ハンドル体結び目の順序と
多変数 Alexander イデアルに関する注意
榎本 理沙 ( 東京女子大学大学院理学研究科 )
∗概 要
新國
-
小澤-
鈴木正明により,
ハンドル体結び目の前順序が導入され,
種数2
の6
交点以下のハンドル体結び目について研究が進められている[12], [11].
本 稿では,
この前順序に関し,
自明なハンドル体結び目以上でないことが多変数
Alexander
イデアルにより判定できるような,
種数2
のハンドル体結び目の例を紹介する
.
1. ハンドル体結び目の前順序
3 次元球面 S
3に埋め込まれた種数 g のハンドル体を , 種数 g のハンドル体結び目という . ハンドル体結び目 H
1と H
2が 同型 であるとは , S
3から S
3への向きを保存する同相写像 h が存在して, h(H
1) = H
2となるときをいう. このとき H
1∼ = H
2と表す. ハンドル体 結び目が自明であるとは , S
3に標準的に埋め込まれたハンドル体に同型であるときを いう . 一方 , S
3に埋め込まれたグラフを空間グラフといい , 2 つの空間グラフ G
1, G
2が
近傍同値であるとは,それらの S
3における正則近傍をそれぞれ N (G
1), N(G
2) とおくと き , S
3から S
3への向きを保存する同相写像 h が存在して h(N (G
1)) = N (G
2) となると きをいう . 種数 g のハンドル体結び目の同型類と , 1 次元 Betti 数が g の連結な空間グラ フの近傍同値類とは, 1 対 1 に対応する. 従って, ハンドル体結び目を分類するには, 連 結な空間グラフの近傍同値類を分類すればよい . このことから , 以下ではハンドル体結 び目を全て空間グラフで表す .
種数 g のハンドル体結び目 H の補空間の基本群 π
1( S
3− H) を H のハンドル体結び目
群といい, G(H) で表す . G(H) はハンドル体結び目の代表的な不変量であり , H に対応 する空間グラフの図式から , 通常の結び目群の場合とほぼ同様に生成元と関係式を読み 取ることで, 有限表示
G(H) ∼ = ⟨ x
1, x
2, . . . , x
n| r
1, r
2, . . . , r
m⟩ (1.1) を持ち, ここで m = n − g と取れる [7]. これを G(H) の Wirtinger
表示という.例
1.1. 4
1と呼ばれる種数 2 のハンドル体結び目を考える ( 図 1.1). 各弧に対して生成 元を対応させ , 各交差点と頂点の周りで関係子をとることで , G(4
1) の表示
G(4
1) ∼ =
⟨
x
1, x
2, y
1, y
2, z
1, z
2, z
3x
1x
−21z
1, z
3x
2z
3−1x
−11, x
1z
3x
−11z
2−1z
2y
2z
−21y
1−1, y
2z
2y
−21z
−11⟩
が得られる . ここで通常の結び目群と同様に関係子を 1 つ取り除いてあるので注意 . こ
れを Tietze 変換でまとめると,
G(4
1) ∼ = ⟨
x
1, y
2, z
3| y
2x
1z
3x
−11y
−21x
1z
3−1x
−11z
3⟩
(1.2)
となる.
1
2
x
x z
z z
y
y
1 2
1 2
3
1
2
図 1.1: 種数 2 のハンドル体結び目 4
1次に , ハンドル体結び目の同型類における順序を定義する . 種数 g のハンドル体結び 目 H
1, H
2に対し , 関係 H
1≥ H
2を , G(H
1) から G(H
2) への全射準同型が存在すること で定義する. このとき, 次が成り立つ.
命題
1.2. 種数 g のハンドル体結び目の同型類の集合において , 関係 ≤ は前順序になる . 即ち, H, H
1, H
2, H
3を種数 g のハンドル体結び目とするとき, 以下をみたす:
( 1 ) H ≥ H,
( 2 ) H
1≥ H
2かつ H
2≥ H
3ならば , H
1≥ H
3.
更に , 種数 g のハンドル体結び目 H
1, H
2に対して , 一般に
H
1≥ H
2かつ H
2≥ H
1ならば G(H
1) ∼ = G(H
2) (1.3) が成り立つ. 特に種数 1 の場合, 素な結び目については Gordon-Luecke の定理 [1] から H
1∼ = H
2となってこの前順序 ≥ は半順序となり , この半順序は交点数 11 以下の素な結 び目については完全にわかっている [8], [9], [3]. 一方 , 種数 2 のハンドル体結び目につ いて, 交点数 6 以下の既約なハンドル体結び目の同型類が完全に分類されており ([4], 同 型類は全部で 21 個 ), その集合における前順序 ≥ の研究が新國 - 小澤 - 鈴木により進めら
れている [12], [11]. ここでハンドル体結び目 H が可約であるとは , S
3内の 2 次元球面
S が存在して, H ∩ S が H に適切に埋め込まれた本質的 2 次元円板となるときをいい,
既約であるとは, 可約でないときをいう . この同型類の集合には G(H
1) ∼ = G(H
2) だが H
1̸∼ = H
2であるような組が 3 つあり [5], [10], 従ってこの前順序 ≤ は , 種数 2 のハンドル 体結び目の同型類の集合において半順序とはならない.
例
1.3. 4
1のハンドル体結び目群の表示を (1.2) で得た . 一方 , 種数 2 の自明なハンドル 体結び目 0
1において, G(0
1) の表示は G(0
1) ∼ = ⟨ s, t | ∅⟩ である. そこで対応 ψ : G(4
1) → G(0
1) を ψ(x
1) = s, ψ(y
2) = t, ψ(z
3) = 1 で定義すると , この ψ は全射準同型である . 従って 4
1≥ 0
1となる .
2. ハンドル体結び目の Alexander 不変量
H
1̸≥ H
2, 即ち G(H
1) から G(H
2) への全射準同型が存在しないことを示す際に有効な のが, Alexander 不変量である. いま, H を種数 g のハンドル体結び目とし, そのハンド
∗東京都杉並区善福寺
2-6-1
e-mail: [email protected]
ル体結び目群 G(H) は (1.1) の Wirtinger 表示を持つとする . F
n= ⟨ x
1, x
2, . . . , x
n| ∅⟩
を階数 n の自由群とし, φ : F
n→ G(H) を自然な全射準同型写像とする. また, C を 可換群とし , ψ : G(H) → C を準同型写像とする . これらの準同型を群環の準同型
˜
φ : Z F
n→ Z G(H), ˜ ψ : Z G(H) → Z C に拡張しておく . そこで Z F
nの元 ∂r
i/∂x
jを , r
iの x
jにおける自由微分とし, ˜ ψ ◦ φ ˜ (∂r
i/∂x
j) を (i, j) 成分に持ち, 第 (m + 1) 行以下は全 て零行ベクトルであるような ∞ × n 行列を A(G(H), ψ) ˜ で表して , ψ に関する G(H) の Alexander
行列という. このとき , Z C のイデアル E
d(
A(G(H), ψ) ˜ ) を
E
d(
A(G(H), ψ) ˜ )
=
(0) (d < n − m)
( A (
G(H), ψ ˜ )
の (n − d) 次 小行列式全体
)
(n − m ≤ d < n)
(1) (d ≥ n)
で定義し , ψ に関する G(H) の d
番Alexander
イデアルという.
実用上は , 以下のように , 結び目の Alexander 多項式 , 絡み目の多変数 Alexander 多 項式の直接の一般化という観点から, C として G(H) のアーベル化と同型な自由アー ベル群や , 無限巡回群を考えることが標準的に行われる . H を種数 g のハンドル体結 び目とし , ℓ
1, ℓ
2, . . . , ℓ
gを H
1(H; Z ) の自由基底とする . H の整係数 1 次元ホモロジー類 ℓ = ∑
gi=1
c
il
iに対し , 準同型
ψ
ℓ′: G(H) −→ ⟨ t
1, t
2, . . . , t
g| [t
i, t
j] (1 ≤ i < j ≤ g ) ⟩ を, x ∈ G(H) に対し
ψ
′ℓ(x) =
∏
g i=1t
ciilk(α(x),ℓi)(2.1)
で定義する . ここで α : G(H) → H
1( S
3− H; Z ) はアーベル化写像 , lk(α(x), ℓ
i) は α(x) と ℓ
iの絡み数を表す. 自然な準同型
ξ : ⟨ t
1, t
2, . . . , t
g| [t
i, t
j] (1 ≤ i < j ≤ g) ⟩ −→ ⟨ t | ∅⟩ , t
i7→ t と ψ
ℓ′の合成写像を ψ
ℓとすると,
ψ
ℓ(x) = ξ ◦ ψ
ℓ′(x) = ξ ( ∏
gi=1
t
ciilk(α(x),ℓi))
= t
∑gi=1cilk(α(x),ℓi)= t
lk(
α(x),∑g i=1ciℓi
)
= t
lk(α(x),ℓ)となる. このとき, A(G(H), ψ ˜
ℓ′) の d 番初等イデアル E
d(
A(G(H), ψ ˜
′ℓ) )
を, H の ψ
ℓ′に関する多変数 d
番Alexander
イデアルといい, A(G(H), ψ ˜
ℓ) の d 番初等イデアル E
d( A(G(H), ψ ˜
ℓ) )
を , H の ψ
ℓに関する 1
変数d
番Alexander
イデアルという. H の全 ての整係数 1 次元ホモロジー類 ℓ に関する Alexander イデアルの族 {
E
d(
A(G(H), ψ ˜
′ℓ) )}
, 及び {
E
d(
A(G(H), ψ ˜
ℓ))}
は , ハンドル体結び目 H の不変量である .
例
2.1. 種数 2 のハンドル体結び目 4
1に対し , G(4
1) の表示として (1.2) を取り , また , 図 1.1 の左図のようにループ ℓ
1, ℓ
2をとる. ℓ = c
1ℓ
1+ c
2ℓ
2∈ H
1(4
1; Z ) に対し, 準同型 ψ
ℓ′: G(4
1) → ⟨ t
1, t
2| [t
1, t
2] ⟩ は , G(4
1) の元 x に対し ψ
′ℓ(x) = t
c11lk(α(x),ℓ1)t
c22lk(α(x),ℓ2)で定 義され , このとき各生成元の像は ψ
ℓ′(x
1) = t
c11, ψ
ℓ′(y
2) = t
c22, ψ
′ℓ(z
3) = 1 となる . いま , r = y
2x
1z
3x
−11y
2−1x
1z
3−1x
−11z
3として x
1, y
2, z
3で自由微分すると,
∂r
∂x
1= y
2− y
2x
1z
3x
−11+ y
2x
1z
3x
−11y
2−1− z
−31,
∂r
∂y
2= 1 − y
2x
1z
3x
−11y
2−1,
∂r
∂z
3= y
2x
1− y
2x
1z
3x
−11y
2−1x
1z
3−1+ z
3−1となる . これらを ψ ˜
ℓ◦ φ ˜ で写すと
ψ ˜
ℓ′◦ φ ˜ ( ∂r
∂x
1)
= 0, ψ ˜
ℓ′◦ φ ˜ ( ∂r
∂y
2)
= 0, ψ ˜
ℓ′◦ φ ˜ ( ∂r
∂z
3)
= t
c11t
c22− t
c11+ 1 となるので , G(4
1) の ψ
ℓ′に関する Alexander 行列は
A (
G(4
1), ψ ˜
ℓ′)
= (
0 0 1 − t
c11+ t
c11t
c22) となる . 従って 4
1の ψ
ℓ′に関する 2 変数 d 番 Alexander イデアルは
E
d(
A(G(4
1), ψ ˜
′ℓ) )
=
(0) (d ≤ 1)
( 1 − t
c11+ t
c11t
c22)
(d = 2)
(1) (d ≥ 3)
となる . 特に t
1= t
2= t として , 4
1の ψ
ℓに関する 1 変数 d 番 Alexander イデアルは
E
d(
A(G(4
1), ψ ˜
ℓ) )
=
(0) (d ≤ 1)
( 1 − t
c1+ t
c1+c2)
(d = 2)
(1) (d ≥ 3)
(2.2)
となる . 一方 , 種数 2 の自明なハンドル体結び目 0
1のハンドル体結び目群は階数 2 の自 由群なので , 任意の準同型 ψ : G(0
1) → ⟨ t | ∅⟩ に関する Alexander 行列は ∞ 行 2 列の 零行列である . 従って任意の準同型 ψ
ℓ′及び ψ
ℓに対し
E
2(
A(G(0
1), ψ ˜
′ℓ) )
= (1), E
2(
A(G(0
1), ψ ˜
ℓ) )
= (1) (2.3)
となる. (2.2), (2.3) から, 4
1は非自明なハンドル体結び目であることがわかる.
例
2.2. 5
3と呼ばれる種数 2 のハンドル体結び目を考える ( 図 2.1). これは樹下の θ
曲線と呼ばれる空間グラフに対応するハンドル体結び目である. G(5
3) の Wirtinger 表示は
G(5
3) = ⟨
x
2, y
2, z
1| z
1y
2−1z
−11y
2x
−21y
−21x
2z
−11x
−21⟩
と取れる. また, 図 2.1 の左図のようにループ ℓ
1, ℓ
2をとる. ℓ = d
1ℓ
1+d
2ℓ
2∈ H
1(5
3; Z ) に
対し , 準同型 ψ
ℓ′: G(5
3) → ⟨ t
1, t
2| [t
1, t
2] ⟩ による各生成元の像は ψ
ℓ′(x
2) = t
d11, ψ
ℓ′(y
2) =
t
d22, ψ
ℓ′(z
1) = t
−1d1t
−2d2となる . そこで 5
3の ψ
ℓ′に関する 2 変数 d 番 Alexander イデアル を求めると ,
E
d(
A(G(5
3), ψ ˜
ℓ′) )
=
(0) (d ≤ 1)
( 1 − t
d22+ t
d11t
d22, 2 )
(d = 2)
(1) (d ≥ 3)
となる. 特に t
1= t
2= t として, 5
3の ψ
ℓに関する 1 変数 d 番 Alexander イデアルは
E
d(
A(G(5
3), ψ ˜
ℓ) )
=
(0) (d ≤ 1)
( 1 − t
d2+ t
d1+d2, 2 )
(d = 2)
(1) (d ≥ 3)
(2.4)
となる . 例えば d
1= d
2= 1 のとき , (
1 − t + t
2, 2 )
は非単項イデアルなので , (2.3) と合 わせて 5
3は非自明なハンドル体結び目であり , また (2.2) と合わせて , 4
1と 5
3は互いに 同型でない .
1 2
z
x y
1x
y z x y
1
1 3
2 2 3 2
図 2.1: 種数 2 のハンドル体結び目 5
3ハンドル体結び目の前順序と Alexander イデアルとの間には , 次のような関係があ る . ここで命題 2.3 は , 結び目 K
1, K
2に対して K
1≥ K
2ならば , K
2の Alexander 多項
式が K
1の Alexander 多項式を割り切るという事実の一般化になっている.
命題
2.3. ([7]) H
1, H
2を種数 g のハンドル体結び目とし, σ : G(H
1) → G(H
2) を全射準 同型とする . C を可換群とし , ψ
i: G(H
i) → C (i = 1, 2) を ψ
1= ψ
2◦ σ をみたす準同型 とする . このとき , 任意の d ≥ 0 に対し
E
d(
A(G(H
1), ψ ˜
1) )
⊂ E
d(
A(G(H
2), ψ ˜
2) ) が成り立つ .
ここから次の系が得られる.
系
2.4. H
1, H
2を種数 g のハンドル体結び目とし, C を可換群とする. このとき, ある準 同型 ψ
2: G(H
2) → C が存在して , ある d ≥ 0 について
E
d(
A(G(H
1), ψ ˜
1) )
̸⊂ E
d(
A(G(H
2), ψ ˜
2) )
が任意の準同型 ψ
1: G(H
1) → C について成り立つならば, G(H
1) から G(H
2) への全射
準同型は存在しない .
特に C = ⟨ t | ∅⟩ のとき , ハンドル体結び目 H において , 任意の準同型 ψ : G(H) →
⟨ t | ∅⟩ に対し, H の整係数 1 次元ホモロジー類 ℓ ∈ H
1(H; Z ) が存在して, ψ = ψ
ℓとなる ことが知られている . 従って全ての ℓ ∈ H
1(H; Z ) について ψ
ℓを集めれば , 全ての準同 型 ψ : G(H) → ⟨ t | ∅⟩ を尽くすことになる .
例
2.5. 例 2.1 で得た 4
1の 1 変数 2 番 Alexander イデアル E
2(
A(G(4
1), ψ ˜
ℓ) )
= (
1 − t
c1+ t
c1+c2)
について, 特に c
1= 1, c
2= − 1 のとき, (2 − t) となる. 一方, 5
3の 1 変数 2 番 Alexander イデアルは , 例 2.2 で求めたように E
2(
A(G(5
3), ψ ˜
ℓ) )
= (2, 1 − t
d2+ t
d1+d2) であり , これがもし (2 − t) に含まれるならば , ある整係数 Laurent 多項式 f(t) が存在し て, 2 = f (t)(2 − t) となる. しかし, t = 2 とすると 2 = 0 となり矛盾が生じる. 従って, 任意の準同型 ψ
1: G(5
3) → ⟨ t | ∅⟩ に対し E
2(
A(G(5
3), ψ ˜
1) )
̸⊂ (2 − t) となるので , 系 2.4 によって , G(5
3) から G(4
1) への全射準同型は存在しない . 即ち , 5
3̸≥ 4
1である .
種数 2 のハンドル体結び目について , [12], [11] では , 交点数 6 以下の既約なハンドル 体結び目の同型類の集合における前順序が, 1 変数の (ねじれ) Alexander イデアル, 及 びハンドル体結び目群の有限群への準同型写像の個数を用いて調べられた . そこでは , C = ⟨ t
1, t
2| [t
1, t
2] ⟩ の場合 , 即ち 2 変数の Alexander イデアルが本質的な役割を果たし た例はないようである. そこで次の問題を考えた.
問題
2.6. 種数 2 のハンドル体結び目の組 (H
1, H
2) で, H
1̸≥ H
2であることを 1 変数
Alexander イデアルでは判定できないが , 2 変数 Alexander イデアルで判定できるもの
があるか ?
今回の研究では , H ≥ 0
1なる種数 2 のハンドル体結び目の組 (0
1, H ) で , 0
1̸≥ H であ
ることを 1 変数 Alexander イデアルでは判定できないが, 2 変数 Alexander イデアルで
判定できるものが無限個存在することがわかったので , 1 つの注意として報告する .
3. 主結果
今回 , 種数 2 のハンドル体結び目について , 以下の結果を得た .
定理3.1. ∆(t
1, t
2) を , Z × Z のある有限部分集合 Z に対し
∆(t
1, t
2) = 1 + (t
1− t
2) ∑
(a,b)∈Z
m
a,b(t
a1t
b2− t
−1a−1t
−2b−1) (m
a,b∈ Z )
という形で表される整係数 Laurent 多項式とする. このとき, ある種数 2 のハンドル体 結び目 H が存在して , 以下の (1), (2), (3) を全てみたす :
( 1 ) 任意の準同型 ψ : G(H) → ⟨ t | ∅⟩ に対し , E
2( A(G(H), ψ) ˜ )
= (1), ( 2 ) ある準同型 ψ
′: G(H) → ⟨ t
1, t
2| [t
1, t
2] ⟩ に対し , E
2(
A(G(H), ψ ˜
′) )
= (
∆(t
1, t
2) ) , ( 3 ) G(H) から G(0
1) への全射準同型が存在する .
証明は以下の流れで得られる . まず , g 成分境界絡み目の多変数 g 番 Alexander イデ アルについて , Guti´ errez による次の結果が知られている .
定理
3.2. (Guti´ errez [2]) ∆(t
1, t
2, . . . , t
g) を , 整係数 g 変数 Laurent 多項式で以下の条件 :
∆(t
1, t
2, . . . , t
g) = ∆(t
−11, t
−21, . . . , t
−g1), (3.1)
∆(1, 1, . . . , 1) = 1 (3.2)
をみたすものとする . このとき , ある g 成分境界絡み目 L が存在して , そのアーベル化
写像 (に対応する準同型)
α : G(L) → ⟨ t
1, t
2, . . . , t
g| [t
i, t
j] (1 ≤ i < j ≤ g) ⟩ に関する g 番 Alexander イデアル E
g(
A(G(L), α) ˜ )
は , ∆(t
1, t
2, . . . , t
g) で生成される単 項イデアルである.
定理 3.2 を踏まえて , 鈴木晋一は次を示した .
定理
3.3. ( 鈴木 [14]) ∆(t
1, t
2, . . . , t
g) を整係数 g 変数 Laurent 多項式で条件 (3.1), (3.2) をみたすものとする . このとき , ある種数 g のハンドル体結び目 H が存在して , H の ψ
ℓ′に関する g 番多変数 Alexander イデアル E
g(
A(G(H), ψ ˜
ℓ′) )
は , ∆(t
1, t
2, . . . , t
g) で生成さ れる単項イデアルである . ここで
ψ
ℓ′: G(H) −→ ⟨ t
1, t
2, . . . , t
g| [t
i, t
j] (1 ≤ i < j ≤ g ) ⟩ は , (2.1) において ℓ = ∑
gi
ℓ
i, 即ち c
i= 1 (i = 1, 2, . . . , g) として得られる準同型である ( この ℓ を H の 1 次元基本サイクルと呼ぶ ).
定理 3.3 のハンドル体結び目 H は , 定理 3.2 の境界絡み目 L = K
1∪ K
2∪ · · · ∪ K
g, 及 び K
1, K
2, . . . , K
gの互いに交わらない Seifert 曲面 S
1, S
2, . . . , S
gに対し , 各 S
iの内部と 交わらない g − 1 本の弧の非交和 e
1, e
2, . . . , e
g−1で, K
1, K
2, . . . , K
gを然るべく繋いでで きる空間グラフの正則近傍として得られるものである .
整係数 Laurent 多項式 ∆(t
1, t
2, . . . , t
g) が条件 (3.1) 及び
∆(t, t, . . . , t) = 1 (3.3)
をみたせば , 自動的に (3.2) もみたすので , 定理 3.3 から , 種数 g のハンドル体結び目 H が存在して , H の ψ
′ℓに関する多変数 g 番 Alexander イデアル E
g( A(G(H), ψ ˜
ℓ′) ) は ,
∆(t
1, t
2, . . . , t
g) で生成される単項イデアルである . 更に (3.3) から , H の ψ
ℓに関する 1 変数 g 番 Alexander イデアル E
g(
A(G(H), ψ ˜
ℓ) )
は (1) となる . そこで特に g = 2 の場合 , 条件 (3.1), (3.3) をみたす 2 変数整係数 Laurent 多項式 ∆(t
1, t
2) は , 以下のように特徴 付けられる .
定理
3.4. 整係数 Laurent 多項式 ∆(t
1, t
2) に対して, 以下の (1), (2) は互いに必要十分 条件である .
( 1 ) ∆(t, t) = 1 かつ ∆(t
1, t
2) = ∆(t
−11, t
−21).
( 2 ) Z × Z のある有限部分集合 Z が存在して ,
∆(t
1, t
2) = 1 + (t
1− t
2) ∑
(a,b)∈Z
m
a,b(t
a1t
b2− t
−1a−1t
−2b−1) (m
a,b∈ Z ).
一方 , g 成分絡み目の結び目群から階数 g の自由群への準同型について , Smythe によ る以下の結果が知られている .
定理
3.5. (Smythe [13]) L を g 成分有向絡み目とする. もし L が境界絡み目ならば, L
の結び目群 G(L) から階数 g の自由群 F
gへの全射準同型が存在する .
定理 3.3 のハンドル体結び目 H において , H のハンドル体結び目群 G(H) から G(L) への自然な全射準同型が存在し, 更に定理 3.5 により, L の結び目群 G(L) から F
gへの 全射準同型が存在する . これらを合成して , G(H) から自明なハンドル体結び目 H
0のハ ンドル体結び目群 G(H
0) への全射準同型を得る . 即ち , H ≥ H
0である .
定理
3.1
の証明. 定理 3.4 から ∆(t
1, t
2) は条件 (3.1), (3.3) をみたす . 従って (3.2) もみ たすので , ある種数 2 のハンドル体結び目 H が存在して , H の ψ
ℓ′に関する多変数 2 番 Alexander イデアル E
2(
A(G(H), ψ ˜
ℓ′) )
は , ∆(t
1, t
2) で生成される単項イデアルとなる . ここで ℓ は H の 1 次元基本サイクルである . 従って (2) がみたされた . 更に (3.3) から , H の ψ
ℓに関する 1 変数 2 番 Alexander イデアル E
2( A(G(H), ψ ˜
ℓ) )
は (1) となる . ここで H の一般の 1 次元サイクル ℓ = c
1ℓ
1+ c
2ℓ
2に対し , H の ψ
ℓに関する 1 変数 2 番 Alexander イデアルが (
∆(t
c1, t
c2) )
となることから [14], 任意の準同型 ψ : G(H) → ⟨ t | ∅⟩ に対し ても E
2(
A(G(H), ψ) ˜ )
= (1) である. これで (1) がみたされた. また, このハンドル体結
び目 H は , 2 成分境界絡み目を 1 本の弧で結んでできる空間グラフの正則近傍として実 現されており , 従って定理 3.5 の直後に述べたように , G(H) から G(0
1) への全射準同型 が存在する. これで (3) がみたされた.
定理 3.1 より , H ≥ 0
1なる種数 2 のハンドル体結び目の組 (0
1, H ) で , 0
1̸≥ H である ことを 1 変数 Alexander イデアルでは判定できないが , 2 変数 Alexander イデアルで判 定できるものが無限個存在することがわかる . 以下で幾つかの具体例を挙げる .
例
3.6. 図 3.1 のハンドル体結び目 H
1に対し, ℓ を H
1の 1 次元基本サイクルとして, E
2(
A(G(H
1), ψ ˜
′ℓ) )
= (
− 1 + t
1t
−21+ t
−11t
2) , E
2(
A(G(H
1), ψ ˜
ℓ) )
= (1).
図 3.1: ハンドル体結び目 H
1例