認知外の音が人の選択に与える影響
Effect of subliminal sound for human select
1W090380-0 永田 博之 指導教員 菅野 由弘 教授 NAGATA Hiroyuki Prof. KANNO Yoshihiro
概要: 本研究は、聴覚の閾値以下の音、つまり人間が認知することのできない音を刺激として与えることによ って人間の選択に影響を与えることが出来るかを検証したものである。閾値以下の刺激を与えるという行為はサ ブリミナル効果として有名であるが、サブリミナル効果は受け取る側の自覚が無いという点で倫理的な問題があ るとしてテレビなどでは自主規制が行われている。加えて単純接触効果を用いた好感度の変化についても着目し た。サブリミナル効果と単純接触効果を組み合わせることで自覚のないまま人の好感度に影響を与え、選択を操 作することができるかどうかを検証した。
キーワード:サブリミナル効果、単純接触効果
Keywords: effects of subliminal perception, mere exposure effect
1.はじめに
他人の選択を自分が思った通りに操れるとし たらそれはどれほど面白いことなのだろうか。そ してそれはどれほど危険なことなのだろうか。人 の選択を操る一つの方法としてサブリミナル効 果がよく知られている。サブリミナル効果とは人 間が意識できないレベルで呈示された刺激を知 覚させることで人間に何らかの影響をもたらす ことである。しかし、このサブリミナル効果はど のような条件において効果が出るか検証が十分 でない(*1 そのサブリミナル効果の原因とされ ているもので対象への接触の繰り返しによって その対象に対する好感度や印象が高まるという 現象である単純接触効果がある。その原因は、繰 り返し対象に接触することで脳内での処理がス ムーズに行われるようになり、処理が速くなった 理由を好感度が高まったからと誤認してしまう からとされている。この 2 つを併せて利用するこ とで気付かないうちに自分が操られている可能 性はあるのだろうかということについて検討し た。
2.実験
[1]実験1では本当に本人の自覚なしに呈示さ れた音が実際に知覚され、それが選択に影響を与 えているのかということに着目した。
最初にあらかじめ、ある音を混入させると被験者 に伝え、その音を聞かせたうえでその音を聴覚の 閾値以下となるように他の楽曲を流し、完全にマ
スキングされた状態で被験者にどちらの音が混 入されているか選択させる実験を行った。
閾値以下の音を聞かせても実際に知覚されてい るならばその選択に影響を与えると推測できる。
[2]実験2では音を用いたサブリミナル効果を 利用し、音とは全く関係のないものの選択を操作 することが出来るのかということに着目した。
ある楽曲を流し、被験者に 2 つの図形を呈示し、
どちらの図形が好ましいか選択させた。その際一 方を呈示している時のみある音を聴覚の閾値以 下になるように流した。単純接触効果が人の選択 に影響を与えるならば図形の好みの選択に本来 の図形の好感度ではなく、音に対する好感度が優 先されることで選択に影響を与えるのではない かと考えたからである。
3.結果と考察
[1]集団(ⅰ)と集団(ⅱ)に分けて 8 曲の呈示を 行った。データとして不完全と考えられる 1 曲目 を除いて、割合が変化し影響が確認された可能性 のあるものが 2 曲目、4 曲目、7 曲目、8 曲目の 4 曲あり、影響がなかったと確認できるものが 3 曲目、5 曲目、6 曲目の 3 曲あった。
全体的にサブリミナル効果の影響が出たとみな すことは出来ないが、わずかに効果の影響が出た 可能性のあるものも見受けられた。また、全問正 解は(ⅰ)では 1 人、(ⅱ)では 3 人であったが、偶 然と見ても差し支えないと考えられる。
この実験ではいずれの設問も偶然の範疇を超え
2 たとは判断できないため、認知外の音が直接人の 選択に影響を及ぼすと判断することはできない と考えられる。
[2]同じく集団(ⅰ)と集団(ⅱ)に分けて図形の 呈示を4組行った。1 組目、2 組目、3 組目では(ⅰ) と(ⅱ)の選択された比率はほぼ変化が無かった。
しかし 4 組目では明らかな数値の変化が出てい る。
A B
集団(ⅰ)には A を呈示した際に閾値以下の音量 で音を流し、(ⅱ)には B を呈示した際に音を流し た。結果は以下の通りである。
(4)で有効な結果が出た理由として考えられるの は実験 2 の前半部分では混入した音との接触が 十分でなく後半になるに従って影響が大きくな った可能性があるということである。単純接触効 果は 1 回でも効果はあるとされているが、呈示回 時間や呈示回数に相関関係があり、また回数が少 ない場合には好感度の横ばいや減衰が確認され ることもあるとされている。(*2
この実験で明確な結果が出た設問は 1 つだけだ ったが、認識外で閾値以下の音を与えても、その 音との十分な接触を行うことが出来れば選択を 変化させることの可能性があるということがい えるだろう。
4.結論
実験 1 では閾値以下の刺激を認識および選択に 直接結び付けることが出来るという仮定の下行 ったが、結果としては結び付いたと断言できない ものだった。しかし、逆にこの結果は単体では音 が認識できる音量で、その音が混入されているこ とを伝えていても他の音によって完全にマスキ ングされていれば、ほぼ認識に影響することが無 いということがいえる。実験 2 ではサブリミナル 効果を利用した単純接触効果を起こすことで、選 択に影響を及ぼすことが出来るかというもので あった。結果としては一つの事例で大幅に選択が 異なるという結果が出た。
今回の二つの実験によってサブリミナル効果に よって人の選択を操る可能性があるということ が実証された。今回は単なる二つの画像の選択で あったが、これがさらにもっと社会的に大きな行 動や判断、思考にまで影響を与えることが出来る のならば非常に脅威である。単純接触効果はどん な人にもどんな方法でも起こる。そしてそれを防 止することは不可能に近い。しかし、閾値より上 の刺激を与えた時よりも閾値以下の刺激を与え た時の方が好感度の上昇が大きいという研究報 告もある(ただしこの報告には反対意見もある)。
閾値より上の刺激を与えた際は被験者がそれに 気付き、それを意識的に抑制するようにして本来 の自らの選択を尊重しようとするからであろう。
要するに重要なのは気づくか気付かないかなの である。サブリミナル効果や単純接触効果の研究 を進めることによって、出来ることと出来ないこ とを明らかにし、多くの人に効果とメカニズムを 認識してもらえれば、都市伝説のように語られる こともなく、極度に恐れられることもなく、そし て悪用への可能性も減ってくるはずである。
私たちの選択が意外にも脆いものだと自覚し、自 らの選択を疑うようにすることが、自らの決定を 自らの意思で選択することへの近道なのだと考 えている。
注:
*1 坂元章ほか『サブリミナル効果の科学 無意識の 世界では何が起こっているか』学文社 1999 年
*2 宮本聡介・太田信夫『単純接触効果研究の最前線』
北大路書房 2008 年 図1 4 組目に呈示した図形
71 53
29 47
集団(ⅰ) 集団(ⅱ)
A B
表1 4 組目結果