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(1)

福井平野の地震動特性とS波速度構造に関する検討

著者 小嶋 啓介, 山中 浩明

雑誌名 福井大学地域環境研究教育センター研究紀要 「日

本海地域の自然と環境」

巻 8

ページ 11‑20

発行年 2001‑11‑01

URL http://hdl.handle.net/10098/7776

(2)

福井大学地域環境研究教育センター研究紀要

「日本海地域の自然、と環境J

No.8 , 1 1  ‑ 20 , 2 0 0 1  

福井平野の地震動特性と S波速度構造に関する検討

C o n s i d e r a t i o n  o f  

E紅白quake

Ground Motions and S‑wave V e l o c i t y  S t r u c t u r e  i n  Fkui P l a i n  

小嶋啓介本

(福井大学工学部建築建設工学科) 山中 浩明付

(東京工業大学大学院総合理工学研究科)

.はじめに

1995年兵庫県南部地震では,いわゆる震災の帯と呼ばれる地震被害の著しい地域が存在したが,その 原因として,基盤岩の潜在形態,表層地形および地盤の動的特性に起因した地震動の集中があったとさ れている.神戸市周辺はボーリングなどの地盤データが整備されていること,地震後を含めて海底部分 も含めた弾性波探査などの地質調査が密に実施されていることに加え,兵庫県南部地震の際には,断層 近傍を含め多数の強震記録が得られたことなどから,強震動予測手法が多数適用され,その妥当性があ る程度検証されたように思われる. 1948 年福井地震においても,被害と地質条件が密接に関連し,建物 の倒壊率 50%以上の村落はほとんどが沖積層地盤上に位置していたことが明らかとなっている.近年,

福井地震に基づく福井平野周辺の強震動評価についても,入倉・釜江 1) ,宮武2 )などが実施している. しかしながら,福井平野では,洪積層から S 波速度約 3km/sec を有する地震基盤までの動的地盤物性は 未解明な点が多く,予測結果に不確実性を残す原因となっている.福井平野の深層地盤探査として,福 井県による地震被害予測の一環として行われた PS 検層,ならびに福井平野東側断層帯調査の際に実施 された P 液および S 波反射法探査が加わったが,福井平野全体の 3 次元的な動的構造の解明にはほど遠 いといわざるを得ない.そのような中で小林ら 3) は,重力異常測定値から地震学的基盤構造を推定し,

平野中央部で深さ 3km に達する凹状構造を示唆している.また山中ら 4) は,福井平野周辺において常時 微動のアレイ観測を行い,その周波数一波数スベクトル解析のインヴァージョンを行い, S 波速度およ び層厚を評価している.

福井大学では,鳥海がグラウンドに設置した GL-175m の基盤岩に達する鉛直アレイを運用しており,

1994 年度以降兵庫県南部地震も含め多数の強震動データを蓄積している. 一方,東京工業大学の山中,

瀬尾らは,福井平野での強震動特性を把握,評価するために,微動アレイ観測を行うとともに,丸岡町 東部から春江市街に至る東西軸上に強震観測点を展開し,地震観測を実施・継続している 5 )さらに,

K-net,

KiK-NET ならびに計測震度計も多数整備され,福井平野周辺には,以前からは比較できないよ

うな,地震観測環境が整いつつある.本研究では,はじめに福井平野に展開された地震計によって観測 された強震記録の周波数特性ならびに堆積層表面波の性質を分析し,その地盤条件との関連を明らかに し,ついで,観測地震動に基づいて,観測点直下の地盤各層のせん断波速度,減表定数および層厚を推 定する逆解析手法を,福井大学ならびに福井平野の強震観測点で得られた地震観測記録に適用し,福井 平野の東西方向断面の動的構造を推定し,弾性波探査結果などと比較・検討する.強震動観測情報から 観測点直下の動的構造が明らかにされれば,既存資料および微動観測などを補間情報として活用するこ とにより,福井平野の 3 次元的な動的構造が推定できる可能性があり,地震被害予測の精度の向上が期 待できるものと思われる.

(キーワード:強震観測,福井平野,非定常ノぞワースベクトル, S 波速度, Q 値,逆解析)

* K e i s u k e   KOJIMA, F a c u l t y  o f   Engineering, F u k u i   University,

3 幽9・ 1 ,

Bunkyo, Fukui, 9 1 0 ‑ 8 5 0 7  

* * H i r o a k i   YAMANAKA, Tokyo I n s t i t u t e  ofTechnology, 4259  Nagatsuda, Midori-ku, Kanagawa 226‑8502 

(3)

小嶋啓介・山中浩明

2 . 福井平野の地盤特性と地震観測システム

1998 年から東京工業大学との共同研究により,福井平野を横断する東西軸に沿い,丸岡町東部から春 江市街地までの 6 ヶ所に地震計をアレイ状に設置し,強震観測を実施している.図 -1 は強震観測サイ トの位置を地質図上に示したものである.

CHJ 

(老人施設長寿園)は,福井平野の東端の山麓に建つ 3 階建て RC 建物の 1 階に設置されている. CHJ から堆積層が厚くなる西に向かい,丸岡高校城東分校

(MHS) 

,丸岡スポーツランド (MSL) ,春江小学校(HES) ,春江工業高校 (HTH) およびハートピア春江(HPH) の 5 箇所の地震観測点を展開している. MSL のみが平屋,その他は 3 階建て RC 建築内 1 F 基礎部に地 震計を設置している.図 -2 は福井県地震被害予測調査報告書 6) による,図 -1 の CC'線上の地質断面 を示している.福井平野は東の越前中央山地と西の丹生山地に挟まれ,北側の洪積台地も考慮、に入れた 場合,河川中下流域に広がる平野でありながら,盆地状の基盤岩上に厚い洪積層および沖積層が堆積し た地形を有していることが読みとれる. 1948 年福井地震では,建物の被害率と地盤種別には密接な関係 があったことが広く知られているが,福井市より北部における建物の倒壊率 40~50%以上の地域は,図 -1 に示した沖積地にほぼ対応している 7) 8) 

図 -3 は地震観測サイトを丸岡および春江周辺の地形図上に示し,併せて福井県による福井平野東縁 断層帯に関する調査 9) 1 0) の際に実施した P 波および S 波弾性波探査の側線を示している .P 波測線が,

図 -2 の地質断面から北に 500m 程度離れていることを考慮、した場合,反射面 I と沖積層最下面,およ び反射面 V と第 3 紀層上面とは調和的であるといえる.これらの図から, CHJ から HPH の 6 ヶ所の地 震観測点は,沖積層厚が O から 30m 程度,基盤が地表面からー250m 程度と,マクロに見た場合,比較的 単調に西側下がりの地盤条件に立地していることがわかる.しかしながら,互いに数百 m 程度しか離れ ていない場合でも,各サイトで得られたボーリングデータを個々に検討すると,その成層条件や,標準 貫入試験結果はかなり異なっていることが別途確認されており 1 1)12) ,サイト周辺の地質調査のみから,

周辺の強震動を精度良く予測することの困難さが予想される.

1994 年度に福井大学の地震観測システムが更新され,地表面ならびに第三紀基盤である GL-175m の 地震動のデジタル記録が観測で、きる態勢が整備された.地震観測システムは,大学に併設したグラウン ド内に設置されている.図 -5 の左側は地震計を設置した際に求められた柱状図に地震計の設置位置を 併記したものである.図のム, 0 ,口印が地震計の設置位置を示し,ムは 3 成分,口は水平 2 成分, 0 は水平 1 成分のピックアップであることを示している. 加速度検出器には(株)勝島製作所製であり,地表 面の 3 成分検出器として, SDA-230 型が,地盤内部には水平方向加速度検出器 PTK-130H 型が埋設され ている.地震動データの収録には,同社の Datol-100 を使用し,電話回線を利用して地震計の設定およ びデータの収録が可能となっている.なお,埋設年代の古い GL-18.5m と -33m の検出器については,ケ ープ、ルなどに劣化が認められ現在は使用を見合わせている.図 5 の右側は福井大学ならびに福井土木 事務所で実施された PS 検層による S 波速度の深度分布を示している.福井大学と福井土木事務所は直 線距離で 3km 程度離れているが,それぞれの沖積層の厚さは 29 および 26m ,堆積層厚さは 175 および 149m で、あり, 25~30m 厚の沖積軟弱層が, 120~150m 程度の厚い洪積層上に堆積した類似した構成を 有していることが確認できる.

3. 観測地震動特性 (  1 

)スペクトル特性

図 -6 は福井平野に展開された強震観測点で収録された加速度データのフーリエスベクトルであり,

各々上段は NS 方向,下段は EW方向を示している.いずれも左上から右下に,平野の東から西,すな わち堆積層が厚くなる方向に対応して提示した.地震の規模が小さくなるほど長周期成分を中心として 滅表する傾向はあるが,堆積層が厚くなるに従って卓越周期の長周期化が認められる.すなわち,基盤 岩がほぼ露出した CHJ では 0.3 秒より短周期側の成分が多く, 0.2~0.3 秒にピークがあるのに対し,丸 岡町の MHS および MSL では, 0

.

2~0.7 秒の周期帯が優勢である.ただし,図 -4 の P 波速度構造で堆 積層が厚いと判断される MSL が, MHS に比較して 0.2 秒より短い短周期成分にピークが存在するが,

その要因として直下の比較的浅い部分の微視的な堆積構造あるいは設置建物の影響が考えられるが,そ の原因を定量的に特定することは現在のところ困難である.

‑12‑

(4)

福井平野の地震動特性と

s

i皮速度構造に関する検討

福井平野の表層 地質 および地震観測点

(福井

に加筆)

図 -

4

P 波弾性波探査結果

(福井県に加筆)

図 -3 強震観測l 点および弾性

波探査側 (

地形図「丸岡・

田」に加筆)

S.W .  V e l o c i t y  ( m / s e c )  

o  1 0 0 0   2000 

5 0  

1 0 0  

1 5 0  

図 -5 福井大学地震観測l アレイと

PS

検層結果

図一 7 は,水平動を鉛直動で基準化した HNスベクトノレを示している.中村により提唱された HN ス ベクトノレは,堆積層の増幅特性に類似した性質を示すといわれ, 基盤地震動の入手が限られた現状では,

その容易さもあいまって, 微動およひ。強震動の分析手段のーっとして非常に広範囲に利用されている.

図中の実線および細線は, 図 -6 に示した各々の地震動の平均ならびに標準偏差を示している. CHJで

(5)

10 

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小嶋 啓介 ・山中浩明

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0.01  10 ∞ 0.10 

HTH(EW)  10 

0.01  10 ∞ 0.10  国一 6 観測地震動のフーリエスペクトル

ぞ川

霊山

卜\

‑MHS(NS) 

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F開削・ncy1 ∞ (Hz) 

F同刑制cy1 ∞ (Hz) 

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ーーーー 1/6101 --1/12ノ01

‑‑214/01  司ーー-2ノ23/01 10 回

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‑ ‑ 2 /23101  10 ∞

ー-10131/国 ーーー-1/0/01 ーーーー・1/1 2/01

‑ ‑ 2 /4101  --2/日ノ01 10 叩

HTP(EW) 

一一川町田 ーー-10/311凹 ー一一-1/町刷 ーーー-1112101

・目白-2/23/01

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国一 7 観測地震動の H/Vスペクトル

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師前記

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(6)

福井平野の地震動特性と S 波速度構造に関する検討

CHJ/Ol01121UD 

75  70  65  CHJ/Ol01121EW 

75  70  65 

5044

5044

504

引巾

504刊巾504

哨巾 5044 叩

BED-uFBG〈〔冒3E官主E足音35u-s〔-BE宮』280〈官3coヨ主Bt官gco宮』220

加速度時刻歴 (2001/1 ハ 2 ,

M = 5 . 4 )  

は,全域に渡って平坦であるが, 0.2"-'0.3 秒のピークは表層地盤に加えて建物の振動特性がかかわって いるものと思われる. MHS は 0.3 と, 0.9 秒, MSL では 0.3 ,

0 .4,

0.55 および1. 2 秒付近にピークが認 められる.春江の 3 地点は,いずれも比較的単調な形状を示し, HEH では 0.55 と 2.1 秒, HTH では 0.4,

0.6 と 2.1 秒, HPH では 0.6 と1. 9 秒と,サイト間距離が比較的小さいこともあり相互に類似した HN スベクトル形状を示している.図 -4 の P 波速度構造と図 -6 および 7 のスベクトノレ特性を総合して検 討すれば, CHJ を除く平野上の観測点で共通して認められる周期 2 秒前後のピークは,福井平野深部の 地盤構造を反映していると思われる一方,各強震観測点の周期 0.2"-' 1. 0 秒の振動特性は,洪積層および 沖積層の堆積環境を強く反映したものであると考えられる.福井地震の家屋の被害調査結果によれば,

福井地震当時の家屋の固有周期は, 0.34"-'0.8 秒程度であるとの報告がある 13) この周期域は地盤の卓 越周期とオーバーラップしており,福井平野域における壊滅的な構造物被害の主要因が,地盤の卓越周 期にあることが,強震観測の面からも裏付けられたと考えられる.

(2 

)非定常パワースペクトル

地震動の非定常なスベク トル特性を扱った研究には, Priestley の Evolutionary

Power Spectrum 

14)

,

神山の瞬間フーリエスベクトル 15) など多数の手法が提案されているが,ここでは以下に示す,亀田の方 法 16) を援用する.亀田の方法は,線形1 自由度系を狭帯域フィルターとみなし,その応答の全エネルギ ーによって非定常パワースベクトルを求めるものであり,直感的にも分かりやすく,計算効率にも優れ た手法である.非定常パワースベクトルは,特定の時刻における強震動中の各調和成分の自乗平均ノ f ワ ーを示し,その時間推移を調べることによって,特定の周波数成分の非定常性を明らかにすることが可 能となる

図 -8 は 2001 年 1 月 12 日の地震(兵庫県北部を震源とする M=5 .4の地震)の各観測点における加速 度時刻歴を示している.基盤上の CHJ では主要動が 55 秒から 65 秒の 10 秒程度で終わっているのに対

図 -8

(7)

浩明 啓介・山中 小嶋

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0.1077 ・ 0.2321

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65  70 

Time (sec)  55  60 

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80  75 

HP 附 010112/EW 70 

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75  80  75 

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65  70  Time (sec)  60 

55  0.1 

50 

10 

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75  80  65  70 

Time (sec)  60 

70  55 

60  65 

Time (sec)  55 

M = 5 . 4 )  

し,堆積層が厚くなる丸岡および春江の各観測点では, 65 秒付近より後に,振幅が主要動の 50%程度で,

周期が 1 秒程度とやや長い堆積層表面波,いわゆるあとゆれと思われるフェイズが現れ, 80 秒付近まで 継続した振動が認められる.図 -9 は同地震の非定常パワースベクトルの等高線を表している.横軸は 時間を,縦軸は 0.1 秒から 10 秒までの周期を表している. CHJ では, 0.2"'0.3 秒の成分が卓越した主要 動が 7 秒程度で収束する単調な振動特性であるのに対し,その他の地点では,いくつかの波群が繰返し 襲来しているように見受けられ,特に春江の 3 地点では,後続の振動もエネノレギーが大きい.また,

HPH 

の 70 秒前後に代表されるような,分散性の兆候も見受けられ,福井平野における表面波の存在を示唆す るものと思われる. CHJ において振動が減衰する 70 秒以降に表面波が顕在化すると仮定すると,

MHS 

から HPH の 5 地点とも,表面波の周期成分は概ね 0.6"'2 秒の範囲に分布しており,明確な堆積条件と の関連性を見受けられない;

‑ 16‑

非定常パワースペクトル (2001/1/12 , 図 -9

(8)

福井平野の地震動特性と

s波速度構造に関する検討

)  

11

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S ‑ w a v e  v e l o c i t y  i n  k m / s   ( t h i c k n e s s  i n   k m )  

図 -10 常時微動のインヴァージョンに基づく福井平野の S波速度構造(山中らによる) 4. 堆積層厚さの推定

地域の地震被害予測の際に最も重要な事前情報として,対象地域の動的構造の決定があげられる.地 盤の動的構造は, P 披および S 波を用いた弾性波反射法,ボーリング孔を利用した PS 検層などから直 接求めるべきであるが,経費等の問題からごく限られた地点で実施されているにすぎない また N 値 などの回帰式を用いて S 波速度を推定するような方法も,実務面で広く利用されているが,その信頼性 は低いといわざるを得ない.常時微動ならびに強震観測記録から,地盤の動的物性定数が推定可能なら ば,少ないコストで対象地域の 3 次元的な構造を高い精度で決定することが可能となると思われる.

山中らは 4) 福井平野および加越台地において常時微動のアレイ観測を実施し,微動の位相速度を求め ている.求められた位相速度は,周期 0.4~2.0 秒の範囲で分散性が認められ,微動がレイリ一波に基づ くものであると結論付けている.さらにアレイ観測から求められた位相速度と,設定した速度構造から 得られる基本モードのレイリ一波の理論値との差を最小化するように S 波速度および層厚を修正し,福 井平野の地震学的な速度構造を推定している.図 -10 はそのようにして求められた微動観測地点直下の 速度構造を示したものである 同図によれば, s 渡速度 3.2km/sec のいわゆる地震学的基盤は,春江およ び坂井町付近で深く,福井,丸岡および三国で浅く,福井平野の基盤が盆地状構造をしていることが示 唆される.また, S 波速度で 400m/sec と推定されている表層の軟弱層は,丸岡および三国では推定され ていないことがわかる.山中らの研究は,地震学的見地にからの研究であり,比較的長周期の振動特性 を明らかにするため S 液速度が 3.2km のいわゆる地震学的基盤までを対象としている一方で,堆積層 の区分は比較的粗い.これに対し, 建築および土木構造物の耐震安定性を論じる場合には 1 秒以下の 短周期側の応答特性が重要であり, S 波速度で 300m/sec 以上の層,すなわち工学的基盤より浅い堆積層 の動的構造を明らかにする必要がある.

堆積層の動的物性定数の逆解析手法は,基本的には沢田 1 7)の方法に準じて定式化した.すなわち,入 力地震動と地表面で加速度が観測されているとし,観測データと対応する計算値の伝達関数の誤差を最 小とするように,地盤各層の動的物性定数を修正しようとする方法である.定式化ならびに最適化手法 の詳細は文献(5) を参考されたい 逆解析を行なうにあたっては,基盤からの入力地震動ならびに堆積層 内の 1 点以上で地震が観測されている必要がある. しかしながら,福井平野においてこの条件を満たす のは福井大学グラウンドのアレイのみであり,その他の強震観測点では,地表面で観測データが得られ ているに過ぎない.そのため基盤への入力地震動として,ほぽ岩盤露頭と考えられる CHJ の記録,各地 点の鉛直動の補正値,福井大学アレイの基盤記録から算定される堆積層への入力動などを代替値として 用いる方法も考えられるが,ここでは福井大学の鉛直アレイの GL-175m の記録をそのまま用いることと

した.なお,福井大学と各観測サイトは,震源、距離が概ね等しく ,距離減表の補正も行なっていなし、­

地盤の動特性の推定に際して, 次の条件を設定した. 1) 強震観測点直下の S 波速度で 1 , 800m/sec の基

(9)

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観測および計算加速度のフーリエスペクトルの比較 図 -11

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250 

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)弾性波探査による堆積層厚 (b) 観測地震動から求められた堆積層厚 図 -12 観測点直下の堆積層厚の比較

250 

盤層より上部の堆積層の,層厚 H および Q値を推定対象とし,密度およびせん断波速度は事前情報から の推定値に固定する. 2) 山中らによるインヴァージョン結果,福井大学および福井市内で行なわれた

PS 検層ならびに福井平野東縁断層帯の調査の際に行なわれた P 波・ S 波探査結果ならびに既存のボー リング調査などから,沖積層は S 波速度を 150m/sec と 250m/sec の 2 層,洪積層は 500m/sec および

670m/sec の 2 層からなるとする. 3) 層厚 Hおよび Q値の初期値は,それぞれ表層から 10 , 10 , 100 ,

100m ならびに,

10 , 10 , 20 , 20 とする.

図 -1 に示す 6 ヶ所の地震観測点が整備されてから多数の地震が観測されているが,すべての地点で

記録が得られた 1999 年 11 月 7 日, 2000 年 1 月 6 日, 1 月 12 日の 3 つの地震を入力し,各サイト直下

の深さ方向の構成を推定した.図

11 は福井大学および MSL, HTP におけるフーリエスペク トルの比

18 一

(10)

福井平野の地震動特性と S 波速度構造に関する検討

較であり,各図の左下に地点,地震日付,地震動の方向を示している.図の灰色線は観測値,細線は初 期物性定数による計算値,実線は最適化された地盤構造による計算値を示している.福井大学では, 1 月

6 日の地震で 6Hz 以上の成分が,また HPH では 1 月 12 日の地震における 2 "-'4Hz の成分で観測値とは 若干異なる部分も見受けられるが,周波数特性の異なる 2 つの地震に対する,最適化された構造による 計算値は,観測値を精度よく再現していることが明らかである.なお, Q 値については,すべてのケー

スで初期値から 20%以内の範囲に収束していた.

図 -12 は福井大学および福井平野に設置した観測点の層厚分布の比較である.同図(a) は図 -4 で示し た P 波速度構造における反射面 E を上部と下部の洪積層の境界,反射面町を基盤としている.基盤深度に ついては, P 波速度構造における反射面 V を採る解釈もあるが,図 -2 の地質断面と比較してやや深すぎる ことから,ここでは反射面 N を採用した.沖積層については周辺のボーリングデータを参考として想定さ れる現地探査に基づく層厚分布を示している.一方向図 (b) は逆解析結果から得られた層厚をまとめて示し たものである.沖積層の合計厚さは概ね合致しており,せん断波速度 670m/sec までの堆積層の合計深さに ついて見ても, MHS の 150m から,平野中央部に向かつて深くなり,春江の 3地点では 220m 前後に推定 されており,図 -2 の地質構造および図 -4 の反射構造を精度良く推定している.また推定された丸岡お よび春江周辺の堆積層厚さは,図 -10 の山中らが常時微動のインヴァージョンで示した 180"-'240m とい う値 4) とも調和している.しかしながら, s 波速度 500m/sec の上部洪積層の下面の深さをやや過小評価し ていること,ボーリングデータから求められた沖積層の上部と下部の境界深さがランダムであること,下 部沖積層の厚さを, MHS を除いて, 10m 程度のほぼ一定値に推定したことなど,現地探査結果とやや異な る部分も見受けられる.以上のような結果が得られた要因として,①複雑な堆積条件を 4 層に簡略化して いること,②弾性波探査測線が観測点直下になく,厳密な比較が困難なこと,③入力地震動として福井大 学アレイの基盤データを用いているため,各観測点の入力地震動とは異なっている可能性があること,④ 地震計が建物内に設置されており,構造物の応答の影響が避けられないことなどがあげられる. しかしな がら,図-11 に示したように,推定された S 波速度構想により,各地の表層地震動が精度良くシミュレイ トできていること,各観測点とも同じ初期条件から最適化したにもかかわらず,図 -4 および図 -10 の構 造に類似した結果が得られたことから,推定された福井平野の東西断面の S 波速度構造は妥当なものであ ると考えられる.

5. おわりに

福井平野に展開する強震計の観測記録を用いて,サイト近傍の応答特性ならびに堆積層表面波の傾向など を検討するとともに,重複反射法を利用した地盤の動的諸特性を推定する逆解析手法を適用し,福井平野の 東西断面の速度構造を推定した.推定された動的構造によって,観測地震動が比較的精度良く再現しうるこ と,推定された福井平野の堆積構造は,既存の資料と矛盾が少ないことなど確認した以上のことから,こ こで示した逆解析手法を,計測震度計などの設置地点に順次適用するとともに,常時微動観測で補完するこ とにより,福井平野の 3 次元的な動的構造の概略値が求められる可能性を示しているものと思われる.また,

山中らによる S 渡速度 3.2km/sec の地震学的な基盤岩層までのマクロな速度構造と併せて,広い周波数領域 にわたる精度の高い地震動予測の足掛かりとなるものと考えられる.今後,他の多くの観測地震動,ならび に石川県西部地震の際に実施した余震観測サイトでの適用を累積し,福井平野全体の地震時挙動を普遍的に 説明しうる動的地盤構造を検討していく必要があると考えられる.

謝辞:福井県立丸岡高校城東分校,同春江工業高校,春江町立春江小学校,ハートピア春江,丸岡町スポー ツランドならびに老人ホーム長寿国各位のご協力により地震観測を継続させていただいております. また,

福井県,丸岡町,春江町から,ボーリングデータを提供頂きました.ここに記して感謝し、たします.

<参考文献>

1 )  

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1948 年福井地震の強震動ーハイブリッと法による広周期帯域強震動 の再現一,地震,第 2 輯,第 52 巻, pp.31 ・ 40.

2 )  

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1948 年福井地震の強震動一建築物 ・墓石等の倒壊方向と震源過程一,地震,第 2 輯,

(11)

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3 )  

小林直哉,平松良浩,河野芳輝,竹内文朗 (2001) :重力異常による福井平野の 3 次元基盤構造の推定 一福井地震およびその周辺の活断層との関係一,地震,第 2 輯,第 54 巻,

p p . 1 ‑ 8 .  

4 )  

山中浩明,栗田勝実,瀬尾和大,小嶋啓介,佐藤浩章,宮腰研,赤津隆士 (2000) :微動アレイ観測に よる福井平野の S 波速度構造の推定,地震,第 2 輯,第 53 巻, pp.37・ 43.

5 )  

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11) 鳥海勲,大場新太郎 (1993) :福井平野の地下構造,地震第 46 巻, pp .45・ 47.

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16) 亀田弘行(1975) :強震地震動の非定常パワースベクトルの算出方法に関する一考察,土木学会論文報 告集,第 235 号, pp.55・ 62.

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pp.l-68 , 1 9 9 9 .  

‑ 20‑

参照

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