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軸流圧縮機翼列の翼背面 壁面コーナーにおける流れの観察

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(1)

明星大学理工学部研究紀要 71

軸流圧縮機翼列の翼背面 壁面コーナーにおける流れの観察

山口 信行*緒方 正幸**

1.前書き

 明星大学機械工学科流体工学研究室では、軸流圧縮機・送風機における流れの理解と作 動状態の評価技術の向上、そして最終的には効率向上を目指して研究を行なっている。現 在、翼端/壁面流れに注目して流れを観察しているところである。興味深い現象が観察さ れており、本稿ではその結果の一部にっいて報告する。

2.研究対象とそれに関する概況

 軸流圧縮機の流体効率に影響する損失の要因として、翼断面プロフィルに由来する損失 に加えて、それと同等あるいはそれ以上の割合を占めるものとして、アニュラス損失と二 次流れ損失として分類されるものが存在することはよく知られている。アニュラス損失と

は環状翼列流路の環状壁面摩擦損失であり、二次損失とはそれ以外の二次的な流れに由来 する損失とされている。従って従来、前者は摩擦損失と同様な方法で評価され、後者は飛 行機の翼端渦のように翼の揚力係数の二乗に比例する損失とされている。これら3種の翼

100

90

 80

ま︶爵

70

60

 0.5       0.7       0.9       1.1       1.3        1.5

       流量係数CX/U

  図1 軸流圧縮機段効率における損失の影響の1例[1]

1.7

*理工学部機械工学科 教授 流体力学

**理工学部機械工学科 助手 流体力学

(2)

明星大学理工学部研究紀要

列損失の相対的な状況は、例えば、図1[1]に示されるような割合になるとされてきた。

 しかし最近の精細な測定技術と高度な計算流体力学(CFD)の発達のおかげで、二次 流れに関する研究は以前の概論的で巨視的な域を脱して、具体的な現象の把握とコントロー

ル法の提案の段階に入りつっある。これに伴い、アニュラス流れと二次流れの一部は、本 来そうあるべきであるように、合体させられ、翼端/壁面流れ(endwall flow)と一括し て考えられるようになっている。すなわちアニュラス壁面上の流れは単なる境界層流れで はなく、強い二次的な流れを内包した、あるいはもっと端的に言うと二次流れの発生源で ありかっその主要部分をなす流れの一っと見なされ始めている。

 もちろんその他にも二次流れは存在しており、その様子を図2[2]に、さらに動翼先 端に着目して図3[3]に示してある。古典的な意味での二次流れのイメージは図2と3

図2 軸流圧縮機翼列における二次流れの例[2]

   干渉領域

図3 軸流圧縮機翼列における二次流れの例[3]

(3)

明星大学理工学部研究紀要 73

における流路二次流れ(passage secondary flow)であったが、現在の理解はそれ以外に も多様で複雑な流れが存在する事を示している。しかしこれでも十分に把握されていると は言いがたい。

 ともかく二次流れの一っとして翼端/壁面流れが非常に大きな存在であることは言うま でもない。我々の関心を引くのは、それがここで注目している二次損失だけでなく、いわ ゆるアニュラス・プロッケージにも大きな影響を与えているからである。この部分での流 れは翼力欠損の影響を介して壁面境界層の成長を支配しており、単なる壁面摩擦のみの影 響下に分類することは合理的とは言えない。この分野にっいては[4]に概説してあるの で御参照願いたい。

 このように複雑な二次流れ現象を一般論として取り扱うことはほとんど不可能であり、

それぞれ個々に、かっまず実験的に取り扱われることが多い。例えばここで注目している 流れにっいては、Gallus教授のグループ[例えば5、6]がハブ壁面/動翼根元背面のコー

ナー部分にいわゆるハブ・コーナー渦(hub corner vortex)を確認した。その構造にっい てもある程度明らかにしており、図4にそのスケッチ図を引用して示す。またUdo Stark

[7]は静止二次元翼列の側壁面上にはっきりした渦の存在を確認している。CFDによ る計算例でもこの現象が明らかにされている様である[例えば8]。実際にはこれらの現 象は30年以上前の翼列研究の際に既に観察されており、再発見されたと言って良いのでは ないかと思う[例えば9]。翼の空力技術の高度化、翼設計への要求の高度化により再評 価されるべき時期に至ったと言っても良い。

 翼端/壁面流れには動翼先端の情況と動翼根元あるいは静翼付け根の情況の2種類があ る。前者には隙間が存在し、漏れ流れが大きな影響を及ぼす。翼端隙間の効率に対する影 響は極めて大きく、この分野には多くの研究が行われている。一方後者には漏れ流れは存 在しない。

 我々は翼端/壁面二次流れの代表的な現象として上述の翼端隙間の存在しない翼背面と 壁面のコーナーに発生する二次流れに注目している。これを翼背面コーナー流れと称する

ことにする。今後その構造と原因、成長・発達の様子、それに影響する因子、等を解明し、

ケーシング ケーシング

図4 軸流圧縮機動翼におけるハブ背面コーナー渦[6]

     (左:表面流線、右;推定3次元流れ)

(4)

明星大学理工学部研究紀要

さらにその抑制の方法について研究する予定である。

 この分野は多くの測定結果や観察が報告されているとはいえ、剥離や逆流を含む非常に 複雑な流れであり、まだ十分に解明されているとはいえない。今後研究の余地が多く残っ ていることに加えて、次の点で成果が大きいと期待される。

(1)要素的現象として軸流圧縮機・送風機の翼列二次損失の最も大きな要因の一っであ   る可能性がある。

(2)さらに1段の構成において見ると、動翼/ハブ面、静翼/ケーシング壁面、静翼/

  ハブ面の3箇所に発生する可能性があり、影響度が大きい。

(3)アニュラス・プロッケージとも関連しており、空力設計コントロール上の重要な観   点になる可能性がある。

 例えば(1)および(2)項にっいてごくおおまかに考えてみると次の様になる。ここ で注目する翼背面コーナー流れは、1段を構成する動・静翼の4箇所の翼端/壁面部分の うち、動翼先端部分を除いた3箇所((2)項に記述)に共通な現象として発生している 可能性がある。従って例えば段効率が92%として、残る8%の損失分の仮に半分が全二次 損失分とすると、その3/4すなわち3%がこの二次損失に関連している可能性があると概 算されよう。ただし静翼先端に隙間がある場合、あるいは内径側と外径側の半径平衡がく ずれたため作動条件が大きく異なる場合には、状況は多少変化して、2箇所で発生するこ

とになり、2%になる。その二次損失を仮に半減できたとすると、その手法を上記2〜3 箇所に適用できたなら、1.5〜1%程度の段効率の向上を期待できそうである。ただしこ の概算は楽観的すぎるかもしれない。半減ではなく1/4だけ減らせたとしたら、0.75〜1.0

%の向上ということになり、計算上はこれでもかなり大きい利得になる。

 またこの二次流れのメカニズムを理解することによって新しい翼の設計思想を導き出す 事ができそうに思われる。一般的なコーナー流れにも共通するところのある現象である可 能性があり、一般的な流体力学にも益する点が多いと考えられる。

 この翼背面コーナー流れ対策として実用に耐えるものはまだそれ程多くはない様である が、幾っか提案され始めている。F. A. H. Breugelmans[10]によるリーン翼に関する 翼列実験の結果は背面交差角によるこの種の現象のコントロールの可能性を示唆している。

この結果はカーブド・スタッキングとして適用されている例がある。またY−P.Tang等

[12]は前縁延長その他の試みを行っているが、効率向上量にっいては評価を示していな い。その他、壁面フェンスの考えなどもあるようである。

 このような手法も含む性能向上と設計コントロールの観点を射程にいれて我々は実用的 な研究を行いたいと考えている。

 本稿では、これらの観点からこれまでに翼列風洞を利用して行った実験において得られ た観察の幾っかにっいて結果をまとめて報告する。我々が特に注目している現象は、減速 翼列の背面と壁面のコーナーに発生する略三角形状の逆流領域で、二次流れの集積と両表 面の境界層の剥離が原因となって、大きな逆流領域にまで発達し、再構成された現象と考 えられる。二次損失の大きな部分を占めており、かっ設計コントロールし難い領域である。

3.コーナー領域の全圧分布 3.1 供試翼列と試験条件

表1に示す諸元を持っ翼列風洞(理工学部機械工学科9号館に設置)の吹き口に、表2

(5)

明星大学理工学部研究紀要

に示す二次元断面形状の翼型と翼列条件をもっ翼列を取り付けて気流を流し、背面コーナー に注目して測定を行なった。翼列関係図を図5に示す。反り角30°、食違い角40°、節弦比 0.9、アスペクト比2.5と、静翼に使われる程度の翼列条件で、やや高めの負荷条件に設定

表1 翼列風洞 諸元

表2 試験翼 諸元

表3 翼列作動状態

図5 供試二次元翼列関係図

(6)

76 明星大学理工学部研究紀要

してある。実験における流入速度は33m/sで翼弦長基準のReynolds数は2.1×105、迎え角 は10°、12°、14°の3種類を行なった。

 風洞側壁は平板で、側壁境界層の抽気は行なっていない。上流境界層の抽気も行なって いない。翼列に流入する側壁境界層厚さは14mm程度であった。

 翼列の背面/側壁面コーナー領域の流れの定量的データを得るために、全圧レークのト ラバース測定を行なった。全圧レークは内径0.5mm、外径1mmの細管(全圧管)を並べて 作製されている。0.5mm間隔で全圧を測定した。試験の様子を図6の写真に示す。

 翼列全体の作動状態(負荷)を表わすパラメタとして、図7に迎え角に対する静圧上昇

Q

2

τ

ξ

 :;   ㌢

   

1 L

  

 〉ノ    入ロ

ノ ←語

fl tt、ぜノ

図6 翼列風洞実験状況

0.30

藁0.20

80・10

牛姫

V =38m/s Re=2.4×105

富ぽ o OOOー口U

15°  α (迎え角)

55°  α1(流入角)

図7 供試翼列作動点と達成静圧上昇係数

(7)

明星大学理工学部研究紀要 77

係数Cpの結果を示す。ここでCpは翼列上流から下流にかけての静圧上昇(ps2−PSi)を 中央断面流入動圧qi。で規準化したものである。すなわち

Cp=(ps2−ps1) /qlo・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… 一一・・・・・・・… 一・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… 一一… (1)

 迎え角α=12°でCpはピークかっフラットになっており、この迎え角が本試験条件で の失速点と判定される。

 この状況において中央翼の背面と側壁面のコーナー部分の流れを全圧の分布を測定した。

その測定断面を図8に示す。断面は翼軸と翼列軸に平行にとられている。A断面が翼弦中 央断面(50%1)で、B、 C、 D、と下流に移り、 D断面が翼後縁断面、 E断面は後縁か

ら下流に20%1のところにある。

Vi

図8 供試翼列と測定断面

 全圧管はその測圧孔を主流方向に向けて一定に保持したままトラバース測定を行なった。

局所的に全圧管に相対的に大きな迎え角をもって入ってくる流れの存在する可能性があり、

特に逆流はその最たるものである。従ってこの方法での指示値には場所によって大きな誤 差が含まれている可能性がある。しかし、大きく見て、この結果が流れ構造の概略を示唆 していることは疑いない。今後十分な理解が得られた段階で、条件を絞りこんでもっと精 密な測定を行う予定である。

 3.2 コーナー全圧分布

 各断面における全圧分布の測定結果から、図9と図10に迎え角α=10°と12°にっいて等 高線図を描いて示してある。α=10°は失速前の状態、12°は失速近辺の状態の例である。

(8)

明星大学理工学部研究紀要

壁面上

亘・

mm︶

mm︶

⑬・

o

mm︶

20X 0

2o

mm︶

×

o

9菖  ト

mm︶

40

×

O0

20

mm︶

4o X o

02

4o

60

mm︶

8X o

図Φ

南綱測錨S頴き廿回♪S蜘部θ蕪

   ︵a=lo︒〆ai==soo︶

(9)

明星大学理工学部研究紀要

mm︶ mm︶

o

2o

mm︶

4o

6o

mm︶

×

壁面上

N

N

5K

mm︶

A N>

o

mm︶

20 X o

02

図さ 茎柵心南網測語S頴さ嵜回♪S蜘部S難

嘩日卜

      X  ︵mm︶

04

 60 0

a=12oa︐152︒︶

   20 40 60

o

20

40

6o

×曾 已

(10)

80 明星大学理工学部研究紀要

図中、全圧指示値Pt2(下流静圧基準)を翼列上流の基準流入動圧q1。で除して規準化した 値(Pt,/q1。)で示す。 xが翼軸方向座標で、壁面がx=0、翼背面に平行に壁面から離 れて行く方向にxが増加して行く。yが翼列軸方向座標で、 y=0が翼背面を表わし、壁 面に平行に背面から離れて行く方向にyは増加して行く。

 これらの図において密な等高線は速度傾斜あるいは全圧傾斜の大きい領域を示している。

y軸に平行な等密度線群は側壁境界層に相当しており、x軸に沿っている等高線は翼背面 境界層に相当している。これらの等高線から、測定断面内でコーナーの隅に向かって全圧 が低下して行く傾向が明らかである。Pt,/ql。<0となる領域では、指示値の定量性に問 題は残るものの、逆流していると考えられる。

 E断面は翼後縁から下流に離れているので、翼腹面側の流れが流れ込んでおり、全圧分 布の傾向が上流側断面とは異なっている。

 3.3 コーナー逆流ゾーン

 Pt2/q1。=0の等高線を正流と逆流の境界面と見なして、その発達の様子を迎え角α=

10°、12°、そして14°に対して図11に比較してある。これらの図から、図12にそのイメー ジを示すように、逆流ゾーンは次のような3っの領域から成り立っていると考えられる。

(1)コーナー逆流区画…  コーナーを囲む立体的な逆流領域主要部分。その幅を△Xc、

  △ycで表わす。

(2)翼背面逆流層・・…  翼背面上に平面的に薄く広がった逆流部分。その幅を△Xs   で表わす。

(3)壁面逆流層・・・…  壁面上に平面的に薄く広がった逆流部分。その幅を△ys   で表わす。

Y

図12 コーナー逆流境界の断面内形態

(11)

明星大学理工学部研究紀要

(a)

(b)

(c)

  翼背面上      20

0

0 2

陰箆

40

UIUI︶

0

20

40

UIUi︶

0

20

40

UILLI︶

40 60

A 20 40

0 B

20 40

1 0

t C

20

20 0

一≡ 20

20 0 一一 1−一

40 20

一一

40 20

40

40

20 40 60

A

0 20 40

          

   B

20 40

0

20 C

20 0

  ,

20 0 20ご

40 20

40 20

,,

40 40

20 40 60

X(mm)

60

   60  40    40D

ノ︑

X(mm)

60   6。xv

40

A X

0 20 40 60

B

0 20 40

C

20 40

0

0 20

40

  20

 〆 20

40 20 40

一■一≡

40

E

DO 4

X(mm)

60

60

60\¥

40

E

D

60 60

60

60 α=10°

α= 12°

α=14°

図11 コーナー逆流域の形態の流れ方向への変化

81

(12)

82 明星大学理工学部研究紀要

 これらの観察と分類がどれほどの意味をもっものか現段階では明確にはできないが、取 り敢えず指摘し、以下の記述において上記の言葉を使うことをここで述べておく。②と(3)

をまとめて表面逆流層という言葉で一括する場合もある。②と㈲は通常の境界層の剥離・

逆流した状況に類似したものと考えれば一応理解出来るであろう。

 これらの逆流ゾーンのサイズの大略の目安として、Pt、/q1。=0の等高線の外挿延長 線が翼背面と交差する点を読み取って△x、壁面と交差する点を読み取って△yと表記す

る。これらの△xと△yが下流に向かって変化していく様子を各迎え角に対して図13にプ ロットしてある。図中の実線は上記②と③の表面逆流層を含めた逆流域の全体的な広がり を示している。点線は(1)のコーナー逆流区画のみを示しており,△Xcと△ycに相当する。

実線と点線の間が表面逆流層域に相当しており、これらの巾が△Xsと△ysに相当してい る。この図から次のことが観察される。

→_α=10°

 v一 壁面 一α=12°

△一α=14°

△・梧面逆流層   全逆流領域一≡≡≡一

コーナー逆流区画

60 60

50 50

△Y

  一   

40 心一 一_−tS 40

Aε              A

巨 30口

Q−一 二,一_一一臼            

△Yc ∈ 30   口

        ×

4  20 <]

           20

   ,9

      一一

一.一一一一一一一一〇

10 10

50

  V

−一

・]翼背面逆流層

σ I N S

h N

   日e

  

         

翼背面

△X

△Xc

    30       15       0       50      30       15

   ・(mm) 塞   響  ・(mm)

壁面上        菖翼背面上

  図13壁面上および背面上の逆流境界の流れ方向への拡大の様子

0

(1)翼面上逆流範囲△xは下流に向かって拡大し続ける。

(2)壁面上逆流範囲△yは翼弦中央断面で既にある程度十分広がっており、その後の下   流に向かっての拡大は小さい。ただしα=12°では途中で急激に拡大し、その後は縮   小傾向あるいは一定に近い。

 またコーナー逆流区画(点線)の傾向も上に述べたことと同様であり、△xcは迎え角 とともに広がりは増大しているのに対し、△ycは比較的フラットな挙動をしている。一 方、表面逆流層範囲については、背面逆流層範囲の広がり△xsは迎え角の増加とともに 増加するのに比し、壁面逆流層範囲の広がり△ysは流れ方向に比較的フラットであるが、

角度の変化に対してはα=12°で急増し、α=14°で減っていることが観察される。

 これらの結果から、壁面上(y方向)ではA断面で逆流領域は既に十分広がっており、

(13)

明星大学理工学部研究紀要 83

その後の拡大は比較的小さいのに対し、背面上(x方向)では下流に向かって拡大し続け て行く、という興味深い構造が分かる。その様子を図14に定性的に描いてある。これらの 観察は迎え角3種に対し共通な現象として得られている。

 その原因としては、背面上の圧力分布が壁面上のそれに比して厳しく、境界層の剥離を 引き起こし易いものであることに関係していると考えられる。

図14 コーナー逆流域の発達の様子

0.6

/2

X

/2

Y

後縁逆流域相対幅

0.2

0

 o

にUO  O

2 EU

 o

丈U4

α1(流入角)

0.3

静圧上昇係数

  Ω

図15翼後縁におけるコーナー逆流領域の相対的サイズ(寸法)

(14)

84 明星大学理工学部研究紀要

 以上のデータから、翼後縁断面(翼列出口面)における逆流ゾーンの大きさに着目して みることにする。それらを△XTEおよび△yTEと表記する。これらの量を翼弦長1で規準 化して図15に示す。本図には迎え角の変化による後縁逆流ゾーンのサイズの変化を示して いる。逆流域全体として見ると(実線)、△XTE/1および△yTE/1ともに迎え角とと もに増加し、迎え角α=14°で前者は略0.6、後者は略0.5に達している。しかし、コーナー 逆流区画(点線)で見ると、背面上では漸増するに止まっていて変化はそれ程大きくなく、

0.35程度で、残る背面逆流層の幅の増加が目立っている。一方、壁面上ではコーナー逆流 区画、壁面逆流層ともに広がっているが、主体はコーナー逆流区画であることが観察され

る。

 この観察された現象の可能性の一っとしては、逆流層の広がり方や従来から示唆されて きた壁面上前縁周りの馬蹄渦の存在を考えあわすと、壁面上逆流層は限界流面立ち上がり 場所での馬蹄形渦のごとき領域、翼背面上逆流層は翼面境界層の剥離・逆流を示している のではないか、と推測しているがまだ確実ではない。

 3.4 コーナー・プロッケージ

 翼背面/壁面コーナーにおける逆流域の断面形状を略三角形と近似すると、翼後縁断面 におけるその断面積Acは大略次式で与えられるだろう。

Ac=(1/2)△XTE・△yTE・………・・…・……・………・(3)

 そしてこの断面積を流れが通過できないことからコーナー・プロッケージと見なすこと にする。実際のプロッケージは逆流部分だけではなく、排除厚み部分も含むからもっと大 きいはずであるが、ここでは測定上の精度の観点から簡略化して話を進める。そして翼弦 長による面積12と翼列通過面積(th/2)で規準化してみる。

ac=Ac/12………・……・……・……・…・………・……・・…・………(4)

bc=Ac/(th/2)………・……・………・…・・………・………・・…・………(5)

ここでtは翼間隔、hは翼幅である。この時、 bcは流れの通過面積に対するプロッケー ジ面積の割合を表わす。コーナーが風洞の両側壁に存在することからh/2で規準化して ある。これをコーナー・プロッケージ・ファクタと呼ぶ事にしよう。 acは翼弦長に基づ く割合を示す数値になり、翼の大きさに基づいてプロッケージを具体的に評価するのに便 利であろう。両者の関係は次式で与えられる。

bc=ac/((t/1)(AR/2))・………・……・…・・………・…・・………・………(6)

ここでAR(=h/1)は翼のアスペクト比である。

 これらの係数値が迎え角によりどのように変化するかを図16に示してある。α=10°で 両者とも5%程度、12°で12%、そして14°で15%程度となって、翼作動状態、特に翼負荷 の影響が大きいことが現われている。健全な作動点α=10°での値に比し、失速点12°以上 でのコーナー・プロッケージは極めて大きい。これは翼列主流部分の作動状態に大きな影 響を与えると考えられる。この実験に関する限りbcもacも同程度の大きさであるが、ア スペクト比の小さい翼列では、 bcはずっと大きくなり、その影響も大きくなる可能性が

ある。

(15)

明星大学理工学部研究紀要 85

03

     P    C静圧上昇係数

Ω

     o C    a b

縁コーナ−プロッケージファクタ

O

 oOOlCU o oりq21兵U o e441にU

α (迎え角)

α1(流入角)

図16翼後縁におけるコーナー・プロッケージ・ファクタ

 従来、圧縮機の翼素設計には二次元翼列試験の結果が利用されて来た。二次元翼列とは 側壁に発達する境界層をほぼ完全に除去した状態における翼性能であるから、この様に大 きなコーナー・プロッケージの存在する失速点近辺での翼列作動状態の評価に二次元デー タを利用することは当然ながら無理がある。高負荷翼の設計や低アスペクト比翼の設計、

あるいは失速点近辺の流れのコントロールが今後必要になってくると思われるが、この観 点を含めての考慮が重要であろう。

4 翼背面/壁面コーナー流れの流跡観察

 次に翼背面コーナー流れの状況を表面流跡の可視化によって調べてみた。対象とした状 況は前節と同じである。迎え角は8°と10°で行なった。

 表面に赤色と黄色のトレーサーを塗り分けてしばらく風を流す事により、可視化された 流跡を観察した。赤色トレーサーは四三酸化鉛にオレイン酸と流動パラフィンを混合した もの、黄色はクロム酸鉛にオレイン酸と流動パラフィンを混合したものである。これによっ てコーナー逆流領域の構造がかなり理解できるようになった。

 4.1 流跡

 図16にα=8°と10°の可視化流跡の代表的な写真を比較して示す。

 撮影された可視化画像から流れのパタンを描いてみると図17の様になる。既に報告され ている例[5、6]と同様であるが、より詳細になっている。この図を参考にしっっ写真 をご覧頂きたい。

 α=10°ではまず強い渦芯の跡が側壁面上に見られる。背面上後縁近くにもこれに対応 すると見られる渦芯の跡が見られる。感じとしてはこれらはっながっているようである。

(16)

86 明星大学理工学部研究紀要

翼列風洞吹出し口

翼、列後縁線 ,翼列後縁線

上翼後縁

供試翼後縁

下翼後縁

翼列風洞吹出し口 側壁端

翼列風洞吹出し口 側壁端

翼後縁

試翼後縁

図17翼背面/壁面上流路の迎え角変化時の状態比較

これらをっなぐ渦管を想定してトルネード渦と呼ぶ事にしよう。側壁面上の渦芯は広い足 場の上にあり、細かく動きまわりながら大量の空気とトレーサーを吸い込み、吸い上げて

いるようである。これに対し、翼背面上の渦芯は後縁のすぐ傍にあり、強度的に弱そうで あり、吸引も壁面のそれに比し弱いことが観察された。従って、直接見ることができた訳

(17)

明星大学理工学部研究紀要 87

ではないが、トルネード渦管は途中でつながったり、切れたりをくり返し、吸引した流体 やトレーサーを非定常に流れの中に放出しているのではないかと思われる。この意味でト ルネード渦がっながっていると考えるのは正確ではない可能性も在る。今後さらに調査が 必要である。

 このトルネード渦管を取り囲んで広い逆流領域が両表面上に広がっている。コーナーに 沿ってかなり上流まで逆流の跡が観察される。これより逆流と正流の限界流面がコーナー を先頭にして立ち上がり、略三角錘状に広がって行く逆流部分が形成されていることが分

かる。

 この側壁面上逆流領域には、壁面上腹面側に塗られたトレーサーが壁面に沿って翼後縁 をまわりこんで吸込まれている。逆流領域内が強い負圧であることが推測される。

 側壁面上および翼背面上からはトレーサーが持ち去られ、短時間で表面の地が露出する

図18翼背面/壁面コーナー流路スケッチ図

(18)

88 明星大学理工学部研究紀要

場所も多い。それらは流れが速く、乱れの強い場所と考えられる。例えば方向の異なる流 れがぶっかり合う場所、逆流面、渦発生場所、等である。

 α=8°でも、10°の場合程強くはないが、逆流領域とトルネード渦芯跡ははっきりと観 察される。サイズ的には小さいが、構造上類似している。失速点よりも低負荷である状況 でもこのようにコーナー逆流領域は確立している。

 図18において各部分の意味は次の通りである。(1)側壁面上の上流流入流跡、(2)翼背面上 前縁流跡、(3)翼背面上乱流遷移線、(4)乱流遷移後の翼背面流跡、(5)側壁面上逆流領域上流 界面跡、(6)翼背面上逆流領域上流界面跡、(7)側壁面上トルネード渦芯跡、(8)翼背面上トル ネード渦芯跡、(9)側壁面上逆流跡、(10)翼背面上逆流跡、(11)側壁面上で腹面側から背面側に 吸込まれる流れの跡、(12)翼後縁を回り込んで翼腹面から背面上に戻る流れ、(13)側壁面上で 背面側流れと腹面から流れ込んできた流れのぶっかり合う部分。

5 コーナー・プロッケージと静圧上昇係数に関する考察

第2節に立ち戻って、本実験の翼列の作動状態について検討してみよう。二次元翼列デー タに基づいて算出された本供試翼列の設計静圧上昇係数は次の程度の値だった。

Cpo=0.38

方今回の翼列試験で測定された範囲で達成された最高値は α=14° に対して Cp=0.28

であってかなり低く、しかもこの点は失速点であった。 CpとCpoのこの大きな相違に ついて、コーナー・プロッケージとの関連において検討してみる。

 プロッケージが存在することにより軸流速度成分が増大するが、これによる二次元状態 でのCpoから三次元状態でのCpに変わるとする。この時付録A−3の(A−7)式によ

り両者は関係づけられるとする。 この式に Cpoニ0.38

bc=0.13

を代入すると Cp=0.30

を得る。今回の測定値に近いオーダーになっている。高いCpが達成されない現象の傾向 的な説明にはなる。おそらくCpoが増すとbcも大きくなってCpの上限が決まるのであ

ろう。

 この検討から、翼の負荷とacやbcの大きさは設計上非常に大切であり、場合によって は所期のCpを達成できない可能性と深く関係していると考えられる。また最近注目され ている低アスペクト比翼においてはさらにこの影響が大きく現われるのではないかと思わ

れる。

 今後これらの観点も含めてデータの蓄積と考察を進めて行く必要がある。

(19)

明星大学理工学部研究紀要 89

6 結語

 軸流圧縮機翼列における翼背面/壁面コーナー流れの構造に関して翼列風洞を利用して 実験的に調査し、次の観察を得た。

(1)コーナーにおける逆流領域の大略のサイズとその発達の様子が分かり、それらに対   する翼負荷の影響の重要さが分かった。。

(2)コーナー逆流域によるプロッケージの影響の重要さが理解された。

(3)コーナー逆流域はコーナー逆流区画、翼背面逆流層および壁面逆流層の3部分から   成り立っている事が観察された。

(4)流跡の可視化からコーナー流れの詳細がある程度分かり、特にトルネード渦の存在   が確認された。

 わずかの観察とデータとから余りに多くの事を言い過ぎた恐れはある。今後これらの観 点をさらに追求して行く所存である。

7 謝辞

 本研究は平成7年度の機械工学科流体研究室の卒業研究の成果の一部をまとめたもので ある。これらの研究に熱心に取り組んでくれた学生諸君、特に伊藤慎一君、角谷勝君、細 野浩幸君、秋枝幸房君、井坂直樹君に感謝する。

付録A−1 Ac

ac bc Cp

l

PSi Ps2

Ptl Pt2

qID

X y

α α1

△X

△y

△XC

△yc

△XS

△ys

△XTE

△yTEξ

  記号

コーナー・プロッケージ断面積、(3)式 コーナー・プロッケージ・ファクタ、(4)式 コーナー・プロッケージ・ファクタ、(5)式 静圧上昇係数、(1)式

翼弦長 翼列上流静圧 翼列下流静圧 翼列上流全圧 翼列下流全圧 翼流入基準動圧 翼軸方向座標 翼列軸方向座標 迎え角(=α1一ξ)

流入角

翼軸方向逆流範囲 翼列軸方向逆流範囲

コーナー逆流区画翼軸方向逆流範囲 コーナー逆流区画翼列軸方向逆流範囲 翼背面逆流層範囲

壁面逆流層範囲

コーナー逆流域翼軸方向逆流範囲(後縁)

コーナー逆流域翼列軸方向逆流範囲(後縁)

翼食泣い角

付録A−2  引用文献

 [1]」.H. Horlock, Axial Flow Compressors, Butterworth Scientific Publications,

(20)

90 明星大学理工学部研究紀要

 (1958)

[2]W.J. Hartmann, Advanced Techno]ogies for Turbomachinery Systems−an  Overview, Proc. of the llth Turbomachinery Symposium(1982)

[3]N.Sitaram and B. Lakshminarayana, Endwall Flow Characteristics and Overall  Performance of an Axial Compressor Stage, NASA CR−3671(1983)

[4]山口、多段軸流圧縮機におけるアニュラス・プロッケージについて、日本機械学会論文  集(B編)、vol.54, no.508(1988)

[5]H.D. Schulz and H. E. Gallus, Experimental Investigation of the Three−

 Dimensional Flow in an Annular Compressor Cascade, ASME Paper 88−GT−201

 (1988)

[6]H.D. Shulz, Experimentelle Untersuchung der Dreidimensionaler Abgeloester  Stroemung in eines Axialverdichterringgitter, Dr. Dissertation (Rheinisch  Westfaelischen Technischen Hochschule Aachen)(1989)

[7]Udo Stark, Experimentelle Untersuchungen zum Einfluss der Staffelungswinkels  auf die Sekundaerstroemungen in ebenen Verdichtergittern, Forschung im

 Ingenieurwesen, Bd.55, Nr.5,(1989)

[8]野崎、他、ナビエ・ストークス方程式による三次元翼列流れ解析、日本機械学会論文集  (B編)55巻520号(1989)

[9]山口、圧縮機減速翼列風洞試験と渦流れ、「流れの可視化 今・昔」、可視化情報学会、

 (1993)

[10]F.A. H. Breugelmans,et a1., Influence of Dihedral on the Secondary Flow in a  Two−Dimensional Compressor Cascade, Trans. ASME , J. of Engng. for Gas  Turbine and Power, voL106, July 1984

[11]Y−P.Tang and M−Z.Chen, Vortex Control over End Wall Flow in Compressor  Cascades, ASME 90−GT−228,(1990)

付録A−3 プロッケージと静圧上昇係数に関する検討

 二次元翼列において何等かの原因で図A−1のように軸流速度が上流でのVa1から下流のVa,

に増速されている状態について考えて見る。ここで流れはViで流入してV,で流出し、その相対 流入角度α1、相対流出角度α2とする。二次元状態には添字0を付けて示す。

図A−1 翼列と速度三角形

(21)

      明星大学理工学部研究紀要      91

 この増速は例えば何等かの原因によるプロッケージ比bで表わされるものとする。すると    Va2=Va1/(1−b)       (A−1)

  この増速作動状態を2次元状態すなわち軸流速度同一の場合に相当する翼作動状態(速度三 角形)と関連付けてみる。ここでは最も単純な平均軸流速度法によるものとする。上図で言えば    平均軸流速度 Va。=(1/2)(Va1+Va,)      (A−2)

   旋回速度 一定

この状態は図中一点鎖線に相当する。この2次元状態に添字0を付けて表わす。(A−1)、(A−

2)両式から次式を得る。

   Vaoニ((1−b/2)/(1−b))Va1      (A−3)

ここで静圧上昇係数は次式で表わされる。圧力損失係数をζとする。

   Cp=(ps2−ps1)/q1

    =1−(q2/q1)一ζ       (A−4)

これより2次元の場合

   Cpo=1−(cosαlo/cosα23)2一ζo      (A−5)

3次元でプロッケージのある場合、

   Cp=1−{(Va2/Vai)2十(Vao/Va1)2tan2α20}/{1十(Vao/Val)2tan2α20}一ζ        (A−6)

ここで圧力損失係数がほぼ同一として上の2式を組み合わせると、次の関係式が近似的に得られ

る。

   Cp={Cpo−(2b/(1−b/2))cos2α10}/[1−{b(1−0.75b)/(1−b/2)2}cos2αlo]

       (A−7)

  bが小さいとしてbの1次項まで残すと次の式を得る。

    Cp=(Cp。−2bcos2α・lo)/(1−bcos2αlo)       (A−8)

参照

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