─調査報告─
日本語学習者の教室外におけるメディア使用の実態
─ 6カ国におけるアンケート調査から─
三國喜保子、谷口美穗、岩下智彦、川崎タルつぶら、張世襲、岩本尚希
要 旨
本稿は、日本語学習者の教室外におけるメディア使用の実態を明らかにすることを目的 に、6 カ国の日本語学習者を対象にアンケート調査を行った調査報告である。調査の結果、
学習環境により日本語によるメディア使用の割合に違いがみられたが、使用されるメディ ア媒体やメディアの種類には一致した傾向があることが明らかになった。特に、インター ネット使用の割合はどの地域においても高く、学習者は汎用性に優れたインターネットと いうメディアを活用して日本語に接触していることが示された。また、オンライン辞書、
学習サイトや学習ソフトの使用については、日本国内の学習者にはほとんど使用されてい ないのに対し、海外においては非常によく利用されていることが示された。学習者属性と の関連からは、日本語学習歴が長くなるとインターネットの使用目的が学習から趣味や情 報収集、コミュニケーションなど、探究的、双方向的な使用に変化することが示唆された。
【キーワード】 メディア 日本語教育 学習環境 学習者属性 量的調査
1.研究の背景と目的
21 世紀は情報革命による情報化社会と呼ばれている。1990 年代半ば以降から、全世界 の多くの地域でインターネットや携帯電話などが普及している。インターネット世界統計 Internet World Stats(2009)によると、インターネットの世界全体の普及率は 28.7%であ り、日本は 78.2%となっている。 また、今回の調査対象となったドイツでは 79.1%、ニ ュージーランド 85.4%、タイ 26.3%、中国 31.6%、トリニダード・トバゴ 39.5%、(韓国 81.1%)i )である。また、インターネット利用を言語使用者の数でみた場合、英語、中国語、
スペイン語に続いて日本語は世界で第 4 位となっており、約 1 億人が日本語でインターネ ットを利用しているということが分かる。各家庭においてインターネットが急速に普及し たことにより、従来、教師が提供する日本語にしか触れられなかった日本語学習者(以下、
学習者)が、遠隔地においても日常的に日本語に触れることが可能となった。
学習者は多様なメディアを使用し、日々新しい日本語、日本文化に接触している。それ に加え、メディアは教室内外で学習リソースとして使用されることもあり、近年、日本語 学習への動機づけとしても注目されている。しかしながら、日本語教育現場において、学
ⅰ) 本調査では韓国を対象としていないが、日本国内の日本語学習者の約半数が韓国出身者である。来日前 のインターネット利用が来日後のインターネット利用に影響を与えている可能性を考え、韓国における インターネット普及率を示した。
習者が教室外でどのようなメディアに接触し、どのように使用しているのかという実態が 把握されているとは言えないのが現状である。今後、ますます日本語教育現場で様々なメ ディアが活用され、効果的なメディア使用を考える必要性が出てくることが予想される が、その際に、学習者のメディア使用の実態を把握し、教室内外のメディア使用について 検討することには大きな意義があると考える。そこで、本研究では学習者のメディア使用 に焦点を当て、学習者のメディア使用に影響を与える要因として考えられる、学習環境及 び学習者属性とメディア使用にはどのような関連があるのかを明らかにする。なお、本稿 では調査対象となった6カ国の特色を、地理的要因だけではなく、社会文化的要因などを 含め、学習環境要因として捉え、分析、考察を行う。
ここで、本研究における「メディア」を定義する。情報のリソースとしてのメディアの 分類としては、亀井他(2004)がメディアを「1.活字メディア(新聞、雑誌、本など)、2.
映像メディア(テレビ、映画など)、3.音声メディア(ラジオ、CD など)、4.インターネ ット(ホームページ、メールなど)、5.人(先生、家族、友人など)」の 5 項目に分類した。
また、鄭(2002 :37)は、「外国語学習・教育において、従来のテキスト中心の教材やオー ディオ・ビデオ教材が達成できなかった言語的・視覚的・聴覚的・触覚的な機能を刺激す る音声・動画・文字・絵などをランダムにアクセスしながらコンピュータと相互作用する ことで発話能力を向上させるのみならず、文字や語彙の学習だけでは理解できなかった社 会言語学的な情報まで学習者に伝えることができるので今後画期的な学習効果をもたらす もの」としている。
以上の先行研究を踏まえ、本研究では「メディア」をインターネットなどのマルチメデ ィア(複合媒体)、テレビ、新聞、雑誌、広告などのマスメディア、加えて、映画、アニメ、
マンガ、ゲームなどのコンテンツ、ならびに対面会話や電話などの人的リソース(田中・
斉藤 1993)との接触を含む、広義でのメディアとする。
2.先行研究の概観
2.1 日本の視聴覚メディアが学習者に与える影響
熊野・廣利(2008)は日本の「アニメ・マンガ」が広く海外に普及し、日本語学習に対する 動機づけに関わっていると述べている。日本国内における留学生 1,160 人を対象とした調 査(月刊日本語 2008)では、日本に興味を持ったきっかけの 90%がサブカルチャーであり、
そのうちの 75.5%がマンガやアニメに興味があり、27%が映画(ドラマ)に興味があると いう結果が報告されている。また、経済産業省(2005)が作成した報告書でも、「日本のア ニメ、マンガ、音楽等のポップカルチャーが日本語学習動機となる点については、多数の 専門家から指摘されており、コンテンツ産業による日本語普及効果が期待できる」との意 見が記述されており、日本政府も視聴覚メディアがもたらす影響に注目していると言える。
2.2 日本語学習におけるメディア使用
上述のように、メディアの視聴が日本語学習に影響を与えると考えられるが、日本語学
習者のメディア使用に関する研究の蓄積は乏しい。これまでに報告されているメディア使 用に関する研究には次のようなものが挙げられる。
劉(2007)は、中国の大学で日本語を専攻する二年生から四年生を対象として、ドラマ 視聴に関するアンケート調査を行い、DVD とパソコン(中国語や日本語のサイトからダウ ンロード)がドラマ視聴の媒体の主流になっていることを明らかにしている。また、池島 他(2007)では、タイのラチャパット大学の学習者 1,119 名を対象に学習リソースの活用に 関するアンケート調査を行っている。その中で、学習者が授業以外で接触する物的リソー スとして、「マンガ・アニメ」、「本」、「雑誌」を挙げ、積極的に使用している媒体は「本」
であるとしている。人的リソースとしての接触相手としては、「日本語の教師」、「学校の 友人」と続き、接触手段としては直接会話、次に電話という結果を報告している。
また、武田(2010)は、ドイツ市民大学の日本語コースにおいて行ったインターネット 使用に関する調査結果を報告している。武田(前掲)によると、回答者全体の 74%が使用 言語に限らず毎日インターネットを使用しており、インターネット使用目的には、「コミ ュニケーション」(88%)、「調べもの」(84%)、「音楽、ビデオ視聴」(63%)、「ニュースを 読んだり見たりする」(62%)が挙げられた。また、回答者の約半数が「学習」を目的として おり、グーグルやヤフーなどの「検索エンジン」、「電子メール」、「オンライン辞書、学習 ソフト」などの使用が上位 3 位を占めていることが分かった。
梁(2009)は、中国広州の日本語専攻の大学生240名を対象として、インターネット使用の 現状調査を行った。この調査によると、インターネットはかなり普及しているが、日本語学 習としての使用時間はあまり多くないことが示されている。また、インターネットの使用目 的は情報収集などのインプットが多く、発信するアウトプットが少ないことが明らかになっ た。また、学習効果としては、「聴解能力」や「日本文化理解」に偏っているとまとめている。
上述のような実態調査のほかに、日本語教育におけるメディア使用の利点を示した鄭
(2002)が挙げられる。鄭(2002)は、文字、音声、グラフィックス、アニメーション、動 画などのマルチメディアは、従来の文字と文法中心の教育から脱皮して、立体的な学習を 可能にしたと述べ、それらのメディアは学習者の学習意欲をかきたて、動機づけを高める のに最も有効なメディアだとしている。また、マルチメディアの使用の意義として、特に 海外の学習者の場合、社会文化的状況の理解を説明するのは限界があるが、それを体験す るためにマルチメディアが必要であると指摘している。
以上のように、学習者のメディア使用に関しては、各地域の学習機関ごとには報告され ているが、広く横断的かつ実証的な調査は今のところ見当たらない。そこで、本研究では 日本国内及び海外の 6 カ国の日本語学習者を対象にアンケート調査を行い、学習環境及び 学習者属性とメディア使用との関連を明らかにする。
3.調査概要 3.1 調査目的
本研究では、学習者の日本語を使用したメディア使用の実態を明らかにすることを目的
とし、次の 2 点を研究課題として設定する。
1) 学習環境により選択メディア及び使用内容にどのような違いがあるか
2) 学習者属性(日本語学習年数、性別、母語など)により選択メディア及び使用内容に どのような違いがあるか
3.2 調査方法
2010 年 6 月から 2010 年 8 月に、日本国内及び海外の 6 カ国の学習者 533 名を対象にアン ケート調査ⅱ)を行った。調査実施地域とアンケートの回収枚数は表1に示す。なお、地域 ごとに調査対象者数、対象者の属性が異なるが、本調査は複数の地域を対象としたメディ ア使用の実態を明らかにすることを目的としているため、分析の際には数による単純比較 は避け、各地域の使用割合(調査対象者全体を 100 としたメディア使用者の割合)を算出し 分析データとして扱った。
調査から得られたデータは、まず質問項目ごとの単純集計を行い、日本語を使用したメ ディア使用について、使用メディアの媒体と種類、使用頻度、使用内容を分析したⅲ)。次 に、上述の 2 つの研究課題に沿って、質問項目間のクロス集計を行い、日本語を使用した メディア使用と調査地域及び学習者属性との関連を分析、考察した。本稿では、紙面の都 合上、クロス集計の結果のみを取り上げ、詳述する。
表 1 アンケート調査実施地域と協力者数
調査実施地域 アンケート回収枚数
(有効回答数ⅳ)) 主な所属機関など
日本 259 (94) 日本語学校,専門学校
中国 60 (35) 大学,日系企業勤務者
タイ 119(119) 大学
ニュージーランド 30 (27) 大学
ドイツ 25 (19) 市民大学
トリニダード・トバゴⅴ) 40 (28) 大学 合計 533(322)
調査で使用したアンケートの質問項目は、主にインターネット使用に関する質問項目と その他のメディア使用に関する質問項目から成る。具体的な質問項目は次の通りである。
ⅱ) 質問紙は日本語版、中国語版、英語版、韓国語版、タイ語版の 4 つを作成し、それぞれの地域や学習者
に合わせて配布した。
ⅲ) 分析にはマイクロソフト Excel2007 を使用した。
ⅳ) 記入に不備があったアンケートを無効として処理し、322 のみ分析対象とした。
ⅴ) トリニダード・トバゴの調査では E-mail 添付にてアンケートを配布、回収した。
(1) インターネット使用頻度(仕事や宿題を除く)
(2) インターネット使用場所 (3) インターネット環境
(4) インターネット上での日本語使用頻度
(5) インターネット上での日本語使用目的(メール、日本語学習サイト/学習ソフト、
検索エンジン、オンライン辞書、テキストチャット、音声チャット、ニュースを 読む/聞く、ブログを書く/読む、動画を日本語音声で見る/日本語字幕で見る、
音楽を聴く、ウェブサイトを見る、オンラインゲーム、ソーシャルネットワーク
/コミュニティーサイト)
(6) (テキスト/音声)チャットの相手
(7) インターネット以外のメディアにおける日本語使用頻度(仕事や宿題を除く)(テ レビでニュースを見る/映画・ドキュメンタリー・ドラマを見る/アニメを見る、
ビデオや DVD でアニメを日本語の音声 + 母語の字幕で見る/母語の音声 + 日本 語の字幕で見る/日本語の音声 + 日本語の字幕で見る/日本語の音声 + 字幕なし で見る、ビデオや DVD で映画やドラマを日本語の音声 + 母語の字幕で見る/母 語の音声 + 日本語の字幕で見る/日本語の音声 + 日本語の字幕で見る/日本語の 音声 + 字幕なしで見る、CD / DVD / i-pod /カセットなどで音楽を聴く、ゲ ーム機(PS / Wii / DS など)でゲームをする、新聞を読む、雑誌/情報誌を読む、
小説を読む、マンガを読む、ラジオを聴く、映画館などで映画を見る、日本語話 者と電話をする、日本語話者と直接会って会話をする)
(8) 属性(性別、年齢、母語、職業、日本語学習歴、日本語学習機関)
(9) 日本語の四技能の得意不得意の意識 (10) 日本語関連の資格の有無
4. 調査結果
調査の結果、学習者の学習環境、日本語学習年数によって選択メディア及び使用内容に 違いがみられた。一方、日本語能力の自己評価及び性別によるメディア使用の差はみられ なかった。本節では、調査の結果、学習者のメディア使用に影響を与えていると考えられ る「学習環境」「学習年数」の 2 項目について詳述する。
4.1 学習環境とメディア使用の関連
ここでは、調査対象となった日本国内、中国、タイ、ドイツ、トリニダード・トバゴ、
ニュージーランドをそれぞれ国別に集計し、学習環境とメディア使用の関連に着目してそ の特徴を述べる。メディア使用の実態をより詳しくみるために、第一に学習者がどのメデ ィア媒体に接触しているか、第二にどのような種類のメディアを選択しているか、第三に、
特にインターネットの使用に注目して、インターネット上でどのような活動を行っている かについて詳述する。
4.1.1 学習環境(国別)とメディア媒体
図 1 から図 6 は、調査対象国別に、学習者が日本語を用いて使用しているメディア媒体 をレーダーチャートに示したものである。ここでは全学習者の各メディア媒体の使用の有 無の割合をパーセント表示したⅵ)。
図 1 日本国内の学習者の使用メディア媒体 図 2 中国の学習者の使用メディア媒体
図 3 タイの学習者の使用メディア媒体 図 4 ドイツの学習者の使用メディア媒体
図 5 ニュージーランドの学習者の使用メディア媒体 図 6 トリニダード・トバゴの学習者の使用メディア媒体 日本国内
日本語インターネット TV
DVD 日本人と対面会話
日本人と電話
映画館
ラジオ
漫画
小説 雑誌情報誌 新聞
ゲーム 音楽 100%
90%80%
70%60%
50%
40%30%
20%10%
0%
中国
日本語インターネット TV
DVD 日本人と対面会話
日本人と電話
映画館
ラジオ
漫画
小説 雑誌情報誌 新聞
ゲーム 音楽 100%
90%80%
70%60%
50%
40%30%
20%10%
0%
タイ
日本語インターネット TV
DVD 日本人と対面会話
日本人と電話
映画館
ラジオ
漫画
小説 雑誌情報誌 新聞
ゲーム 音楽 100%
90%
80%70%
60%50%
40%
30%20%
10%0%
ドイツ
日本語インターネット TV
DVD 日本人と対面会話
日本人と電話
映画館
ラジオ
漫画
小説 雑誌情報誌 新聞
ゲーム 音楽 100%
90%
80%70%
60%50%
40%
30%20%
10%0%
ニュージーランド
日本語インターネット TV
DVD 日本人と対面会話
日本人と電話
映画館
ラジオ
漫画
小説 雑誌情報誌 新聞
ゲーム 音楽 100%
90%
80%70%
60%50%
40%
30%20%
10%0%
トリニダード・トバゴ
日本語インターネット TV
DVD 日本人と対面会話
日本人と電話
映画館
ラジオ
漫画
小説 雑誌情報誌 新聞
ゲーム 音楽 100%
90%
80%70%
60%50%
40%
30%20%
10%0%
ⅵ) 使用の有無については、「1. 全く」から「5. とてもよく」の5件法で得た回答より、1および2を「無」、3、
4、および5を「有」として分析した。
図 1 から図 6 を比較すると、この 6 カ国の中ではドイツの学習者(図 4)は日本語を使用 してメディアに接触している割合が低いことがわかる。ドイツの実態に関しては武田
(2010)が市民大学で学ぶ学習者のインターネット使用実態のアンケート調査を行ってい る。その中で学習者のインターネット使用率は高く、回答者全体の 74%が毎日インター ネットを使用している一方で、ウェブサイトで日本語を読むことに関しては全体の 78%
が「読まない」と回答し、消極的な態度を示していることを報告している。その主な理由 として、「インターネット上の日本語の知識が足りないこと」や「日本語が難しすぎるこ と」、「漢字が多すぎること」などを挙げている。本調査もドイツの市民大学における学習 者を対象に行っており、武田が示している傾向と一致している。しかし、全体的に使用が 少ないながらも、ビデオや DVD を見たり(58%)音楽を聞いたりする(47%)という使用が みられる。この 2 つの媒体では武田(前掲)で日本語使用が少ない理由として挙げられてい た日本語の文字の障害が影響しないことが関連しているのではないかと考えられる。ビデ オや DVD、音楽への接触は他の地域でも非常に高いが、その他のメディア媒体の使用に 関しては各国によってそれぞれ特徴的な違いがみられた。
図 1 より、日本国内の学習者は比較的多様なメディアに接触しているが、DVD、音楽へ の接触以外に、ほとんどの学習者がテレビに接触している。これは日本在住の学習者なら ではの利点であると言える。また、その他の地域では少なかった「日本人との接触」につい ては、6 割以上の学習者が対面あるいは電話で会話する機会があると回答している。しか しながら、今回取り上げたメディアのすべてが接触可能な環境においても、映画館、ラジ オ、マンガ、小説、情報誌・雑誌、新聞、ゲームなどに関しては使用が少ないことが分かる。
日本国内の学習者に次いで多くのメディアに接触しているのが、中国(図 2)とタイ(図 3)
の学習者である。どちらも日本と地理的に近いアジア圏の国であるため、比較的容易に日 本の映像メディアや音楽に接触可能であることがデータから読み取れる。中国において特 徴的なのは、日本語によるインターネット使用率が高いことと、新聞、情報誌・雑誌、小 説、マンガなどの活字媒体の使用がみられることである。これは漢字圏の学習者が日本語 の文字を見ることに対してそれほど大きな抵抗が無いということが一つの要因として考え られる。また、他の地域ではほとんどみられないラジオの使用がみられるが、これについ ては更なる追跡調査が必要である。
タイでは、テレビ、情報誌・雑誌の使用が多くみられる。この要因としては、調査対象 の教育機関が首都のバンコクに位置するため、在住の日本人も多く、フリーペーパーや情 報誌・雑誌などが比較的容易に入手できる環境であるということが考えられる。また、タ イでは日本人との対面会話の数値が6割と高くなっているが、これには教室外において教 師と会話しているものも含まれる可能性が高いため、教師以外の日本人との接触について も追跡調査が必要である。
ニュージーランド、トリニダード・トバゴはドイツとともに、日本との心的・地理的距 離が他のアジア諸国と比べて離れていると言えるが、メディアへの接触の状況もこの 2 カ 国は類似している。DVD、音楽プレーヤーについては、ニュージーランドで約 8 割、トリ
ニダード・トバゴにおいては 9 割の学習者が接触している。また、ここで興味深いのは日 本から遠く離れていてもニュージーランドで 4 割、トリニダード・トバゴでは 5 割近くの 学習者が日本のテレビ番組に触れていることである。インターネット使用については 4.1.3 で詳述するが、インターネット以外でも日本のメディアがテレビ放送や DVD などによっ て、世界の様々な地域で広く視聴されているということが調査から明らかになった。
4.1.2 学習環境とメディアの種類
本節では、4.1.1 で示したメディア媒体を亀井他(2004)に基づき、活字メディア、映像 メディア、音声メディア、インターネット、人の 5 つに分類し、使用されているメディア の種類と学習環境との関連を分析する。なお、本稿では映像メディアは活字及び音声を含 む可能性のあるものとし、ゲームは映像メディアと捉える。メディア媒体の分類は表 2 の 通りである。各地域において使用されているメディアの種類についての集計結果は表 3 に 示した。この割合は調査対象者の全員が使用していると答えたものを 100%とした場合の 割合である。各地域における学習者が、日本語を使用して接触しているメディアの種類に ついて図 7 から図 12 に示した。
表 2 メディア媒体の分類
メディアの種類 メディア媒体
活字メディア 新聞,雑誌情報誌,小説,マンガ
映像メディア テレビ,映画,DVD,ゲーム
音声メディア ラジオ,音楽
インターネット ホームページ,メールなど(※)
人 電話,対面会話
※インターネットでの活動内容については,4.1.3 で詳述する。
表 3 地域ごとの使用メディアの種類
活字 映像 音声 インターネット 人
日本国内 28% 56% 50% 63% 64%
タイ 28% 58% 45% 66% 42%
中国 39% 56% 63% 77% 43%
ドイツ 4% 28% 26% 26% 5%
ニュージーランド 17% 41% 37% 52% 20%
トリニダード・トバゴ 11% 42% 52% 64% 11%
図 7 より、日本国内の学習者の使用メディアを種類別に見てみると、多い順に人(64%)、
インターネット(63%)、映像メディア(56%)、音声メディア(50%)、活字メディア(28%)
で、活字メディア以外の使用メディアの種類は 50%を超えている。これは日本国内の学
習者が比較的全てのメディアを入手可能であることを示していると考えられる。しかし、
どのような種類のメディアを使用するかは個人の好みや経済的理由など、多様な要因が関 わっていると思われる。活字メディアについては、自ら積極的に新聞や情報誌を購入して 日本語に触れている人が少ないことが示された。活字メディアの使用が少ないのは学習者 に限らず、近年、若者の「活字離れ」が叫ばれている傾向と一致している。インターネッ トでニュースやマンガを読んだりすることが可能な現代では、他の手段を使って活字に触 れていることも推測できる。
0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%
活字 映像 音声 インターネット 人
日本国内
図 7 日本国内の学習者の使用メディアの種類
中国における使用メディアの種類に着目すると、インターネットの使用が 77%で、そ の他の種類のメディアについても比較的多く使用されている。また、特徴的なのが日本語 話者との接触が 43%で、活字メディアの使用を上回っている点である。日本と中国は地 理的にも近いということや、中国における外資系企業数が 25,795 社ⅶ)(徐 2009)に上るな ど、日本語話者との接触場面が他の調査地域に比べて多いことが推測できる。また、タイ においても日本語話者との接触が活字メディアの使用を上回っており、日本人あるいは他 の日本語学習者など、日本語話者との接触が可能な環境であることを示している。
0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%
活字 映像 音声 インターネット 人
中国
図 8 中国の学習者の使用メディアの種類
ⅶ) 2008 年時点での数字である。
0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%
活字 映像 音声 インターネット 人
タイ
図 9 タイの学習者の使用メディアの種類
ドイツにおける日本語でのメディア使用は、上述のように全体的に多いとは言えない が、その中でも映像メディア、音声メディア、インターネットは比較的使用されている。
ドイツの学習者の周囲には教師以外の日本語話者が少ない、あるいは日常的に接触できる 環境ではないことが推測される。活字メディアについても、日本語で書かれた新聞、雑誌、
小説、マンガなどが入手困難であることが考えられる。
ドイツの傾向と同様に、ニュージーランド、トリニダード・トバゴにおいても日本語話 者との接触や活字メディアの使用は限られていることが明らかになった。しかし、この 2 地域においては、映像メディアと音声メディアを使用した日本語使用及びインターネット 上での日本語使用は日本語話者との接触や活字メディアの使用に比べて非常に高い数値を 示した。特に、トリニダード・トバゴにおけるインターネット上での日本語使用は 64%で あり、半数以上の学習者が、教室外においてインターネット上で日本語を使用しているこ とが明らかになった。
0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%
活字 映像 音声 インターネット 人
ドイツ
図 10 ドイツの学習者の使用メディアの種類
0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%
活字 映像 音声 インターネット 人
ニュージーランド
図 11 ニュージーランドの学習者の使用メディアの種類
0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%
活字 映像 音声 インターネット 人
トリニダード・トバゴ
図 12 トリニダード・トバゴの学習者の使用メディアの種類
4.1.3 学習環境とインターネット上での活動
上述のように、日本語学習者が様々なメディア媒体を通じて日本語に接触していること が明らかになったが、本節では特に、インターネット使用に着目し、インターネット上で どのような活動を通して日本語に接触しているかを地域別に示す。表 4 の網掛の部分は、
その地域において使用割合が高い上位 3 つである(色の濃いものが、使用の割合が高いこ とを示す)。
まず、どの地域でも比較的多く用いられている使用法は 「映画を見る」、「検索エンジン」、
「オンライン辞書」、「音楽を聴く」である。「映画を見る」、「音楽を聴く」に関しては、4.1.1 で示したインターネット以外のメディア媒体(ビデオ・DVD、音楽)でも使用率が高いも のとして挙げられており、同様の活動をインターネット上でも行っているということが分 かる。「映画」 の使用に関しては日本語音声での使用率が高くなっている。「検索エンジン」
に関しては、中国、タイで多く使用されている。
表 4 インターネット上での活動の割合
日本国内 中国 タイ ドイツ NZ TT
ニュースを読む 20% 42% 7% 11% 24% 11%
ニュースを聞く 6% 55% 4% 11% 8% 11%
映画(日本語字幕) 24% 70% 57% 11% 44% 54%
映画(日本語音声) 63% 73% 37% 33% 84% 71%
検索エンジン 55% 70% 74% 33% 44% 64%
ウェブサイトを見る 45% 61% 33% 22% 40% 39%
ブログを読む 18% 9% 12% 11% 24% 14%
ブログを書く 13% 9% 17% 0% 16% 0%
メールの読み書き 52% 42% 27% 28% 32% 50%
オンライン辞書 37% 61% 73% 89% 64% 75%
テキストチャット 6% 42% 26% 0% 24% 29%
音声チャット 11% 18% 38% 6% 8% 7%
SNS,コミュニティーサイト 6% 6% 35% 22% 32% 36%
音楽を聴く 52% 61% 50% 44% 72% 71%
学習サイト / ソフト 12% 58% 31% 22% 32% 68%
オンラインゲーム 4% 9% 17% 6% 16% 11%
その他 5% 12% 1% 6% 4% 11%
また「オンライン辞書」の使用は、日本以外の海外の学習者の使用率が高いが、日本国 内の学習者はそれほど多く使用していない。この要因としては、日本国内の学習者は、日 本語の辞書や電子辞書、辞書機能付きの携帯電話などが比較的容易に入手でき、携帯する ことが可能であるということが考えられる。一方、海外の学習者は、電子辞書などが手に 入りにくく、オンライン辞書が唯一の手段であるというケースもあるため、使用率が高く なっていると考えられる。また、中国、トリニダード・トバゴにおいて「学習サイト/ソ フト」の使用割合がそれぞれ 58%、68%と高いことからも、特に海外ではインターネット を日本語学習のリソースとして活用していることが示された。
全体的には、受容的な形態の使用法が圧倒的に多く、「テキストチャット」、「音声チャ ット」などの双方向的な使用法はそれほどみられない。「メール」 に関しては、日本国内と トリニダード・トバゴの学習者の使用が 50%以上と高くなっている。日本国内の学習者は、
日本人や他の日本語話者とのコミュニケーション手段として「メール」を使用しているの ではないかと考えられるが、トリニダード・トバゴの学習者が日本語での 「メール」 を使 用している要因については、さらなる追跡調査が必要である。
その他の特徴としては、日本語で「ニュースを読む」、「ニュースを聞く」の使用法が中 国において高くなっている。4.1.1 でも、中国における新聞の使用割合が高く、日本、中国
のニュースは両国で取り上げる機会が多いことからも、日本語学習者が日本語で発信され る日本や中国に関するニュースや情報に対して高い関心を示しているのではないかと考え られる。
4.2 日本語学習年数とインターネット上での活動
図 13 日本国内の学習者の学習年数によるインターネット活動の比較
本節では、国内の学習者 94 名を対象に日本語学習年数とメディア使用の関わりについ て述べる。国内の学習者を対象とした理由は、1 年以上の学習者と 1 年未満の学習者の人 数が同数だったためである。図 13 は、日本国内の日本語学習者を対象に、学習年数が 1 年 未満の学習者、1 年以上の学習者の 2 群に分け、2 群間のインターネットでの活動種類の割 合を比較したものである。
分析の結果、1 年未満の学習者は平均 10 種類の活動を選択しているのに対し、1 年以上 の学習者は平均 13 種類と選択数が増加し、学習年数が長い学習者のインターネット上で の活動には広がりがみられることが分かった。また、学習年数が長くなるとインターネッ ト上での日本語使用の目的も変化することが示唆された。学習年数が 1 年未満の学習者と 1 年以上の学習者を比較すると、1年未満の学習者のほうが学習サイトとオンライン辞書
80 70 60 50 40 30 20 10 0
メールの読み書 き
日本語学 習サイト
検索 エンジン
オンライン辞 書
テキ ストチャット
音声 チャット ニュースを読む
ニュースを聞く ブロ
グを書く ブロ
グを読む
動画
を日本語音声 で見る
動画
を日本語字幕 で見る
音楽を聴 く
ウェブサイトを見 る
オンラインゲームをする SNS
やコミュニティーサ イトを使
う
1年未満 1年以上
の使用で高い割合を示し、1 年以上の学習者は、メールの読み書き、検索エンジン、動画 の視聴、ウェブサイト閲覧の割合が高くなっている。この理由として、学習年数が短い方 が、学習目的に使用する傾向が高く、学習年数が長くなると、インターネットの使用目的 が学習から趣味や情報収集、コミュニケーションなど、探究的、双方向的な使用に変化す るためではないかと考えられる。
5.総合的考察
本調査結果において、日本語学習者のメディア利用には学習環境に関わらず、インター ネット、ビデオ、DVD や音楽メディアなど、共通して使用頻度が高いものがみられたが、
メディアの種類によっては、調査地域によって使用状況や使用頻度に違いがみられたもの もあった。海外では中国が最もメディアへの接触が多く、中でも小説、新聞、雑誌、マン ガなどの活字メディアへの接触が他の調査地域に比べて最も多かった。また、日本国内、
中国、タイにおいては、日本語話者との接触が多くみられたが、そのほかの地域では極め て少なく、インターネットをはじめとするメディアがその補完的な役割を担っていると考 えられる。地域によって異なるメディア使用状況がみられる要因として、学習者の母語(漢 字圏、非漢字圏)、日本との心理的、地理的距離、日本や日本語に関わる人的リソース、
物的リソースの入手の可否など様々な要因が考えられる。
また、様々なメディアの中でも、特にインターネットの使用率が高く、学習者は汎用性 に優れたインターネットというメディアを広く活用して、多様な目的のために使用してい ることが明らかになった。その中でも、映画を見たり音楽を聞いたりするという使用法が どの地域でも比較的高く、オンライン辞書や学習サイト・ソフトの使用については日本国 内の学習者にはほとんどみられないのに対し、海外においては非常によく利用されている ことが分かった。
さらに、日本語学習歴が長くなると、インターネット上での活動の種類が豊富になり、
インターネットを学習リソースとして活用するだけでなく、情報収集、コミュニケーショ ンなどの目的に使用できるようになることが示唆された。それにより日本語の使用機会が 増加し、学習の動機づけに繋がっていることも考えられる。また、インターネットは今後 さらに重要なメディアとして海外の広域に広がっていくと予想される。それにより、これ まで日本語と接触する機会の少なかった地域においても、多様なコンテンツを通して日本 語接触の機会が拡大していくと考えられる。このような日本語学習者を取り巻くメディア 環境を、教師が把握することなしに効果的な教室活動を行うことはできないのではないだ ろうか。
6.まとめと今後の課題
本稿では、学習者の教室外における日本語によるメディア使用の実態を探ることを目的 として、日本、中国、タイ、ニュージーランド、ドイツ、トリニダード・トバゴの 6 カ国 の学習者にアンケート調査を行った。研究課題1)の学習環境とメディア使用の関わりに
ついては、「どのメディア媒体に接触しているか」、「どのような種類のメディアを選択し ているか」、「インターネット上でどのような活動を行っているか」に着目し、分析、考察 を行った。その結果、学習環境による各メディアの使用頻度の違い、共通して使用されて いるメディアの種類が示された。日本語学習者のメディア使用の背景には、学習環境と日 本との心理的、地理的距離や学習者の母語との関連が示唆された。研究課題2)について は、日本語学習年数とインターネット上での活動に着目し、インターネット上での日本語 使用の目的が変化することを指摘した。
これまでの日本語学習者のメディア使用に関わる研究の蓄積は乏しい。本調査では、複 数の地域を横断的に調査することで、日本語を使用したメディア使用の様々な共通点や相 違点を明らかにした。日本語教育の現場においては、それぞれの学習環境に応じた活動設 計を考えるきっかけとなり、また、日本語学習者が普段どのようなメディアに接触し、ど のような活動をしているのかを把握しておくことにより、教室活動ならではの特徴を生か した活動設計ができるのではないかと考えられる。
特に近年、高い期待を持たれているメディアを使用した授業計画を行う際には、教室外 で学習者が自律的に行っている活動を理解しておくことは必要不可欠であろう。現実社会 での相互活動であるメディアは、日本語教育の社会的視点という見地からも、今後、ます ます研究の蓄積が必要とされる。その上で、本調査結果が基礎資料として研究の一助にな ることを期待する。
しかしながら、今回の調査は、6 カ国という非常に限定された国のみで行われたという 点、対象地域間でデータ数に差が出てしまい、調査対象者の属性に関しても均質なデータ を収集することができなかった点で多くの課題が残る結果となった。今後は、調査方法や 分析方法に改良を加え、さらに調査を続けていきたい。具体的には、日本語学習者のメデ ィア使用の背景にある、学習環境と日本との心理的、地理的距離や学習者の母語との関連 を明らかにするために、量的調査だけでなく学習者に密着した質的な調査が必要である。
また、学習年数や日本語能力の向上とメディア使用との関わりについては、縦断的な追跡 調査が求められるであろう。本調査では質問紙の中で「インターネット上で日本語を用い て、何をするか」を選択式で問うたが、インターネットの使用方法は多岐にわたっており、
使用目的も、情報を得る、コミュニケーション、娯楽など様々であることが分かった。そ の中に言語学習の要素が入っているかどうかは、学習者がどのような意識をもってインタ ーネットを使用しているかに大きく関連しており、それを今回の調査から深く分析するこ とはできなかったため、今後さらなる調査が必要である。
今後の課題としては、今回の調査結果を基に、教師が学習者のメディア使用の実態をど のように捉えているかなど、日本語教師の視点から教育現場における教室内外でのメディ ア使用についての実態と、教師の意識についても調査を行い、複眼的に現状を把握する必 要がある。また、メディアの教材としての価値と可能性を、ビリーフや学習ストラテジー などに関わる学習者の意識や教師の立場の意見から探っていくことも今後の重要な課題で ある。
謝辞
本調査のデータ収集において、学校法人ドリーム学園インターナショナル・スクール オブ ビジネスの先生方を始め、多くの方々にご協力いただきました。心より感謝を申し 上げます。
付記
本研究は、桜美林大学言語教育研究所より研究運営助成を受けたものである。
参考文献
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参考サイト・資料
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http://www.internetworldstats.com/stats.htm(2010/12/22 閲覧)
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http://www.meti.go.jp/policy/media̲contents/downloadfiles/kobetsugenjyokadai/
genjyoukadai1215.pdf (2010/12/16 閲覧)
『月刊日本語』(2008 年 5 月号) アルク