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【学位論文審査の要旨】

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Academic year: 2021

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【学位論文審査の要旨】

1 研究の目的

異種物質の接合界面は、低次元電子系の物理やトランジスタ等の電子素子応用における 重要なトピックとして膨大な研究がなされてきた。特に、シリコンやガリウムヒ素に代表 される半導体を含む接合界面では、界面に形成される二次元電子系において整数量子ホー ル効果や分数量子ホール効果などの極めて興味深い現象が発見されてきた。一方、2004年 に発見されたグラフェンに代表される原子厚のシート状物質(二次元物質)で層の面内に 同様の接合構造(二次元ヘテロ構造)が実現できれば、接合部には一次元的な界面が形成 される。この一次元界面で電子のポテンシャルを変調させることで、新たな一次元電子系 の実現や、微細な電子デバイス応用等の新たな研究展開が期待される。このような二次元 ヘテロ構造の実験的な研究に関しては、2012 年より金属・絶縁体接合であるグラフェン/ 窒化ホウ素ヘテロ構造の合成と電子状態について報告されてきた。しかしながら、物性的 により興味深い二次元半導体のヘテロ構造は、2014 年より遷移金属ダイカルコゲナイド

(TMDC)原子層からなるヘテロ構造の合成が報告され始めたばかりである。従って、物 性研究で重要となる高い結晶性を持つ試料の実現や接合界面の電子状態に関する研究に関 しては全く進んでいない状況であった。そこで著者は、高品質なTMDC原子層ヘテロ構造 の合成法の確立、そして接合界面における電子状態の解明を目的に研究を行った。

2 研究の方法と結果

最初にTMDC原子層の気相成長において重要な要因と考えられる成長基板の影響と、得 られた高品質試料の光学的性質について調べてきた。通常、TMDC はシリコン酸化膜やサ ファイアなどの基板表面に、化学気相成長(CVD)法を用いて700~1000℃程度で成長される。

これらの基板では、表面のダングリングボンドやラフネスが成長した原子層の物性に影響 を与える可能性が示唆されていた。この可能性を明らかにするために、著者は、成長基板 として清浄かつ原子レベルで平坦な表面を持つグラファイトのへき開面に着目し、TMDC 合成法の確立を目指した。合成装置の作製と成長の条件探索を進め、特に1100℃という高 温化で代表的なTMDCである二硫化タングステン(WS2)や二硫化モリブデン(MoS2)の単層 の単結晶の成長に成功した。この単結晶試料の発光スペクトルは、単一のローレンツ関数 で再現でき、単層WS2では室温で発光線幅が21 meVとシリコン酸化膜上の試料の半分以 下の値を示した。線幅に関しては、酸化膜上の試料では温度変化が小さいのに対し、グラ ファイト上の試料では低温になるほど狭くなり、79 Kで8 meVまで減少した。この線幅の 温度依存性は、励起子の位相緩和時間が格子の熱振動に由来していることを示している。

一方で、酸化膜上試料の発光線幅は、欠陥や格子歪みなどによる不均一広がりにより決ま ることを意味している。また、発光エネルギーの基板依存性や発光マッピングより、基板 との熱膨張係数のミスマッチが成長した WS2への不均一な格子歪みを引き起こすことが示 唆された。本結果は、グラファイト表面が、格子歪みが抑制されたTMDC原子層の成長に

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有用であることを初めて示しており、高品質なヘテロ構造の合成に加えTMDCの本質的な 物理的および化学的性質の理解に繋がると期待される。

目的とする二次元半導体ヘテロ構造の作製には、TMDC単結晶の端から別のTMDCをエ ピタキシャル成長させることが、過去のグラフェン系の研究より一般的な指針となってい た。一方で、著者は全く異なる手法として、TMDC 結晶を基板上でスライドさせることで 異なる結晶同士を接触できる可能性を見出した。具体的には、上記の研究で得られたグラ ファイト上のTMDC結晶を金属探針で動かすことが可能であることを発見した。この現象 は、酸化膜上に成長した TMDC などでは全く観察されてこなかった。TMDC/グラファイ トの積層構造は、格子不整合系であり、かつグラファイト表面が清浄かつ原子レベルで平 坦であるために、水平方向の摩擦係数が非常に小さくなったと考えられる。このようなス ライド可能な原子層の実証は、新奇な二次元ヘテロ構造の作製や積層結晶方位の連続的制 御などの応用が考えられる。

また、上記のグラファイト基板を用いた気相成長技術を発展させ、二次元半導体ヘテロ 構造の実現を進めてきた。特に、原料である遷移金属酸化物と硫黄の供給方法の工夫によ り、単層のWS2とMoS2合金からなる単層ヘテロ構造、および MoS2/WS2の積層構造と二 層 WS2からなる二層ヘテロ構造の作製に成功した。試料は原子間力顕微鏡(AFM)、発光・

ラマン分光、走査トンネル顕微鏡/分光(STM/STS)によって評価した。特に、STSでは局所 状態密度を原子分解能で得ることができ、界面近傍でのバンド曲がりを可視化することが 可能である。単層ヘテロ構造では、MoS2とWS2のバンド端が界面でスムーズに繋がるよう に変化する様子が観測された。一方で、二層ヘテロ構造においては、界面付近で伝導帯端 と価電子帯端の両方が高エネルギー側にシフトし、同時に界面でバンドギャップが小さく なる。バンド端の高エネルギーシフトとバンド曲がりの傾向は、界面に負の円柱状固定電 荷が存在すると仮定して再現できることが示された。固定電荷の原因としては、界面での 圧電効果による分極電荷や電荷不純物の可能性が考察されている。このようなポテンシャ ル変調は界面 10nm 程度の領域で起こっており、この変調を利用することで界面に沿った キャリア蓄積や、界面を通過する電子輸送の制御が期待される。また、導電性AFMを利用 することで、TMDC を垂直に通ってグラファイト基板に流れる電流を計測し、結晶内の一 次元界面に沿って電気抵抗が減少している可能性が示唆された。この結果は、将来的には キャリアドーピングにより界面での一次元電子系の形成に繋がることを示している。

界面構造の改善やより複雑な量子構造を二次元物質で実現するためには、結晶成長速度 の精密制御や原料の多段切り替えが必要不可欠となる。この課題を解決するために、著者 は、供給制御の困難な金属酸化物の代わりに、高い蒸気圧を持つ有機金属を原料とした成 長法を開発してきた。金属原料が低温で容易に分解し凝集する課題があったが、アルカリ 金属を成長補助剤として利用することで凝集を抑制し、良質な単層単結晶の合成に成功し た。また、異なる原料を連続的に供給することでヘテロ構造を作製し、成長条件の改善に より原子レベルで直線的な界面を実現できることを見出した。さらに、本手法の高い原料

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供給の制御性を活かし、幅20 nm未満のTMDCナノリボンやダブルヘテロ構造を実現し た。これらの結果より、本手法は、微細な幅を持つナノリボン、そしてナノリボンが周期 的に配列した超格子等、新奇な低次元電子系を実現するための新たな基盤技術になる。

3 審査の結果

本研究は、高品質なTMDC原子層の合成とその光学的性質に関する成長基板の影響、ス ライド可能な原子層、そしてTMDC原子層からなる半導体ヘテロ構造の作製とヘテロ界面 の電子状態に関して新しい知見を得ることに成功してきた。対象とする二次元TMDCヘテ ロ構造の合成に関しては、2014年より世界中から関連する研究が報告されてきている。一 方で、グラファイト上に高品質な試料を成長させるというアプローチは他になく、本研究 は試料合成に関して高い独自性を持つ。さらに、新たに開発した有機原料を用いた気相成 長に関しても、原子レベルで直線的な界面や二次元物質をベースとする新たな低次元量子 構造の実現に繋がる重要な成果となっている。また、独自に作製した試料を用いることで、

TMDC の発光線幅に関してもその本質的な振る舞いを理解することができた。特に、様々 な基板上での単結晶成長を実現することで、従来の研究では考慮されていない熱膨張係数 のミスマッチと格子歪みの影響を突き止めた。ヘテロ界面に関しては、試料作製を通じ局 所状態密度の可視化と一次元閉じ込めポテンシャルの実現に成功してきた。今後、様々な ヘテロ界面の開拓や、界面を利用した一次元電子ガス等の物性研究への展開が期待される。

このように本研究は、独自のTMDC試料作製から始めて最終的には高品質な一次元界面 を実現することに成功し、二次元物質のヘテロ構造の研究において先駆的な成果をだして きた点が高く評価される。以上により、本論文は博士(理学)の学位に充分値するものと 判定した。

4 最終試験の結果

本学の学位規定に従って、最終試験を行った。公開の席上で論文内容の発表を行い、物 理学専攻教員による質疑応答を行った。また、論文審査委員による本論文および関連分野 の試問を行った。これらの結果を総合的に審査した結果、合格と判定した。

参照

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