日本 管理会計学 会 誌
管 理 会 計 学 1996 年 第4巻 第1号
論 文
経 済性の 観点か ら み た君 子蘭の 生産 計画に つ い て
丸 山 義 博*
〈論文 要旨〉
温 室で 生産す る鉢 花の 生産 計 画 問 題につ い て, 経 済 性の 面か ら検 討 し,不 確 定 要 素 につ い て種種の 優 劣 分 岐 分 析を行っ た.検 討の対 象と して , 君 子 蘭 をモ デル に し, 生 産 計 画期間を有限と し た.開 花 率を考慮し, 仕上 げ 鉢の大 き さ を 4.5号 から7号の範 囲で 互い に排 反 的な関 係にある複 数の生産 計 画 案 を 設 定 し, これ らの案の選 択にあた り種子の 供 給に関 する複 数の 方 策 を立てた.検 討 すべ き項 目は, (1)資 本コ ス トの種子
の 供給の仕方,(2)苗の確保,(3)種 子の購 入 価 格と購 入 間 隔,の 3項 目と した.結 果 につ い て ,(1)は標 準 利 率 を考 慮 し, 種 子 費C、と出 荷 価 格α,に関 して, (2)は方 策の 間
で 相 違 する費 用に着 目し, 歩 留 ま り率 τと苗 費 CNに関 して, (3)は出 荷 価格α6, a7 に 関 して ,そ れ ぞ れ平 面上の 領域 で示し た.検 討で得ら れ た結 果と して の 歩 留 ま り率τ, 開 花率, 出 荷 価 格に関 しては, 他の鉢 花の 生 産計画の 検討にも応用 できる と考える.
〈 キーワー ド 〉
生産計画,優 劣 分 岐 分析 ,経済性,君 子 蘭, 温 室, 棚 面 積
1994年 6月 受 付
1995年 7月 受 理
* 富山県立大学短 期 大学 部 一般教育等 助教授
管理会 計 学 第4巻 第【号
1. は じめに
本 稿は, 1戸の 園芸 農 家が, 主 幹 生 産 品 目の 副 品 目と して 家 族の 労 働 力の みで温室で 生 産 し出荷 する鉢 花の生産 計 画につ い て,複数の代 替案の経済性 を検討 する.
具 体 的な検討 品 目と して君子 蘭 を取 り上 げる.この 鉢花の播 種数に対 する発芽後の生 育
の 良好な 1 − 2葉の幼苗 (以下で苗 と記 す)が得られ る比 率 (以 下で 歩留 ま り率と記 す )
と開 花率, 種 苗費およ び出荷 価 格は確 率 的に も未 知な要 因とする.ま た 生産開始か ら出荷 終了 までの 1生 産期 間の 長さ に対 し資本 コ ス トの標 準利率 を考慮 し, 生 産計 画 を立て る に あ た り, (1)種 子の供 給 (種 子の 自給 ある い は購 入お よ び種 子の 購 入 間 隔) と標 準 利 率 ,
(2)苗の確 保と種 子 費, (3)出 荷価 格, の 3つ の項 目につ い て 検討 する.検 討にあた り,中 村 ・山口 [61 に よ る利 益 図表を活用 し た安全性の 分析, 伏見 ・野々 村 [2]によ る戦 略 的投 資 計画の 感度 分析お よ び優劣 分 岐 文節の 応用事例につ い て , 伏 見 [2]千 住 [7], 千 住 伏見
[81, 千 住 ・山 陰 [9]を, おの おの参考に し た,鉢花を題材に し た 生産計画 問題の検討につ
い て は, 丸 山 [41, [5ユがあ り, 前者は シ ャ コ (葉)サ ボ テ ン を題 材 に生 産期 間の 長さを考 慮 し, 標 準 利 率 と出荷 価 格に関 し, 後 者は シ ク ラ メ ン の生産で , 生 産期 間 中の 苗の損 失を
考慮 し た場合お よ び作図に よ る簡便な利益の 算出 につ い て の , おの おの の 検討がある. 君子 蘭の 生 産につ い ては阿部他 編 [11鶴 島 [101が あ り, こ の鉢花を生 産 して い る富 山県
内の 園芸 農 家の 生 産 状況を参考に し た.参考 農家で は, シ ク ラ メ ン, 野菜苗お よ び稲作を 主 幹 品目 と し, こ れ らの 主 幹 品目の 生産の 合間 に副 品目 と して 君子蘭お よび他の鉢 花, 花 苗 およ び野 菜 を生 産し生 計 を立て てい る.こ の 農 家で 君子 蘭は, 温 室 内で 2段 に設 置し た 下段の棚 (以下で 棚下 と記 す )で生 産 し, 花 芽 を付 けた頃に上 段の棚 (以 下で棚 上 と記 す )
で生産 し, 開花の後 3月に出 荷 して い る.播 種 後 発 芽 する稚 苗数は播 種 数1袋 (100 (粒))
あた り85 (本)か ら90 (本)で ある, 発芽後の 苗は, 総苗数に対しその 90% は同 じ早さ
で 生育 し, 残 り10% は 生育が 1年 遅れる . 花 芽 を付 けた頃の 棚上の 利 用 状 況は, シ ク ラ メ ン の 出荷が終わ る時期 (1月末 )で棚上 に空 きが 出 る.棚下は 主に君 子蘭の 生 産に使用 し, 他 にシ ャ コ (葉)サ ボ テ ンの 親 鉢 を生 産 して い る. 調 査 を始め た 昭和 50年 当 時は 年 間 お よそ 500 鉢の 生産 に, 年 あた り10 日の作 業 日数が 充て ら れ て い た, 平 成 6年 現 在 ,
この 鉢花は , 全て 注文し た顧 客お よび直接生産者の温室まで 買い に くる顧 客に対 し庭先で 販売してい る . 出荷する仕上 げ鉢の 大き さは主 に6号鉢 と7号 鉢で , この 鉢花の生 産は現 在 も継 続 して い る .
本稿で は, 君 子蘭の生産計画 の検討 に2つ 以 上の 複数の 代 替案が提案さ れ た とき,こ れ ら複 数の 案の 中か ら, 経 済性の 観 点か らよ り有 利 な案の選 択 につ い て検 討 する .検 討にあ
経済性の観点から みた君チ蘭の生産 計 画につ い て
た り, 不確実な要 素につ い て の 感 度 分析 として 優劣 分 岐分析 を用い る.
2. 君子蘭の生 産 様 式と問題の前 提
生産につ い て は, 種子 (あるい は苗 ),用 土,肥料 , 栽 培 箱お よ び鉢の発 注 (発 注 日 は
10月 1 日と仮定)か ら,播種 ・移植 ・開花 およ び出荷 までの 生 産 過程があ り,図 1に 示 す と お りで ある. 図 1で苗は国内の 種苗会 社か らの購入 と し種 子 は国 内の 種 苗 会 社か らの 購 入と自家 株に よ る自給 とす る.播種は1 月中旬 (1月16 日 と仮定)に栽培箱に行 う.播 種 後30 〜40 日で 発芽 し た苗あるい は購入 し た 苗 (購入 し た苗の植 え付 け日 は3 月 16 日 と 仮定)は , 次 年の 5 月初め か ら5 月 末 まで の 1 カ月 間に 3号 鉢 に移植 する.3 号鉢 に移 植 後 ,次 年の 5月 中旬か ら6 月 中 旬の 1 カ月 間に よ り大 きい 4 .5号 鉢に移 植す る。4.5号 鉢
に移植し た個体で次年の 年初めに花 芽 を付 け 出荷 を計画 し た個 体は, 同年の 2月 中旬 に棚 上に上げ開花を促 進させ る.開花 し た個体は同年の 3月 初め か ら4 月 初め (3月 15 日と仮 定 )に か けて 出荷する .開花 しなかっ た苗は, 同年の 5 月中旬か ら6月末にかけて より大 きい 6号 鉢 に移植す る.6号 鉢に移 植 し た個 体で 次 年の 年 初めに花 芽 をつ けた個 体は , 開 花の 後同年の 3月初 旬か ら4月 初 め (3月 15 日 と仮 定 )に 出荷 する . 開花 しなか っ た個 体 は, 同年の 5月 中 旬か ら6 月 末に か けて 7 号 鉢に移 植 し, 次 年の 3 月初旬 か ら4 月 初め (3
月 15 日 と仮定)に出荷 する.この 鉢花は一度開花し た個体は次年 も開花する。
播種あ るい は購入 し た苗の植え付けか ら よ り大 きい 鉢へ の 移植, さら に開花お よ び出荷
1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 年 度
(〉一一一一一一一一 発 注
は種 購 入した苗の植 え付 け
一 一
移植 1(3?鉢)
一 一
移植 2(4.5号 鉢 )
一 一一一 一[}一一{]一一一くγへ_O − 一一 一
出荷 C4.5号 鉢 ) 移 植3 (6号 鉢 )
一一一一一一一[コトー一匸 トー一一〇 (
一
出荷 (6号 鉢) 移植4 (7号 鉢) 一一一一一〇 一一{コ
出荷 (7号 鉢)
図 1 君 子蘭の生産 様 式
’初年度
:2年度
:3年 度
:4年 度
:5年 度
:6年 度
:7年度
(播 種 あるい は購 入した苗の植 え付け か ら始め る 場合 ・O 印 :用 土,肥 料,栽培箱,鉢,種,苗の,おのおの の発注を示す)
管理会計学 第4巻第且号
終 了 まで の生 産 期 間 を, こ の鉢 花の 1生 産期 間 とする.
問題 の定式化の た めに, 以 下 の前提条件を設定する.
(1)発芽後の 苗の 生育の早 さに個 体 差はない もの と仮 定 し, 発 芽 から3年 目以 後 出 荷 ま で毎年5 月 中旬か ら6 月 中旬に より大きな鉢 に移植を行 うもの と す る.こ の とき複 数 回の移 植に より, 1鉢 あた りの個 体の 占有 面 積は よ り拡大 して い くもの とする. (2)出荷は全て 開花 した個 体 とする。 開 花は人為的に コ ン トロ ール で きない もの とす る .一度開花し た個体は, 次年以後も確実に開花するもの とし, 前提(1)よ り, 播 種以 後生 産を続 け, 7号鉢に移 植 し た個 体は確 実に 開花 し出荷 する もの とする . (3)同一
の 大 きさの 出荷 鉢 (鉢植 えの 開 花 し た個 体)の価 格は,生育状態の い か んに かか わらず一定 とする .
(4)費用 は, 生産 計 画 あるい は方策が変わ るこ とに より変 化 する費 用の み を対 象 と し,
国内の種 苗会社よ り種子 あるい は苗を購入 す る場合の 種子費 (円/粒)あるい は苗
費 (円/本), 用土費 (円〃 ), 肥 料費 (円〃 ), 仮 植 (償 却 ) 用 栽培箱お よ び消 耗 (出荷)用 と仮 植 (償却)用の 鉢の 費 用 (円/個)と す る.用 土 と 肥料は, 苗の 3号鉢へ の 移植, さ ら によ り容 量の 大 きい鉢へ の移植の場 合にの み鉢の容量の増加 に応 じて 追 加 す る, 用 土 費と肥 料 費は, こ れら用 土 と肥 料 の追 加 分に よ る追 加 費 用の 総和と す る.
(5 )毎 年 一定 量 を永 続 的に生産 する もの とする.
(6)需要は, 出荷量に対 し て, 十分にあるもの と す る.出荷は期末 と し, 費 用は期 首 に,収入 は期末に,おの おの発生する もの と仮定す る.
生 産 にあた り, 購入 を必 要とする用土, 肥料,栽培箱 ,鉢お よ び種子 ,苗は, 共に 生 産 を開始 する前 にあ らか じめ 発 注 し, 生 産 開 始 時 およ び生 産 期 間 中の 作 業 日程 に 間合わ せ ,使用で きる状 態にある もの とする.
播種か ら6号 鉢仕上 げ まで の 生 産期 問中の , 各開花期に おける開花率が不確実な状 況
の 下 で,出荷 鉢の 大 きさ は 4.5号 ,6号お よ び 7号 とする.こ の とき出荷 鉢の 大 き さに対 し毎年一定の棚 面積を使用 し, 開花 率に対 し毎年等量つ つ 生産 を続け る と き,安 定 し た 生 産 状 況下 で , 生 産 計 画期 間丁 を有 限 と し, こ の期間 中の 年 あた りの 利 益 を最大 にす る 生産計 画案 (以 下で 案と記 す)の 選択につ い て検討 する .以 下 で発 芽 後の 苗は , 出 荷 ま
で の 生産期 間 中, 病 害虫に よ る損失が0 の 場合につ い て検 討する.収 集し た資料 を もと
に表 1の数 値 を作 成 し, 以下 の検 討に適 用 する .表1の数 値は, 昭和 50 年と平成2年お よ び平 成6年 に生産者か ら,おの おの提 供 して い た だい た資 料 を もと に して い る.