← 無形 資産 の所 有権 につ いて (1)‑
大 岩 利依子
Ⅰ
は じ め に本稿 は,移転価格税制 における無形資産の所有権 について考察することを研 究 目的 としている。移転価格税制について,強大 な経済力 を持 ったアメリカ合 衆国では
,1 9 2 8
年当時に既 に現在 と同 じような法律規定 を設けていた経緯があ る。アメリカ合衆国の移転価格税制 は,その後 も,各国に先駆 けて常 に整備 さ れて きているわけである。アメ リカ合衆国の移転価格税制 を考察することは, 今後の世界各国の課税 当局の動向を予測する上で,十分 な示唆 を与 えて くれる もの と思われる。そこで, まず 日本 とアメ リカ合衆国の移転価格税制のそれぞ れの概観 を説明する必要があるように感 じられた。本稿 では,手始めに,移転 価格税制の最近の動向 と,所有権 に関係する法律規定や取扱要領等の変遷 を整 理 し,検討することに した。パー トⅡは 日本 における移転価格税制 について,無形資産の所有権 に関連す る事項 を取 り上げる。パー トⅢでは,法的所有権 と経済的所有権の意義等 を簡 潔に説明す る。パー トⅣでは,アメ リカにおける移転価格税制について,無形 資産の所有権 に関 して
,1 9 6 8
年財務省規則以降の変遷 を考察す る。Ⅰ
日本 にお け る移 転価格 税 制 1 移転価格税制における巨額追徴課税2 0 0 6
年は,我が国の リーデ ィングカンパニー と称 されるような企業に対 して,〔 43〕
国税 当局か ら次々 と移転価格税制 に よる巨額の追徴課税 が行 われた年であっ た。武田薬品工業 (更正所得金額 :
1 223
億 円,追徴税額 :570
億 円),ソニー (更 正所得金額 :7 44
億 円,追徴税額 :279
億 円),マ ツダ (更正所得金額 :1 81
億 円, 追徴税額 :76
億 円)等々1)
。その内容が新聞や雑誌 に公表 されるような事態 も 起 こ り,一般の 日本国民 も,移転価格税制 とい う言葉 をしば しば 目にするようになって きている2)。
移転価格
( t r ans f erpr i ci ng)
とは,多 国籍企業の関連会社 間における取引 価格のことをい う。換言すれば,同一資本 に支配 される企業 グループ内で,財 やサー ビスの移転で付 される取引価格の ことである。移転価格税制が実施 されるようになった背景 には,企業活動の国際化が進展 するにつれ,多国籍企業が国際的に事業展 開 しているとい う事実がある。多国 籍企業 は,そのグループ企業内で製品の開発か ら製造 ・販売 までを一貫 して行 い,その過程で製品 ・商品の売買のみな らず,役務の提供,特許 ・ノウハ ウの 供与,資金の融通 といった様々な取引 を行 っている。 これ らグループ内取引に 付 される価格 は必ず しも自由市場 における価格 とはいえない場合があ り,その 中で特 に問題 となるのは,取引価格 (移転価格)の操作 を通 じて,税率の高い 国か ら低 い国へ と所得 を移転 させ ることによって,グループ全体 としての税負 担 を最小化 しようとす る動 きである。 この ような取引の結果, 自国の所得が国 外 に移転 されていると見 られる場合 には,その取引価格 を正常な価格 に引 き直 して課税所得 を算定 し,所得配分の歪みを是正するのが,移転価格税制 と呼ば れるものである。
1)大和総研資料
ht t p//www. di r. co. j p/research/r epor t /l aw‑ r es ear ch/t ax/
06 062 902t a x. pdf #s ea r ch=̀
移転価格税制 追徴課税',( 2 0 0 7
年9
月1 8
日アクセ ス)。大河原健稿 「日本における移転価格税制の現状」, ht t pノ/www. ey. com/
Gl obal /downl oad. ns f /Rus s i a
̲E/TP̲Pr es en
̲All/Sfile/TP̲Pr es en ̲Al l . pdf
#s e a r c h
‑̀移転価格税制 追徴課税' ,( 2 0 0 7
年9
月1 8
日アクセス)02
)浅島亮子稿 「国税庁の勇み足に企業が反撃 !追徴相次ぐ 『移転価格税制』の波紋」『週刊ダイヤモンド』
,( 2 0 0 6
年12
月1 6
日),p. 1 1 9 0
2
日本 における移転価格税制の導入日本 における移転価格税制の導入か ら
20
年余 りの歳月が過 ぎたが,当初急 ご しらえで作 られた制度 とい う印象がある。 1980
年代 は, 日本か らの 自動車輸出 に関 して 日米貿易摩擦 とい う切迫 した事態 を招 いていた。 アメリカ合衆国で, 日本企業の子会社が 日本国内の親会社 との間で行われた取引に対 して,移転価 格課税が実施 されたのが契機 となる。具体的には,19 86
年 に トヨタや 日産がア メ リカ合衆国内国歳入庁( I RS)よ り更正処分 を受けたことに伴 い,翌1 9 87
年, 日本の課税 当局は トヨタ( 220
億 円)と日産( 5 80
億 円)に税金の還付 を行 った3)o この とき日米の課税 当局は協議 を行 っているが, 日本企業に とっては実 に寝耳 に水の ような話であった。移転価格課税の経験 もない まま,日本の課税当局は,1 9 86
年 に, アメ リカ合衆国の財務省規則 な らびにOECD移転価格 ガイ ドラインに倣 って,短期間で移転価格税制 を創設 していったのであった
4)。
この ように, 日本の移転価格税制 はアメ リカ合衆国の移転価格税制 に多分 に 触発 されて進展 して きたのではあるが,その整備 は未だ不十分な面があ り,そ の主たるものの
1
つは,無形資産取引に係 る移転価格税制である。3
移転価格税制 における無形資産取引の重要性近年移転価格税制における無形資産取引が注 目されるようになった背景につ いては,第
1
に,企業 において知的財産の重要性が増 して きたことが挙 げ られ る。要 は世界的な知価社会の到来であ り,その結果,無形資産による価値の創 出が増大 したことである5)。企業 間競争激化の中,他社 と差別化で きる強みの 根源 となるものが,企業の無形資産なるものの価値である。無形資産その もの の売買だけでな く,実施権の供与,すなわち使用許諾 とい う形での取引が増 え3
)中田謙司/谷本真一著 『国際税務入門 [第2
版]
』日本経済新聞社,20 0 6
年,p.1 3 0
4)
高久隆太稿 「移転価格税制を巡る諸問題(1)‑ 移転価格課税に係る訴訟の増加 の中で‑
」『税経通信』,2 0 07
年2月,p. 2 5 0
5
)谷口和繋稿 「国際課税の最近の動向について (移転価格を中心に)
」『国際税務』,Vo l , 2 7 ,No. 1 ,( 2 0 0 7
年1
月),p.3
0ていることが挙げ られる。
第
2
に,各国の産業構造が変化 し,国際的分業が常態 となって きたことであ る。す なわち, 日本企業 を例 に挙 げれば,国内の親会社 では主 な役割がR&D
に特化 され,海外子会社で製品の製造が行われるようになったことであろう。日本では,国際収支において特許権等使用料の収支が, ようや く
2 0 0 3
年か ら黒 字 となってお り,無形資産及びサー ビス取引の重要性が増 していることを現 し ている。特 に,輸出型産業 における使用料の関連者 間取引が,その黒字化 に影 響 していることが指摘 されている6)
0第3に,無形資産の概念が広が りを見せて きたことである。無形資産の定義 について 日本国内では,法人税法施行令第
1 3
条第8
号以下で,個別法で保護 さ れている特許権や商標権等の工業所有権 を,減価償却すべ き無形資産 として列 挙 しているが,無形資産の定義規定 自体 は見あた らない。移転価格税制 に関連 する,租税特別措置法通達第66の4( 2
ト 3 (比較対象取引の選定 に当って検討 すべ き諸要素)に,「( 8)
売手又は買手の使用す る無形資産 (著作権,基本通達2 0 ‑
1‑ 2 1
に定める工業所有権等のほか,顧客 リス ト,販売網等の重要 な価値のあ るものをい う。 )
」 と登場す る。 また,法人税法基本通達2 0 ‑1‑ 2 1
(工業所有権 等の意義)では,以下の ように定め られている。「工業所有権等 とは,特許権,実用新案権,意匠権,商標権の工業所有権及 びその実施権等のほか, これ らの権利の 目的になっていないが,生産その他業 務 に関 し繰 り返 し使用 し得 るまでに形成 された創作,すなわち,特別の原料, 処方,機械,器具,工程 によるなど独 自の考案又 は方法 を用いた生産 について の方式, これに準ずる秘けつ,秘伝その他特別 に技術的価値 を有する知識及び 意匠等 をい う。 したがって,ノーハ ウはもちろん,機械,設備等の設計及び図 面等に化休 された生産方式,デザインもこれに含 まれるが,海外 における技術 の動向,製品の販路,特定の品 目の生産高等の情報又 は機械,装置,原材料等
6)森信夫著 『無形資産 ・サービス取引のグローバルマネジメント』 日本機械輸出組 合
,( 2 0 0 4
年),p. 3
。の材質等の鑑定若 しくは性能の調査,検査等は,これに該当 しない。」 これ ら通達では,定義付 けは行われていない代わ り, よ り多 くの無形資産の 形態 を列挙するようになって きている。更に,本稿
Ⅱ4で考察するが,2006
年3
月に新設 された移転価格事務運営要領2‑l
l (調査 において検討すべ き無形 資産)では,よ り広範囲な内容 を無形資産の対象 とす るようになって きている。4
移転価格事務運営要領の度重なる改正我が国では,2006年
3月20
日付 「移転価格事務運営要領の一部改正 について」において,移転価格事務運営要領
2 ‑ l
l (調査 において検討すべ き無形資産), 同2‑1 3(
無形資産の使用許諾取引)等が新設 され,同2‑1 2(
無形資産の形成, 維持又 は発展への貢献) は一部改正 された。事務運営要領は,納税者の予測可 能性 を確保するため,国税当局の事務運営 に関 し,その方針 を公表す ることで 適用基準や執行方針の明確化 を図るとい う目的を持つ。移転価格事務運営要領 自体 は,2001年6
月1日に施行 され,その都度整備 ・改正 され,今 日に至 って
いる。以下は,2006年3
月20日付の改正前 と改正後の内容である。下線部分 は 改正部分である。
( 2006
年移転価格事務運営要領改正前)2 ‑l
l (無形資産の使用許諾等)「無形資産の使用許諾等について調査 を行 う場合 には,当該無形資産の法的 な所有関係のみな らず,当該無形資産 を形成 し,維持,発展 させ るに当た り法 人 または国外 関連者の行 った貢献 も勘案することに留意する。」
( 2006
年移転価格事務運営要領改正後)2 ‑l
l (調査 において検討すべ き無形資産)「調査 において無形資産が法人又 は国外関連者の所得 にどの程度寄与 してい るかを検討するに当たっては,特許権,営業秘密等の技術革新 に関す る無形資 産のみな らず,例 えば,企業の経営,営業,生産,研究開発,販売促進等の活
動 によって形成 された,従業貞等の能力,知識等の人的資源に関する無形資産 並 びにプロセス,ネ ッ トワーク等の組織 に関する無形資産について もその検討 範 囲に含め, これ ら所得の源泉 となる もの を総合 的に勘案す ることに留意す
ら(〜」
2‑1 2
(無形資産の形成,維持又は発展への貢献)「無形資産の使用許諾取引等 について調査 を行 う場合 には,無形資産の法的 な所有関係のみな らず,無形資産 を形成,維持又 は発展 (以下 「形成等」 とい う。) させ るための活動 において法人又 は国外 関連者の行 った貢献の程度 も勘 案す る必要があることに留意する。
なお,無形資産の形成等への貢献の程度 を判断す るに当たっては,当該無形 資産の形成等のための意思決定,役務の提供,費用の負担及びリスクの管理 に おいて法人又は国外関連者が果た した機能等 を総合的に勘案す る。 この場合,
:v i.
.‑・・・二:i , . : . .・.ニ:,
〈図
1
無形資産の形成,維持又は発展への貢献)7)
7)
以下の文献の図を加筆 ・修正。上野嘉一稿「
『移転価格事務運営要領 (事務運営 指針)』及び 『連結法人に係る移転価格事務運営要領 (事務運営指針)』の改正に ついて」
『国際税務』,Vol . 26 ,No. 6, ( 2 006
年6
月),p. 3 4
。所得の源泉 となる見通 しが高い無形資産の形成等において法人又 は国外 関連者 が単にその費用 を負担 しているとい うだけでは,貢献の程度は低 い ものである ことに留意する
。 」
2 0 0 6
年の改正では,無形資産取引 と費用分担契約 などの具体的取扱いの明文 化が図 られた。改正の背景 としては, 日本企業の生産拠点が次々 と海外 に移転 し, 日本の親会社か ら海外子会社 に,技術や知識等 に関する無形資産が提供 さ れているが,十分 なその対価 を得ていない実態 を課税 当局が懸念 していること が挙 げ られる。 これ らの規定 は,基本 的に OECD移転価格 ガイ ドライ ン 「多 国籍企業 と税務 当局のための移転価格算定に関す る指針」 「第6
パ ラ 無形資 産 に対す る特別の配慮」 (1 996
年4
月発表)及 び 「第8
パ ラ 費用分担取決め (CCA)」( 1 997
年9
月発表) に沿 った内容 である。 しか しなが ら, この新設 された移転価格事務運営要領 について,無形資産の定義が具体化 されないまま, その範囲が拡大 されていてわか りに くいなどの指摘8)
が多 く寄せ られた。その ような事情か ら,翌20 07
年4
月に,国税庁 はこの事務運営要領一部改正案 を以 下の内容で公表 し,今 回初めて,広 く意見募集 (パブ リックコメ ン ト) を実施したのである。
2 0 07
年4
月13
日公表く「移転価格事務運営要領」の一部改正案)
2‑l
l (調査 において検討すべ き無形資産)「調査 において無形資産が法人又 は国外関連者の所得 にどの程度寄与 してい るかを検討するに当たっては,特許権,営業秘密等の技術革新 に関す る無形資 産のみならず,例 えば,企業の経営,営業,生産,研究開発,販売促進等の活
8)
この指摘は,以下の文献を参照されたい。望月文夫著 『日米移転価格税制の制度 と適用 一 無形資産取引を中心に一 』大蔵財務協会,(2 0 0 7
年),p . 4 7 2 ‑ 4
7 7 0;この移転価格事務運営要領について,現状の指針は,どのように無形資産を認 識 し,又評価すべきであるのかなどについての拠 り所 とすることはきわめて難 し い,とコメントしている。(水野正男/西康之稿 「企業が直面する移転価格税制 の諸問題
」
『国際税制研究』,No . 1 8 ,( 2 0 0 7
年),p. 9 80)
動 によって形成 された,従業貞等の能力,知識等の人的資源に関する無形資産 並 びにプロセス,ネ ッ トワーク等の組織 に関する無形資産について もその検討 範囲に含め,これ ら所得の源泉 となるものを総合的に勘案することに留意す る。
なお,法人又は国外関連者の有する無形資産が所得の源泉 となっているか ど うかの検討 に当た り,例 えば,国外 関連取引の事業 と同種 の事業 を営み,市 場,事業規模等が類似する法人の うち,所得の源泉 となる無形資産 を有 しない 法人を把握で きる場合 には,当該法人又は国外 関連者の国外関連取引 に係 る利 益率等の水準 と当該無形資産を有 しない法人の利益率等の水準 との比較 を行 う
とともに,当該法人又 は国外関連者の無形資産の形成 に係 る活動,機能等 を十 分 に分析す ることに留意す る。」
改正案では下線の部分が,新たに付 け加 え られている。課税当局側の説明に よれば,「無形資産には,非常 に多種多様 な ものが含 まれるので, これ らを逐 一列挙す ることは現実的ではない とい うことで,包括的な文言 に しています。
『重要 な価値』 を有す るか どうかは,国外関連取引の内容や,法人 と国外関連 者の活動 ・機能,市場の状況 ‑ そ ういった ものを十分 に検討 した上で個々
に判断することにな ります
9)
。」 とある。また,この意見募集 を受け
,5
月11日に,経済産業省の移転価格税制研究会10)
は,移転価格事務運営要領改正案に対す る意見 を提 出 した。公表 された意見の 内容か ら,注 目すべ きところは,無形資産の範囲についての下記の部分である。
「‑
‑OECD
ガイ ドライ ン,米国等諸外 国 と比べ広範かつ包括 的 となって いる。そのため,利益 に貢献するもの として認め られる無形資産が広範 に認定 されてお り,それが最近の我が国の移転価格課税 をめ ぐる課税当局 と納税者の 見解の相違が頻発する結果 となっている。9
)飯盛一文稿 「移転価格税制の執行に関する最近の状況について」『国際税務』,Vo l . 2 7 , No. 8 ,( 2 0 0 7
年8
月),p. 5 6
01 0 )2 0 0 5
年11月,経済産業省貿易経済協力局は,産業界及び識者 も交えた移転価格 税制研究会を設置した。したがって,事務運営要領
2‑
11の無形資産の検討範囲に代 えて,以下の よ うな現実の企業活動 において所得の重要 な源泉 となっている可能性がある無形 資産 を具体的に列挙 した規定に し,可能な限 り納税者の予見可能性の向上 をは かるべ きである。」 として,規定例 として,無形資産を列挙 している。意見募集は
4
月1 3
日に公示 され, 5月1 2
日に締め切 られ,寄せ られた意見 を 尊重 し,事務運営要領 を確定 して6
月25日に,以下の ような内容で公表 した。く 2 0 07
年6
月25
日付移転価格事務運営要領)2‑l
l (調査 において検討すべ き無形資産)「調査 において無形資産が法人又 は国外 関連者の所得 にどの程度寄与 してい るかを検討するに当たっては,例 えば,次に掲 げる重要な価値 を有 し所得の源 泉 となるものを総合的に勘案することに留意する。
イ 技術革新 を要因 として形成 される特許権,営業秘密等
旦 従業員等が経営,営業,生産,研究開発,販売促進等の企業活動 におけ る経験等 を通 じて形成 したノウハ ウ等
竺 生産工程,交渉手順及 び開発,販売,資金調達等 に係 る取引網等 なお,法人又 は国外関連者の有する無形資産が所得の源泉 となっているか ど うかの検討 に当た り,例 えば,国外 関連取引の事業 と同種 の事業 を営み,市 場,事業規模等が類似する法人の うち,所得の源泉 となる無形資産 を有 しない 法人を把握で きる場合 には,当該法人又は国外 関連者の国外関連取引 に係 る利 益率等の水準 と当該無形資産を有 しない法人の利益率等の水準 との比較 を行 う とともに,当該法人又 は国外関連者の無形資産の形成 に係 る活動,機能等 を十 分 に分析す ることに留意す るO
(注)役務提供 を行 う際に無形資産が使用 されている場合の役務提供 と無形 資産の関係 については, 2‑ 8(1)の (注) に留意する。」
2‑1 2
(無形資産の形成,維持又は発展への貢献)「無形資産の使用許諾取引等 について調査 を行 う場合 には,無形資産の法的
な所有 関係 のみな らず,無形資産 を形成,維持又 は発展 (以下 「形成等」 とい う。) させ るための活動 において法人又 は国外 関連者の行 った貢献 の程度 も勘 案す る必要があることに留意す る。
なお,無形資産の形成等への貢献の程度 を判断す るに当たっては,当該無形 資産の形成等のための意思決定,役務の提供,費用 の負担及 び リス クの管理 に おいて法人又 は国外 関連者が果 た した機能等 を総合 的に勘案す る。 この場合, 所得 の源泉 となる見通 しが高い無形資産の形成等 において法人又 は国外 関連者 が単 にその費用 を負担 している とい うだけでは,貢献の程度 は低 い ものである ことに留意す る。」
2‑
11につ いては, イは 「技術 革新」, ロは 「人的資源」,ハ は 「組織」 とい う3
つの区分 に基づいた無形資産 を,検討範囲に含 めている。 この区分 は,無 形資産の種類 による ものではな く,その無形資産の属性 による区分である。 こ の区分 は2004年版 『通商 白書』 に基づいている11 )
。また, 2‑ll
, 2‑1 2
ともに,関連者の果 たす役割 (機能) に注 目した機能分 析 の重要性 を掲 げていることも大 きな特色 といって よいであろ う。 また,2006 年改正以前 か ら,我が国の国税 当局 は,法的所有 関係 だけでな く,経済的所有 関係 を重視 して きたことが分かる。Ⅱ
法 的所 有 権 と経 済 的所 有 権移転価格税制では,無形資産の所有者 を決めることは重要である。無形資産の 所有者 は,無形資産を使用す ることによ り生ずる所得 を享受す ることがで きる。
法 的所有者 は,法的 に保護 された無形 資産 の所有者 をいい
12)
,法 的所有権l l )飯盛一文稿,前掲書 ,p. 5 7 。
1 2 )ロバー ト ・
∫・カニンガム/リチャー ド・L・スロウインスキー/フィリップ ・ カーマイケル稿 「米国移転価格課税の最近の動向について」
『租税研究』,( 2 0 0 7
年6
月),p, 1 42
。とは,特許や商標等 について法的に保護 された権利 を持 ち, またその法的な権 利 を取得 ・維持す るための費用 を負担 している者 に無形資産 は帰属す る とい う 考 え方 であ る
1 3)
。法 的保護 には,法の施行 に よる もの と,使用許諾契約 な ど の契約 に よる もの とがあ る1 4)
。経済的所有者 は,無形 資産の形成,維持又 は 発展 に貢献 した者 をいい15)
,経済的所有権 とは,従来,法的所有権か ら離れて, 価値 のある無形資産 を形成 し,又その価値 を維持 ・発展 させ ることに企業 の経 済活動 を通 じて 「貢献」している者 に無形資産 は帰属す る とい う考 え方である。換言すれば,無形資産 を所有す ることで,経済的 リス クを誰が負担 し,管理 し ているのか とい うことに通 じている
16)
0Ⅳ ア メ リカ合 衆 国 に お け る移 転価 格 税 制 1 内国歳入法典及び財務省規則 の変遷
アメ リカ合衆国では,無形資産の所有者 を決める場合
,1968
年以降は法的所 有権 よ りも経済的所有権 を重視 して きた。 これは,無形資産の所有者が,所得 を稼得す るのに,無形 資産の開発及 び価値の増大やその維持のために,多 くの 費用 とリス クを負担す ることか らきている。そのため,無形資産開発 に最 も貢 献 している者 をその所有者 とみ な し,所得 を帰属 させ ようとして きたのである。以下では,内国歳入法典 §482に係 る財務省規則の変遷 について考察す る。§482 は,我が国の租税特別措置法第
66
条の4
に対応す る ものである17)
。したが って,1 3 )
森信夫著,前掲書,p. 1 8
01 4)
ロバー ト・
∫・カニンガム/ リチャー ド・L
・スロウインスキー/フィリップ ・ カーマイケル稿,前掲書,p. 1 42
。1 5 )
徳永匡子稿 「独立企業間価格の計算」『税経通信』,( 2 0 0 7
年1
月),p. 99
01 6 )
森信夫著,前掲書,p. 1 8 。
17)日本の移転価格税制は,法人 (内国法人又は外国法人の本支店)が外国にある親 会社又は子会社等の関係会社 (国外関連者) と取引を行 うにあたって,独立の第 三者との間で成立 したであろう取引価格 (独立企業間価格 :
a r m' sl e ngt hpr i c e )
と異なる価格を用いたことにより所得が減少 している場合,その取引価格を引 き 直 して日本における課税所得を再計算する制度である。この §
482
及びそれに係 る財務省規則 を検討す ることは,移転価格税制 におけ る無形資産の所有権 に関 して何 らかの示唆 を与 えて くれるもの と思われる。
(1) 内国歳入法典
$482
まず,内国歳入法典 §
482
か ら見てみ よう。「
Ⅰ.R.C.§482.
納税者間における所得及び控除の配分(法人格 を有するか どうか,アメ リカ合衆国において設立 された ものか どう か,連結 申告 をす る要件 を満た しているか どうか, を問わず,) 同一の利害関 係者によって直接又 は間接 に所有 され又 は支配 されている
2
以上の組織 ・営業 又は事業のいずれに対 して も,財務長官又はその代理人は,脱税 を防止 し,あ るいはそれ らの事業の所得 を正確 に算定するためにそれが必要であると認める 場合 には,それ ら事業の間に総所得,経費控除,税額控除,その他の控除を配 分 し割 り当て,又 は振 り替えることがで きる1 8) 。」
アメ リカ合衆国のこの規定は,関連会社の間で,相互に特殊関係のない独立 当事者間取引 と異 なる条件で取引が行われた場合 に,独立当事者間原則 に即 し て所得 を計算 し直す権 限を内国歳入庁 に与 える ものである1
9 )
0§482
は行政裁 量権 限の授権規定であ り, §482
は歳入庁長官 によってのみ適用 され,その適 用 については広い裁量権 を有 し,同条による決定は裁量権行使の濫用 と認定 さ れない限 り,維持 される20)
。1 8 )
Ⅰ,R.C. § 4 8 2 .
1 9 )金子宏稿 「アメリカ合衆国の所得課税における独立当事者間取引 ( a r m' sl e ngt h t r ans a c t i on)
の法理 (上)‑ 内国歳入法典482
条について‑
」,『ジュリス ト』,No. 7 2 4
,( 1 9 8 0
年9
月1 5
日),p. 1 0 40
2 0 )川端康之稿 「
米国歳入法典4 82
条における所得配分(1 )
‑ 関係理論から見た 「所 得創造理論」 ‑
」『民商法雑誌』,第101
巻第2
号,( 1 9 89
年),p. 2 31 0
( 2) 1 968
年規則複数の関連者が無形資産の開発 をす る場合 に所有者 を決めるためのルール と して,1
968
年財務省規則で 「開発者 一援助者 ルール( devel oper ‑ as s i s t err ul e) 」
が規定 された
21 )
。 開発者 一援助者 ルール とは, 2
人以上 の関連者 が協 同 して 無形資産の開発 に携 わっている場合 に,その無形資産の開発 に中心的役割 を果 た した者 1人 を開発者 とみな し,それ以外の者 は援助者 とみ な して,開発者 を 無形 資産の所有者 とす る基準 であ る22)
。 したが って,無形 資産か ら生ず る所 得 は,無形 資産の開発者 に帰属す るが,援助者 に対 して も援助 の度合いによ り 相 当の対価が帰属す るようになる23)
0( 3) 1 986
年 スーパー ・ロイヤルテ ィー条項また, 1
9 86
年 には, §482の後段 に所得相応性基準 と呼 ばれ るスーパ ー ・ロ イヤルテ ィー条項の文言が付 け加 え られた。「( §936( h) ( 3) ( B)
の意味合いで)無形 資産の譲渡 (または使用)の場合,当 該譲渡 または使用 に関す る所得 は,その無形資産 に帰 国す る所得 に相応す る も のでなければな らない24) 。」
例 えば,アメリカ合衆国の製薬会社が,アメリカ国内で 自社の開発 した製薬 に 関す る特許 を外国製造会社 に譲渡 した り,使用許諾契約 を結び,使用料 を徴収す るようなケースでは,外 国子会社が高い収益 を上げているとい う事実等か ら,両 院合同協議会 は, §482の改正 を強 く求め, §482にこの後段が加 えられた
25)
。21 )
Ⅰ.R.C.§ 4 8 2 .
2 2 )Ma i ne , J e f f r e yA. ‑ Ⅹua n‑ Tha oH. Nguye n , I nt e l l e c t u a lPr o pe r t yTa x a t i o n:Tr a n s ‑ ac t i o na ndLi t i ga t i o nI s s ue s , t heBur e a uo fNa t i o na lAf fa ir s , I nc "( 2 0 0 3 ) ,p. 5 7 4 . 2 3 )望月文夫著,前掲書,p. 37 5 。
2 4 )
Ⅰ.R.C. § 4 8 2 .
2 5 )川端康之稿 「
移転価格税制 ‑ 経済理論の浸透‑ 」
『国際租税法研究』,第21 号,( 1 9 9 3
年),p. 770 ; Ma ine , J e f f r e yA. = Ⅹua n‑ Tha oH. Nguye n, ( 2 0 0 3 ) , o P.c
it .
,p. 5 7 5 .
( 4) 1992
年規則案1992
年の規則案では, 1986
年 に導入 された開発者 一援助者 ルールが,既存 の 無形資産 に対 して も拡大適用 されるようになる。これが有名 なチーズの事例26)
である。その内容 は,全世界で商標 を持つ外 国親会社が, アメ リカ合衆 国内に 販売子会社 を設立 し,その販売子会社 は,アメ リカ市場で商標 を広 めるために, 多額の広告宣伝 費用等が発生 した とい う事例 である。その商標 開発費用 は親会 社 か らの補填 はない。そ して,その子会社 はアメ リカ合衆国において,商標 の 価値 を増大 させ た開発者 とみ なされる。ここでは,法的所有者 の親会社 でな く, 経済的所有者の商標 開発者 の販売会社 が重視 される。 しか し, この事例 に関 し て は,見 直 しを求 め る意見 が多 く出 された
27 )
。以下, このチーズの事例 は, 大 きな論争 を引 き起 こ してい く。( 5) 1993
年暫定規則1993
年暫定規則 は1992
年規則案 を引継 ぎ,無形資産の所有者 は,法的所有権 と直接 的関係 はない と再 び規定 したが,多 くの批判が寄せ られた。マーケテ イ ング無形資産 を作 り出すのは販売会社 だけでな く,製造会社 も良質な製品 を作 ることで貢献 しているか らである28)0( 6) 1994
年最終規則1993
年暫定規則 に対す る批判か ら, 1994
年最終規則 では,「法 的に保護 され た無形 資産 は法 的所有者 に よって所有 され る29)
。」 と したが, 「法的 に保護 さ26 )Pr op.Reg.
§1 .482 ‑ 2 ( d) ( 8 ) ( l q,Exampl e4( 1 992 )
.27 )
見直 しを求める意見については,望月文夫稿,前掲書,p. 3
77を参照されたい。2 8)
見直 しを求める意見については,望月文夫稿, ( 2 007
年),前掲書,p. 37 8
を参照 されたい。29 )Mai ne, Je f f r eyA. ‑Ⅹuan‑ Tha o
H.Nguyen,( 2003) , o P . c
it . ,p. 57 4. ;Tr eas .Reg.
§1. 482‑ 4
(f ) ( 3 )
(i i )
(A)( 1 99
4) .
;岡村忠生著 『無形資産の開発に係る費用分担取決め と国際課税』京都大学 (平成10年度〜平成
1 2
年度科学研究費補助金基盤研究( C) ( 2 )
研究成果報告書), ( 2 00
1年),p. 91
0れていない無形資産の場合 は,無形資産の開発者が所有者 と考 え られる
30) 。」
とした。 よ り具体的に示せ ば,開発 コス トの よ り大 きな割合 を負担 した関連者 が所有者 となる
31 )
。 この199 4
年最終規則ではチーズの設例が以下の ように改 訂 されている。く事例
2 )
チーズの外国製造親会社 の
FPは,Fr o ma geFr er eとい う商号 ( t r ade na me )
の下でアメ リカ以外の国でチーズ を販売 している。FPはこの商号の世界 中の 権利すべてを所有 している。商号 は,アメ リカ合衆国以外では広 く知 られて価 値があるが,アメリカ国内では知 られていない。19 9 5
年 に,FPはアメリカ市 場 に参入す ることを決め,アメリカ合衆国の販売会社 とするため,アメリカ国 内でFr omageFr er eとい う商号 を開発す ることを求め られる宣伝広告活動及
びその他 のマーケテ イング活動 を指揮す るために,アメ リカ子会社 のUSSub
を設立す る。USSubは Fr omageFr er e
のアメ リカ市場 を開発す るためにFP
によって返済 されることのない費用 を負担す る。外国製造会社 によ り所有 され るブラン ド・ネームの下でアメ リカ市場 に製品を導入す る場合に,アメ リカの チーズ産業で,独立 した販売会社 によって負担 される費用額の水準 とこれ らの 費用額 は同水準である。USSubは, もしその費用がFPに関連性が なかった
な らばこれ らの費用 を負担するように見込 まれて きたわけだか ら, USSubに
対す る (所得の)配分がUSSubによって遂行 される市場 開発活動 に関 してな
されない
32)。
3 0 )Tr e a s . Re g.
§1 . 4 8 2 ‑ 4
(f ) ( 3 ) ( i i ) ( B) ( 1 9 9 4 ) ,
3 1 )Mo gl e , J a me s
R. , " TheFut ur eo fI nt e r na t i o na lTr a ns f e rPr i c i ng: Pr a c t i c a la nd
Po l i c yOppo r t uni t i e sUni quet oI nt e l l e c t ua lPr o pe r t y, Ec o no mi cSubs t a nc e , a nd
Ent r e pr e ne ur i a lRi s ki nt heAl l o c a t i o no fI nt a ngi bl eI nc o me "( Ta xCo unc i lPo l i ‑
c yI ns t i t u t eSympo s i u m) ,1 0Ge o , Ma s o nLRe v. 9 2 5 , ( Su mme r , 2 0 0 2 ) , p. 9 3 2 .
3 2 )Tr e a s . Re
p.
$1 . 4 8 2
14
(i ) ( 3 ) ( i i ) ( B) ( 1 9 9 4 ) . Exa mp l e2 .
く事例
3 )
USSub
によ り負担 される費用が,同様 な状況の独立 した販売会社 によ り負 担 される費用 よ りもかな り多い点 を除いて,事実 は事例2と同様である 。FP
はその費用 をUSSub
に返済 しない。同様 な状況で独立企業 間で取 り引 きす る 非関連者が,FP
のマーケテ イングの開発 に関連す る同水準の活動 に従事 して いなかった, とい うこの証拠 に基づ き,管轄当局は結論 を下 している。そのた め, 独 立 し た 販 売 会 社 に よ り負 担 さ れ る 水 準 を 超 過 す る 費 用 の 額 は,Fr omageFr er e
のFP
の商標( t r adema r k)
の価値 に追加 される,FP
に 対 して提 供 され るサー ビス に な る と考 え られ る。 したが って,管 轄 当局 は,USSub
がFP
のために遂行 して きた と考 え られ るサー ビスの公正市場価 格で §4 8 2
の下で (所得の)配分 をさせている33)
。く事例 4)
USSub
がFP
の商標 の下でアメ リカ国内でチーズを販売す る排他 的権利 を 授 け られる長期契約 を,FP
とUSSub
が締結 している点 を除いて,事実 は事 例3
と同様である。USSub
は独 立企業 間価格 でFP
か らチーズ を購入 してい る。 USSub
は財務省規則のこのセクションパ ラグラフ( f
)( 3 ) ( i i ) ( A)
の下では商 標 の所有者であ り,その行為( c onduc t )
はその地位 に合致 しているか ら,商 標 の開発 に関連す る当該活動 はFP
の便益のために遂行 されるサー ビスになるとは考 え られず,当該活動 に関 して (所得の)配分はなされない
34)
。どの事例 も,外 国製造親会社の製品をアメリカ合衆国の販売会社が販売する 点は同 じである。事例
2
は,アメリカ子会社 の無形資産の開発 にかかった費用 の額が,独立企業間価格 と同水準の場合であ り,子会社へ所得配分はなされな い。事例3
は,アメリカ子会社の無形資産の開発にかかった費用の額が,独立 企業間価格 よ り多かった場合であ り,子会社 による貢献で親会社の商標価値が3 3 )〟 .Exa mpl e3 .
3 4)〟 .Exa mp l e 4.
増大 したことか ら,子会社への所得配分がなされる。事例
4は,外国親会社 と
アメ リカ子会社が排他的長期販売契約 を締結 している場合であ り,契約上の地 位 に合致 しているか ら,所得配分はなされない とい う結論 になっている。2003 年規則案で問題 となったのは, この事例4
であ り,排他的長期契約によ り,本 来外国親会社が商標の法的所有者であるが,子会社 に商標の所有権が移 ってい ることが,当時の事例の中で明記 されていた。 これは,マーケテイング活動 を 行 う者 をマーケテイング無形資産の所有者 とみな している。1 99 4
年最終規則の事例 については,無形資産の所有権 と使用権の混同である とい う批判が起 こった。 ライセ ンシーの権利 は契約期間内だけであるか ら,無 形資産 を支配 していないか ら,販売子会社 を無形資産の所有者 とみなすべ きでない とい う意見であった
35)
。この後, この1
99 4
年最終規則 は,2003年 に新 たに規則案が公表 されるまで存 続す る。199 4
年最終規則 は,法的所有権 を重視する方針が打 ち出されたにもか かわ らず,マーケテイング無形資産の所有権 に関 しては, これ以降混乱の時期 が続 く。( 7) 1 995
年最終規則1 995
年最終規則では,内国歳入法典 §482
について,費用分担契約 について の規定が盛 り込 まれた。その制定は1996
年 となった。費用分担契約 とは,無形 資産における権利の使用か ら合理的に期待 される利益の持分 に応 じて無形資産 の開発費用 を分担す ることに関連者が合意す る契約の ことである36)
。費用分 担契約が適格性 を有す るのは,営業又 は事業の積極的な行為 において無形資産 を使用する意図を有す る2
以上の関連者が含 まれ,かつ当該無形資産 における この関連者の権利及び費用算定方法 を含めた,一定の明白な情報が当該契約 に3 5 )見直しを求める意見については,望月文夫著,前掲書,p. 3 8 0
を参照されたい。3 6 )Tr e a s . Re g.
§1 . 4 8 2 ‑ 7 ( a)
(1).含 まれている場合であ る
37)
。 この規定の下では,関連者 は開発費用 を分担す ることで無形資産の所有権 を共有する38)
0( 8) 2003
年規則案2003
年規則案では,財務省及び内国歳入庁 は, §1. 482‑4( f) ( 3)
の分析 の枠 組みは変更 されるべ きであると考 えていた。すなわち,一般的に無形資産の所 有権 を決定するルールは,無形資産による所得の配分 を決定す るルール とは区 別 されるべ きである し,その無形資産の開発や価値の増大に対する各関連者の 貢献度 と (もしあれば)その所有権の持分 に従 って,独立企業間原則の下で, 支配す る納税者 間に,無形資産 に帰 国す る所得 は配分 されるべ きである とし た3 9 )
。 そのため, 2003
規則案では,有名 な 「チーズの事例」 は置 き換 え られ ている。
一般 に, (無形資産の)所有者 は,関連す る管轄 区の知的財産法の下で無形 資産の所有者 として特定化 された納税者か,あるいは契約条項又 は他の法規定 に従 って無形資産 を構成す る権利 を所有 している納税者である。例 えば,支配 する関連者 間で行 う典型的な無形資産の使用許諾のケースでは,規則案 は,使 用許諾 に従 って ライセ ンシー を契約上の権利の所有者 とみ な し,又 ライセ ン サーを使用許諾 を条件 とする無形資産の所有者 とみな している
40)
。 また,無形 資産の所有権 は,あ らゆるケースで,基 となっている取引の経済的実質に従わ なければな らないとした41 )
。所有者が知的財産法,契約条項又はその他の法規 定の下で特定化 され得 ない無形資産のケースでは,所有者 は,あ らゆる事実及 び状況に基づいて,無形資産を支配 して きた支配的納税者 になるとしている42)
03 7 )
〟.
§1 . 482‑ 7 ( b) ( 4) .
3 8)
本庄資稿 「クリントン政権の移転価格課税」
『税経通信』, ( 2 007
年9
月),p. 1 9 2.
39)Pr o.Keg.
,81 .482
14( I
)( 3)and( 4)( KEG‑ 1 46893‑ 02.KEG‑ 11 537‑ 00) ,68Fed.Keg.
53 447( Sep.1 0,20 03) ,Pr eambl e .
40)〟.,§1 .482 ‑ 4( f ) ( 3) (
1)
(A). 41)1 d.
,§1 .482 1 1
(d)( 3) .
42)〟.
,§1 .482 ‑ 4( f ) ( 3 ) ( i ) ( A) .
2003
年規則案では,撫形資産の所有者 は, まず第‑に法的所有者 とされてい るが,経済的実質に従 うとしている。 これに対 しては,「本質的には,無形資 産取引について関連者間の契約 を重視す るが,一方でその契約の内容が経済的 実態 とかけ離れている場合 には,後者 を優先 させ るとの姿勢が伺 える。‑‑従 来の ように法的所有権のみで無形資産の帰属 を決定するとい う枠組みか ら結果 的に大 きく踏み出 して,経済的所有権 を重視する姿勢 に規則の上では転換 しつ っあるとも読み とれる43)
。」 とす る意見がある。法律上,契約上の法的所有者が確定で きない場合 には,無形資産 を支配する 者が所有者 となる。 しか しなが ら,「支配す る者」 を特定す ることは難 しい と の指摘 もある
44)
0基本的に,所有者 に対す る新たな 「支配」基準 による方法は,アメ リカ合衆 国の課税当局のために,海外で発生 した所得 をアメ リカ合衆国によ りた くさん 帰還 させ るために
45)
導入 された と考 えるべ きだろう。
この新 しい 「支配」基準 による方法についての批判 はい くつかあるが,現行 の開発者 一援助者 ルールに比べ,はっきりとしていない とい うことであ り,輿 形資産の開発 に係 るコス トの関係 を不適切 なことに無視 しているとい う意見で ある。 この新 しい貢献者のルールを適用する際に予測可能性 を増すための一つ の示唆が事例 にあるのだが,ただ
1
人の所有者が,無形資産に関 して法的所有 者でかつ経済的所有者 で, リス ク負担者である とい うものである46)
。 しか しなが ら,これ ら三様の所有者 ・負担者が一致す ることは きわめて稀 と思われる。
(9)
2006
年暫定規則2006
年暫定規則 は,実質的に2003年規則案 と同 じものである。財務省及び内43 )
森信夫著 ,前掲書,p.1 9 。 4 4)
望 月文夫著,前掲書,p. 3 8 3 。
45 )Ts ane ve ,El e na
R. ," Comment : Tr ans f erPr i c i ngi nTheWor l do fSer vi c e sand l nt angi bl es ‑ANewChal l enget oPr es er vi ngTheCor por at eTaxBas e" , 9 UCLAJ . I n
t'1L. & Fo r .
Af f ,3 2 3 , ( Fa l l / Wi nt e r , 2 0 0 4 ), p. 3 3 5 .
46)I b i d . ,p. 3 3 6 .
国歳入庁 は,2006年暫定規則の下での 「法的所有者」が,あ らゆる事実及 び状 況 に もとづいて,その無形資産 に権利 を持つ,支配す る関連者 になるように意 図 した ことは,前文
( Pr eambl e)
か らも明 らかであ る。 その分析 で は,課税 当局 に提 出 される申立書( appl i c at i ons )
,支配す る関連者 間の契約規定及 びそ の他 の法律規定 を重視す ることだろ う。2006
年暫定規則 は,検討時 に,その活 動が非独立当事者 間価格 で価格付 けされた とわかろ うとも,無形資産の開発 の ための活動 に付 随す る契約条項が尊重 される場合,事実状況 を示すために,暫 定規則 §1.482‑1 T( d) ( 3) ( i i ) (
C)
で,新 しい事例 を付 け加 えている4
7)。 その新 た な事例 は,無形資産の開発活動の脈絡で,一般的な移転価格 のルールであ る経 済的実質の相互作用 を示 している事例5
である48)
0最適方法の規定 を示す,2006年暫定規則 §1.
482‑8
の新 しい事例10
,事例11, 事例1 2
と共 に, この変更49)
は,経済的実質の要件 を前提 と して,支配す る関 連者 は §482
か ら影響 の もた らされ る契約条項 を採用 して もよい とい うことを 明示 してい る50)
。 これ は,企業側,あ るい は実務家側 か ら見 る と,何 を意味しているのだろ うか。後で,それは明 らかになって くる
。
事例1
0
はサー ビス ・コス ト プ ラス方法51 )
,事例 11はCPM ( Comparabl e prof i tMet hod:
比 較 利 益 法 ・利 益 比 準 法52
)),事 例1 2
は残 余 利 益 分 割 法( Res i dualPr of i tSpl i tMet hod 53
)) を,それぞれ最適方法 とす る事例 を解 説47 )Amer i c anBarAs s o c i a t i on," ABATa xSe c t i onComment sonTempor ar ySer ‑ v
ic e sRul
es ' ' ,Tr a
nsf e rPr i c i n gRe po r t ,Vo l .
16 , No . 1 , ( Ma y
,2 , 2 0 07 ) ,p. 2 4 .
4 8 )Fi nalandTemp.Reg.
,§1 . 482‑ 1 T ( d ) ( 3 ) ( l l ) ( C) ,〔 TD927 8日REG‑ 1 46893 ‑ 02 ,REG‑
1 1 5 0 3 7 ‑ 0 0 ,a ndREG‑ 1 3 8 6 0 3 ‑ 0 3 ) , Exa mpl e5 ,( 2 0 0 6 )
.49 )先の経済的実質の相互作用をあらわしてお り,事例 5
の追加をいう。5 0 )Ame r i c a nBarAs s o c i a t i on , o p.c
it . , p. 2 4.
5 1 )サービス ・コス ト・プラス法は,サービスのコス トに一定の利益を加算する方法
である。5 2 )CPM
は,比較可能な状況下で,類似の事業活動を行 う非関連者から得 られる収 益性の客観的測定基準を参考にして,資産の関連者間取引に係る適正対価の額を 算定するものである。5 3 )残余利益分割法は,関連者間の営業利益を合算 し,これを 2
段階で分割する方法 である。している
54)
0次に,法的に保護 されていない無形資産については,あ らゆる事実及 び状況 に基づ き,当該無形資産 を支配す る関連者が, §
482
上の無形資産の唯一の所 有者であるとみなされる55)
。 これは,2003
規則案の ところで述べ た とお りで ある。以下,事例1
及び事例2
について説明する。く事例
1 )
外 国子 会社
FP
は, ア メ リカ国 内 でAA
とい う商標 の登 録 所 有 者 で あ る。AA
とい う商標 の下で国内で製品を製造 し販売す る排他的権利 を,FP
は アメ リカ子会社USSub
に使用許諾 している。FP
は,知的財産法 に従 えば商 標 の所有者である。 USSub
は,使用許諾契約の条項 に従 えば,使用許諾の権 利 の所有者であるが,商標 の所有者 ではない。 このセ クシ ョンのパ ラグラフ (b)(3)及び(4)を参照。 (その他 の ものの間で,商標又 は使用許諾 として,無形 資産 を定義)56)
く事例
2 )
事実 は,事例
1
と同様である。販売活動及びマーケテ イング活動の結果 とし て,USSub
はいつ もAA
とい う商標の製品を購入す る信用のおける数百 もの 顧客 リス トを開発す る。FP
とUSSub
との間の契約条項 も,関連す る知的財 産 法 も, どの 関連 者 が顧 客 リス トを所 有 して い るか は特 定 して い ない。USSub
は顧客 リス トの内容 について知識 を持 っていて,その使用及 び普及 に 対 して実際に支配 していることか ら,USSu b
はこのパ ラグラフ(f)(3)上では, 顧客 リス トの唯一の所有者であると考 え られる57)
。5 4)Fi na landTemp.Re
g"§1 .482
18,〔 TD927 8日REG‑ 1 46893 1 02,REG‑ 11 5037‑ 00,and REG‑ 1 3 8603 ‑ 03)Exampl e
10,Exampl ell ,Exampl e1 2,( 20 06) .
5 5 )Fi nalandTemp.Reg.
,§1 . 482‑ 4T( f ) ( 3) ( i ) ( A) ,〔 TD9278日REG‑ 1 46893‑ 02,REG‑
11 5037 ‑ 00,andREG‑ 1 386 03‑ 03 ) ,( 20 06) . 5 6 )〟. Exa mpl e
1.5 7)〟. Exa mpl e2.
これ らの事例か らいえることは,企業間で無形資産に関する契約 を締結する 際には,その無形資産の所有者が誰であるのか を,はっきりと定めてお くこと が必要であるとい うことだろう