亜硝酸による脱色現象
Color removal by nitrous acid
土木工学専攻 3号 浅見晶
Akira ASAMI
1.はじめに
オゾン処理は着色排水の脱色方法として使われて いるが、排水中に亜硝酸が共存するとオゾンが亜硝 酸酸化に消費されてしまう可能性もある。私も基礎 研究の一環としてこの問題を取り上げ、亜硝酸存在 下での脱色実験を行ったが、その過程で着色物質に よっては亜硝酸だけで脱色される現象を見出した。
本報告ではオゾン+亜硝酸の脱色実験結果、および 亜硝酸単独の脱色実験結果を紹介し、亜硝酸による 脱色作用の特徴について若干の考察を行う。
図-1 実験図とOrangeⅠの構造式
2.2.実験結果と考察
図-3 はオゾン+亜硝酸による脱色実験結果の一例 であるが、
pH
が酸性域の場合には着色物質添加直後 である0
分目に脱色現象が起きていることが理解さ れる。図-2に示しているオゾン単独での0
分目の結 果と比較しても明らかなことから、この原因はオゾ ン以外の物質によるものであると考えられ、共存さ せた亜硝酸が酸性域において、着色物質になんらか の影響を及ぼしているのだと推測された。また、本研究で用いた染料の多くはアゾ染料と呼 ばれ、アゾ基(N=N)という官能基を持つ染色物質 である。現在合成染料として最も多く用いられてい るが、一部のアゾ染料に発ガン性の疑いがあり、EU
などで規制する動きが見えている。 そこで、亜硝酸を添加したあと、オゾンを含まな い空気で通気する脱色実験を行った。その結果を図-4 に示す。これにより、亜硝酸単独での脱色は
pH
が低 いほど急速であることが理解された。とくに、亜硝 酸のpKa
である3.35
に近いpH
になると脱色が急速 になることや、図-5からpH3.0
での窒素化合物の合 計量が減少していることなどから、亜硝酸の特色で ある、pHが低くなると遊離状の亜硝酸(HNO2)の 存在比が上がることなどを考慮すると、この現象に は遊離状の亜硝酸(HNO2)が関与しているのではな いかと推測される。2.亜硝酸共存下でのオゾン脱色実験 2.1.実験方法
人工着色排水には純水4Lに
OrangeⅠを 0.1g溶
解させたものを使った。オゾン脱色実験に使った施 設概略図を図-1 に示す。オゾナイザーにはOZ-200
(ユニホース)を用い原料空気には乾燥空気を用い た。リアクターは攪拌機を備えており、オゾン化空 気は多孔性チューブを介して一過流でリアクターに 通気継続的に注入された。このリアクターは恒温水 槽に浸漬され反応液温は
25℃に制御された。pH
制 御計を利用し、水酸化ナトリウム水溶液と硫酸を随 時添加することで人工着色排水のpH
を設定値に維 持した。脱色実験は270
分間とし、その間、0 分、15
分、30分、45分、90 分、135分、180分、225 分、270 分の計9
回試料を採取し、水質分析を行っ た。計270
分の回分実験をpH3.0
からpH7.0
に変化 させて行った。吸光度の測定には吸光光度計(波長480nm)を、亜硝酸量と硝酸量の測定にはイオンク
ロマトグラフを用いた。 図-2 オゾン処理での吸光度低下の様子 0
0.5 1 1.5 2 2.5
0 50 100 150 200 250 300
時間(分)
吸光度
pH3.0 pH3.5
pH4.0 pH5.0
pH6.0 pH7.0
図-3 亜硝酸+オゾン処理での吸光度低下の様子
(NO2-N量:100mg/l 相当) 0
0.5 1 1.5 2 2.5
0 50 100 150 200 250 300
時間(分)
吸光度
pH3.0 pH3.5 pH4.0 pH5.0 pH6.0 pH7.0
図-4 亜硝酸での吸光度低下 (NO2-N量:100mg/l 相当) 0
0.5 1 1.5 2 2.5
0 50 100 150 200 250 300
時間(分)
吸光度
pH3.0 pH3.5
pH4.0 pH5.0
pH6.0 pH7.0
図-5 亜硝酸量と硝酸量の変化(pH3.0)
0 20 40 60 80 100
0 100 200 300
時間(分)
mg/L NO2-N
NO3-N T-N
3.遊離状の亜硝酸による脱色実験 3.1.実験方法
前述の結果をふまえて、遊離状の亜硝酸を発生さ せる実験を行った。人工着色排水には純水4Lに数種 類の染料を溶解させたものを使った。使用した染料 は実験結果の項目に示す。遊離状の亜硝酸による脱 色実験に使った施設概略図を図-6 に示す。遊離状の 亜硝酸は
pH
を3.35
に固定した発生槽で発生させた 後、多孔性チューブを介して一過流で人工着色排水 の入った反応槽へ通気継続的に注入された。なお、発生槽の液体が直接反応槽に注入されないようにす
るために、間に水槽を一つ置いた。
pH
制御の方法は 前述の実験と変わらず行い、測定項目は前述のもの に加えてpH
測定器を用いてpH
を測定した。実験時 間は染料の種類によって変化させ、その間、試料を 採取し、水質分析を行った。3.2.実験結果(OrangeⅠを使用した場合)
OrangeⅠを 0.1g、亜硝酸を 100mg/l
相当用いた 場合の吸光度低下の様子を図-7に示す。ゆるやかで はあるが吸光度が低下し、最終的に91%の除去率と
なり前述の実験結果とほぼ変わらない値になった。図-4の
pH3.0
での吸光度低下の様子に比べて、傾き がゆるやかになったのは、当初反応槽にたまってい た空気が移動したためか、反応槽に一定量の亜硝酸 がたまらないと脱色現象が始まらないためだと推測 した。実際に亜硝酸が反応槽に10mg/l
以上たまら なければ、脱色現象が進んでいないため、このよう な仮説を立てた。そこで、反応槽に亜硝酸を最初か ら添加し実験を行ったところ、脱色現象に全く影響 しなかったため、低下の様子がゆるやかになった原 因は空気が移動したためと考えられる。また、図-8 から発生槽の亜硝酸量が減少し、反応槽の亜硝酸量 が増加していることがわかる。そして、図-9から注 入された亜硝酸の影響を受け、pH が下がっている ことがわかる。これらのことは反応槽に遊離状の亜 硝酸が吹き込まれていることの証拠であり、これが 脱色の原因の一つではないかと推測される。また、この実験は最終的に
1710
分まで装置を回 し続けた。最初の3
時間と最後の3
時間の実験結果 を表-1に示す。時間が経つにつれ、各槽の亜硝酸量 は著しく減少しており、それに伴いT-N
の値も減少 している。本来、T-Nの値は物質収支の面から一定 になるはずであり、亜硝酸が反応槽で反応した後に 大気中に放出されているか、別の物質になっている 可能性がある。この現象を検証するために、反応槽表-1 実験結果
の後に亜硝酸の回収を目的とした回収槽を設置し実 験を行った。回収槽には
6.86
標準緩衝液を10
倍希 釈したものを用いた。その結果を図-10 に示す。時 間変化に伴い回収槽の亜硝酸量は増加していること から亜硝酸が回収されていることがわかり、発生槽 と反応槽、回収槽の亜硝酸量と硝酸量を合わせたT-
Nもほぼ一定の値をとった。時間
(分)
吸光度
亜硝酸量(mg/L)
(発生槽)
硝酸量(mg/L)
(発生槽)
亜硝酸量(mg/L)
(反応槽)
硝酸量(mg/L)
(反応槽)
T-N
(mg/L)
0 1.936 90.963 0.464 0.255 0.106 91.8
45 1.931 84.233 2.872 0.949 0.05 88.1
90 1.909 80.257 5.161 3.777 0.041 89.2
135 1.746 74.092 8.157 7.845 0.037 90.1
180 1.281 69.589 10.833 10.081 0.087 90.6
1530 0.209 4.177 23.269 4.481 4.749 36.7
1575 0.208 3.577 24.09 3.588 4.832 36.1
1620 0.19 3.366 24.174 4.137 4.68 36.4
1665 0.188 3.333 23.922 3.818 4.811 35.9
1710 0.186 3.515 24.334 4.807 5.022 37.7
図-7 遊離状の亜硝酸による脱色の様子 0
0.5 1 1.5 2 2.5
0 100 200 300 400 500
時間(分)
吸光度
図-8 亜硝酸量と硝酸量の変化 0
10 20 30 40 50 60 70 80 90 100
0 100 200 300 400 500
時間(分)
mg/L
亜硝酸量(反応槽) 硝酸量(反応槽)
亜硝酸量(発生槽) 硝酸量(発生槽)
T-N
図-9 pHの変化と亜硝酸量の関係 2
2.5 3 3.5 4 4.5 5 5.5 6
0 100 200 300 400 500
時間(分)
pH
0 2 4 6 8 10 12 14 16
mg/L
pH 亜硝酸量
図-10 各槽の亜硝酸量と硝酸量の変化
0 20 40 60 80 100 120
0 200 400 600 800 1000 1200 1400 1600 1800
時間(分)
mg/L
亜硝酸(発生槽) 硝酸(発生槽) 亜硝酸(反応槽)
硝酸(反応槽) 亜硝酸(回収槽) 硝酸(回収槽)
T-N
3.4.実験結果(その他の染料)
OrangeⅠの結果を踏まえて、その他の様々な染料
に対して、同様の実験を行った。実験時間は各染料 によって異なる。使用した染料の特徴を表-2に、実 験結果を表-3に示す。落ち方にばらつきがあるもの の、ほとんどのアゾ染料に対しては脱色効果があり、pH
や亜硝酸、硝酸の関係性もOrangeⅠの場合と同
様 の 結 果 に な っ た 。 落 ち 方 が 顕 著 で な か っ たDisperse Orange
やOrangeⅡに対しては亜硝酸量
を増やした実験を行った。亜硝酸量を増やした場合 の270
分後の除去率を表-4に示す。亜硝酸量を増や すと除去率が上がったことから、これらの物質も亜 硝酸によって除去ができることがわかった。また、Mordant Orange
については亜硝酸を加えることに よって、pH が下がり粒子状の物質が現れたので、それを濾過した結果、最終的に表-3の濾過後のよう
な除去率となった。なお、アゾ基を持たない染料で ある
Methylene blue
に対しても同様の実験を行っ たが、効果は全く見られなかった。表-2 染料の特徴
染料名 Metanil Yellow Methyl Orange Disperse Orange
構造式
染料名 OrangeⅡ Mordant Orange Methylene blue
構造式
表-3 染料単体での実験結果(%)
染料名 Metanil Yellow Methyl Orange Disperse Orange 除去率(90 分)
73.67 2.86 2.12
除去率(180 分)
89.10 56.20 3.94
除去率(270 分)
89.36 72.51 8.48
染料名 OrangeⅡ Mordant Orange Methylene blue 除去率(90 分)
0.44 0.14 0.00
除去率(180 分)
1.22 0.16 0.00
除去率(270 分)
2.62 70.23(濾過後) 0.00
表-4 亜硝酸量を変化させた時の除去率(%) 亜硝酸 Na 量(g)
Disperse Orange (%) OrangeⅡ (%)
1 8.48 2.62
2 22.80 11.39
3 27.08 16.22
4 32.53 18.71
5 32.60 20.69
4.脱色現象後に pH
を中性域に戻す実験4.1.実験方法
前述の実験では脱色現象が完了した時の人工排水 の
pH
が酸性域の状態なので、これを中性域に戻し 人工排水にどのような影響を与えるかを調べる。人工着色排水には純水4Lに
OrangeⅠを 0.1g溶
解させたものを使った。実験装置は図-6 のものを用 いて、回文実験を行った。測定項目は3.1
と同様で、実験時間は
1350
分として、その間、0分、15 分、30
分、45分、90分、135分、180分、225分、270分、315分、360分、415分、450分、900分、1350 分の計
15
回試料を採取し、水質分析を行った。尚、270
分採水後に反応槽のpH
を制御し7.0
に戻す。4.2.実験結果
実験結果を図-11に示す。
pH
を中性域に戻した途 端に吸光度の上昇が見られた。しかし、その後上昇 は止まりゆるやかに減少していった。270 分後の除 去率が85.06%なのに対して、1350
分後の除去率が82.81%ということから、それほど影響はないと考え
られる。図-11 pHを中性に戻した場合の吸光度の様子 0
0.5 1 1.5 2 2.5
0 200 400 600 800 1000 1200 1400 時間(分)
吸光度
5.結論
亜硝酸にはアゾ染料の発色官能基と反応する能力 があると推測される。特に酸性域において、この現 象が顕著に見られたため、遊離状の亜硝酸が関わっ ている可能性が高く、物質収支の観点から亜硝酸は 触媒として反応しているのではないかと考えられる。
また、染料によって吸光度低下に違いが見られた。
これは亜硝酸とアゾ基の反応方法が、各染料の構造 により違うためだと考えられる。
この方法の実用化に当たっては、補助的な脱色法 として、費用がかかるオゾン処理などと組み合わせ て行えば、オゾン単独での処理に比べてコストが安 く済むのではないかと考えられる。また、亜硝酸回 収槽も実用化可能な技術であると考えられるが、こ れに関してはさらなる検討が必要である。
参考文献
1) 杉光英俊,オゾンの基礎と応用,光琳,1996.