1. はじめに
自動車の構造部材には,省燃費化を 図るための軽量化と衝突安全性の向上 が求められており,自動車に搭載され る衝撃吸収用の構造部材(以下,衝撃 吸収部材)でも,軽量で優れた衝撃エ ネルギー吸収性能を実現するための技 術開発が活発に行われている.クラッ シュボックスは,車両前後のバンパレ インフォースメントとフレームの間に 配置された衝撃吸収部材であり,部材 軸方向に作用した衝撃荷重によって連 続的な塑性座屈変形を生じて衝撃エネ ルギーを吸収する.その際の荷重履歴 は,座屈を生じるまでは荷重が増大し て,座屈の瞬間で極大値を迎え,座屈 発生とともに急激に荷重が低下する挙 動を数回繰り返す.それゆえ,荷重の 変動を低く抑えるように設計すること が,優れた衝撃エネルギー吸収性能を 得るために効果的となる.また,荷重
の極大値を過度に高めると,衝撃吸収 部材につながるその他の部材が損傷 し,狙いどおりに衝撃エネルギーを吸 収できないことがある.したがって,
現行の衝撃吸収部材には,部材軸方向 に対し直交した方向にクラッシュビー ドと呼ばれる凹部を配して塑性座屈変 形の起点とする設計が主流となってい る.ところが,最弱部であるクラッシュ ビードにて塑性座屈を生じるために,
その荷重の絶対値は低く,吸収可能な エネルギー量は低く,軽量化との両立 が困難となっている.
本稿では,以上の問題点を解決する 衝撃吸収部材の新しい断面設計技術と その技術に基づいた部材の衝撃エネル ギー吸収性能について紹介する.
2. 新しい断面設計技術と開発部 材(クラッシュボックス)
図 1 に,新しい断面設計技術に基づ
き設計製作したクラッシュボックス用 の開発部材と現行部材の外観を比較し て示す.現行部材が部材軸方向と直交 するようにクラッシュビードを配して いるのに対し,開発部材は部材軸方向 に平行に 2 列の大きな凹部を導入して いる.この大きな凹部が,部材で生じ る連続的な塑性座屈変形のピッチ,す なわち座屈波長を制御している.凹部 のコーナー間によって座屈変形の幅が 規定されて,これに対応した細かな座 屈ピッチが得られる(1)(2).
図 2 に,衝突速度 23km/h で 850kg の錐すい体を試験体に衝突させた落錘すい試験 の結果を示す.図で横軸は部品の質量 で,縦軸は吸収エネルギー量である.
開発部材は,現行部材よりも優れた衝 撃エネルギー吸収性能を示し,クラッ シュビードを導入せずとも短い座屈波 長で,安定した塑性座屈変形を示して いる.
3. おわりに
本部材は,短座屈波長を実現する断 面設計,すわなち,軸方向への凹部導 入による適正な平面部制御を行う設計 思想に基づき開発された.それゆえ,
短座屈波長での塑性座屈挙動が実現で き,優れた衝撃エネルギー吸収性能を 有する.その結果,要求される衝撃吸 収性能を満足しつつ,軽量化を可能と し,クラッシュボックスの質量は約 30%の軽量化を達成した.現在,一部 の車種にはすでに搭載され,実用化さ れている.今後,さらなる軽量化の要 求を背景として,本技術の適用が拡大 することが予想される.
(原稿受付 2008 年 11 月 12 日)
〔中澤 嘉明 住友金属工業(株)〕
断面形状制御によるクラッシュボックスの 衝撃エネルギー吸収性能の向上
●文 献
( 1 )中澤嘉明・田村憲司・日下貴之・吉田経 尊・北條正樹,薄肉多角形部材の塑性座屈 挙動に及ぼす断面凹型化の効果,日本材料 学会,材料,56-11(2007),1042-1048.
( 2 )中澤嘉明・田村憲司・吉田経尊・高木勝 利・加納光寿,新しい断面形状設計技術に 基づく高効率クラッシュボックスの開発,
自 動 車 技 術 会 論 文 集,37-3(2006),43- 48.
図1 開発部材と現行部材の外観
凹部 クラッシュビード
(a)開発部材 (b)現行部材
部材軸方向
図2 開発部材と現行部材の衝撃吸収性能 0.5 1.0 1.5
0 5 10 15 20
クラッシュボックス質量 (kg)
(a)エネルギー吸収性能
吸収エネルギー−(kJ) 開発部材
現行部材
(b)開発部材の座屈挙動 衝突方向