1 年セミナー 参考資料 2021
年度第1
ターム学芸学部数学科
1
年(
水曜3
限/
ハイブリッド講義7
号館7303
教室)
担当:
原 隆(
学芸学部数学科・准教授)
1 はじめに
数学に於けるセミナー
seminar
とは、参加者が分担し、協力しながら(難しい)数学書を精読す る勉強方法です。発表者は担当部分を しっかり理解した上で聴講者に分かりやすく解説し、聴講者 は 分からないところや疑問点を積極的に質問、コメントする ことで議論を活発に行い、最終的に 参加者全体がテキストの内容の理解を深めることを目的としています。1
年生から毎年少人数セミ ナーの授業が(しかも必修科目として)課されているのは津田塾大学数学科の 最大の特徴の1
つ で す。1
年セミナーはその華々しい最初のセミナーになりますが、まだ入学したての皆さんは大学数学 の知識も儘ならないでしょうし、1
年セミナーは1
ターム9
コマのみの開講 なので、「テキストを精 読する」といってもそれ程大したことは出来ません。 そこで、この1
年セミナーでは、趣向を換え て(頑張れば「高校生でも解法が理解出来る*1」)3
つの問題を提示 し、グループに分かれてその解 法を学習してプレゼンテーションしてもらう形式でセミナーを進めていきたいと思います。2 テキストについて
テキストとして
Martin Aigner and G"unter M. Ziegler, Proofs from THE BOOK, Springer (
邦訳: M.
アイグナー, G. M.
ツィーグラー著,
蟹江幸博訳,
『天書の証明』,
丸善出版)
ポール・エルデシュ*2 を用います。
THE BOOK (
「あの本」、天書)
とは、生涯に渡り1500
本もの論文を書き上げた流浪の数学者ポール・エルデシュがその存在を 頑なに信じていた想像上の本で、そこにはすべての定理や理論の完全な 証明が記されている と言います*3。特に卓越したアイデアに裏打ちされ た「美しい証明」に遭遇したときには、エルデシュは「これは「あの本」
から来たものだ
!!
」と言ったとも伝えられています。上記のテキストは、そんなエルデシュの哲学を継承し、様々な数学の問題に対して 「あの 本」から来ているに違いない「美しい証明」 を記した極めて異色な数学 書です。セミナーではその中から
3
つの題材を選んで、その証明の卓越したアイデアを理解するとともに、その「美しさ」を鑑賞することを目指します。
*1このような謳い文句の数学書は数多く存在しますが、まぁ鵜呑みにするのは危険ですね、大体そういう本を書いている のは数学が得意な人ですから(^^;
*2Paul Erdős (1913–1996) ©Topsy Kretts, CC BY 3.0 , via Wikimedia Commons
*3SFやオカルトが好きな人は、所謂「アカシック・レコードakashic records」のようなものと考えると分かりやすいか もしれません
3 セミナーの進め方
初回のセミナーで
3
つの問題の内容について簡単に解説します。その後、アンケートを取って 問題ごとにグループ分けします。その後のセミナーは、暫くグループに分かれ、グループ内でテキス トを分担して発表し合いながら読み進めていきます。最後に 発表会形式 で、各グループで勉強し た内容を 分かりやすくプレゼンテーションしてもらいます。グループワークの際にはZoom
のブ レイクアウト・ルーム機能を用います。また、各グループでの
(1
年セミナーの時間外の)
コミュニケーション手段としてSlack
を用いる 予定です。4 本セミナーで扱う問題について
以下、本セミナーで扱う問題を簡単に紹介します。
4.0 Six proofs of infinity of primes — 素数は無限 : 6 つの証明
素数
prime number
は自分自身と1
以外に約数を持たない(
正の)
整数のことである、ということ は良くご存知だと思います。ユークリッドの原論にも掲載されているユークリッド
(
エウクレイデース)
*4 素数は無限に存在する。『原論』第
9
巻 命題20
という事実もあまりにも有名ですが、テキスト
Proofs of THE BOOK
の冒頭では、素数の無限性に ついて『原論』の証明と合わせて6
つもの異なる証明を紹介しています(
もちろん他にも幾つもの証 明が知られています)
。このセミナーでは、発表のデモンストレーションとして、2
回目のセミナーで この6
つの証明のうち幾つかを実際にプレゼンテーションしてみます。2, 3, 5, 7, 11, 13, 17, 19, 23, 29, 31, 37, 41, 43, 47, 53, 59, 61, 67, 71, 73, 79, ...
「素数は無限に存在する」
*4Euclid of Alexandria (300BC頃)「幾何学の父」とも称されるギリシアの数学者
4.1 Binomial coefficients are (almost) never powers: 2 項係数は ( ほとんど ) 決して ベキにならない
2
項係数binomial coefficient ( n
k )
=
nC
k= n!
k!(n − k)!
は、2
項定理(x + y)
n=
∑
nk=0
( n k )
x
n−ky
k= ( n
0 )
x
n+ ( n
1 )
x
n−1y
1+ ( n
2 )
x
n−2y
2+ . . . + ( n
n − 1 )
x
1y
n−1+ ( n
n )
y
n の係数に現れる(
高校でもお馴染みの)
組み合わせ的数で、それを並べたものは パスカルの三角形Pascal’s triangle
と呼ばれるとても面白い図形となります。そんなパスカルの三角形を眺めつつ、その中から
平方数
1
2= 1, 2
2= 4, 3
2= 9, 4
2= 16, 5
2= 25,...
立法数
1
3= 1, 2
3= 8, 3
3= 27, 4
3= 64, 5
3= 125,...
4
乗数1
4= 1, 2
4= 16, 3
4= 81, 4
4= 256, 5
4= 625,...
5
乗数1
5= 1, 2
5= 32, 3
5= 243, 4
5= 1024, 5
5= 3125,...
を探してみると、どうもパスカルの三角形の「外側の部分」に集中しているように見えます。
1 1
1 2 1
1 3 3 1
1 4 6 4 1
1 5 10 10 5 1
1 6 15 20 15 6 1
1 7 21 35 35 21 7 1 1 8 28 56 70 56 28 8 1 1 9 36 84 126 126 84 36 9 1 1 10 45 120 210 252 210 120 45 10 1
ブレーズ・パスカル*5
「
2
項係数は(
ほとんど)
決してベキにならない」*5Blaise Pascal (1623–1662)「人間は考える葦である」のフレーズでも有名なフランスの数学者・哲学者
実際に、エルデシュは次のような興味深い定理を証明しています
;
2
項係数( n k )
は、
4 ≤ k ≤ n − 4
のときにはどんなベキ乗数にもならない*6。エルデシュは、シルヴェスターの定理を用いた
4
ステップの巧妙な背理法reductio ad absurdum
によりこの不思議な性質を証明しています。果たしてエルデシュの辿り着いた「美しい証明」はどの ようなものだったのでしょうか?
少し込みいった議論の証明ですが、しっかり整理しながら読み解い ていけば、その面白さにきっと辿り着けるはずです。背理法の醍醐味をたっぷり味わいたい人向け。4.2 Slope problem: 勾配問題
勾配
slope
とは所謂「直線の傾き」のことであり、勾配問題とは大雑把に言えば 「平面上にn
個の点が与えられたときに異なる傾きの直線が何本引けるか
?
」 を問う問題です。勿論点を“
ばらばら に”
配置すればするほど、「傾きの種類」もどんどん多くなるだろうことは直観的にも明らかでしょう が、それでは「傾きの種類」が なるべく少なくなるように する にはどう配置すれば良いのでしょ うか?
或いは点をn
個配置したときの「傾きの種類」の最小値は何個でしょうか?
例えば、左下の 図では8
つの点が正八角形の頂点となるように配置されており、8
本の異なる傾きの直線が描かれて います。ちょっと実験してみれば、ほかのどの2
点を結んでも、既に描かれている直線のいずれかと 平行になってしまう ことが分かりますので(
試しにやってみましょう!! )
この配置のときには「傾き の種類」の総数は8
となります。それではこれが、8
点を配置したときの「傾きの種類」の最小値 なのでしょうか?
それとも、もっと「巧妙に」点を配置すれば、「傾きの種類」をもっと減らすこと が出来るのでしょうか……?
闇雲に点を配置して調べようとしても、ちょっとお手上げですよね?
実 はこの勾配問題には、次のような「美しい解答」が与えられているのです;
勾配問題
*6つまり、前のページのパスカルの三角形のピンクの部分には、平方数、立方数、……といったベキ乗数が決して現れない ということです。10段しか描かれていないのであまり凄そうに見えないかもしれませんが、パスカルの三角形が無限 に続くことを考えると、この「大きな三角形」の中にベキ乗数が絶対に出て来ないことが証明出来るなんて、何だか不 思議な気がしませんか?
n
を3
以上の整数とする。平面上のn
個の点が同一直線上にないとき、それらの定める相異 なる勾配の数の最小値は⋆ n = 3
またはn
が4
以上の偶数のときはn,
⋆ n
が5
以上の奇数のときはn − 1
である。というわけで、前のページの図は異なる勾配数の最小値を与える点の配置の例となっています
(
左 側がn = 8,
右側がn = 13
のときの例です)
。証明のポイントは、点の配置そのものをあれこれ考え るのではなく、その 直線への射影を考えて、図が180
◦ 回転するときにその直線への点の射影がど う入れ換わるか を調べることにあります。このように「分かりやすいモデル」を巧く見つけること で、どう手をつけたら良いのかさっぱり分からない問題に筋道が立つことは、数学では実に良くある ことなのです*7。操作の説明がちょっと長く、文章だけではなかなか理解しづらいとは思いますが、大切なことは実際に自分で図を描きながら、どんな操作を考えているのかを
1
つ1
つ理解すること です。ルールさえ把握してしまえば、何ともすっきりと問題が解決出来ることにきっと驚くことと思 います。高校数学ではあまり味わえない モデル化modeling
の考え方に興味のある人にお薦めです。4.3 Buffon’s needle problem: ビュフォンの針の問題
18
世紀のフランスの博物学者ジョルジュ=
ルイ・ルクレールが提唱した床に多数の平行線を引き、そこに針を落とすとき、どれかの線と針が交差する確率はどうな るか
?
を問う問題です。
ビュフォン伯ジョルジュ
=
ルイ・ルクレール*8 ビュフォンの針の問題*7さながら、難解な図形の問題で巧い補助線を引くとたちどころに問題が解けてしまうようなものでしょうか?
*8Georges-Louis Leclerc, Comte de Buffon (1707–1788) 確率の分野に微分積分学の概念を導入した人物としても知 られる
驚くべきことに、その解答は非常にシンプルで、しかも何故か円周率
π
が登場するのです!!
幅
d
の平行線が描かれた床に、長さℓ( ≤ d)
の短い針を落としたときに、どれかの線と針が交 差する確率は2ℓ
πd
となる。この結果を用いれば、平行線を引いた紙に針を落として線と交わる確率を計算すれば、円周率
π
の近似値が計算出来るということにもなります。実際にイタリアの数学者マリオ・ラザリニは、ビュ フォンの針の実験を行って円周率の近似値を計算しており、モンテカルロ法Monte Carlo method
*9 の原型となったとも言われています。円周率π
やネーピア数e
は、代表的な超越数(“
良く分からな い数”)
として高校でも学習したと思いますが、大学の数学では 思いもよらない場面で円周率π
や ネーピア数e
のような数が現れる ことがしばしば起こります。「床に針を落とす」という、どこに も円が登場し得ないような設定の確率の問題で、何故円周率π
が現れるのでしょうか……?
興味を 持った人は是非この問題にチャレンジしてみてください!!
確率の問題なので、簡単な確率の基礎知 識(
確率の積の法則や期待値など)
は前提とされますが、「天書の証明」は微分積分も用いず、非常に すっきりしたものとなっています。5 評価のポイント
1
年セミナーの成績は 平常点 に基づいてつけますが、特に以下の点を重視します。⋆
グループワークへの取り組みの積極性⋆
発表会でのプレゼンテーションの仕方(
説明の仕方の分かりやすさなど)
⋆
発表会への取り組みの姿勢(
積極的に質問をしているか、質問に明解に答えられているか)
6 今後の予定
第
1
回(4/21)
ガイダンス、グループ分けのためのアンケート第
2
回(4/28)
数学科フレッシュマン・キャンプ(
セミナーはなし)
第
3
回〜第6
回 グループワーク ※5/5
はこどもの日でお休み 第7
回〜第9
回 発表会7 その他の情報
授業用
Web
ページ: https://ex.tsuda.ac.jp/˜t-hara/Lectures/2021/seminar1.html
担当教員メールアドレス: [email protected]
ハイブリッド授業期間中は、質問は主にメールで受け付けます。もちろんセミナー前後の時間、或い はグループワークのときに質問してもらっても構いません。
*9乱数を用いてシミュレーションや数値計算を実行する方法。