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東邦大学理学部生命圏環境科学科

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Academic year: 2021

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夢科学の哲学Ⅱ:夢の現象学

渡辺恒夫(Tsuneo Watanabe)

東邦大学理学部生命圏環境科学科

夢研究の方法として、①解釈学的方法(深層心理学)、②夢の認知神経科学(レム睡眠の発 見)、③夢の統計的研究(ホールの夢の内容分析)、④進化心理学(夢の進化理論) 、等の他 に、最も未開拓な分野として⑤夢の現象学がある。その方法論的原則は次の3つである。

ⅰ)夢は、現実世界と同等の存在権利を持った、 「世界」である。

ⅱ)夢を夢以外のもの(脳の状態、無意識的願望 etc)によって説明も解釈もしない。

ⅲ)現実とは異なる夢世界固有の現象学的(アプリオリな経験)構造を明らかにする。

夢の現象学にはサルトル、ロジェ・カイヨワ、ビンスワンガー、メダルト・ボス、ウスラ ーらの著作があり、邦語でも読めるが、癖がありすぎ一代限りに終ってしまっている。本 講演では、夢の現象学研究の持続的発展をめざすべく、現象学的還元(エポケー、本質観 取)を方法の骨子とするフッサール現象学に基づく、最初の試みを紹介する

(註 1)

。以下に フッサール現象学の3水準を示しておく。

(狭義の)超越論的現象学 存在信憑(世界・他者等)の根拠を解 明する目的で現象学的還元による経験の構造の分析を行う。

心理学的現象学 現象学的還元によって経験の構造を分析し、経 験的心理学の基礎とする。超越論的現象学と目標が異なるのみ。

現象学的心理学 フッサール現象学を経験的心理学研究に適用可 能とするため、経験科学者によって発展させられている色々な

工夫。例えば、エポケーに替えるにテクストの一 人称的読み(体験を記述したテクストはすべて私 自身の体験記述として読む)を、本質観取に替え るに体験の構造図解法を以てする、等

(註2)

§1 現実世界の現象学的時間構造

本質観取の第一歩は比較である。現実世界と夢 世界の構造の比較である。最も基本的な体験構造 である時間的構造を、現実世界について図示した。

§2 夢世界の現象学的構造(1)―仮定法未 来がない?

【夢事例1:ヨーク大学訪問の前夜にヨーク大学 訪問の夢を見る】眠る前の現実では、もしも 、、、

明日、

ヨーク大学に行ったなら‥‥と、未来に関する仮 、、、、、、、

定法 、、

として 、、、

あれこれ考え、 「予期」していた。とこ ろが夢の世界ではすべてが現在形として 、、、、、、

起こり、現在のできごととして「知覚」している。

夢世界の時間構造には、仮定法未来という次元がないらしい。

自我

図1 現実の体験世界の 時間的構造

(註1

現 在

未来

過去 想起

知覚

予期

フッサール現象学

(超越論的現象学)

(2)

§3 夢世界の現象学的構造(2)―過去形もない

【夢事例2:事故がそのままリプレイされる夢】 (大学生、男子)夢世界の時間構造に注意 を向け、本質観取をすると、過去形が存在しないということに気づく。昼間の現実世界で は夢見者は、事故のことを想起し回想する。けれども夢世界では、現在のこととしてのみ 体験し、知覚する。

§4 夢世界の現象学的構造(3)―反事実的条件法がない 現実世界では夢事例2の報告者は、「もしも 、、、

あの事故が避けられたならば‥‥」という、

仮定法を用いて反実仮想 、、、、

をしている。けれども夢世界では、過去についての反実仮想もま た、現在のこととして知覚され体験されてしまう。

§5 夢世界の「仮定法なし構造」によって願望充足説とシミュレーション説を理解する 夢の願望充足説と、レヴォンスオに代表される夢のシミュレーション説(2010 年度本大 会講演「夢科学の哲学1:夢の進化理論」参照)が、ここで統合的に理解できる。願望す るとは仮定法を用いて反実仮想をすることだが、夢では反実仮想は、即、現在のできごと として知覚される。これを昼間の視点で見れば、夢は満たされない願望の幻覚的充足であ るとなる。未来のことも、「もしも」と仮定法を用いて期待したり懸念を抱いたりすると、

夢世界では期待・懸念した通りのことが、現在のできごととして知覚されることになる。

懸念したことが夢で起これば、「脅威のシミュレーション」 (レヴォンスオ)となる。

§6 夢世界の現象学的構造(4)―生の現実と記号の架空との二重性がない

【夢事例3:夢の中でユングについて論文を書いているうちに論文の中に入り込みユング になってしまった夢】夢の中で読んだり書いたりすると、書かれた世界の中に文字通り入 り込む。夢の世界では、生の現実と、文字や映像など記号によるフィクション(非現実)

の二重性を生きることはできない。夢の世界では、呼び起こされた想像は必ず現実化する。

これもまた、夢に仮定法は存在しないことの、別の一面である。

§7 夢世界の現象学的構造:総論まとめ

現実世界では、知覚の独裁体制の元に、予期・想起・反実仮想・記号作用等さまざまな 意識作用が整然と構造化されている。夢世界では独裁体制が崩壊し、多様な意識作用が現 実感を競い合う無政府状態にある。構造的には現実界は複雑で夢世界は単純である。内容 的には現実界は、知覚以外は仮定に過ぎないという意味で貧弱で、夢界の方が豊饒である。

§8 各論―夢世界の<自己―他者>構造

【夢事例4:パリ**精神分析研究所という題名の物語の夢】私が自己同一性を失うこと なく、物語の中で生きる私と、それを観察する私とに、分裂している。夢とは、現実界で は覆い隠されている純粋自我と経験的自我の自己分裂(Ich-Spaltung)があらわにされる 等、様々な現象学的還元の場なのである。始まったばかりの夢世界の現象学的探検は、ブ ログ「夢の現象学」http://fantastiquelabo.cocolog-nifty.com/blog/で継続中である。

註 1) 『人はなぜ夢を見るのか』 (渡辺恒夫著,化学同人,2010)終章「夢の現象学」参照。

註 2) Watanabe, T. (2011). From Spiegelberg’s “I-am-me” Experience to the Solipsistic

Experience: Towards a Phenomenological Understanding. Encyclopaideia – Journal of

Phenomenology and Education. XV(29), 91-144.

参照

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