プラスチックヘのプラズマコーティングの研究
著者 安間 英任
雑誌名 静岡大学大学院電子科学研究科研究報告
巻 24
ページ 87‑90
発行年 2003‑03‑28
出版者 静岡大学大学院電子科学研究科
URL http://hdl.handle.net/10297/1445
氏名・(本籍
)
安間
英
任 (静岡県
)
学 位 の種 類
博
士 (工
学
)
学位 記番 号
工博甲第
223
号 学位授与の日付平成 14年 3月 23日
学位授与の要件
学位規程第5条第 1項 該当 研究科。専攻の名称
電子科学研究科
電子応用工学
学位論文題ロ
プラスチックヘのプラズマコーティングの研究
(委員長)
論 文 審 査 委 員 教 授 神 藤 正 士 教 授 山 田 員 吉
教 授 天 明 二 郎
教 授 畑 中 義 式
論 文 内 容 の 要 旨
RFプラズマCVD法(高周波 プラズマ化学気相堆積)特にカソー ドプラズマ堆積法を用い、ポリカ ーボネー ト(Pc)樹脂上に表面保護膜 としての良質なSic、znO及び Si02薄 膜の低温堆積手法、及び その評価 に関する研究 を行 った。カソー ドプラズマ堆積では電極 に置かれた基板 にセルフバイアス がかか り基板は負 に帯電する。そのため正イオンの粒子 と電子が豊富なプラズマ中では、カソー ド 電極の表面は正イオン種の衝撃 を与えられる。このイオン種の衝突のために吸着、放出、エ ッチィ ングといったアノー ド電極 とは異なつた成長反応が予想 され、その為従来では得 られなかった高品 質な薄膜の低温堆積 を試みた。SiCと sio2薄 膜はHMDSか ら堆積 し、Zno薄膜はDEZから堆積 を 行 った。
本研究では、まず電極 に印加するとカソー ド電極周辺 に均一に発生するイオンシースに着目して、
薄膜の均一堆積性 について詳 しく調査 した。カソー ド電極周辺 には電子 と正イオンとの運動速度の 差 より電極近傍 は電子が過剰 とな り負 に帯電する。このため正イオンが引 きつけられイオンが過剰 なイオンシース領域が発生する。イオンシースは非常 に活性に富む領域であ り薄膜形成 においては 非常 に強い関わ り合いを持つことが判明 した。RF出力100〜300W、プロセス圧力0.lTorの 条件下で は基板周辺 には数百 ミクロンの厚 さをもつイオンシースが均一に取 り巻 くことが計算 され、凹凸部 や曲面部をもつ複雑 な三次元形状の基板表面においてもほぼ均一な膜厚、膜質のSiC膜 の堆積が可能
続いて、(PC)樹脂上への表面保護膜の堆積 を目的 としてSic薄膜 とZ■0/Si02積層膜のRF出力 やプロセス圧力お よび基板温度等の堆積条件 における堆積膜特性の影響 について詳 しく調査 した。
水素励起プラズマ とIIMDSモノマーを原料 として堆積 したSiC薄膜は堆積速度カウ00mmin以上 の高い堆積速度で堆積することがで きた。低温にて得 られた膜はアモルフアスな膜であ り、原料 に起 因する炭化水素 を膜中に含む薄膜であつたが、 (PC)樹 脂上 に堆積 したSiC膜はクラックや剥離のな い良質な薄膜であった。RF出力や基板温度を上昇 させ、プロセス圧力の真空度を上げることにより 薄膜中の炭化水素 を離脱 させることが出来、膜中に含有するSi元 素比率 を向上 させることが可能で あるため、膜の紫外線 カット性能を調整することが可能であった。また、RF出力の増加 により紫外 線 カット性能 も向上する。 しか し、高いRF出力では薄膜 にクラック等が発生するため、良質な SiC 薄膜堆積 には適度なRF出力の調整が必要である。SiC薄膜 を堆積 した(PC)樹脂表面の表面硬度 は 約2倍の向上が見 られ、紫外線カット膜 としても、表面荒れ防止に効果を示すことが確認できたが、
si‐cネ ットワークの弱 さに起因する膜のバ ン ドギャップ変化が生 じるため紫外線カッ ト膜 としては 不充分であつた。
次 に酸素励起プラズマ とDEZモノマーを原料 としてZno薄膜 を紫外線 カット膜 として、更に酸素 励起 プラズマ とHMDSモノマー原料 とした Si02薄 膜 を耐摩耗性皮膜 としての2層膜 を(Pc)樹脂上 に堆積 させ表面被覆性能について詳 しく検討 を行 った。低温堆積 におけるZnO薄膜は粒子上に堆積 さ れ堆積膜の流動性は優れず、膜中に炭化水素を含むアモルファスな薄膜であったが基板温度カシ5℃以 上で堆積 された膜中には炭化水素が含有 しない良好な膜であった。更に低温堆積で得 られたZnO薄
膜で も非常 に優れた紫外線 カット性能を示 した。また、堆積速度は基板温度 とRF出力に影響 を受 け、堆積速度は基板温度の上昇 と共に減少 した。RF出力においてはRF100WまではRF出力の上昇 とともに堆積速度は上昇するが、それ以上の出力においては荷電粒子によるイオン衝撃影響のため減 少 を示 した。
一方、低温堆積 した Si02薄膜においても膜中に炭化水素 を含有するアモルファスな膜であつた。
堆積速度 において もzno膜堆積 と同榊 出力 と基板温度の影響 を受け、RF出力の増加 とともに、
堆積速度は上昇 し、基板温度の上昇 と共に低下する。 このためznO、Si02薄 膜のいずれの堆積条件 において も基板温度及びRF出力の調整が必要である。
(PC)樹 脂上 に堆積 したZno/Si02積層膜はオリジナル(PC)樹 脂の10倍以上の表面硬度 を持ち、更 に非常 に優れた紫外線 カット性能を持つため、紫外線による(PC)樹脂表面の光劣化 に伴 う黄変化 を 著 しく低減する事が可能である。また、単純な積層膜は膜の密着強度不足 に伴 う界面剥離現象が生 じ、ZnO膜とSi02膜 の明確な界面を持たない傾斜構造 をとる積層膜は密着強度の向上につながるこ とが判明 した。
以上の結果 よリカソー ド堆積法を用いた薄膜堆積法は今 日、拡大使用 されている複雑な凹凸形状の プラスチ ック部品への表面被覆工法 として非常に有用な工法であ り、更にZnO/Si02積層膜の低温 堆積は今後 プラスチック上へ耐紫外線及び、ハー ドコー トの技術 として有益であることが証 された。
‑88‑
論 文 審 査 結 果 の 要 旨
本論文は、プラスチックヘのハー ドコーティング及び紫外線劣化防止のために、プラズマCVD法
を用いてシリコンカーバイ ド薄膜及び酸化亜鉛薄膜 と酸化シリコン薄膜のプラスチ ック上へのコー テイングに関する研究 を纏めた ものである。
自動車部品に用いられるプラスチックは、現状では有機溶剤を用いる湿式 コーテイングが主 として 用いられているが、環境問題、耐久性の保証等の点で、改善が求められている。プラズマを用いた乾 式表面処理及びコーテイングはこの分野で将来性のある技術 として期待の もたれているところであ る。研究の背景 と位置付 けが第1章序論 として述べ られている。
第2章ではプラズマCⅥ)による薄膜 コーテイングの原理、各種 プラズマ薄膜堆積装置の特徴 を 述べ、また本研究で用いたカソー ドプラズマ薄膜堆積法の特徴 と使用する意図が述べ られている。さ らに、本研究で対象 とするプラスチ ックとしてポリカーボネイ ト樹脂 (PC)を 取 り上げて、紫外線に よる劣化特性の基本的な事柄について説明 し、ハー ドコーティング及び紫外線による劣化防止のため の薄膜 としてSic薄膜、Zno薄膜及びSI02薄膜の有用性が述べ られている。第3章では、実験の 構成及 び薄膜測定評価方法 について述べ ている。薄膜堆積装置 は平行平板容量結合型の高周波 (13.56ML)プラズマ装置である。基板 を高周波電力 を供給するカソー ド側に取 り付ける構造 となっ ている。有機原料 として用いたヘキサメチルジシラン(I・IMDS)、 ジエチル亜鉛 (DEZ)の 蒸気圧等基本 特性が述べ られている。
第4章では、実験 に使用 したカソー ドプラズマ薄膜堆積装置において、基板 として3次元形状 を したプラスチックにおいても均一な薄膜形成が出来ることが示された。これはカソー ド電極面に出来 る均一なプラズマシースによる一様なイオン及びラジカルの照射による特徴的な特性であることが示 された。
第5章では、HMDSを原料 として、Pc基板上 に SiCを 堆積 し、SiCの表面硬度 と紫外線 による劣 化防止効果 について検討 した。表面硬度 として2倍程度の向上が見 られ、紫外線 カッ ト膜 として も 多少の効果は確認で きたが、長時間紫外線照射 においてsic膜の結合欠陥に起因する酸化の進行 に よリバ ンドギャップ移動が生 じ、紫外線カット膜 としては不十分なものであることが分かつた。第6 章では、Zno膜を紫外線カット膜 として用い、Si02膜 をハー ドコーティングとして用いるために、
それぞれの薄膜堆積特性、及び2層 として重ねてコーティングしたときの問題点について検討 され た。得 られたZno薄膜はアモルファスであ り、380nm以下の紫外線 をカットし長時間の紫外線暴露 試験 にも耐え、良好な特性であ り、またSio2薄 膜は10倍以上の硬度の向上が得 られた。 2層 コーテイ ングの際に生ずる剥がれの防止のために、PC基板の窒素プラズマによる表面処理 とZnoと sio2の 接合部組成の傾斜堆積 による連続膜特性 により、接着力の向上が図れることが示 された。結論 とし て、カソー ドプラズマ堆積法によってZnoと sio2の 2層コーテイングをすることにより、ハー ド でかつ、耐紫外線のコーティングが可能であることが示 された。
以上、プラスチックヘの低温 コーテイング法を実証 し、実用に近い技術開発を行ったことは、学術
的にも、また産業技術的にも大きな貢献をしている。よって博士(工学)の学位を授与するに十分なも のであることを認める。
‑90‑