研究調査報告
BET表面積測定法に関する検討(:第1報)
一間接測定としての死容積の測定一
三浦和久,谷岡
守*(昭和46年9月28日受理)
Studies on the BET Method (Part 1)
一 Measurement of the Dead Volume as an lndirect Measurement 一
Kazuhisa MiuRA and Mamoru TANIoKA
(Received Septernber 28, 1971)
The accuracy of the surface area of samples measured by means of BET method is dependent on that of the dead volume of the equipment. The dead volume, which is not to be measured directly and is evaluated by Boyle s law indirectly, leads to noticeable error. And the authors have considered how to get rid of the error.
At the present stage of the study, the authors get the following results:
(1) The indirect measurement of the dead volume is potently affected by the accidental error due to the mea−
surement of the pressure.
(2) The measurement of the dead volume is affected by a certain systematic error connected with the volume.
In dealing with the systematic error, the authors induce a effective volume to get the distribution curve for the corrected values of the dead volume similar to the Gaussian distribution curve and determine the dead volume with a high accuracy; O.18%
1 緒 言
BET表面積測定法1)(BET法と略記)は, S. Brunauer,
P.H. Emmett, E. Tellerが提出した多分子層吸着説2)に基 礎を置き,おもに粉体の表面積測定に適用されているもの で,原理的には,吸着前に装置内に採取した窒素ガス量と 吸着後装置内に残存する窒素ガス量の差を,試料のガス吸 着量としてBET式で処理し,この結果より試料の表面積 を求めるものである。
このBET法にしたがって表面積を求める測定操作およ び計算手続の中で,表面積の測定精度を左右する因子の1 つとして,死容積すなわち直接測定が不可能とされている ガスの通路などの容積の間接測定があげられる(3章参 照)。この死容積は,一定温度のもとでBoyleの法則を用 いて算出されるが,従来その値の決定には,それらの算出
測定値の中から幾つかの頻度の高いものを選び出し,それ らの平均値を死容積としていた。
著者らは,表面積の測定精度を支配する,この死容積の 決定のされ方に疑問を持ち,間接測定量である死容積と関 連する直接測定量の測定ならびに死容積算出手続の各段階 の詳細な検討を行なって,死容積の算出値のばらつきの原 因を明確iにすると共に,死容積の測定精度を上げることが できた。これら検討の結果は,さらに,この装置による測 定が比較的困難とされた酸素,水などの吸着量の測定にも 有効であると思われる。
2 装置の概要
*金属工学科
本実験に用いたBET表面積測定装置は,大科工業株式 会社製であり,その全部分はPyrex硬質ガラスで組み立 てられている。Fig.1は,この装置の必要な部分だけの略 図である。
一 227 一
3 測定原理及び実験方法
H M
E B
D
Eyacllatien
Ac
P
!
踊
J
鮭ノ
F V
G L
Fig.1 The schematic representation of the BET adsor−
ption equipment. The shadowed portion; The space of the dead volume. The black pordon;
The space occupied by mercury,
AtwG; Stopcock,
H; Nitrogen gas storage,
1; Cushion;
J ; .Mercury volume adjuster,
K; Zero manometer,
L; Mercury manometer,
M; Geissler tube,
N; Stream of water at constant temperature,
P; Sample tubes.
A〜Gの部分はダルマコックである。いずれも,これら の部分には真空用シリコーングリースが使用してある。H は窒素ガスだめであり,ここに液体から気化した窒素ガス を入れておく。Aを操作することにより, Hから吸着系に 窒素ガスを導入することができる。1はクッションと呼ば れ,Gから外気を導入する際に,外気が水銀圧力計中の水 銀に及ぼす衝撃を緩和する働きを持つ。Jは水銀の上げ下 げによって,吸着系内の容積を調節するものであり,あら かじめ7個の球の容積を,水および水銀によるキャリブレ ーションによって決定してある。Kはゼロ圧力計と呼ば れ,一種の水銀圧力計ではあるが,実際は,吸着系の全容 積を一定に保つ働きをする。Lは水銀圧力計であり,背後 の鏡面上の目盛りから圧力差が直接読み取れる。その最小 目盛は1mmである。皿はガイスラー管である。 Pは本報 の内容には直接に関係はないが,吸着試料管である。
J及びKの部分には,25QCの恒温水を,大洋科学工業 株式会社製の大洋サーモユニットC550型を用いて,常時 流している。
また,油回転ポンプは,日本真空技術株式会社ge PVD−
150型を用いている。
死容積の測定は,温度一定の条件下で,次のようにして 行なう。まず,E, D, Fを開き邸内を油回転ポンプで5×
10−3mm Hg以下の真空度まで排気する。このときA, B,
C,GおよびP部分の3つのコックは全部閉じたままであ る。真空度のテストはガイスラー管Mをもって行ない,
紫色の空気の存在を示す放電現象などが完全になくなれ ば,5×10m3 mm Hg以下の真空が得られたことになる。
次に,油回転ポンプを作動さしたまま,Eを閉じ, Aを 開けて死容積部分及びJ部分の空間に窒素ガスを導入す る。ここで,死容積空間はE,B, A, Cおよびゼロ圧力計 Kの左側の永銀面までで囲まれる空理(Fig.1の斜線部分)
であり,これをVdとする。 J部分の水銀を最下水銀球の 下の標線に合わせ,7個の水銀球のすべてを空にする。各
々の水銀球の容積の総和をV・,上から6番目までの水銀 球の容積の和をV2,上から5番目までのそれをV3という ようにすると,このときの窒素ガスの占めている全空間の 容積は,(v・+v・)となる。このときK:においては,右側 水銀面の上部空聞が5x10−3mm Hg以下の真空に保たれ ているため,右側水銀面が上昇し,両側の水銀面の高さの 差が窒素ガスの圧力を示すことになる。そこで,Fを閉め,
Gを適切に開けて外気を導入し,Kの右側水銀面をもとの 位置にまでもどす。その結果,窒素ガスの圧力をしなる水 銀圧力計に,そのまま移したことになり,しの両側の目盛 りの差を0・1mmまで正確に読みとる。これをP・の値と
する。
次に,J部分の最下標線に合わせてあった水銀面を上昇 さし,上から7番目の水銀球を完全に水銀で満たし,下か ら2番目の甲線に合わせる。全空間の容積は(V2+Vd)と なり,容積の減少で圧力は上昇する。この圧力を同様の操 作で,水銀圧力計しに移し,同じ精度で目盛りを読み取
る。とれをP2の値とする。順次同じ操作を繰り返し, P3,
P4,……を測定して,理想気体の状態方程式から,次式を 得る。
Pi (Vi+Vd) = P2 (V2+Vd) == P3 (V3+Vd) == ・・・…
= Pi (Vi + Vd)
(但しi=1.2.3…8)
この連立方程式を解いてV・を算出する。Vdを求める方 程式は,iC2=i!/{2!(i−2)!}個立てられるから, Vd の値もiC2個得られることになる。本実験では, P・を一定 にして,この一連の実験を10回繰り返しTable 1の各測 定値を得た。
ここでは,死容積算出式として理想気体の状態方程式を 用いたが,実在気体の状態方程式を用いる必要のない理由
BET表面積測定法に関する検討(第一報)三浦・谷岡
Table 1 The pressure of nitrogen gas and the volume of the mercury volume adjuster.
Pressure
Pi ± APi
P2±ゴP2
P3 ± dP3 P4 ± dP4 Ps ± dPs
Values (mmHg)
74.40 ± O.050 89.83 ± O.044 109.80 ± O.036 133.92 十 O.060 163.35 ± O.058
Volume Vl V2 V3 V4 V5
Values (ml)
113.64
れと比較して小さくなっている。この傾向は,いままでの 数回にわたる予備実験においても認められていたものであ る。したがって,死容積の測定に伴う誤差を考慮すれば,
幾分かは測定値の整理がつくと考えられる。
85.49 61.29
Table 2 The average values of the dead volume and its probable errors classified by combination of the pressures.
41.38 24.97
Combi−
nation Pl−P2 を明確にしておかねばならない。実在気体の状態方程式と
して,van der Waals式を例にとる。
すなわち
(p+ .:28e一, ) (v 一 nb) == nRT
Pl−P3 Pl−P4 Pl−Ps P2−P3 である。上式で,Pは気体の圧力,Vは気体の占める体積,.
Rは気体定数,Tは絶対温度, nは気体のモル数, aおよ びbはvan der Waals定数である。
窒素ガスについてはa・=1.06×109[m12 mmHg moleL2],
b=39,2[ml mole−1]が認められている3)。
本実験では,一定温度25。C, P・R・・74・4[mmHg], V・
rs 114[ml]を用いており,且つ測定の結果から死容積は 約49[ml]であるので,理想気体の状態方程式から系内の 窒素ガスのモル数を概算すれば,6.51×10−4[mole]と なる。この結果,それぞれn2a/V2・=1.69×10『2 LmmHg],
nb =・ 2.55×10 3[ml]を得る。さて,この装置では,圧 力測定は,水銀圧力計の最小目盛が1mmであるので,
0.1mmHgまで可能である。したがって,圧力の補正項は 充分に無視出来る。次に,体積の補正項であるが,死容積 は0.01mlまでを現在問題にしているので,これも無視可 能である。
以上のことから,Vdの算出式としては,理想気体の状 態方程式で充分であると考えられる。
P2−P4 P2−Ps P3−P4 P3−Ps P4−Ps
Average
value (ml)
50.26 48.74 48.95 49.20 47.57 48.49 48.98 49.26 49.51 49.71
士AVd measured (ml)
O.38 O.18 O.13 O.11 O.16 O.12 O.10 O.19 O.09 O.15
± zi Vd
calculated (ml)
O.66 O.26 O.16 O.10 O.36 O.18 O.10 O.28 O.11 O.24
4 実験結果と考察
4.1 誤差の検討
一一定量の窒素ガスの容積変化に伴う圧力変化を測定し,
ボイルの法則によって算出する死容積の間接測定値は,非 常にばらつき,一見なんらの法則性も認められないようで ある。しかし,それらの測定値を,それらを算出した方程 式の圧力の組み合わせと関連付けて整理してみると,ある 傾向が認められるようになる。
すなわち,それは,Table 2に示したようなもので,特 にP・とP5, P2とP5, P3とP5の圧力の組み合わせにおい ては,それらの死容積の公算誤差が,他の組み合わせのぞ
死容積Vdを求める際に用いる式は,温度一定の条件下 で,次式で表わされる。
.Pi (Vi 十一 Vd) == Pj (Vj 十 Vd)
したがって,
.. PiVi−PiV, ...
V d= =pJ. rrt. ,(1)
が成立する。さて誤差伝播の法則4)から,間接測定として の死容積の測定に伴う公算誤差dVdを表わす式を次に示
す。
(dv,)2= (一giYllf−g )2 (dp,)2 一t一 (.giYl:1.t )2(dpj)2
・(器1プ幽・+(議題(…)・・(・)
誤差伝播の法則は,それぞれの測定値の偶然誤差のみを問 題にしている。(1)式を,Pi, Pj, Vi, Vj,のそれぞれで 微分した微係数を(2)式に代入して,整理すると,(2)式
は
幽・マ三痔即・P・2[(紛・(響
・(Pプj)2(轟)2+(Pデう2(轟)2]
となり。したがって,死容積の公算誤差∠Vdは次式で表わ
一 229 一
される。
IVi 一 Vjl
lAVdl 一一
Pi・Pj (Pi−Pj)2
V(ztPiT・)#(砦)㌃(ハ云召・)2(。誓、)葬(劉(。誓、ア
,(3)
±dVdは,直接測定量の偶然誤差に起因する最大のばらつ きを示すものである。(3)式の平方根内は,圧力に起因す る誤差の項と,体積に起因する誤差の項との和であるが,
後者の項は前者の項に比して無視可能である。なぜなら ば,∠Vi及びAVjはともに小さく,最大に見積もっても 0・el mml上にはならないと考えられ.るからであり,実際 に,4Vi ・v tiV2 R・ O・Ol mlとして, P・とP2の組み合わせ で両者の項の大きさを比較すれば,Table 1の数値を用い て,結果は次のようになる。
すなわち
圧力に起因する誤差の項;
(dPiPi)k(鍔)し・・9…一・
体積に起因する誤差の項;
(竿メ(。窪伝)㌃(≒覇℃告♪し・・…一・
したがって,dVdの式は次式で充分である。
1・V・1一器1鼻…ゾ(群(望・ア・(・)
Table 2は,測定結果としての死容積の,圧力の各組み合 わせにおける平均値とその公算誤差,ならびに(4)式およ びTable 1の各数値を用いて算出した公算誤差とを表にし たものである。両方の公算誤差は同じ傾向を示しており,
この測定が,誤差伝播の法則に裏付けられていることを意 味している。しかしながら,圧力の各組み合わせで算出し た死容積の値の平均値にはばらつきがあり,公算誤差が比 較的小さくなる,PlとP5, P2とP5, P3とP5の各組み合 わせにおいてすら,その平均値の範囲には全く共通領域が みられない。
﹂
2
15
0 1
5
e
ζ=隠田﹄
0 2
15
署0
5
c
O一.一一N 一
46 4S 50 fi2
駐臼ad Vohmo(囲1)
Fig.2 The distribution curve of the values of the dead volume.
A; Before correction,
B; Vi standard (Vi==113.64 ml)
C; Vs standard (Vs= 24.97 ml)
4.2 実効容積の導入
Eig.2のAに測定死容積の値の大きさと測定頻度との関 係を図示した。これから明らかなように,両者の関係曲線 はガウス分布の形をとってはいない。そこで著者らは,体 積と関連した系統誤差が,この原因になっていると考え,
実効容積なるものを導入した。このことは,死容積測定の ときに,実際に有効な体積はV1〜V5ではなく,これらに 補正を加えた実効容積V・ 〜V5 であるとするものである。
実効容積の算出および死容積の補正値の算出は,次のよう な逐次近似法で行なった。著者らは,まず死容積の第零次 平均値(補正前の100個の測定値の平均値)として49・066 mlを得た。この値とVi=113.64 mlを基準にして(5)式か ら,V2からV5までの容積に相当する第一次補正容積と呼 ぶべきものを算出した。次に,この第一次補正容積を用い て死容積の再計算を行ない,100個の補正値を得て,その 平均値を第1次死容積平均値とした。この値とV・の値を基 準にして再度(5)式を用いて同様の計算を行ない。第2次 補正容積を得た。以後,同様の手順で高次の補正容積を求 めたが,第2次のそれと変わらなかったので,著者らは,
BET表面積測定法に関する検討(第一報)三浦・谷岡
これをもって実効容積と名付けた。次に,第零次平均値と V5=24・97 mlを基準にして,全く同様の計算を(6)式を 用いて行ない,このときの実効容積も得た。Table 3はそ の結果を表にしたものである。
平均値=ViiP, 一 113.64 × 7.440
平均値=一
7.440 一 Pi (ただしi=2.3.4.5)
24.97 × 16.355 一 Vj,Pj
の 3 乞5L
︵ Pた ﹁だ ーし aブ 35
Table 3 The effective volumes.
,(5)
,(6)
Effective volume
V1ノ V2ノ V3 V4 V5ノ
Vi standard (ml)
(113.64)
85.69 61.18
Vs standard (ml)
113.48 85.56 61.08
41.32 41.24
(24.97)
0・09m1であると決定される。その決定の精度は±0.09/
49.07 =±0.0018である。
Fig.2のB及びFig.2の。は,死容積の補正値と測定 頻度との関係であるが,分布が補正前に比してガウス分布 に近づいたことがわかる。以上のことからも,実効容積の 導入は非常に有効と考えられる。
なお,V1を基準にした場合の全補正値の平均値は49.070 ml, V5を基準にした場合のそれは49 ・065 mlであるが,
著老らは下記の2つの理由によって,実効容積としてV5基 準のそれを使用している。(1)問題にしている系統誤差が 容器の内壁表面積と関連しており,したがって表面積の小
さいV5を基準にした方が,この系統誤差が小さいと考え られる。(2)Fig.2のB及びCに示した死容積の補正値と 測定頻度との関係が,V5基準の方において,ガウス分布 により近づいていることから,この系統誤差がまえにもま
して充分除かれていると考えられる。
25.04
Table 4 The average values of the corrected dead volume and its probable errors classified by combination of the pressures.
Combina−
tion
Pl−P2 Pi−P3 Pl−P4 Pi−Ps P2−P3 P2−P4 P2−Ps P3−P4 P3−Ps P4−Ps
V1 standard Average
value (ml)
49.10 49.08 49.06 49.07 49.08 49.05 49.07 49.04 49.07 49.09
±dVd
Q.1).
O.38 O.18 O.13 O.11 O.16 O.12 O.10 O.19 O.09 O.15
Vs standard
Average 1±dVd
value (ml)] (ml)
49.08 49.05 49.06 49.06 49.04 49.06 49.06 49.09 49.07 49.07
O.38 O.18 O.13 O.11 O.16 O.12 O.10 O.19 O.09 O.15
Table 4は,こうしてV・とV5の2つの基準によって決定 された死容積の補正値とその公算誤差を表にしたものであ る。Table 4から明らかなように,実効容積を導入すること で,どの圧力の組合わせでも平均値は3回目まで一致する ようになった。したがって,このときの死容積は49・07±
5 結 論
従来の方法によって算出した死容積の値を,圧力の組み 合わせに分けて配列し,その誤差を算出したところ,これ らは誤差伝播の法則から算出した誤差の値と同一の傾向を 示した。ところが,各組み合わせにおける平均値はTable 2に示されるように非常にばらついた。著者らは,そのば らつきについて誤差論的に詳細な検討を行なった結果,そ のばらつきの原因を容積に関連する系統誤差と推定し,こ の誤差を除去するために実効容積という概念を導入して,
逐次近似法で再計算を行ない,Table 4に示されるように,
平均値を一致さすことができた。
これらの検討の結果は,この装置による表面積の測定お よび吸着現象の研究に精度を上げるうえで有効であると思 われる。
終わりに,本研究と関連して多くのご助言を賜わった岡 山大学理学部,森本哲雄教授並びに長尾真彦氏に厚く御礼 申し上げる。
文 献
1)慶伊富長;吸着,(1070),95〜103,共立出版 2) S.Brunauer, P.H.Emmett and. E.Teller; J.Am.Chem.
Soc, 60 (1938), 309
3)日本化学会;化学便覧,基礎編H(1966),493,丸善 4)影山誠三郎,沢田正三;基礎物理実験,(1968),17,
朝倉書店
一 231 一