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第
1部
現代の環境問題と化学環境学
化学環境学とは
化学環境学とは、環境を化学の視点から解明する科学と、環境を化学技術に より改善する技術からなる学術で、豊かな社会の実現とその持続に貢献するこ とを目標とする。環境に関する化学といった色彩の強い環境化学と区別するた めに、化学環境学ということにする。化学は、物質の構造・性質とその変化に 関する科学(物質の科学)であり、これらを原子間の結合や分子間の相互作用 に着目して論ずる点に特徴がある。環境は、物質の存在状態とその変化によっ て決まるので、環境は化学にふさわしい対象であるといえよう。
第 1 部では、化学環境学の視点で、現代の環境問題を俯瞰的に概説するとと もに、環境についての考え方を述べる。ただし、環境の科学と技術において、
化学が中心だというわけではない。環境問題の対象は広範かつ多面的なので、
幅広い学術分野が連携して対処することが不可欠であるし、実際そのように対 処されている。本書でもなるべく広い視野から総合的に考えることにしたい。
良い環境とは
環境とは、個人または社会を取り巻く状況の全体である。人間以外を主体の 一つと考えることもあるが、ここでは人間を中心に考える。
環境問題は、環境が悪くなることを防ぎたいときや環境をより良い方向に変 えたいときに発生する。では、そこで想定される“良い環境”とはいったいど んな状態を指すのだろうか。じつは、環境のあるべき姿に関しては、いろいろ な考え方があり、時代とともに変化しながらいまも議論がつづいている。
たとえば、ある個人にとって良い環境が、別の個人にとっては悪い環境だと
第
1部
現代の環境問題と化学環境学
しかし、現実の環境問題になると、利害が鋭く対立することや利害関係が不明 確なことも多く、なかなか決められない。そのうえ、良かれと思ってしたこと が、回りまわって悪い結果に終わることもある。
そもそも、人間は環境をよく理解しているわけではない。人間の知識や知恵 は、自然現象の複雑さにくらべきわめて限られている(このことを自覚すべ き)。このような状況で、より良い選択をするためには、環境に関する理解を 深めることが大事で、それが、化学環境学を含む環境学の第一の目的である。
ホメオスタシス
地球の表面近傍における自然や生物の営みは、太陽から良質のエネルギーを 吸収し、低質化したほぼ同量のエネルギーを宇宙へ放出することで成り立って いる。そして、それらはほぼ定常的な状態にあるが、徐々に変化する。これは、
人や生物が、食糧、水などの摂取によりエネルギーや材料を補給し、汗や便を 排出しながら、個体を維持する様子に似ている(ホメオスタシスという)。
ヒトと地球のホメオスタシス 排泄 摂取
散逸
(低温)
入射
(高温)
ヒト 地球
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第
2部自然環境の現状と課題
環境問題と対策
人間をとりまくすべてが環境である。自然環境だけでなく、家、道路、工業 製品、情報システムなどの人工物がもたらす環境のほか、社会経済制度や文化 的な環境が含まれる。本書が扱うのは、自然環境と一部の人工的環境である。
第 4,5 章で、自然環境(大気、土地、水、生物)について述べ、第 6 章で生活 環境や人口問題についてふれる。
人間は自然環境と深い関わりがあることは第1部ですでに述べた。そのほか、
人間は大気中へ各種汚染物質を排出する一方、大気成分である酸素を体内や化 学工業で酸化反応に用い、窒素を固定化して肥料などを製造している。人工的 に合成された窒素量はすでに自然が固定する窒素量に匹敵するという。同様に 地圏、水圏、生物圏とも直接的に深い関係がある。
将来の環境のありようは、現在の努力に依存するところが大きいので、正し い方向に向かって適切な努力をすることが大事であることはいうまでもない。
そのためには、環境の全体像を知って、特定の環境項目に偏ることなくバラン スのよい総合的な対策を選択せねばならない。環境維持・改善のために投入で きる資源には限りがあるからである。
第
2部
自然環境の現状と課題
項目 被害・影響 主な原因、メカニズム 地球温暖化
オゾン層破壊 酸性雨 森林破壊 土地劣化 大気汚染 廃棄物問題
“化学物質”
ヒートアイランド 広義の環境問題 エネルギー・資源 食糧
水 生物多様性 人口増加
20世紀で0.6~0.7℃ 上昇 生態系への影響(未確認)
森林など 年間0.3% 減少 年間2% 弱減少
窒素・硫黄酸化物、粒子状物質 光化学オキシダント
健康、景観、処理コスト 健康、生態系
気温
供給不安、価格上昇 供給不足(地域格差)
供給不足・質(地域格差)
生態系変化、種の絶滅 資源問題、社会経済問題
二酸化炭素など温室効果ガスと 自然要因(太陽の活動、地球の運動)
ハロカーボン類
化石燃料の燃焼、火山活動 伐採
過剰農牧、自然現象 化石燃料、火山活動 大量生産・消費、管理不備 リスク管理不備、情報不足 都市化
大量生産・消費、地政学的問題 耕地・生産性の頭打ち、
人口増、食生活の変化 人口増、水管理、供給設備 人間活動拡大、自然の変化 表 おもな環境問題の例
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第
3部エネルギー資源と材料資源
現実社会のエネルギーの流れ
人類は膨大な量のエネルギーを使っている。世界で一年間に石油換算で 130
~135 億トンを消費する。国によって差があるが、平均すれば一人一日石油換 算で5.0~5.2 kg(約6 L)になる。そして、その量は今も増えつづけている(註)。
第 7 章では、一次エネルギーと二次エネルギーの需給の現状と将来の見通し を説明した後に、主要な一次エネルギーについて要点を紹介する。エネルギー には、機械的エネルギー(運動と位置のエネルギー)、電気エネルギー、化学 エネルギー(燃焼により熱や電気へ変換できる物質)などさまざま形態がある が、ここでは、この分類とは別の視点から現実社会で消費されているエネル ギーの量と質を考える。
自然から採取した大量の一次エネルギーはつぎのスキームに沿って流れ、二 次エネルギーの形で消費される。そして、最終的には、すべてのエネルギーが 熱として自然に放出される。この間、エネルギー量は不変だが、エネルギーの 温度が下がり空間的に広がって、その質が次第に低下する。
註)近年、石炭、天然ガス、石油の消費量はいずれも増えている。これら化石エネル ギーが 8 割強を占めるエネルギー総消費量は、過去 20 年間で 5 割増加した。
第
3部
エネルギー資源と材料資源
三大材料資源と希少重要元素
第 8 章では、三大材料資源と希少重要元素の現状と将来の見通しについて述 べる。各種の材料や製品(つまりモノ)の原料となる天然資源を、エネルギー 資源と区別して材料資源とよぶことにする。三大材料資源とは、(1)有機系材 料資源:化石系資源と生物系資源(バイオマス)、(2)金属系材料資源、(3)無 機系材料資源のことで、いずれも大量に使われている。このなかには、量は少 ないが白金や希土類などの希少重要元素がある。これら材料資源と製品の関係 を表に示す。食糧、水についてはここではふれない。
材料資源 おもな製品
化石系資源 (石油、天然ガスなど)
生物系資源 (バイオマス)
金属系資源 (鉄鉱石、ボーキサイトなど)
無機系資源 (石灰岩、ケイ酸塩など)
希少重要元素 (白金、希土類など)
プラスチック、合成繊維、各種化学品、
生活用品など
木材、天然繊維、紙、天然ゴム、医薬品、
バイオ燃料、食糧・飼料など 鉄鋼、アルミ合金、銅線など セメント、コンクリート、ガラス、
陶磁器など
装飾品、触媒、特殊合金、電子部品など 表 主要材料資源とおもな製品
自然へ
(環境)
低温排熱、二酸化炭素 自然エネルギー) 水素など) 製造、輸送)
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第
4部環境の維持・改善のための技術─化学技術を中心に─ おもな環境問題と対策
第 4 部では、環境を維持、改善するための技術を概観する。はじめに、現代 の環境問題とその技術的対策を次ページの表にまとめておく(第 2 部中扉表も 参照)。対症療法型の対策技術が多いが、原因を事前に除去する予防型の技術 もある。それらの中から、化学技術を中心に代表的な技術的対策について以下 に説明する。また、制度、規制などの非技術的な対策についても簡単にふれる。
なお、自然災害や武力紛争による環境被害は甚大であるが、本書の対象とはし ない。
まず、持続可能な社会の発展を支える化学技術であるグリーンサステイナブ ルケミストリー(GSC)について紹介したのちに、化学技術の開発にとって、
また日常生活において不可欠な“化学物質”の管理技術、そして、物質文明の 必然の帰結である廃棄物の処理と再資源化の技術について述べる。そのあと に、環境問題に対応する化学技術のなかから環境触媒を取りあげる。最後の章 では、いま喫緊の課題となっている地球温暖化の対策を考えることにしたい。
地球温暖化対策には、非技術的な対策が技術的対策と並んで重要なので次ペー ジの表に項目を追加した。
第
4部
環境の維持・改善のための技術
―化学技術を中心に―
気候変動
水 土
生態
生活(居住空間、
交通、運送)
エネルギー
資源
食糧
非技術的対策
温暖化、異常気象
供給、汚染 劣化、汚染、
地盤沈下 破壊、変化 汚染、騒音、悪臭
供給、環境汚染
供給、環境汚染
供給
緩和策(省・節エネ、利用率向上、エネルギー低炭素化)、
適応策(対症療法型)
上水・排水・下水処理、治水、灌漑、地下水管理 除染、改良、砂漠化防止、砂防、地下水管理
森林管理(植林、間伐)、多様性確保、土地管理 除染、脱臭、移動手段・システム
資源確保、変換効率改善、利用効率向上、省エネ、節エネ、
創エネ(再生可能エネルギー)、除染
資源開発、利用効率向上、節約、リサイクル、代替、
廃棄物処理、除染
農地開拓、灌漑、農薬・肥料(効率、管理)、品種改良、
貯蔵、配分
規制、課税、奨励(税優遇、補助金)、社会制度・インフラ整備、
ライフスタイル、幸福の再定義