現金と金利体系, 経済活動
その他のタイトル Cash, Structure of Money Rates of Interest, and Economic Activity
著者 安田 信一
雑誌名 關西大學商學論集
巻 13
号 4‑5
ページ 422‑449
発行年 1968‑12‑25
URL http://hdl.handle.net/10112/00021242
110 (422)
現金と金利体系,経済活動
安 田 信
1. 問 題
およそ一社会においては形態,期限を異にする種々の資金が取引せられ,
かつこの各種類の資金取引にはそれにともなう利子がある。けれども経済理 論または金融理論において経済の実物的部面と金融的部面との交渉を考察す る場合には単純化して利子は一種類または二種類存在すると仮定するのが一 般である。しかしながら現実接近のためには可能なかぎり多種類の利子が存 在する場合を考察すべきである。この意味で本稿では預金利子,短期金融債 の利回り,商業手形の割引率,長期国債の利回り,長期金融債の利回りの各 種類の利子が存在するとする。
上述のように各種類の利子の存在を仮定することは,既にその中に金融機 関としては銀行とあわせて短期債ならびに長期債を発行する金融機関の存在 を前提としていることを意味する。また銀行の要求払預金は今日各国とも一 般的には無利子またはそれに近い低利であるので,預金利子の存在を前提と することは貯蓄性預金の存在を前提とすることである。すなわち本稿では金 融機関としてほ銀行と金融債発行機関の両者が存在し,かつ前者は要求払預 金ならびに貯蓄性預金を受入れ,後者は短期債ならびに長期債を発行するこ
とを前提とする。
一社会にはいかに多くの種類の利子が存在するとしてもそれらの利子間に ほ密接な関係がなければならない。すなわちそれを妨げる特殊な外的作用の ないかぎり各種類の利子は同一方向に騰貴または下落する。けれども各種類 の利子の騰貴または下落の程度は同ーではなく,騰貴または下落の程度が大 である利子もあれば小なる利子もある。けれどもこの各種利子の騰貴または 下落の相違は一部分はその社会における経済の実物側の諸条件に依存し,他
現金と金利体系,経済活動(安田)
の部分は金融側の諸条件に依存するであろう。
(423) 111
本稿は経済の実物側の諸条件ならびに金融側の諸条件を一定と仮定して,
一社会の現金(銀行券および中央銀行預金)の供給が増加する場合に,金融 機関相互の関係,各種の資金取引および利子がどのように変化するかを考察 することを目的とする。この場合本稿では経済の実物側の諸条件を同一と仮 定したが,このことはいうまでもなく経済の実物量を同一と仮定したことで はない。すなわち現金供給の変化は他の外的条件の変化のないかぎり程度の 差はあっても各種の利子を低下し,投資の増加を通して実質産出物その他の 実質諸量に影響を与える。そしてこのことはまた各種利子の低下に抑制的に 作用する。このように考えると現金供給の変化は経済の実物側ならびに金融 側の諸条件を同一と仮定した場合にも経済の実物面ならびに金融面の双方に 作用し,かつこの相互作用の結果として各種の利子が決定せられる。本稿の 上述の考察目的の中にはこのことも含まれている。
2. 本稿におけるモデルの各方程式の意味
(1)
一社会の経済諸要因間の関係はつぎの方程式体系にて示すことができる。
Y=Y(N) (1)
Y'n=W/P (2)
S=S(Y) ・ (3)
l1=l1( な ) (4)
ら=ら(I19rC) (5)
Iけら=S (6)
FAd=Cad+M1,! +Mu''+M四+Fli Cad=L11(PY)
Mif=L12(PY, r.) Mif'=L21(PY,グC,Fr, Dr) M四=L22(な)
(7) (8) (9)
UOl
u1)
(1) 本方程式体系の中,(1),(2), (3), (6)の各式はG.Ackley, Macroeconomics, New York, 1961, p. 403,都留重人監訳n.333頁による。
112 (424) 現金と金利体系,経済活動(安田)
F1f=ら(PY,r,, F,', D,) FA,=FA,1
FA,=X+X +M2,
X=X(Ca, F,, r,, F,', D,, Fld'• Fj', Af:公)
X=X(F,) Fu'=Fu'(F,', r,, E) M2•=M2d
凡=Fli+F五十凡 凡=F.
F, =F,'+F,"
F,'=F,'(F,11, F,') F,"=F,"(F,11, F,') F,/'=F,!'(F,11, F,')
E=凡
E=E(なr6,F,") D『=D,(r.) F," =F," (r6)
四
⑬ 閥
⑮
⑯ 闘
⑱
⑲ 閃 訓 四 四
⑳ 四 閲 闘
⑳
但しY=実質所得, N=雇用, W=貨幣賃金率, P=物価水準, S=実質貯蓄, 11=
実質設備投資,ら=実質在庫投資, D,=預金利子, 凡=商業手形の割引率,な=国債 の利回り, F,=短期金融債の利回り, F,=長期金融債の利回り, FA.=非金融機関 の金融資産供給, FAd=非金融機関の金融資産需要, C%=家計の所得的動機による現 金需要, M =企業の営業的動機による要求払預金, M =企業ならびに家計の予備 的動機による貯蓄性預金需要, M以=投機家の投機的動機による貯蓄性預金需要,
F1d=企業ならびに家計の予備的動機による短期金融債需要, X=銀行の貸出, X'=
金融債発行機関の貸出, M2.=銀行の既発行債券購入の反面としての貯蓄性預金の供 給, E=金融債総発行高, F.=短期金融債発行高, F/=長期金融債発行高,凡=金 融債総需要高, F2{=銀行の短期金融債需要, F{=新規発行の長期金融債需要, E=
銀行の過剰準備, Ca=一社会の現金(銀行券および中央銀行預金)の総量
以 上 の 方 程 式 体 系 に お い て Wは ケ イ ン ズ 経 済 学 で は 一 定 と せ ら れ て い る 。 また Caは 経 済 に と っ て は 外 部 か ら 与 え ら れ て い る 。 し た が っ て 未 知 数 は28 で,方程式と一致する。
現金と金利体系,経済活動(安田) (42S) 113 上述の方程式体系は一般式として示している。したがってその方程式体系 が意味するところを明確にするがためにその一例として具体的にはつぎの方 程式体系であると仮定する。
Y=kNa a,kNa‑1= W/P S=aY‑A Il=(B‑b%)2 l2=l1{Q+q(な一ゲC)}え
I1凸 =S
FAd=Ca4+Mu'+Mu" +M;叶 Fu' Ca4= {I‑(K'+K"+r)}lPY M1/=K,'ZPY
Mu"= (K," ‑p)ZPY M四= c(%C ‑d) ‑C。
Fu'=̲(r,+p)ZPY K,'=K'{I+/$(な一r,)} K,"=K"{I+0'(なーグC)} r,=r{1+0'(応一互)}
p= 的F,'‑(D,+t)}
FA,=FA4
FA,=X+X' 十 M2•
Cad+F,(I‑μ,){幻(1‑,的)+(Kr,pー)(1‑即)
X = 1‑(K +k )+(Kr +kf‑p) } K,'+K,"‑p
1‑I‑(K'+K") + (K,'+K," ‑p) +μ,F,(1一尺)一{FJ+Fi'+即M叫
kkr'+即(Kr‑p)
+ 1‑(K +K )+(K r+K『 ‑p).
X'(l‑μ,)F,
F24'=a'(F,'+ t'‑r.) +F240'+E
(1)' (2)' (3)' (4)' (5)' (6)' (7)' (8)' (9)' (1O)' (11)' (1が (I) (II) (Il[) (IV) (13l' (14)'
U5l' U6l'
闘'
114 (426) M2•=M俎
現金と金利体系,経済活動(安田)
凡=Fu'+F五十凡 凡=F,
⑱
⑲ (20) F , = F , ' + F , 1 1 ( 2り FS=F.。'+a {E ‑(F『'+t")}+ { h。+%(F:‑Fr0'H ) ― 己H (2吋 F,"=F,。 +巧〔{1+0'0(F,。‑F,'')}え'‑1〕
璃 {(F,'+ t")‑F,"} 町 =Fd0 +8。但 ‑(F『'+t")}
+ {附十 u{(ir1‑Fr。)― l‑o。(応 ‑F:')} (24)'
F/=凡 (25)
E= {t。+t。'(rT。—叫+{C‑rco) t。 m。'+m。(%‑m)V。-五}m。I
+ { 1‑g必'‑Fr)‑V{} (26)'
Dr=グC‑e (21)
Fr =%(1+g) ̀ (20 (2別
上述の一例として仮定した方程式体系では一般的な方程式体系における未 知数以外に K,',K,", r,, pが未知数として新らたに加わり,したがって未知 数は32となる。これに対してこの新らたに加わった未知数K,',K,", r,, pの 方程式としてI,II, III, IVの各式が加わり,方程式も32式となる。
(1)式は一社会における実質産出物 Yは雇用Nの関数であることを示すが,
その意味ほ実物資本蓄積高および技術水準の一定を前提とし,かつその前提 の下では雇用の増加は実質産出物の増加となることをあらわす。いうまでも なくそれぞれの社会は実物資本蓄積高および技術水準を異にし,実物資本蓄 積高が大で,技術水準の高い社会では労働生産性は大である。 (1)'式のKは この労働生産性をあらわし,この Kの大であることは実物資本蓄積高が大で あるか,技術水準が高いか,または両者ともであるかをあらわす。そしてこ こでは実物資本蓄積高および技術水準を一定としているので, Kも一定とな る。つぎに(1)'式のaは労働に対する分配率 WN/PYを示し,かつ本稿では
現金と金利体系,経済活動(安田)
(2)
この分配率を一定としているので, aは一定である。
(427) 115
ケインズ経済学では要約的にいえば完全雇用に達するまでは貨幣賃金率 Wは一定である。すなわち完全雇用に達するまではケインズ経済学では労 働の供給量いかんにかかわらず貨幣賃金率は一定である。したがって労働の 需給すなわち雇用量を決定するのほ労働の需要側にあり,それは労働の限界 生産物と実質賃金率の等しいところまで雇用せられることを意味する。 (2)式, (2)'式はこのことを示す。また(3)式,(3)'式は実質貯蓄は実質所得の関数で,
実質所得の増加とともに実質貯蓄が増加することをあらわす。
本稿では投資を設備投資と在庫投資とに分つ。いうまでもなく一社会の投 資は資本の限界効率と利子とによって決定せられるとするが,本稿ではこの ことは設備投資について妥当するとした。そして資本の限界効率曲線は経済 にとっては与えられたものである。 (4)式において設備投資11を利子の関数と した所以である。 (4)'式における Bであるが,これは資本の限界効率曲線が どこにあるかを示し,利子が一定の場合にはBが大であることはLの大な ること, B の小なることは11の小なることを意味する。もとよりこの Bは上 述のように経済にとってほ与えられたものであり,その意味で本稿では一定 とする。つぎに(4)式,(4)'式では設備投資は国債利回りなの関数となってい るが,周知のように設備投資は長期利子の関数であるので,国債利回りなに て長期利子一般を代表したのである。すなわち企業が長期資金を調達する方 法は内部留保利益によるのを除けば,終局的にほ株式または事業債の発行と 長期金融機関からの借入れが考えられるが,その中本稿では単純化のために 株式は存在しないと仮定したので,本稿の仮定では事業債の発行かまたは長 期金融機関からの借入れかのいずれかによらざるを得ないこととなる。とこ
ろで本稿では似8)'式に仮定したように長期金融債の利回り F:'は国債利回り よりも一定割合だけ高く,かつ一般には事業債の利回りは長期金融債の利回 りよりも若干高く,また本稿でほ長期金融機関とほ金融債を発行する金融機 関のことであるが,その貸出利子は長期金融債の利回りよりも一定割合だけ (2) この点については拙稿「貨幣数量と物価,利子」(関西大学経済政治研究所研
究双書第23冊) 26頁註閲参照。
116 (428) 現金と金利体系,経済活動(安田)
高いのが常である。%にて長期利子一般を代表せしめ, I1を%の関数とし た理由である。なおなの低下はI1を増加し,なの上昇ほ11を減少するので (4)' 式にてこのことを示すが,そのためには B-bゲ6>0,).,~1 がその条件で なければならない (bは正の定数である)。
(5)式および (5)'式ほ企業の在庫投資を設備投資と商業手形割引率の関数と している。企業の在庫投資が設備投資の関数である理由については特に説明 する必要はないと考える。なお (5)'式においての Qは正の定数である。した がって(5)'式は設備投資と在庫投資との関係については設備投資の増加とと もに在庫投資が増加し,設備投資の減少とともに在庫投資が減少することを あらわす。また(5)式,(5)'式によれば企業の在庫投資は商業手形割引率の関数 でもあるとしたが,この場合の商業手形割引率は銀行の短期貸出利子一般を 代表し,したがって (5)式,(5)'式は銀行の短期貸出利子が低下すれば企業の在 庫投資が増加し,銀行の短期貸出利子が騰貴すると,企業の在庫投資が減少 することをあらわす。なお(5)'式のqは正の定数であり,入'は 1より大なる 正の定数とする。また(6)式は投資と貯蓄の均等をあらわす。
以上は経済の実物面についてであるが,以下では経済の貨幣,金融面を考 察する。
この小稿では家計ならぴに企業は金融資産として貨幣,短期金融債,およ ば国債等の既発行の債券を需要すると仮定する(なお本稿では後述のように 新規発行の長期金融債は全額,また短期金融債は一部分が銀行によって需要 せられると仮定する)。(7)'式このことを全体として示し,( 8)式以下,(8)'式以 下の各式はその内容を個別的にあらわす。
(8)式ほ所得的動機にもとづく家計の現金需要 C%が貨幣国民所得 P Yの関 数で, P Yの増加によって C%が増加し, P Yの減少によって C%が減少す ることをあらわす。そして(8)'式はこのことを具体的に示す。すなわち(8)'式 における l,K', K", I'は正の一定数と仮定するので,(8) 式によると家計の
(3)
現金需要は P Yの一定割合である。なお I‑(K'+K"+ I')>Oであることは (3) ZPYは貨幣国民所得に対してある特殊な場合 (9.=9.o)における所得的動機,
営業的動機,予備的動機によって所有せられる金融資産の合計で,本稿でいえばCad,
現金と金利体系,経済活動(安田) (429) 117 いうまでもない。
(9)式は営業的動機にもとづく企業の貨幣需要M正 はP YとrCの関数であ ることを示す。すなわちP Yの増加とともにMld勺ま増加し, rCの下落とと もにMld1iま増加する。なおMld1iま要求払預金の形態をとる。
(9)式を具体的にあらわしたのが(9)'式とその付属式である(I)式である。
(9)'式においてのりま正の一定数であるので, MliがP Yの関数であること を示す。つぎに同式のKr1であるが,このKr1が商業手形割引率にさらに 正確にはそれが代表する銀行の短期貸出利子一般の関数であることをあらわ す。そして rCがある特定の利子店であるときにK,'=K'で, rCが 心 よ り 低いときには K/>K,また凡が心より高いときにほ K,'<Kとなる。な ぉ8は正の定数である。
ケインズは予備的動機にもとづく貨幣需要ほ貨幣国民所得の関数で,貯蓄
(4)
預金の形態にて所有せられるとした。 (10)式はこの予備的動機による貨幣需要 M1a11を示し,本稿でもこの貨幣は貯蓄預金の形態にて所有せられるとする が,本稿ではMld ほ貨幣国民所得P Yの関数であるのみではなく,商業手 形割引率rCにて代表せられる銀行の短期貸出利子,短期金融債の利回り Fん
預金利子互の関数とした。
暉 式 はUO)式の具体式であるが,(Il)式はその付属式で,また (W)式は (10)'式と(12)'式との付属式である。 (10)'式におけるハま正の一定数であるので,
Mld はP Yの関数で,かつP Yの増加とともにMld が増加し, P Yの減少 とともにMld が減少することをあらわす。またMld がrCの関数であるこ とについてはそれは暉式ではK,'に関連し, Kr'が大となるか,小となるか ほM1a11を大とするか,小とするかに作用するが,その Kr1を大とするか,
小とするかは (Il)式がこれを示し, rCの低下はKr'を大にし, rCの上昇は Kr1を小とする。なおO'は正の一定数である。最後に Mご がF,',D,の関 MldI,Mu,Fld1の合計である。 lはこのような意味をもつ。このことはアクリーの 示した方法による (G.Ackley, op. cit., p. 130.訳本I193頁)。
(4) J. M. Keynes, The General Theory of Employment, Interest and Money, London, 1936, p. 195, p. 199.塩野谷九十九訳,昭和24年版, 237頁, 242頁。
118 (430) 現金と金利体系,経済活動(安田)
数でもあることについては(10)'式ではPに関連し.かつこのpが大となるか.
小となるかについては (IV)式が示す。けれども (IV)式は(1O)'式と(12)'式と の付属式であるので,その式について説明するためには(12)式・ (12)'式に関して 迷べることが必要となる。
予備的動機のために企業ならびに家計が所有する金融資産はその性質から するも貨幣に限定する必要はなく,容易に貨幣に転換できる金融資産である ならば十分である。予備的動機による金融資産の所有者である企業ならびに 家計,殊に企業でほこの動機による金融資産所有の一部分を貨幣以外の金融
(5)
資産にて所有する。本稿ではこの金融資産を短期金融債と仮定する。そして (12)式,(12)'式はこの予備的動機による短期金融債についての所有すなわち需要 に関する式である。
予備的動機による短期金融債についての需要F正 がMld と同様にPY,r., F,', D,の関数であるのは当然である。 (12)式はこのことを示す。そして(12)式を 具体化した式が(12)'式とその付属式 (m)式,および(10)'式との共通の付属式
(IV)式である。
F1/がP Yの関数であることほ(12)'式に示され,また F正 が rCの関数であ ることは(12)'式のEおよび (m)式があらわす。それでは(1O)'式との共通付属 式ほ Mld"ならびに F正 が と も に 町 と D,との関数であることに関連して いるが,それではこの式は何を意味するか。
(5) W.G. Frazer, The Liquidity Structure of Firms and Monetary Economics, Gainesvilles, 1965, pp. 3‑‑4,なお Frazerはこの対象となる金融資産は政府債と述 べているが,(ibid.,p. 3)その性質から考えて政府短期債でなければならない。こ のことをわが国における事実についていえば,この対象となる金融資産は短期金融 債である(日本経済新聞,昭和43年6月21日朝刊「深み増した企業金融」〔I〕)。 また沈氏は流動資産についてガーリーの定義を引用して「価格が固定されており,
要求次第貨幣にかえられるものと考えられる,非金融部門によって保有される請求 権を代表するもの」と規定し,かつ流動資産を貨幣と非貨幣的流動資産に分つとと
もに,後者が予備的目的ならびに多様化目的のために貨幣に代わって所有せられる と述べられている(沈晩婆金融資産選択の理論 昭和43年 66‑67頁)。 このよ うに貨幣以外の金融資産も予備的動機にもとづいて需要せられる。但し本稿でほ多 様化目的のための金融資産需要は考察の便宜上考慮の中に入れない。
現金と金利体系,経済活動(安田) (431) 119 (IV) 式においてのtは正の定数である。したがって F/が2に対して相 対的に騰貴すればpほ大となり,下落すれば小となる(なおpは正のみでは なく,負にもなる)。そしてpが大となることはFld'が大となり, Mld が小 となることを意味する。すなわち野が 2に対して相対的に騰貴すること はFld'の需要増加, Mi."の需要減少である。このことは Mi."が具体的に は貯蓄蓄性預金の需要, Fld1が短期金融債に対する需要であることから考え て当然であろう。
投機的動機による貨幣需要M uは長期利子の関数である。 (11)式はこのこ とをあらわし,長期利子の低下とともに M uは増加し,長期利子の騰貴と ともにM四は減少する。ところで(11)式によればM2dは国債利回り%の関数 となっているが,その意味は既述したように長期利子一般を代表する。この 場合にM四が長期利子の低下とともに増加し,長期利子の騰貴とともにM俎
が減少するというも,そのことは反面としていえば人々が全体として長期利 子の低下とともに銀行に債券を売却し,長期利子の騰貴とともに銀行から債 券を購入するということである。それではこの場合にM四の増減の反面とし て人々が銀行と売買する債券は何かといえiが11)式の%が直接には国債利回 りを代表するが,この式ではそれを通して長期利子一般を代表したと同様に 国債はもとより既発行の長期金融債等をも含む(但し後述のように仮定によ り新規発行の長期金融債は含まない)。なお M2dtま具体的にほ貯蓄性預金の 形態にて所有せられる。
(11)'式は(11)式の具体的な式である。すなわち同式における C,C。,c,dを正 の一定数とするのであるが,その場合に(11)'式はなの低下とともにM四が増
(6)
加し,なの騰貴とともに M邸が減少することを示す。つぎに(18)式 M四=M公
の意味であるが, M2,とは銀行の債券購入による貯蓄性預金の供給をあらわ すが,それはつぎのような仮定を含んでいる。本稿では後述のように新規発 行債券は金融債のみと仮定し,かつ銀行はこの新規発行債券を金融債発行機
(7)
関のみから購入すると仮定するので, M2,に関連する銀行の債券購入は既発 (6) (11)'式をこのような式としたのほ根本的にはアクリーの方法による (G.Ac‑
kley, op. cit., p. 369 Note 5.訳本II 280ー281頁)。
120 (432) 現金と金利体系,経済活動(安田)
行債券の購入のみである。ところで銀行は既発行債券を購入する場合にも銀 行が決定するのはその債券をどのような価格ですなわちどのような利回りで,
またどれだけを購入するかであって,この債券を販売した人々がこの資金を 投資資金とするか, M'14,M14", M四の増加とするかはこの債券の販売者が決 定し,銀行の関与する問題ではない。けれども本稿では単純化のためにこの 債券の販売者がその代金の全額をMuにて所有すると仮定した。 u8)式のM俎
̲̲ =M2,中にはこの仮定がある。このような仮定の下ではM公はMuの単なる 反面のようにも考えられるが,そうではなく銀行はMらを決定するに際して は(26)式・ (26)'式第2項が関係している。
本稿では金融機関ほ銀行と金融債発行機関の両者のみであると仮定した。
そして銀行ほ貸出Xと既発行債券の購入で,本稿の場合には既述のように M2• であるが,それに新規発行の金融債の購入によって金融資産を需要して 資金を供給する。また金融債発行機関ほ貸出X'のみをおこない,それによ って資金を供給して金融資産を需要する。いうまでもなく銀行と金融債発行 機関との取引ほ,金融機関全体としてみれば金融機関内部の取引で,したが って金融機関全体としてみればx+x1+M2,の合計の資金を供給し,金融資 産を需要するが,それは反面からいえば企業および家計からみた金融資産の 供給FA.の合計である。⑭式はこのことをあらわし,かつその合計が(7)式に 示した企業および家計の金融資産需要FA4の合計と一致することを示す。そ れがU3)式である。
金融債発行機関は本稿では仮定により貸出によってのみ資金を供給するが,
その貸出高ほ資金調達高である金融債発行高の関数である。 U6)式はこのこと を示す。 U6)'式におけるμは金融債発行機関の支払準備率で,したがって金 融債発行機関の貸出 X' は F. — µ,F.である。 U6)”式はこのことをあらわす。な ぉμは低率の一定数である。
(7) M四の反面としての債券の売買は既述のように既発行債券の売買のみに関連す ると仮定した。したがって本稿の仮定の場合には事業債が発行せられてもそれは銀 行または金融債発行機関の購入となるが,その購入は銀行,金融債発行機関の一種 の貸出であるので,その貸出の中に含む。
現金と金剰体系,経済活動(安田) (433) 121 本稿では金融債は短期金融債と長期金融債の二種類から構成せられるとし たo(2試は金融債発行機関の金融債がこの両種類から構成せられることを示 す。
金融債ほ短期債についても,長期債に関しても,それぞれの新規発行高と 需要とが後述のように一致しなければならない。まず長期債について述ぺる。
金融債発行機関ほ短期債ならぴに長期債の発行高を決定するに際しては短 期債ならびに長期債の利回りを考慮して,これを決定するo(2年式はこのこと を示す。 (23)'式は(23)式の具体式で, F。.,V2,0。,8。,t",A>", F,0'は正の一 定数で,かつ入”~o である。その場合に第 2 項は長期金融債の利回り E” の 低下とともに長期金融債の発行F. が増加すること,第3項は短期金融債の 利 回 り 野 がE よりも相対的に低くなればFr'が減少し, F『'が F/'より
も相対的に高くなればF/が増加することを示す。
(24)式は新規発行の長期金融債の需要Fa''がE とFr'との関数であること をあらわす。なお本稿ではこの需要ほ銀行のみであると仮定する。 (24l'式にお いては F,o",0。,8。,t",F,。,u1,u/, V1, V1'は正の定数で,右辺第2項ほ E がE に比較して相対的に高い場合には F/'が増加すること,また右辺 第3項はFr の低下とともにF/'が増加することを示す。なお(24)'式右辺第
3項の2番目の項と(26)'式右辺第3項の第1番目の項とは同ーであるが9 (26)' 式の第3項2番目の項は定数であるのでF,'の低下にともなうその増加高ほ 一致する。その理由はFr の低下によってF/'は増加するが, F/'の増加に
ともなってEが増加し,後述のようにFiが増加することをあらわす。
和'と F/'の一致するところにE が決定せられるが9 (25)式はこの一致を 示す。
短期金融債の新規発行高 F.'はFr とFr'との関数で9 (22)式はこのことを 示す。そしてF.'はF:'が F/よりも騰貴すればするほど増加し, F,'がF/
よりも相対的に低い場合にはF、'は減少する。 (22)'式第2項はこのことをあら わす。また野の低下はF,'を増加し, F/の騰貴はF.'を減少する。 (22)'式第
3項はこのことを示す。なお F,0',a", t", h。,h。,F,0',Hほ正の定数である。
(19)式から明らかなように金融債の需要FdtまFld'とF必および凡 から構
122 (434) 現金と金利体系,経済活動(安田)
成せられるが,その中Fi'は新規発行の長期金融債に対する需要であるので 短期金融債に対する需要ほFld'とF24'とから構成せられる。その中 Fldtま 既述のように予備的動機にもとづく金融資産需要の一部分で,家計および企 業,殊に企業によって所有せられる。これに対してF五ほ銀行による短期金 融債の需要をあらわす。
u1)式ほ F2d' が E' とグ•'E の関数であることを示す。そしてそのことを具 体的にあらわすのがU1)'式である。 U1)'式の右辺第2項F2do'は正の定数である。
そして右辺第1項ほFr'がゲeと比較して相対的に高い場合にほ, "・は既述 のように直接には商業手形割引率であるが,それを通して銀行の短期貸出利 子一般を代表していると考えられるので,銀行ほ短期貸出よりも短期金融債 を選択することを示す。つぎに右辺第3項のEであるが, Eについては(26)式, (26)'式について述べる。
本稿でほ銀行はその資金を運用するがために需要する金融資産の収益率が あまりにも低い場合には銀行はその資金を運用することなく,これを過剰準 備とするとともに,この過剰準備を若干収益的目的を兼ねて短期金融債にて 所有すると仮定した。 u1)'式第 3項における Eはこのことを意味する。
Eが上述のような意味であるとすれぼ,それが(26)式に示すようにななF,'' の関数であるのほ当然であり,んな F,''の低下とともにEが増加し, Cr
%,F, の上昇とともに減少する。
(26)'式右辺第1項ほEがグCの低下とともに増加し,グCの上昇とともにEが 減少することをあらわす。したがってこの項ほ"・の低下を阻止する方向に 作用する。なお問 式右辺第1項ほE'とreとの相対的水準によって F2d'を 増加または減少するが9 (26)'式右辺第1項はU1)'式右辺第 3項を通して F2d'を 増加するのであるが,その相違は(26)'式右辺第1項の場合にはグCの絶対的水 準と関連する。また同項の T。,t。,t。',なは正の一定数である。
銀行が債券を購入する場合には利子の騰貴による元本損失の危険を考慮し なければならず,利子の低下とともにその危険は加速度的に増加する。した(8)
(8) 拙稿「ケインズ経済学の貨幣的側面についての一考察」(関西大学商学論集第十 二巻第四,五,六合併号) 43‑4頁。