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ポーランド人日本語学習者の語彙のネットワークについて

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ポーランド人日本語学習者の語彙のネットワークについて

紺屋洋亮

キーワード:語彙、ネットワーク、語の連想、語彙習得

1.研究の背景と目的

 本稿のねらいは、語彙のネットワークの観点からL2 語彙習得を捉え、JFL環境で学ぶポーラン ドの学習者の語彙のネットワークの形成の手がかりと、学習の進度に伴うその変化を明らかにす ることである。

 外国語学習における語彙学習の重要性は広く認識されており、吉澤(2016, p.61)は「語彙知識 が不足していると、いくら文法や音韻の知識が豊富でも、伝えたいことを伝えられないし、書か れたり話されたりする内容も十分には理解できない」と指摘する。また、Webb & Nation(2017, p.5′括弧内筆者)は「それら(=語彙)はリスニング、スピーキング、リーディング、ライティ ングの中心であり、そのため、生活のほぼあらゆる側面に欠かせない要素である」(筆者訳)と述 べており、語彙学習は言語活動の様々な側面に関わり、中心的な役割を担うと言える。

 では、語彙の学習とは何を学習することだろうか。Nation(2001)は語彙を知ることに関わる 側面として、その形式・意味・使用を挙げている。まず、形式に関する知識の中には発音や綴り、

語構成の知識が含まれる。次に、意味に関する知識には、特定の語形とそれが表す意味に関する 知識、ある概念と指示対象についての知識、連想や代替が可能な語に関する知識が含まれる。さ らに、使用に関する知識は、特定の語が現れるパターンに関する知識や、コロケーション、レジ スターや頻度に関する知識である。こうした語彙の知識の諸側面を踏まえると、語彙の学習とは 単に綴りや発音と意味を結びつけることだけにとどまらない。どれだけ多くの語彙を知っている かということに加え、語彙についてどのような知識を知っているかということから語彙習得を考 えることができ、それぞれ語彙の知識の量や広さ、及び、質や深さと言うことができる。

 語彙の深さについて、Haastrup & Henriksen(2000, p.221)は「知識の深さの中心となるのはネッ トワーク形成のプロセスであり、それは、学習者は頭の中で第二言語の語の間にリンクを作って いるということを意味する」(筆者訳)と述べている。また、Aitchison(2003)等のこれまでの語 彙習得研究においても、頭の中の語彙の知識の蓄えである心内辞書において、語彙はネットワー ク状の体系を成していると考えられてきた。Taylor(2012/2017, p.441′太字原著)は「言語知識の 単位同士は関係のネットワークによって繋がっている」と述べており、語彙に関する様々な知識 に基づき語同士は関連付けられていると考えることができる。

 Read(2004, p.219)も語彙の深さを理解する手段のひとつとして語彙のネットワークを挙げて おり、その中で「深さは、意味上関係のある語を区別する学習者の発展的な能力という観点や、

また、より一般的には、個々の語が互いに関連付けられる多様な方法に関する学習者の知識の観 点から理解できる」(筆者訳)と述べているように、語彙のネットワークの形成については、語の 東京外国語大学国際日本学研究 第 2 号 Tokyo University of Foreign Studies Japan Studies Review №2

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知識を関連付けたり、語を区別したりすることと考えられる。深谷・田中(1996)は概念形成論 として、語の概念形成の過程における「差異化」「一般化」「典型化」の認知過程の相互作用を強 調しており、語の概念形成は 1 つの語単独で成立するものではなく、事物の関係性を探ることだ と言える。また、Saji & Imai(2013)は中国語学習者の中国語の「持つ」「運ぶ」に関連する動詞 の使い分けに関する調査を行った。そこから、語はそれ単体ではその語が表す概念を特定できず、

特定の基準に則り、他の語との関連や文脈によって初めて理解され得るということがわかる。

 これらのことから、語彙習得の過程で、学習者が語を頭の中で関連付けていくことが語彙の理解 に欠かせないと考えられる。本稿では、このように語同士の関連付けが進むと頭の中の語彙全体 でネットワーク状の体系を成すと考え、この語同士の関係をネットワークで表すモデルを「語彙 のネットワーク」とする。また、何らかの手がかりを見つけ、語を関連付ける過程を語彙のネッ トワークの特徴の 1 つとし、それを分類する。以下では、第二言語としての日本語の語彙習得の 過程における、語彙のネットワーク形成の手がかりを調査し、語彙のネットワークの拡大に必要 な支援について考察する。

2.先行研究

 学習者の持つ語彙の知識や、それらから構築される語彙のネットワークを引き出し、観察する ため、谷口他(1994)は自由連想法による調査を実施した。初めに何か思いついた語を書き、そ こから連想される語をたこ足状に次々に広げて書いて、線で結ぶ方法を採用している。また、単 語が集まって島のようなグループを作っている場合は、それらを線で囲み、どんな種類のグルー プか名前をつける。単語を書きだした後にはインタビューを行い、連想の手がかりを調査した。

調査対象者は東京工業大学留学生教育センターの留学生で、初級クラス 4 人と中級クラス 5 人で ある。

 インタビューの内容から得られた連想の手がかりは、「意味」、「漢字」、「発音」、「エピソード」、

「イメージ」、「その他」の 6 つに大きく分類された。さらに、これらのうち、「意味」は「同意、類 義語」、「反意語」、「属性」、「所有、存在」、「共起関係(collocation)」、「上位概念(superordination)」、

「下位概念(subordination)」、「同格、同類(co-ordination)」の 8 つに分けられる。「漢字」は「字 形」と「熟語」に分けられる。次に、グルーピングの形成のきっかけとしては、主に上位概念や 下位概念等の「概念構造」、「漢字」や「エピソード」が用いられていた。このような観点で分析 すると、初級の段階では、エピソードに関する連想が強く、連想の中に自身のエピソードを想起 する「私」という語の記述もあった。一方で中級では、概念体系を記述する傾向が強かった。こ れは初級の段階では語彙のネットワークはエピソードの連鎖として形成されるが、学習が進むに つれてエピソードの数が増え、エピソードの連鎖間に意味概念のグループが形成されて、体系化 していくためだと考察されている。また、初級の授業では自分の経験を語る練習が多いが、中級 になると専門分野での概念体系そのものを学習する機会が多くなるという教育方法が関係してい る可能性も指摘している。

 小野(2001)においても谷口他(1994)に基づいた連想法の調査を行っているが、書き出しの 語は「大学」という語に統一している。対象は日本語母語話者 31 人と旧日本語能力試験 1 級に合 格した日本の大学 1 年生の日本語学習者 10 人である。調査の結果、母語話者のほうが書き出した 語数が多く、1 つの語から枝分かれして想起される語も多かったことから、語彙のネットワーク

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が密だと考えられる。また、どのような連想がされたかということについて、「意味論レベル」、

「音韻論レベル」、「統語論レベル」、「文字レベル」、「社会言語レベル」に分類している。

 また、Fitzpatrick(2006, 2007, 2009)は数十個の語を刺激語として提示し、それぞれから想起さ

れる反応語をひとつ挙げる連想法による調査を行っている。Fitzpatrick(2006) は、英語母語話者 と英語非母語話者を対象に、いくつかの品詞を含む 60 の刺激語を提示し、得られる反応語を意 味的連想(meaning-based association)、位置的連想(position-based association)、形態的連想(form- based association)、誤り(erratic association)の 4 つのカテゴリーに分類した。また、それぞれの カテゴリーについて、参加者のインタビューに基づいて下位分類を設けた。このカテゴリーは多 少の修正を加えながら、Fitzpatrick(2007, 2009)の研究においても用いられている。これらの研 究は、複数の研究を通して用いられる一連の方法論を示しており、連想法による調査のモデルと なり得る。今後、学習進度や、学習者の母語における語の認識、また、刺激語がどのように連想 に影響するか調査することで、語彙のネットワークの特徴を明らかにすることができる。

 このように、語彙のネットワークの調査に用いられる連想法や分析の観点にはいくつか種類が あり、語彙のネットワークのどのような特徴を明らかにするかという目的により異なる。谷口他

(1994)や小野(2001)のような連想法は自由に連想を広げることができ、語の関連付けに用い られる知識を幅広く観察できる。一方、Fitzpatrick(2006, 2007, 2009)の調査では刺激語を複数提 示し、それぞれから反応語を得られるため、語彙のネットワークにおける特定の語の関連付けを 観察できる。本研究では、谷口他(1994)に基づき、語彙のネットワークの広がりを観察し、語 の関連付けに用いられる手がかりを分類する。その際、ポーランドにおける日本語学習者を対象 とすることで、日本で学ぶ学習者を対象とした谷口他(1994)とは異なる学習環境の影響を調査 し、また、学習の進度による変化を調査する。

3.研究方法 3.1.研究課題

 先行研究を踏まえ、JFL環境という学習環境を考慮した上で、第二言語としての日本語の語彙 のネットワークにおいて、どのような語が、どのように関連付けられているか調査するため、以 下の研究課題を設ける。

(1) JFL環境の学習者は語彙の体系化にどのような手がかりを用いるか

(2) 学習の進度によって、語彙の体系化の手がかりに変化は見られるか

3.2.調査の概要

 日本語学習者の語彙のネットワークを調査するにあたって、日本語学習者を対象としている谷 口他(1994)の研究に基づき、幅広い連想の手がかりを取り出す。指定した刺激語を紙の中心に 書き、その語から連想される語を線で結びながら、次々にたこ足状に書く自由連想法による調査 を実施した。書き出しの語による連想への影響を考慮し、書き出しの刺激語を指定することとし た。その際、谷口他(1994)の中で多くの学習者が挙げた「大学」と「海」、及び、品詞の異なる 語として「悲しい」を刺激語として選び、3 つの調査を実施した。単語が島のように集まってい る部分を後から線で囲む作業は困難な事例もあり、必ずしも求めなかった。制限時間は 30 分で、

連想する語が思いつかない場合は、途中で終了することを認めた。なお、分析の観点として、線

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で結ばれた 2 語はその関係性を谷口他(1994)で示された連想の手がかりを参考に、必要に応じ て新たなカテゴリーを設け、26 の手がかりに分類した。例えば、「教師」という語の次に「先生」

と書かれた場合、2 語の関係から、「同意・類義語」に分類した。付録 1 に分類と例を示す。ダッ シュの左の語が前出の語であり、ダッシュの右の語がその次に書かれた語である。語は調査にお いて書かれた原文のまま示した。連想の手がかりには「休み―幸せ」のような「感情」の分類や、

「大学―引っ越し」のような「エピソード」の分類のように個人のエピソードに基づくものがあ り、また、「同意・類義語」、「反意語」、「上位概念」、「下位概念」、「同格・同類」のような語の概 念構造に基づく分類も設けられた。

 調査対象者はポーランドの大学の日本学科の「2 年生」、修士課程 1 年目に相当する「4 年生」、

日本学科で 2 年間日本語を学んだ後、調査時日本に留学している「留学生」、及び、「日本語母語 話者」の 4 つのグループに分けられる。「大学」、及び、「海」を刺激語とする調査は、2 年生 13 人、4 年生 7 人、留学生 2 人、日本語母語話者 9 人を対象とし、実施した。「悲しい」を刺激語と する調査は、2 年生 9 人、4 年生 7 人、日本語母語話者 9 人を対象とし、留学生は実施していな い。付録 2 は、「大学」を書き出しとする 4 年生の連想の一例である。

4.結果と考察

 まず、表 1 に各調査対象者のグループによって書かれた語の総数と、括弧内に 1 人あたりの産 出語数の平均を示す。産出語数の平均については、4 年生の平均語数よりも 2 年生の平均語数の ほうが多く、自由連想法における産出語数と学習の進度に関係があるとは言えない。

表 1 語の総数と 1 人あたりの産出語数の平均

刺激語:「大学」 刺激語:「海」 刺激語:「悲しい」

2 年生 785 語(60.4 語) 899 語(69.2 語) 637 語(70.8 語)

4 年生 263 語(37.6 語) 271 語(38.7 語) 247 語(35.3 語)

留学生 176 語(88.0 語) 198 語(99.0 語)

日本語母語話者 787 語(87.4 語) 952 語(105.8 語) 870 語(96.7 語)

 次に、表 2 に調査対象者のグループ毎の連想の手がかりの割合を示す。なお、表 2 において、

2 年生は「2」、4 年生は「4」、留学生は「留」、日本語母語話者は「日」とした。谷口他(1994)

に新たに追加した手がかりは「(※)」で示した。連想の手がかりを幅広く観察できたが、谷口他

(1994)において、学習の進度に伴い、エピソードを主体とする連想から語の概念構造を主体とす る連想への変化が見られたことから、以下この 2 つの連想について考察する。

 まず、学習者の特徴を考察するため、2 年生の連想を日本語母語話者の連想と比べると、「下位概 念」、「同格・同類」等の割合が高かった。2 年生は「大学」の書き出しに対してそれぞれ 25.6%、

8.3%で、「海」に対してそれぞれ 15.0%、11.9%、「悲しい」に対してそれぞれ 15.1%、10.1%で あった。日本語母語話者は「大学」の書き出しに対してそれぞれ 19.1%、5.6%で、「海」に対し てそれぞれ 13.4%、5.4%、「悲しい」に対して、それぞれ 9.2%、4.6%であった。また、「反意語」

についても、2 年生の連想における割合が高い傾向があった。2 年生は「大学」、「海」、「悲しい」

の書き出しに対してそれぞれ、1.9%、2.0%、5.5%で、日本語母語話者はそれぞれ 0.4%、0.6%、

2.1%だった。2 年生の連想において、語の概念構造を手がかりとした連想が目立ったと言える。

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 次に学習の進度による変化を考察するため、4 年生の連想を 2 年生の連想と比べると、「感情」、

「エピソード」等の割合が高かった。4 年生は「大学」の書き出しに対してそれぞれ 9.6%、8.5%

で、「悲しい」に対してそれぞれ 4.2%、3.1%だった。2 年生は「大学」に対してそれぞれ 4.7%、

4.5%で、「悲しい」に対してそれぞれ 2.7%、1.2%だった。ただし、「海」を書き出しとする調査 では、2 年生の連想に「週末」や「散歩」のような語もあり、調査対象者の海に関わる経験や関 心によって、この傾向が変化したと考えられる。

 最後に留学生の連想を取り上げ、学習環境と学習進度の両方の変化を考察する。留学生の連想 では、「エピソード」の割合が「大学」と「海」それぞれの書き出しに対して 8.6%、18.9%で、他 の調査対象者のグループより高かった。日本語が使われる環境で学習することで、自身の経験が 語彙の学習につながったと考えられる。

表 2 連想の手がかりの割合(単位:%)

刺激語:「大学」 刺激語:「海」 刺激語:「悲しい」

2 4 留 日 2 4 留 日 2 4 日

同意・類義語 2.5 0.4 3.7 2.9 1.9 0.0 4.6 2.2 3.0 1.9 2.6 反意語 1.9 3.3 0.0 0.4 2.0 1.4 0.5 0.6 5.5 2.3 2.1 属性 5.5 7.8 1.1 8.2 9.6 13.7 4.6 11.6 6.1 9.6 10.9 感情(※) 4.7 9.6 2.7 2.6 2.0 2.8 0.9 1.3 2.7 4.2 1.6 所有・存在 7.9 9.3 11.8 4.9 12.6 14.4 7.4 11.8 5.6 6.1 5.3 場所(※) 5.8 6.7 8.6 6.4 3.6 2.8 9.7 7.4 3.1 5.4 3.9 時・状況(※) 6.6 6.3 6.4 8.2 7.3 11.3 2.3 6.4 1.2 3.8 3.9 共起関係 4.5 6.7 7.0 6.0 4.0 3.9 7.8 4.7 5.6 5.7 8.6 上位概念 2.4 2.2 2.1 2.1 4.0 3.9 1.4 3.0 2.5 3.1 3.6 下位概念 25.6 4.8 13.4 19.1 15.0 11.3 13.8 13.4 15.1 7.3 9.2 同格・同類 8.3 12.6 7.0 5.6 11.9 12.3 4.6 5.4 10.1 11.9 4.6 原因(※) 0.9 2.2 1.1 1.1 1.0 0.7 1.8 2.1 13.3 12.3 9.2 結果(※) 4.2 4.1 8.6 2.6 2.3 2.8 2.8 5.1 9.3 8.8 9.7 目的(※) 2.7 3.3 3.2 5.6 2.4 1.4 2.8 3.3 0.6 3.8 1.2 道具(※) 3.3 5.2 5.3 6.1 3.0 2.8 1.4 6.9 1.9 1.5 4.7 方法(※) 0.6 0.7 3.7 4.9 0.4 0.4 0.9 1.5 0.1 0.8 1.9 要素(※) 2.5 2.6 2.1 2.6 2.9 1.8 1.4 1.6 3.8 1.5 2.8 全体(※) 0.0 0.0 0.0 0.1 0.7 1.1 0.0 0.5 0.7 0.4 0.2 字形 0.0 0.0 0.0 0.0 0.7 0.0 0.0 0.1 0.4 0.0 0.0 熟語 2.5 0.7 1.6 1.5 4.5 2.1 7.4 2.8 4.1 2.7 2.4 発音 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.9 0.0 0.0 0.0 0.1 形態(※) 0.1 0.0 1.1 0.1 0.0 0.0 0.5 0.3 0.3 0.4 0.6 エピソード 4.5 8.5 8.6 5.1 6.8 4.2 18.9 3.9 1.2 3.1 1.9 イメージ 0.5 1.1 0.0 0.1 0.2 2.8 2.3 1.8 0.4 1.5 1.1 作品・固有名詞

(※) 0.7 0.0 0.0 2.6 0.1 0.4 0.0 0.8 0.0 0.0 6.3 その他 1.9 1.9 1.1 1.1 0.9 1.8 1.4 1.3 3.3 1.9 1.6 合計 100 100 100 100 100 100 100 100 100 100 100  注 1:小数第 2 位以下四捨五入した。各項目を加算しても 100 にならない場合がある。

 注 2:本文の考察で取り上げた数値を網掛けで示した。

 注 3:谷口他(1994)に新たに追加した項目を「(※)」で示した。

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 これらを踏まえ、研究課題について考える。研究課題(1)「JFL環境の学習者は語彙の 体系化にどのような手がかりを用いるか」について、表 2 で示した連想の手がかりが観察された が、2 年生の結果を踏まえると、JFL環境で学ぶ学習者の場合、日本語を用いた実体験が少ない ため、エピソードの連鎖としてではなく、まず語彙の意味や概念構造に基づいて語彙が体系化さ れると考えられる。

 研究課題(2)「学習の進度によって、語彙の体系化の手がかりに変化は見られるか」について は、4 年生と留学生の結果を踏まえると、学習が進んだり留学を通して日本語を使う機会が増え たりするにつれて、学習者自身の経験を手がかりとして語彙を習得し、体系化していくと考えら れる。

 また、学習者が語彙に関する様々な知識を手がかりとして、語同士を関連付けていることがわ かった。谷口他(1994)で示された「字形」や「熟語」を手がかりとした連想は漢字を用いる言 語に特有の手段だが、本調査においても「月」から「朝」という連想や「水着」から「着物」と いう連想として見られた。本調査において新たに追加した分類も多く、連想の手がかりの幅広さ が現れた。

5.まとめと今後の課題

 調査対象者のグループ毎によく用いられる連想の手がかりが異なることから、語彙のネット ワークの形成における関連付けの手がかりは常に一定のものではなく、学習の環境や進度により 変化すると考えられる。語彙を関連付けるプロセスは、語の概念形成や構文の学習、語の分析に 必要である。そのため、語彙の指導に際しては、JFL環境での学習初期に手がかりとして用いら れにくい「道具」や「方法」等を手がかりに関連付けられる語彙を提示していくことが考えられ る。今回の調査で得られた「道具」を手がかりとした連想としては、「眠い」から「コーヒー」と いう連想等があり、「方法」を手がかりとした連想では、「勉強」から「てつや(原文ママ)」とい う連想等があった。このような他の学習者や母語話者が使う連想の手がかりを用いて、特定の語 と関わりのある周辺の語彙を学習することができる。例えば、上記のような語同士の関係を考え ながら語彙のネットワークを図として書き出せば、頭の中の語彙のネットワークを意識して語彙 を学習することが可能となる。そうすることで、語彙の概念や使用する文脈等の深い理解につな がり、語彙のネットワークの拡大が期待できる。

 今後の課題として 3 つの点を挙げる。まず、より統計的な分析が可能な調査のデザイン等の一 貫した方法論を採用する必要があり、そうすることで縦断調査により語彙のネットワークの変化 について調査することができる。WordNetやWord2Vecにより反応語を分析し、日本語学習者と日 本語母語話者の語彙のネットワークの違いやその要因を考察することも検討している。次に、学 習する地域や環境、学習者の母語も変数として取り入れることで、語彙のネットワークに影響す る要因を特定し、より詳細な指導方法についての提案も可能になる。最後に、書き出しの語や刺 激語の選定に際しては、継続動詞と瞬間動詞、可算名詞と不可算名詞等、言語により認識が異な り得る語彙の特徴や、言語によってシソーラスの分類が異なる語彙に注目することで、学習者の 母語におけるどのような言語認識が日本語の語彙のネットワークの形成に影響するか探ることも 検討する。

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参考文献

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(西村義樹・平沢慎也・長谷川明香・大堀壽夫(編訳)古賀裕章・小早川暁・友澤宏隆・湯本久美 子(訳)(2017)『メンタル・コーパス ―母語話者の頭の中には何があるのか―』くろしお出版)

Webb, S., & Nation, P. (2017). How vocabulary is learned. Oxford: Oxford University Press.

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付録 1 連想の手がかりの分類

連想の手がかり 具体例

(1)同意・類義語 教師―先生、テスト―試験、りんご―アップル、死ぬ―亡くなる、

心―気持ち

(2)反意語 たいくつ―おもしろい、あつい―つめたい、きびしい―やさしい、

病気―元気

(3)属性 親切―先生、女の子―かわいい、花―かおり、海―あぶない、空―青、

人生―無意味、あまい―ケーキ

(4)感情 休み―幸せ、テスト―きんちょう、落ちる―こわい、大学―不安、

シメキリ―嫌、勉強―つまらない

(5)所有・存在 大学―教室、大学―先生、図書館―本、海―魚、海岸―すな、

病院―医者、どうぶつえん―さる

(6)場所 大学―勉強、海―泳ぐ、デパート―買い物、病院―手術、うた―カラオケ

(7)時・状況 休み―トイレ、ひま―飲み会、パーティー―しり合い、春―花、海―夏、

星―夜、ぎゃくたい―せんそう

(8)共起関係 先生―教える、車―動く、きせつ―変化、けんか―友達、絵―画家、

映画―かんとく

(9)上位概念 ベッド―家具、父―家族、バレーボール―スポーツ、トマト―しょくぶつ、

絵―芸術、青い―色

(10)下位概念 授業―文学、家族―弟、動物―犬、お菓子―クッキー、お酒―ビール、

季節―夏、しゅみ―マンガ、色―黒い、

(11)同格・同類 ひらがな―カタカナ、犬―猫、ビール―ウォッカ、黒い―青い、

ドラマ―アニメ、きず―あざ

(12)原因 悲しい―なやみ、きず―けんか、涙―悲しみ、泣く―しっぱい、

事故―不注意、健康―運動、津波―地震

(13)結果 苦しみ―なみだ、火―やけど、津波―被害、結婚―子ども、

せんそう―死、就活―内定

(14)目的 勉強―テスト、仕事―金、お金―しゅみ、言語―コミュニケーション、

塩分―熱中症予防

(15)道具 書道―すみ、音楽―ギター、眠い―コーヒー、雨―かさ、寒い―コート、

海―水着

(16)方法 勉強―てつや、勉強―自習、仕事―正社員、すわる―せいざ、入試―面接、

イエット―ランニング

(17)要素 料理―やさい、建物―まど、大学―日本学科、せいふく―ズボン、体―頭

(18)全体 足―体、花―ブーケ、魚―すし、せんそう―れきし

(19)字形 月―朝、木―森、砂―石

(20)熟語 点数―数字、水着―着物、悪―悪人、花見―花、責任―自己責任、

石―鳥、人口―密度

(21)発音 たこ焼き―たい焼き、お彼岸―ヒガンバナ

(22)形態 バックパック―バックパッカー、小説―小説家、介護―介護士、

くも―くもり

(23)エピソード 大学―引っ越し―めんどくさい、大学―飲み会―カラオケ、

海―すな―子どもたち、高尾山―バイト

(24)イメージ 日本―さくら、ふじさん―日の出、大学―自由、イタリア―ピザ、

ポーランド―ピエロギ、海―死、大阪―お笑い

(25)作品・固有名詞 小説―むらかみ、会社―mitubishi、ジブリ―コクリコ坂から

(26)その他 ひみつ―まね、せかい―うちゅうじん  注:具体例は調査において書かれた語を原文のまま記載した。

(9)

付録 2 「大学」を書き出しとする 4 年生の連想

(こんや ようすけ 東京外国語大学総合国際学研究科国際日本専攻 博士後期課程)

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Vocabulary network by Polish learners of Japanese

KONYA Yosuke KEYWORDS: vocabulary, network, word association, vocabulary acquisition

In learning vocabulary, it is necessary not only to connect the spelling and the pronunciation of words to their meaning but also to relate one word to another based on a wide range of knowledge on vocabulary. While it has been acknowledged that second language learners organize a networking system in mental lexicon in the process of learning vocabulary, we still do not know what kinds of words are related to each other based on what kinds of motivations. In this study, using a free- association method, I investigated the vocabulary network of learners of Japanese at a university in Poland including those learning in JFL-only environment and those who have studied abroad.

Students were given a Japanese word and asked to write down any word with which they associated one after the other. The types of association were analyzed and compared for different learner group.

The results showed that those learners in JFL environment tended to systemize their vocabulary based on the meanings and conceptual structures of words whereas those who have studied abroad tended to use their own experiences as clues. Based on the findings, recommendations are made for drawing a vocabulary map and using various clues for word association, including the less frequently-used associations. This would help learners to deepen understanding of the concepts of vocabulary and contexts in which it is used and further expand the network of vocabulary.

参照

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