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著者 岩本 廣美, 黒飛 啓志

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奈良県における菜の花プロジェクトの展開と教育実 践 − 奈良市の小学校・幼稚園の取り組みに注目し て −

著者 岩本 廣美, 黒飛 啓志

雑誌名 次世代教員養成センター研究紀要

巻 6

ページ 103‑113

発行年 2020‑03‑31

URL http://doi.org/10.20636/00013329

(2)

奈良県における菜の花プロジェクトの展開と教育実践

- 奈良市の小学校・幼稚園の取り組みに注目して -

岩本廣美・黒飛啓志

(奈良教育大学 社会科教育講座、特定非営利活動法人 宙塾)

Development ofRape Blossom Projectsin Nara Prefecture:

Focused on Case Studies of Practice at Elementary School and Kidergarden in Nara-City Hiromi IWAMOTOHiroshi KUROTOBI

(Department of Social Studies, Nara University of Education, Non-profit Organization Ohzora-juku)

要旨:1998年に滋賀県で始まった菜の花プロジェクトは、2002年奈良県にも導入され、その後県内各地で取り組まれて いった。組織的な取り組みが2019年現在まで継続されてきた奈良市、桜井市、葛城市では、非営利団体が学校等での教 育実践を支援し、また、ナタネ油を地域の寺社に奉納している学校等が多い。奈良市立の3小学校と2幼稚園で菜の花 プロジェクトに取り組んでいる中で、鼓阪北小学校と六条幼稚園における取り組みを具体的に検討した結果、学校・園と 地域が一体となって取り組み、体験学習としての成果や世界遺産学習としての意義を見い出すことができた。

キーワード:菜の花プロジェクト rape blossom project ナタネ Brassica napus

総合的な学習の時間 integrated studies 非営利団体 non-profit organaizetion 持続可能な開発目標 SDGs

1.問題の所在

菜の花プロジェクトとは、1998年から滋賀県愛東町(現 在東近江市)で始まった菜の花を活用した環境保全等に関 する運動のことである。この運動を主導してきた藤井絢子 氏(以下、藤井氏と記す)は、菜の花プロジェクトの内容 を次のように説明する。「休耕田に菜の花を植え、そこで 生産されたナタネから油を搾り、それを地域や学校で利用 し、廃食油は回収して利用すれば、かなりの量の軽油代替 燃料(バイオ・ディーゼル・フューエル、以下BDFと記 す)が生産でき、エネルギー利用として成り立つのではな いか。そして、それは化石燃料依存のエネルギー構造を、

環境に負荷をかけない資源循環型の構造に変えることが できる」(筆者一部改変)。菜の花プロジェクトに取り組み 始めた背景には、琵琶湖沿岸地域で、廃食油を琵琶湖に流 さず回収して石けんにリサイクルする運動がすでに進ん でいたという事情があった。また、藤井氏がドイツのバイ エルン州でナタネ油を精製してBDFをつくる取り組みを 見て、日本にも導入できないかという着想を得たことも動 機になっている(藤井2002)。こうした経過から見て菜の 花プロジェクトには、主に二つの活動が含まれていると考 えられる。一つは、ナタネ1を栽培し、収穫した種子から 搾油したナタネ油を利用することである。もう一つは、廃

食油を回収してBDFにリサイクルして利用することであ る。その根底に、エネルギー利用過程において二酸化炭素 の排出を削減し、地球温暖化防止に寄与したい、という願 いがあると考えられる。また、これらの活動は、SGDs17の目標のうち「7.エネルギーをみんなに そしてクリー ンに」に関連し、とくに、ターゲット「7.2. 2030年まで に、世界のエネルギーミックスにおける再生可能エネル ギーの割合を大幅に拡大させる」に関連すると考えられる。

菜の花プロジェクトは、多くの賛同者を得てその後日本 全国各地に広がり、2001 年には、菜の花プロジェクトに 関わっている人や関心を持つ人が集まり、「全国菜の花サ ミット 2001」を滋賀県新旭町(現在高島市)で開催して いる。この全国サミットは、以降開催地を替え、2019年 まで毎年開催している2。「全国菜の花サミット」の開催と 並行して、全国各地で菜の花プロジェクトを推進している 非営利団体等により、菜の花プロジェクトネットワークが 形成され、同ネットワークには、2003年時点で全国37都 道府県76団体等が関わっている(藤井・菜の花プロジェ クトネットワーク2004)。201910月時点では、全国45 都道府県120団体等が加盟している3

日本各地における菜の花プロジェクトの展開は、経済学、

社会学、地理学、農学等の各学問分野でも注目され、各地 における菜の花プロジェクトの取り組み事例が報告され ている(中島ほか2004,中村2006,皆田・四方2006

奈良県における菜の花プロジェクトの展開と教育実践

- 奈良市の小学校・幼稚園の取り組みに注目して -

岩本廣美・黒飛啓志

(奈良教育大学 社会科教育講座、特定非営利活動法人 宙塾)

Development of “Rape Blossom Projects” in Nara Prefecture:

Focused on Case Studies of Practice at Elementary School and Kidergarden in Nara-City Hiromi IWAMOTO, Hiroshi KUROTOBI

(Department of Social Studies, Nara University of Education, Non-profit Organization Ohzora-juku)

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戚・松岡2007,富樫ほか2009,古川2011,小池ほか2014)。 各地の事例では、非営利団体が活動に関わっていることの 比較的多い点が特徴になっている。

しかし、これらの諸研究では、奈良県における菜の花プ ロジェクトに関する具体的な報告は見当たらない。また、

これらの報告では、菜の花プロジェクトの取り組みの一部 が、子どもたちに環境学習の機会を提供していることに言 及しているが、教育実践に関する具体的な記述は乏しい。

菜の花プロジェクトに関する教育実践に焦点化させた報 告もある(植田2003,鳥取県倉吉市教育委員会2010)が、

そこでの記述は、教育課程における位置付けの説明を欠く など甚だ不十分なものであるといわざるをえない。本稿で 取り上げようとしているのは、学校等における菜の花プロ ジェクトに関わる教育実践のあり方である。これには地域 ごとに特色があると考えられるが、先行研究では、この点 に言及してこなかった。また、非営利団体が学校等の教育 実践を支援していること、すなわち、地域側が学校等の教 育支援に取り組んできたことはこれまでも触れられてき たが、支援の具体的状況は述べられていない。菜の花プロ ジェクトに関する教育実践を具体的に検討していこうと するならば、支援の状況が具体的に把握される必要がある と考えられる。

先行研究におけるこうした状況を勘案し、本稿では次の 2点を明らかにすることを目的とする。

・奈良県において非営利団体が進めてきた菜の花プロ ジェクトは、具体的にどのように展開してきたのか、ま た、そこにはどのような地域的特色が見られるのか。

・奈良県の学校等における菜の花プロジェクトに関する 教育実践は具体的にどのような状況なのか、また、非営 利団体は具体的にどのように教育実践を支援し、どのよ うな効果が得られたのか。

奈良県における菜の花プロジェクトの展開に関する事 実把握は、主に、実質的にそれを担ってきた非営利団体の 関係者から得た情報を用いて行った。教育実践に関する事 実把握は、菜の花プロジェクトを実践している学校等から 得た情報だけでなく、それを支えてきた非営利団体等から 得た情報も活用し、奈良県における菜の花プロジェクトの 展開状況を総合的に把握することに努めた。そのために、

20199月から10月にかけて実施した関係者からのヒ アリング、関係機関の発行物及びウェブサイトの閲覧に加 え、現地観察や筆者らのナタネ栽培に関わる経験を通して 得た知見を活用する。

以下、2.では、菜の花プロジェクトで栽培されている ナタネという作物の特性や栽培方法について述べ、また、

ナタネの種子から搾ったナタネ油の利用方法についても 述べる。3.では、奈良県内で菜の花プロジェクトに組織 的、計画的、継続的に取り組んでいる奈良市、桜井市、葛 城市における展開状況を、主として非営利団体の活動に注 目しながら具体的に述べる。4.では、奈良市で菜の花プ ロジェクトに取り組んでいる小学校及び幼稚園を 1 事例

ずつ取り上げ、教育実践の状況とそこに見られる特徴を述 べる。奈良市での教育実践にとくに注目するのは、奈良市 における小学校及び幼稚園での菜の花プロジェクトに関 する教育実践に、筆者の一人である黒飛が深く関与してい るためである。

2.ナタネの来歴・利用と栽培特性

菜の花プロジェクトに求められる基本的条件は、作物の ナタネを栽培し、収穫した種子から油を搾ることである。

本節では、このナタネの来歴、日本における栽培状況、ナ タネ油の利用の歴史について、志賀(1971)、藤井(2011) 及び他の関連文献をもとに述べるとともに、筆者らのナタ ネ栽培及び加工の経験を通して栽培方法や収穫後の加工 方法についても述べる。

2.1.ナタネの来歴と利用

日本で明治時代より前に栽培されていた在来ナタネ

Brassca campetris)は、奈良時代以前に中国大陸から 日本に持ち込まれたものであるといわれる。当初は、野菜 としての利用が中心であり、種子収量の多い品種が搾油用 に選択されていったと考えられている。この在来ナタネか ら油を搾って本格的に利用するようになったのは江戸時 代になってからである。これは、室町時代末期に「しめ木」

と呼ばれる木製大型の搾油器械が考案され、江戸時代に普 及・発達したことによる(深津1983)。江戸時代は、ナタ ネ油を主として行灯など灯用に利用していた。ナタネ油の 品質が向上されるようになってからは食用にも利用され るようになっていった。さらに、搾油時に派生する油かす は、肥料として利用された。

明治時代になって西洋ナタネ(Brassica napus)が導入 されたが、在来ナタネよりも西洋ナタネのほうが栽培単位 面積当たりの搾油量が多いため、明治時代以降は西洋ナタ ネに変換していった(以下、ナタネと記す場合は西洋ナタ ネのことを指す)。また、ナタネ油を灯用に利用すること は、明治時代中期頃に石油の導入によって後退し、以降は、

ナタネ油の利用は食用が中心になっていった。

明治時代以降の日本におけるナタネの栽培は、第二次世 界大戦中に生産量が落ち込んだ時期はあるが、1970 年頃 まで全国各地で継続されてきた。油脂源のひとつとして重 視されてきたためである。1955年頃に生産量はピークに 達し、全国のナタネ作付け面積は約27ha、種子の生産 量も約32tを記録している。しかし、1965年頃からナ タネの栽培は急速に衰退していき、2007年における全国 の作付け面積は989ha、生産量は1058tとなっている。日 本においてナタネの栽培が衰退していったのは、油脂源と して外国産ナタネの輸入が増えていったためである。日本 において現在もナタネ油の消費は盛んであるが、種子はカ ナダをはじめとする外国産にほとんど依存している。

明治時代以降、ナタネは品種改良が繰り返されてきた。

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現在の日本で栽培されているナタネの品種は、主に、キザ キノナタネとナナシキブである。奈良県内の菜の花プロ ジェクトで栽培しているナタネはナナシキブである。これ らは、いずれも、秋播き品種である。

2.2.ナタネの栽培方法

ここでは、筆者らの栽培経験を通して、ナタネの栽培方 法や栽培歴を述べる。これらは、教育実践として菜の花プ ロジェクトを進めていくうえで関係者が共通に理解して おくべきことであると考えられる。

筆者らのうち黒飛は、奈良市北永井町で 2005 年から、

また、岩本は2007年から奈良教育大学(以下、本学と記 す)自然環境教育センター奈良実習園(以下、実習園と記 す)の畑でそれぞれナタネの栽培を毎年続けてきた4。そ の栽培方法や栽培歴は概ね共通しており、次に述べるとお りである。これらは、学校等でナタネの栽培をする場合の 基本形でもあると考えられる。

栽培は、秋に始まる。事前に種子を確保したうえで、ま ず、9月~10月に畑で播種し、適宜水を与えながら、1520cmまで苗を成長させる。次に、11月に、育った苗を、

基肥を施し用意していた畝に 1520cm 間隔で手作業で 移植する。移植時に根の活着を促すために水を豊富に散布 するが、その後は、目立つ雑草を抜くこと以外に翌春まで とくに手を加えることはない53月下旬頃から開花が始 まり、4月中旬頃に満開になることを確認することができ る。その後は、種子の成熟状況を見ながら、5月下旬頃に 根元を鎌で切って収穫作業(刈り取り)をする。以上が栽 培過程であるが、筆者らが経験した範囲では、農薬の使用 なしでも問題は生じていない。

ここで述べた栽培方法は苗の移植を伴うことが特徴で あり、「移植法」と呼ぶことにする。きわめて手間を要す る労働集約的な方法である。かつての奈良盆地をはじめと する日本各地で一般的であった二毛作(宮本1994)では、

この移植法で行われていた場合が多かったと考えられる。

移植をしない代わりに、苗が1015cmほどまで育って きた段階で、苗の間引きを行う方法もあり、これを「間引 き法」と呼ぶことにする。間引き法も手作業で行うため、

労働集約的である点では移植法と大差はないといえよう。

また、移植法も間引き法も、適切な指導がなされれば初心 者や子どもでも作業をすることができ、技術的に熟練を要 するものではない。ナタネの栽培を学校等に取り入れるこ とに技術的な困難はないといえよう。

しかし、農家等が少人数で数十a以上あるいはha単位 の規模で栽培する場合は、機械を用いて直播き法で行うの が一般的である。収穫も機械で行う。

ナタネの栽培は、いずれの方法で行う場合でも、年度を またがることは避けられない。この点は、教員の人事異動 や学級編成替え等がある学校等で教育実践をする場合に 考慮を要する。すなわち、菜の花プロジェクトを実践する 場合は、活動が複数年度に及ぶことを前提に、より計画的

な取り組みが求められるといえよう。また、学校等の外部 の支援を得ることによって、指導の連続性や一貫性を確保 しやすいと考えられる。

2.3.収穫後のナタネの加工方法

収穫後は、いくつかの加工工程を経てナタネ油を得るこ とができる。まず、収穫後ただちに茎や枝全体を1週間ほ ど乾燥させる6。次に種子の脱穀と選別を行う。脱穀は、

m四方の大きなシートに乾燥させた茎や枝を置き、そ の上で踏みつける方法が簡単である。踏み付けた後のシー トの上には、種子だけでなく、大量のさやも残るため、こ れを取り除く。

こうした過程を経て種子が得られるが、通常は、ナタネ の枝、茎、さやの破片等不純物がかなり混ざるため、次に これらを取り除いて種子の選別を行う。不純物のうち、種 子より明らかに大きな物は適当な網目の篩(ふるい)を通 すことによって取り除くことができる。篩で取り除くこと ができなかった小さな不純物のうち軽いものは唐箕を用 いて取り除く。以上の工程を経て、ほとんど種子だけにな る7。こうして得られた種子は、シートの上に広げてさら に乾燥させる。適切に乾燥させたものであれば、カビなど の発生は見られず、当分の間保存しておくことができる。

乾燥させたナタネの種子からは、重量換算で3分の1程 度のナタネ油を得ることができる。黒飛は、学校等で収穫 したナタネの種子から、持ち運びのできる搾油機(写真1

8を用いて搾油している。通常は、種子が約70度になるま でフライパン等を用いて煎る作業を経て搾油機に投入す る。搾油機からは、油と油かすに分かれて出てくるのをそ れぞれ容器で受ける9。この段階では油は濁っているが、

しばらく静置すると、透明な上澄みが得られ、これを別の 容器に移せばナタネ油となる。

写真1.ナタネ種子からの搾油

20151214日奈良教育大学にて)

こうしたナタネ油を得るまでの工程で派生する物が多 岐にわたることには留意すべきであろう。まず、種子の選 別の段階で、乾燥した茎や枝のほか、さやが派生する。現

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在ナタネ殻は活用されることが少なく、燃焼処理されがち であり10、資源循環の観点では問題が残る。次に、搾油の 段階で、ナタネ油よりも多くの油かすが派生する。これを 肥料として用いれば、適切に資源循環される。

3.奈良県における菜の花プロジェクトの展開

3.1.菜の花プロジェクトの導入

奈良県で菜の花プロジェクトに初めて着手したのは、

2002 年、高取町在住の谷口暁氏(以下、谷口氏と記す)

であると考えられる。以下では、谷口氏から提供された情 報や資料に基づき、奈良県における菜の花プロジェクトの 導入期における展開を具体的に述べる。

谷 口氏は 、1999 年に特 定非 営利活 動法 人奈良 ネイ チャーネット11(以下、ネイチャーネットと記す)を立ち 上げ、当時すでに自然保護や里山保全に関する活動に取り 組んでいた。そうした中で20027月、谷口氏は、当時 菜の花プロジェクトの全国展開推進の中心的役割を担っ ていた藤井氏の講演 12を聴く機会を得たことをきっかけ に、ナタネの栽培を計画した。20029月、藤井氏から 種子の提供を受け、明日香村内で畑約100㎡を借用し、栽 培に着手している。鳥害の克服など試行錯誤を経て、20045月に初めて収穫し種子を得ている。20055月時点 で谷口氏が作成した記録によれば、2004年から 2005年 にかけて、谷口氏自身によるナタネの栽培を明日香村だけ でなく高取町、天理市でも手がけていたほか、知人に働き かけ、葛城市、桜井市、奈良市でも、手がけていることが わかる。

谷口氏は、その後「菜の花プロジェクトなら」という任 意組織を立ち上げ、2005年から2007年まで、9月に「菜 の花シンポジウム・奈良」を開催するなど、啓蒙普及活動 に努めている。さらに、谷口氏は、「菜の花プロジェクト なら」を発展解消させ、200711月には「菜の花・バイ オマスプロジェクト会議なら」を立ち上げ、2009 年頃ま で県内各地の団体や自治体等に働きかけ、啓蒙普及活動に 取り組んでいる。この間、ナタネの栽培に加え、県内各地 で廃食油の回収や生ごみの回収及び堆肥化にも努め、「バ イオマス」の循環に関わる活動を展開している。

谷口氏は、2005 年頃から県内の香芝市、葛城市、王寺 町などで学校に働きかけ、学校でのナタネの栽培やその後 の関連する活動を支援している13。これが、奈良県内の学 校における菜の花プロジェクトの教育実践の先駆けで あったと考えられる。

奈良県における菜の花プロジェクトの展開に当たって は、2000 年代の導入期の段階で谷口氏が大きな役割を果 たし、その後の展開に影響を与えたといえよう。

以下、奈良県における菜の花プロジェクトに取り組んで いる地域の事例を取り上げ、それぞれの地域における展開 状況を具体的に述べる。

奈良県内で2019年現在菜の花プロジェクトに取り組ん

でいるのは、筆者らが把握している範囲では、奈良市、桜 井市、葛城市、斑鳩町の31町で活動している非営利団 体である。これらのうち奈良市と桜井市の団体は、2010年 に「大和菜の花ネットワーク」と呼ぶ任意組織を立ち上げ、

後に葛城市の団体も加わり、3団体は互いに連携・協力し 合いながら菜の花プロジェクトに取り組んできている。し かし、3市における菜の花プロジェクトの展開は、行政の 関与の仕方や、教育実践への支援のあり方などそれぞれ状 況が異なっている。そのため、本稿では、奈良市、桜井市、

葛城市の地域ごとに各団体が取り組む菜の花プロジェク トの展開状況を述べ、また、学校等における教育実践状況 や各団体の支援状況についても述べる。そのうえで、奈良 県における菜の花プロジェクトの展開や教育実践に見ら れる特色についても考察を加えたい。

3.2.奈良市における菜の花プロジェクトの展開 黒飛が作成した記録によれば、黒飛は20059月に菜 の花プロジェクトに着手している。以降、2019 年現在ま で奈良市北永井町の遊休農地約12aのうち6aを利用し、

ナタネの栽培に取り組んできた。奈良市内で現在まで継続 している菜の花プロジェクトとしては、黒飛の取り組みが 嚆矢であると考えられる。2005年当時、黒飛は奈良県環 境県民フォーラム(以下、県民フォーラムと記す)14にお ける活動を通して谷口氏と知己を得ており、すでに菜の花 プロジェクトに着手していた谷口氏から種子を譲り受け,

ナタネの栽培に取り組み始めた。黒飛は、以降、谷口氏の 活動とは別に独自に毎年北永井町でナタネの栽培を継続 し、毎年4050kgの種子を収穫してきている。以下では、

黒飛の記録に基づき、奈良市内での展開を具体的に述べる。

黒飛は、ナタネの栽培に関する一連の活動のほかに、

20074月から奈良市と提携し、市内6小学校の学校給 食に伴う廃食油の回収に取り組んでいる。また、奈良市内 の鼓阪北小学校や東市小学校の菜の花プロジェクトの支 援に取り組むようになった。2010 年には、鼓阪北幼稚園 と六条幼稚園も菜の花プロジェクトの支援をするように なった。

黒飛による菜の花プロジェクトの取り組みは、学校での 教育実践の支援が中心であり、着手した当初から、その取 り組みは黒飛個人によるものとしてではなく、組織的に取 り組もうとした点に特徴がある。すなわち、まず、取り組 み主体を黒飛が主宰する非営利団体の特定非営利活動法 人宙塾(おおぞらじゅく、以下、宙塾と記す)15とした点 が挙げられる。次に、菜の花プロジェクトを、県民フォー ラムの活動の中に位置付けた点が挙げられる。2005 年度 から2007年度までは、県民フォーラムの全体事業の中に 位置付け、2008 年度からは県民フォーラムの自然環境分 科会の活動に位置付け、現在に至っている。さらに、奈良 市においては、200810月に発足した奈良市地球温暖化 対策地域協議会(以下、地域協議会と記す)16の活動に位 置付けて菜の花プロジェクトを進めた。

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2019 年度の地域協議会による菜の花プロジェクトの支 援の取り組みには、宙塾のほかに、地域団体の北永井自警 団、日本アクティブクラブ17会員によるチーム、「小学校・

幼稚園支援チーム」のそれぞれの関係者が加わっている。

現在、奈良市内では、先述の鼓阪北小学校、東市小学校、

六条幼稚園のほかに、鼓阪小学校、富雄北幼稚園の3校・

2 園が菜の花プロジェクトに取り組んでいる。いずれも、

地域協議会関係者が支援に当たっている。黒飛は、宙塾の 代表者として、こうした地域協議会による取り組みの事務 局の仕事を担っており、また、自身の仕事の間隙をぬって、

各校園を訪れ、児童や園児の指導にも当たっている。搾油 機を持参し、各校園で収穫・処理した種子から搾油する作 業を児童・園児の前で実演して見せることなどを行ってい る。地域協議会関係者が、奈良市内の3校・2園をナタネ 栽培などの活動の支援のために訪問する日数は合計で 24 日であり、かなり手厚い支援に取り組んでいるといえよう。

黒飛は、そのほとんどに参加しており、実質的に地域協議 会の中心者として学校での教育実践に寄与していると いってよい。

奈良市の3校・2園による菜の花プロジェクトの取り組 みの内容的特色は、奈良市教育委員会と連携し、奈良市が 推進する世界遺産学習 18と関連付けている点であろう。

これは、20107月に、鼓阪北小学校、東市小学校、鼓 阪北幼稚園、六条幼稚園が、菜の花プロジェクトの活動を 通して得たナタネ油を薬師寺に奉納したことから始まっ ている。その後、ナタネ油の奉納先を増やし、春日大社、

東大寺にも行っている。

奈良市の小学校・幼稚園における菜の花プロジェクトに 関する教育実践の詳細は、事例校園を挙げ4.で詳述する。

3.3.桜井市における菜の花プロジェクトの展開 桜井市では、先述の谷口氏が知人に働きかけ、2004 年 にナタネの栽培に着手している。菜の花プロジェクトの趣 旨に賛同した農家が、直播き法により種子を播き、栽培し た。谷口氏によると、2004年から2005年にかけて、9戸 の農家が栽培に取り組み、栽培面積は合計約 80a であっ た。奈良県内では比較的大規模な栽培であった。

2009年には、こうした活動を引き継ぐ形で、西田俶子 氏(以下、西田氏と記す)が代表者となり、特定非営利活 動法人さくらい菜の花プロジェクト19(以下、さくらいプ ロと記す)を立ち上げ、以降、2019 年現在まで、西田氏 を中心に菜の花プロジェクトに取り組んできた。以下では、

西田氏から得られた情報を基に、桜井市における菜の花プ ロジェクトの展開状況を述べる。

さくらいプロは、2019年の実績で、桜井市の平坦部の 吉備地区を中心に約1haの畑でナタネを栽培し、約630kg の種子を収穫している。さくらいプロが関わっているナタ ネの栽培は、この吉備地区のほかに、市内の外山(とび)

地区で約10a、桜井市に隣接する天理市で約10aの畑で実 施されており、合計約120aになる。以前は奈良盆地平坦

部に近い山地緩斜面でナタネを栽培していたが、獣害に遭 うようになり、現在では栽培の中心を平坦部に置いている。

さくらいプロは、菜の花プロジェクトに特化した団体で あり、取り組みの特徴は、2009年以前の取り組みから一 貫して農家によるナタネの栽培が中心という点である。栽 培方法は、外山地区では、「移植法」を採用し手作業中心 であるが、全体としては主に機械を用いた直播き法による。

また、収穫後の種子の搾油は、三重県伊賀市の業者20に一 括し委託している。300cc入ったナタネ油を、ひと瓶1100 円で販売し、売り上げは、さくらいプロの収入に加えてい る。桜井市における菜の花プロジェクトでは、多い年は、

種子の収穫が1000kgに達することもあるという。桜井市 では、ナタネの栽培による種子及び油の生産にかなり重点 を置いていることがわかる。

さくらいプロは、学校等における菜の花プロジェクトの 支援にも取り組んでいる。支援先は、桜井市立の東中学校、

第一保育所、第二保育所、第三保育所、第五保育所の1校・

4所である。ただし、先述の奈良市のように、地域関係者 が頻繁に学校等を訪問し活動を支援するのではなく、ナタ ネの栽培は、できるだけ各学校等で自立して取り組むよう に促している。さくらいプロは、各学校等が収穫し選別処 理したナタネの種子から搾油するときに、スタッフが搾油 機21を携え、訪問している。また、搾油後は、各学校等で その後の処理をするよう促している。各学校等は、得られ たナタネ油を、奈良市のように、地域における代表的な寺 社に奉納している。すなわち、東中学校と第五保育所は長 谷寺に、第一保育所と第三保育所は大神(おおみわ)神社 へ、第二保育所は最寄りの等彌(とみ)神社にそれぞれ奉 納している。学校等がナタネ油を奉納する際には、さくら いプロスタッフ23名が同行するようにしている。

3.4.葛城市における菜の花プロジェクトの展開 葛城市では、2007 年頃から、先述の谷口氏が、学校に おけるナタネの栽培に関する一連の活動を支援していた ほか、生ごみの堆肥化や廃食油の回収事業等の支援も行っ てきた。こうした経験を基盤に、葛城市では、2010 年か らこれらに自立的に取り組むようになっていった。谷口氏 の指導のもとで、2010年に特定非営利活動法人エコ葛城 市民ネットワーク22(以下、エコ葛城と記す)を立ち上げ、

環境に関わる次の3つの事業、すなわち、1)生ごみの堆肥 化、2)菜の花プロジェクト、3)廃食油のリサイクルせっけ ん作り、に組織的に取り組み始めた。これら3つの事業は、

いずれも、一般市民を主な対象とする環境に関わる啓蒙を 目的とした事業であるが、菜の花プロジェクトに関しては、

学校での取り組みを積極的に支援している点が特徴であ る。以下では、エコ葛城の事務局スタッフとして、これら の一連の活動の中心的役割を担っている梅田克也氏(以下、

梅田氏と記す)から得られた情報を基に、葛城市における 菜の花プロジェクトの展開状況を述べる。梅田氏は、2008 年から 2009 年にかけて、谷口氏の主宰するネイチャー

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ネットの活動に参加しており、エコ葛城の推進する3つの 事業に関する知識や経験をすでに得ていた。

2019年現在、エコ葛城は、個人の所有する畑約30aの 提供を受け、ナタネの栽培に取り組んでいる。5月~11月 には、クロマメ等の栽培も行っている。これら栽培に関す る一連の活動は、会員の手作業によって進められている。

20195月に収穫した種子は、約200kgであった。これ らは、さくらいプロと同様に、三重県伊賀市の業者に搾油 を委託し、約50kgのナタネ油を得ることができたという。

ナタネ油の売り上げはエコ葛城の収入に加えている。

エコ葛城は、2012年から学校でのナタネの栽培に関す る一連の活動の支援を始め、エコ葛城の会員が支援に参加 している。2019年現在、葛城市立の新庄小学校、新庄北 小学校、當麻(たいま)小学校、忍海(おしみ)小学校、

磐城小学校の5校の教育実践を支援している。小学校の場 合は、3学年から4学年にかけて栽培等の一連の活動に取 り組んでいる学校が多い。ちなみに、これらの学校で、搾 油に使う機械は、2018 年まで黒飛の所有するものを借用 していたというが、2019年には、葛城市が費用を負担し、

エコ葛城が購入した搾油機23を使用している。

葛城市で菜の花プロジェクトに取り組む学校のうち、

もっとも栽培面積規模の大きいのが新庄小学校である。菜 の花プロジェクトを、総合的な学習の時間に位置付けて実 践しており、約6aの畑でナタネの栽培に取り組んでいる。

新庄小学校は、201810月に、4学年の遠足行事として 東大寺に児童が訪問しているが、この際に、奈良市のよう に、ナタネ油を奉納する取り組みをしている。2019年に ついても、学校便りで「菜の花プロジェクト第1回が5月 に第2回が6月に行われました。5月は収穫、6月は足で 種を落とし、とうみでごみをとばし、しぼり機に種を入れ て油と油かすに分ける体験をさせていただきました。」と 実施状況を述べている24

葛城市における菜の花プロジェクトの教育実践の取り 組みは、葛城市の理解・後押しのもと、環境教育の一環と して進められ、エコ葛城が支援をしている点が特徴である といえよう。

3.5.奈良県における菜の花プロジェクトの特色 奈良県における菜の花プロジェクトの取り組みには、3 つの特色があると考えられる。

一つ目は、県内における菜の花プロジェクトの導入期に おいて、谷口氏の果たした役割が大きいことである。奈良 市、桜井市、葛城市の各団体はいずれも、2019年現在に おいては連携・協力し合いながらも自立的に取り組んでい るが、初期段階では谷口氏が働きかけて取り組み始めた点 で共通している。ただ、その働きかけた具体的状況は、奈 良市、桜井市、葛城市でそれぞれで異なっていた。奈良市 の場合は種子の提供が中心であり、宙塾はその後まもなく して自立的に取り組むようになった。宙塾は、すでに自立 的に活動を開始してから4年間ほど経過しており、菜の花

プロジェクトを活動の一環に加えたことになる。葛城市の 場合は、エコ葛城の立ち上げ時に谷口氏が全面的に指導に 当たっており、初期段階では谷口氏に大きく依存していた。

桜井市の場合は、さくらいプロ設置の中心者である西田氏 は谷口氏と面識すらなく、団体を設置した時点で、すでに 農家によるナタネの栽培は軌道に乗っており、自立的に菜 の花プロジェクトに取り組んでいた。

二つ目に、奈良市、桜井市、葛城市いずれの団体の取り 組みについても、ナタネの栽培面積規模は、日本全国にお ける展開と比較した場合、小規模なことである。例えば、

ナタネの栽培面積が全国有数規模の青森県横浜町では、約

142haの畑でナタネの栽培に取り組んでおり25、ナタネ油

が有力な特産物になっているほか、開花期(5月)のナタ ネ畑の景観が観光資源にもなっている。奈良県においては、

ナタネの栽培面積が比較的大規模な桜井市においても、約 120a に過ぎない。しかし、奈良市、桜井市、葛城市にお いては、菜の花プロジェクトが小学校や幼稚園等で教育実 践に取り入れられている例が数多く存在することが明ら かである。すなわち、菜の花プロジェクトに直接関わって いる人的規模は、相当に大きいと考えられる。

三つ目に、一つ目、二つ目と関連するが、奈良市、桜井 市、葛城市のいずれも、学校等における菜の花プロジェク トの教育実践を非営利団体が積極的に支援していること である。奈良市では、宙塾が中心となり地域協議会を組織 して、年間を通して計画的に学校等の支援をしている。葛 城市でも、エコ葛城が年間を通して計画的に支援をしてい る。桜井市では、ナタネの栽培から種子の収穫及び選別段 階以降の搾油及び寺社への油の奉納段階をさくらいプロ が支援している。3地域間では、非営利団体の支援の形態 が異なるが、それぞれの地域における教育実践は、地域の 団体の支援によって継続されているといえよう26

4.奈良市の小学校・幼稚園における菜の花プロジェク トに関する教育実践

2019 年現在、奈良市で菜の花プロジェクトに取り組ん でいる3小学校・2幼稚園のうち、ここでは、奈良市立鼓 阪北小学校及び同六条幼稚園における教育実践の状況を 述べる。いずれも、地域協議会がもっとも重点的に支援を している対象であるため、選択した。

4.1.奈良市立鼓阪北小学校の事例

奈良市立鼓阪北小学校(以下、鼓阪北小と記す)は、奈 良市北部の京都府木津川市に近い住宅地域に立地してい る。2019年度「学校要覧」によれば、学級数は特別支援 学級を含めて7、児童数97名である。また、同要覧では

「学校の特色ある教育」として2点挙げている事項のひと つを「ESD(持続発展教育)の推進」とし、そこで挙げた 3つの具体的取り組みの一つ目に「菜の花プロジェクトの 充実」を挙げている。菜の花プロジェクトは、学校として

(8)

重点を置いている活動であることがわかる。

鼓阪北小は、菜の花プロジェクトの活動を4学年及び5 学年の総合的な学習の時間の一環に位置付けている。学校 の行事予定表では、4月から12月までの間で8回の活動 日を設けていることを紹介している。また、学校のウェブ サイト27上では、「地域連携」の欄で取り上げた2つの項 目のうちの一つが「菜の花ボランティア」であり、次の内 容を記述している。

4月 菜の花まつり 5月 菜の花の刈り取り

6月 菜の花の脱穀と油搾り体験 9月 菜の花の種まき

10月 菜の花の間引き 11月 菜の花の移植

鼓阪北小ウェブサイトの「菜の花プロジェクト」の欄で は、2019413日土曜日に開催した「お花見会」につ いて、児童が、菜の花プロジェクトの概要や環境について 黒飛ほかの話を聞いた後、中庭の畑で満開になったナタネ の「菜の花くぐり」を体験したこと、家庭科室で菜の花の 天ぷらを食べたことが記述されている。また、地域協議会 関係者への御礼の言葉も記述されている。

529日水曜日に実施した「刈り取り」については、

黒飛をはじめとする地域協議会関係者の指導を得て、児童 が鎌を使って刈り取り作業に取り組んだこと、「刈り取っ た菜の花を束にしてひもでくくった後、体育館の舞台に運 び込」んだことなどが記述されている。

619日金曜日に実施した菜の花の脱穀と油搾り体験 については、次のように記述している。すなわち、「今日 は、第3回目の菜の花プロジェクトの菜の花の脱穀を行い ました。地域の小池さんに作業の手順を教わりました。地 域の方に手伝っていただきながら、たくさん汗をかいて脱 穀・油絞りを無事終えることができました。今日採れた種 はおよそ 11 キログラム。ここからとれる菜種油はおよそ 3リットル。油というのは、手間がかかる貴重なものであ ることを、子どもたちは身に染みて感じ取っていました。

作業終了後、去年に採れた菜種油を使って地域の方が作っ てくださったドーナツをいただきました。そして、今日 絞った油が本当に燃えるか点火式を行い、無事に火が付い た灯明に全員で拍手を送りました。今日採れた菜種油は、

東大寺、春日大社に奉納する予定です。」実際その後の1029日火曜日には、東大寺にナタネ油を奉納している。

学校のウェブサイト上にこれらの記述をしているのは、

児童の学級担任であると思われる。あくまでも学校教員の 立場から記述しているが、児童の視点に立ち、具体的かつ 的確に内容を把握していることが読み取れる。

いっぽう、黒飛が20193月に作成した「2019年度 菜の花プロジェクト奉仕活動予定表」では、鼓阪北小に、

地域協議会関係者が4月から12月まで7回のべ人数35 人、学校に支援に行く計画であることを記述しているが、

実際に、ほぼ計画どおりに実施している。鼓阪北小は、地

域と一体となって菜の花プロジェクトに取り組んでいる ことがわかる。

4.2.奈良市立六条幼稚園の事例

奈良市立六条幼稚園(以下、六条幼稚園と記す)は、奈 良市南部の大和郡山市に近い住宅地と農地が混在してい る地域に立地している。世界遺産に登録されている「古都 奈良の文化財」を構成する薬師寺や唐招提寺まで直線距離 で約1kmほどの位置にある。4歳児2クラス、5歳児1ク ラスから構成されている。六条幼稚園が作成した「教育ビ ジョン」で挙げている事項のひとつが「奈良らしい教育」

であり、そこで挙げた3つの項目の一つ目に「世界遺産学 習の推進」を挙げている。ここでは「「菜の花プロジェク ト」を通し世界遺産学習とエコ学習を推進する。」と記述 している。菜の花プロジェクトは、幼稚園として重点を置 いた活動であることがわかる。また、六条幼稚園の菜の花 プロジェクトの取り組みは、幼稚園教育要領(平成29年 告示)が定めた5つの保育領域、すなわち、健康・人間関 係・環境・言葉・表現のうち、とくに環境に関わると考え られる。

20197月発行「六条幼稚園ニュース」では、菜の花 プロジェクトに関して次のように説明する。すなわち、

2010 年から「菜の花プロジェクト」に取り組んでいま す。これは、菜の花を育て、種から油を絞って食用として 使い、そのときに出る油の絞りかすは、畑の肥料にすると いう循環型社会について学ぶものでしたが、同時に、薬師 寺や唐招提寺の灯明の火は、昔から菜の花を使っているこ とをお聞きし、子どもたちが絞った油を灯明油として奉納 することで、世界遺産(薬師寺・唐招提寺)を含む歴史文 化と自然、地域社会と子どもをつなぐ学びになると考え、

菜の花プロジェクトに取り組んでいます。」と記述し、菜 の花プロジェクトの取り組みが世界遺産学習のねらいに も合致することを的確に説明している。

六条幼稚園は、菜の花プロジェクトの取り組みの状況を きわめて具体的に多数の写真とともにウェブサイト 28で 紹介している。2019 年度については、次の内容を、それ ぞれ実施した日付とともに取り上げている。

521日 菜の花の刈り取り 614日 種おとし・油搾り 78 菜種油の奉納 薬師寺 823日 菜種油の奉納 元興寺 920日 種播き

5月に実施した「刈り取り」に関しては、黒飛をはじめ とする地域協議会の関係者の支援を得ていること、保護者 も協力していることなどを記述している。ただし、刈り取 りの際に園児に鎌を使用させないことについては、園児の 発達段階を考慮したものである。

6月の「種おとし・油しぼり」に関しては、乾燥させた ナタネを室内でブルーシート上に広げ、それらを園児が足 で踏んだり、棒でたたいて種子とさやを分ける作業に取り

(9)

組んだことを記述している。また、地域協議会の関係者が

「唐箕」を使って「風の力でごみを飛ばす」様子に園児が 興味を持ったことも記述している。表現の仕方は、小学校 と幼稚園で異なる部分があるが、内容自体は、ほぼ同時期 に鼓阪北小で実施したものと同じ活動に取り組んでいる ことがわかる。

7月に薬師寺へナタネ油を奉納したことに関しては、次 のように記述している。すなわち、「地域にある世界遺産

「薬師寺」に自分たちが搾った菜種油を奉納しに行きまし た。金堂の中に入れていただき管主様から「大切に使いま す」と言っていただきました。役に立つことができ、誇ら しげな気持ちになりました。」

このような菜の花プロジェクトの取り組みの状況を ウェブサイトに記述しているのは、六条幼稚園の場合も教 員である。しかし、鼓阪北小で「脱穀」と呼んでいること を「種落とし」と表現し、園児の理解を促す工夫をしてい ることが端的に示しているように、六条幼稚園のこうした 記述は、小学校よりもいっそう園児の視点に立ち、園児の 感じたことを的確に表現しているように読み取れる。

4.3.菜の花プロジェクトにおける子どもの学び 菜の花プロジェクトを通して子どもはどのような学び を得ているのであろうか。2019 年度の鼓阪北小の教育実 践の中で、5学年児童が、529日の「刈り取り」、619日の「菜の花の脱穀と油搾り体験」、1029日の「東 大寺油の奉納」のそれぞれについて、実施直後に記述した ワークシートを通して、このことに迫ってみたい。検討の ための資料は、学校からワークシートの複写の提供を受け た16名分のべ48件である。それぞれ、学級担任が児童 に紙上で問いを投げかけ、それに応える形で児童が記述し たものである。

529日「刈り取り」後の記述

「黒飛さんのお話を聞いてわかったことは?」という問 いに対して、「菜の花を切るコツや、菜の花の油で料理を 作れることなど、菜の花のことを教えてくれました。黒飛 さんは、菜の花のことをよく知っていて、大切にしている んだなと思った。」(A児)、「菜の花のくきを切る時の道具 がすごくあぶないと思っていたけど、黒飛さんの言うとお りにやると、けがもなくてできてすごく分かりやすかった です。」(B児)などの記述が見られた。それぞれ黒飛の指 導が直接反映していることが読み取れる。また、鎌を使用 する前の不安が、黒飛ほかの地域協議会関係者の技術指導 によって解消されたことも読み取れる。

「菜の花の刈り取りをした感想は?」という問いに対し ては、「自分たちで育てたものを自分でしゅうかくできて うれしかった」(C 児)、「むずかしいし、あぶないけど、

達成感があった」(D児)などの記述が見られた。児童が 収穫の喜びを味わうことができたことや「達成感」を持つ ことができた、という側面は教育実践としてきわめて重要 な点であろう。

619日「菜の花の脱穀と油搾り体験」後の記述 「菜の花の脱穀をした感想は?」の問いに対して、「菜 の花をふんで種がでてくるのがおもしろかった。ぼうでた たいたり種をあつめたりするのが楽しかった。種をいれて くるくるまわすのもたいへんだったけどスピードもかん がえてやるのがとてもすごかった。」(E児)という記述が 見られた。ブルーシートの上に広げたナタネを棒でたたい たり、足で踏みつけて種子を取り出す場面に児童が興味を 持って取り組んだことが読み取れる。また、唐箕を使って 種子の選別をする作業も児童の印象に残ったことがわか る。

「菜の花の油絞りをした感想は?」の問いに対しては、

「思ったよりも油が出来る量が少なかった。油を作ってい る時、油の自然のにおいがした。」(F児)という記述が見 られた。種子11kgから3l(リットル)の油が得られたこ とを鼓阪北小のウェブサイト上で紹介していることはす でに述べたとおりであるが、活動直後のワークシートへの 記述から、児童はまずこのことに関心を持ったことがわか る。他の児童についても、搾油量のことに触れた例は 16 名のうち7名の記述で見られた。また、このことから「油 はきちょうだ」と記述していた児童も見られた。F児の記 述からもうひとつわかることは、搾油時に発する臭いであ る。他の児童の記述でもこの点に触れたものは多数見られ、

16名のうち12名の児童が、においに関する記述をしてい た。また、油の色について記述している例もあった。搾油 時におけるこうした五感を通した学びも、菜の花プロジェ クトにおける子どもの学びとしてきわめて重要な側面で あろう。

1029日「東大寺 油の奉納」後の記述

ワークシートに用意された菜の花プロジェクトに関す る2つの問いの1件目は「東大寺への油の奉納に向けて、

自分の思いを書きましょう。」であった。これに対して、

「東大寺のことを勉強して今日持っていく油も大切な油 なのだろうと思った。→だから大事にほうのうしたほうが いいのだろう。」(G児)という記述が見られた。これは、

東大寺に行く前の事前学習の際に記述したものである。油 の奉納前でやや緊張している様子がうかがえる。2件目は、

「東大寺への油の奉納がおわって感想を書きましょう。」

という事後の問いで、これに対しては、同じG児が「いろ んな話を聞いて、ぼくたちがもっていった菜種油は、すご く大切なことに使われるのだろうと思った。→作ってよ かったと感じた。→平和にもつながる」と記述し、学校で の活動が世界平和に結びつくことを想像するという成果 を生んでいる。2件目の問いに対して別の児童は「油の奉 納は何なのかあまり知らなかったので、そんなに使わない と思っていたけど、すごく油が役に立っていたのでびっく りしました。一生けん命に油を作ってよかったです。」(H 児)と記述し、学校での活動の成果が東大寺で活用される ことを改めて振り返ることにつながっている。

◯菜の花プロジェクトにおける子どもの学びの特徴

(10)

鼓阪北小における5月、6月、10月のそれぞれの活動 後における児童の記述から、いくつかのことが読み取れる。

一つ目に、児童は、黒飛をはじめとする地域協議会関係者 の支援によって、ナタネに関する作業の技術的困難を克服 している点である。学校と地域が一体となって菜の花プロ ジェクトに取り組んでいることの成果であるといえよう。

二つ目に、種子の脱穀、選別を経て搾油をした際の搾油量 や臭いに児童が関心を持った点である。これは、体験学習 の成果といえるものであろう。三つ目に、ナタネ油を東大 寺に奉納することに世界遺産学習としての意義を見い出 せる点である。鼓阪北小における菜の花プロジェクトの取 り組みは、十分に成果を挙げているといえよう。

しかし、課題もあろう。児童の記述に、資源循環に関わ るものは見られなかったことである。搾油時の油の量には 問題意識が向けられたが、残った油かすには必ずしも目が 向けられなかったと考えられる。先に挙げた学校教員によ るウェブサイト上での記述にも油かすに関する言及はな い。菜の花プロジェクトに備わる資源循環の側面はSGDs とも関連するため、この点の検討が求められよう。

ただし、以上述べてきたことは、鼓阪北小の5学年児童 による言語表現資料を読み取って考察したことである。六 条幼稚園の園児も、鼓阪北小の児童と概ね同様の活動を体 験しているが、園児による言語表現資料が得られていない 現時点では、園児が鼓阪北小の児童と同様の学びを獲得し ているかどうかについては不明である。一般に、五感を伴 う原体験を得る年齢は、就学前から小学校低学年の頃が望 ましい(小林・山田1993)とされ、その意味では、園児の 学びの質は、小学校5学年児童とはかなり異なるはずであ る。この点についても本稿には課題が残った。

5.おわりに

本稿でこれまで述べてきたことの要点は以下のとおり である。

1)菜の花プロジェクトは、1998年に滋賀県で起こり、

2002 年に奈良県にも導入され、その後、県内各地で 取り組まれていったものである。奈良市、桜井市、葛 城市では、非営利団体を中心とした組織的な取り組み が2019年現在まで継続されてきている。3地域の背 景や取り組みにはそれぞれ特徴があるが、いずれの地 域でも、非営利団体が学校等での教育実践を支援して おり、また、ナタネ油を地域の寺社に奉納している学 校等が多い点で共通している。

2) 奈良市では 3小学校と2幼稚園で菜の花プロジェク トに取り組んでいる。その中で、鼓阪北小と六条幼稚 園における取り組みを具体的に検討した結果、学校・

園と地域が一体となって取り組んでおり、そこでは体 験学習としての成果や世界遺産学習としての意義を 見い出すことができた。こうした教育効果を生んでい る背後では、教育実践の支援に当たる非営利団体の活

動が活発に展開されていることは特筆されてよいで あろう。奈良県における菜の花プロジェクトは、全国 的な視点から見てナタネの栽培規模が大きいとは言 えないが、菜の花プロジェクトに関する教育実践の質 は、評価に値するものと思われる。

なお、奈良県内では、本稿で取り上げた3地域以外にも 2019 年現在で菜の花プロジェクトに取り組んでいる地域 はあるが、今回、調査・検討ができなかった。この点は他 日を期したい。

付記:本稿は、岩本と黒飛による議論を経て、岩本が執筆 したものである。文責は岩本にある。資料収集の過程で協 力いただいた関係機関の方々にこの場を借りて謝意を表 したい。

1)菜の花はアブラナ科アブラナ属アブラナの俗称であ る。日本では、今日搾油用のアブラナを「ナタネ」と 呼ぶのが一般的であるため、本稿ではアブラナではな くナタネと呼ぶことにする。

2)奈良県でも、20164月に奈良市、桜井市等を会場 に開催している。

3)全国ネットワークの中心になっているのは、特定非営 利活動法人菜の花プロジェクトネットワークである。

滋賀県近江八幡市に事務局を置いている。

http://www.nanohana.gr.jp/

20191014日検索。

4)本学実習園でのナタネの栽培やその後の加工に関す る活動は、岩本が担当する授業の一環として学生も体 験している。これらは、「社会科教育研究Ⅰ・Ⅱ」に位 置付けている。作業では、実習園の技術職員の支援を 受けている。取り組みの具体的内容は、岩本(2012) 及び岩本(2019)で述べた。

5)ただし、本学実習園の場合、シカの食害に遭う恐れが ある。他の作物も含めて畑全体をネットで囲んでいる ため、シカの被害を免れている面がある。また、年度 によっては、11月から3月までの間に、鳥に葉を食 べられることもある。鳥の害は、熟した種子にも及ぶ ため、本学では、防鳥ネットをかぶせている。

6)本学では、実習園のビニールハウスの中で広げたシー トの上に置いて、乾燥させている。

7)ただし、種子と大きさが大差のない石粒や泥は取り除 くことが簡単ではない。

8)黒飛が2006年に購入した機械を利用している。株式 会社サン精機(山口県萩市東浜崎11番地10)製の電 動搾油機、S100200

9) 搾油の際に、「香ばしい」臭いがする。五感を通した 学習という観点から、学校等での教育実践にとっては 重要な側面であろう。

(11)

10)植田(2003)では、ナタネ殻を松明(たいまつ)に用 いる目的で農家がナタネを栽培している事例が報告 されている。

112010年に特定非営利活動法人奈良グリーンサポート ネットに名称変更している。

12)講演会の実施日、会場等は執筆時点で特定できていな い。

132005年頃から谷口氏が学校でのナタネ栽培及び一連 の活動を支援していたことに関する資料は、執筆時 点で入手できていないため、具体的な事実関係は把 握困難である。

14)奈良県環境県民フォーラムは、「環境保全活動を積極 的に行っている県民団体や企業等で構成し、相互の意 見や情報交換を通じてそれぞれの団体等の活動をス テップアップするとともに、環境保全活動の先導的役 割を果たすことを目的」に1997年に発足した組織で ある。2019年現在、個人会員のほか、企業10社と非 営利団体21団体から構成されている。奈良県環境政 策課に事務局を置き、エネルギー、エコライフ、資源 活用、自然環境の4分科会に分かれ、活動を継続して いる。「環境県民フォーラムだよ!り」をこれまで年 1回以上発行しており、201931日付けで第43 号を発行している。

www.eco.pref.nara.jp/kankyo_mamorou/forum/inde x.html

20191119日検索。

なお、奈良県環境政策課によると、年会費を、個人は 一口1000円で1口以上、市民団体は2口以上、企業 は10口以上を負担してもらっている。

15)特定非営利活動法人宙塾は、20015月に認可を受 けて発足した団体である。現在会員(個人または団体)

30、会員には、年会費一口3000円とし、個人会員 一口以上、団体会員三口以上を負担してもらっている。

団体活動趣旨を次のように説明している。「 地域に密 着し学校や行政とも協力し合い、NPOやボランティ ア組織が地域との掛け橋になって、地元の学校や公民 館などを拠点として、地域を子ども達の教育の場とす る、新しい地域コミュニティーの構築を目指していま す」。当団体は、自然体験活動を重視しており、菜の 花プロジェクトを、活動の柱のひとつに位置付けてい る。

www.ohzorajuku.com/

20191119日検索。

16)奈良市地球温暖化対策地域協議会は、「市民(個人、

団体)・NPO・事業者・行政等のさまざまな会員が協働 して地球温暖化対策等の活動を推進し、環境(エコロ ジー)も経済(エコノミー)も持続可能な社会をめざ」

す組織である。通称は「ならエコ・エコの和、NEW 」 である。2019 年時点で、会員(個人または団体)数 51、会員には、個人会員2000円(学生は無料)、団体

会員 10000円(市民団体は5000 円)を負担しても らっている。事務局を奈良市環境政策課に置き、奈良 市西部公民館を拠点に活動している。

http://www.city.nara.lg.jp/www/contents/12181003 05455/

20191119日検索。

17)正式名称は特定非営利活動法人ニッポン・アクティブ・

クラブ、通称は「ナルク」である。当団体のウェブサ イトでは、団体の概要を次のように説明している。「生 涯現役を合言葉にボランティアで第 2 の人生に生き がいと健康を!そんな中高年が集まって 1994 年 4 月 に設立されたのがナルクです。全国に広がる活動拠点 では会員が生き生きと活動しており、その活動は海外 にまで広がっています。「自立・奉仕・助け合い」を モットーにシニアの積極的な社会参加を進めるとと もに、会員同士がボランティアで助け合う独自の時間 預託制度を全国的規模で実施し、遠く離れて暮らす親 の介護、家事支援等も行っています。」

nalc.jp/

20191119日検索。

全国に約3万人、奈良市内には約200人の会員がい るという。

18)奈良市教育委員会によれば、世界遺産学習とは「世界 遺産や地域遺産、伝統文化や自然環境等を通して、地 域に対する誇りや地域を大切に思う心情を育み、持続 可能な社会の担い手としての意欲や態度を養う学習」 である。

www.city.nara.lg.jp/www/contents/1330042633832/

index.html

20191119日検索。

19)特定非営利活動法人さくらい菜の花プロジェクトは、

団体の概要を次のように説明する。「菜の花を通して 環境・農業・観光・経済・エネルギー・教育等の問題 を見直し、地域の田園や山が生み出す資源を地域で循 環させることで、農業を再生し、里山を再生し、地域 を再生し、新しい時代の持続可能な循環型社会の構築 をめざす活動を進めています。」

https://www.sakurainanohana.org/

20191120日検索

2019年現在、会員は個人が20名、法人が2団体であ るが、菜の花プロジェクトに恒常的に関わっている会 員は約10名であるという。会員には、年会費として 個人3千円、法人1万円を負担してもらっている。

20)一般社団法人・大山田農林業公社(三重県伊賀市平田 103)。種子1kgあたり 230 円の搾油料金が必要であ る。瓶代は300CC入り155円である。

https://noringyo.or.jp 20191121日検索。

21)持ち運びできる小型のものであるが、詳細は不明。

22)特定非営利活動法人エコ葛城市民ネットワークは、

参照

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