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石 井 和 平

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(1)

石 井 和 平

序 章

社会的企業 に関する議論 を概観 してみると,その成功事例 を,社会的起業家 と呼ばれる個人の活動 に還元 している場合 も多い。あるいは,社会的企業の活 動が特定の地域 をベースに して行われている場合,その事業 をコ ミュニテ ィ ・

ビジネス と同義 として位置づけている場合 も,多 々,見受け られる。 また地域 に密着 し,地域の資源 を活用 したスモールビジネスの場合 は,地域活性化 とい う社会的使命 を伴 うことで社会的企業 と見 なされる。他方,大企業 を含 む多 く の企業 は,その企業評価 を,経済的な視点すなわち利潤の追求か らだけではな

く, トリプルボ トムラインと呼ばれるように,環境お よび社会 とい う視点か ら も評価 されるようになる。 この場合,個 々の企業 は,社会的責任 を意識 し社会 的事業 にコ ミッ トメ ン トす ることで,社会的企業であることを主張す る。 「 社 会的経済」 とい う抽象的な概念 に立脚 した, これ ら社会的企業に関する定義が 未だ整理 されず,議論が拡大 しているのが実情である。社会的企業 とい う概念 が,明確 に規定 されぬ まま,様 々な社会的事業の成功事例 と結びつけ られて き ていることを, まずは理解 したい。

ある特定の倫理基準 に従 うことで,結果 として新 たな制度 ( あるいはパ ラダ イム) を創 りだす こともある。従 って,企業が利益 を追求することで,結果的 に社会 に貢献で きる事業 を創 出す ることは可能であろう。だが,社会的企業の 成功例 をもって,利潤 を生むことと社会的であることの間には矛盾 はない と喧 伝す るのは,明 らかに間違いであろう。社会的企業 を立ち上げるとい う使命だ

159

(2)

けでは,持続可能な社会的事業 を創 出で きるわけではないか らである。

地域 には地域固有の課題が存在 してお り,その問題解決を, 自治体や公的機 関に依存 し,委ねて しまうことがで きな くなって きた昨今の傾向は,特定の国 や地域 に限 らない普遍的な現象であろう。だが,地域 コミュニティに,地域の 課題 を解決 しうる力 と熱意 を持 った社会的起業家が必ず しも存在 しているわけ ではない。社会企業の経営基盤は脆弱で,持続可能な運営は困難である。社会 的企業 を支援す る交付金や補助金には,評価や ( 社会的)監査が伴い,継続 し た資金獲得がで きなければ,事業の存続は難 しく,多大 なサ ンクコス トが残 る だけである。経営基盤 を安定 させ ることは,地域ベースの社会的企業 を存続 さ せ るために,まずは解決 しなければならない最優先の課題である。しか しまた, その ような確 固たる経営基盤 を求めることで,地域 コミュニティは,社会的企 業 をその内部に埋め込みつつ, また社会的企業 によって取 り込 まれることにな る。

本稿では,社会的企業 に関す る一般論 を展 開す る代 わ りに,英国,特 にス コッ トラン ドで得た知見 を基 に,地域ベースの社会的企業 と自治の思想 とい う問題 に絞って議論 を展 開す ることにす る。第

1

章では,社会的企業論の整理 を行い, 地域ベースの社会的企業の実態 を明 らかにす る。次 に第

2

章では,経営基盤の 観点か ら地域ベースの社会的企業の問題点 を取 り上げ,その支援 システムを紹 介す る。続けて第 3 章では,安定 した経営基盤 を持つための方法 とその理念 を 論 じることで, 住民 自治 とい う視点か ら捉 える新 たな社会的企業論 を提示す る。

経営基盤 を安定 させ,地域が地域のために社会的企業 を存立 させ ることの意義 を明 らかに し, 自治の母体 ( それは一般的な意味での基礎 自治体ではない) と しての コミュニティを,一つのアソシエー ションとして位置づけることが最終 的な目標である。

なお,本稿では,地域 と地域 コミュニティの両方の用語 を併用 しているが,

コミュニテ ィ概念 には,「 地域」 を含 まない広義の定義が存在 しうることを念

頭 に使 い分けている点 も付記 してお く

(3)

1

章 地 域 ベ ースの社 会 的企 業論

社会的企業 とは,端的に言 って,社会的問題 をビジネスの手法 をもって解決 する事業体のことである。だが,社会的企業や社会的起業家の台頭が語 られる 一方,従来か ら述べ られて きたコミュニティ ・ビジネス と社会的企業の異同が 判然 としないの も確かである。 コミュニテ ィ ・ビジネスや ソーシャル ・ビジネ スは,社会的使命 を果た しつつ利潤 を追求す るビジネスであると言われるが, それ故,その持続 は難 しい。 また, コミュニティ ・ビジネスの発祥地 として知 られるスコッ トラン ドにおいては,地域ベースの社会的企業 を支援する非省庁 型公共機関

(non‑departmentalpublicbody)

である

HighlandsandIslands Enterprise

お よび

ScotlandEnterprise

( 以下

,HIE

お よび

SE

と略す)の存 在が,個 々の社会的企業 とともに重要な働 きを担 っていることは重要 な点であ ろう。議論 を始めるに当た り,社会的企業の定義 を整理 し,続けて地域ベース の社会的企業例 を紹介 したい。

さて,社会的企業の定義化 には様 々な試みがあるが,あま り成功 していると は言 えない状況 にある。例 えば

,EMES

は定義化 に際 し,以下の ような基準 を設けている

(Borzaga&Jacques,2004,p17)。EMES (L'6mergencedesen‑

terprisessocialesenEurope)

とは, ヨーロッパ科学研究 ネ ッ トワークによる 社会的企業 に関する

4

年間のプロジェク ト名である

経済的 ・起業家的な側面に関わる

4

つの基準

1.財 ・サー ビスの生産 ・供給 を継続的に行 う

2

.高度の 自律性 ( 発言 と退出の権利) を持つ

3.

経済的 リスクが高い

4.

有償労働 を最小限に抑 える

(4)

社会的側面 に関わる

5

つの基準

1. コミュニティへの貢献 とい う明確 な目的を持つ

2.市民 グループが設立する組織である

3.

資本所有 に基づかない意志決定 (

1

1

票制) を行 う

4.活動 によって影響 を受ける人々が参加 している

5.利潤分配 を制限する (

完全 な非分配制約 とは限 らない)

この場合,ケーススターデ イか ら抽出された,社会的企業 を定義する際の 「 基 準」 を示すだけであって,厳密 に社会的企業 を定義 したわけではない。

E U 圏における社会的企業の 目的は,米国において顕著 な 「 人 と社会の変革」

にはな く,む しろ地域 コ ミュニテ ィの発展や,地域 において社会的に排 除され た人々を包摂す ることの方にある。求め られるものは変化ではな く,持続可能 性である。 さらに,米国の非営利組織の多 くが,市民か らの寄付 を原資 とする のに対 し ,E U 圏における社会的企業 は,中央政府や E Uか らの補助金 に依存 する場合が多い。米国 と E U諸国における第三セクターの意味づけが異 なるこ

とは,十分 に注意 したい。

塚本一郎 は ,E U 圏,特 に英国における社会的企業の台頭の背景 として,ボ

ランタリーセクター ( 非営利セクター)の商業化,政府のパー トナー シップ戦

略,政府の社会的排 除対策 とパー トナー シップの活用お よび社会的ネッ トワー

クの創 造 力 と社 会 的企 業 家 精 神 とい う

4

つ の理 由 を挙 げ て い る ( 塚 本,

2004,p246)

。コミュニテ ィ ・ビジネスの伝統の長いス コッ トラン ドの場合 は,

加 えて,条件不利地域 を抱 えた深刻 な地域の再生 と,「ローカル ・ナ シ ョナ リ

ズム」 と言い うる政治変革お よび 「メ‑キ ング ・スコッ トラン ド」 と呼ばれる

文化の再発見運動が呼応 し合 った形での,イ ングラン ドか らの分権 ・独立運動

とその社会的意識が微妙 に絡み合 った状況 も,社会的企業台頭の理由に挙げ ら

れる。社会的 ・政治的背景の上 に,新たな社会経済的な動 きが生 じているので

ある

(5)

一方,非営利活動

(NPO)の盛んな米国では,社会的変革 を求める

「 個 人」

としての社会的起業家 を重視すると同時に,営利企業の社会的責任 ( CSR) を, 社会的企業活動の事例 として取 り上げることも多い。いずれの場合 も,特定の 地域 に限定 されない社会的企業の存在 を示唆 している。 この場合 は,地域ベー スの社会的企業 を軽視 しているわけではな く,地域 コ ミュニティを活動の場 に お く非営利組織の存在が前提 となって,地域 に依存 しない,社会変革 を理念 と する革新的な社会的企業の登場が強調 されているのである。

別の事例 を挙げ よう。例 えば,ジ ョン ・トンプソンとボブ ・ドハ‑ティは, 彼 らが,社会的企業 と見 な した事例 を多数取 り上げているが,その基準 は以下 の ものである

(Thompson&Doherty,2006,p362)

・社会的な目的がある。

・資産や財産は, コミュニティに利益 をもた らすために用い られる

・利益 ( の少 な くとも一部分)は市場取引による。

・利益追求型の事業 とは異 な り,利潤や余剰 は株主には分配 しない

・構成員や従業員 は,意志決定や運営 において何 らかの役割 を持つ。

・企業 は,その構成員 とコミュニティの両者 に責任 を持つ もの として見 なさ れる。

・ダブルボ トムラインあるいは トリプルボ トムラインの規範 を持つ。そ して 適切 な社会的企業は,財務的 また社会的に健全 な収益 を得 る。

彼 らが紹介 した事例 は, コミュニテ ィ ・デベ ロップメ ン トなどの明 らかに地

域ベースの社会的企業 と呼べ る例か ら,開発途上国に対するフェア トレー ドの

例 まで多岐にわたっている。その中には,特定の地域 に依拠 しない社会的企業

の事例 も多い。そ して彼 らの研究の総括 は,社会的企業 は一括 りには説明で き

ない とい うことである。残念 なが ら,多様 な形態が考 えられる社会的企業 を同

じ枠組みで分析 はで きない, とい う彼 らの結論 は,それ以上の意味 を持 ちえる

ものではないであろう。いずれに して も,社会的企業 ない しは社会的事業 とし

(6)

て見 なされる事例 を,特定の基準でふるい分 けることは可能であるが,そ こか ら明確 な定義 を導出す るのは困難であることが,この結果か らも読み取れる。

社会的企業 と思われる全ての事例 を対象 とす る代わ りに,従来 とは異 なる分析 視角 を持つ必要性があるのではないだろうか。

では, どの ような分析視角が考 えられるであろうか。社会的企業の概念の暖 昧 さと多義性 を考 えれば, まずは 「 地域 に依拠 しない社会的企業」 と 「 地域 に 依拠 した社会的企業」 を弁別 し,地域 に依拠 した社会的企業 を,地域的社会企 業 あるいは地域 的企業

(communityenterprise)

として,新 たに位置づ けて い くとい う別の方法論 も考 え られよう。 総体 としての社会的企業 を考えるのは, その後の作業 とすべ きではないだろうか。

それでは,地域 に依拠 し,地域ベースで事業 を行 う社会的企業 には, どの よ うなものがあ りうるのか。一般に,コミュニティ ・ビジネス と呼ばれるものが, 地域ベースの社会的企業の事例 として考 えられ よう。例 えば,欄 内信孝 によれ ば,コミュニテ ィ ・ビジネスの領域 は,「 福祉」「 環境」「 情報」「 観光 ・交流」「 食 品加工」「まちづ くり」「 商店街の活性

」「 伝統工芸」「 安全」「 地域金融」の

10

分野 にある と述べ ている ( 細 内

,2001,p176)

。彼 に従 えば, コミュニテ ィ ・

ビジネスの定義は, まず,住民主体の地域密着の ビジネスであること, また必 ず しも利益追求 を第一 としない適正規模 ・適正利益の ビジネスであること, さ らに営利 を第一 とするビジネス とボランティア活動の中間領域的なビジネスで あること,最後 にグローバルな視野の もとに行動 はロー カルの開放型の ビジネ スであることである ( 同 ,p

3)

細内による日本型 ( と名付 けて もよい) コミュニテ ィ ・ビジネスの定義 と領 域 を見れば,確かに,先 に述べたように社会的企業の定義や領域 と重 なる部分 も多い。だが,その実態 は,明 らかに地域密着型の私的なマイクロビジネスを 示唆 している。

一方,スコッ トラン ドが コミュニティ ・ビジネスの発祥地であると先 に述べ

たが, ここで言 うコミュニティ ・ビジネスが, 日本 とは異 なった意味で捉 えら

れている事実 にも着 目すべ きであろう。実 は,英国で, コミュニテ ィ ・ビジネ

(7)

ス と呼ばれた ものが,地域ベースの社会的企業 として整理 し直 されているか ら であ り,そ こで意味す る社会的企業 は,上記の ような私的なマイクロビジネス とは異 なる存在 として位置づけ られているか らである。地域ベースの,そ して かつて コミュニティ ・ビジネス と呼ばれた社会的企業の特徴 を挙 げれば,以下 の ものにまとめることがで きる

(Pearce,2003,p115)

0

・社会的 目的を持つ

・商取引 を行 う

・利益 を個人には還元 しない

・コミュニティによる共同所有である

・民主的な組織体である

・説明責任 を負 う

この定義 に従 えば,英国における地域ベースの社会的企業は,利益 を個人 ( あ るいは株主 などのシェアホルダー) に還元 しない点 とコミュニテ ィが所有する とい う点において,地域密着型のマイクロビジネスを合意する 日本型 コミュニ ティ ・ビジネス とは,異 なる存在であることは明 らかである。

では,上記の,社会的企業の定義 にある,「コミュニテ ィによる共同所有」

の持つ意味は何 であろうか。 もちろん, 日本の 自治体がそ うであるように,企 業 を所有す る,あるいは自治体が私企業の株主であることはよくあることだ。

だが,社会的企業 をコミュニテ ィが共同所有するといった場合,それは何 を明 らかに しているのであろうか。以下,英国,特 に,ス コッ トラン ドの事例 をも とに,その意味 を考 えたい。

さて, 自治体あるいは地方公共団体が企業 を所有 していると言 った場合,直 接 に会社経営 を行 う場合 もあれば,株主 として間接所有する場合 もある。だが, ス コッ トラン ドにおける社会的企業の所有者 は, 自治体それ 自体 とい うわけで はない。

日本の行政 システムと対比すれば,その違いはさらに明白になろう。例 えば,

(8)

日本 においては,地方公共団体 としての各 自治体が,総合計画の立案か ら個別 の公的サー ビス まで, 自治行政の全 てを担 っている。 この場合,選挙で選任 さ れた首長 を通 じて,当該地域 に住 む市民の意思が反映 される仕組みになる。 ま た各地方議会 も,議員選挙 を通 じて選 ばれた議員によって構成 され るが, 自治 体 が行政機能 を全面的 に担 っている以上,その存在 は相対的に小 さな ものにな る。首長の権 限下で,地方公務員が行政サー ビス を一定 に引 き受 ける一方,読 会 はそのチ ェ ック機 関に甘 ん じているのが現状 である

ところが,ス コッ トラン ドの場合,あ くまで議会 と政府 は一体 である。立法 権 と行 政 権 を共 に持 つ 議 会 政 府 の 下 に, 各 省 庁 や 執 行 型 エー ジ ェ ン シー

(Executiveagencies)

の事務局職貞が,いわゆる地方公務員 として配置 され る仕組みになっている。日本 の ように官僚制度 に基づ く地方公共 団体が存在 し, そ こに地方 自治体職員 としての公務 員が行政一般 を担 うの とはか な り異 なる。

また職員の多 くは公募制 によって採用 されるため,公務員 としての地位 は恒久 ではな く,その権 限は限 られている

またス コ ッ トラ ン ド政 府 自体 の職 員 ( 公務 員) は

15

, 263 人 ( 2006 年 度,

http://news.scotsman.com

よ り) であ るが,例 えば, ス コッ トラ ン ドとほぼ 同 じ面積 と人口を持つ, 北海道の道庁職貞数が約 8 万人であることを考 える と, ス コッ トラ ン ドに とって,各地方 自治体 の存在 や, またそ こに所属す る地方公 務員の役割が,いかに限定的かが理解で きるはずである

ところで,歴史的背景か ら見 れば,サ ッチ ャー政権 による強制競争入札制度

(CompulsoryCompetitiveTendering)

や メー ジャー政権 が導入 した市民憲

(Citizen'sCharter)

に見 るように,公共サー ビスの民生化 は,地方公共 団

体その ものの存在 を, さらに小 さな もの に した。 この ような歴史の展 開の後 に

誕生 したのが, イ ングラ ン ドか らの権 限移譲

(devolution)

によって成立 した

ス コッ トラ ン ド議会下 にあ るス コッ トラ ン ド政府である。今や,32の カウンテ ィ

の下 にある個 々の地域 コ ミュニティが抱 える課題 は,地域住民 自らが解決すべ

き問題 となったのである。地域の代表 によって構成 され る,例 えば,以下で述

べ るロ ツホブルーム ・カウ ンシルの ような地域 コ ミュニテ ィの議会 と地域住民

(9)

が,地方公務員が担わない公共的なサー ビスを提供するようになったことが, ス コッ トラン ドにおける社会的企業の勃興の背景にある。

さて,社会的企業の多 くは保証有限責任会社

(companylimitedbyguaran teeandhavingnosharecapita

l )である。出資金は通常

1

ポ ン ドの場合が多い。

だれ もが出資 し企業の構 成員 になれる とい う緩やかな条件が,実 は コ ミュニ テ ィの共同所有 という理念の,一つの根拠 になっているのである。その前提の 上で,以下,ス コッ トラ ン ドの社会的企業の典型例 として HI Eが紹介 した事 例 ( アラスプール)をもとに,コミュニティによる共同所有の意味を考 えたい。

アラスプール

(Ullaspoo

l )は,スコッ トラン ド北西のアラブ‑ル

(Ullapoo

l ) にあるスポーツ施設の経営会社である。アラブ‑ルは,ルイス島などアウター ・ ヘブリディーズ諸島へのフェリー発着港 もある観光の要所であ り,先 に述べた HI Eが,その配下の機関で,それ 自体,有限責任会社であるローカル ・エ ンター プライズ ・カンパニー

(LocalEnterpriseCompanies)

を通 じてこの ような個 々 の地域ベースの社会的企業 を支援す る体制 を取 っている 。HI Eによれば, ア ラブ‑ル自体,社会的企業の成功事例 を持つ コミュニテ ィとして評価 されてい るようである。

アラスプールは

,25

メー トルの温水 プール施設などを運営 している地方企業 であるが,外部資金 と地域住民か らの寄付 によって

1990

年 に設立 された典型的 な社会的企業 と言 える。 アラスプールは,株式資本 を有 きない,つ ま り私企業

(privatecompany)

の保証有限責任会社である。施設 は,アラブ‑ルお よび 近郊の コミュニテ ィの住民,お よび小学校か ら高校 まで全ての教育機関に利用 されているだけではな く,観光客 に も自由に開放 されている。

アラスプールの立ち上げまでの経緯 は以下の通 りである。 アラブ‑ルの住民

にとって, 1 年中利用で きる温水 プールの設立 は長年の課題であ り,最初に

1

万ポ ン ドの調査資金 を獲得 した後, 3 年間で1

5

万ポ ン ドの資金 をコミュニティ

自身で調達 し,その後,施設の建設 に着手 している

。2000

人程度の人口 しかな

い コミュニティにとっては多額の資金 と言 えるが,その中には,缶の収集, ダ

ンスや祭 りの主催,スポ ンサー付 きイベ ン トの開催, T シャツな どの生産販

(10)

売 な どか ら得 た収益 も含 まれている。 アラブ‑ル もそれに含 まれ るロ ツホブ ルーム とい う地域議会

(LochbroomCommunityCounci

l ) と

HI

Eの協同によ る,いわゆる 「ボ トムア ップと トップダウンの結合」 による成果である。 もち ろん予算総額である750,

000

ポ ン ドを調達で きなかった結果 として,多額の負 債 を負 うことになった事実 もあるが,その負債 も返済 し終わ り,現在の財務状 況は健全である。

周知の ように,ス コッ トラン ド政府の場合,外交 ・防衛 ・マクロ経済 ・社会 保障な ど国策 を除 く,全ての財政基盤は包括補助金 に依 っているが,それは予 算配分の裁量がスコッ トラン ド政府 にあることを示 している。一方,個 々の コ

ミュニティのニーズに合わせた地域計画は トップダウン的に策定 されるわけで はない。上記の温水 プール施設がそ うであるように,地域のニーズを満たすた めには,その地域か らのボ トムア ップ的な要求が必要なのであ り, またそのた めの資金 も地域 自らが調達 しな くてはな らない システムになっている。一方, 施設がで きた として も,その管理 ・運営 も,地域が担わな くてはな らない状況 にある

先 に述べ たように,アラスプールとい う私企業が運営す る温水 プール施設は, 地域の福利 ・教育 ・観光施設 として十分 に活用 されている。従 って,アラスプー ルは,地域 コミュニティの全ての住民,お よび訪れる観光客 にとって,極めて 重要な社会的な存在 と言 える。だが また,その施設 を建設するための資金調達 を住民 自ら行い,運営管理するとい う意味で, コミュニティが所有する企業 と

して見 なされている。

地域 コミュニテ ィの住民であれば誰で も, 1 ポ ン ドを出せ ば社会的企業の出

資者 になれるが,実際には,コミュニティ住民全体が結束 しなければ,温水 プー

ル施設 を作 り上げることは不可能であった。地域ベースの社会的企業が,地域

コミュニティによって所有 されるという意味は, 地域住民が,当該 コミュニティ

の‑貞 として,積極的に社会的課題 を解決す るとい う,住民 自治 を貫徹す る意

思の表明 と考えるべ きである。そ して,それを具現 した ものが社会的企業なの

だ と言 える。社会的企業 をコミュニティが所有するとい うことは, 日本の地方

(11)

公共団体がそ うであるように,企業経営 に関与する際の明確 な所有関係 を意味 するのではな く,その ような公的 システムを持たない地域住民が, 自ら資金 を 集めて起業 し,公共的なサー ビスを担 う,その理念のことを,実際には意味 し ているのである

各地域 コミュニティは,伝統的に,住民の代表か ら構成 される独 自の地域議 会制度 を持 ってお り,地域の課題に自ら応 えて きた。そ してその延長上 に,汰 章以下で詳 しく述べ るように,社会的企業 自体が,経営基盤 を安定 させ るため に土地等の所有者 になるような新たな動 きも出て きたのである。政府機関であ る

HI

E や

SE

の支援 と

,E

Uか らの資金 を含む様 々な資金獲得手段が,個 々の 起業家 に依存 しない社会的企業 を創 出す る礎 になって きたのであ り,それは社 会的企業一般の定義か らは見出す ことので きない特徴 を有 していると言えるo 官僚 システムを前提 とした地方公共団体が存在 しないス コッ トラン ド ( お よび 近似 した自治組織 を持つ欧州の各地方都市が含 まれよう)だか らこそ,日本 と, また米国 とは異 なる地域ベースの社会的企業 を発展 させた理由がある。

以上,社会的企業全体の フレームワークか ら,地域ベースの社会的企業 を弁 別 し, さ らに地域密着 型 のマ イ クロ ビジネス を示唆す る 日本型 の コ ミュニ ティ ・ビジネスを, 筆者が考える地域ベースの社会的企業か ら弁別 し, 地域ベー スの社会的企業 に限定 した議論 を展 開 した。次章では,経営基盤の脆弱性の視 点か ら,地域ベースの社会的企業 を支えるシステムを,各国の事例 を中心 に考 えてい く。

2

章 社会的企業の経営基盤 とその支援システム

社会的企業が,利潤 を追及 し,ステークホルダーに利益 を分配す るとい うこ とは,社会的企業の定義上,特 に,非分配制約の観点か ら見て矛盾が生 じる。

一方,組織 としての持続可能性 を図るためには,事業か ら一定の収益 を得 る必

要があ り,他方,社会的企業論 と,社会的起業家論 とが編棒 して語 られている

場合 も多い。

(12)

特 に米国においては,先 に述べた ように,社会的起業家 とい う個人に焦点 を 当てた議論が盛んである。従 って,米国における社会的企業支援 においては, 単 なる資金援助 には収 まらない支援策 も登場 している。例 えば,アシ ョカ財団 の場合 は,「ア シ ョカ ・フェロー」 と呼 ばれる個人起業家 に固定給 とい う形で の財務支援 と助言 を提供す る活動 を行 っている

(Ashoka:Innovatorsforthe Public)

。 また,オ ミデ ィア ・ネ ッ トワーク

(OmidyarNetwork)

は,営 利 ・ 非営利 を問わず にソー シャルイ ンパ ク トの大 きな事業 を支援す る会社 であっ て,財 団ではない点 に大 きな特色がある。 これ らの新 しい支援 団体 は,ベ ン チ ャー精神 の強 い

I

T企業 の創 始者 が設立す る場合が多 い。例 えば

, Goog‑

1e.org

はグローバル社会 における様 々な問題 に対処す る団体 に資金援助 を行 っ ているが,助成のみではな く投資 も行 う営利組織である。伝統的にボランティ ア活動や非営利活動の盛んな米国における新 しい動 きとして注 目すべ きであろ

う。

一方

,E

U諸国においては,社会的企業のカテゴリーに入 る多 くの事業体が, 国家や

E

U などか らの補助金や交付金 を得 ることが普通である。例 えば英国に おいて交付金や補助金 など資金 を調達す るためには,多 くを基金組織 に頼って いる (

')。E

Uや政府か らの交付金

(grant)

や英国内の宝 くじ基金の ような も の まで,実 に多彩 な資金援助 を行 う組織が存在 している。 またその ことは, こ れ らの資金援助がなければ,社会的な事業 は成 り立たず, また社会的企業 とい

う組織の持続 も図れな くなるとい う厳 しい現実 を意味 している

具体例 を述べ よう。例 えば,先に述べ たス コッ トラン ドの非省庁型公共機関

である HI Eが,アラスプールと同様,社会的企業の成功例 として挙 げたのが,

ネスソープ

(NessSoap)

である。 ネスソープは,ハ イラン ド,イ ンバ ネスの

マ‑キ ンチ

(Merkinch)

地区に存在す る石鹸製造会社 である。その使命 は,

地場産業 を興す ことと,障害者の雇用の機会 を与 えることで,実質的には,ソー

シャル ・ファーム,あるいは 日本で言 う授産施設に近い存在である。その年間

予算 は以下の通 りであった ( ヒヤ リング調査 を行 った当時,2

007/2008

年度の

概算予算)0

(13)

支出は約

8

万ポ ン ドである。その内訳 は, 有給職員

3

人の人件費

5.3

万ポ ン ド, 石鹸生産 にかかるコス ト1 万ポ ン ド,事務所経費その他1.

7

万ポ ン ドである。

実際に石鹸 を生産する上で必要 になる労働力 は,ほとん どそこで働 く障害者 に 依 っているが,彼 らはボランティアの扱いである。 日本の授産施設が,工賃 と い う名 目で,入所者の労働の対価 として利益配分が行われるの とはかな り異 な る。一方,収入は ,2 . 4万ポ ン ドを私的資金 に, また 4. 8 万ポ ン ドを公的資金 に 頼 ってお り,石鹸の売 り上げ予想 は,わずか1.

4

万 ポ ン ドである ( ただ し実際 の売 り上 げは

2

万ポ ン ドであった)。社会的課題 をビジネスの手法 を用 いて解 決す るのが社会的企業であるとは言 え, 成功 している事例の財務状況 としては, い ささか心許ない結果 になっている。 さらに,地域再生事業 に伴 って設立 され たロー カルな支援組織

(MerkinchPartnershipVentures)

が,資金獲得の手 助 けだけではな く,経営 に関す る無料 ア ドバ イス を行 うな ど手厚 い支援策 を 取 っている

確かに,地域の課題 をビジネスの手法で解決 してはいるが, 自立 した経営が 可能になっているわけではない。先 に見 たように,様 々な資金獲得の手段が用 意 されてお り,その資金があって初めて,組織の経営が成 り立っているのが実 情である。 また,先 に授産施設 との異同について言及 したが,労働の対価 とし て障害者 に工賃 を提供する 日本の授産施設 とは異 な り,ネスソープの場合,障 害者 をボランテ ィアとして位置づけて工賃 を払わない点が明 らかに異 なってい る。 ネス ソープにおいては,障害者 に金銭的な支援 を与 えることが 目的ではな い。 彼 らに社会参加の機会 を与 えるとい う意味で, 社会的包摂

(SocialInclusion)

を主要 目的に した社会的企業 なのである。

一方,石鹸の売 り上げだけでは維持で きず補助金 に頼 っているにもかかわ ら

ず,一部の有給職員 には,かな りの人件費 を計上 してお り,組織 自体 は,ボラ

ンティア職月で運営 されていないのが特徴 と言 える。ネスソープは, 地域 コミュ

ニティが再生事業の一環 として立ち上げた私企業である。志の高い起業家が,

ボランティア活動の一貫 として非営利の福祉事業 を興 したわけではな く,地域

の再生 とい う使命 に基づいて,当該 コミュニティが,地場産業の育成 と社会的

(14)

包摂 を目的 とした企業 を設立 したのである。企業の運営 にはそれな りの責任が 伴い,その対価 として相応の報酬が与 え られているのである。

上記の ように,基本的に,多額の補助金や支援組織がなければ維持存続で き ない点が,地域ベースの社会的企業が抱 える一番大 きな問題 なのである。補助 金の存在 な しでは社会的企業は存続で きない状況にあ り,む しろ資金獲得が可 能になったか ら,社会的企業 を立ち上げた とい うのが実情 に近い。では, 日本 における社会的企業 に対す る支援策の現状 はどの ようなものなのか。以下,政 府の支援事例 を取 り上げて,その特徴 を見てい きたい。

最近の動 きとして経済産業省では,地域経済に寄与すべ く, コミュニテ ィ ・ ビジネス等 を支援補助する事業 ( ソー シャルビジネス/ コミュニティビジネス の推進施策) を行い始めた。主たる事業は以下の通 りである ( 経済産業省のサ イ トよ り。またソー シャルビジネスお よびコミュニティビジネス とい う用語 を, ここではそのまま転記 している)0

・中間支援機能強化事業 :地域経済産業 グループ ・立地環境整備課

他地域 において質の高い中間支援機関を創 出 し,又 は既存中間支援機関の機 能 を強化す るために実施す る事業 を行お うとす る法 人格 を有す る民 間団体等

(NPO

法人,公益法人,株式会社等) に対 し事業 に係 る人件費 ・事業費 を補 助す る。

・先進事例他地域移転事業 :地域経済産業 グループ ・立地環境整備課

自立的 ・持続的に自らが実施 しているコミュニテ ィビジネスの事業モデル ・ ノウハ ウを他の類似の課題 を抱 えている他地域の事業者 に移転 し,当該地域の 課題 を自立 ・持続的な事業 を通 じて解決 しうる新たなコミュニティビジネスを 育成す るための事業 を行お うとす る法人格 を有す る民 間団体等

(NPO

法人, 公益法人,株式会社等) に対 し事業 に係 る人件費 ・事業費を補助す る。

・村お こしに燃 える若者等創 出事業 :地域経済産業 グループ ・立地環境整備課

(15)

農山漁村地域の産品,農地,森林資源,人な どの潜在能力,発展可能性 を活 用 し,都市部等のニーズ,資源 をつな ぐなどの手法 によって,農山漁村地域 に 係 る課題解決のための事業 を実施 している事業者等が,農山漁村地域 に係 る課 題の解決 を事業 として行お うとす る意思 と能力 を兼ね備 えた人材 を育成す るた めの事業費等 を補助す る。

また同時に,経済産業省 は,全国を九つに分け,地域 ブロック毎に, コミュ ニテ ィ ・ビジネスや ( 経済産業省が用いる用語であるが) ソーシャルビジネス に関わる促進事業 として 「 地域 コミュニティビジネス/ ソー シャルビジネス推 進協議会」 を設置 している。例 えば,北海道ブロックでは,北海道商工会議所 連合会 など経済団体の他,学識経験者,事業者 ・支援機関,行政,金融機関な どで構成 される 「 北海道 コ ミュニテ ィビジネス

(CB)

・ソー シャル ビジネス

(SB)協議会」が2008

年度 に設立 されてお り, コ ミュニテ ィ ・ビジネス ( お よびソーシャル ビジネス)の促進事業 を行 うことになっている。

この点,地域の内発 的発展 とい う意味では,ス コッ トラ ン ドにおける

HIE

SE

の存在 は参考 になる点 も多 い。先 に述べ た ように,例 えば

HI

Eでは, 下部組織 を地域 コミュニテ ィに配置することで,中央政府か ら与 え られる包括 補助金

(Scottishblockgrant)

の一部 を,個 々の地域 コ ミュニティの実情 に 合わせて有効 に利用で きる仕組みになっているか らである

従って, 北海道 とス コッ トラン ドの地勢的近似性 を考慮すれば, 北海道ブロッ

クの協議会 は,上記ス コッ トラン ドにおける政府機 関 (

HI

Eや

SE)

が担 って

きた役 目を,北海道において同様 に果たす機関 とな りうるはずである。 ところ

が上記補助金に関 しては,経済産業省の直轄事業であ り,協議会の方は,地方

支部局 ( 北海道の場合 は北海道経済産業局)の管轄であって, さらに事務局は

各地域の社 団法人や

NPO

法人に設置 されている状況である。 また,その 目的

は, コミュニティ ・ビジネスや ソー シャル ・ビジネス等の認知度向上のための

啓発 ・広報お よび普及活動の推進, またネ ッ トワークの構築 に向けた取 り組み

にあ り,地域の社会的事業に,直接 に資金援助 をしているわけではない。地域

(16)

の実情 に詳 しい協議会ではあるが,社会的企業 を直接 に支援 しうるシステムに はなっていない。

日本 においては,ス コ ッ トラン ドにおける

HIE

SE

の ように,政府直属 の機関 として各 コ ミュニテ ィ内の社会的企業 を支援 しつつ,地域の経済振興 を 担 うような行政 システムが整備 されているわけではな く, また都道府県庁ない しは市町村 と連携 して事業 を行 うシステム も完備 されているわけではない。ス コッ トラン ド政府 と地域 コミュニテ ィを直接結 びつ けるために

,HI

Eや

SE

, あ るい はその下 部組織 と しての ロー カル ・エ ンター プ ライズ ・カ ンパ ニー

(LocalEnterpriseCompanies)

が果た している役割 を,経済産業省や各ブロッ クの協議会が担 うことはで きないのである。また経済産業省の 目的は, 社会性 ・ 事業性 ・革新性 を重視 した新 しい 日本版起業モデルの提唱であって,私的なマ イクロビジネスを意味する 日本型 コ ミュニテ ィ ・ビジネスに対する,起業支援 が主要 な事業 となっている

英国型の コミュニテ ィ ・ビジネス,す なわち地域ベースの社会的企業 は,刺 益 をその構成員や株主 などのステークホルダーに還元せず, コミュニテ ィが当 該企業 を所有す るが,その ような意味での社会的企業 を支援す るような仕組み が,そ もそ も日本 には存在 していない。それはまた,地域の課題 に応 えるため に設立 された地域ベースの社会的企業の使命 を考 えると,地域 コミュニティ自 体 を支援す るシステムが, 日本 とは全 く異 なるとい うことなのである。社会的 企業の総体か ら地域ベースの社会的企業 を弁別 し, さらに 日本型の地域密着型 の私的なマイクロビジネスを弁別 しなければな らない所以が ここにある。

ところで

,HI

Eや

SE

は,政府 と地域 コミュニテ ィを仲介する中間組織であっ て,それ 自体 を一つの社会的企業 ( 事業体) と見なす こともで きるか もしれな い。実は,スコッ トラン ド ( 特 に高地お よび島喚) とともに

,E

U の条件不利 地域 に指定 されているイタリア南部において も,地域協定

(pattiterritoriale)

の存在 と,その コーデ ィネー ト組織 としての中間組織が,新 しい地域 開発手法

として,その支援機能を担 っている点にも着 目すべ きである。

さて高原‑隆は,その一事例 として 「 サルノ ・ノッチェ‑ラ地域農業関連雇

(17)

用のための地域協定

(PattoTerritorialeperl'Occupazionedell'AgroNocer inoSarnese)

」 を取 り上げている。ス コッ トラン ドの事例 と比較す るため,以 下 に紹介 してお こう ( 高原,2008,p15

8)

。 この地域協定は,サ レルノ県の協 同組合 ・信用金庫 ・労働組合

・NPO

な どがパー トナー となっている。それ を コーデ ィネー トする組織である 「 農産振興協定株式会社

(Pattodell'AgroS.p.

a.)

」が,社会的企業 として,地域 プロジェク トの調整や運営お よび企業活動 を支援する仕組みになっている。当該地域協定の事業では,サルノ川浄化お よ び流域公園づ くり,農産加工や衣料等の産地形成, また地域 ブラン ドの強化 な どが挙 げ られる。

高原は,地域協定の意義 を以下の

3

点 にまとめている ( 同,p1

64)

1.公私混合のパ ブ リックなまちづ くり会社 とい う形 を取 りなが ら,民間が 中心 となってフレキシブルなコーデ ィネー ト活動 を行 っていること。

2.単 に経済的効果 を求めるだけではな く,地域の文化そ して地域の価値 自

体 を見直 してい く事業であること。

3.

産 ・官 ・学そ して

E

U との複合的な連携 に立っていること。

地域開発 を,ボ トムア ップ的な内発的発展 に求め,地域の価値の復権やそれ による地域 アイデ ンテ ィテ ィの強化 を図る点などは,ス コッ トラン ドにおいて も見 られるものである。 また中央か ら地方へ という分権化の動 きも, また同様 である。 しか し,ス コッ トラン ドにおいては,地域 コミュニテ ィが抱 える個 々 の課題 に応 えるために, コミュニテ ィ所有の社会的企業が台頭 しているが,イ タリア南部では,地域協定 をコーデ ィネー トする株式会社 も社会的企業 として 見 なされる点が異 なっている。

さて,イ タリア南部の各地域協定の事業資金は

,E

Uの構造基金か らの拠 出

であって恒常的な ものではない。地域ベースの社会的企業の位置づけは,各国

の実情 によって異 なる状況にあるが,地域の発展が交付金や永続的に支給 され

る保証のない補助金に依存 している点は変わ らない。繰 り返 し述べて きたよう

(18)

に,社会的企業の財務基盤は脆弱で不安定である。

では,地域の内発的発展 を可能に し, またその持続可能な発展 を保証 しうる ような社会的企業や社会的事業 を展 開す るには, どの ような方法があるのであ ろうか。次章では,地域ベースの社会的企業の存続維持 を可能にす るような手 法 とその理念 について取 り上げ,地域 コミュニティに与 える意味 を考 えたい。

地域ベースの社会的企業 を考 えることは,それを共同所有するコミュニテ ィの 自治の問題 に深 く関わって くるか らである。

3

章 社会的企業 と住民 自治

1

章で述べた ように,地域ベースの社会的企業の特質を考 えると,社会的 企業ない し社会的事業 を同一のカテゴリーに属する存在 として捉 えることは困 難であ る。例 えば,各 国 ・各地域 を拠点 に活動す る ビッグ ・イ シュー

(The Biglssue)

のような社会的企業 も,特定の地域 を拠点にするが,定義上,コミュ ニテ ィによる共同所有の企業ではない とい うことで,別の タイプの社会的事業 モデルとして位置づ けるべ きであろう。以下では,地域ベースで,かつ コミュ ニティによって共同所有 される社会的企業 に限定 して, その経営基盤の強化 と, それによって強調 される自治の問題 を取 り上げることにす る。

さて地域ベースの社会企業 にとっては,収益の健全化の問題が一番のボ トル ネ ックとなっている。社会的企業 を経営的に安定 させ, またその結果 として, 当該 コミュニテ ィ自体 を持続可能な状態 に維持するためには,第

2

章で見て き たように,事業の運営収入のみでは足 らず,別途,多額の補助金等 を必要 とす るか らである。英国における社会的企業の多 くは,連邦政府や E U, また宝 く じ基金等,様 々な補助金に依存 しなければ存続で きない状況にある。では地域 ベースの社会的企業が,資金獲得 という手段 を取 らずに経営基盤 を安定 させ る ことは可能なのであろうか。

繰 り返 しになるが,ス コッ トラン ドにおいては,使途の 自由な包括補助金が

中央政府か ら委譲 されるシステムになっている。他方,医療 などの社会保障費

(19)

に関 しては,中央政府の管轄であ り,地域差 な く平等 に保証 される。教育関連 予算や社会保障費の多 くを地方に移管す る日本の予算配分制度 とは異 な り,国 家 と地方が扱 う予算項 目が明白に切 り分け られているのが特徴であ り,地方が 抱 える問題は地方が解決す るとい う意味で,地域の 自治が徹底 されるような予 算配分 になっている。その結果,個 々の地域 コ ミュニテ ィは,内在する課題の 解決のために多様 なコミュニテ ィ ・プロジェク トを準備 し,その計画を実現可 能なものにするために,住民 自身が資金獲得 を行わな くてはな らない状況にあ る。一人一人の社会的起業家 に依存 で きない とい う点で,ス コッ トラ ン ドで は

,HE

HIE

の ような政府機 関が,地域 コミュニテ ィを支援す る政府機 関 として重要 な役 目を果た している事実は,すでに見て きた とお りである。

もちろん,スコッ トラン ドにおいて も,政府機関の支援があるとは言え,捕 助金に依存 している以上,その事業 を継続 させ ることは難 しい。 日本の ように 箱物 に特化 した施策は見 られないが,公的交付金や補助金依存の体制 にあると い う点では,ス コッ トラン ドも日本 と変わ りがない と言 えよう。

そ こで,交付金や補助金への依存度 を下げ,財務状況の健全化 を図るための 方法 として,「プロパテ ィ ・マネジメ ン ト」と呼ばれる手法が登場する。それは, 地域ベースの社会的企業が, 自ら不動産 ( 土地 ・建物等) を所有 し,その一部 を賃貸することで得 られる収益 を社会的企業の収益 に組み入れる手法である。

また社会的企業が,土地 ・建物

(property)

か ら地代や家賃収入 を得 るだけで はな く,それを資産

(assets)

として重視するとい うことか ら,プロパ テ ィ ・ マネジメ ン トを用いた地域 開発 を,

"assetbasedcommunitydevelopmen

t "

と呼ぶ場合 もある。

プロパテ ィ ・マネジメ ン トの手法 を活用 した社会的企業 として よく知 られる のは, ロン ドンのテムズ川河岸の荒廃地域の再生事業 を行 った,開発 トラス ト であるコインス トリー ト・コミュニティ ・ビルダー

(CoinStreetCommunity Builders

,以下

CSCB

と略す)の事例であろう。会社 自らが土地 ・建物 を所有

し,賃貸料 など不動産か ら得 られた事業収入 を用いて,公的なサー ビスを住民

に提供 している。 さらに住宅経営 については,協 同組合方式

(COoperative)

(20)

を取 ってお り,個 々の共同組合では,そ こに居住す る住民 ( 借家人) は自ら住 居 を買い取 ることがで きない制度になっている0‑万,住民 は建物管理等に責 任 を持つだけではな く,協同組合 自体の シェアホルダー として,経営 に直接参 加す るシステムになっている

ところで, 社会的企業が地域 コミュニティによって所有 されるとい うことと, 個 々の社会的企業が,プロパテ ィ ・マネジメ ン トの手法 を取 って不動産 を所有 するということの延長上 に, コミュニテ ィ自体の 自主管理 とい う理念 も登場 し て きている。例 えば,ス コッ トラ ン ドにおいては ,HI Eの支援 の下 に,地域 住民が トラス トを設立 して信託 を行い, 自らの土地 を買い取 るとい う事例 も出 て きている。それは

,communitybuyout

と呼ばれる,地域 コミュニティ自体 が,その土地の所有者 になるために取 られる手法である

その意味で言 えば, コ ミュニテ ィを所有 し自主的に管理するとい う理念は, エペ ネザ一 ・ハ ワー ドが

1898

年 に唱えた田園都市構想 にまで遡 ることがで きる はずである。 コミュニテ ィは社会的企業 を所有すると同時に, コミュニテ ィは 社会的企業 によって所有 される。言葉 を換 えて言えば,プロパテ ィ ・マネジメ ン トの手法 を取 り入れることによって, コミュニテ ィの 自主管理,そ して住民 による自治 とい う理念が具現化で きるのである

実際,ハ ワー ドの理念 は, レッチ ワース とい う都市の創造 において実現 して いる。英国ロン ドンの北 に位置す るレッチワース ( 一つの教 区 として位置づけ られていた)では,土地は共同所有 され,その地代収入による財務基盤 を通 じ て公共サー ビスを提供するとい う理念が長 く貫かれていた。ハ ワー ドの協力者 である J .F. オズボー ンが言 うように, レッチ ワース とい う一つの地域 を管理 した株式会社 は,ハ ワー ドが信 じた 「 協 同 と社会的企業の未来」 を予見す る社 会実験 と呼ばれる ものになったのである

(Osbo

r

n,p230)

。非営利組織の私企 業が,土地 を所有 し自主管理す る社会的実験 は,今 日,先に述べたプロパ ティ ・ マネジメ ン トの手法 を取 ることで,社会的企業の経営実践 に継承 されていると 考えるべ きであろう。

ところで,ハ ワー ドは,地方 自治体

(municipality)

と,株式会社である田

(21)

園都市の管理母体 ( ハ ワー ドはそれ も

municipality

と呼 んでいる) との主要 な違 い を,収益 を上 げ るための手段 の相違 であ る と述べ てい る

(Howard

,

1965,p58)

。田園都市では,収益 は, レン ト

(rents)

と呼ばれる地代 を,当該 住民か ら徴収す ることによって得 られるように した。 またその中には,地方 自 治体 に支払われるべ き地方税

(rate)

も含 まれていた。そ して得 られた収益 を, 通常な ら地方 自治体が行 うべ き様 々な公共サー ビスの提供 に用いるのである

田園都市 を管理運営す るための収益 を地代か ら得 る方法は,規模の違いはある にせ よ,プロパティ ・マネジメ ン トの手法その もの と言える。

事実, レッチ ワースでは,当該事業の立ち上げのために

,1903

年にファース ト ・ガーデ ンシティ ・カンパニー という会社が設立 されたが,以後

,1963

年 に 町議会 による公社設立 と会社の解散 まで, レッチワースは当該株式会社の下で 開発 ・管理 されて きたのである。以下,参考 までに上記企業の初期の約款の一 部 を記載 してお こう ( 菊地威

,2004,p57)

0

「 会社の純利潤の余剰部分は,かかる配当お よび過去数年分の

5

パーセ ン ト 配当に必要 な金額の支払いを済 ませた後,交通網の整備,水の供給,照明,排 水,マーケ ッ ト,病院,図書館,共同浴場,その他 まちの美化施設,教育手段 の供給, リクリエー シ ョン,大衆娯楽施設,そのほか会社あるいは経営者が住 民の利益 になると考える諸 目的に使用 される」

地代 をもとに, ファース ト・ガーデ ンシテ ィ ・カンパニー とい う 「 社会的企 業」が, 自治体あるいはそれ以上の公的サー ビスを行お うとし,実際,行 って きた事実が よ く分かるはずである。 また,同時に,ハ ワー ドは,田園都市 にお ける自治組織 ( それは会社組織であるが)の議決機 関を中央評議会

(Central Counci

l ) として位置づけ,住民 ( 借地人)か ら評議員 を選出することに した。

住民の意思は, この評議会 を通 じて,公的なサー ビス となって還元 されるので ある。ここで

,CentralCouncil

を 「 評議会」ではな く 「 議会」,また 「 評議員」

を 「 議員」 として訳出することもで きよう。先 に述べたように,彼 にとって田

(22)

園都市の管理母体 は,地方 自治体

(municipality)

その ものだか らである。

この意味で言えば, レッチ ワース とい うコミュニティは,‑私企業 によって 所有 されてはいるが, この コミュニティ自体,住民主体の 自治に委ね られた一 つの地方公共団体であると見 なす ことがで きるはずである。 また,住民が土地 の所有者ではな く借地人である理由 も,コ ミュニテ ィを永久に存続す るために,

自治体の機能 を持つ企業 に土地 を信託 し,地代 を企業の収入手段 とした点に依 る。私企業が土地 を所有 し自主管理する一方,住民 自治の思想が貫徹 している のが, レッチワース とい うコミュニティなのであった。そ して,その理想 を実 現で きたのは,プロパティ ・マネジメン トとい う手法 を用いたか らである。 こ の手法が,今 日,開発 トラス トとしての

CSCBが 自らの経営手段 に用 いると

同時に,その事業の一つである住宅経営 ( 協同組合住宅)の管理運営手段 に も 適用 されていることは,先 に述べ た とお りである。CSCBにおいては,住民 は 協同組合の シェアホルダー として経営 に直接参加す る一方,その協同組合 は, 家賃収入 をベースに安定 した経営基盤の もとでの運営が可能になっているか ら である

地域ベースの社会的企業 は, また,アソシエー シ ョンとしての コミュニティ

の理念 と形成過程 に強 く関係づ け られていることにも着 日したい。渡辺俊一が

述べた ように,コミュニティは,「 大都市圏の多様 な階層の混合的居住状態か ら,

小規模 ・同質の地域集団を形成す るためのゲゼルシャフ ト的契機 を与 え,ひと

たび集住 をは じめた者 を相互 に同化 し,統合するためのゲマインシャフ ト的擬

制 と して機能」 してい るか らである ( 渡辺,1

977,p83)

。 そ もそ も,ハ ワー

ドが田園都市構想 を待 ったの も,過密都市 ロン ドンか ら脱 し,快適な環境での

コミュニテ ィを創造 したい とい うゲゼルシャフ ト的契機 によっている。本質意

志 に基づ く基底的な存在 としての コミュニテ ィを強調す ることは,畢寛,アソ

シエー ションとして としてのコミュニティを維持 ・存続 させ るために,人々を

結束 させ ることにある。そ して,今,求め られていることは,住民の意思 を再

び統合 し,当該 コ ミュニテ ィを持続可能な存在 にす るための新たな方略なので

ある。

(23)

英国に見 るように,新 自由主義 とい うイデオロギーが,公的セクターの役割 を縮減 して しまったのは確かであるが, コミュニティが所有す る社会的企業の 新たな勃興 は,アソシエー シ ョンとしての コミュニティの重要性 を再確認す る ことにつながろう。特定の地域 に住み,そこで生 じる様 々な利害関係の当事者 として意識することは,単 なる地理的上の領域 を,活動母体 としてのコ ミュニ テ ィ‑ と転換 させ ることになる。社会的企業 をコミュニティが所有するとい う 理念 とそれか ら導出される自治の精神 は,ゲマインシャフ ト的擬制だけでは維 持 ・存続 しえな くなったコミュニティに,再度,人々を結束 させ,その存立 を 図る新 たな方略 と考 えるべ きなのである。

コミュニティは,地域住民の選択意志 によるアソシエーシ ョンであるととも に,再帰的にコミュニティの内的発展 を促す。またそのことは,住民の 自治が, 中央政府か ら地方 自治体への権 限移譲による 「 地方分権」 によって もた らされ るわけではないことも示唆 している。 なぜ なら分権の問題は,む しろ既存の地 方 自治体への財政 を含 む権力の移譲 を伴 うことで,結果 として 自治組織の最小 単位 を構成す る地域 コ ミュニテ ィの独 自性 と主体性 を奪 いかねないか らであ る。住民主体の 自治の貫徹 と,中央政府 と地方 自治体の間で議論 されている分 権 問題 ( それは地方主権 とい う造語 を創 出 した) は,異 なる課題である点は強 調 してお きたい。

今 まで見て きた ように,プロパティ ・マネジメン トとい う手法 は,極めて脆 弱 な地域ベースの社会的企業 に安定 した経営基盤 を与 える一つの可能性 を示 し ている。と同時に,コミュニティによって所有 された社会的企業による公共サー

ビスの提供 とい う考 え方 は,住民主体の 自治を作 り上げる理念であ り,持続可

能な社会的事業 を営むための ビジネスモデルであ り, また大 きな政府論 と小 さ

な政府論 との間の深い溝 を架橋 しうる実践活動 と見 なす ことがで きる。地域 コ

ミュニティは,社会的企業 をその内部に埋め込みつつ, また社会的企業 によっ

て取 り込 まれることで, 自治の精神 をさらに強化す るのである。

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