Figure 7
).コンディショニング,洗浄及び溶出時の流速は,今回使用したリガンド固 定化用カップ リングカラム
HiTrap
TMNHS-activated column
の至適流速である1.0 mL/min
に設定した.試 料負荷時の流速も同様に1.0 mL/min
に設定したところ,標準品の回収率が80.4%
に低下し てしまった.そこで,効率良くGMs
を抗体に保持させるため,試料負荷時の流速を0.5
mL/min
と低く設定した.これにより,標準品の回収率は102.3%
と改善された(Table 3
).オンライン
-IAC
システムは,コンディショニング,洗浄及び溶出工程をコンピューター 制御システムの中にプログラムとして組み込み,インジェクターから試料抽出液を1 mL
注入し,約20
分間待つだけで,自動的に試料精製が可能であった.更に,オンライン-IAC
システムは通液速度を一定に保つことができるので,実験者の習熟度に影響 を受けずに,良好な再現性が得られた.
Configuration A
Immunoaffinity column
Fraction collector UV
Drain
10 mM Citric acid aq.
Pump-1
PBS
Pump-2
Configuration B
Immunoaffinity column
Fraction collector UV
Drain
10 mM Citric acid aq.
Pump-1
PBS
Pump-2
Figure 7 Flow diagrams of configuration A (load and wash) and configuration B (elution).
Table 3 Recoveries of GMs standards from an immunoaffinity column.
Concentration (ng/mL)
Recovery (%) Average RSD
GM C
1160 101.0 1.6
GM C
1a120 104.2 1.8
GM C
2160 105.3 3.3
GM C
2a60 92.0 4.0
(Total GMs) (500) (102.3) (7.6)
第
2–2–2
項 添加回収試験IAC
操作過程で損失したGMs
の量を確認するため,予め,ブランクの食肉抽出液を作製 し,GMs
を食肉抽出液1 mL
あたり500 ng
になるように添加し,オンライン-IAC
システ ムによる試料精製を行った.その回収率を求めた結果を,Table 4–A
及びTable 5–A
に示す.また,抽出操作を含めた全操作過程での
GMs
の損失を確認するため,食肉を採取するときに
GMs
を食肉1 g
あたりに500 ng
になるように添加し,前処理を行った.その回収率を求めた結果を,
Table 4–B
及びTable 5–B
に示す.その結果,抽出操作を含めた全操作過程(
B
)で回収率が低下している原因として,IAC
による試料精製を行う前の抽出操作で,GMs
の損失を生じたためと考えられた.しかし,オンライン-IAC
システムによるクリー ンアップを行うことで,夾雑物を多く含む肝臓や腎臓においても 残留試験法として適合す る良好な回収率が得られた.最も回収率の低かった豚肉 もも肉で方法検出限界(MDL
,S/N = 3
)及び方法定量限界(MQL
,S/N > 10
)を総GMs
濃度として算出した.その結果,MDL
は30 ng/g
であり,MQL
は,100 ng/g
であった.豚肉中GMs
の残留基準値は総GMs
量として定められており,肉で
0.1 μg/g
,肝臓で2.0 μg/g
,腎臓で5.0 μg/g
である.本法は これらの濃度でも検出及び定量が可能であった.以上の結果から,
IAC
による試料精製はGMs
分析における食肉のクリーンアップ法とし て十分に実用的であることが示唆された.Table 4 Recoveries of GMs in extract of chicken meat purified with an immunoaffinity column.
Amount spiked (ng/g)
Recovery (%) Breast fillet Thigh Average RSD Average RSD
GM C
1160 110.9 3.3 104.1 7.6
GM C
1a120 105.6 6.3 112.9 4.1
GM C
2160 102.8 2.6 102.1 7.6
GM C
2a60 89.6 4.5 83.9 6.5
(Total GMs) (500) (104.2) (3.6) (104.3) (4.5) (n = 5)
Amount spiked (ng/g)
Recovery (%) Breast fillet Thigh Average RSD Average RSD
GM C
1160 109.2 1.9 75.9 7.1
GM C
1a120 84.1 4.1 83.7 7.9
GM C
2160 82.3 8.1 73.4 6.3
GM C
2a60 70.7 14.7 75.9 10.5
(Total GMs) (500) (89.0) (4.8) (77.5) (7.0) (n = 5)
(A) GMs were added to a blank extract of chicken meat immediately before IAC operation.
(B) GMs were added to blank chicken meat before extraction and homogenization.
(A)
(B)
Table 5 Recoveries of GMs in extract of pork meat purified with an immunoaffinity column.
Amount spiked (ng/g)
Recovery (%)
Thigh Liver Kidney
Average RSD Average RSD Average RSD
GM C
1160 97.2 4.4 100.0 7.9 93.0 3.4
GM C
1a120 92.4 8.6 103.7 8.3 94.6 4.2
GM C
2160 95.1 7.0 99.9 11.7 90.6 7.0
GM C
2a60 87.3 14.8 84.4 9.7 84.7 9.5
(Total GMs) (500) (94.0) (5.0) (100.1) (6.1) (92.1) (2.5) (n = 5)
Amount spiked (ng/g)
Recovery (%)
Thigh Liver Kidney
Average RSD Average RSD Average RSD
GM C
1160 79.3 8.6 87.2 8.5 85.2 5.6
GM C
1a120 79.2 9.1 93.2 7.5 87.9 5.0
GM C
2160 71.5 8.7 85.4 9.8 80.1 7.1
GM C
2a60 67.2 7.8 75.6 10.7 75.3 10.1
(Total GMs) (500) (75.6) (6.4) (87.7) (3.9) (83.7) (3.4) (n = 5)
(A) GMs were added to a blank extract of pork meat immediately before IAC operation.
(B) GMs were added to blank pork meat before extraction and homogenization.
(A)
(B)
第
2–3
節 固相分散抽出法(SPDE
)の有用性第
2–3–1
項SPDE
をクリーンアップに用いた血清中バンコマイシンの分析従来のカートリッジ式
SPE
の操作性を改善した方法として,試料液中で固相ゲルを分散 させることによって迅速な操作が可能なSPDE
に着目し,血清中VCM
分析の前処理法と して適用し,その操作性の評価を行った.VCM
(Figure 8
)は,Amycolatopsis orientalis
が産生するグリコペプチド系抗生物質であ り,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌感染症の治療に広く使用されている.しかし,VCM
の 有効治療域はトラフ値10–20 μg/mL
と狭く 49),使用が難しい薬剤である.その副作用は濃 度依存的であり,トラフ値が20 μg/mL
を超えると腎毒性や聴覚障害などの重篤な副作用を 生じる可能性が高くなる 50, 51).また,急激な血中濃度の上昇により,レッドネック症候群 や血圧低下等の副作用を引き起こすこともある 52).実際に,日本では乳幼児に過剰量のVCM
を誤って投与したため,足の指が壊死する医療事故があった53).そのため,VCM
を 有効且つ適正に使用するために,TDM
が推奨されている.TDM
における血中薬物濃度の 測定で汎用されているFPIA
8, 9)は温度や試料粘性の変化で測定結果がばらつくため10),血 中薬物濃度を正確に測定できない場合がある.したがって,TDM
に際して血中薬物濃度を 正確に測定するために,微量抗生物質の簡便・迅速且つ精度の高い分析法が必要とされて いる.血清中
VCM
を正確に測定するために機器分析が行われているが,試料に由来する夾雑 物の除去を目的に,除タンパク操作やSPE
等の前処理を行う必要がある54).しかし,従来 汎用されているカートリッジ式SPE
では通液速度の変動によって充填剤の保持力が低下す ることや,感染性試料の場合,実験者への曝露が危惧されるなどの問題点がある.特に,逆相系の
SPE
カートリッジであるOasis
®HLB
にVCM
を通液する場合,自然ろ過程度の遅 い通液速度で行わなければ,回収率が低下することがある.しかし,血清中VCM
をクリ ーンアップする場合,自然ろ過では試料が高粘性であるため通液が困難であり,操作完了 に長時間を要した.そこで本章では,従来のカートリッジ式SPE
の欠点を改良したSPDE
の検討した 55)(Figure 9
).SPDE
による固相への吸・脱着は試料分散時にほぼ瞬時に行わ化学物質による実験者への曝露の危険性を低減する. また,
SPDE
は血清試料のような高 粘性試料にも適用可能であり,十分な除タンパク能力を有していることを見出した.SPDE
の除タンパク能力の評価として,トリクロロ酢酸(TCA
)やアセトニトリルによる従来の 除タンパク操作と比較するため,残存するタンパク質の量をビシンコニン酸(BCA
)法 56,57)で測定した.更に,
SPDE
の有する除タンパク能力を最大限に活用した前処理法を構築 し,血清中VCM
をLC/MS
で測定した.SPDE
の有用性評価として,操作時間及び回収率 を,従来法であるカートリッジ式SPE
58)と比較した.H O OHHOH
OH NH2
CH3
HO
O
OH OH
OH
O O
O O
O O
O O O
O
O H H
H H H
H
H H
H
H
H
H
H H
H CH3
CH3
CH3
NH2
HN NH
N N N N
NH
H
H
H
H
HO
HO Cl Cl H3C
CO2H