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社会的包摂に向けたメンタリング運動

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 社会的包摂に向けたメンタリング運動

米国の特別な支援を必要とする青少年のためのプログラムを中心に

    Mentoring Movement for Social lnclusion:

Focused on the U.S. Programs for Special Populations of Youth

渡 辺 かよ子

WATANABE, Kayoko

1.はじめに

 本稿は、米英を中心に各国で拡大している青少年向けメンタリング運動を、社会的排除

(social exclusion)を克服し社会的包摂(social inclusion)を実現するための市民運動として 把え、その成果と課題を明らかにしようとするものである。「失業、低熟練技能、低所得、

劣悪な住宅環境、高い犯罪率、不健康、家族崩壊のような相互に関連する諸問題に複合的に 苦しんでいる場合に起こりうる状態」を表す「社会的排除」は、経済問題としての貧困の問 題を社会的・政治的問題も含む多次元的な関係性の問題として捉える概念である。それは問 題群の関係性と問題発生の動態過程に注目すると共に、排除の連鎖の阻止に向けた予防政策 に着目している1)。

 日本においても社会的排除の克服に向け、理論研究や国内での実践事例研究に加え、外国 での事例に関してもEUの事例分析を中心に貴重な研究が蓄積されている2)。しかしながら 最少の公的支援と「アンダークラス」のモラルハザードに対する懲罰的アプローチに特徴づ けられる米国3)での事例や、EU諸国と米国に共通するメンタリング運動とその成果には殆 ど研究関心が向けられていない。世界的に拡大しているメンタリング運動は、安易な実践か ら生じる危険性への警告と共に、1990年代以降、青少年の社会的排除の克服に向けて一般化 した国家的地域的介入戦略の重要要素となっている㌔本稿は、こうした運動の最前線に位置 づけられる、米国における特別な支援を必要とする子どものためのメンタリング・プログラ ムに着目し、その動向と成果、課題を明らかにしたい。

 本稿が分析対象とするのは、米国連邦教育局メンタリング・リソース・センターが「特別 な支援を必要とする青少年向けのプログラム」(Program for Special Populations)として掲げ ている、①親が刑務所等に収監されている青少年、②障がいを持っ青少年、③里親や擁護施 設等のフォスター・ケアの下で育っ青少年、のためのメンタリング・プログラムである5)。

こうした青少年は、子どもから大人への移行にあって自らの意思や責任能力とは無関係な厳 しい課題に直面している。本稿はこれらの特別な支援を必要とする青少年のためのメンタリ

(2)

ング・プログラムが、障がいの有無や生育環境における肉親の有無に関わらず、いかに全て の人間の生涯発達を保障する具体的手立てを提供しようとしているのかを明らかにし、その 社会的包摂に向けた意義を考察したい。

2.米国のメンタリング運動の概観

1)「メンタリング格差」とメンタリング・プログラム

 メンタリングとは、成熟した年長のメンター(mentor)と若年のメンティ(menteeまた

はprot696)とが基本的に一対一で継続的定期的に交流し、役割モデルと信頼関係の構築を 通じてメンティの発達支援を行うものである。メンタリングには、日常的自然発生的なイン

フォーマルな類型と、プログラムを介した人為的制度的なフォーマルな類型(=メンタリン グ・プログラム)がある。メンタリング・プログラムは、①参加者募集、②メンターのスク リーニング、③マッチング、④オリエンテーション、⑤モニタリング、⑥経験の共有、⑦プ ログラム評価、から構成される。それは、①資格制度による市場独占がない市民ボランティ アによる支援・助言であること、②メンターとメンティ双方に新たな出会いと生きがいを与 え、メンターの示す役割モデルと善意がメンティの人生によき影響をもたらすこと、③専門

家によるモニタリングが双方の関係性を支援すること、等の特色を持っている。政策的メ

リットとしては、①低コスト、②高齢者を含む広範な人材の活用、③多セクター間の協力と 多機能の融和、があげられる6)。

 2005年のMENTOR(National Mentoring Partnership)の調査によれば、メンタリング・プ

ログラムに参加している大人は約300万人(3年前より19%増加)となり、現在メンタリン グ・プログラムに参加していない4400万人の大人がメンターになることを真剣に考え、

96%のメンターが他の人にメンターとなることを推奨している7)。

 メンタリング運動は、地域・学校・企業が連携した生涯学習・生涯教育体制の整備に向け た革新として以下のような重要性を持っことが明らかになっている。①生涯学習・生涯教育

における統合の理論的実践的実現、②地域コミュニティの紐帯促進ならびに社会関係資本

(ソーシャル・キャピタル)の増強、③学校を中心とする近代教育を本来の学びに立ち返ら せる歴史的重要性、④「一人の力」による社会改革,行動的シティズンシップを志向する実 践的教育学の提唱8)、である。

 企業の人材開発や専門職養成、青少年問題への対応として脚光を浴び、LD児教育から英

才教育、若年就業支援等、個に対応した発達支援方策として活用されているメンタリング・

プログラムは、個々の青少年の実際的必要に応じて実践的に構築されてきたものであり、特 定の理論に基礎付けられて運動が生まれてきたわけではない。しかしながら、そこには人間 の成長発達に関する条件の格差是正に向けた実践と、そうした実践の成果をより確実にする ための研究が蓄積されてきている。

(3)

 今日、米国においては支援や保護を必要としっっもそれが提供されていない青少年の問題 は、「メンタリング格差(Mentoring Gap)」として把えられ、その格差を埋めるためのメン

タリング運動が展開されている。それは、MENTORが2002年の全国調査により10歳から 18歳の青少年は3520万人とし、これらの青少年を、非常に高いリスク(10%)、高いリス

ク(15%)、中程度のリスク(25%)、低リスク(10%)に分類したことに基づいている。

メンタリングの対象は、高いリスクを持つ者、中程度のリスクを持つ者、低リスクを持っ者

を合わせた、全青少年の50%、即ち1760万人と試算された。そのうち既に300万人がメン

タリングをうけ、残る1460万人がメンタリング運動の対象とすべき「メンタリング格差」で あるという9)。メンタリング運動はメンタリングを必要としっっもそれを受けられないでい る青少年全てにメンタリングを提供することを目指している。

 本稿が対象とする、親が収監されている青少年、障がいを持っ青少年、フォスター・ケア のもとで育っ青少年は、大人に向けた自立過程にあってメンターを最も必要としている社会 集団であることは多くの研究によって実証され、論を待たない。今日の米国のメンタリング 運動の前線はこうした「特別な支援」を必要とする青少年の社会的包摂に向けられている。

2)米国のメンタリング運動の動向と成果

 米国における青少年向けメンタリング運動は、萌芽期(1980年代)、拡大第1期(1988年 から1996年)、拡大第2期(1997年以後)を経て今日に至っている。それは1997年に開催さ れた「アメリカの将来のための大統領サミット」(Presidents  Summit for American s Future、通称メンタリング・サミット)によって新たな拡大の画期を迎え、以降、連邦や州 も補助金や審議会の設置、メンタリングのための有給休業制度等、メンタリング運動の充実 発展に向けた指導力を発揮している。2002年にはメンタリングの記念切手の発行と共に1月 をメンタリング月間とする運動が開始され、大統領によるメンタリング月間宣言が出されて いる °)。さらに2003年には、「恵まれない子どものための大統領特別委員会(The White House Task Force for Disadvantaged Youth)」が、フォスター・ケアの下で育っ青少年等、支 援を最も必要としている青少年に対する重点施策として、教育や職業訓練の機会の整備と共

に、メンタリング・プログラムの拡大を指示している 1)。

 青少年向けメンタリング運動の拡大を強力に推進しているのが連邦政府等による各種補助

金である。現在、連邦政府による補助金は、①教育省内の安全と薬物のない学校と地域コ

ミュニティ全国活動事務局による「Mentoring Programs」と、②健康ヒューマンサービス

省、家族青年サービス局による「収監者子弟のためのメンタリング」がある。前者は2001

年に「どの子も置き去りにしない法律」(No Child Left Behind Act)の一部として、後者は

2002年の「安全と安定した家族の促進のための修正」法によって導入され、2007年度には

各5000万ドル、計一億ドルの予算が連邦議会によって承認されている。これら以外にも、

法務省関連の州青少年非行防止局、州教育省による21世紀コミュニティ学習センター、

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GEAR−UPプログラムによっても青少年向けメンタリング・プログラムの活動を促進するた

めの補助金が支出されている 2)。

 メンタリング・プログラムは、参加者に「参加してよかった」という喜びと生きがいを与 える一方、従来より「偶然のお見合いのようなもの」「本来なら教師が担うべき役割」「ボラ ンティアそのものの虚栄心と限界」といった批判もないわけではない。安易な運動拡大によ るプログラムからの離脱がメンターやメンティを傷っけることへの警鐘やプログラムそのも のの成果の限定性も指摘されている今日13)、良質のメンタリング・プログラムがもたらす一 般的成果の核心は関係性そのものにあるとされ、関係性が及ぼすメンターとメンティへの効 果として、次のような具体的成果が報告されている。

 良質のメンタリング・プログラムがもたらす学業関連の成果としては、自信や学習意欲に 加え、楽天的になった、他者のいうことを受け入れるようになった等、学校(生活)への態 度に改善傾向や、退学率の低下、出席率や成績の向上等が報告されている。社交や感情面に ついては、薬物やアルコール飲料への態度や使用、攻撃的行動、不安感情や不安を操作する 能力、達成動機、家族との関係、自信・自己概念・自尊心・個人的属性に対する積極的な態 度、感情表現を含むコミュニケーション・スキル、問題に対する行為と注意、自己統制と同 胞関係スキル、年長者への態度、大人との関係性、武器所持・薬物使用・喫煙・性行為の回 避に成果が上がっていることが知られている1%

 近年、個別プログラムの成果の検討に加え、各地のメンタリング・プログラムの成果の総 括レヴューがなされている。

 2002年にはDuBoisらによる実験比較研究がなされてきた55のメンタリング・プログラム

の効果に関するメタ分析がなされ、長期的に見るとメンタリングの効果は僅かであることが 判明する一方、理論と実証に基づいた「最良の実践」(Best Practice)が活用され強い関係

性が築かれる場合には、メンタリング・プログラムの効果は大いに高まることが確認され

た15)。同年、Jekielekらによるアメリカの著名な10のメンタリングプログラムの成果に関す る比較研究がなされ、学業や非行心理的発達等の各分野における成果とそれを生み出すプロ グラムの特徴が明らかにされている16)。また2006年には、Rhodesらがメンタリング・プロ グラムの成果研究の現状、研究と実践の協力、社会政策への示唆を総括している17)。こうし たメンタリング運動の成果と研究の進展を反映し、近年、応用心理学や発達心理学の事典に も「メンター」や「メンタリング」の項目が新設され 8)、複数の彪大なハンドブックも出版

されている19)。

 こうしたメンタリングの成果は、これまで社会諸科学が蓄積してきた、子どもと大人の関 係や、教育、地域コミュニティに関する様々な知見と合致している。心理学的知見からは、

メンタリングはgenerativity(世代継承性)等の発達課題の成就、レジーリエンス、「重要な る他者」と役割モデル、ソーシャル・サポート、ライフ・コンヴォイの補強として機能して いる。社会学的知見からは、社会統制論、社会関係資本の増強による地域コミュニティの紐

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帯促進に寄与し、教育学的知見からは、生涯学習(教育)における統合の実現、学校での一 斉教授に代わる児童中心主義や個別継続支援、正統的周辺参加論や「発達の最近接領域」等 の学習論、従来の教養主義に代わる非エリート主義的政治的実践的な「新しい」教養論とし ても重要性が指摘できる。メンタリング運動は、地域コミュニティの青少年問題の実際的必 要から市民ボランティアによって開始されたものであるが、それは図らずも上記のような理 論的妥当性に基礎づけられながら、多くの成果を上げているe°)。

3.特別な支援を必要とする子どものためのメンタリング・プログラム

上記のいわば一般的な青少年向けのメンタリング・プログラムに加え、近年、真にメン

ターを必要としている、特別な支援を必要としている青少年のためのメンタリング・プログ

ラムが脚光を浴びている。それらは、親が服役中の子ども、障がいをもつ青少年、フォス

ター・ケアのもとで育っ子どもである。

1)親が服役中の青少年のためのメンタリング・プログラム

 米国には、現在、約200万人の親が服役中の5歳から18歳までの子どもがいると見積もら

れている。服役者人口は毎年6%増加していっている現状にあって、こうした子どもの数も

増加していることが推測される。これらの子どもたちの親の49%はアフリカ系であり、

93%が父親であるが、近年、母親も増加傾向にある。また女性服役者の65%に子どもがお り、6%以上が妊娠中であると試算されている。服役中の母親の60%以上が子どもと100マ

イル以上離れたところで収監されている2 )。

 こうした子どもたちの多くは、親の収監以前から貧困や差別、不安、暴力等の苦境にあ

り、親が経済問題の元凶である場合や、虐待や養育放棄がなされている場合には、親の収監 はむしろ子どもにとっては安堵となる場合さえある。親が服役中の子どもの多くは、友人や 教師、社会一般からスティグマ(汚名)を着せられているのではないかと感じ、自身もまた 犯罪者となるよう運命づけられているのではないかという思いに見舞われることがしばしば あることが知られている。こうした子どもたちの多くは、恥辱の思いと相手に拒否されるこ とへの恐怖から、親が犯罪者であることを親友や、助けを提供してくれる可能性の高い大人 にも明かさない。その結果、こうした子どもたちは、しばしば、死別や離婚、徴兵によって 親と離れて暮らしている他の子どもたちが周囲から受けている愛情や支援を受けられないま

ま放置されているee)。

 また、親が服役中の子どもたちには、自尊心の低さ、怒りと落胆、感情的麻痺と友人や家 族との関係回避、自暴自棄や孤独・恥・罪・怒りの感情、食事や睡眠の障害、成績不振、家 庭や学校での不適切な破壊的行動、等の割合が高いことが知られている。その結果、こうし た子どもたちは他の子どもたちよりも保護観察となる確率が7倍、人生のある時点で収監さ

(6)

れる確率は6倍となっている。こうした指標は単なる確率であり、親が服役中の全ての子ど

もにこうした傾向がみられるわけではなく、服役の期間や家族のコミュニケーションの程

度、性格、年齢、地域コミュニティの支援等によって子どもの対人関係や態度は異なってく

る。重要なことは、それが、例えば教師等の家族以外の気遣い世話をしてくれる大人との支 援的関係性によって異なってくることである。子どもが混乱に陥った際、信頼できる強固な メンタリングの関係性がその子を保護し、子どもに安定と支援を提供することができること が各種研究によって明らかになっているas)。

 米国の最初の、親が服役中の子どものためのメンタリング・プログラムは、2000年に

フィラデルフィアで開始されたAmachiプログラムである。 Amachiとは、西アフリカの言葉

で「誰にもわからない、その子どもを通じて神様が我々にもたらしていること」を意味す

る。Amachiプログラムは、キリスト教会、 P/PV(Public&Private Venture)、 BBBSA(Big Brothers Big Sisters of America)、ならびにフィラデルフィア大学宗教都市社会研究センター の連携によって開始された。キリスト教会がメンターの募集、P/PVが資金管理や評価業務 を担当し、BBBSAがメンターのスクリーニングやマッチング、研修等を担当した24)。

 フィラデルフィア(人口:約150万人)には親が服役中の5歳から18歳の子どもが約2万

人いると見積もられている。こうした子どもたちのメンター募集の中心となったのは、キリ スト教会であった。本プログラムの場合、メンティの募集方法が極めて困難であり、試行錯 誤の末、担当者が刑務所に出向いて服役中の親たちにプログラムを説明し、親を通じてメン ティの募集を行った。子どものいる男性服役者の約半数、女性の90%が申し込みを行い、

メンティ申込み総数は約2000人であった。しかしながら、服役中の親が記した申込書から

得られた情報に基づいてメンティ候補者である子どもと接触を試みるも、約半数は住所が間 違っていたり、引っ越してしまっていたりして消息が不明となっていた。地理的問題や該当 年齢制限により、42の教会を通じて2002年に実際に組み合わされたのは400組であった25)。

 メンターとメンティの活動内容を見ると、通常のメンタリング・プログラムと同様、ぶら ぶらする(55%)、食事をする(39%)、スポーッや映画や劇場に出かける(21%)、教会の

礼拝(21%)等であり、子どもとごく自然に共に楽しく時間をすごすごとが主流であるこ とが判明した。活動実績としては、平均月2回会い計7.3時間となっているが、週に22時 間、5日以上会っているペアもある。特に1年以上継続参加しているペアでは、活動の平均

時間が週8.5時間となっている26)。

 46%のペアは引越しや保護者の意向等により解消されたが、28%のペアは1年以上関係 性を継続し、25%が2年以上続いている。また1年以上の継続者への調査によれば、93%の

メンターと82%の保護者はメンティがより自信を持っようになったとし、約60%が将来へ の見通しがよりよいものになったとしている。多数が成績と出席率の向上を報告してい

る27)。

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2)障がいを持つ青少年のためのメンタリング・プログラム

 現在米国には、500万人以上の学齢期の子どもが何らかの障がいを持ち、その割合は21歳

以下の青少年の10%となっていることが知られている。障がいをもつ青少年の社会参加は 健常者のそれとは大きな隔たりがある。例えば、障がいのある青少年の35%が地域コミュ ニティにおいて完全には包含されず(健常者は21%)、22%が高校を中退し(健常者は

9%)、18歳から64歳の人口の32%が働き(健常者は81%)、経済的余裕がないために28%

が治療を延期し(健常者は12%)、家庭でインターネットにアクセスできるのは28%に過 ぎず(健常者は57%)、交通手段に問題を抱えるものは30%(健常者は10%)に上ってい

るes)。

 障がい者のためのメンタリング・プログラムは、障がい者の支援にあたっての医療支援モ デルから社会支援モデルへの転換、ならびに就業支援にあっての障がい者自身の個性や希望 といった自己決定を重視する流れの中で生じてきた。初めての障がい者向けメンタリング・

プログラムは、1983年に、ボストンのソーシャルワーカーであるRegina Snowdenが、障が

いを持っ若者にとって、障がいをもっ成功した大人以上の役割モデルはないとして、

Partners for Youth with Disabilities(PYD)を設立し、数組の一対一のメンタリング・プログ

ラムを試行したことにある。同プログラムの開始当初のメンターとメンティは、20年以上

たった今日も交流を継続していることが報告されている。同プログラムは一対一に、グルー プ・メンタリングやテレメンタリングも加わり、参加者は年間600組に拡大している。同プ ログラムの実践と成功から他の団体も大いに学んでいることが知られている29)。

 1997年の通称メンタリング・サミットによるメンタリング運動の新たな拡大と、10月を

全米障がい者雇用促進月間(National Disability Employment Awareness Month)の側面活性

化のために学卒後の就業支援活動を雛形に、1999年に連邦政府は「全米障がい者メンタリ

ングの日」(National Disability Mentoring Day)を開始している。「全米障がい者メンタリン グの日」運動は、2001年にアメリカ障がい者協会(The American Association of People with Disabilities, AAPD)が、連邦労働省と障がい者雇用政策事務局(ODEP)と協賛してその事

務を引き継ぎ、2001年の32州1500人の参加者は、2003年には全米50州にプエルトリコ等

も含めた8000人の学生や求職者が参加する大規模な運動に拡大している。2003年には、外

国からの参加があることから名称が「障がい者メンタリングの日」(Disability Mentoring Day)に変更され、雇用者からメンターを募集し、障がいを持っ学生や求職者のためのジョ

ブ・シャドーウィングや実際の求職活動も行うようになっている。2003年には連邦労働省

障がい者雇用政策事務局が障がいを持っ青少年メンタリング・プログラムのための補助金を 創設し、各地域の障がい者向けサービス提供者が、障がいを持っ青少年の雇用ならびに高等 教育への進学に向けたメンタリング・プログラムを開始するのを支援している3°)。

 障がいを持っ青少年のためのメンタリング・プログラムの成果にっいては、研究そのもの

が未だ非常に少ない。そうした数少ない研究のひとっである、1995年のPowersらの研究に

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よれば、メンタリングを受けている青少年は、そうでない青少年よりも障がい関連の自己効 力感が高い水準にあり、地域コミュニティでの自立の障壁を克服するのに用いられる戦略に 関する多くの知識をもっていることが知られている。またメンターは、①メンティが障がい に関係した障壁の克服の方法を学び、②自身の潜在能力と自立に向けた将来的潜在能力によ り積極的になり、③より自分を頼り独立独行になり、④働き、大学に進学し、自身の家に住 まうことにより関心を示すようになったとしている31)。メンタリングは、自尊心や学業成 績、就学出席によい成果をもたらす強力な介入であることが判明しっっある。

 障がいを持っ青少年のためのメンタリングは、今日、就労に向けた詳細なガイドブッ ク32)が発行され、学校での準備経験、キャリア準備と職場での学習経験、青年の発達と

リーダーシップ、関係を結ぶ活動、の各段階においていかにメンタリングが青少年を有効に 支援できるのか記されている。また、障がいを持っ青少年のための様々なタイプのメンタリ

ング・プログラム、すなわち、一対一、集団(一対多)、テレメンタリング、ピア・メンタ リング、高齢者をメンターとするプログラム、等が提供され工夫が重ねられている。

3)フォスター・ケアの下で育つ青少年のためのメンタリング・プログラム

 毎年、虐待やネグレクトによって、25万人以上の子どもが親元を去り、フォスター・ケ アの元に置かれている。米国には常に50万人から80万人の青少年がフォスター・ケアのも

とにあることが知られているss)。その平均年齢は10歳であり、1歳以下が6%、1歳から5歳

が26%、6〜10歳が20%、11歳〜15歳が28%、16歳〜18歳が18%となっている。フォス

ター・ケアの下にある子どもたちの人種構成をみると、黒人が32%(人口割合は15%)、

白人41%(同61%)となり、人種的偏りが見られるsc)。

 毎年約20000人の18歳以上の子どもが年齢制限を過ぎてフォスター・ケアを去り、新た な生活の課題に直面している。こうした子どもたちの高校卒業者の割合は54%、学士号以 上の学位の取得者は2%、子どもが生まれた者は84%、失業者は51%、健康保険に加入し ていない者は30%、路上生活者が25%、公的扶助を受けている者は30%となっている。

フォスター・ケアを去った12〜18ヶ月後に、投獄され公的保護を受けるこれらの青少年の

割合は、青少年一般よりも遥かに高いことが知られているSS)。こうした青年はこの困難な子 どもから大人への転換期に、恒常的に身近に存在し、支援し、気遣ってくれる大人を切実に 必要としている。

 1970年代から開始されていた障がい者自立運動の影響を受け、1990年代にはフォス

ター・ケアのもとで育っ青少年の自立に向けた法整備を背景に36)、2003年にはルイジアナ州 選出議員のMary LandrieuらによってThe Foster Care Mentoring Actが導入された。同法によ

り新しい競争資金が導入され、長期的関係を築いてきたメンティ学生のローンの一部免除、

フォスター・ケアの下にある青少年のメンターになることに関心のある個人を適切なメンタ

リング・プログラムに紹介する全国ホットラインやウェブサイドの作成等が進展してい

(9)

るsu)。

 1990年代の児童福祉プログラムに関する調査によれば、フォスター・ケアの下で育っ青

少年向けプログラムの支援内容は、概ね以下の五つの範疇に分類されている。第一は転換期 にある生活上に必要なスキル、第二は文化的エンパワーメント、第三は会社や企業、第四は 若い親のためのプログラム、第五はメンターに伴われたグループ・ホーム、である。メンタ リング・プログラムはこうした多様なプログラムにおいて、フォスター・ケアの下にある青 少年と気遣う大人との出会いを提供し、移行期の諸問題の解決資源として有効であろうこと が期待されているSS)。が、虐待等によりフォスター・ケアのもとで育つ青少年にメンタリン グが有効であるのかどうかを確証する実証は今後の課題となっている39)。

 今日、Mentoring USAやAFC Mentoring等、少なくとも6州においてフォスター・ケアの 下で育っ青少年に特化したメンタリング・プログラムが活動を展開し、こうした青少年の傷 っきやすさを十分に考慮した本人の自己決定権を基本にした慎重で責任あるメンタリング活 動となるよう、メンタリング・プログラムの事務局のための詳細なガイドブック4°)が完備

されっっある。

4)「特別な支援」を必要と青少年のためのメンタリング・プログラムの今後の可能性

.こうした「特別な支援」を必要とする青少年のためのメンタリング・プログラムは近年開 始されたばかりであり、通常のメンタリング・プログラム以上に、メンターとメンティの関 係性の構築に多くの課題や困難があることは確かである。しかしながら、こうしたプログラ ムは、今後、ますますの展開が予想される。

 その理由の一っが、こうした特別な支援を必要とする青少年のメンターになることを考え

ている市民の意識、潜在的メンターの存在がある。先述の2005年のMENTOR(National

Mentoring Partnership)の調査によれば、メンタリング・プログラムに参加経験のある大人

の中で、親が収監されている子どものメンタリングを行ったり行った経験のある者は17%

であるが今後そうした活動をしようと考えている者は78%、身体障がい者とのメンタリン グ経験者は23%であるが今後そうした活動を考えているものは83%、同様にフォスター・

ケア制度の下で育っている青少年とのメンタリング経験者は11%であるが今後そうした活

動を考えているものは81%となっている41)。特別な支援を必要とする青少年向けのプログ

ラムの拡大可能性が見て取れる。

 またこうした特別な支援を必要とする青少年のメンタリング・プログラムの拡大には、高

齢者の活動が期待されている。通常、65歳以上の高齢者は最もメンタリング運動に参加し

ている割合が少ない年齢人口であるが、特に、フォスター・ケァの下で育っ青少年のための メンターとして、時間的余裕が十分にあり経験豊かで気長で包容力のある高齢者メンターの 活躍に高齢者によるボランティア活動の一環として期待が寄せられている42)。

 総じて、こうした特別な支援を必要とする青少年のためのメンタリング・プログラムは、

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これまでの言わば一般的な青少年向けプログラムに関する研究において確立されてきた「最 良実践」43)の要素を含まなければならないことはいうまでもない。それらは、よく考案さ れ、計画され、管理され、運営され、公正に評価されるプログラムであらねばならない。ま た、①メンターの慎重なスクリーニングとオリエンテーション、ならびに継続研修、②メン ティとメンターの関係性を支援するためのモニタリング、③親の関与、がプログラムの成果 に決定的に重要 )であるのは、一般的な青少年向けメンタリング・プログラムと同様であ

る。

4.おわりに

 以上、米国における特別な支援を必要とする青少年のためのメンタリング・プログラムの 事例として、親が服役中の青少年、障がいを持つ青少年、フォスター・ケアの下で育つ青少 年、のためのプログラムの動向を概観してきた。米国においても、社会全般に関する客観的 調査分析によればこうした努力にもかかわらず階層再生産は強化され、格差が消滅する兆し は見られない。が、少なくともそれを人々は放置していない。社会的排除を克服し、社会的 包摂に向けた社会運動がその実証成果研究と共に展開されている。

 経済活動のグローバル化の進展による市場原理の貫徹を背景に、日本においては「格差」

拡大と社会関係資本の劣化が進んでいる。児童扶養手当法改正やホームレス自立支援法

(2002年)、障がい者自立支援法(2005年)の施行や生活保護制度に「自立支援プログラ

ム」が導入される等、日本においても社会的包摂に向けた新たな動きは見られるものの、生 活保護や就学援助を必要とする世帯で育っ青少年は急増し、親が服役中の子どもや障がいを

もっ青少年、里親や児童福祉施設で育っことを全儀なくされている子どもも存在する45)。

我々はこうした次世代が自らの能力を存分に発揮し自立できるよう支援できているのか。

我々自身の自立に向けた課題克服に際して先行世代が惜しみなく与えてくれた愛情や支援、

激励をいかに次世代に継承していけるのか。こうした問いは社会において最も弱い立場にあ る、特別な支援を必要とする青少年にこそ向けられねばならない。

 社会的排除や「格差」の問題、家庭の経済力や意欲の問題として語られる教育格差の問題 を、大人と子どもの具体的な関係性の問題に読み替えていかなければならない。抽象的に語 られがちな「格差」の問題を、必要な支援を受けたくとも受けられない青少年の「メンタリ ング格差」の問題として捉えなおし、我々一人一人が次世代に寄せる素朴な善意が具体的に 生かされる、素人の市民と専門家が協働したプログラム作りが必要と思われる。「見知らぬ 人の親切」を起点にした青少年への直接的支援である米国のメンタリング運動の前線におけ る多彩な試みは、メンタリング・プログラムそのものの広い社会問題への適用可能性を示す と共に、日本における「排除と包摂」をめぐる研究と実践に多くの示唆を与えている。

(11)

1)社会的排除については、Mittler, P., Worhing TowardS lnclusive Education, DaVid FUIton Pub,2000(山口薫訳   『インクルージョン教育への道』東京大学出版会2002年)Bhalla, A. S.&Lapeyre, F., Paverty and Exclusion in  αGZbbα∫輪Z4, Palgrave Macmillan,2004(1999)(福原宏幸・中村健吾監訳『グローバル化と社会的排除』

  昭和堂2005年)、Young, J. The Exclusive Society, Sage Publications,1999,(青木秀男・伊藤泰郎・岸政彦・

  村澤真保呂訳『排除型社会』洛北出版2007年、を参照。

2)八木晃介『「排除と包摂」の社会学的研究』批評社2000年。鈴木敏正編著『社会的排除と「協同の教   育」』御茶の水書房2002年。日本社会教育学会編『社会的排除と社会教育』(日本の社会教育第50集)

  2006年等。

3)宮本太郎「社会的包摂の展開と市民社会」日本社会教育学会編、前掲2006年81−82頁。

4)Philip, K., Menton ng and Young People, infed, First published 2000, Last updated O4 December 2007.

  (http:〃www.infed.orgAearningmentors/mentoring.htm). Colley, H., Mentoring/br Social lnclusion Routledge−

  Falmer,2003.

5)U.S. Department of Education, Mentoring Resource Center(http:〃www.edmentoring.org).

6)筆者稿「青少年向けメンタリング・プログラムの構造的特徴と類型」『青少年教育フォーラム』(国立オ   リンピック記念青少年総合センター研究紀要)第3号2003年を参照。

7)MENTOR(National Mentoring Partnership), Mentoring in America 2005: A Sη幼sぬo (ヅ伽Current State of  Mentoring,2006.

8)筆者稿「米英のメンタリング運動と生涯発達支援の革新」『日本生涯教育学会年報』第25号2004年。

9)Volunteers Mentoring 】routh:Imptications for Closing the Mentoring Gap, Corporation for National and   Community Service,2006.

10)筆者稿「米国におけるメンタリング運動の展開」『言語文化』(愛知淑徳大学)第11号2003年。

11)The vvaiite House Task Force for Disadvantaged}Youth Final Roport October 2003.

12)(http:〃www.mentoring.org/take_action/fUnding/obtaing_federal〜grants/php)

13)Freedman, The Kindness Of Strangers, Cambridge University Press,1999(1993), pp.76−88. Rhodes, J., Stand   by Me, Harvard University Press,2002.

14)Dubois, D.&Karcher, M., eds., Handbooh(of}Youth Mentoγing, Sage,2005.

15)DuBois, D. et aL, Effectiveness of Mentoring Programs for Youth:AMeta・Analytic Review, Special Issue:

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16)Jekielek, S., Moore, K.,&Hair, E., Mentoring Programs and Youth Development:ASynthesis, Child TrendS,

  2002.

17)Rhodes, J.&DuBois, D., Understanding and Facilitating the Youth Mentoring Movement, Social・Poliay Report,

  20−3,2006.

18)Reid, P T&Gilbert, M., Mentoring, Enayclopedia Of Applied 1)evelopmental Science, Vol.2, Sage,2005, pp.

  721−723.

  Owen, C.&Solomon, L, Mentor, Enayclopedia(ofHuman Development, Vol. 2, Sage,2006, pp.830−831.

19)Dubois, et. al,2005,0p. cit. Allen, T&Eby. L., eds., The Blαckwell Handbook of Mentoring, Blackwell   Publishing,2007.

20)筆者著「メンタリング・プログラム」日本コミュニティ心理学会編『コミュニティ心理学ハンドブッ   ク』東京大学出版会2007年等。

(12)

21)MENTOR(National Mentoring Partnership), Mentoring Children of Prisoners(http:〃www.mentoring.org/

  program_research_corner/mentoring_children_of prisoners)

22) Ibid.

23) Ibid.

24)Jucovy, L, Amachi:漉η励㎎Children of PdSoners in Philαdelphia, Publiq/Private Ventures,2005, pp.1−11.

25) Ibid., pp.13−25.

26) Ibid., p.28.

27)MENTOR(National Mentoring Partnership), Mentoring Children of Prisoners(http:〃www.mentoring.o㎎/

  program_stafEtresearch_corner/mentoring_children_otprisom℃s)

28)Partners fOr Ybuth With Disabilities, Best Practices fcr Mentom ng Youth with Diabilities,2005,1−9.

29) Ibid.,1−4.

30) n)id.,1−4,5,6.

31)Powers, L. et a1, An Exploratory Randomized Study of the Impact of Mentoring on the Self−efficacy ad   Community−based Knowledge of Adolescents with Severe Physical Challenges,ノburnal(Of Rehabilitation,61,

  1995.

32)National Collaborative on Workforce&Disability for Youth, Paving the Way to Work: A G ide to(lareer−Focused   Mentoringfor Youth with DiSabilities,2006.

33)MENTOR(National Mentoring Partnership), Fbstering Positive Outcomes(http:〃www.mentoring.org/

  program_reSearch_corner/fOstering_positive outcomes.php)

34)Disproportionality and Disparity(http://www.fostercaremonth.org/AboutF()sterCare)

35)Supponing Youth in F()ster Care(http:〃www.mentoring/org/mentoring_month/about/foster_care.php)

36)Its my Ltfe:AFramework for Youth Transitioning from Foster Care to Successful Adulthood, Cδs砂Family   Programs,2001, pp.17−19.

37)Mentors for Foster Care Youth(http:〃www.mentoring.org/take_action/bther/foster_care_mentoring.php)

38)Mech, E. et a1., Mentors fOr adolescents in fbster care, Child and Adolescent Social Work/burnal,12,1995.

39)Britner, P&Kraimer−R三ckaby, L., Abused and Neglected Youth, in DuBois&Karcher eds., op. cit.

40)North, D.&Ingram, B., Foster Youth Mentorship Train ing for Program」Managers, EMT.

41)MENTOR(National Mentoring Partnership),2006, op. cit., p.5.

42)Menton−ng Children in Foster(lare:(IOnsiderations and Partnership StrategiesカγSenior(Oゆs 1)irectors,

  National and Community Service,2005, pp.1−2

43)MENTOR(National Mentoring Partnership), ElementS〔ofEffective Practice,2003.

44)DuBois, D. et aL op. cit.

45)「平成19年版犯罪白書のあらまし」(www.moj.go.j()nHOUSO/2007)によれば2006年末の刑事施設収容人   員は8万1255人、『平成19年度学校基本調査』(http:〃www.mext.go.jp/b_menu/toukei)によれば特別支援   学校在学者数は10万8173人、厚生労働省「市町村における児童家庭相談業務等の状況にっいて」

  (http:/1www.mhlw.go.jp/bunya/kodomo/dv18/index.html)によれば2006年度の全国の市町村が受け付けた児   童虐待に関する相談受付件数は45,901件となっている。

参照

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