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改 訂 版 序
本書の初版が出てから20年以上が経過した.その間,多数の読者に好評 をもって迎えられ, 30版近くを重ねることができたのは,著者にとって何 よりも嬉しいことであった.今や化学,生物学,電子工学など広い分野の基 礎となっている量子論の筋道を,正しく把握しておきたいと考えるのは,物 理学の専門家でなくても当然であろう.したがって,理科系大学初年級の力 学,電磁気学や熱力学などと並んで,あまり専門的でなく「お話し
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だけの 啓蒙書でもない,手噴な自習書の必要性はますます高くなっていると思われる.本書の存在意義もそこに認められていると考えられる.
自然科学書の内容は普遍的で不変の真理であるとはいえ,書かれてから 20年以上もたつと,何となく鮮度が落ちてくるのではなかろうか.おまけ に旧版は活字も小さ過ぎて,今の読者にはそれだけでも取りつきにくさを感 じさせそうである.そんなわけで,近ごろとみに怠け者になった著者も,つ いに重い腰を上げて改訂を試みるに至った.活字を大きくしたために分厚い 本になってはいけないので,章の数を8から6に減らし, くわしすぎると思 われる箇所は簡単化した.しかし,省くだけではなく,うしろのほうには若 干新しいことも加えて現代化したつもりである.本を執筆するときには,何 を書くかよりも,何を省くかのほうが選択は困難である.本書の材料の選び かたには著者の独断と偏見もかなり入っていると思うが,それはお許し願い たい
初版の原稿を丁寧に査読して貴重な御意見をたまわった原島鮮,金原寿 郎両先生も,この選書の企画者である裳華房の遠藤恭平氏も今は故人となっ
てしまわれたのは淋しいことである.これらの方々の御助言は,今回の改訂 でもできるかぎり活かしたつもりである.お世話になった真喜屋実孜氏に,
『基礎物理学選書2 量子論(改訂版)~ (小出昭一郎著/裳華房)
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初 版 序
量子力学はもはや物理学の新理論ではなくなっている.非相対論的な範囲に話を 限れば,理論体系は完成されており,電子工学や化学その他の広汎な分野に応用さ れて多くの輝かしい成果をおさめている.ところが,古典物理学は高等学校と大学 教養課程とで繰返して学ぴ,さらに必要に応じて専門課程でもくわしく教授される のに反し,物理学科の学生を別にすると量子論を正規に学ぶ機会は意外に少なし むしろ無いといってもよいくらいである.高校では全くやらないし,大学教養課程 のおわりにインスタント的にやればまだよい方である.教養課程の物理学の教科書 の巻末には一応入門的な記述があるが,あれでわかるほど簡単なものではないし,
それすら時間不足で割愛されることが多い.
研究心のある学生諸君なら,大学へ入って間もなく量子力学を勉強したいと思う のは当然である.ところが,そのための本を探すと,専門の物理の学生でなければ 歯が立たないような本格的な書物か,式を用いないでお話しばかりの解説書かのど ちらかのみで,手頃な入門書は極めて少ない.古典物理学と同様に,量子論も繰返 して学ばねばなかなか身につかない.いきなり本格的な本にとりついても,大てい の人は数式を追うのがやっとで,何のために何をやっているのかを掴むことができ ず,途中で放り出したくなってしまう.そうかといって,本当のことを知っている 人には面白い解説書も,はじめての人にはたとえ話し等が正しく理解できず,見当
ちがいのことを信じこむ場合も少なくない.
この間隙を埋め,大学初年級程度の読者が,持っている数学力は十分にこれを活 用して,量子力学のすじ道をできるだけ正確に理解できるような自習書として書か れたのが本書である.なるべく正確にということで書き始めてみると,いろいろ欲 が出て,この本の2倍以上の原稿ができてしまった.ここで,この選書の一大特色 である査読の効果が大いに発揮され,初学者に不要と思われる部分が容赦なく切捨 てられ,ごらんのような程度と分量の本ができ上がった.執筆しているときにはず い分ていねいにくどく書いたつもりでも,活字になってみると舌足らずの所が目に
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つくものである.自分ではやさしくていねいに書いたつもりでも,原島鮮先生と金 原寿郎先生に査読してなおして頂かなかったなら,さぞむづかしい本ができてし まったであろうと反省される.この本が上記の目的にかない,数多くの量子力学の 本があるのに新たに出版される意義をもっとすれば,それはすべてこの両先生の査 読による懇切な御指摘のたまものである.
原島先生には,とくに第2章その他で共著に近いくらいの御加筆を頂き,感謝に たえない.また,使いなれた者には何でもない表現などが,はじめての人には全く わかり難いことが往々にしてある.読者の立場に立ってそのような点を御指摘下 さった金原先生に厚く御礼申し上げる.
割愛した原稿は,別のやや本格的な「量子力学Jとしてまとめる予定であるが,
そのような本を読まれる読者にはそのための準備書として,将来自分で量子力学を 使って計算する機会がないような読者には今後の物理科学の進歩に自信をもってつ いてゆけるための基礎知識を提供する本として,本書がお役に立てば著者の幸いこ れに過ぎるものはない.
なお,本書では電磁気関係の式にはMKSA有理単位系のものを用いた.この方 面ではMKSA系を用いている本は少ないので,比較の使を考えて,必要なときに はCGSの式をも併記した.そうでない場合にはEo→1/π4とすればCGS系での 式が得られるようになっている.
最後に,本書のでき上るまでのめんどうな仕事で一方ならぬお世話になった,裳 華房の遠藤恭平氏,菅沼洋子氏,真喜屋実孜氏に厚く御礼申し上げる.
昭和 43年 4月
小 出 昭 一 郎