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電荷注入型読み出し回路を用いた電荷カウンティン グ放射線検出器

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(1)

電荷注入型読み出し回路を用いた電荷カウンティン グ放射線検出器

著者 都木 克之

発行年 2018‑12

出版者 静岡大学

URL http://doi.org/10.14945/00026673

(2)

静岡大学 博士論文

電荷注入型読み出し回路を用いた 電荷カウンティング放射線検出器

2018 12

大学院 自然科学系教育部 ナノビジョン工学専攻

都木 克之

(3)

目次

第1章 序論 1

1.1 本研究の背景 . . . 1

1.1.1 X線イメージング . . . 1

1.1.2 フォトンカウンティング . . . 2

1.1.3 線量とパイルアップ . . . 6

1.1.4 マルチエナジー法 . . . 7

1.1.5 高速信号処理 . . . 9

1.2 本研究の目的 . . . 10

1.3 本論文の構成 . . . 11

参考文献 13 第2章 従来方式への高速信号処理適用 15 2.1 はじめに . . . 15

2.2 従来の読み出し回路 . . . 15

2.2.1 電荷有感型増幅器 . . . 17

2.2.2 波形整形 . . . 18

2.2.3 ADC . . . 19

2.3 電荷積分による電荷カウンティング . . . 21

2.3.1 検出器内の電荷移動 . . . 23

2.4 高速信号処理の応用 . . . 25

2.4.1 スペクトロメータの評価 . . . 26

2.5 放射線計測への応用 . . . 29

2.6 まとめ . . . 30

参考文献 31

(4)

第3章 電荷注入型読み出し回路の概要 34

3.1 はじめに . . . 34

3.1.1 電荷カウンティング . . . 34

3.2 電荷注入型読み出し回路の基本構成 . . . 38

3.3 信号処理 . . . 41

3.3.1 電荷-デジタル変換 . . . 41

3.3.2 量子化誤差と暗電流 . . . 43

3.4 まとめ . . . 45

参考文献 47 第4章 電荷注入型読み出し回路の設計 49 4.1 はじめに . . . 49

4.2 CdTe検出器と電荷注入 . . . 49

4.3 集積化 . . . 50

4.3.1 積分回路と電荷注入回路 . . . 52

4.3.2 比較器 . . . 53

4.3.3 デコーダ . . . 54

4.3.4 テスト回路 . . . 55

4.3.5 その他回路 . . . 55

4.4 CdTe検出器の接合 . . . 56

4.4.1 ピクセル化されたCdTe検出器 . . . 56

4.4.2 バンピング . . . 57

4.5 まとめ . . . 57

参考文献 59 第5章 電荷カウンティング放射線検出器の実証 60 5.1 はじめに . . . 60

5.2 評価環境 . . . 60

5.3 暗電流による回路動作確認 . . . 62

5.4 テスト入力による入出力線形性評価 . . . 64

5.5 バックグラウンド雑音の測定 . . . 66

5.6 放射性同位体を用いた測定 . . . 67

(5)

5.6.1 スペクトル測定 . . . 67

5.6.2 ガンマ線エネルギーを用いた入出力線形性評価 . . . 71

5.6.3 透過像撮影 . . . 73

5.7 X線源を用いた測定 . . . 76

5.7.1 透過像撮影 . . . 77

5.7.2 線量に対する線形性 . . . 77

5.8 まとめ . . . 78

参考文献 80

第6章 結言 81

謝辞 83

(6)

表目次

4.1 設計した放射線検出器用電荷注入型読み出し回路の主な仕様 . . . 50

4.2 CdTe検出器の主な特性 . . . 50

5.1 暗電流測定結果 . . . 64

5.2 中心10x10ピクセルの係数a,bの統計量 . . . 72

(7)

図目次

1.1 シンチレータ検出器と半導体検出器の画質差の例 . . . 2

1.2 CT再構成による画質改善とX線エネルギー情報の活用例 . . . 2

1.3 X線透過像撮影 . . . 3

1.4 X線スペクトルの例(管電圧150kV) . . . 3

1.5 蓄積型とフォトンカウンティング型の違い . . . 4

1.6 フォトンカウンティング型読み出し回路の光子判断原理 . . . 5

1.7 スペクトル計測回路 . . . 5

1.8 スペクトルの計測原理 . . . 5

1.9 モリブデンのエネルギー別CT画像([9]Fig. 2より引用). . . 6

1.10 パイルアップ発生の原理 . . . 7

1.11 108photon/sの指数分布. . . 7

1.12 マルチエナジー法の原理 . . . 8

1.13 粒子取り扱い概念の電荷への展開 . . . 9

1.14 理想的な電荷カウンティングの原理 . . . 10

2.1 電荷読み出し回路の概念 . . . 16

2.2 抵抗によるリセット方式 . . . 16

2.3 スイッチによるリセット方式 . . . 17

2.4 電荷有感増幅器 . . . 18

2.5 CR-RC整形器 . . . 19

2.6 ピーク検出の動作 . . . 20

2.7 Wilkinson ADCの動作原理 . . . 21

2.8 電荷積分による電荷カウンティング . . . 22

2.9 現実的な電荷積分 . . . 23

2.10 従来型フォトンカウンティングとの波形の違い . . . 23

(8)

2.11 半導体検出器の検出原理 . . . 24

2.12 半導体検出器の移動度の影響 . . . 25

2.13 スペクトル計測ボード . . . 26

2.14 スペクトロメータの波形解析処理 . . . 26

2.15 入力信号の形 . . . 27

2.16 対応周波数の評価結果 . . . 28

2.17 立ち上がり時間測定 . . . 28

2.18 波高値測定 . . . 29

3.1 理想的な電荷移動の例 . . . 35

3.2 電荷注入型読み出し回路 . . . 36

3.3 電流入力回路 . . . 36

3.4 理想的な電荷検出 . . . 37

3.5 電荷の弁別が理想的でない場合の電荷検出の例 . . . 37

3.6 電荷注入型読み出し回路の原理 . . . 38

3.7 電荷注入による電荷カウンティング回路 . . . 38

3.8 電荷注入による電荷カウンティングの例 . . . 40

3.9 電荷移動と並行して行う変換動作 . . . 41

3.10 現実的な電荷注入型QDC . . . 42

3.11 現実的な電荷注入型QDCの変換動作例 . . . 42

3.12 電荷注入型QDCの変換動作例(シミュレーション) . . . 44

3.13 暗電流を含めた電荷注入型QDCの変換動作例 . . . 45

4.1 電荷演算回路の例 . . . 51

4.2 簡易的なピクセル回路図 . . . 52

4.3 試作したLSIのレイアウト . . . 52

4.4 積分回路とスイッチト・キャパシタ網 . . . 53

4.5 比較器の回路図と動作タイミング . . . 54

4.6 デコーダ回路のブロック図 . . . 55

4.7 テスト回路を含めたピクセル回路 . . . 56

4.8 ピクセルCdTe検出器 . . . 57

4.9 CdTe検出器を乗せたLSIの写真 . . . 58

5.1 試作LSIの評価基板 . . . 61

(9)

5.2 CdTeへのバイアス印加方法 . . . 62

5.3 実装後の評価基板 . . . 63

5.4 暗電流測定(ピクセル(10, 10)) . . . 63

5.5 テスト入力による線形性評価 . . . 65

5.6 テスト入力から求めた入出力線形性 . . . 65

5.7 動作クロック周波数とLLD最適値の関係 . . . 66

5.8 バックグラウンドの測定結果 . . . 67

5.9 放射性同位体を用いた測定のセッティング . . . 68

5.10 241Amのスペクトル測定結果(中央100ピクセル抜粋) . . . 68

5.11 57Coのスペクトル測定結果(中央100ピクセル抜粋) . . . 69

5.12 測定した放射線同位体241Amのスペクトル . . . 70

5.13 測定した放射線同位体57Coのスペクトル . . . 71

5.14 エネルギー対エネルギー閾値の関係(ピクセル: X=22, Y=19) . . . 72

5.15 中心10x10ピクセルのエネルギー換算 . . . 73

5.16 鉛コリメータを用いた測定のセッティング . . . 74

5.17 放射線同位体を用いた透過像撮影結果 . . . 74

5.18 57Coを用いたイメージング . . . 75

5.19 241Amと57Coの差分イメージ . . . 75

5.20 X線管を用いた測定のセッティング . . . 76

5.21 X線管と検出器との位置関係 . . . 76

5.22 X線管を用いた透過像撮影結果 . . . 77

5.23 管電圧75kVと150kVのX線スペクトル比較 . . . 78

5.24 線量対計数値(管電圧150kV、中央100ピクセル抜粋) . . . 79

5.25 線量対計数値(ピクセル(22,19)抜粋) . . . 79

(10)

第 1

序論

1.1 本研究の背景

1.1.1 X 線イメージング

ドイツの物理学者 Wilhelm Conrad R¨ontgenによるX 線の発見以降、X線について の多くの研究がなされており、現在では透過像撮影およびX線回折、X 線分光でX線が 利用されている。X線の透過像を撮影する技術およびその画像を解析する技術がX 線イ メージング技術であり、医療におけるレントゲン写真やCT撮像、空港での手荷物検査な どのセキュリティ用途、工業製品の品質検査などの非破壊検査の広い分野で利用されてい る。X線イメージングに求める性能は、高解像度、高画質、低被ばくである。これらは一 つの技術によって全て改善されるものではなく、一つ一つの技術の蓄積により日々改善さ れている。

例えば、図 1.1は市販のカメラをシンチレータ検出器(a)と半導体検出器(b)で透過像 を撮影したものである。半導体検出器で撮影した透過像の方が解像度が高く、細かな部品 の判別がしやすいのが分かる。シンチレータ検出器は半導体検出器と比べると大きな面積 を撮影するのに向いており、細かな電子機器を撮影するのは半導体検出器の方が適してい るという一例である。ただし、シンチレータ検出器は一度の露光で図 1.1(a)の透過像を 撮影したが、半導体検出器はラインセンサを用いてスキャンした。撮影方式が異なるた め、検出器の性能比較を行っているわけでなく、検出器の種類による傾向の違いを表して いるだけという点に注意されたい。

画質は CT撮像を行うだけでも改善されるが、さらにCT再構成法の改善であったり [1, 2]X 線エネルギー情報の利用[3][4, p.19]が行われている。図 1.2に点火プラグの

(11)

(a) シンチレータ検出器で撮影 (b)半導体検出器で撮影 1.1 シンチレータ検出器と半導体検出器の画質差の例

CT撮像例を示す。CT撮像のため1度刻み、360枚の透過像を撮影した。CT再構成す ることで内部の透過画像を維持しつつ立体的に画像化できるようになり、情報が増えたと いう意味で画質が改善されている。また、デュアルエナジー法[5, p.33-36]に基づき、実 効原子番号を輝度に割り当て、電子密度を色に割り当てた結果が図 1.2(d)である。透過 像では黒く潰れてしまったネジ部分の内部を、実効原子番号と電子密度の情報が輝度と色 に分離したことで、一枚の絵で可視化している。

(a) 点火プラグ (b) 透過像

(c) CT再構成 (d) エネルギー情報による疑似カラー化

1.2 CT再構成による画質改善とX線エネルギー情報の活用例

1.1.2 フォトンカウンティング

透過像撮影は、被写体を透過してきたX線を撮影することで画像とする。そのため、被 写体はX線源とX線検出器に挟む形で配置する(図 1.3)。イメージング用途で通常使用 されるX線源は、様々なエネルギー成分を含んでいる(図 1.4)。X線光子はX線検出器 と相互作用を起こし、個々の光子に対してそのエネルギーに応じて数百から数万の電子正

(12)

孔対を生成する。それを電気信号(電荷)として読み出すことでデータ化する。

1.3 X線透過像撮影

1.4 X線スペクトルの例(管電圧150kV

X線は電波や可視光と同じ電磁波の一種であり、粒子性と波動性の二面性を持つ。波長 が短くエネルギーの高い電磁波ほど光の粒子性が顕著に現れ、精密な計測を行うことに より光子として離散的に扱うことが出来る。電磁波の中でも特にエネルギーの高いX 線 は、その光子を電気信号(電荷)に変換する検出器を用いることにより光子を一つ一つ数 えるフォトンカウンティングが比較的容易で、実際に行われている[6, 7, 8]。エネルギー の高い光子は、一つの光子につき多量の電荷を発生させるため、読み出し回路としては扱 いやすく、複数光子の弁別が容易になるからである。一方で、光子を一つ一つ弁別せずに ある時間内の光子を積算して計測する方法は蓄積型として知られており、可視光を中心 に、X線でも透過像を撮影する手法として広く使われている [8, p.21-41]。図 1.5に蓄積 型とフォトンカウンティング型の計測の違いについて示す。図 1.5(a)のグラフは、X 線 が照射されている場に設置されたX 線検出器が出力している信号を表してる。蓄積型は 信号を積分する時間としてフレーム時間を定義し、その時間内の信号を積分し計測結果と

する(図 1.5(b)。そのため、蓄積型では時間内のX線光子を一つの群として扱い計測し

ている。フォトンカウンティング型は蓄積型よりも高速に信号処理を行い、一つ一つの光 子の信号を区別して計測を行う。光子の入射はランダム事象でありフレーム時間の概念 も無いため、検出回路は自分自身で計測タイミングを判断する必要がある。読み出し回 路は信号を常に待ち受け、閾値よりも大きな信号入力をトリガとして光子の数を数える

(図1.5(b)、図1.6)。閾値の選定基準は、雑音と光子の信号を弁別できるかどうかである。

(13)

よって、閾値が正しく設定されている場合において、出力される画素データに雑音は含ま れない。フォトンカウンティングによる画像撮影はノイズレス・イメージングと呼ばれ、

画像の低ノイズ化と低被ばく化に有用である。このように、蓄積型では時間内の光子を一 つの群として扱っているが、信号処理を高速化し時間分解能を高くした結果、個々の光子 の取り扱いを放射線画像工学に導入したのがフォトンカウンティング技術である。

(a) 計測方式の違い

(b) 読み出し回路の違い

1.5 蓄積型とフォトンカウンティング型の違い

フォトンカウンティングの発展として、スペクトル計測がある。これは個々の光子を弁 別しつつ、光子のエネルギー情報も測定することで照射されたX 線のスペクトルを推定 する測定である。図 1.7にスペクトル計測回路を示す。個々の光子を弁別する概念はフォ トンカウンティングと同じである。フォトンカウンティング回路(図 1.5(b))との違い は、エネルギー情報測定のため多bitのADCを搭載していることである。ノイズと光子 を弁別するための閾値に加え、エネルギーに対する閾値を増やしている(図 1.8。この回 路による測定結果から、エネルギーごとの光子数を集計することで図 1.4のようなスペク

(14)

1.6 フォトンカウンティング型読み出し回路の光子判断原理

トルを得る。

1.7 スペクトル計測回路

1.8 スペクトルの計測原理

スペクトル計測を行うと X線イメージングの画質向上につながる。例えば、我々のグ ループではエネルギー情報を用いてCT画像の高画質化も研究しており[9]、簡単な例と して図1.9が挙げられる。この画像は、中央に穴の空いたモリブデンを被写体とし、X線 スペクトロメータを用いて360度の透過像を撮影しCT再構成した結果で、再構成結果 から1スライスを抜粋している。測定したスペクトルから異なるエネルギー帯(40keV、

(15)

80keV、120keV)を用いてCT再構成を行うと、それぞれから異なるCT画像を得る。低 エネルギー帯になるほど被写体透過後に十分な光子数を得られなくなり、アーチファクト が発生する。このアーチファクトにより、低エネルギーのCT画像ほど被写体中央の画 質が劣化している。エネルギー情報を使わない場合、全てのエネルギー帯が混ざりあって しまい低エネルギー帯のアーチファクトを除去できない。スペクトル計測を行い高エネル ギー帯だけを用いることで画質が向上する。他にも、図 1.2で示したデュアルエナジー解 析もスペクトル計測により再現される。

(a) 被写体

(b) エネルギー別CT画像

1.9 モリブデンのエネルギー別CT画像([9]Fig. 2より引用)

1.1.3 線量とパイルアップ

フォトンカウンティング技術はX 線イメージングの改善に有用な技術であるが、パイ ルアップにより照射できるX線の線量に上限がある。パイルアップとは、一つの光子の 信号を処理中に次の光子が入射してしまい、二つの信号が重なってしまう状態のことであ る(図 1.10)。パイルアップが発生すると光子の数え落としが発生し、X線線量と計測結 果の間に非線形性が生じる。フォトンカウンティングを用いたイメージングにおいてパイ ルアップ発生すると、照射線量に依存したコントラストの非線形性が発生し画質の低下に つながる。そのため、パイルアップの発生率が小さく画質に影響しない線量下で使用しな ければならない制限がある。フォトンカウンティングを基にしているスペクトル計測でも 同様にパイルアップが発生する。

(16)

1.10 パイルアップ発生の原理

照 射 線 量 へ の 要 求 は 、例 え ば CT 撮 像 で は 108 109photon/mm2/s で あ る [8, p.47][10]。線量 108photon/s の時の X 線光子の入射間隔の確率分布を図 1.11 に示 す。この時の平均的な入射間隔は10nsであるが、より短い間隔で入射する確率が約63%

存在する。10nsサンプリングの信号処理回路では約63%パイルアップが発生してしま う。信号処理を高速にし、1nsサンプリングの信号処理で約10%、0.1nsサンプリングの 信号処理で約1%のパイルアップである。限られたピクセル面積での高速な信号処理には 限界があるため、ピクセル面積を小さくし、並列処理することでピクセルあたりの線量を 減らす。ピクセル面積は解像度とも関係し、半導体検出器(CdTe, CZT)を用いて汎用的 な用途を目指しているイメージャでは100×100µm2以下がよく用いられる[11]。

1.11 108photon/sの指数分布

1.1.4 マルチエナジー法

デュアルエナジー法の発展として、より多くのエネルギー情報を用いるマルチエナジー 法が研究されている[10, 12]。複数のエネルギーを画像解析に用いる場合、線源側で複数

(17)

の異なるエネルギーを照射するには限度があるため、ピクセルごとにスペクトル計測が必 要である。得られたスペクトルから注目するエネルギー帯を複数抜き出し、複数画像を用 いて画像解析を行う(図 1.12)。

(a) 構成

(b) 原理

1.12 マルチエナジー法の原理

マルチエナジー法の原理に基づいた画像解析手法は我々のグループ[9]を含め、様々な グループで研究されている[10, 12] が、実用的な2次元イメージャLSIは未だ開発され ていない。10keVのエネルギー分解能でデュアルエナジー法の効果が表れている[13]た め、マルチエナジー法でもまずは10keVの分解能が必要である[8, p.79]。この分解能で、

デュアルエナジー法が用いられているCT撮像の一部や空港の手荷物検査で行われている ようなセキュリティチェックに応用できる。医療用途や非破壊検査で用いられるX 線源 の、およそのエネルギーをこのエネルギー分解能でカバーするには最低16階調(4-bit) のスペクトル計測回路が必要となる。この実装は従来回路より多くの面積を必要とするた め、ピクセル面積を大きくせざるを得ない。大きなピクセル面積ではピクセルあたりの線 量が増加するため、スペクトル計測用のパイルアップ対策が必須である。

(18)

1.1.5 高速信号処理

元々分かれていた光子による信号が重なってしまう原因は、読み出し回路にある。光子 により生成される電荷が検出器から出力される時にも時間を要するため、その時間内で重 なってしまうことは避けようがない。しかし、図 1.5(b)の回路は電荷信号の状態で分か れていたとしても、整形回路で信号を間延びさせるためより多くのパイルアップを発生さ せてしまう。ここで、電荷が電子と正孔からなる粒子であることに着目すると、本来数え られる光子をまとめて扱っていた蓄積型から個々の光子を取り扱うフォトンカウンティン グ技術へと発展したはずであるのに、本来数えられる同じく粒子の電荷を未だまとめて 扱っていることに疑問が生じる。すなわち、図 1.5(a)で示した蓄積型からフォトンカウ ンティング型への光子取り扱い概念の展開は、同様に個々の電荷へも適用できるはずで ある(図 1.13)。その結果、より高速な信号処理として個々の電荷を取り扱う電荷カウン ティングに辿り着く。

1.13 粒子取り扱い概念の電荷への展開

ここで考える理想的な電荷カウンティングとは、時間分解能が0sの極限の世界で電荷 の存在判定を行い、電荷の有無を時系列データ化するものである。図 1.14に図示する。

読み出し回路への入力電荷Qin は極限の時間分解能で個々に弁別されており、読み出し 回路は電荷の有無を同じく時間分解能0sの極限で判定し、時系列に判定結果を出力する。

この理想的な条件下では、電荷信号の読み出しは検出器内の電荷の移動と同時に完了する

(19)

ため、読み出し回路起因でパイルアップが発生することがなくなる。こうした個々の電荷 の取り扱いを放射線画像工学に導入できれば、放射線を電気信号(電荷)に変換してデー タ化する測定系において、電荷を読み出す回路が電荷を直接扱うという、原理に忠実な 計測を行うことになる。電荷を電圧に変換する必要がなくなれば回路が簡素化されるた め、従来のX線イメージャに集積できなかった技術を搭載できるようになることが期待 される。

1.14 理想的な電荷カウンティングの原理

1.2 本研究の目的

X線イメージングにおいてさらなるエネルギー情報の活用のために、X線エネルギース ペクトルイメージングが求められているが各画素にスペクトル計測回路の実装が必要であ る。しかし、回路規模の増大、すなわち画素サイズの増大が必要で、空間解像度の劣化お よび画素あたりの入射線量の増大によるパイルアップ率の増加が問題となる。画素微細化 による高解像度化とパイルアップ率の低減は、エネルギースペクトル計測のための回路規 模増大と相反し、結果として実用的なX線エネルギースペクトルを計測可能な二次元放 射線イメージャが実現されていない。そこで、画素毎にエネルギースペクトルを検出可能 な二次元放射線イメージャの実現を目指し、その手段として電荷カウンティングを導入す る。パイルアップ減少に有効な手段の一つは信号処理の高速化である。エネルギースペク トル計測の基となるフォトンカウンティング技術が個々の光子を扱っているという考えか ら発展し、信号処理のさらなる高速化により個々の光子に対して発生する電荷を個々に弁 別して計測する電荷カウンティングに辿り着く。これにより理想的な条件下では、パイル アップの低減や読み出し回路の縮小を期待できる。しかしながら、理想と現実との間には 大きな隔たりが残っている。それゆえ本研究では、X線のエネルギースペクトルイメージ

(20)

ングのために、フォトンカウンティングに電荷カウンティングの方式を取り入れた新しい 二次元放射線イメージャを提案および試作し、実際に動作検証を行う。

1.3 本論文の構成

本論文は以下の構成をとる。

第1 章 本論文の序論であり,研究の背景および目的について述べた。

第2 従来の読み出し回路に高速信号処理を適用する。従来の読み出し回路では、電 荷有感増幅器、波形整形回路、ピークホールド回路およびADCの構成がよく用い られ、それら回路のメリットともに、この回路の信号処理におけるパイルアップ発 生の原因を示す。次に電荷カウンティングの思想に基づき、従来の読み出し回路に デジタル高速信号処理を適用し高速ADCと大規模な波形解析回路を用いた方式を 検討している。ここで得られた回路をディスクリート部品で実装し、特性の評価を 行いX線イメージャのエネルギースペクトル計測回路として実用的かどうか検証 する。

第3 章 電荷カウンティング動作を基に新しい読み出し方式の回路を提案している。提 案回路は放射線検出素子で発生した電荷に対して直接信号処理を行う方式で、電荷 演算に電荷注入を用いる。回路構成そのものは一般にΣΔ方式と呼ばれるものとほ ぼ同一であるが、電荷を直接取扱いデジタル変換する原理と信号処理方式が異な る。よく知られるΣΔ変調器との混同を防ぐため、本研究では本提案回路を電荷注 入型読み出し回路と呼ぶ。この提案回路に対して、シミュレーションを用いて電 荷-デジタル直接変換の原理や、ノイズ源となる発生する量子化誤差の性質につい て解析し、エネルギースペクトル計測回路としての実装法を提案する。半導体検出 素子に暗電流が存在する場合でも動作することを検証し、実際の素子においても動 作が可能なことを示す。

第4 章 電荷注入型読み出し回路を標準CMOSプロセスを用いて設計、試作する。試作 LSIは40× 40ピクセルの電荷注入型読み出し回路を搭載し、CdTe放射線検出素 子をバンピングにより接続してX線イメージャとして構成する。実装する電荷注 入型読み出し回路は個々のピクセルが16閾値を持ったエネルギースペクトル計測 回路である。設計した具体的な回路構成を述べた後、CdTe検出器のバンピングの 手順について述べる。

第5 章 第 4 章で試作した X線イメージャを評価した結果を述べる。まず、試作した

(21)

LSI回路が電荷カウンティング動作を行えることを実証し、エネルギー閾値の調整 によりバックグラウンド雑音を除去できること、および異なる放射性同位体からの ガンマ線エネルギーの違いを測定できることを確認して単一ピクセル動作としてX 線エネルギースペクトル計測を行えることを実証する。次に、この素子を用いて二 次元の画像を検出するX 線イメージャとしての検証を行う。低線量の放射線同位 体線源および高線量のX 線管線源を用いて被写体の透過像撮影を行い、大きく異 なる線量下においてもX線イメージングが可能であることを示す。

第6 結言として本研究をまとめる。

(22)

参考文献

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(24)

第 2

従来方式への高速信号処理適用

2.1 はじめに

本章では、第 1 章で導入した電荷カウンティングの概念から、従来の読み出し回路に高 速信号処理を適用しパイルアップに対する耐性を有する読み出し回路を検討する。まず、

従来の読み出し回路は電荷有感型増幅器と波形整形回路およびADCから構成されるた め、それらの基本的な機能について概説する。次に電荷カウンティングの思想に基づき、

従来の読み出し回路にデジタル高速信号処理を適用し高速ADCと大規模な波形解析回路 を用いた方式を検討している。ここで得られた回路をディスクリート部品で実装し、特性 の評価を行いX線イメージャのエネルギースペクトル計測回路として実用的かどうか検 証する

2.2 従来の読み出し回路

スペクトル測定が可能な読み出し回路は、電荷を読み出し積分する容量と、光子計測後 に積分容量をリセットする回路を必要とする。検出器からの出力電荷が単極であるため、

読み出し続けると積分回路が飽和してしまうためである。図2.1に読み出し回路とリセッ ト回路の概念図を示す。積分回路が電荷を収集し、付随回路でパルス信号が到来したこと と信号の終わりを検知し、総電荷量を計測する。計測が終わり次第すぐにリセットし次の 信号を待ち受けるか、回路の飽和まで連続して動作させ後段で信号による変化分だけを抽 出することにより光子を弁別するかの2方式がある[3, p.61-100]。

図 2.2および図 2.3に読み出し回路の簡単な例を示す。積分回路は両回路ともに、検出 器の出力端子に容量Cint を接続することで実現している。図 2.2の回路はリセットを並

(25)

2.1 電荷読み出し回路の概念

列抵抗Rleak で実現している。CintRleak の時定数により電荷が放電されるため、時 定数を光子のパルス信号および信号処理時間より十分長くする必要がある。図 2.2(b)は 抵抗リセットによる回路の信号例を示している。上のグラフは光子の入射イベントを示し ており、横軸が時間、縦軸が光子のエネルギーである。光子が入射すると検出器がそのエ ネルギーに比例した電荷を出力するため、積分容量Cintで積分した結果、Vbuf の電圧が 上昇する。ここでは検出器が正電荷を出力するものとしている。抵抗の放電によるリセッ トでは、抵抗と容量の過渡応答で電圧が下がっていくため指数関数的にリセットされる。

(a) 回路構成

(b) 回路の応答例 2.2 抵抗によるリセット方式

(26)

一方で、図 2.3の回路はリセットをスイッチにより実現している。積分回路後段でリ セットの必要性を判断しスイッチの開閉を制御することでリセットを行う。通常、回路の 飽和を検知してスイッチを短絡させることにより積分容量に溜まった電荷を瞬時に放電さ せる。

(a) 回路構成

(b) 回路の応答例

2.3 スイッチによるリセット方式

これらの積分方式では積分容量に検出器やコネクタなどの寄生容量が加わり、実質的な 積分容量値が検出器や接続方法に依存するため、出力電荷数が十分多い電子増幅機能を 持った検出器で主に用いられる。

2.2.1 電荷有感型増幅器

寄生容量の影響を低減する方法として、演算増幅器を使用する方法が広く用いられてい

る(図 2.4)[3, p.66-70]。この演算増幅器は電荷入力に対して専用に設計されるため、一

般の演算増幅器と区別して電荷有感型増幅器と呼ばれる。理想条件下において図 2.4の回 路は図 2.2の回路と信号処理動作が等価であり、帰還容量Cf b と帰還抵抗Rf bがそれぞ

(27)

れ積分容量Cint および放電抵抗Rleak に相当する。しかしながら、負帰還により入力端 子のインピーダンスが低く保たれており入力電荷Qin を能動的にCf b へ移動するため、

検出器容量やコネクタの寄生容量の影響を無視できる。この効果により、積分容量Cf bの 容量値を小さく設定でき電荷-電圧変換利得を大きくとれるため、電子増幅機能のない半 導体検出器や電離箱の出力でも電子回路で直接扱うことができる。リセット方式は変わら ず抵抗による放電やスイッチによるリセットが用いられる。その他、抵抗の代わりに電流 源や能動素子による負帰還を用いて放電する方法[5]もあるが、時間をかけてリセット行 うという本質は抵抗による放電と同じである。

2.4 電荷有感増幅器

2.2.2 波形整形

図 2.2(a)および図 2.4で示した抵抗によるリセット回路は、電圧が指数関数的に収束

するため、信号のピーク時間に比べてリセット時間が非常に長くなる。具体的に、容量と 抵抗による過渡応答は

V(t) =V0exp (

t τf b

)

(2.1)

τf b =Rf bCf b (2.2)

となる。ここで時刻t は電荷パルスが入力されてからの経過時間、V0 は電荷を全て積分 した後の積分容量端電圧であり、電荷の移動はτf bよりも十分早くインパルスとして扱え るものとする。パルス高を計測する時間ttop を信号ピークから1%低下した時刻までと し、リセット完了までの時間tbottom をピークから99%低下した時刻までとすると、

ttop 0.01τf b (2.3)

tbottom 4.6τf b (2.4)

(28)

となり、これら時間の比は約460となる。これでは信号処理の大半の時間がリセットのた めに消費されてしまう。そこで、パルス波形の専有時間を短くするため波形整形を行う場 合が多々ある[2, p.134-138]。

図 2.5に単純なCR-RCフィルタとその信号例を示す。CR-RCフィルタは入力された

ステップ信号を正規分布の形に近づける。抵抗等の放電によるリセット回路を用いている 場合、整形回路への入力信号をステップ信号に近づけるため、別途ポール・ゼロ・キャン セル回路を使用する。ステップ応答をこのフィルタに通したときの過渡応答は、

V(t) =V0

t τsh exp

(

t τsh

)

(2.5)

τsh =RshCsh (2.6)

となる。式(2.1)の場合と異なり、電圧のピークはt =τshの時刻で、電圧値はV0exp (1) である。ここで、パルス高を計測する時間ttopを、過渡応答のピークを100%として99%

以上のパルス高を有する時間とし、リセット完了するまでの時間tbottom を、ピーク後に 信号が1%まで低下する時刻までとすると、

ttop0.28τsh (2.7)

tbottom 7.6τsh (2.8)

となり、これら時間の比は約27である。波形整形回路の有無に関わらず、パルス高を計 測する時間(ttop およびttop)が等しくなるよう時定数を選ぶと、波形整形回路を使用し たほうがリセット完了までの時間が1/10以下に短縮される。

2.5 CR-RC整形器

2.2.3 ADC

AD変換に高分解能を求める場合、サンプル&ホールド回路を使用し、ピーク電圧でサ ンプルしてから変換する。ピークの検出には、ピークホールド回路[6]と比較器を用いる。

(29)

図 2.6にピーク検出の動作を示す。図 2.6(a)はピーク検出の回路構成を示しており、波 形整形器からの入力信号がピークホールド回路と比較器に接続されている。比較器の比較 電圧LLDは下限閾値である。この回路の動作は図 2.6(b)となる。横軸が時間、縦軸が 電圧である。入力信号(青)がピークホールド回路でホールドされ、ピーク電圧を維持す る(赤点線)。その後、入力信号がLLDを下回るとADCが信号をデジタル値に変換し、

ピークホールド回路はリセットされる。

(a) ピーク検出の構成

(b) ピーク検出動作 2.6 ピーク検出の動作

AD 変換の方式として Wilkinson ADC が長い間用いられている [7, 8]。図 2.7 に

Wilkinson ADCの動作原理を示す。ADCはまず、ピークホールドした信号をADC

の容量Cadcにサンプルする。入力信号がLLDを下回りピークが確定したら電圧Vadc を ホールドし、リセット電流IRで放電を開始する。電流源による放電のため電圧Vadcは時 間に対して線形に減少していく。Cadc が完全に放電されるまでの時間を比較器とカウン ターによって数え、デジタル出力とする。

近年では他の回路方式も性能が改善されパイプライン方式 [9]やSAR方式のADC[10]

も用いられる。X線イメージャのように多数の読み出し回路が集積され、閾値が少ない場

(30)

(a) Wilkinson ADCの回路構成

(b) 信号処理

2.7 Wilkinson ADCの動作原理

合はフラッシュ型のADCが多く採用されている[11, 12]。

2.3 電荷積分による電荷カウンティング

図 1.14に理想的な電荷カウンティングの原理を示したが、電荷を数えられれば必ずし もこの図の通りに計測する必要はない。特にDoutとしてビット列化する前にどのような 信号処理が挟まれていても良い。理想的には電荷を直接ビット列に変換したいが電子回路 への実装までを見据えると現実的ではない。中間処理として電圧に変換したほうが無難で ある。そこで、一つの電荷カウンティング方法として、入力電荷を一度積分した後に差分 演算により電荷の有無を判断する方式が考えられる(図 2.8)。時間分解能が0sの極限で

(31)

理想的に入力電荷Qin が弁別されているとすると、その電荷積分の結果は階段状になり ステップの高さは常に等しく(電気素量に相当する電圧に)なる。積分結果の電圧を高速 高分解能なADCでデジタル化し、差分演算を行うことで電荷の入力時刻を抽出する。

(a)計測の概念

(b) 計測回路

2.8 電荷積分による電荷カウンティング

現実的な制限として時間分解能が有限であることと回路ノイズによって電気素量そのも のを扱えないためより大きな電荷量を最小電荷単位としなければならないことが挙げられ る。これら制限を課した結果を図2.9に示す。有限の時間分解能により個々の電荷弁別が 制限され、入力電荷がまとまった電荷量としてしか認識できない。しかしながら波形整形 回路が存在しないため、電荷が検出器内を移動する間の電荷変化は未だ計測される。

一つの光子からの信号は電荷移動が始まった時刻から終わる時刻までで区切られる。

図 2.9の方式は検出器内の電荷移動をそのまま計測するから、電荷移動の終わりの時点 ですぐさま光子の弁別を終え次の光子を待ち受ける。従来のフォトンカウンティング型

(図 1.5(b))との信号波形の違いを図 2.10に示す。上2つの波形は図 1.10と同じで、X

線光子の入射間隔が近い場合に波形整形回路の出力でパイルアップを生じている。3段目 のグラフに示す、図 2.8の概念による電荷積分の出力では、光子の弁別に電荷の検出器内 の移動時間だけが必要であり、同じ光子の入射タイミングでもパイルアップしない。した がって、パイルアップに対する耐性を有する。

(32)

2.9 現実的な電荷積分

2.10 従来型フォトンカウンティングとの波形の違い

2.3.1 検出器内の電荷移動

X 線が検出器に入射してから電荷が完全に出力されるまでには時間を要する。電荷出 力の時間変化には、光子と検出器がどのような反応を起こしたかという情報が含まれる [1, p.149-152,p.178-183,p.229-231,p.367][3, p.50-54][13]。電荷の移動に情報が含まれる 例として、図 2.11に半導体検出器によるX線の検出例を示す。ここで半導体検出器はダ イオード構造となっており、逆バイアスが印加され内部に電界が生じている。X線が入射 すると電離作用により電子正孔対が生成されるが、電界に応じて電子と正孔がそれぞれ電 極へ移動する。全ての電荷の移動が完了し、全電荷が読み出し回路で計測されることで入 射したX線のエネルギーが推定される。

(33)

2.11 半導体検出器の検出原理

電荷の移動速度は検出器に応じた移動度と電界強度によって定まるが、電子と正孔の移 動度が異なると電子の影響が主となる時間と正孔の影響が主となる時間で出力される電荷 に違いが生じる(図 2.12)。図 2.12の横軸は電子正孔対が発生してからの経過時間を表 し、縦軸は出力された総電荷量を表している。電子と正孔どちらの影響が主となるかはX 線の入射位置に依存し、カソードに近ければほとんどが電子の移動になり、アノードに近 ければ正孔の移動になる。第 5 章で使用するCdTe 放射線検出器の構成から電子および 正孔の移動時間を計算すると、

検出器厚みd= 750µm (2.9) バイアス電圧Vb = 1000 V (2.10) 電子移動度µe= 1100 cm2/V/s (2.11) 正孔移動度µh = 100 cm2/V/s (2.12) 電子の移動時間te5.1 ns (2.13) 正孔の移動時間th 56 ns (2.14) となる。ここで、電子と正孔はそれぞれ検出器の端から端まで移動した場合を想定してい る。遅い正孔の移動を考慮すると、読み出し回路は最低限数10nsのオーダーで信号処理 する必要がある。

補足として、検出器から出力される電荷の時間依存性を計測することで X線の入射位 置を推定することが可能である。入射位置の情報を用いることで、測定値を補正してエネ ルギー分解能を向上したり[13, 14]、電極の工夫[15]と合わせて3次元位置検出に応用さ れる[16]。そのため、電荷の時間依存性を計測できる読み出し回路構成であれば、X線の 入射位置情報を用いた画質向上の可能性を有する。

(34)

(a) 出力電荷の時間依存 (b) 電荷積分の時間依存 2.12 半導体検出器の移動度の影響

2.4 高速信号処理の応用

図 2.9をスペクトル計測に応用する。積分器には従来型の電荷有感増幅器をそのまま 用いることが出来る。そこで、積分器以降のADC及び波形解析回路を新規に実装する。

図 2.13にADCと波形解析回路を実装したスペクトロメータの基板を示す。ADC には Analog Devices社製AD9222[17]を、FPGA にはXilinx社製 Airx-7のXC7A100Tを 搭載する特殊電子回路社製ボードTKDN ART7 BRD-2[18]を用いている。ADCはマス タークロック30MHzで動作しており、30M samples/sの測定が可能である。また、入力 ダイナミックレンジは2Vppで電圧分解能は12bitである。

積分器の出力をADCでデジタルデータに変換した後、FPGAでは波形解析を行い光子 の弁別および波高値を測定する。波形解析では光子による信号の始まりを検出するため、

信号の立ち上がりを検出し波形解析の基点とする。以降の解析はその基点からの差分値で 行う。フォトンカウンティングと同様に光子と雑音の弁別のため立ち上がりの閾値を設け ている。閾値を超えた信号に対して最大値を保存し、最大値から波形確定閾値分下がった ところで1波形の処理を完了する。波形確定閾値が大きいと波高値測定の精度が向上する が、1波形の処理時間が延びてしまう。最小値は0で、電圧が少しでも下がると波形処理 を完了する。

(35)

(a) ADCボード

(b) FPGAを取り付けた状態

2.13 スペクトル計測ボード

2.14 スペクトロメータの波形解析処理

2.4.1 スペクトロメータの評価

スペクトロメータがどの程度の立ち上がり時間まで波形を弁別できるか確認する。入力 として図 2.15に示すノコギリ波を用いる。この波形は立ち上がり時間triseで規格化され

(36)

ており、立ち下がり時間は9×trise、周期は10×triseである。triseを掃引することによ り、様々な立ち上がり時間および周期の信号に対する測定を行った。

2.15 入力信号の形

計数率[cps](count per second)を測定した結果を図 2.16に示す。横軸は入力信号の 立ち上がり時間trise で、縦軸は測定した計数率と期待値からの誤差量errorである。計 数率の測定値は10回測定の平均値を表しており、期待値は1/(10×trise) [cps]である。

errorを1%まで許容するとした場合、計数率は最大10×106cpsまで確認できた。サン プリング周波数が30MHzであることを考えると妥当な値である。一方で、遅い立ち上が り時間の信号については立ち上がり時間が8000nsを超えたあたりからerrorが急激に増 加している。ADCの分解能が12bit、入力ダイナミックレンジが2Vppであるから、本評 価で使用した0.8Vppの入力信号は波高値として1638LSBが期待される。立ち上がり時

間は8000nsは240回のサンプリング数に相当するので、この時1638LSBの高さを240

回に等分して波形が上昇していくことになる。1サンプルあたり約7LSBの上昇である。

波形処理は信号の立ち上がり時に単調上昇を期待しているため、7LSBという傾きから回 路ノイズの影響が出始めていると考えられる。さらに傾きが緩くなると、雑音により立ち 上がりの途中で波形の終わりと誤って判断され、波高値や立ち上がり時間の測定値も安定 しなくなるはずである。

次に立ち上がり時間の計測結果を示す(図 2.17)。図 2.17の期待値は入力したテスト 信号の立ち上がり時間そのもので、測定値は多数の測定結果の平均値である。早い立ち上 がり時間では50ns付近から、遅い信号では8000nsを超えたあたりからerrorが多くなっ ている。遅い方の原因は計数率測定の場合と同様、信号の傾きの緩やかさである。早い信

号でのerror量の増加は 30MHzサンプリングの限界を示している。errorを1%まで許

容する場合、50nsが測定限界であった。約33nsが30MHzサンプリングの限界であるか ら妥当な値である。

(37)

2.16 対応周波数の評価結果

2.17 立ち上がり時間測定

最後に、波高値の計測結果を示す(図2.18)。図2.18の期待値は入力波形の振幅0.8Vpp である。測定値は多数の測定結果の平均値を示す。波高値精度は、測定ばらつきがどの程 度のbit精度に収まっているかを示している。これまでの測定結果と同様に、早い信号は 50ns付近、遅い信号は8000ns 付近が測定限界となっている。遅い方の原因は計数率測 定の場合と同様、信号の傾きの緩やかさである。早い信号における精度劣化は30MHzサ ンプリングの限界を示している。結果として、trise = 50 nsで4.7bitの測定精度が得ら れた。

(38)

2.18 波高値測定

2.5 放射線計測への応用

波高値測定結果(図 2.18)と実際の検出器からの信号の立ち上がり時間式 (2.14)を考 慮すると、マルチエナジーX 線イメージャに適用するならば、30MHzサンプリングの

5-bit ADCが最低限必要な性能である。このADCに近しい実装として[19, 20]が報告さ

れているが、想定している画素サイズ100×100µm2ではADCだけで画素面積が埋まっ てしまう。イメージャとして実装するには、ADCに加えて積分器、波形解析回路および データ転送用のデジタル回路が必要である。したがって、パイルアップ対策のため電荷積 分による電荷カウンティングから現実的な回路に発展させた本方式は、X線イメージャに 応用するのは面積的に困難であるという結論に至った。

一方で、早い信号の他に遅い信号でも同一の設定で計数できることがわかった。2.4.1章 の結果から、今回のADC構成で50ns〜8000nsと約100倍の立ち上がり時間信号に対応 できることが示されている。単に高速計数に対応するだけであれば、従来のフォトンカウ ンティング回路(図 1.5(b))でも波形整形の時定数を早くすることで原理的には実現でき る。ただし、その時定数より早い信号は測定できても遅い信号に対応できない。また、波 形整形により電荷信号の立ち上がり情報が失われてしまう。同一設定で幅広い立ち上がり 時間の信号に対応するため、立ち上がり時間が大きく変化する測定に応用できる可能性を 示唆している。そのような測定例として、CdTe検出器のポーラリゼーションの解明が挙 げられる。

CdTe検出器は室温で動作する半導体検出器として広く研究されており、電極にショッ

(39)

トキー接合を用いることで高いエネルギー分解能を達成している。しかし、ショットキー 接合のCdTeには経時で特性が劣化するポーラリゼーションが報告されている。ポーラリ ゼーションの原因究明のためCdTe検出器の挙動調査の一つとして、立ち上がり時間の評 価が行われている[21]。ポーラリゼーションの影響は低いバイアス電圧のときにより顕著 に現れるが、低いバイアス電圧では電荷が検出器内を移動する時間が長くなり信号の立ち 上がり時間も延びてしまう。そのため、高いバイアス電圧と低いバイアス電圧の評価を同 じ設定のスペクトロメータで行うのが困難であった。そこで、本技術を用いいることでこ の測定時の問題を解決できるのではないかと考えられる。

2.6 まとめ

パイルアップ対策のため電荷積分による電荷カウンティングの概念を提案し、現実的な 回路へ発展させた。この回路は、入力電荷の積分値を高速ADCで全てデータ化すること で、入力電荷量の時間変化を計算しパルス信号を解析する。従来のフォトンカウンティン グ方式にある波形整形が存在しないため、より高速な波形解析が可能である。試作したス ペクトロメータでは10×106cpsまでの計数動作を確認し、より高速なADC を使うこ とでさらなる高計数への対応も余地がある。しかしながら、この方式の回路は高性能な ADCと大規模な波形解析回路が必要となってしまう。マルチエナジーX線イメージャの パイルアップ対策として適用しようにもピクセル内に集積することが非常に困難である。

一方で、立ち上がりの遅い信号であっても計数できることを確認し立ち上がり時間に対す るダイナミックレンジは約100倍であった。この結果から、立ち上がり時間が大きく変化 する測定に応用できる可能性が示唆された。

(40)

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[20] S. Chaput, D. Brooks, G.Y. Wei, “An Area-Efficient 8-Bit Single-Ended ADC With Extended Input Voltage Range,” IEEE Transactions on Circuits and Systems

(42)

II: Express Briefs 65.11 (2018): 1549-1553

[21] H. Nakagawa, T. Terao, T. Masuzawa, T. Ito, A. Koike, H. Morii, T. Aoki,

“Carrier Transport Properties of CdTe Detector under Polarization Conditions,”

Sensors and Materials, 7 1605-1610 (2018)

(43)

第 3

電荷注入型読み出し回路の概要

3.1 はじめに

本章では、電荷カウンティング動作を基に新しい読み出し方式の回路を提案している。

提案回路は放射線検出素子で発生した電荷に対して直接信号処理を行う方式であるため、

まず電荷演算を行う電子回路について説明する。ここで電荷演算回路のうち放射線計測に 適する方式として電荷注入を採用し、提案回路を電荷注入型の読み出し回路としている。

次にこの提案回路に対して、シミュレーションを用いて電荷-デジタル直接変換の原理や、

ノイズ源となる発生する量子化誤差の性質について解析し、エネルギースペクトル計測回 路としての実装法を提案する。最後に、半導体検出素子に暗電流が存在する場合でも動作 することを検証し、実際の素子においても動作が可能なことを示す。

3.1.1 電荷カウンティング

電荷を個別に数える場合、フォトンカウンティングと同様に個々の電荷を時間的に分離 するほど高速で読み出す必要がある。また前提として、検出器は電荷が時間的に重ならな いように出力する必要がある。これら条件が満たされた理想的なシステムが存在したとす ると、検出器内での反応の仕方の違いにより電荷の時間的粗密が存在する。図 2.11の半 導体検出器が、この理想的なシステムだった場合の電荷の移動を図 3.1に示す。横軸は光 子により電子正孔対が発生してからの経過時間である。グラフの縦軸は検出器から出力さ れる電荷であり、下のグラフは上のグラフの時間軸を電荷を一つ一つ数えられるまで拡大 している。電子の影響が主となる間は電荷が存在が密になり、電子の影響がなくなり時間 あたりの出力電荷が少なくなると、電荷の存在が粗になる。光子の時間的粗密も存在する

(44)

ため、連続して電荷が存在しない時間を閾値とすれば光子の弁別にもなる。

3.1 理想的な電荷移動の例

この電荷移動を読み出す理想的な電荷カウンティングシステムは図 1.14に既に示した。

また、従来の読み出し回路のこの考えを適用した結果を第 2章で述べた。従来の読み出し 回路の延長ではない新しい読み出し回路として、電荷注入型と電流入力型が考えられる。

まず、電荷注入型の回路を図 3.2に示す。電荷存在有無の判断は1-bitのADCである から、より早い変換速度と少ないbit分解能のADCが必要である。変換速度とbit数の トレードオフはADCでよく知られており、このトレードオフと電荷演算による読み出し を満たすADCシステムとしてΣΔ方式が考えられ、電荷カウンティングに適用したのが この回路である。ΣΔ方式であるが設計思想が異なるため、混同を防ぐためこの回路を電 荷注入型読み出しと呼ぶ。積分器と比較器で電荷の存在を確認し、確認した電荷は差分回 路で積分器から取り除かれる。積分器は明示的な電子回路である必要はなく、比較器と差 分回路が動作する間に電荷を溜めておく容量で十分である。積分容量をCint とすると、

しきい値電圧を

Vth= e

Cint (3.1)

とすることで一つの電荷に反応する。比較器は連続動作を続けるため、時間的にランダム な電荷入力にも反応する。

一方で、電流入力型の回路を図 3.3に示す[1, p.28-32]。電流もしくは電荷入力を電流 増幅器がバッファし、電圧に変換してAD変換を行う。このような電流入力回路の実施例 として[2]が報告されている。

検出器と電荷演算による読み出し回路が理想的で、完全に電荷が弁別できる場合の検出

(45)

3.2 電荷注入型読み出し回路

3.3 電流入力回路

例を図 3.4に示す。ここでの理想的な状態とは、検出器からの電荷が電気素量ごとに時間 的に区別でき、読み出し回路も電荷を一つ一つ弁別できることを意味している。上のグラ フは電気素量の入力タイミングを表しており、電荷の入力に応じて中央のグラフのVint の電圧が上昇している。Vint が閾値電圧Vthを越えることで比較器が反応し、Dout に論 理値H が出力される。電荷注入型では比較器が反応することで電荷注入回路が積分器に 溜まった電荷をキャンセルし、電圧Vint が下がる。電流入力回路では入力電荷を電流と して流してしまうため自動的にリセットされる。この理想状態では電荷注入型でも、電流 入力回路でもデジタル出力Doutの期待値は同じである。しかし、現実には回路の時間分 解能に限界があり、検出器で発生した多数の電荷が同時に入力されるため振る舞いが異 なる。

図 3.5 に電荷の時間弁別が十分でなく、複数電荷がまとまった場合の検出例を示す。

図 3.5(a)が電荷注入型(図 3.2)による例で、図 3.5(b)が電流入力回路(図 3.3)によ る検出例である。電荷注入型は電荷がまとまって入力された場合、連続して1 電荷ずつ 処理していくため読み出しに時間がかかり時間情報が制限されるものの、総電荷量の情報 はDout に正しく含まれる(図 3.5(a))。一方で電流入力回路を用いた場合、電荷を積分 して保持していないため電荷が複数同時に入力された場合に一度しか比較するタイミング がない。結果、入力電荷が弁別されていないと電荷量の情報が出力から失われてしまう

(図 3.5(b))。これを解決するには電流入力回路の電圧ADC の分解能を上げる必要があ

(46)

3.4 理想的な電荷検出

る。したがって、回路を複雑にすることなく非理想状態でも入力の総電荷量を正しく出力 する電荷演算方式として、放射線検出器には電荷注入型が適している。

(a)電荷注入方式 (b) 電流入力回路 3.5 電荷の弁別が理想的でない場合の電荷検出の例

参照

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