政令指定都市と都市ガバナンス : 「求心型ガバナ ンス」と「遠心型ガバナンス」 (椎名慎太郎教授コ ンスタンチン・サルキソフ教授退職記念号)
著者名(日) 外川 伸一, 安藤 克美
雑誌名 山梨学院大学法学論集
巻 67
ページ 53‑80
発行年 2011‑03‑30
URL http://id.nii.ac.jp/1188/00000399/
論
政
説令 指 定 都 市 と 都 市 ガ バ ナ ン ス
││
﹁求 心型 ガバ ナン ス﹂ と﹁ 遠心 型ガ バナ ンス
﹂│
│
外 川 伸 一 安 藤 克 美
目 次 一 はじ めに 二 考察 の基 本的 視点 三 国土 縮図 型政 令市 のガ バナ ンス 四 五大 市の ガバ ナン ス 五 若干 の課 題 六 おわ りに
一 はじ めに 平成
二一 年四 月の 新岡 山市 に続 き︑ 平成 二二 年四 月に 新相 模原 市が 政令 指定 都市
︵以 下︑ 政令 市と いう
︶の 仲間 入り を果 たし た︒ 人口 はと もに 七〇 万人 程度 であ り︑ 周辺 町村 との 合併 によ って 誕生 した
︒こ れで 政令 市は 当初 の 五都 市と 比べ 四倍 近く の一 九に なっ た︒ この 後に は二
〇番 目の 指定 に向 けて 熊本 市が 着々 と準 備を 進め てい ると い う︒ 昭和 三一 年に
﹁五 大市
﹂︵ 大阪
︑横 浜︑ 名古 屋︑ 京都
︑神 戸︶ が指 定さ れて 以降
︑昭 和三 八年 の﹁
﹃国 策合 併﹄ の﹃ 人工 物﹄ であ る﹂
︵金 井 二〇
〇七
:一 八一
︶北 九州 市の 指定 を契 機に 政令 市制 度は 徐々 に変 容し てき たが
︑ 平成 の大 合併 によ る新 静岡 市の 指定 によ って
︑こ の制 度は 決定 的と も言 える 変容 を遂 げた
︒な ぜな ら︑ これ 以降 の 政令 市は 必ず しも 大都 市と は言 えず
︑周 辺市 町村 との 広範 囲の 合併 によ って 区域 内に 過疎 地域 や農 林業 地域 を包 摂 した
﹁国 土の 縮図
﹂の 様相 を呈 して きた から であ る︵ 大西
二〇
〇七
︶︒ この こと によ って
︑政 令市 は同 列に は語 れな くな り︑ 当然
︑そ れら に求 めら れる ガバ ナン スに つい ても 異な った もの とな らざ るを 得な くな った と言 えよ う︒ 本稿 では
︑こ れか らの 政令 市の
﹁あ るべ き姿
﹂の 方向 性を 示す 中で
︑特 に国 土縮 図型 政令 市と
︑大 都市 とし て認 知さ れて いる 五大 市と いう 両極 に位 置す る二 つの 政令 市類 型を 取り 上げ
︑そ の目 指す べき 都市 ガバ ナン スの 方向 性 につ いて
︑中 長期 的視 点に 立ち 考察 する
︒ 当然 のこ とな がら
︑こ の二 つの 類型 の間 に︑ 地域 ブロ ック の中 核的 政令 市︵ 札幌
︑仙 台︑ 広島
︑福 岡︶ や東 京・
大阪 を母 都市 とす る大 都市 圏域 に包 含さ れる 政令 市︵ 前者 には 川崎
︑千 葉︑ さい たま が︑ 後者 には 堺が 含ま れる
︶ など が存 在す るが
︑そ れら の都 市ガ バナ ンス は︑ 本稿 で取 り上 げる 二類 型の ガバ ナン スを 基本 とし て︑ それ らを 折 衷し たも のに なる こと が容 易に 推測 され るこ とか ら︑ 本稿 では 敢え て取 り上 げな いこ とに する
︒ 二
考察 の基 本的 視点 本節
では
︑本 稿に おけ る基 本的 視点 を︑ 新藤
︵二
〇〇 二︶ など によ って 主張 され てき た制 度構 想と 結び つけ なが ら︑ 規範 的観 点か らさ らに 明確 に示 すこ とに した い︒
︵一
︶ 一国 多制 度の 導入
│団 体自 治の 強化 わが 国の 地方 自治 制度 は都 道府 県と 市町 村の 二層 制を とる
︒そ して
︑そ れら の制 度の 根幹 は基 本的 に同 一で あり
︑ 極め て﹁ 画一 的﹂ な制 度と なっ てい る︒ また
︑こ うし た画 一的 自治 制度 の内 容は 地方 自治 法を はじ めと する 自治 関 係諸 法に よっ て詳 細に 規定 され てい る︒ しか しな がら
︑自 治制 度を 微に 入り 細を 穿つ 形で 極め て厳 格に 統制 する こ とは
︑分 権の 思想 に違 背す るも ので あり
︑地 方自 治の 本旨 の両 輪の 一つ であ る団 体自 治の 脆弱 化に つな がる
︵神 野 一九 九九
︶︒ した がっ て︑ わが 国自 治制 度は
︑こ うし た行 き過 ぎた
﹁画 一性
﹂か ら一 刻も 早く 脱却 し︑ 各政 令市 に 制度 の﹁ 多様 性﹂ を保 障す る﹁ 制度 選択 型﹂ の一 国多 制度 を導 入し 真の 分権 型自 治へ の道 を歩 まな けれ ばな らな い︒ 山口
︵二
〇〇 二: 一三 五︶ が述 べる よう に﹁ 自治 のあ り方 につ いて 静態 的な ゴー ルを 設定 する ので はな く︑ 住民 の
意思 や地 域の 実情 に合 わせ て無 限の バリ エー ショ ンを 作り 出し てい くと いう のが
︑一 国多 制度 の考 え方 であ る︒ 集 権か ら分 権へ の単 線的 な発 展段 階を 設定 する ので はな く︑ 自治 の形 につ いて 多様 な進 化を 追求 する とこ ろに
︑一 国 多制 度と いう 理念 の特 長が ある
︒﹂ それ ぞれ の自 治体 の多 様性 を保 障す べき 分権 型社 会に おい て︑ 画一 性を 強い る こと 自体
︑分 権の 思想 にも とる 所業 と言 えよ う︒ 自ら の自 治体 の基 本設 計を いか に行 うか は︑ 基本 的に 自治 体の 自 治的 選択 の問 題で ある こと を肝 に銘 じる 必要 があ る︒ しか しな がら
︑自 治制 度に 多様 性を 賦与 する とい う問 題は
︑自 治体 の自 治的 選択 の問 題で はあ るが
︑自 治制 度が わが 国の
﹁か たち
﹂を 左右 する 以上
︑そ の基 本的 準則 を定 める こと は国 の専 管事 項と 言わ ざる を得 ない
︒そ の意 味 では 自治 制度 の多 様性 の追 求に も︑ ある 意味 での 内在 的制 約は 不可 避と 言わ ざる を得 ない
︵磯 部 一九 九九
:二 四︶
︒わ れわ れは 決し て﹁ 無秩 序﹂ で﹁ 混沌 とし た﹂ 自治 制度 を求 めて いる 訳で はな い︒ した がっ て︑ これ から も 自治 制度 の基 本的 準則 につ いて は︑ たと えば
﹁自 治基 本法
﹂の よう な形 で法 律に よっ て定 めら れる こと が好 まし い
︵木 佐 二〇
〇二
︶が
︑何 が国 の専 管事 項で ある かは 一義 的に 決ま って いる 訳で はな く︑ 時代 の要 請や 自治 体の 実 力︵ 政策 力︑ 財政 力等
︶な どに よっ て動 態的 に変 化す る︵ 磯部
一九 九九
:二 三︶ もの であ る以 上︑ 国は この こと に関 し基 本的 に抑 制的 態度 に徹 しな けれ ばな らな いと 考え る︒ なお
︑上 でも 述べ たよ うに 分権 型社 会の 実現 にと って いわ ば﹁ 必然
﹂と も言 える 一国 多制 度の 導入 につ いて
︑い たず らに 自治 制度 を複 雑に する との 考え で反 対す る向 きも ある が︑ それ なら 端か ら﹁ 画一 的﹂ 分権 とい った 論理 矛 盾を 追求 しよ うと でも 言う ので あろ うか
︒基 本的 準則 をで きる 限り 抑制 し︑ 自治 体が 多様 な制 度を 自治 的に 選択 す るこ とこ そ︑ まさ しく 分権 の思 想に 合致 する と言 えよ う︒
いず れに して も︑ 一国 多制 度の 導入 は︑ 政令 市の 団体 自治 の強 化に 繋が り︑ ひい ては 当然
︑住 民自 治の 拡充 へと 繋が るも ので ある
︒
︵二
︶ 特定 目的 の政 府の 創設
│住 民自 治の 拡充 一方
︑わ が国 にお いて は︑ 自治 体に 対し
﹁総 合性
﹂︑
﹁一 般性
﹂が 強く 求め られ てい る︒ 第一 次地 方分 権改 革に 伴 う地 方自 治法 の改 正で は︑ 自治 体は
﹁地 域に おけ る行 政を 自主 的か つ総 合的 に実 施す る役 割を 広く 担う もの
﹂と さ れた
︵第 一条 の二
︶︒ しか し︑ この 総合 性の 要請 は︑ いわ ば中 央集 権時 代の 残滓 であ る︵ 新藤
二〇
〇二
:四
︶︒ わ れわ れは
︑こ の後 にも 述べ るよ うに
︑そ うい う意 味で の従 来型 の総 合性 を自 治体 に求 める こと は放 棄し
︑新 しい 形 での ネッ トワ ーク 型の 総合 性の 確保 を主 張す るも ので ある が︑ その 前に
︑こ の総 合性 とは 何を 意味 する のか につ い て若 干考 察を 加え てお く必 要が あろ う︒ 大森
︵二
〇〇 八: 九八
︶は
︑先 の自 治法 の規 定に つい て厳 格に 解釈 する 立場 をと らな い︒ つま り︑ 自治 体が その 行政 を総 合的 に実 施す ると は︑
﹁﹃ 国や 都道 府県 の縦 割り 行政 と比 較し て﹄ とい う程 度の 意味 であ り︑ 総合 行政 とは 公選
・独 任の 首長 の下 で施 策の 総合 化を 図り なが ら法 律に 違反 しな い限 り市 町村 は何 でも でき ると いう 意味 であ る﹂ と︑ 国の 各省 庁の 割拠 制に 対置 した 形で 総合 性を 捉え てい るに 過ぎ ない
︒ま た︑ 松本
︵二
〇〇 七: 一二
︶は
︑ 自治 法の
﹁総 合的
﹂と は︑
﹁関 連す る行 政の 間の 調和 と調 整を 確保 する とい う総 合性
﹂と
﹁特 定の 行政 にお ける 企 画・ 立案
︑選 択︑ 調整
︑管 理・ 執行 など を一 貫し て行 うと いう 総合 性﹂ を合 わせ たも ので ある とす る︒ この 解釈 は 総合 性に 二通 りの 意味 を賦 与し ては いる が︑ 極め て当 然の こと を言 って いる に過 ぎな いと 言え よう
︒
これ に対 し稲 葉︵ 二〇
〇三
:三 五︶ は︑ 総合 性に は次 の四 つの 意味 があ ると する
︒す なわ ち︑ 縦割 り行 政を 排す る行 政の
︿一 体性
﹀︑ 企画
・立 案か ら執 行ま での 行政 の︿ 一貫 性﹀
︑住 民福 祉の 増進 にか かわ る事 務事 業の
︿包 括 性﹀
=︿ 網羅 性﹀
︑そ して 以上 を具 現化 し得 る自 治権 能の
︿包 括性
﹀で ある
︒こ れら は相 互に 重な り合 う部 分も な いと は言 えな いが
︑大 森や 松本 の場 合よ り総 合性 を厳 格に 解釈 する 立場 と言 えよ う︒ また
︑金 井︵ 二〇
〇七
:一 四︶ は︑
﹁﹃ 総合
﹄と は︑ 自治 制度 にお ける
﹃融 合﹄ と﹃ 統合
﹄を 包括 した 概念 であ り︑ 自治 制度 改革 は︑
﹃総 合性
﹄ とい う傾 向性 に拘 束さ れて いる
﹂と の解 釈を 示し てい る︒ 総合 性が
﹁融 合﹂ と﹁ 統合
﹂を 包括 した 概念 であ ると な ると
︑こ の総 合性 はも う一 方の
﹁自 主性
﹂と 鋭く 対立 する こと にな る︵ 金井
二〇
〇七
:四
〇│ 四一
︶︒ そう いう 意味 では
︑従 来型 の総 合性 の追 求は 分権 の思 想に 違背 する 側面 を有 する
︒こ うし た解 釈は
︑総 合性 の概 念を 中央 地 方の 政府 間関 係︑ ある いは 両者 にま たが る統 治構 造の 観点 から 解釈 し直 した もの と言 えよ う︒ しか しな がら
︑第 一次 分権 改革 によ って
︑わ が国 自治 体の 総合 性の
﹁程 度﹂ はい くぶ ん高 まっ たと は言 え︑ 厳密 に言 うと 自治 体は 端か ら従 来型 の総 合性 など 有し ては いな いこ とに 留意 する 必要 があ る︒ なぜ なら
︑第 一に
︑﹁ 集 権﹂
・﹁ 分権
﹂と いっ た観 点か らは
︑国 には 未だ に自 治体 に移 譲す べき 多く の権 限が 残さ れた まま であ ると いう こと
︑ 第二 に︑
﹁融 合﹂
・﹁ 分離
﹂の 観点 から は︑ 同一 政策 分野 にお いて
︑自 治体 が自 ら行 使で きる にも 拘わ らず
︑国 に権 限が 留保 され てい る事 務事 業が 相当 数に のぼ るこ と︑ 第三 に︑
﹁分 立﹂
・﹁ 統合
﹂と いう 観点 から も︑ 国の 縦割 り行 政の 中で
︑本 来国 固有 の権 限だ と主 張さ れ︑ 自治 体に 全く 移譲 され てい ない 政策 領域 につ いて も地 域と 密接 に関 わ る領 域が ある にも 拘わ らず
︑こ れに つい ては
︑そ もそ も自 治体 の事 務と 見な され てい ない こと
︑第 四に
︑自 治体 に は基 礎自 治体 と広 域自 治体 があ るの であ り︑ 同一 政策 領域 にお ける 事務 がこ れら の間 で﹁ 分有
﹂さ れて いる とい っ