1890年代のマニラにおける風と降水量の季節進行

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1890 年代のマニラにおける風と降水量の季節進行

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赤坂

郁美

専修大学・環境地理学科

2 要 旨 1890~1900 年のマニラにおける風と降水量の季節進行に着目して解析を行った。結果 として、南西風系の出現率と降水量の季節進行との間に明瞭な関係がみられた。5 月中旬頃に、 南西風系の出現率が 20%を超えると雨季が始まる。南西風系の出現率が 30~40%となる 6~9 月に降水量はピークを迎える。一年の降水量の約 70%がこの時期に集中する。また、南西風系 が卓越する時期には、年間を通して夜間~明け方にみられる陸風の卓越が不明瞭になり、日中 を中心に、一日を通して南西風系が卓越することが明らかとなった。

1. はじめに

地球温暖化が顕著になるにつれて、世界各地で異常気象が多発している。これらの極端現象の出現傾向や その要因を明らかにするためには、より長期の気象観測データを用いて、気候の変化とその要因を分析する 必要がある。しかし、東南アジアでは 20 世紀前半以前の電子化された気象観測資料を得ることが難しい地 域が多い(Page et al., 2004)。そこで、著者は共同研究者らと共に、19 世紀後半から気象観測が開始された フィリピンに着目し、現在のフィリピン気象庁(PAGASA)設立以前に行われた気象観測記録(紙資料)を 収集、電子化するデータレスキューを行ってきた(赤坂,2014)。本稿では、風向・風速の 1 時間値が得ら れる 1890~1900 年を対象に、データの品質チェックも兼ねて、その季節進行の特徴を明らかにすることを 目的とする。風向・風速は、西部北太平洋モンスーン気候区(Wang and LinHo, 2002)に位置するフィリピン の気候とその変化を明らかにするために、降水量と同様に重要な気象要素である。そのため、本稿ではとく に風向と降水量の季節進行との関係に焦点をあて、風向の日変化も含めた調査を行う。

2. 調査方法と使用データ

1890 年代のマニラ(図 1)では、降水量など一部の気象要素を除き、ほとんどの気象要素の観測が 1 時間 単位で行われていた(赤坂,2014,表 1)。風向・風速に関しても 1 時間値を得ることができるため、それら の日変化も含めた特徴を明らかにすることが可能である。 本調査では、日本の気象庁図書室やイギリス気象庁等で収集した気象観測資料(Observatorio Meteorologico de Manila)から、1890 年 1 月~1900 年 12 月の日降水量と風向・風速の 1 時間値を電子化して使用した。欠 損期間は 1891 年 10 月と 1893 年 6 月である。1870 年代以前のデータも入手済みであるが、1870 年代は風 向・風速が 3 時間値のため、この期間の風向の日変化特性については赤坂(2019)で別途報告した。 まず、1890~1900 年の平均的な降水量の特徴を把握するために、Algue(1904)の月降水量表から年降水 量を算出し、20 世紀後半以降のマニラの平均年降水量と比較した。次に、風向の季節進行を解析するため

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4. まとめ

マニラにおける 1890 年代の降水量と風の季節進行について、半旬降水量データと風向・風速の 1 時間値 を用いて調査した。その結果、卓越風系には明瞭な季節進行がみられ、とくに南西風系の出現率の変化と降 水量の季節進行がよく対応していることがわかった。南西風系の出現率が 20%を超える 5 月初め頃に雨季が 始まり、南西風系の出現率が 30~40%となる 6~9 月に降水量が最も多くなっていた。マニラでは、1~4 月 に明瞭な乾季がみられるが、一年のうちで最も降水量が少なくなる 2~4 月には、貿易風に対応する東より の風の出現率が 30~40%と最も高くなることがわかった。 南西風系、北東風系、貿易風系の出現率が高くなる時期と、年間の風向の日変化との比較も行った。年間 では、日中に海風に対応する西よりの風の出現率が高く、夜間~明け方には陸風に対応する東よりの風が卓 越していた。しかし、南西風の卓越期(6~9 月)には、夜間~明け方の東よりの陸風の出現率は 5%と以下 と低く、10~20 時頃を中心に一日を通して南西風系が卓越することが明らかとなった。つまり、南西モンス ーンの発達期には、マニラ周辺での海陸風循環は不明瞭になる。一方で、貿易風系や北東風系が卓越する 2 ~4 月や 10~12 月には、10~14 時頃にかけてのみ海風に対応する西よりの風の出現率が高くなっていた。 とくに北東風系の卓越期には、日中の西よりの風の出現率が低くなっていた。 加えて、1890 年代の南西風系と半旬降水量の季節進行は、20 世紀後半以降のデータを用いた場合(たと えば Akasaka et al., 2007)と同様の特徴を示すことも確かめられた。そのため、マニラにおける 19 世紀後半 の気象観測資料は、フィリピンの気候と南西モンスーンとの関係を、長期的に明らかにする上で有用なデー タであるといえる。今後は、1860 年代後半から 20 世紀前半までのフィリピン気象観測記録と、20 世紀後半 以降のデータを組み合わせることで、フィリピンにおける降水量の季節進行と卓越風系の年々変動との関係 をより長期的に明らかにしたい。

謝辞

19 世紀後半のフィリピン気象資料の収集に協力くださった成蹊大学の財城 真寿美准教授に心より御礼申 し上げます。本研究の一部は JSPS 科研費(15K16283、19H00562、19H01322)の支援により実施した。

参考文献

赤坂郁美.2014.フィリピンにおける 19 世紀後半から 20 世紀前半の気象観測記録.専修大学人文科学研究 所月報 272:1-15. 赤坂郁美.2019.19 世紀後半のマニラにおける風の日変化に関する気候学的特徴.専修自然科学紀要 50: 29-36.

Akasaka, I., Morishima, W. and Mikami, T. 2007. Seasonal march of rainfall in the Philippines. Int. J. Climatol. 27 :715-725.

Algue. J. 1904. The Climate of the Philippines. Census of the Philippines: 1903.

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S, Pahalad J, Salinger MJ, Tibig L, Tran TD, Vediapan K, Zhai P. 2004. Data rescue in the Southeast Asia and South Pacific region-Challenges and Opportunities. Bull. Amer. Meteor. Soc. 78: 1069–1079.

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参照

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