井 原 健 雄 先 生 を 送 る
経 済 学 部 長
井 原 理 代
井原健雄先生は,平成 15 (2003)年3月31日をもって定年のため香川大学 を退官されました。先生は,昭和 40 (1965)年4月に香川大学経済学部の助 手になられて以来, 38年間の長きにわたり,地域科学ならびに経済政策の教 育と研究に携わられ,在職中の多大なご功績により本年4月に香川大学名誉教 授の称号を授与されました。
先生は,この記念号の巻末の年譜の示すように,台湾で昭和 15(1940)年2 月に井原仲次・歳夫妻のご長男として誕生されました。ご生家はご両親とも教 師という教育一家で,ご尊父の勤務校のため台湾で生まれたとのことですが,
その地は敗戦時も含み常に温かかったという幼き日々は,国際派といわれる先 生に大きく影響したのかもしれません。また,台湾から船床一枚の下は荒波と いう中で帰国後,高松埠頭から初めてみた高松の地は一面焼け野原だったとい う驚愕の思い出は,先生が地域科学を研究され地域経済の振興をテーマに取り 組まれたことと無縁でないのかもしれません。その焦土となった高松の復興と ともに,香川郡川岡村立川岡小学校・香川大学教育学部附属高松小学校・同中 学校を経て,香川県立高松高等学校で学ばれました。そのご卒業後,昭和 34
(1959)年4月に香川大学に入学,昭和38 (1963)年3月に卒業され,同年 4 月には京都大学大学院経済学研究科に進学されました。京都大学大学院修士課 程を昭和40 (1965)年3月に修了された後直ぐ学部時代の演習指導教官稲毛 満春助教授(昭和 39 (1964)年4月に名古屋大学教養学部に移籍)の後を継 ぐ形で本学部の助手になられ,昭和 41 (1966)年6月講師,昭和 43 (1968) 年7月助教授,昭和 55 (1980)年4月教授に昇任されました。
この長きにわたる経済学部在職中,先生は研究,教育,杜会・地域貢献,さ
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らに学内の管理運営のいずれについても渾身の力を注がれたといってよいよう に思われます。
なによりもまず,先生は常に真摯に研究に打ち込まれ,国内はもとより国際 的にも「香川大学に地域科学の井原あり」と評価される業績をあげられました。
本 年 1月29日に行われた最終講義のお話を思い返しますと,先生にとって地 域科学との出会いはあこがれた大学人としての生活が大学闘争の渦中に飲み込 まれたため自らの行く途に悩みをかかえた中で,昭和 46 (1971)年 海 外 研 修 の機会を得た,その留学先のペンシルヴェニア大学だったということですが,
アイサード教授を中心にした草創期の地域科学に魅了され,以来その研究に取 り組まれました。研究業績については,枚挙のいとまなく,著書・論文等を合 わせると 100篇を超え,資料・調壺と書評で約40篇,その他地元経済団体の 機関誌等への寄稿として 1980年以降で 150篇近くあり,平成 7年には,京都 大学から博士(経済学)の学位を授与されました。このような業績のすばらし さは,平成9 (1997)年『地域の経済分析』に基づき日本地域学会論文賞を受 賞され,また平成 10 (1998)年『瀬戸大橋と地域経済ー21世 紀 へ の 架 け 橋 の 軌跡と課題ー』(編著)に対し国際交通安全学会賞,さらに同年『道路投資の 社会経済評価』(共著)に対し日本交通安全学会賞が与えられたことが何より
の証左といえましょう。
先生のエネルギッシュな研究活動は,こうした著作だけでなく,国内外の学会 報告にも及んでいます。所属されている日本地域学会,応用地域学会,日本交 通学会, 日本経済学会,日本計画行政学会, 日本士木学会等で侮年のように報 告や討論者,座長等を務めるとともに,また毎年のように Regional Scienceの World CongressやNorthAmerican Meeting等の国際学会に出かけ,招待講演も 含め活躍されてきました。そのため,学会での要職も数多く,各学会での理事 や評議員,学会誌編集委員等はもとより,国際地域学会の日本代表理事,日本 地域学会副会長,応用地域学会副会長を歴任され,本年 4月からは応用地域学 会会長に就かれたところであります。
井 原 先 生 は こ の よ う に 精 力 的 な 研 究 を 続 け ら れ た と 同 時 に , や は り エ ネ ル
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ギッシュに教育に取り組まれました。先生は,恩師稲毛先生の後を引き継いで
「経済政策」の講義をずっと担当され,またご研究領域に基づき「計画経済論」
や「地域経済学」等本学部ならではの授業科目を開講されました。また先生を 慕ったゼミ生約 300名,そこから多くの優秀な大学人や研究員,国や地方の公 務員,経営者も含む企業人,議員等が輩出されています。とりわけ若い頃は,
ゼミが明け方まで及ぶことも珍しくなく,それがどんなにきびしく,かつ楽し いものであったかを定年退官の記念パーティに集まって下さった方々がいって
くれたと話された,先生のうれしそうな表情が印象深いことでした。
さらに,先生は香川大学ならびに経済学部の発展のために管理運常面でも多 大な力を尽くされました。おそらく学内のあらゆる委員を務められたといって 過言ではないと思われます。特に,平成 4 (1992)年から 2年間香川大学学生 部長として,その所掌任務とともに,思えば今日の大学改革の始まりと思われ る大学設置基準の大綱化による一般教育部の改編の激務に携われました。引き 続き平成 6 (1994)年から 2年間経済学部長として,その改編等から教育学部 および商業短期大学部所属の先生方に移籍いただき,本学部にとって第4の学 科 と な る 地 域 社 会 シ ス テ ム 学 科 設 置 を 果 た さ れ ま し た 。 そ の 後 も , 平 成 9
(1997)年 に は そ う し て 設 置 さ れ た 地 域 社 会 シ ス テ ム 学 科 長 を 務 め , 平 成 11 (1999)年 3月まで香川大学評議員の要職を担われたところです。
井原先生の地域社会における貢献は衆目の一致するところであります。それ は,平成 10 (1998)年四国新聞社文化賞受賞に端的に表れていますが,国,
県,市,経済団体等の地域経済や地域振興に関わる審議会や委員会は, 1980 年以降で 150件近くに上り,参加されたシンポジウム等は数えあげられないよ
うであります。
現下,国立大学制度の有史以来といわれる大改革の進行とともに,私どもは,
研究も教育も社会・地域貢献も求められる厳しいただなかで,それを体現され たかのような井原先生を本経済学部からお送りすることは無念の一言に尽きま す。しかし,先生には今後もエネルギッシュに各方面でご活躍され,経済学部 にとって良き示唆を下さるようお願い申し上げる次第です。