夢科学の哲学Ⅱ:夢の現象学
渡辺恒夫(Tsuneo Watanabe)
東邦大学理学部生命圏環境科学科
夢研究の方法として、①解釈学的方法(深層心理学)、②夢の認知神経科学(レム睡眠の発 見)、③夢の統計的研究(ホールの夢の内容分析)、④進化心理学(夢の進化理論) 、等の他 に、最も未開拓な分野として⑤夢の現象学がある。その方法論的原則は次の3つである。
ⅰ)夢は、現実世界と同等の存在権利を持った、 「世界」である。
ⅱ)夢を夢以外のもの(脳の状態、無意識的願望 etc)によって説明も解釈もしない。
ⅲ)現実とは異なる夢世界固有の現象学的(アプリオリな経験)構造を明らかにする。
夢の現象学にはサルトル、ロジェ・カイヨワ、ビンスワンガー、メダルト・ボス、ウスラ ーらの著作があり、邦語でも読めるが、癖がありすぎ一代限りに終ってしまっている。本 講演では、夢の現象学研究の持続的発展をめざすべく、現象学的還元(エポケー、本質観 取)を方法の骨子とするフッサール現象学に基づく、最初の試みを紹介する
(註 1)。以下に フッサール現象学の3水準を示しておく。
(狭義の)超越論的現象学 存在信憑(世界・他者等)の根拠を解 明する目的で現象学的還元による経験の構造の分析を行う。
心理学的現象学 現象学的還元によって経験の構造を分析し、経 験的心理学の基礎とする。超越論的現象学と目標が異なるのみ。
現象学的心理学 フッサール現象学を経験的心理学研究に適用可 能とするため、経験科学者によって発展させられている色々な
工夫。例えば、エポケーに替えるにテクストの一 人称的読み(体験を記述したテクストはすべて私 自身の体験記述として読む)を、本質観取に替え るに体験の構造図解法を以てする、等
(註2)。
§1 現実世界の現象学的時間構造
本質観取の第一歩は比較である。現実世界と夢 世界の構造の比較である。最も基本的な体験構造 である時間的構造を、現実世界について図示した。
§2 夢世界の現象学的構造(1)―仮定法未 来がない?
【夢事例1:ヨーク大学訪問の前夜にヨーク大学 訪問の夢を見る】眠る前の現実では、もしも 、、、
明日、
ヨーク大学に行ったなら‥‥と、未来に関する仮 、、、、、、、
定法 、、
として 、、、
あれこれ考え、 「予期」していた。とこ ろが夢の世界ではすべてが現在形として 、、、、、、
起こり、現在のできごととして「知覚」している。
夢世界の時間構造には、仮定法未来という次元がないらしい。
自我
図1 現実の体験世界の 時間的構造
(註1)現 在