厚生労働科学特別研究事業(厚生労働行政推進調査事業)
カツオの生食を原因とするアニサキス食中毒の発生要因の調査と 予防策の確立のための研究
平成30年度分担研究報告書
4. カツオの消費地(福島県)における聞き取り調査
主任研究者 目黒寄生虫館 小川 和夫 研究分担者 東京都健康安全研究センター 杉山 広
研究協力者 目黒寄生虫館 巌城 隆,髙野 剛史,
脇 司 福島県保健福祉部 門馬 直太 福島県県北保健福祉事務所 橋本 正行 郡山市保健所 齊藤 浩二 いわき市保健所 鈴木 博
研究要旨
2018 年の国内のアニサキス食中毒は,カツオが推定原因食品である事例が多いのが特徴 であった。年間事件数の1/4以上が報告された福島県において,スーパーマーケットと食品 加工会社を対象に,カツオの販売・取り扱い状況および実施したアニサキス症対策につい て聞き取り調査を行った。その結果,各施設が様々な対策をとっていた一方,その方法は 統一されていなかった。今後,適切な処理方法を検討したうえでガイドラインを作成し,
それを広く普及していくことがカツオの喫食によるアニサキス症予防に重要と考えられる。
A. 研究目的
カツオは我が国における重要な海産資源の一つである。2018年,特に4月,5月における 国内のアニサキスを原因とした食中毒(アニサキス食中毒)は,これまでになくカツオが 推定原因食品である事例が多いのが特徴であった。厚生労働省が公表した食中毒統計によ れば,同魚種の喫食が原因であると強く示唆される事件数は,一年の間に全国で82にのぼ り,その1/4以上となる 22件が福島県からの報告である。そこで,福島県浜通りと中通り において,カツオの販売・取り扱い状況および販売店が実施したアニサキス症対策につい て,聞き取り調査を実施した。
B. 研究方法
福島県郡山市,本宮市およびいわき市のスーパーマーケット5店舗と食品加工会社1社を 訪問し,主に生カツオ取り扱いの有無,カツオの加工法,実施しているアニサキス症予防 策について聞き取りを行った。対象者は鮮魚売り場担当者・店長・品質管理担当者などで あった。
C. 研究結果
聞き取り調査を実施した6施設全てで,生カツオの取り扱いがあった。また全施設が冷凍 すると質が落ちるとの認識で一致しており,品質低下を最小限にとどめるため,加工会社 では真空パックした後−45℃で急速冷凍していた。スーパーマーケットの中にはCells Alive
System(CAS)冷凍を検討した店舗もみられたが,生カツオと比べ身の変色が早いとのこと
であった。また,いずれの施設もカツオを丸のまま仕入れ,柵や刺身に加工していたが,
一部冷凍の柵を仕入れて販売している場合もあった。
スーパーマーケットで行われている主要なアニサキス症対策として,目的・手法の異な る3点が認められた:①内臓から筋肉へのアニサキス移行を防ぐため,仕入れ後直ちに加工 する,②アニサキスを目視で確認・除去する,③アニサキスを物理的に殺傷する。いずれ も,カツオの喫食によるアニサキス症が盛んに報告されるようになって以降に実施,ある いは特に気にかけているようである。①については,対象とした4店舗で「鮮度が落ちると アニサキスが内臓から筋肉へ移行する」との認識であった。残る1店舗では,担当者が実地 調査を行っており,「流通前からアニサキスは筋肉に寄生している」と認識していた。②に ついて,加工時に注意深く観察する以外に,2店舗ではブラックライトによる確認を行って いた。他方3店舗では,ブラックライトで検出可能なのは表面に付着するアニサキスのみで あり,導入の予定はないとする回答であった。また,アニサキスを検出する目的で,長時 間冷蔵する「冷やしこみ」を実施しているのは2店舗であった。これらとは別に,1店舗で は暗室内で可視光により身を透過し,アニサキスの有無を検査していた。③では,3店舗で 身に飾り包丁を入れる,あるいは白髪ねぎを作る際に用いる「ネギカッター」で身に切れ 目を入れるといった対応が聞かれた。ただし,カツオは身が軟らかくこの処理が難しいた め,うち2店舗では現在は実施していないとのことであった。
上述の①〜③以外にも,店舗によってさまざまな対策がとられていた。例えば,柵での 販売自粛,(アニサキスが多いと考えられる)腹身を全て加熱用とする,e ラーニングを用 い従業員に基礎知識を浸透させるなどが挙げられる。また2店舗では,内臓にアニサキスが 多数みられると筋肉にも寄生しているリスクが高いと考え,加工の際に内臓表面を目視で 確認し,その寄生状況により生食用とするか加熱用とするかを決める,あるいは破棄する 場合があったようである。
D. 考察
本調査により,福島県におけるスーパーマーケットの各店舗が,カツオの喫食によるア ニサキス症予防のためにさまざまな対策をとっていることが分かった。一方で,その方法 は統一されておらず,各店舗が独自に進めている状況といえる。
加えて,それぞれの対策法がアニサキス症予防にどれほど効果的であるかについて,科 学的裏付けはとられておらず,よって有用性は定かではない。例えば「冷やしこみ」を行 うことで筋肉中のアニサキスが組織外に出てくるとの説がある。同説を定量的に確かめた 研究はないが,研究班の観察によれば,アニサキスを生理食塩水とともに冷蔵庫に入れた 場合,ほとんど運動性を示さない。他にも,飾り包丁やネギカッターで身に切れ目を入れ ることによりアニサキスを殺傷できる可能性はあるが,どの程度感染リスクが下がるのか は不明である。
現在実施されているいずれの対策法も,通常の加工と比べ手間と時間がかかるものであ る。したがって,大量のカツオを扱うとなれば,従業員への負担は非常に大きいと考えら れる。アニサキス症対策のためカツオを冷凍することも考えられるが,設備投資に巨額の 費用が掛かること,生と比べ品質が落ちることといった問題が残る。今後現在行われてい る対策の有用性を科学的に評価し,適切な処理方法のガイドラインを作成,さらにそれを 広く普及させることが必要と考えられる。
E.結論
2018 年にカツオの喫食によるアニサキス症が多くみられた福島県では,その予防に向け 販売店がさまざまな対策をとっていた。一方,その方法は統一されておらず,また有用性 の科学的根拠にも乏しいのが現状である。今後,適切な処理方法を検討したうえでガイド ラインを作成し,それを広く普及していくことがアニサキス症予防に重要となるであろう。
F.健康危険情報 なし
G.研究発表 なし
H.知的財産権の出願・登録状況 なし