小−大連携としての小学校における全学年対象の理 科実験教室
著者 山脇 郁子, 梶原 篤
雑誌名 教育実践総合センター研究紀要
巻 19
ページ 195‑199
発行年 2010‑03‑31
その他のタイトル Introductory Classes of Science Experiments for Primary School Pupils
URL http://hdl.handle.net/10105/2981
1.はじめに
子どもたちは実験が大好きで、テレビで見た実験等 の興味があるものに対しては驚くほどの熱意を示す。
「スゴイ」とか「え〜」という驚きや感動があるから、
理科の実験が好きだと答える子どもたちも多い。にも かかわらず、子どもの 理科離れ が、様々なところ で問題となっている。この背景には、『実験は好きだ けど勉強は苦手』ということが関係しているのではな いだろうか。「実験はワクワクして好きだけれど、い ざ勉強になるとよくわからない」という子どもは多い。
また、教科書に書いている内容と自分たちの身の回り の現象が結びつかず、何のために学習するのか、興味 を持てない子どもも多い。
これまで、子どもに身近なところから単元導入を行 えるように教材研究を行ったり、できるだけ少人数で 実験を行ったりできるようにと考えてきた。しかし、
理科室の整備・器具の補充に十分な予算を確保するこ
とは難しく、また学習指導要領の改訂に伴い1)、授業 時数は増えたものの単元をこなすことに精一杯になっ ているのも事実である。
今回、『化学実験カーがやってくる』というイベン トを知り、教科書から少し離れ、身近なテーマから理 科の世界へつながればと思い、応募した。大学と連携 し、ゲストティーチャーとして授業をしてもらったり、
なかなか購入することができない薬品類を使用したり することで、子どもたちが理科に興味を持つきっかけ になればと考えた。実験テーマは、各学年の学習内容 をもとに、子どもたちの実態に合うものを考えた。
2.概 要
主催:化学オリンピック日本委員会 講師:梶原篤(奈良教育大学)
他3名(大学の学生)
対象:低学年(1・2年生) 111名 山脇郁子
(守口市立佐太小学校)
梶原 篤
(奈良教育大学理科教育講座)
Introductory Classes of Science Experiments for Primary School Pupils
Ikuko YAMAWAKI
(Moriguchi City Public Sata Elementary School)
Atsushi KAJIWARA
(Nara University of Education)
要旨:近年、子どもたちの 理科離れ が問題となっているが、その原因には、学習内容と身近な出来事が結びつ かないことや、実験を行う機会が減っていることが関係しているのではないかと考えている。また、実験をしたく ても器具が少なく、整備する予算が少ないというのが、公立学校の現状である。そこで、子どもたちに理科のおも しろさを感じてもらうため、来年日本で開催される化学オリンピックの広報プレイベント『化学実験カーがやって くる』に応募した。身近な現象や、テレビでよく見かけるものを実際に自分たちで実験することで、子どもたちが 理科に興味を持てばと考えた。そこで、化学オリンピック委員会の実験テーマと、子どもの実態に合わせたオリジ ナルの実験テーマを用意し、小学校全学年315名を対象に、大学の教員を講師に招き、3日間に分けて実験教室を行 った。公立学校の現状や小学校と大学間の連携を踏まえて、実験教室の企画から運営までを振り返り、検証する。
キーワード:理科離れ disinterest in science、小−大連携 cooperation between grade school and university、
理科実験教室 class for scientific experiments
中学年(3・4年生) 109名 高学年(5・6年生) 95名 日時:低学年
2009年10月21日(水)11:00〜12:35 中学年
2009年11月20日(金)11:00〜12:35 高学年
2009年10月16日(金)13:45〜15:15 開催場所:守口市立佐太小学校
体育館・理科室・家庭科室
3.全学年対象の理科実験教室
3.1.低学年における理科実験教室
【実験テーマ】
① フワフワ浮かぶシャボン玉
② 紙オムツのなぞを探れ!!
【ねらい】
低学年では、まだ理科の学習が始まっていないため、
操作が簡単な実験を考えた。
テーマ①は、スーパー等で売っている重曹とクエン 酸で二酸化炭素を発生させ、そこにシャボン玉を吹き 落とすとシャボン玉が浮くという実験である。遊びの 要素を取り入れながら、子どもたちに身近なものを使
って説明することで、空気は二酸化炭素よりも軽いと いう現象を、理解することは難しくても何となく感じ ることができればと考えた。
テーマ②は、紙オムツの中に含まれる高分子吸収体 のなぞをさぐる実験である。紙オムツがどれほどの量 の水を吸収するのか、またその仕組みについて学習す ることで、物を見る目 物質観 を養うことにつなが ればと考えた。当日の様子を表1に示す。
3.2.中学年における理科実験教室
【実験テーマ】
① カラフル炎
② コイン選別機を作ろう!!
【ねらい】
3年生は理科の学習が始まる学年であり、4年生は 理科室での授業が始まる学年であり、実験に対する興 味の高い子どもが多い。そこで、 薬品を混ぜる と いう憧れの実験と、作業を通して思考する実験を考え た。
テーマ①は、花火の色を変化させるしくみが、炎色 反応を利用しているということを学ぶ実験である。炎 色反応は小学校では学習しないが、 このような機会 だからこそ という担任の希望で行うことにした。
テーマ②は、自動販売機の中でコインが選別される
表1. 低学年における活動内容と子どもの様子
子ども達の学習活動 子ども達の学習活動
テーマ① ○衣装ケースの中に、シャボン玉を吹き、
何もしなければシャボン玉は落ちて割れ てしまうことを実感した。
○シャボン玉を浮かすための作戦として、
重曹とクエン酸を反応させて二酸化炭素 を発生させることを学習した。
○衣装ケースの中で二酸化炭素を発生させ る、シャボン玉は落ちずにフワフワと浮 くことを確認した。
○シャボン玉の中の空気は、発生させた二 酸化炭素より軽いため、シャボン玉が浮 くことを学習した。
テーマ② ○紙オムツの中には、高分子吸収体という 水を吸収する白い粉が入っていることを 学習した。
○ 0.3g 程度の高分子吸収体が、どれだけ の水を吸収するか実験した。
○水を吸収した高分子吸収体に魔法の粉
(食塩)を加えると水を取り出すことが でき、これはナメクジに塩をかけた時の 反応と同じであることを学習した。
○高分子吸収体はプラスチックであるこ と、砂漠の緑化等で利用されていること を学習した。
表2. 中学年における活動内容と子どもの様子
子ども達の学習活動 子ども達の学習活動
テーマ① ○花火の仕組みが、含まれる金属により炎 の色がかわる『炎色反応』であることを 学習した。
○炎色反応を確認するための固形燃料を 作った。
○固形燃料に塩化ナトリウム・塩化ストロ ンチウム・ホウ酸をふりかけ、火をつけ 炎の色を確認した。
テーマ② ○1円玉・10 円玉・100 円玉の材質を知り、
いずれも磁石にはつかないことを確認し た。
○磁石につかない金属でも、磁石の間を通 る際に電流が流れてブレーキがかかると いう仕組みを学習した。
○磁石や下敷きなどの文房具でコイン選別 機をつくり、より確実に選別できるよう に、角度等を調節した。
表3. 高学年における活動内容と子どもの様子
子ども達の学習活動 子ども達の学習活動
テーマ① ○材料である重曹・クエン酸・硫酸ナトリ ウムについて学習した。
○材料をすべて細かくすりつぶし、香りや 色をつけて成型した。
○乾燥後、家へ持ち帰り、風呂に入れて観 察した。
テーマ② ○液体窒素は、バラやバナナをすぐに凍ら せるほど低温であることを学習した。
○スーパーボールを凍らせると、弾まなく なることを学習した。
○空気を封じ込めた容器と、酸素のみを封 じ込めた容器を冷却し、液体酸素の量の 違いを学習した。
仕組みを、100円均一ショップで購入できる文房具を 使用して再現するという実験である。両側に配置され た磁石の間をコインが通り抜ける際に、材質により異 なる電流が発生しコインにブレーキがかかることで、
コインの落下点が異なり選別することができる。磁石 の学習が始まる3年生への興味づけと、磁石と電気に は深い関係があるということを伝えるために、この実 験を考えた。当日の様子を表2に示す。
3.3.高学年における理科実験教室
【実験テーマ】
① 入浴剤を作ろう!!
② −196℃の世界
【ねらい】
高学年は、理科の学習も進んでおり実験も多数行っ てきたので、作業や内容の多少難しいものを考えた。
テーマ①は、スーパー等で売っている重曹とクエン 酸、温泉の主成分である硫酸ナトリウムを混ぜ合わせ て成型し、入浴剤を作る実験である。入浴剤が発泡す る仕組みを、材料の性質とともに学習できるように考 えた。
テーマ②は、液体窒素を使う実験である。子どもた ちにとって液体窒素は、テレビの中でしか見ることが できない物質であり、非常に興味のある物質でもある。
6年生は空気の成分の約80%が窒素であるということ を学習しているので、普段は気体である窒素が液体に なった時の物性を学習できればと考えた。また、その 冷たさにより空気中の酸素をも液化させてしまうとい うことを、液体酸素の物性と合わせて学習させたいと 考えた。当日の様子を表3に示す。
4.子ども達の感想
今回の実験教室では、感想を書く時間やアンケート を書く時間を設けることができなかったが、子ども達 のあのね帳2)や作文、会話の中に感想があふれていた ので、その内容を以下に記す(原文のまま)。
【低学年】
●シャボン玉がフワフワしてた。
●粉を買ってもらって、シャボン玉をふわふわする の、またやりたい。
●粉がたくさん水をすうのがすごかった。
●家に帰ったらまたオムツの実験をする。
●ゆめは、科学者になります。
【中学年】
●黄緑色の火が見れて、すごかった。
●花火の仕組みがわかった。
●お金がうまく分かれておもしろかった。
●家でまたやりたい。楽しかった。
●もっと長い時間したかった。
【高学年】
●入浴剤はいい匂いだった。
●クエン酸はすっぱい。
●バナナで釘が打てたのはすごい。
●液体窒素は寒かった。
●液体酸素の色が、青色できれいだった。
●また、大学の先生に実験を教えてもらいたい。
5.保護者の感想
実験教室を開催するにあたって、保護者へも参観を 呼びかけた。多数の保護者が子どもと一緒に実験に参 加してくれた。見学していた保護者の感想を以下に記 す(原文のまま)。
●子どもたちが目を輝かせて実験をしている姿が印 象的でした。
●理科の実験がとても楽しかったです。
●身近な内容で、子どもたちが理科に興味を持つの ではないかと思いました。
6.実験教室を振り返って
今回は、全学年の全児童対象の実験教室であったた め規模が大きくなり、準備や当日の運営に関して人手 不足に悩まされることとなった。また、準備期間が短 かったことや、大学との距離が遠かったこともあり、
予備実験やタイムスケジュールについての打ち合わせ も不十分なまま当日を迎えることとなってしまった。
予想外の出来事にも対処できるよう、授業者との綿密 な打ち合わせが必要であったと感じている。
しかし、実験に取り組む子どもの姿や、実験後の子 どもたちの感想からも、この企画は非常に有意義であ ったと感じている。 子どもたちの身近なこと に焦 点を当て実験を行ったことで、物を見る目が変わって いくのではないかと考えている。
また、理科教室で実験をした子どもたちが、自分た ちの作った物と実際にスーパー等で目にする物との相 違点を疑問に思い、考えることも、理科への興味の第 一歩につながるのではないかと期待している。
7.まとめ
隣接校種間の連携はこれまでもあったが、小学校と 大学間での連携は附属校でもないかぎり、難しいのが 現状と言える。その中で今回、小−大連携として理科 実験教室を行った結果、可能であれば今後も何らかの 形でこのような取り組みをしていくことが重要なので はないかと考えている。このような機会を通じて、公 立小学校の現状や子どもの実態を見てもらうことは、
教育大学の学生にとっても勉強になるのではないだろ
うか。また、小学校の教員にとっても、助言をいただ くことで授業や学校運営に関して考えるきっかけにな り、お互いに向上していけるのではないだろうか。
謝辞 この企画は、化学オリンピック日本委員会の支 援を受けて、2010年に東京で開催される化学オリンピ ックのプレイベントとして行われました。守口市教育 委員会には、広報としてホームページ3)に掲載してい いただきました。校長をはじめ守口市立佐太小学校の 教職員の方々には、企画へ賛同していただき、当日の 運営にも協力していただきました。
ここに記して感謝致します。
註 釈
1.平成23年度新学習指導要領全面実施に伴い、新課 程の内容を今年度から一部先行実施。
2.子どもが日々の生活の中で感じたことを担任へ伝 えるように書く、低学年での取り組み。
参考資料
3.守口市教育委員会ホームページ
(広報PDFファイル)
http://www.mkc.zaq.ne.jp/mori̲kyouiku/